やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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もう一度、あざとかわいい後輩と……。⑷

 

 最初に一色にキスをされて、その誘惑に負けて俺からも彼女に唇を重ねてから、どれくらいの時間が経っただろうか。

 初めは立ちながら抱きしめ合っていたはずなのに、気づけば胡座をかいた俺の股座の上に一色が座っていて。彼女は俺の背中に足を絡めるように回して、身体の全てをくっつけるようにしてきた。

 そんな状態で一時間以上唇を重ね合っていたら、互いの身体の境界線なんて全く分からなくなってしまう。力加減なんて出来るわけもなく、どれだけ強く抱きしめても彼女は喜んでそれを受け入れてくるだけだった。

 ……何でこんなことになってんだろうな、ほんと。本来の目的とは全然違うし、そもそも時間だってそろそろヤバい頃合いだし。

 はむはむと俺の唇を咥えてくる彼女から一旦離れて、一呼吸する。……ぶっ続けでキスしてたせいで、いざするのをやめると口元が少し寂しく感じるな。

 

「……一色」

 

「へぁ……?」

 

 俺が抱きしめる力を緩めて顔も離したからか、くりんと首を傾げる一色。それだけなのにとろんとした目が寂しそうに揺れて、俺の首に手を回して再び唇を重ねてくる。

 

「んっ……んぁ、せんぱい……っ、あむ、せんふぁい……せんふぁい……っ」

 

 甘えるような声音で何度も俺を呼んで、嬉しそうに唇に吸い付いてくる。キスはソフトで優しめなのに、手と足はぎちぎちに俺を抱きしめてきて一つも離すつもりがないことを伝えてくる。

 

「ぷはっ……い、一色……ちょっとストップ……」

 

「え……な、何でぇ……」

 

 再び一色から離れようとすると、今度はうっすらと目に涙を浮かべる。というか、普通にちょっと泣いちゃってるんだけど。

 一色さんどんだけキスハマっちゃってるの……。

 

「い、いや、そろそろ時間がヤバいからな。もし見つかってバレたりしたら大変だろ?」

 

「で、でもぉ……」

 

 頭を撫でたときもそうだったが、どうやら彼女は身体的接触を行うとだいぶ甘えん坊になってしまうらしい。……いや、まぁ、何というか可愛いなそれ。

 うん、仕方ない。ならそれに合わせたやり方でここは彼女に落ち着いてもらうことにしよう。

 

「……一色」

 

「んぅ……っ」

 

 彼女のことを抱き寄せて、ちょっと無理やり胸に顔を埋めさせる。何か一色が俺のワイシャツではすはすしてる気がするけどそこは気にしない。

 加えて、この状態で頭を優しく撫でながら、俺は出来るだけ穏やかな声音で呟く。

 

「……今日我慢できたら、明日はもっと色々してやるからな」

 

 ……いや、本当に恥ずかしいなこれ。まぁこうでも言わなきゃ一色が納得してくれないだろうししょうがないってことで。

 

「はい……いっぱいしてくださいね?」

 

「……ん、分かった」

 

「えへへ……嬉しいです……」

 

 言って、一色は本当に嬉しそうに頬を緩ませながら、もう一度唇を重ねてきた。それを拒めるはずもなく、しばらく彼女と胸焼けしてしまうんじゃないかと錯覚するくらい口付けをし合った。

 ……本来の目的って何だったっけな。いやマジで。

 

××××××

 

 あれから少し時間が経ってからの帰り道。昨日と同様、俺は彼女を駅前まで送ることになった。

 それだけなら普段と大して変わらないのだが、生徒会室を出てから一色の様子がどこかおかしくて。しかし、真っ赤になった耳や頬がその原因を簡単に分からせてくれた。

 

「あ、あの……」

 

「ん、どうした」

 

「さっきのは、その……わ、忘れてください……」

 

 ……要は冷静になったら恥ずかしくなったってことね。一色的には俺にあんな姿をずっと見られてたのが黒歴史になりかけているらしい。

 ……そのくせ俺の腕には抱きついたままってのがどこか愛らしくも感じてしまうのだが。まぁ、昨日から散々弄ばれてる反撃ってことで。

 

