大会四日目。
本戦は一度休みとなり、今日からは新人戦が始まる。
「今日は雫とほのかの競技か。ほのか準備はいいのか?」
「う、うん。大丈夫だよ、私のレースは午後だから」
翔人の問いかけにほのかは少し、固い笑顔で答えた。
そんなほのかに深雪と翔人が呆れ声で口を挟む。
「ほ・の・か。今から緊張していては、試合までもたないわよ?」
「そうだぞ、ほのか。って今更か。昔もそうだったもんな」
翔人は最後に茶化すことを忘れない。
「ちょ、ちょっと翔人君!?…わかってはいるんだけど」
「レースのことを考え過ぎないように、こちらを見に来たのでしょう?今は雫の応援をしましょう」
「………うん、そうだね」
深雪の言葉に頷くほのかであったが、その顔は暗いままだ。
どうやら、生真面目で思い込みが激しい彼女には無理な注文だったようだ。
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ランプがすべて点った瞬間、クレーが空中に飛び出した。
得点有効エリアに飛び込んだ瞬間に、それは次々と粉砕される。
そんな雫に観客は歓声を上げる。
「相変わらず豪快だな~雫は。あいつの性格からは到底考えられないよ」
「もうっ、雫にそれ言ったら怒られるよ!」
翔人が雫の競技を見ながらそう告げるが、ほのかに釘を刺されてしまう。
そんなことを話していると、競技は終盤に差し掛かっていた。
撃ち漏らしはまだ、一つもない。
そしてそのまま競技が終了した。
もちろん、結果はパーフェクトだ。
「お疲れ、雫」
シューティングレンジから引き上げてきた雫に達也はねぎらいの言葉をかける。
「お疲れ様!すごかったよ、雫!」
達也に続いてほのかもねぎらいの言葉をかける。
「ありがとう。…でも拍子抜け」
「確かにな。見ててもあんまり面白くないし。やっぱ対人じゃないと盛り上がらないよな」
雫が自分の不満を口にすると、翔人も同意する。
少し意味が違う気もするが…
「また翔人君はそういうこと言う…少しは雫をねぎらってあげたら?」
翔人の言葉をやや不満に思ったほのかが翔人に告げる。
「…お疲れ様!すごかったよ、雫!」
「「「「「………」」」」」
ほのかに文句を言われたため、言われた通りねぎらいの言葉をかけるが、翔人がそう言った瞬間、皆静かになった。
「えっ…みなさんどしたの?」
「…うざい」
「えっ?そりゃあないよ雫さん。せっかく言われた通りねぎらいの言葉をかけたっていうのに」
「心がこもってない」
「当たり前だろ?雫なら優勝なんて余裕だって思ってるし。こんなところでつまずく奴じゃないのはよく知ってる」
翔人が雫のセリフに真面目に返答をすると、雫はやや頬を赤く染めながら、
「…まぁそういうことなら許す」
と、誰にも聞こえないくらい小さく呟いた。
…ほのかだけは聞き逃してはいなかったが。
「あっ、そうだ」
「どうしたの雫?」
「Bグループの予選見に行ってもいいかな?気になる選手がいて」
話を変えるためか雫が別会場の試合観戦を促す。
「それって三高の?」
「うん、そのうちあたるかもしれないし」
「じゃあ行こう!」
雫の言葉に、元気よく告げるほのか。
達也たち一行はそんなほのかを見て、自分の試合は大丈夫なのか?と疑問を持つが、気分転換になるかも、と告げたエリカの言葉で納得し、Bグループの会場へと向かおうとする。
が、ここで翔人のわがままが発動する。
「じゃあ俺帰ってもいい?」
「えっ?」
「三高の試合なんだろ?それに、そいつはあのぼっちの取り巻きだろ?つまり奴がいる可能性が高い。故に俺は行きたくない」
翔人は自分の言いたいことを一気に言うと、ふぅと一息つき、満足そうにみんなを見た。
そんな翔人の言葉にほのかと雫以外は疑問を覚えた。
その代表として達也が翔人に質問する。
「なぁ翔人ぼっちって誰のことだ?」
「ぼっちはぼっちだよ。……分かったからそんな目で見るなって」
達也の問いに適当に答えると、達也の視線が怖かったので正直に告げる。
