やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。   作:部屋長

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ルミルミ√スタートです!


ルミルミ√
俺とルミルミ、時々ママンと。(1)


 冬休みも残り僅かとなったある日。あと数日もすれば学校が始まるという現実がやってくるのだが、今年は気構えが多少違うからかそう嫌な気もしなかった。

 だってね、学校が始まったらそりゃもうぐふふな展開が待ってますもんね。ぐふふになれる気なんてしないけどなれるだけの努力はしようと決めているのだ。心機一転リニューアル八幡に全米が涙を流さずにいられないねこれは!

 なんてことを内心ぐふふぐふふと考えながら、今日の俺は千葉に来ていた。もちろん一人で。

 学校が始まる前にある程度欲しい物を集めとかんといつ買いに来れるか分からんしな……。最近じゃ部活だけじゃなく生徒会まで駆り出されるし。

 はーほんま人気者は辛いぜと言わんばかりのため息を漏らしながら、休憩用のベンチが置いてあるスペースへ行く。人混みに揉まれて頭ん中もピンクになりかけてたからちょうど良い。

 帰りに小町に何か買ってってやろうかと考えをシフトチェンジしつつ、空いているベンチに座る。目の前の老若男女が歩いていく賑やかな光景に、何故俺だけが一人きりなのか軽く涙が出そうになっていたその時。

 

「あ……」

 

「んぁ?」

 

 そんな、雑踏の中じゃ聴き逃して当然のような声をキャッチする自分が恐ろしい。仕方なくその声のする方へ視線を向けると、つい最近のクリスマスイベントで顔を合わせたばかりの子がぽかんと俺を見つめていた。

 

「八幡?」

 

「……おお、ルミルミじゃねぇか」

 

「ルミルミって呼ばないで。やめて、きもい」

 

 そう、この俺に対する当たりの強さ! 雪ノ下とはまた違う小学生らしい直球な言葉、すっごいゾクゾクしちゃうよね!

 ……ではなく、何故この子がこんなとこで一人で? いや、まぁ小学六年生にもなれば一人で来れなくもないだろうが、わざわざ一人で来るところでもないだろう。

 ということは、だ。

 

「……ルミルミ、もしかして迷子なの? 迷子センター行くか?」

 

「行かない、あっちにお母さんいるし。あとルミルミやめて」

 

 ああ、やっぱりお母さんと一緒ってことね。ほんと母親の買い物の長さは異常。付き合うとその日全てが潰れるまである。

 おそらく留美もそれに疲弊したか何かで、一人でほっつき歩いてたのだろう。で、そこで疲れ果てた目の腐ったお兄さんを見つけたと。

 うん、なるほど。このどこを見ても人がいっぱいな状況で幼女と一緒にいたら非常にマズいですね! 兄弟とか親戚のお兄さんと言うには余りに顔が似てなさすぎる。

 よし、帰ろう。俺だってまだ捕まりたくないんだ……。

 

「そうか、んじゃ達者でぐぇっ……」

 

「うわ……」

 

 ベンチから立ち上がって歩き出そうとしたら秒で首根っこを掴まれました。振り返ると、背伸びして俺を捕まえるルミルミ。その表情はドン引きそのものである。

 お前が引っ張ったからカエルみたいな声出ちまったんじゃねぇか……。何で俺が変なことしたみたいな雰囲気になってるのん?

 

「何てことすんだよ……思わず死んじゃうかと思ったぞ」

 

「別に」

 

 むぅ、と唇を尖らせる。どうやらご機嫌斜めな様子だ。

 ……まぁ、久々とまでは言えないが、たまたま会えたのも何かの縁だしな。そう自分で言った通り、本当に何かの縁なのだろう。

 今回のように、今後俺と彼女が会える機会があるのかなんて分からないのだから。もしかしたら最後になってしまうかもしれない。

 ……だから、まぁ、暇潰しの相手くらいなってやれないこともない。もし職質を受けたら留美本人に弁明してもらえばいいだけだ。

 

「……母ちゃん来るまでの話し相手くらいはしてやれるけど」

 

「ん、面白い話してね?」

 

「ちょっと留美ちゃん? まだそういう無茶ぶり覚える歳じゃないでしょう?」

 

 将来どれだけの男を誑かしてしまうか不安を覚えつつ、留美と一緒にベンチに座る。

 ……もう少しだけ離れて貰えると精神衛生上助かるんだけどな。このままじゃ八幡ほんとに捕まっちゃうよ!

