やはり俺が恋愛に積極的になるのはまちがっていない。 作:部屋長
一色と付き合い始めて3日が経ったある日の昼休み、俺は一色にメールで呼び出されて生徒会室へ向かっていた。昼に呼ばれるのは初めてだからちょっとだけ楽しみです。
ちなみにメアドと電話番号は付き合ったその日に交換した。それでその日の夜に一色から電話がかかってきて『 えへへ……初めての電話ですね』と電話越しに恥ずかしそうな声音で言われた時はベッドの上で悶えまくった。
あまりに悶えすぎて、たまたま部屋に入って来た小町にゴミを見るような目で見られた。年下にゴミを見るような目で見られるのが得意などうも俺です。
あの日の一色可愛かったなぁと考えているうちに生徒会室へ着いていた。やばいな、一色のことを考えるとキンクリしてしまう。
……すれ違った女子生徒(可愛い)が小さな悲鳴を上げてたとか知らない。絶対一色のこと考えてたからニヤけてたよなぁ……。ごめんね見知らぬ女子生徒さん(可愛い)……。
生徒会室の扉をノックすると、どーぞーと間延びした声が聞こえてきた。扉を開けると椅子に座っていた一色が振り返り、ぱぁっと明るい表情を見せる。
「先輩おっそーい!」
椅子から立ち上がり、ぱたぱたと駆け寄ってくる。走り方があざとい。
「悪い、購買に寄っててな」
右手に握っていた袋を見せる。本日もパンです。あとマッ缶。
「それでも可愛い彼女を待たせるとかありえないんですけどー」
さっきまでの明るい表情とは一変、怒ってる表情を作りぷくーっと頬を膨らませて、俺の制服の袖をきゅっと握ってくる。
今まで──多分付き合う前までなら「あざとい」の一言で終わってたと思う。
だが、最近の一色はここからの反応が違うのだ。
「えへへ……先輩の手あったかいです」
一色は袖から手を離して俺の手をぎゅっと握る。そして、握っている手を見ながら照れたようにはにかむ。
もうね、あれなんですよ。可愛すぎて辛い。
「……とりあえず座ろうぜ」
つい恥ずかしくて素っ気ない態度になってしまう。ちなみに俺はこの三日間で前までのヘタレな八幡に戻っている。
精神的に疲れて力が出ない〜ってなってる。
早くバタコさん俺に新しい顔投げて! 出来れば目が腐ってないやつをお願いします。
「ちょっ、先輩その反応はひどくないですかー? 可愛い彼女が手を握ってきたんですよー?」
「はいはい、あざといあざとい。あと可愛い彼女って部分強調しすぎだから」
それにあなたさっきのは確実に素ですよね?
最近の一色はあざといのかあざとくないのかよく分からん。
ぶーぶー文句を言う一色に手を握られたまま椅子の方へ歩く。お互い隣同士で座ると、机の上に弁当箱が2つあることに気付いた。
「え、これなに?」
疑問に思って聞いてみると、一色はふふんっとドヤ顔をする(可愛い)。
「先輩のためにお弁当を作ってきました!」
いやいやそんなこと聞いてないんですけど。購買でパン買ってきちゃったよ?
……でも、まぁ、なんだ。結構嬉しい……かも。
うん、ちゃんと礼くらい言わなきゃな。
「その、なに、ありがとな……」
もうちょっとはっきり言えないのかね……。照れくさくて頬をぽりぽりと掻いてしまう。なんなら掻き毟るまである。文字にすると狂気を感じるな。
「どいたまですっ! じゃあ早く食べてください!」
どいたまって……。ちょっと古くない?
一色にはかしこまっ☆とか言って欲しい。
「おう」
パンは今日の夜にでも食うか。ごめんね購買のおばちゃん……。
弁当の蓋を開けると、彩りの良い弁当に思わず感嘆の息が漏れてしまった。
「おぉ……お前料理できたんだな……」
今の発言はちょっと失礼だな。反省。
俺の言葉がお気に召さなかったのかむすっと頬を膨らませて(あざとい)、ぷんぷん怒り出した(あざとい)。一文で2回もあざといって思ってしまった。
「むっ……わたしお菓子づくりだってできるんですからね! 今度先輩に作ってきてあげますから!」
怒ってるけど内容はめっちゃ俺得なんだよな。お菓子作ってくれるらしい。なにそれ嬉しいんですけど。
「悪かったって。じゃあいただきます」
正直、本当に美味しそうでどれから食べるか悩んでいると、一色が俺のことをじーっと見ていることに気付く。
「あの……そんなに見られると食いづらいんだけど……」
「じーっ……」
そう言っても、一色は俺を見ることをやめない。というか、自分で「じーっ」とか言うやつ初めて見たぞ……。
とりあえず一番手作り感のある形のいい卵焼きを一口。
んー、結構甘いな。俺が普段からマッ缶ばっか飲んでるから甘党だと思ったのか?
