やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

52 / 55
いろはす√part2の続編です。前話からの続きなので読んでない方はまず先にそちらからどうぞ!


NEW②やはり後輩以上恋人未満な後輩との恋人以上の甘い関係はまちがっていない。⑴

 一色との女子にモテるための練習という名目であれやこれやがあった翌日の朝。昨日のことがどうしても頭から離れてくれなかったせいでだいぶ寝不足になってしまった。

 だってそりゃ……恋愛に積極的になろうと決めていたのに、予想外すぎる展開であんなことしちまったんだしな。気づいたらお互いあんなに……これ以上考えるとまた頭ん中がピンクになるからやめておこう。

 いつもより若干遅めで学校に着き駐輪場へ向かうと、見覚えのある少女が心ここにあらずという感じでぽつんと暇そうにスマホをいじっていた。彼女は自分の前を人が通るたびに、顔を上げてはしゅんとうつむくのを繰り返していて。

 それでも相当ぼんやりしているのか俺には気づかなかったようなので、自転車から降りて俺から彼女の元へと向かう。これで待ち人が俺じゃなかったら恥ずかしすぎて悶え苦しむことになりますね。

 

「……一色?」

 

「へぁ……? あっ、お、おはようございます……」

 

「お、おう……」

 

 俺の顔を見た途端、ぱぁっと明るい表情を見せるが、すぐに恥ずかしそうに頬を真っ赤に染める一色。ちらっと俺の顔を見て頬を緩めてはぐにぐにと自分の手で戻したりとかなりテンパっているようだった。

 何だそれ可愛いなお前……じゃなくて、こいつは俺のことをどれだけ待っていたのだろうか。赤くなった鼻の頭や耳たぶを見てしまうと、ちょっと不安になってしまう。

 

「……寒くなかったか?」

 

「寒かったです……」

 

「そりゃそうだろ。風邪ひくだろうが……」

 

 昼休みでも放課後でも会う時間なんていくらでもあったろうに。もし俺が遅刻したり休んだりしたらそれこそ時間の無駄になってしまうだろう。

 俺のため息混じりの呆れた表情を見た一色は、ちょこんと冷たくなった両手で俺の手を包み込むようにぎゅっと握ってきて。

 

「だって……先輩に、会いたくて……」

 

「……そうか」

 

「その、先輩は……?」

 

 一色はか細い声で言って、眉をくにゃりと曲げ不安げな瞳で見つめてくる。……こいつは自分が迷惑なことをしたから、俺が怒っているとでも勘違いしているのだろうか。

 俺が思ったのはもうちょっと自分の身体を大切にして欲しいってことだけなんだけどな。言いたいことはそれなりにあるが今は置いといて、握られていないもう片方の手で彼女の頬をそっと撫でる。

 

「……お前と同じだよ」

 

「……っ! 先輩……っ!」

 

「うぉ……っと」

 

 もう堪えきれないという様子で一色が、俺の胸に飛び込むようにして抱きついてくる。まさか一日空けただけなのに一色がここまで甘えてくるとは思わなかったな……。

 ……いつもより遅めに来たとはいえ、駐輪場の時点で人が全くいないわけじゃないんだよな。人のことは全く言えないが、一色の方が頭の中ピンクに染まっちまってるし俺がしっかりしないとな……。

 

「……ここじゃ人がいるから、さすがにな?」

 

「先輩……先輩……っ」

 

「聞いてないし……」

 

 むぎゅうって擬音が似合うくらい力いっぱい抱きついて、幸せそうに胸に顔をぐりぐりしてくる一色。仕方なく少し強引にぐいっと引き離すと、それだけのことなのに小さな嗚咽を漏らし涙目で懇願するように見つめてくる。

 ……それはちょっとずるくないですかね。

 

「……ほれ、もう行かなきゃ遅刻になんぞ」

 

「うぅ……じゃ、じゃあ……お昼に生徒会室に来てください……」

 

「職権乱用だなそれ……分かったよ」

 

