やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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タイトル通り川なんとかさん√スタートです!


サキサキ√
意外にも川なんとかさんは乙女である。【前編】


 

 冬のある日、四限目の数学の授業を机に突っ伏して寝ながら、あることを考えていた。もちろん女子と二人きりになる方法だ。もう冬休みが終わってから一週間も経つのに、二人きりになったのが小町と戸塚と平塚先生だけって……。うん、対象が全部おかしい。それに戸塚の性別は女じゃなくて戸塚だし。やっぱり戸塚は可愛いなぁ……。

 

 戸塚の可愛さについて考えていると、一つ名案が思いついた。「受動的に二人きりになれないなら、能動的に動いて二人きりになっちゃえばいいんじゃね?」作戦だ。っべー、ヒキタニ君マジ冴えてるわー。心の中の戸部も大絶賛してくれてる。でも戸部だから嬉しくない。

 

 んで、一番の問題は誰と二人きりになるかだ。俺の周りに普段から一人でいるようなやつっているっけ? 最近じゃゆきのんもガハマちゃんって友達ができたから、部室内でもぼっちのどうも俺です。結局一人なのは俺だけか……。まぁ今に始まったことじゃないから気にしないけど。

 

 ここでふと、俺に向けられてる視線に気づく。机に突っ伏していても視線に気づけるとは思わなかった……。いよいよ俺も闇の力が解き放たれたか……。これじゃ完全に中二病再発してるじゃねーか。

 体を起こして視線を向けられている(はずの)方を見てみると、俺と目が合った彼女はびくっと肩を揺らして、すぐに首をぶんっと回して前を見た。そんな勢いよくやって首は大丈夫なのん? で、誰だっけあれ。

 えーっと、名前は川……川、川越だ。イメージカラーはブラック。なんでかって? そりゃもちろん黒のレースだからです!

 というか、川内ならいつも一人でいるはずだし、二人きりになれる可能性も高いよな? 

 ……よし、川谷に接触してみることにするか。

 

 ここで授業終了を告げるチャイムが鳴った。はぁ……学年末の数学は、また由比ヶ浜と戸部とワースト争いを楽しむしかないのか……。

 

 さて、川崎沙希(実は最初から分かってました)は、昼休みはどこへ行くのだろうか。

 川崎の席を見ると、既にそこにはいなかった。ううむ、動くの早いな……。川崎が行きそうなところっていったら、屋上くらいしか思いつかないな……。初めて会ったのもそこだし、とりあえず行ってみるか。

 

 さぁ、俺の手に入れた力を使って川崎沙希を落とすとしますかね……。やばい、何がやばいかって、さっきからめっちゃ中二病が再発してる。今なら材木座とも仲良くなれそう。

 

 ……それはやっぱ無理だな、うん。

 

 

××××××

 

 

 購買へ寄ってから、屋上へと続く踊り場を歩く。人一人通るのがやっとのような場所だ。もうちょっと綺麗にしてもらいたい。扉の前にくると、予想通り南京錠が外されていてぷらぷらと揺れていた。その扉を開けて周りを見渡すと、川崎は梯子を上った先にある給水塔に寄りかかっていた。高いところ好きなの? バカと煙はなんちゃらというが、川崎は別にバカではないんだよな。スカラシップ取ってる時点で有能だろ。将来養ってくれねぇかな……。

 

「川崎」

 

 下から声をかけると、川崎は俺がいることにびっくりしたのかのけぞった。でも給水塔に寄りかかってたから、思いっきり頭をぶつけた。……大丈夫?

 

「ななななな、なんであんたがここにいんのさ!?」

 

 んー、そう言われると困るな。というか、頭の痛みより俺がいることについての方が優先順位高いのね……。

 ──そのとき。

 風が吹いた。前は梯子を降りている最中だったから後ろ向いてる状態だったが、今回はあれだ、その、下からだけど前向いてる状態から拝めてしまった。まぁ、要するにあれだ。

 

「……黒のレース……か」

 

 パンツが見れたってことですね! 風ナイス! あ、黒のレースさん、お久しぶりです! めっちゃガン見しちゃったけど大丈夫だよな……? でも川崎って見られても気にしないやつだったっけ。それだとただの変態みたいで失礼か。でも、もうちょっと可愛らしい反応して欲しいものだ。

 

「ば、ばっかじゃないの!?」

 

 川崎は耳まで真っ赤にしてスカートを手で押さえながら、キッと睨んできた。

 そうそう、こんな感じで可愛らしい反応……を? 川崎ってこんな反応するやつだったっけ……。でも睨むのはやめてね?

 文化祭が終わった頃から、川崎の俺を見る目が変わってるのは気づいてるんだけど、俺何したか覚えてないんだよな……。

 

「あー、なんか悪いな。その、見ちまって……」

 

「い、いや、べ、別に……」

 

 なにか呟いた気もしたけど、位置的に聞こえんな。俺下から話しかけてるんだし。とりあえず俺も上に行くか。

 

「そっち行ってもいいか?」

 

 俺の言葉に川崎はあわあわしながら、右見たり左向いたり、てんやわんやした後にこくんと首を縦に振って頷いてくれた。

 了承をもらったから梯子を使い、上に上るとまた一段と高い景色を見れた。うわ、意外と怖いわ……。

 幅は狭いが、座れないわけではないし、とりあえず座ると川崎も俺につられて座った。

 

