やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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やはり俺と恥ずかしがり屋な女の子のテンプレ青春ラブコメはまちがっていない。⑹

 

 何だかめちゃくちゃ恥ずかしい思いをしてしまったが、昼休みはまだたんまりと時間が残っている。つまり葉月とのこの何とも言えない時間はまだまだ続くというわけで。

 ……まさか恥ずかしがり屋な葉月があんな女子らしい質問をしてくるとは思わなかった。顔赤くなってるのバレなきゃいいけど……。

 まぁ、当の本人が一番顔真っ赤にしてるから大丈夫だろうけど。

 

「か、可愛い……か、かかか……比企谷君が私に、か、かか、可愛いって……」

 

 両頬に手を当てて、あわあわ慌てながら何度も可愛いを連呼する葉月。綺麗な黒髪から覗く耳は今までで見た中で一番真っ赤になっている気がした。

 

「は、葉月?」

 

「ひゃ、ひゃいっ!? な、なな、何でございましょうか!?」

 

「い、いや、大丈夫かって聞こうと思ったんだが……」

 

 何だその言葉遣い可愛いな。ていうか、どんだけテンパってるんですか葉月さん……。

 さっきの発言ってもしかしなくても葉月にとって逆効果だったのでは……? 葉月の男子への苦手意識がまた強くなったら完全に俺が原因になるだろうな。

 

「だ、大丈夫です……。で、でも、恥ずかしくて、比企谷君の顔が見れないです……」

 

「……恥ずかしいなら無理に見る必要はないからな?」

 

 それでも頑張って目を合わせようとする葉月だったが、俺を見るなり顔を俯かせてぷるぷると震えてしまった。

 ……ま、まぁ、とりあえず嫌悪感はなかったようで良かった。ということは、これは使えるのではないだろうか。

 

「葉月、ちょっといいか?」

 

「は、はい?」

 

 ようやく落ち着いたのか、俺の方を見ても平気になった葉月がこてんと首を傾げる。ちょっと涙目になっている大きな瞳は俺の話をしっかり聞こうとじっと見つめてきている。

 ……恥ずかしいけど、これも葉月が男子に慣れるためと思えば大丈夫だ。でもそんなにじっと見られるとめっちゃ緊張してきますね。

 ……よし。

 

「……やっぱお前、可愛いわ」

 

「……へ?」

 

「んぐ……」

 

 何これ恥ずかしい! 恥ずかしすぎる! 自分でも変な声出ちゃったけど顔には出さず冷静に冷静に……。

 俺が思いついたのは至極簡単な方法だった。葉月が俺に可愛いと言われても嫌悪感がないのなら、俺が何度も彼女に可愛いと言って言われ慣れてしまえばいいと思ったのだ。

 冬休みの間、女子相手に積極的になろうと思った俺の努力がまさかこんな形で役に立つとは思わなかった。前までの俺ならこんな簡単に言えるわけがなかったしな……。

 

「ど、どどど、どうしたんですか急に……」

 

「いや、恥ずかしがる葉月が可愛いなと思って」

 

「あぅぅ……そ、そんなことないです……」

 

 頬を真っ赤に染めて困ったように唇をもにゅもにゅさせる葉月。少しして、「あっ」と何かに気づいたような声を上げて、困ったように眉をくにゃりと曲げながら聞いてくる。

 

「こ、これも男の子に慣れる練習なんですか?」

 

「……まぁ、そうとも言えるな」

 

「あ、や、やっぱりそうですよね。お、お世辞でもそう言ってもらえて嬉しいです……」

 

 言って、戸惑いつつも葉月はぺこぺことお礼をしてくる。しかし、その瞳にほんの少し寂しさが混じっていたのを感じ取れてしまって。

 やっちまったな……。いくら練習とはいえ、こんなこと軽々しく言っていいもんじゃないのなんて分かってるはずだったのに。

 ……葉月だって男子が苦手なのに俺と話すのを頑張っているんだ。彼女としっかり向き合うためには、やっぱり俺も本音で話した方がいいんだろうな。

 

「……いや、さっきの言葉はお世辞なんかじゃないからな?」

 

「え……?」

 

「……葉月のことは、その、なんだ……。……本当に可愛い、と思ってる」

 

 まだ数日しか関わってない葉月だが、男子に慣れようと頑張ってる彼女に自然と俺は見惚れてしまっていたのだ。だから今の言葉は、嘘偽りのない俺の本当の気持ちであって。

 ただ素で言うにしても、もうちょっと格好良く言えないもんなのかね……。今回ばかりは俺も葉月並に顔真っ赤になってるぞこれ……。

 