 ……まぁ、さすがに不満を持たせたまま午前中を過ごさせるのは可哀想だよな。昨日よりも素直に感情をぶつけてくれるのは、正直言って嬉しいことでもあるんだし。

 

「じゃ、行こうぜ」

 

「ふぁっ……あぅ……えへへ……」

 

 控えめにだが頭をくしゃくしゃと撫でてやると、一色は頬をゆるっゆるにしてとろんととろけるような笑みを浮かべる。また抱きついたら止まれないと自分でも気づいているのか、俺のもう片方の手をぎゅっと握ってむむむっと我慢していた。

 ……もうこのまま俺から抱きしめてやりたいとすら思えてしまうのは、やっぱり昨日の時点で俺が彼女に落とされてしまっているからなのだろうか。

 いや、まぁもちろんそんなこと出来ないんだけどね? 今さら一色に積極的になるなんて、その、恥ずかしいし……(気持ち悪い)。

 

××××××

 

 朝のちょっとした一件から時間が経ち、あっという間に昼休みを迎えた。……というのには、さすがにちょっとばかり語弊があるな。

 うん、今までで一番授業を受けるのがしんどかったですねこれ……。そう思えてしまうのは、やっぱり一色に早く会いたいという感情が多少なりともあったからであって。

 隣の席の女の子(可愛い)が俺がソワソワするたびにビクビクしてたから本当に申し訳なかったですね……。傍から見たら相当気持ち悪い自信がありました。

 午前中のことを振り返りつつさっさと購買で昼食を購入し、おそらくもう一色がいるであろう生徒会室へ向かう。自然と早くなる足取りには、思わず自分でも呆れて笑いが漏れそうになってしまった。

 少しして生徒会室に着いたので、ドアを一応ノックするが返事がない。普段から他のメンバーがいたとしても必ずあいつが返事するんだけどな……と、疑問に思いつつドアを開けると──。

 

「わっ!」

 

「……何してんの」

 

「えへへー、ちょっと驚かそうと思って。どうでした?」

 

「あー、うん、驚いた驚いた」

 

 俺が驚いてんのはその真っ赤っかになったほっぺたの方なんですけどね……。何なのいろはす? 万年発情期なの?(失礼)

 生徒会室の中に入ると、とててとドアに向かった一色がガチャりと音を立てて鍵を閉めた。俺が呆れた表情を向けると、一色はそれも気にせずきゅっと制服の袖を摘んできて。

 

「せ、先輩……その……」

 

「あー……その、なに。とりあえず飯食おうな?」

 

「むぅ……」

 

 俺の言葉に一色は不満げに頬を膨らませて、ちょっとした反抗なのか掴んだ袖をぶらぶらと揺らし始める。俺の手も一緒に揺れちゃうしちょこちょこ手が触れちゃってるしで恥ずかしいですね。

 うん、ヘタレでごめんね……? 俺も一色の顔見ただけで心臓がちょっとヤバいから落ち着く時間が欲しいんですよ……。

 

「はぁ……分かりました。じゃあ先に食べちゃいましょうか」

 

「おう」

 

 一色としては生徒会室に俺が来た時点で、すぐにでも昨日と同様のことを始めようと思ってたんだろうか。まぁ、多分というか絶対そうなんだろうなぁ……。

 気づけば一色は先に椅子に座っていて、ぺちぺちと隣の椅子を叩いていた。どうやら座れと言うことらしいので大人しくお座りする。まるで犬ですね。

 各々で準備をして先に俺がパンを食べ始めると、弁当の用意をしていた一色がこてんと首を傾げる。

 

「先輩っていつも購買で買ってるんですか?」

 

「そうだけど」

 

「へー、たまにはお弁当とか食べたくならないんですか?」

 

「……何、何なの。いくら取るつもりなのお前……」

 

「いや、まだわたし何も言ってないんですけど……」

 

 これにはさすがのいろはすもドン引きである。いやだって今のこいつなら「じゃあわたしがお弁当作ってきてあげましょうか?」みたいなこと絶対言ってくるだろうし……。

 

