ぱちぱち、と。
狭い白い空間に、炭の小さく爆ぜる音が響く。
こう表現すると、ボクが今どこに居るのか分からないけれど。
簡潔に言ってしまうと、ボクは今かまくらの中に居るのだ。
外ではしんしんと雪が降り積もっている。
かまくらの中央には真っ赤に静かに燃える炭と、それを中に入れている七輪、そして金網の上にはようやく焼けてきた真っ白いお餅。
相棒はボクの膝の上で丸まって、お昼寝をしている。
猫を寝子と表したりするらしいけど、それも納得できるくらいにこの子もよく寝る。
その柔らかくて手通りも良い、艶やかな黒い毛を撫でながら、ボクはかまくらの入り口から外を眺める。
相変わらず静かに、ただ静かに降り積もる雪。
はらはらと、まるで花びらのように降り積もる雪。
鉛色をしている、どんよりと重いごわごわとした雲から、絶え間なく降り積もる真っ白い雪。
ぴゅう、と風が吹く。
それに巻き上げられる積もった雪と、その身を弄ばれる空中を進んでいた雪。
その姿はまるで花吹雪のようで。
ふわりと舞う姿は、儚くて綺麗だった。
雪の別名に六花というものがあるのは、比較的有名だと思うけれど、不香の花という呼び方は知らない人が多いんじゃないかなと思う。
どちらも綺麗な言葉だと思う。
雪の結晶の形を見て、この二つの呼び方は生まれたのだろうけれど、なかなかに洒落ていてボクは好きだったりする。
六花はもちろん、雪の結晶の角(…角?)が六ヵ所あって花のようだからだろうし、不香の花もその形が花のようだけど、匂いはしないからなんだろうな。
それを思うと、今のボクの目の前に広がるこの一面の銀世界は、数えきれないほど多くの花びらが敷き積もってるということになる。
真っ白い花びらが敷き積もる、辺り一面の銀世界。
それは春の桜並木や、夏の向日葵畑、秋の紅葉した山にも負けないくらいに、綺麗な光景で。
あぁ、ここは四季の国なんだな、なんて今さらなことを改めて思ってみたりする。
もぞりと、ボクの膝の上の寝坊助が身じろぎをする。
どうやら雪に魅入ってしまって、この子を撫でる手が止まってしまっていたらしい。
寝てるのかと思ったら、ただ微睡んでいただけなのかもしれない。
とりあえず膝の上のワガママっ子を、再び撫で始める。
優しく、ゆっくりと。
そうすると現金なもので、満足だとでも言うみたいに一つ大きな鼻息をたてて、また微睡み始めたようだ。
その様子が可愛くて。
ボクは自分の口の端が上がるのを感じながら、また外を見る。
少し目を離した間に、空から舞い降りる花は止んでいた。
少し残念に重いながらも、そのまま雪原を眺める。
ーー静止した世界。
風も止んでいて、一つの絵のようにそこにある世界。
炭の弾ける音と黒猫の微かな呼吸音、それだけしか聞こえてこない世界。
ボクはそんな世界を、ただただ何をする訳でもなく眺め続けた。
……。
膝から伝わる動きで目が覚める。
どうやら寝てしまっていたようだ。
ボクは目を開けて膝の上で、此方を窺うような黒猫と視線を合わせる。
ボクが起きたのを確認すると、その子はまた丸くなる。
どうやら、また撫でろという催促のようだ。
人使いの荒い子だと、苦笑しながらまた撫でる。
ボクは黒い毛並みを楽しみながら、またおもむろに外を見る。
ーー天から梯子が降りていた。
天空を走る、多くの光。
それと対称的な静寂を保つ、真っ白い花びらの絨毯。
風も無く、小さな炭の音と膝の上の存在だけが、これが現実なんだと教えてくれる。
一面の銀世界に屹立する黄金色の柱。
それはまるで神話の世界みたいで。
黒猫を撫でる手が、止まってしまっていることにも気付かなかった。
天使の梯子、というものは知っているだろうか?
比較的、有名な物だとは思うけれど。
雲海の切れ目から、太陽の光があちらこちらから射し込むという自然現象なのだけれど。
ただ言葉で説明するなら、それで済む。
でも目の前の光景は、そんな説明は無粋だと思う程に神秘的で。
そんな言葉で、目の前の光景を認識したくなかった。
あれは、本当に空から天使が降りようとしてる。
そんな夢物語を、心から信じられそうなくらいに幻想的で。
心を抜かれたように、ただその景色を見詰めてるボクの横で、七輪の上で焼けたお餅が、ぷくりと膨らんだ。
今年も作者と拙作をよろしくお願いいたします。
この話も聖夜と同じように、後日、前の方に移動します。