本当に気が向いた時にちょくちょく書いてるだけだからなんだろうけど。
とりあえず前書きで駄菓子が管巻いててもあれなので、本編どうぞ。
幸いボクの体重では変色した板間が抜けることもなく、至って平穏に向こう側までたどり着けた。
まあ、踏み抜いた所で少し足に擦り傷なんかができるくらいだろうから、そこまで嫌な訳じゃ…。いや、普通に嫌だな。痛いのは嫌いだし。…好きな人はうん、変態と言われる人なんだろうね。
ボクはきっと変態ではないはず。そんな
襖(此方から見ると板戸だけど)を開き、ちょっと期待しながら裏を見てみる。
…何も書いてない只の襖がそこにあった。
えぇ…、向こう側にはあんな気合いの入った絵が描いてあったのに此方には何もないのか。なんかすごく残念な気分になった。
そんな残念な気分を振り払いながら前を向く。そこにはまたしても襖がある。特段、特筆することも無いような、白地の襖。
いや、襖の上の部分の欄間には、水辺をイメージしたような彫刻が施されてるのが見える。
穏やかに流れてる川と、その近くに根差しているいろいろな植物。春の陽気の中のような、穏やかな雰囲気の彫刻だ。
この屋敷は、こういう風に植物とかの自然をモチーフにしたものが多いと改めて思う。
…まあ、今では屋根にまで自然を取り入れたようになってるけど。まさか最初からああだった…なんてことはない…よね?…ないと言い切れないとこが怖いな。
そんなことを考えながら、少し立て付けが悪くて滑りが悪い襖を開ける。
そこでボクの目に写ったのは。
一面に敷き詰められた、苔むして濃い緑…、御濃茶のような深い緑一色に染まった畳と、その上を赤や黄色に鮮やかに彩る落ち葉。
左奥には、使い込まれていることが見受けられる風炉と、その中にある灰の上に鎮座する赤茶色の錆を浮かせた釜。
その隣に置いてあるのは朽ちかけてはいるが、倒れることなくそこにある吉野棚。
吉野棚の中には、白磁に竹林の意匠が描かれた水差しがあって、傍らにはちょこんと可愛らしく棗や茶杓等の小物類が置いてある。
外から入って来たのであろう、紅く染まった紅葉を一枚、その身に浮かせた
床の間をの方を見やると、そこは畳と同じようにびっしりと苔が生えている。しかし、中央に置いてある少しくすんだ黒色をした板には全く生えてなく、その上に飾られている青磁の花器を強調している。
その後ろにひっそりと掛けられている、何が描かれていたのか分からない程に風化した掛け軸。…どうもなにかの花の図柄だったみたいだけど、ちょっと分からない。
風炉と床の間の間にある壁は円窓になっており、そこから緑に沈む灯籠と真っ赤に燃える紅葉が見える。その傍らにはそよりと吹く風に揺られるススキが見える。
この屋敷を探索している間に、月がすっかり昇るような時間になっていたようで、濃霧に煙って優しい表情の満月が見える。
そして何よりも特筆すべきなのが、幻のように空に架かっている
とても儚く、少しでも
この景色を見ただけで、一生分の運を使ってしまったような、でもそうだとしても後悔は無いと言い切れるほどに幽玄な美があった。
ふと、さっき見た掛け軸に描かれていた植物がなんなのか思い当たる。
あれはきっと
スッと綺麗に伸びた茎に、少し垂れるような特徴的な形をした花弁。色は落ちきってて流石に分からなかったけど。きっと少し薄めの、上品な紫色をしてたのだろうな。
菖蒲は西洋では
そしてそんなアイリスの花言葉は、"良い便り"、"メッセージ"、そして…"希望"。
ーーーこの世界に、希望がありますように。
そんなことを、月虹に願う。
何時かは無くなってしまうだろう、この景色に。
何時かは壊れてしまうだろう、この屋敷に。
何時かは消えてしまうだろう、この世界に。
ボクがこうして見ることで、体験することで、記憶することで、この悲しくも美しい世界に意味を持たせる事ができるのなら。
ボクがここに、この滅び行く世界に存在する意味がそこにあるのかもしれない。
…なんてね。
月の光が妖しく、でも優しく、霧に濡れた紅葉とボクを照らしていた。
猫の描写がまったくありませんがちゃんと居ます。えぇ、忘れてたわけじゃありません。ありませんよ?(目逸らし
次回何時かなぁ…。