コンコンッ
ノックをし、部屋に入ると達也、深雪、五十里先輩、千代田先輩がいた。
「すまんな、大会中なのにわざわざ」
翔人が言葉を発するより前に達也は俺に言葉をかける。
「構わんさ」
翔人がそう告げると、達也は先輩たちに向き直し、話し始めた。
「ご紹介します、といいたいところですがお二人とも翔人についてはご存知ですよね」
「うん、実際に話をしたことはないけど彼のことは知っているよ。今年の総代だよね?」
「私も啓と一緒よ」
そう告げる二人と翔人は簡単な自己紹介をする。
自己紹介を終えたところで翔人たちは達也に視線を向ける。
(呼ばれたのはいいんだが、呼ばれた理由をまだ聞いてないからな。まぁ渡辺先輩のことだとは思うけど…)
「翔人には水中工作員の謎を解くために来てもらいました」
翔人がそう考えていると、達也は先輩たちに俺を呼んだ理由を告げる。
さらに達也は続ける。
「俺たちは今、渡辺先輩が第三者の不正な魔法により妨害を受けた可能性について検証している」
「やっぱりあれは第三者からの妨害だったんだな。俺も試合をホテルで見てたけど、水面が不自然に陥没しておかしいなとは思ってたんだよ」
「気づいていたか。流石だな」
「まぁあそこまで露骨だとな…気づくなっていう方が無理だ」
「ちょ、ちょっと待って!斎藤くんは摩利さんの事故が第三者の妨害だって分かったの!?」
翔人と達也が話していると、今まで聞き手に徹していた花音が翔人につめよりながら聞いてくる。
「お、落ち着いてください。千代田先輩…」
「花音、落ち着こう。それをこれから話すんだから」
「そ、そうね…ごめん」
「翔人は今回の件どう思っている」
会話が一段落したところで達也が本題に移した。
「あぁ、先ほども言ったが魔法による妨害だと俺は考えている。おそらくSB魔法…だと思うんだけど…」
「どうした?あまり納得いってないようだが」
翔人の言葉が歯切れよくないことを疑問に思った達也が、翔人に尋ねる。
「精霊に頼むことで確かに妨害は起こすことが出来る。だけど、それほど高い威力は出ないはずなんだ。あの渡辺先輩が、バランスを崩すほどの威力を出せるはずがないんだ。七高の選手が突っ込んでこなければ、単なるいたずらに過ぎないと思う。偶然にしては出来過ぎだけど…」
翔人の言葉に達也は深く頷く。
「あれが単なる事故であれば、な」
「何だと?」
達也のセリフに翔人は疑問を示す。
「俺は七高の暴走も、単なる事故ではないと思っている。これを見てくれ」
そう達也が告げると、ディスプレイのシミュレーション映像を再生する。
横から覗き込んでる上級生二人を意識しつつ、達也は衝突の少し前で再生を止める。
「本来ならばここで、七高の選手は原則に入らなければならない」
コマ送りで再生を再開する。
「だが見ての通り、実際にはここでさらに加速している」
「……そのとおりだね。確かに、不自然だ」
「そうね。こんな単純なミスをする魔法師が、九校戦に選ばれるわけがないか」
達也の言葉に五十里は同意し、花音もそれに続くように自分の意見を告げる。
「もしかして達也はCADが細工されてたとでもいうのか?」
「あぁ」
達也が翔人の言葉に同意すると、ギョッとした気配が部屋に満ちた。
「だけど細工なんてできるものなのか?七高の技術スタッフに裏切りものがいたならまぁわかるけどさ、現実的に考えたらそうはあまり考えられないと思うぞ?」
翔人の質問に達也は小さく頭を振った。
「確かにその可能性も否定しきれない……だが俺は、大会委員に工作員がいる可能性の方が高いと考えている」
会話が途切れた。
五十里も花音も絶句する。
二人ともに『信じられない』という顔をした。
しかし、翔人は違った。
「あっ!」
