やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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もう一度、あざとかわいい後輩と……。⑵

 

 一色に色々やらかしてから一日が経った翌日の放課後。さっそく一色の玩具にされてしまった俺は、生徒会室にてふんすと仁王立ちする一色を目の前に椅子に座らされていた。

 そのとても可愛らしい(本当は悪魔にしか見えない)一色の後ろにあるホワイトボードには『先輩の愛しの後輩による愛のレッスン』と書かれている。何あのクソ薄っぺらい寒気のするタイトル……。

 もう既に色々とげんなりしていると、一色がこほんこほんとわざとらしい咳払いをする。あざとい。

 

「第一回、女の子にモテるにはどうしたらいいのでしょうか講座ー! いえーい!」

 

「え、何その謎なテンション……」

 

 急に駆け抜けるように一人で始めて俺のこと置いてかないでくれませんかね……。さすがにちょっと引くぞ。

 

「もー、ノリが悪いですよ先輩。せっかくわたしが盛り上げようとしてるんですから先輩も、ほら」

 

「……い、いえーい」

 

「もっとですよ!」

 

「いやだから何なのそのテンションは……」

 

「むー……」

 

 一色はお気に召さないのかぷんぷんとご機嫌斜めな様子だ。謎なテンションも相まって、生徒会室に来てから心なしか顔もちょっと赤い気がするし。どうしたんだこいつ。

 

「……まぁいいです。で、女の子にモテたい非モテ系男子の先輩」

 

「その呼び方は辛いからやめてくれませんかね……」

 

「先輩はどうして女の子と付き合いたいって思ったんですか?」

 

 改めて考えてみると何でだっけな……。いや、まぁ冬休みに恋愛関連の物にどっぷりハマって彼女欲しくなったって単純な理由なだけか。

 今までの俺を知っている奴らならこの理由なだけでも驚く発言なんだろうな。でも理由なんてそれしかないんだしそうやって言うしかないのか……? 恥ずかしすぎない?

 

「……まぁ、あれだ。普通の高校生男子が考えるようなことと同じだ」

 

「うわぁ……」

 

「いや、そっちじゃねえぞ。俺の考えは至って健全だから」

 

 そ、そうだよな。普通の高校生男子がって言い方だと完全にそっち方向に取られるよな……。

 俺から少しだけ距離を取った一色は、ドン引きの蔑んだ表情から一転。今度は少しそわそわした様子でちらりとこちらを見つめてくる。

 

「そ、それじゃ今の先輩は、女の子といちゃいちゃしたいって気持ちがあるんですか?」

 

「改めてそう言われると答えづらいが……まぁ、そういうことになるな」

 

「なるほどなるほど。こ、このチャンスを逃すわけには……そ、そうしたら先輩と……えへ、えへへへ……」

 

 距離を取られたこともあって何かを言っている一色の声は聞こえないが、先ほどよりもその頬は赤らんでいた。つーかちょっとニヤけてるけど大丈夫かあいつ。

 

「……で、俺の意思は示した訳だが。この後どうするんだ?」

 

「え、えへへ……え?」

 

「いや、え? じゃねぇよ。俺の話聞いてた? ……つーか何もしないからもうちょっとこっち来いよ」

 

「あ、はい」

 

 一色はさっきの場所まで戻って来たかと思うと、なぜか近くにあった椅子を俺の横に持ってきてそのまま座った。な、何か近くない……?

 

「ず、ずっと立ってると疲れちゃいますね……」

 

「お、おお、そうか。……で、どうすんだ?」

 

「んー……まず先輩にはとても悲しいお知らせがあります」

 

「え、何?」

 

 聞くと、一色は真剣な眼差しでこちらを真っ直ぐに見つめて一言。

 

「イケメンがモテます」

 

「いけめん」

 

「つまり顔です」

 

「かお」

 

 ……改めてそんな誰でも知っている事実を言われても全く辛くなんてないからな。八幡涙目じゃないからな。本当だぞ。

 俺が目元にハンカチを当てていると、一色はまだ何か言おうとしてるのか「んー」と唸りながら考えるような素振りをしていた。こいつ容赦ねぇな。

 