「あ、うぅ……」

 

「は、葉月……? す、すまん、やっぱ嫌だったか?」

 

「い、いえ……その、初めてだったので……」

 

 何が、と聞き返すことはできなかった。今の葉月の顔を見てしまった俺は、その一挙一動に目を離せなくなってしまっていた。

 

「男の子に、こんなふうに可愛いって言われたの、初めてで……」

 

「……っ」

 

 ぎゅっとひざを抱えて、こちらを見つめてぽしょりと呟く葉月。ほんのりと嬉しさが滲み出た淡い微笑を浮かべる彼女は、やっぱり見惚れるくらいに本当に可愛くて。

 

「それに、こんなに優しくしてもらえたのも……」

 

 ぽしょぽしょとよく聞こえないような声で言って、何かに迷ったように視線をあちこちに向ける。俺が首を傾げると、葉月は「え、えいっ」と言うかけ声と一緒にぎゅっと俺の手を握ってきた。

 

「……ほ、ほら、大丈夫です。比企谷君になら、触っても」

 

「……無理しなくてもいいんだぞ?」

 

「し、してないですよ?」

 

 そうは言ってもめっちゃ手震えてるんだけど葉月さん……。つーか、握られた俺も緊張でちょっと震えてるから手が揺れまくってますね。

 

「な、何だか恥ずかしいですね」

 

「……そりゃ手、繋いでるんだしな。葉月はあとで恥ずかしくなって後悔しそうだな」

 

「えっと、い、今は平気ですから……」

 

 そう言われるとちょっとくらいイタズラしてみたくなるのが人間の本能なわけで。すまん葉月、あとで謝るから許してくれ……。

 とりあえず、繋がれた手をにぎにぎしてみました。

 

「ひゃっ……」

 

「……」

 

「んっ……あの、ひ、比企谷君……?」

 

「……」

 

「く、くすぐったいですよぅ……」

 

 葉月は俺が手を動かすたびにひざを擦り合わせて、声が漏れないように唇を必死で引き結ぶ。それでも漏れる熱っぽい吐息と、微かな甘さの混じった声に心臓が痛いくらい高鳴ってしまう。

 な、何だかイケないことをしてしまった気分だ……。間違いなくやりすぎましたねこれ。

 

「あ、あの、今のは……」

 

「いや、何というか、つい……すまん」

 

 反省の意味を込めて繋いだ手を離そうとしたのだが、なぜか葉月にもう一度ぎゅうっと握られてしまう。自分より小さな手の柔らかな感触は、まだ俺から離れてくれそうにはなかった。

 

「あ、あの、葉月さん……?」

 

「え、えっと、手はこのままで大丈夫です……。でも、いたずらするのはまだ、だ、だめです……」

 

「お、おう……」

 

 むぅっと困ったように少し頬を膨らませ、上目遣いで見つめてくる。……頑張ってくれるのはいいことだが、俺と手を繋ぐことに抵抗がないのはどういうことなのだろうか。

 というか、今はまだってどういう意味なんですかね。勘違いしそうになる発言は勘弁してもらいたいんですが……。

 

「あの、ですね……ひ、比企谷君」

 

「何だ?」

 

「こ、これからはもっと、男の子に慣れる練習がしたいです」

 

「……ん、分かった。俺も何か考えとくわ」

 

 今回は思いつきで可愛いなんて言って、色々と恥ずかしい思いしちまったしな。次からはもうちょっと計画性のあるものを考えることにしよう。

 

「あ、そ、それと、今日は図書委員会の仕事が放課後にあってですね」

 

「げ……マジか」

 

「はい。で、ですからその時にですね……」

 

 そこまで言って葉月は何か言いづらそうに唇をもにゅもにゅさせるが、繋いだ手を見るとどこか安心したように淡い微笑を浮かべる。すぅはぁと何度か深呼吸をすると、恥ずかしそうに俺を上目遣いで見つめながらぽしょりと。

 

「イ、イチャイチャしましょう……?」

 

「……はい?」

 

 ……今回の件で、葉月さんは変な方向にぶっ飛んでしまったのかもしれません。いや、ほんとどういうことなのそれ……。

 




久々の葉月ちゃん√でした。これからはイチャイチャ回が増えていくかもしれないので、葉月ちゃん好きな皆さんはご期待ください!

たまにはご報告を。お気に入りがついに4000件を超えました。いつも本当にありがとうございます!
それと、このssを投稿し始めてあと2日で2年が経ちます。いつも読んでくれている読者さんには本当に感謝でいっぱいです。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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