「……それで、なんの用?」

 

 さっき見られたのが恥ずかしかったのか、川崎は俺の隣でもじもじしながら聞いてきた。そんな反応されたら普段と印象が違くてこっちも困るんだけど……。

 しかし、何の用かって言われてもなんて言えばいいものか。「君のこと落としにきたんだ!」とか言ったら確実に殺されそう。というか、今二人きりなんだよな? なら試してみるか……。

 

「あー、その、何。ここならお前いるんじゃないかって思ってよ。そんで一緒に飯でも食おうかと思ってな」

 

 俺は何を試したかったんだろうか……。言ってることめちゃくちゃだな。ただのクラスメイトがいきなり一緒に飯食いたいとか言ってきたら怖いだけだろ……。

 

「……そ」

 

 川崎は素っ気なく返事をしたが、その顔はどこか嬉しそうだ。あれかな? やっぱサキサキもぼっちだし、飯のお誘いは嬉しいものなのかな?

 とりあえずここに来る前に購買で買ったパンを食べ始めると、川崎もバックから弁当を取り出して食べ始めた。てか、バックごと持ってくるとか警戒心強すぎない? クラスに天敵でもいるの?

 

 黙々と咀嚼しているが、俺も川崎も喋らない部類だし会話が全くない。別に気まずくはないんだけど、これで俺が川崎を落とせるかって言ったら否なんだよな……。

 なんか話題ねーかなーと、考えていると川崎の弁当に目がいった。

 

「それ、自分で作ったのか?」

 

「そ、そうだけど……」

 

 ほー、すげぇもんだな。しかもめっちゃ美味そうだし。別に恥ずかしがるようなことじゃないだろ。

 結局これ以降、会話も続かず黙々と飯を食い続けてしまった。やばい、さっきまで中二病再発させるくらい自信あったのに何もできてない……。

 飯を食べ終わり、これからどうするかと考えていると、一つだけ気になることがあったから聞いてみた。

 

「昼休み終わるまでずっとここにいんのか?」

 

「そうだけど?」

 

「……寒くね?」

 

 ここベストプレイスより普通に寒いんだけど……。そりゃ屋上だし当たり前か。

 

「そう? あたしは別にそんなことくちゅんっ」

 

 ……えー、何その可愛いくしゃみ。くちゅんなんて言うやつ初めて見たぞ……。

 川崎はよほど恥ずかしかったのか、下を見て俯きながらぷるぷると震えていた。これ恥ずかしくて震えてるの? それとも寒くて震えてるの?

 

 はぁ……まぁどっちでもいいや。自分の着ているブレザーを脱いで、それを川崎の肩にかけた。うはぁ……めっちゃ寒い。

 

「い、いや、大丈夫だから! それじゃあんたが風邪ひいちゃうでしょ!」

 

「ん、まぁ気にすんなよ。どうせ昼休みもあと少しだし」

 

「で、でも……そ、その……あり、ありがと……」

 

 そんなもじもじされながら礼なんて言われたらこそばゆいんだけど……。でも、かっこつけたのはいいけどまじで寒いな。俺が風邪引いて小町に移すわけにはいかないしどうするか……。やっぱ川崎と一緒に戻った方がいいような気がしてきた……。

 川崎は俺が寒そうにしているのに気づいたのか、立ち上がって俺の後ろに座ると、俺の腰に手を回して、ぎゅっと抱きついてきた。

 

 …………は!? 

 

「え、ちょっ……なにしてんの?」

 

 やばいやばい近い近い柔らかい耳に当たる吐息がくすぐったいし近いし柔らかい! え、ほんとになんでこんなに柔らかいの? 川崎は冬でもリボンはしないで胸元が開いているから、なおさら、その、発育のいいあれがむにゅむにゅと押しつけられてやばい。何がやばいかって? そりゃもちろん俺の理性とかね!

 

「こここここ、これならあんたも……さ、寒くないでしょ?」

 

 後ろを見ると、川崎も俺と同じくらい動揺していた。アニメとかなら目がぐるぐる回ってるな。なら最初からやらないでくださいよ……。確かに寒くはないよ? むしろ暑くなってるまである。

 

「寒くはないけど、誰か来たらやばいだろ……」

 

「そ、それなら大丈夫。昼はあたしがいること分かってるから、誰も近寄らないし」

 

 サキサキさんマジぱないっすわ……。見た目がヤンキーっぽいだけで、中身は普通にいいやつなんだけどな。人は見かけによらないって川崎のために作られた言葉なんじゃね? って思うレベル。今だって俺のために抱きついてくれてんだし。でも、耳元でぽしょぽしょと喋られるとくすぐったいからやめて欲しいんだけど……。

 

 ……人が来ないならもうちょっとくらい積極的になってもいいよな?

 

「……ならちょっと離してくれるか?」

 

「?……うん」

 

 俺から離れた川崎は、また隣に座ってきた。そのお顔は真っ赤っかです。多分俺も同じ感じなんだろうけど。というか、なんでちょっと残念そうな顔してるのん? 

 

 まぁそれはいいか。んじゃ、今度こそ俺の身につけた(はずの)スキルを試してみますかね……。




サキサキ√スタートです!えー、今回の話を見ても分かるようにヒロインにつきひとつひとつ独立した別次元なので、前編の最初らへんの下りは毎回同じ感じになるかもしれません。そこはまぁあれです。許してください!(白目)

それでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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