甘党かと思った? 残念! 甘党でした!(矛盾)
まぁつまりあれだ。
「ん、美味いぞ」
本当に美味しい。この卵焼きを毎朝食えるんだったら、社畜になってもいいかもって思えてしまうくらいには美味い。
「はぁぁぁぁ……よかったぁ……」
一色は長いため息を吐いてから安堵の表情を浮かべる。そんなに不安だったのか……。
けれど、すぐさまにやりと微笑んだ一色は箸で唐揚げを挟んだ。それを俺の口元へ差し出してくる。
「じゃあ先輩。あーん」
「へ?」
「先輩のために頑張って作ったんです。食べて……くれますよね?」
必殺あざと流奥義「上目遣い」「涙目」「甘ったるい声」のフルコンボを発動されてしまった。
うん、可愛い彼女のためだからな。それに今更あーんくらいで恥ずかしがるような俺じゃない。
「……あーん」
俺に向けられた唐揚げを頬張る。
美味い……けどなんか恥ずかしいな……。結局恥ずかしいのかよ。
「美味いぞ」
「えへへっ、それならよかったです! じゃあどんどんいきますよー!」
さっきまでとは一変、明るい声でタコさんウインナーを俺の方に向けてくる。
「え、まじで?」
「もちろんですよっ。はいっ先輩、あーんっ!」
わぁ……楽しそうだなぁ……。
「……ごちそうさま」
結果から言うと、全部あーんされました。なんか飯食っただけなのに疲れたわ……。
「はいっ、お粗末さまです!」
にこぱーっと満足そうに微笑む。うん、こいつが笑顔ならいっか……。
「てかお前はいいの? 全然食ってないだろ」
まだ弁当の蓋すら開けていないし。俺しか食べてないとなんだか申し訳ない気分になってしまう。
「あっ、私はもう食べてますよ?」
「は?」
一色は「ほら」と言いながら弁当の蓋を開けて中身を見せてきた。
半分くらい食べてるな。いつの間に食ったんだ?
「お前いつ食ったの?」
「えっとですね、先輩にはご飯を食べたあとにやって欲しいことがあったんですよ。だからわたしは先に食べさせてもらいました」
まぁ購買寄ってたし、俺のより弁当箱のサイズも小さいからな。そのくらい食う時間はあったってことか。
「そうか。んで、何して欲しいんだ?」
弁当作ってくれたんだし今なら何でもお願い聞いちゃう。多分弁当作ってなくても聞いてたと思うけど。
「むふふー。じゃあ先輩は椅子ごとこっちに向けてください!」
「? 分かった」
言われた通りに動くと、一色は「お邪魔しまーす」と言いながら俺の上を跨ってきた。告白の時と同様、対面座位ですねはい。えぇ……いきなりすぎるんですけど……。
とりあえず落ちてしまうと危ないので背中に両腕を回す。相変わらずやわらけぇな……。
俺の肩に手を置いた一色はだらしなく頬を緩ませる。流石にこの顔はダメなんじゃないだろうか……。
や、別に可愛いからいいんだけど。でも注意くらいはしておいた方がいいだろう。
「お前頬緩みすぎ……。ちょっとだらしないぞ」
「えへへぇ……三日ぶりに先輩に抱きつけたよぉ……」
更ににへらぁっと頬を緩ませる。やだ、全然俺の話聞いてない。
「はぁ……お前俺の前以外でそんな顔すんなよ?」
普段のきゃぴるん生徒会長☆の一色のイメージ崩れそうだしな。
「……はっ、なんですかそれ口説いてるんですか先輩に口説かれるのは……先輩に口説かれる……先輩に口説かれてるのかぁ……。ふへへぇ……最高ですねぇ……」
更にだらしなく頬を緩ませる。頬の筋肉仕事しろよ。
それになにその新しいパターン。振られないのかよ。
「はぁ……お前普段どうしてんだ? いつも通りやれてんの?」
まぁ多分平気だろうけど。頬がゆるっゆるになったのは俺に抱きついてきてからだし。一応確認ってことで。
「んー、多分平気だと思いますよ?」
「そうか」
だよな。なら安心だ。何より彼女はそれなりの強化外骨格は兼ね備えてるんだし。
しかし、んーっと考える素振りをしてから一色は「でも」と付け足す。
「授業中に先輩のこと考えちゃったりすると、自然と笑顔になっちゃいますね」
「は?」
え、その情報は聞きたくなったんですが……。それ言う必要ないだろ……。
あと、自分で言って頬染めんな。こっちまで恥ずかしくなるだろ。
「そのせいでなんかまたわたしの人気が急上昇しちゃってー。色々と勘違いした男の子に呼び出されちゃったりもしましたよー」
「え、なにそれ聞いてない。そいつら全員呼べ。今すぐ駆除するから」
おいおいどうすんだよ。小町に寄り付く毒虫もまだ駆逐できてないのに、これ以上害虫を増やされたくないんですけど。
「大丈夫ですってばー。ちゃんと彼氏がいるって言いましたから。それに、わたしは先輩だけのものですからぁ……」
そしてまたにへらっとする。そのゆるっゆるのだらしない顔もちょっと可愛く見えてきた。
「……そうですか」
色々と呆れてしまい俺も破顔してしまった。
だが、俺の態度が不満だったのか一色は顔をむすっとさせる。
「ていうか先輩、なんでわたしのこと名前で呼んでくれないんですかー!? それにキスだってあれから1回もしてくれないですし!」
なに、急にどうしたの?