「あ、じゃあ例えばですよ? 定番で言えば、壁ドンとか頭撫でられたりするとかあるじゃないですか?」

 

「ああ、あるな」

 

 そこら辺に対する耐性は冬休みの間に付けたから、今さら馬鹿にするつもりはない。つーか既に心がへし折られそうな今の状況だとその言葉聞くだけでちょっと辛いくらいだ。

 

「それをもしも知らない男の人に急にされたらドン引きですよね? 普通になしです」

 

「確かにそうだな」

 

「もちろんイケメンなら別です」

 

「イケメン絶対許さない」

 

 なに、何なのいろはす。モテる方法じゃなくて俺に現実を教えてくる講座なの?

 色々と悲しくなって自然と深いため息が漏れてしまう。そんなことは露知らず、俺にダメージを与えた一色は落ち着かない様子で前髪の毛先をくりくりと指でいじっていた。

 

「で、でも先輩はわたしにとって知ってる男の人じゃないですかー?」

 

「え? ……そ、そうだな?」

 

「先輩はちょーっとですよ? ちょーっとだけですけどね?」

 

「いや、何が言いたいかさっぱりなんだが……」

 

 いつにも増しておかしな発言に俺が困惑していると、顔を真っ赤にした一色が胸の前で指をもじもじさせながらぽしょりと。

 

「せ、先輩ははちょーっとだけ……あ、あり、の部類に入ります、です……」

 

 語尾が変な感じになっているのは気にしないとして。な、なるほど? いや、全くなるほど出来そうになくて更に困惑するんだけど……。

 

「そ、それってどういう……」

 

「つ、つまりですよ! そこまでイケメンじゃなくてもちゃんと親密になれれば女の子も許容できるってことです!」

 

「ああ、そういうこと」

 

 なら最初からそう言えば良かったんじゃないですかね……。回りくどいし何かこっちまでちょっと恥ずかしくなったわ。

 

「で、ですから実践ですよ実践!」

 

「え、何が?」

 

「色々やってみるんですよ! わたしが……じゃなくて女の子がされたら嬉しいことをです」

 

「お、おお……」

 

 何か今日の一色はいつもよりテンション高いな。テンパってるって見方もできるが。

 ……しかし実践か。口で説明されるとまた深い傷を負いそうだしここは乗っとくか。

 

「で、何やんだ?」

 

「え、えっとですね、……その」

 

 言いづらそうに口元をもにょもにょさせた一色は椅子ごとこちらにすすっと近づいてきて、制服の袖を控えめにちょこんと掴んでくる。

 

「あ、あたま、……撫でて欲しいです」

 

 言って、恥ずかしそうに、それでいて蠱惑的な上目遣いでこちらを見つめてくる。その表情に合わないくらい真っ赤に染まった頬とのアンバランスさに思わず心臓が跳ねてしまう。

 

「お、おお……じゃあ、い、いくぞ?」

 

「ど、どど、どうぞ……」

 

 了承を得たので、恐る恐る一色の頭の上にそっと手を重ねる。それだけで「んっ……」と吐息を漏らす一色から視線を逸らして、そのまま出来る限りゆっくりと撫で始めた。

 ……女子の髪ってすげぇな。さらさらしてて柔らかいしずっと撫でてられるぞこれ。いや、それは一色に断られそうだけど。

 

「ど、どうだ?」

 

「ふぁ……い、いい感じです……」

 

 それなら良かったとほっと一息。やっぱりやめてくださいとか言われてたら俺の心は完全にへし折られてましたね。

 

「あぅ……んぅ、えへ、えへへ……」

 

 普段全く見たこともないくらいだらしなく頬を緩ませる一色。髪を梳くように撫でたり間違えて耳に手が触れてしまったりしたときに、ぎゅっと目を瞑りながら漏らす悩ましげな吐息にドギマギしつつ。

 そんな一色に思わず見とれてしまい、本来の目的を忘れてしばらく撫で続けてしまったことをここに記しとく。……まぁこの実践方式だと目的なんて達成できそうにもないと思うんだけどな。

 




いろはす可愛いよいろはす。でも最近は八色が絶滅危惧種なのではと思うくらい少ない気がします……。ですので八色成分が足りなかったって方に少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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