やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
アイスを食べ終わって(結局俺はほとんど食べてない)から再び仕事を始めたが、一色はさっきの事もあって落ち着かないのか、全然集中出来ていない。もちろん俺も仕事に集中出来るほどのメンタルはなかった。さっきの一色の艶っぽい表情を思い出すだけで顔が熱くなる。
はぁ……俺が落とそうとしてるのに、逆に落とされそうになるとは思わなかったわ……。
「先輩どうしたんですか? さっきからわたしのことずっと見てますよね?」
「ばっ、べ、別にお前のことなんか見てないんだからね!」
俺の唐突なツンデレ発言(気持ち悪い)に一色は心底蔑んだ目で見てきた。そっちの趣味はないからパスでお願いします。
「今のは本当にドン引きなんですけど……。先輩にツンデレは似合いませんよ」
「そんなん自分でも分かってるわ。てかお前だって俺のこと見てきてんだろ……」
さっきから一色が俺のことを見てくる回数は、はっきり言って異常だった。それはもう俺もドン引きするレベル。三秒に一回は見てきた……と思う。自意識過剰じゃないよね? 勘違いじゃないと信じたい。
俺も一色のことが気になってチラチラ見てしまうから、ほとんど見つめ合っている状態だ。ぼっちは人と視線を合わせるのが苦手だからドキがムネムネしてしまう。まあ視線が合う前からずっとムネムネしてるんだけど。
「わたしは先輩のことなんか見てないですよ?」
どうやら自意識過剰だったようだ……とは言えないな。そこでしらばくれるか普通……。
ちょっとイラッとしたから、また意識してますよアピールでもしてみるか。
「はいはい、そうですか。俺は普段から割と一色のこと見てるんだけどなー。一色は俺のことを見てくれないのかー。残念だなー」
……超適当だな。自分でも信じられないくらいの棒読みになってしまった。さっきからムネムネしすぎてこんな甘ったるいこと言えるほど余裕がないわ……。これじゃいつも通りドン引きされるなぁ……。
「え、えっと、さっきのは冗談でそ、その、わたしも先輩のこといつも見てるというかなんというか……って何言わせるんですか、先輩のえっち……」
俺の予想に反して、一色は指をもじもじと絡めながら、下を見つめて、ぼそりと呟いた。いや、この子何言ってるの? いつも見てるって何? ちょっと嬉しいんですけど……。でも最後のえっちってなに? じとっとした目でえっちなんて言われたら、ちょっと興奮しちゃうからやめてね?
「いや、それは理不尽だろ……」
「先輩がいつも見てるって言うのが悪いんですよ!」
「俺はいつもとは言ってないんだけど……。いつもって言ったのはお前だけだから」
「うっ……も、もう! 先輩のバカ!」
……うん、さっきからちょっと理不尽すぎる。一色のが俺よりムネムネしてると思うから勝負はここから俺のターンだ。というかいい加減ムネムネから離れよう。
俺は隣に座っている一色の方に椅子ごと体を向けた。
「一色もこっちに椅子ごと体を向けてくれないか?」
一色はなんで? と少し眉をひそめたが、素直にこっちを向いた。ううむ、素直すぎて将来変な男に引っかかりそうで怖い。だから俺が一色を貰おう。
……うん、今のはなし。
気を取り直して、俺は一色の膝の上にちょこんと置いてある小さな右手を、両手で包み込むようにぎゅっと握った。
「いつも見てくれてるってのは嬉しかったぞ。ありがとな、一色」
「え? あ、あう、はうう……」
言葉が出てこないか一色は唸りながら俯いてしまった。
ポケモンなら「こうかはばつぐんだ!」ってなってるな。ならさらに追い込むか……。
俺は両手で握っていた一色の手を離して(この時一色がめっちゃ寂しそうな顔をしたので、左手はまた握った)、右手で一色の頭を撫でた。
なでなでわしゃわしゃ
「はう……せ、先輩」
「んー? どうしたー?」
なでなでわしゃわしゃ
「あうう……え、えっと、今日の先輩っていつもより変ですよね?」
「それさっきも言われたんだけど俺っていつも変なの?」
なでなでわしゃわしゃ
「ううう……だ、だって昨日までと全然違うじゃないですか。わたしがいくらアピールしても
、あざといとしか言わなかったのに」
この子さっきから喋る度に唸り声違くて可愛いんですけど……。
「そりゃそうだな。周りに人がいる時にはこんなこと出来ないし」
撫でられている間、俯いていた一色が顔を上げて、ちょっとだけ潤んだ瞳で俺のことを見てきた。
「じゃ、じゃあわたしも我慢しなくていいんですか?」
「? 別にいいんじゃないの?」
我慢って何のことだ? てかがまんって技は不便だよな。がまんしてる間に倒されてしまうのが序盤のポケモンの鉄則だ。中盤頃にはがまんを使う相手もいなくなってるな。
「ほんとにいいんですね!?」
え、何? さっきまで調子こいてた俺に制裁でも加えるの?