「……じゃあ何が言いたいわけ」

 

「んー、食事の彩りが寂しい先輩にわたしがお弁当作ってあげてもいいかなと思いまして」

 

「言うと思った……」

 

 嬉しいやら恥ずかしいやらでついつっけんどんな態度になってしまうが、それでも一色は心底楽しそうな笑みを浮かべて話を続ける。

 

「もー、何で嫌そうにするんですか。本当は今日も作ってこようと思ってたんですよ?」

 

「……じゃあ何で作ってこなかったんだ?」

 

「その、家に帰ってから余裕がなくて……昨日、色々ありましたし……」

 

 ぽしょぽしょと恥ずかしそうに呟き、蠱惑的な笑みを浮べながら上目遣いで見つめてくる。あえて俺の劣情を煽ってくるような彼女の甘い言葉に、思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。

 

「そ、そうか……」

 

「声裏返ってますよ?」

 

「うっせぇよ……」

 

 朝はあんだけ先輩先輩言ってたくせに、昼になったらけろっとしやがって……。まぁ、まだほっぺた真っ赤だからそこまで余裕はなさそうなんだけど。

 

「しょうがないので、少し食べさせてあげてもいいんですよ?」

 

「いらない」

 

「えー、食べてくださいよー!」

 

「理不尽すぎるでしょちょっと……」

 

 なぜかぷんすか状態の一色がぶーぶー文句を言いながら箸で卵焼きを挟んだ。それを問答無用で俺の口元へ差し出してくる。

 

「はい、あーん」

 

「あ、あー……」

 

 羞恥に耐えつつ卵焼きを口に含むと、じんわりとした甘さが口内に染み渡る。まぁ、ここまでされて食わないわけにもいかないしな……。

 ……つーか何これめっちゃ美味いんだけど。一色も食った俺を見て嬉しそう笑ってるし、言わなくても結果は分かっていたんだろう。

 ……胃袋までつかんでくる作戦なんでしょうか。即堕ちさせられそうなんですけど。

 

「……美味いな」

 

「えへへ……ありがとうございます」

 

 褒められて嬉しかったのか、一色はにへらっと頬を緩めながら俺の手元のパンをじっと見てくる。

 

「先輩のパンも美味しそうですね」

 

「ん、どれかいるか?」

 

 3つほど適当に買ってきたのがあるし、1つくらいなら別にあげても大丈夫だろう。そもそもこの調子じゃ昼休みの間に3つも食ってる時間なさそうだし。

 

「そんなに食べたら太っちゃうので、先輩の今食べてるそれをひと口だけください」

 

「……ん、ほれ」

 

「はむっ……」

 

 もうこれも今さらだよな……と思ったので一色の口元にパンを持っていく。俺が口をつけたところと全く同じところに口を合わせて食べると、一色はほんのりと頬を朱に染め照れたようにはにかむ。

 

「えへへ……間接キス、ですね……」

 

「……今さらだろそれ」

 

「でも先輩、顔真っ赤になってますよ?」

 

「お前は初めからずっと赤いけどな」

 

 言うと、一色はむすっと頬を膨らませるが少し寂しそうに表情を歪ませる。ちょこんと今日何度目かの袖を握ってくる行為が、今回ばかりは重みが違うことは自然と理解できた。

 

「……ね、先輩。まだ焦らすんですか?」

 

「……っ」

 

 一色から伝わってくる雰囲気が変わったのがハッキリと分かってしまった。彼女が小さく漏らす甘ったるい吐息や熱っぽい視線、もじもじしながら俺の反応を待つ愛らしさに心臓が痛いくらいに高鳴ってしまう。

 

「あの、一度だけでもいいので……その……」

 

「いや、でもな……」

 

 今はまだ昼休みで、昨日の放課後の状況とは全く違うのだ。廊下にだって人が通る気配はあるし、鍵は閉めてあるとはいえ誰かが来てしまう可能性だってある。

 だから、一色の要望には少なくとも放課後にでもならなきゃ応えてあげられそうにはないんだよな。

 