「えっと…なんて言ったっけ?一…一色…」
「一色愛梨か?」
翔人のつぶやきで正体を見破った達也が翔人にそう告げる。
「あぁ、そうそう。そんな名前だったな」
「翔人君…そろそろ名前覚えてあげようよ……」
「まぁそのうちな…それで達也、それがどうしたんだ?」
「いや、翔人と彼女が知り合いだったことに驚いてな」
「知り合いってほど知り合いでもないし、俺あいつ苦手だからな…」
「確かにそうかもしれんな。深雪から聞いた話だと、彼女は家柄や実力で人を判断するらしいからな」
そんな達也の言葉に、翔人は驚いた顔で達也に尋ねる。
「実力?あいつ実力で人を判断できんの?」
「あぁ、深雪はそう言っていたぞ」
「そうか………」
達也がそう告げると翔人は何やら考え始めた。
そんな翔人を見て、他のメンバーは疑問に思うが、雫の
「早く行かないと終わっちゃう」
という、一言に諭され翔人とほのかを置いて達也たち一行はB会場へと向かった。
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翔人がベンチに腰掛けて15分。
翔人はずっと何かを考えている。
隣にいるほのかは何か声をかけようか悩んでいたのだが、バスの中の表情と同じで真剣だったために声をかけるのを躊躇していた。
しかし、いつまでもここにいてもしょうがないので、ほのかが声をかけようとする。
が、ほのかが声をかけるタイミングで翔人も同時に声をあげる。
「ひ、翔人くん「はぁ~…」
急に放たれた翔人の長い溜息に驚きつつも、ほのかは翔人へと声をかける。
「だ、大丈夫?ずいぶん長い溜息だったけど」
「さっきの達也の話でな…俺今まで彼女にあまりいい態度してこなかったろ?」
「…確かにそうだね」
ほのかは頷く。
「でもそれは彼女が、家柄だけで人を判断すると思ってたからなんだ。」
真剣に告げる翔人に、ほのかは何も話さずじっと翔人の目を見つめている。
「でも実際は違った…だとしたら俺酷いことしてたなぁって思ってさ。家柄で人を判断するってのは気に食わないけど、実力を知るためには一番手っ取り早い方法だ。十師族はもちろんのこと、師補十八家、百家も名前を聞けばどんな実力かはわかるだろう。実力者に会いたいってだけのやつだったのならこれも頷ける。はぁ…何か嫌なことした気分になるよ」
「そっか…それなら謝ればいいよ」
「えっ?」
ほのかの言葉に翔人はキョトンとした顔になる。
しかしほのかの顔は真剣なものだ。
「きっと謝れば許してくれると思うよ?」
先ほどよりもほのかの言葉に強みを感じる翔人。
しかし顔は笑顔だった。
「そう…だな。でも今はまだその時じゃない」
「どうして?」
今度はほのかが翔人に尋ねた。
「俺の実力を見せてからでも遅くはないだろ?俺の力を知ってもらってからの方が何かと話しやすいだろうし、俺もあいつの力をこの目で見たい」
そんな翔人の言葉に微笑むと、ほのかは告げる。
「翔人君らしい考えだねっ。でもいいと思うよ!」
「俺らしい…か。そうかもな…って言っても向こうから話しかけられたら、流石にそうも言ってられないと思うけどな」
ほのかのセリフに少し照れながら答える翔人。
そんな翔人は話題を変えるため、ほのかへと話しかける。
「じゃあ三高の試合見に行くかっ…って思ったけどもう終わってるよな…」
「うん…」
「…悪かった」
色々と自分が悪いことは自覚しているので素直に謝る翔人。
「いや、別にそれはいいんだけど…」
「どうした?」
素直に謝った翔人だったが、ほのかの様子がおかしいことに気づき声をかける。
「午後私の競技だから緊張しちゃって…」
「あぁ、そういうことか。まぁほのかに緊張すんなって言っても無理な話だ。俺がいてやるから大丈夫だ。…だから今は雫を全力で応援してやろうぜ」
翔人は笑顔でそう告げる。
見るからに緊張しているほのかを思って。
「うんっ!」
そしてほのかが頷くと、二人は雫たちのもとへと向かった。
翔人のキャラがつかめません…