さっきからにやけたり怒ったりして情緒不安定かよ。
「それはあれだ。雰囲気とかなきゃ無理だろ」
あの日以来俺は一色のことを名前で呼んでいない。
あの日で俺のメンタルポイントは全部消費しちゃったからな。うん、しょうがないってことで。
回復方法は戸塚の笑顔を見ること。もしくは小町。
……あとは一色も。
うん、自爆。無駄なこと考えたな。自分で考えてて恥ずかしくなった……。
「なんでいまさらへたれるんですか……。あーあ、あの日の先輩はかっこよかったのになー」
ちらっ、ちらちらちらっと一色が煽るように俺に視線を向けてくる。
その視線に俺はイラッ☆としてしまいました。
しょうがない。可愛い彼女のお願いだ。三日ぶりに恥ずかしい思いに合わせてやろう。
「いろは」
「ふえっ? え、どうしたんですか急に……」
名前で呼ぶと、一色は困惑の表情を見せる。
俺の活動限界時間3分だからな。このまま勢いでいってしまおう。
「名前で呼んでほしいって言ったのはいろはだろ?」
急な展開に驚いているのだろうか。
わちゃわちゃする一色をこっちへ引き寄せる。
そして、強引に、一色の小さな唇を奪った。やっぱ唇やわらけぇな……。
「っ……!? んふう……」
一色は最初こそ驚いていたが、次第に体の力は抜けていき、そのまま俺に体を預けてくる。
「……満足か?」
数秒のキスを終えて唇を離すと、耳まで真っ赤にした一色がジトっとした目を向けてくる。
「先輩のけだもの……。いきなり名前で呼んでキスするとかありえないです」
「うぐっ……、でも言い出したのはいろはの方だろ」
「普通は心の準備とかあるじゃないですか!」
煽ってきたのお前だろ……。しょうがない。事実を告げてやるとするか。
「体は正直なくせになー」
ふっ、これでどうだ。ニヤリと意地悪く微笑むと(多分気持ち悪い)、一色はゴミを見るような目で俺を見た。
あんれー? やっぱ気持ち悪かった?
「うわぁ……今のはドン引きです」
「……うるせ」
そんな声のトーン落として言わないでください……。普通に怖いから。二秒で土下座するレベル。
はぁ……彼女といると本当に調子が狂う。こんなことを言いつつも一色の顔は真っ赤だし、多分俺も同じくらい真っ赤だと思う。
きっと、キョドらずにいられたのは少女漫画とかのおかげだろう。まじで感謝。
ここで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。なんか昼休みなのに休めた気がしないんですが……。
「じゃあ戻りましょうか」
「だな」
「あっ、その前に……、……んっ……」
流れるように俺の首に両手を回してきた一色に唇を重ねられた。ちょっと行動早すぎて目も閉じれなかったんですけど……。
はぁ……幸せそうな顔しやがって。
たっぷり十数秒の長い口づけが終わり(ちょっと長くて呼吸困難)、一色の唇が離れる。
「お前なぁ……」
恥ずかしくてそっぽを向きながら言うと、一色は俺の上から降りて、とててっと数歩下がる。そして、口元に手を当ててにやりと微笑む。
「んふふー、もちろんさっきのお返しですよっ!」
悪戯に成功した子どものように、にぱーっと小悪魔スマイルを見せた一色はそのまま生徒会室を立ち去った。あざと可愛い……。
はぁ……でもね一色さん? 顔が真っ赤だったのは隠せてなかったですからね?
それに弁当持ってくの忘れてるし、生徒会室の鍵も閉めてないし。
どんだけテンパってんだよ……。
やっぱり彼女といると色々と騒がしいけど、それもまた楽しいなと思いつつ、俺は生徒会室を出ていった一色を追いかけた。
あけおめですっ!
やっぱ最初はいろはすを書きたかったです……。新ヒロインは次回から書きます!
ではでは今年もこの作品をよろしくです!