 

「……しかしルミルミママンは大丈夫なのか? 娘が知らん歳上の男と一緒にいたらパニックになるだろ」

 

「それは大丈夫。お母さん、八幡のこと知ってるし」

 

「え? 何で?」

 

「私が教えたから」

 

「いや、だから何で……?」

 

 俺が首を傾げると、留美は当たり前のことを言ってくる。

 

「親に何があったか話すのかは当然でしょ」

 

「確かにそうだが。……ぐ、具体的には」

 

「目が死んでる、口が悪い、ロリコン」

 

「いや待ってちょっとほんとに警察沙汰になっちゃうから」

 

 俺のげんなりした顔を見て留美はくすりと笑う。

 

「うそ。でも八幡のことを知ってるのは本当」

 

「そうですか……。でも言っていい嘘と悪い嘘があることを覚えような……」

 

 しかし、いくら留美の母親が俺のことを知っていたとしても現状に変わりはない。突然歳上の男と一緒にいたらやはりびっくりしてしまうだろう。

 ちゃ、ちゃんと挨拶考えとかないと……。何でも第一印象って大事!

 そんなことを考えていると、留美にじっと見られていることに気づく。

 

「どうした?」

 

「八幡、難しい顔してる」

 

「そうか?」

 

 大したことを考えていた訳じゃなかったけれど、留美にはそう見えてしまったらしい。

 

「うん。……そんなにうそ、嫌だった?」

 

 言って、留美は眉をくにゃりと下げて少し寂しそうな表情を浮かべる。あんな冗談のやり取りでさえ気にしてしまうこの子はやっぱり優しいのだろう。

 ……こういう時こそ、女の子を気遣えなきゃ駄目だと言うのは冬休みの間に学んだからな。

 

「気にすんな。ルミルミに面白い話してやろうと悩んでたんだよ」

 

「ルミルミやめて。あと頭も撫でないで」

 

「ひぇっ……ごめんなさい……」

 

 あれれー? 頭撫でるの駄目だったのん……? まだ留美の俺に対する好感度が足りなかったのか……。思考が完全にギャルゲーになってるな。

 つーか普通に年下に拒絶されるの辛いんだけど……。

 

「子ども扱いはやだ」

 

「そう思っちゃうってことはまだまだ子どもの証だな」

 

「……ばか」

 

 頬をむぅ、と膨らませて拗ねられてしまう。自分よりかなり歳下相手にこんなんじゃ、学校始まって女子を落とすのなんて夢のまた夢なんじゃないだろうか……?

 つん、と顔を逸らしてしまった留美をどう宥めようか考えていると、こちらに誰かが近づいてくるのを感じた。視線を向けると、買い物袋を持った若くて綺麗な女性が立っていた。

 

「あ、お母さん」

 

「え、お母さん?」

 

 ず、ずいぶんお若いことで……。まぁ同級生の母ちゃんって訳でもないし、当然と言えば当然か。うちの母ちゃんも年取ったな……と涙ちょちょ切れです。

 ということは、将来ルミルミもこうなるのか。そしたらもうルミルミじゃなくてルミルミさんだな。

 

「留美、そちらは?」

 

「八幡」

 

「その珍しいもの見つけたみたいに指さすのやめてね? ……ど、どうも」

 

 いったいどんな反応をされてしまうか恐る恐る顔を伺うと、留美の母親はぽかんとしたあどけない表情を浮かべていた。

 

「え、あなたが八幡君なの? え? え?」

 

「え、あ、はい、そうです。え? え?」

 

 留美の母親、これからは略してルミルミママンと呼ぶことにしよう。全然略せてないけどまぁいい。

 そのルミルミママンが驚いたように何度も「え?」と言うものだから、釣られて俺も同じことを何度も言ってしまった。しかし、落ち着いたと思ったら今度は目をキラキラと輝かせ始めた。

 ……ほんと若いなこの人。留美のお姉さんだって言われてもマジで信じるレベルだぞ。

 

「あなたが八幡君なのね!? きゃー!」

 

 あ、一応言っとくと今のきゃーは悲鳴じゃなくて黄色い声です。いや、どっちにしろ何でそんな反応なんですか……?

 俺が明らかに困り顔を浮かべていると、ルミルミママンはそれを気にせず俺の隣に座ってくる。ルミルミ、俺、ルミルミママンの順だ。

 ……いや、おかしいでしょこの座り方は。八幡予想外すぎる展開にちょっとついてけないよ……。

 

「あ、あの、留美さんからは何とお聞きで……?」

 

「んー、いっぱい聞かされるから何て言えばいいのかしら。とりあえずあなたの話をするときの留美の顔が可愛くて可愛くて」

 

「ちょ、お母さん……」

 

「……ルミルミ」

 

「その呼び方やめて。あとその目もやだ、キモい」

 

 顔を真っ赤にして俺とルミルミママンを睨めつける留美に自然と頬が緩んでしまう。その頬をむぎゅっと掴まれた。

 

「怒るよ?」

 

「ご、ごめんなひゃい……」

 

 むにむにと俺のほっぺたで遊ぶ留美を引っペがし、ルミルミママンへ視線を向ける。まだちゃんとした挨拶もしてないしな。

 

