やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
隣に座っている由比ヶ浜が買い物袋から取り出したもの――それはポッキーである。
もう一度言おう。ポッキーである。
……や、なんでだよ。まずそれ飯じゃなくてお菓子だし。しかもポッキーの日なんてとっくに過ぎてるんですけど。
八幡そんな不純なことは絶対にしませんよ!(フラグ)
……ほ、本当にポッキーゲームなんてしないんだからね!(死亡フラグ)
「……これはなにかしら由比ヶ浜さん」
とりあえず雪ノ下の真似でもして由比ヶ浜を落ち着かせよう。呆れさせて場の空気を変えられれば、そんなことする雰囲気もぶっ壊せるはずだ。
「へ? ヒッキーってポッキー知らないの? てかゆきのんの真似また上手くなってるし……」
そりゃまぁ、俺もあの部活に入って半年以上経つからな。なんなら由比ヶ浜の真似もできるぞ。
というか、ポッキー知らないとか現代人じゃないだろ……。こいつ俺を何時代の人間だと思ってんだ。
「いや、知ってるけど……」
呆れながら言うと、由比ヶ浜の顔がぱぁっと明るくなる。
「じゃあさじゃあさ! ポッキーゲームやろうよ!」
おうふ……。球速298キロのストレートが計測されました。しかもデッドボールでございます。
さて、どうしたものか。場の空気は変えられなかったから、ここで拒否したら絶対気まずくなるよな……。あまりにも気まずくなりすぎて土下座しちゃうまである。
ならここは大人しく流れに乗っとくか……(フラグ回収)
「おう。じゃあやるか」
「あ……ほんとにやってくれるんだ」
ぽけーっとした表情で俺のことを見て言う。え、なに、拒否した方がよかったパターンだった?
「……嫌ならやめるけど」
「そ、そんなことないよ!」
「お、おう」
慌てた様子で手をぶんぶん振りながら否定してくる由比ヶ浜を見て、思わず空返事で答えてしまう。
え、やっぱりやりたいの? というか、これもう答え出てますよね? 自意識過剰とか言えないレベル……だよな?
「じゃあソファに移動しよっか」
「え、なんで? 寒いじゃん」
「炬燵だとなんかあれじゃない? ほら、ムード? とか?」
何一つ具体性のない言葉だが少し納得してしまった。俺もなんか違うなぁと思ってしまった辺り、冬休みでずいぶん恋愛脳になってるんだなと改めて自覚した。いや、高校生なんだから別にそれが悪いことではないんだけど。
「そうだな。んじゃ、移動するか」
その後ソファへ移動して、由比ヶ浜の隣に並んで座る。
……落ち着かないな。やばい、緊張しすぎてリバースしちゃいそう。
由比ヶ浜も緊張しているのか隣でそわそわしている。
「じゃじゃじゃあやろっか!」
なんでか知らんけど、じぇじぇじぇって聞こえてしまった。お前は岩手県民かよ。あれ実際は誰にでも通じるわけではないらしい。これ豆知識な。無理に使っても「は? お前何言ってるの?」ってなるだけだからよく覚えておくように。
話が逸れた。というか、由比ヶ浜さんテンパりすぎじゃないですかね……。まぁ俺も内心、きゃー! ポッキーゲーム、っべー! ってなってるんだけど。
「別に無理しなくてもいいんだぞ?」
「そ、そんなことないもん!」
由比ヶ浜はぷんぷん怒ってから(全然怖くない)、ポッキーの袋を開封した。
「じゃ、じゃあやろっか。……んっ」
ポッキーを咥えて、ほんのりと頬を赤らめながら眉を力いっぱい寄せ、んっと唇を差し出してくる。
鼓動が早くなるのを感じた。それを黙らせるためにひとつ息を呑む。
「い、いくぞ……」
由比ヶ浜の両肩に手を置いて、由比ヶ浜の咥えたポッキーのもう片方の端を咥える。
由比ヶ浜が目をぎゅっと瞑っているってことは、俺から動くしかないんだよな……?
というか、この子キスする気満々じゃね? と、とりあえず食べ進めるか……。
少しずつ食べ進めて行くと、ポッキーが3分の1程度になった頃だろうか(それまでの記憶がない)。ここで一度食べ進めるのをやめる。いや、まぁ、あれだよ? 心の準備とかあるだろ?
「ん……んぁ……」
うわ……息遣いやっば。なんというか、超エロいです……!
いかん。煩悩退散。
由比ヶ浜のことを見て改めて思う。やっぱこいつ可愛すぎだろ……。まるで俺にキスされるのを待っているかのように、唇をんっと突き出している由比ヶ浜を見て、すごく愛くるしいと思ってしま……これ以上考えるのはやめよう。
由比ヶ浜はいつの間にか俺の背中に手を回していて、顔が近くなったこともあって吐息が顔にかかって少しこそばゆい。なんでこんなに甘い匂いするの? お前普段何食ってんだよ。女の子って不思議!