「どうかしましたか?斎藤さん」
翔人が声をあげると、今まで黙っていた深雪が声をかける。
「CADは必ず一度、各校の手を離れ大会委員に引き渡される……」
その嘆きとも言える翔人の言葉に達也はうなずく。
「あぁ。だが、手口が分からない。そこが厄介だが……」
万に一つも警戒を怠ることはできない。
これから試合を控えている翔人はそのことを深く心に刻んだ。
達也の部屋から自分の部屋に戻る途中、翔人は先ほどの件について頭を悩ませていた。
(確かに、達也の言うことは筋が通っている、というかあんなこと言われたら、それ以外は考えられない。…CADに細工されるんじゃどうしようもない…よな。大会委員の全員が工作員ってわけでもないだろうけど…。こんなことを言っても大会委員は信じてくれないだろうし…)
そこまで考えると翔人の頭に名案が浮かぶ。
(そうだ!烈さんに相談すれば…!!…いや、しかし…。今俺が烈さんと会ったら色々面倒くさいことになりかねないよな…。できれば面倒事は避けたい…が、もしこれがほのかや雫の身にも起こったら…。う~ん、どうするべきか…)
「翔人君?」
「ん?…なんだ、ほのかか」
翔人が一人頭を悩ませていると、後ろから声をかけられる。
振り向くと、そこにいたのはほのかだった。
「どうしたの?考え事?」
俺の思案顔を見てそう思ったのか、ほのかが質問する。
「まぁ…そんな感じだな」
「なんか翔人君、九校戦に来る時からずっと何か考えてるよね…。今日は渡辺先輩の事故だったし、バスのときの事故もだったりで無理もないか」
「まぁな~。うちの高校にはトラブルメーカーでもいるのか?流石に事件、事故が多すぎる…」
「ハハハッ…確かに」
そんな翔人の本気とも冗談ともとれる言葉に、ほのかは乾いた笑いを返す。
「でもまぁ、ほのかは安心しとけ。俺が何があっても守ってやるから」
翔人がそう告げると、顔を真っ赤にするほのか。
(な、なにがあっても守る!?ど、どうしよ!?やっぱりこれって告白だよね!!)
「もちろん雫もだけどな」
(またこのパターン!?デジャヴ!?)
自分で自分の心に突っ込みを入れるほのか。
「お前たち二人は、俺にとって家族と言っても過言じゃないからな。それに小さいころの俺を知る数少ない人だから…」
「翔人君……」
そんな寂しそうな顔をする翔人に、ほのかは悲しむ。
(私には何ができるんだろう…いつも守られてばかりで、翔人君に何もしてあげられてない)
そう思ったほのかは、意を決して翔人の背中に抱き着く。
「ほ、ほのか!?」
「大丈夫。私はどこにも行かないよ。それに雫だって。私たち三人はずっと一緒なんだから」
「………そうだな。ありがとう。…でもそろそろ抱き着くのはやめてくれないか?さすがに、その…恥ずかしいからさ」
翔人がそう告げると、ほのかは顔を真っ赤に染めながら翔人から離れる。
「あっ!ご、ごめんね」
「い、いや別に嫌だったわけじゃないし…。でもありがとな。心配してくれたんだろ?」
「う、うん。翔人君が悲しむ姿なんて見たくないから」
(ほのかに心配されるようじゃまだまだだな…)
そう思った翔人は、ほのかに告げる。
「そうだな…よしっ!じゃあ今から飯でも食べに行くか!気持ちを切り替えるためにも」
「そうだね!そうしよう!」
そう笑顔で告げるほのかに翔人は思う。
(ほのかのこの笑顔は絶対に絶やしてはダメだ。俺はこの笑顔を守りたい!そのためにも俺がもっと強くならないと…)
そんな翔人の背中を見ながらほのかは思う。
(いつか翔人君を本当の意味で支えられる女性になりたい!そのためにも翔人に頼られるくらい立派な女性にならないと…)
そう各々が考えるなか、翔人とほのかはホテルの食堂へと向かった。