「ん、いいぞ」
一色は握っていた俺の手を離して胸の前でよしっとガッツポーズを作った。なにそれめっちゃ可愛いんですけど……。
「じゃ、じゃあ、お、お邪魔します……」
お邪魔します? どこにお邪魔するのん? 隣の家の晩御飯に突撃するの? と思っていたら、椅子から立ち上がった一色は、座っている俺の上を跨って抱きついてきた。うん、これは対面座位と言うやつですね。
…………。
は!?
「ちょ、い、一色さん!?」
やばい近い近いいい匂い柔らかいいい匂い柔らかい……じゃなくて、いや、なんでこんな柔らかいの? じゃなくて! 柔らかいのはもう分かったから!
「先輩が我慢しなくていいって言ったのが悪いんですからね?」
そう言い、一色は俺の胸におでこをこすり付けてきた。
……うわああああ!!!! がまんが解き放たれたら強いのがたった今よく分かりましたよ! 次のシリーズからがまん愛用するからもうやめて!
「さ、さすがにこれはまずいって……」
主に俺の理性とかが。下校時間も近いのに理性が崩壊なんてしたら、本当に大変なことになりそう。下校時間が近くなくても、学校で理性が崩壊した時点で終わってるけど。
「え、ダメなんですかぁ?」
上目遣いと涙目のコンボで、八幡はたおれた。やばい、目の前が真っ暗になりそう。というかなった。さっきからなんでポケモンネタがこんなに出てくるのか謎なんだけど……。
「いや、ダメではないけど……」
ここで断って泣かれたりなんてしたら、俺の人生が終わりそう。それに断ったら色々ともったいない夢シチュエーションでもあるし……。
「えへへえ……せんぱぁい」
……顔あっつ……。いや、もう恥ずかしすぎて死にそうなんだけど。とりあえず左手は一色が椅子から落ちないように背中に回すか……。
「んっ、くすぐったいですよぉ……」
だ、誰かティッシュください……。今なら鼻血出せる。なんでそんな甘ったるい声出せるんだよ……。
「お前可愛すぎだろ……」
今のは意図的に言ったんじゃなくて、素で言ってしまった。うはぁ……狙ってやってない分、俺もめっちゃ恥ずかしい……。
「え、ほ、ほんとですか?」
一色は顔を上げて、嬉しそうな、それでいて泣いてしまいそうな顔をして俺を見た。
「……あぁ、ほんとだよ」
「あ、ありがとうございます……」
「おう。というか顔近いから……」
さっき一色が顔を上げてから、吐息がかかるくらいの距離になっている。なんでこんな甘い匂いすんの? 同じ人間なんですか?
「あれー? 先輩もしかして緊張しちゃってます?」
そう言って、あざと可愛い後輩はいつも通りの小悪魔的な笑みを浮かべた──。
勝負はここからいろはのターン!
今回もお読みいただきありがとうございました!