「……それは無理だな。可愛かったし」

 

「か、かわっ……えへへ」

 

 頬をとろけるんじゃないかってくらい緩めて、にへへうへへとくねくねする一色。お前はそれでいいのか……。

 ……もうちょっとだけいじってみるか。

 

「……ま、お前相手にここまで出来たんだしやっぱ実践していくしかねーよな」

 

「ふぇ……?」

 

「いや、今日のはモテるための練習ってやつだろ? さっきお前以外とは駄目とか言われたけど、やっぱり試さないと今日のことが無意味になっちまうしな」

 

「な、ななな……」

 

 目に見えてどうしようどうしようとあたふた慌てる一色。こうも分かりやすい反応されると、本当に可愛く見えてしまう。

 

「え、えっと、先輩、あの、えっと、えっと……えっと、あぅぅ……」

 

「はぁ……悪かったよ。あんなことすんのはお前だけだよ」

 

「え、今のってもしかして、く、口説いてるんですか?」

 

「……そうだったらどうすんだ」

 

 彼女がどんな意図で今回ここまで俺とこんな事をしてきたのか、ただそれを知りたくて。

 だから、俺も少しだけ踏み出してみることにした。

 

「んー……やっぱり無理ですね」

 

「ですよねー」

 

「だ、だって今の先輩めっちゃ調子に乗ってますもん! 先輩はわたしの尻に敷かれなきゃだめなんですよ!」

 

 ぷくーっと不機嫌そうに頬を膨らませた一色が、どこかわざとらしく睨めつけてくる。結局、一色が俺をどう思っているかはあんまり分からなかったな。

 そう思っていたのだが、一色は計算されているのか素なのか分からない言葉をぽしょりと。

 

「ずっと先輩のペースであんなことされたりなんてしたら、おかしくなっちゃいますし……」

 

 ……そういうのは普通聞こえないように言うもんだろ、馬鹿。

 顔の熱が引かないまま、しばらく無言で歩いていると気づけば駅前に着いていた。このまま別れたら若干後味が悪い気もするが、今日はもう気の利いたことは言えそうにもないな……。

 

「……じゃ、また明日な」

 

「先輩っ」

 

 呼ばれて振り返ると、唇に未だに慣れない温かくて柔らかい感触が伝わってくる。すぐにそれが離れると、くすりと蠱惑的な笑みを浮かべた彼女があざとく敬礼をしてくる。

 ……この野郎。

 

「ではでは、明日からもよろしわぷっ……」

 

 最後まで言わせる前に自転車を止めて、彼女のことをぐいっと抱き寄せる。そのまま今度はこちらから唇を強引に重ねた。

 最後の最後で調子に乗らせたら明日からマズいからな。しばらくは俺が先手のままってことで。

 

「……ん、また明日な」

 

「は、はいっ、また明日ですっ。えへ、えへへへ……やっぱりもう先輩ペースでもいいかも……」

 

 やだ、この子完全に脳内お花畑になっちゃったかも……。ちゃんと帰れるか不安になってきたぞ。

 

「はぁぁぁ……」

 

 一色が見えなくなるまで見送っててから、大きなため息が漏れてしまう。

 ……やってしまった。もう言い逃れなんてできないよな。

 いや、積極的になるって決めた時点でいずれこうなることは分かってたんだけど。いざこうなると色んな感情がごちゃ混ぜになってるというか……。

 そもそも俺と一色ってまだ付き合ってはいないんだよな……。うん、また色々と口実を作られて面倒くさいことになる気しかしないな。

 ……でもまぁ、それが全く嫌だと思えなくなってる辺り、今日の時点で俺が一色に落とされちまったってことなのかね……。

 




今回でいろはす√part2は一旦お終いです。暫くしたら、この後の甘々な話も書こうと思います。いろはす可愛いよいろはす。

次に別次元という形でpart2を書くとしたら、ポニテが特徴のあの子を書く予定です。初期に書いたヒロインはどうしてももう1回書きたくなってしまいますね……。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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