しかもポッキーが短くなって距離も近くなり、背中に手を回されたことによってさっきからむにゅむにゅしたものが俺の胸に当たっている。
……正直、理性がぎりぎり。
ここでキスして押し倒してしまうのもアリかもしれないけど、それはなんか違う気がするんだよな……。
なんというかそれは由比ヶ浜に失礼な気がする。や、軽いノリでポッキーゲームなんてしてる時点で失礼かもしれないけど。
どうするべきか悩んでいると、俺の動きが止まったことに気付いたのか、由比ヶ浜がうっすらと目を開けた。
その目があまりにも色っぽすぎて体がびくんっと跳ねてしまい、ポッキーが折れてしまった。
「あっ……」
由比ヶ浜がものすごく寂しそうな表情をしてから、残念そうに俺を見る。
「あ、あははー……折れちゃったね……」
「……まぁ折れてよかったんじゃないか? 仮に折れてなかったら、その、……あれだろ?」
心にもないことを言ってしまう。ついさっきまで押し倒してキスしちゃえばいいんじゃね? って考えてた奴の言葉じゃないな……。
でも、今日の行動で由比ヶ浜が俺に好意があるのは分かっちゃったしな。今までも何度か勘違いしそうになったことはあったけど、今回のは流石に勘違いじゃ済まないだろ。
……そろそろ彼女の好意から逃げるのはやめて俺も素直になるとするか。小町にもここまでお膳立てされたんだしな。
一つ息を吐いて覚悟を決める。
そして、由比ヶ浜をソファに優しく押し倒す。床ドンってやつだな。
さぁ、勝負はここから俺のターンだ。
「ふぇ……?」
由比ヶ浜は現状を理解できていないのか、素っ頓狂な声を出す。
んじゃ、恥ずかしさが限界を迎える前にとっとと済ませちゃいますかね。
「キス……、したかったのか?」
少しだけ体重をかけて、耳元に顔を寄せて吐息混じりの声で囁くと、由比ヶ浜の体がぶるっと震える。
「え、えっと……、ううぅ、ヒッキーがヒッキーじゃないよぉ……」
……そんなん自分でも分かってるわ。でもやめるつもりはない。
「ほら……、どっちなんだよ。素直にしたいって言ったらしてやってもいいぞ……」
うわっ、これ誰? どこの俺様系男子だよ……。
さすがに自分の行動に恥ずかしくなって、耳元から顔を離すと、由比ヶ浜の顔は耳まで真っ赤になっていて、瞳は潤んで口元は微かに震えていた。
「……し、したい……です。ひ、ヒッキーと、キス……、したい……です」
由比ヶ浜は震える声で懇願するように言葉を紡ぐ。
なんで敬語を使っているのかはこの際置いておこう。まぁ多分、由比ヶ浜は恋愛物とか好きそうだから空気読んでそうしてくれたんだろうけど。
……頼むからもう少しだけ持ってくれよ。あ、オラの体じゃなくてメンタルのことな。界王拳のことではない。
うん、超どうでもいい。
ほら、俺が無駄なこと考えてて、由比ヶ浜を放置してるせいでちょっと涙目になってるじゃん。お前もさっきの恥ずかしかったんだな……。
「……よし、じゃあするか」
「……うん!」
頭をくしゃりと撫でると、由比ヶ浜は目を細めて嬉しそうに微笑む。
「……目閉じてくれ」
こくりと頷き、幸せそうに目を閉じて、んっと唇を差し出してくる。手は俺の腰に添えていて、その全ての行動が早く俺とするのを待ち望んでいるかのように見えた。
それがたまらないくらい嬉しくて、ゆっくりと顔を近付ける。
顔を傾げ、目を閉じ、そして、慈しむように、ゆっくりと唇を重ねた──。
「……んっ……」
唇を離すと、由比ヶ浜から甘い声が漏れ、うっとりとした表情で自分の唇を指でなぞる。
時間にするとほんの数秒、互いの唇を少し重ねただけで終わった。
……超柔らかかった。キスってこんなにも気持ちが満たされるものなのか……。
「えへへ……ヒッキー、大好きだよ!」
「……俺もだよ」
満面の笑みを咲かせる彼女を見て、幸福感に満たされながら、もう一度唇を重ねた。
これじゃ飯じゃなくてデザートだな……と場違いなことを考えてしまったのは内緒だ。
こんばんは!皆さんクリスマスはどうお過ごしでしたか?私?私は……私は、その、聞かないでください(泣)
はい、というわけで(どういうわけだ)、ガハマさん√まだ終了ではありません。今までだとキスして終わりでしたが、そろそろキスした後も書いてみたいなーと思いました。もう少しだけガハマさん√をお付き合いください!
実はクリスマスネタも書こうと思ったんですけど、このSSって冬休み終了後の物語でした☆
はひ、泣きたい。
次何かのイベントがあったらいろはすアフターとして書きたいと思います!というか何もなくてもそろそろいろはす書こうかと考えています。
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!