「えと、比企谷八幡です。留美さんとはさっきここでたまたま会いました」

 

「いいのよ畏まらないでも。あなたには留美が色々お世話になったみたいだし」

 

「……いや、別に俺は何もしてないですよ」

 

 クリスマスイベントの時はともかく夏休みのことに関しては、人によってはお節介とも大迷惑とも取れることをしてしまった。

 その点に置いては何もしてない訳ではないが、留美が母親にどう伝えていようと何一つとして誇っていいことではない。なので、ここではやはり何もしてないと言っておいた方がいいのだろう。

 

「……んじゃ、俺はもう帰ります。留美もまたな」

 

「え、もう帰るの?」

 

「母ちゃんが来るまでって言ったろ?」

 

「そうだけど……」

 

 言って、留美が立ち上がった俺を残念そうな顔で見上げる。そんな風に見られると帰るに帰れないんだが……。

 すると、何か思いついたのかルミルミママンが留美にこしょこしょと耳打ちをする。それを聞いた留美は少しだが、ぱぁっと表情を明るくさせる。

 

「ほら、留美」

 

「う、うん……は、八幡」

 

「ん、どうした?」

 

 聞くと、留美は頬を桃色に染め、口元をもにゅもにゅさせる。そして、掠れたような小さな声でぽしょりと。

 

「れ、連絡先……」

 

「ん、いいぞ。んじゃ、よく分からんからやっといてくれ」

 

 スマホを手渡すと驚いた表情を浮かべるが、すぐにぽちぽちとタップし始める。すると、何だかとても悲しそうな表情で俺を見てきた。

 

「……八幡」

 

「皆まで言うな」

 

 小学生にガチで心配される高校生ですこんにちは。情けなすぎてマジで泣きそう。

 すぐに連絡先の交換が終わったのか、留美は満足そうに吐息を漏らす。スマホを返すとちょちょいと手招いてくるので、仕方なくもう一度ベンチに座る。  

 

「メールしていい?」

 

「あの惨状を見たろ? 大歓迎だよ」

 

 俺の言葉に留美は嬉しそうに息を吐き、ちょこんと服の袖をつまんでくる。

 

「……電話もしていい?」

 

「……まぁ、たまになら。毎度毎度面白い話なんてできないしな」

 

 言うと、留美はふるふると首を横に振る。そして、俺を見て恥ずかしそうにしながらも笑みを浮かべた。

 

「八幡の声が聞けるだけでいい」

 

「……そうか」

 

 あ、危ねぇ……何で今ちょっとドキッとしたの俺? ルミルミさんテクニシャンすぎるわすげぇよ……。

 最近のロリの進み具合(意味深)に恐怖を覚えていると、ルミルミママンがにゅいっと身体を乗り出してくる。

 

「はいはーい! じゃあせっかくだしお母さんも交換しちゃおうかしら!」

 

「は、はい? ……なぁ留美、この人ほんとにお前のお母さんなの? テンション高すぎない?」

 

「多分……」

 

「えー、ひどーい」

 

 ぷくーっと頬を膨らませ(可愛い)、明るい表情で振る舞っていたが、ルミルミママンは不意に耳元に顔を寄せてぽしょりと。

 

「色々と話したいこともあるし、何よりお礼もしたいから」

 

「……さっきも言いましたけど、別に俺は何もしてませんよ」

 

「そうかしら? うちの娘にこうして懐かれてる時点で、十二分に何かしている気もするけどね」

 

「ひぇっ……」

 

 ルミルミママンの脅しが割とマジにマジでヤバたん。俺の語彙力が完全に死んだンゴ……。

 遠回しにお前娘に本当は何したんだって言ってきてるよねこれ? 何もしてない訳じゃないけど変なことだけはしてませんよ?

 うん、気づいたらスマホを渡していました。恐怖故の無意識でしたね。

 

「よしっ、登録完了。私ともメールしてくれたら嬉しいな」

 

「……八幡とは私が話すからお母さんはいい」

 

「えー、お母さんも八幡君と話したいもの」

 

 その親子のやり取りを微笑ましく思いながら、ため息とも取れない吐息を漏らす。内心は冷や汗ダラダラですからね。

 残り数日の冬休みに再び出会ってしまった俺と彼女と、彼女の母親と。これからどうなってしまうのか、不安を覚えつつ。

 それでも、隣で楽しそうにする留美を見て、悪いことではないのだろうと。

 不思議と、それだけは確信できた。

 




一年と三ヶ月ぶりの新ヒロインでした。この√は甘々というよりはほんわかした雰囲気を楽しんでくれると何よりです。

他にはほんわかぱっぱめぐりっしゅなあの子やポニテが似合うあの子の二周目√の話も思いついたりしてます。12巻を読んで再熱したんで更新頻度も上げてこうと思ってます。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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