「昨日、いっぱいしてくれるって言ったじゃないですか……」

 

「……分かったよ」

 

 いろはすには勝てなかったよ……。完全に堕とされましたね……。

 ……まぁ、昨日よりは控えめにしとくって自分に言い聞かせれば何とかなるだろう。

 

「……ほれ、頭こっち寄せろ」

 

「は、はい……」

 

 震える声音で返事をした一色が、椅子を動かし頭をこちら側に寄せてくる。くしゃくしゃと頭を撫でると、一色はふぁっと控えめな吐息を漏らす。

 

「えへ、えへへ……」

 

 すぐにとろけるんじゃないかというくらい頬を緩めて、気持ちよさそうに目を細める一色。頭を撫でている俺の手に自分の手を重ねてきて、さわさわとくすぐるように触ってくる。

 

「……なぁ、一色」

 

「ふぇ……どうしたんですかぁ?」

 

「……抱きしめてもいいか」

 

 そんな表情を見せられてしまったら、散々一色の行動を抑えてきた俺も我慢できなくなってしまうわけで。昨日の一色とのやり取りで、自制心がなくなりかけてるのは俺も同じだった。

 

「えー、どうしましょうかねー」

 

「そこで渋るのかよ……」

 

「これも女の子にモテる練習、ですよ? ちなみにわたしはちょっと強引なくらいが好きですよ!」

 

 一色はわざとらしく期待するような言葉を投げかけてきて、ちらっちらちらっとちょっとウザい視線を向けてくる。

 つーか、まだそのモテる練習って口実使うのかよ……。まぁ、そう言わなきゃ俺からは動けないってのを一色も分かっているからなんだろうけど。

 

「……じゃ、立ってくれるか」

 

「はーい」

 

 明るい口調で返事をし、一色が俺の手を引っ張りながら立ち上がる。そのまま彼女の前に立つと、その身体は期待から少し震えてるのが見て取れた。

 熱っぽい吐息を漏らしながら、潤んだ瞳で見つめてくる一色を見たらもう我慢できるわけがなく。右手は頭に、左手は腰に回してぎゅっと彼女を抱きしめる。

 

「はわ……」

 

 そんな声にもならないような吐息を漏らした一色を抱きしめると、女子特有の柔らかで熱っぽい感触が身体に伝わってくる。密着すればするほど甘い香りが鼻腔をくすぐり、自然と彼女の頭を撫でながら腰に回す手にも力が入ってしまう。

 

「あっ……はぁっ……はっ……」

 

「……一色?」

 

「こ、これ、だめです……」

 

 俺の胸に手を置いて大人しくしていた一色だったが、唐突にぎゅーっと背中に手を回して抱きついてきた。俺の首元に顔を埋めて、ぐりぐりとおでこをこすりつけてくる。

 

「先輩の手つき、優しくて……触られてるだけなのに……いっぱい幸せで……」

 

 吐息混じりの甘ったるい言葉の数々を漏らす一色に、俺からは何か言えるわけもなく。それでもできる限り彼女を抱きしめると、それだけでも彼女は嬉しそうにぎゅうぎゅうと身体を絡めるようにくっつけてきた。

 

「……ん、じゃあしばらくこのままな」

 

「あぅぅ……」

 

 まさか一色がここまで極端に甘えん坊になってしまうとは思わなかったな。それを断れないどころか、本心では嬉しく思っている俺もだいぶ駄目になってるんだろうけど。

 これからの彼女との生活は、予想もできないくらいだいぶ爛れたものになりそうだった。

 




投稿2年日記念ssに選ばれたのはいろはすでした。この続編√ではタイトル通り、ただただ八幡といろはすがイチャイチャする甘い話を書き続けていく予定です。

昨日でこのssを投稿してからちょうど2年が経ちました。いつも読んでくれている読者の皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。2年前からずっと読んでくれている読者の方とかもいるのかも気になりますね……。

もちろんまだまだたくさん書いていく予定なので、これからもぜひよろしくお願いします!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。