「ここ・・・どこ?」
気が付くと私は草原のど真ん中で倒れていた。
天国じゃなさそうだし、地獄でもなさそう。見たこと無いからわかんないけど。
ちょっとまって・・・
「なんで生きてるんだろう?」
私は起き上がって体をチェック。五体満足、耳もある、犬歯もそのまま、服は・・・汚れの無い学校の制服。そして側には通学カバンの茶色いリュックと愛用の大きめの帽子が落ちていた。
顔も触って見たけど大して変化無し。リュックから携帯鏡を取り出して見て見ても顔は変形もしていないし、血で汚れてもいない。
あんな大きいトラックに跳ねられたら骨折はすると思うし、頭蓋骨陥没とか粉砕とかあってもおかしくないと思ったけど・・・。
「全く事故の形跡が無い・・・」
リュックの中身を見ても筆記用具は無事だし、携帯や電子辞書の画面も割れてない。
どういうこと?
さらに私はここがどこなのか携帯でマップを開こうとするけど圏外で、携帯の時間も00:00のままカウントされない。
「と、とにかく歩こう!人がいない訳じゃ無いし!」
そう言って自分を元気つけて私はリュックを背負って歩き出すのだった。
幸いな事が私は鼻が利く、つまり人間の匂いを追うことが出来るという事だった。まさかこの体が役に立つとは思わなかった。
「道・・・?」
暫く歩いただろうか、程なくして私は舗装されていない土剥き出しの道に出た。
違和感を覚える。道は車が走ったような痕跡は無いし、何か動物の足跡が沢山ある。それに辺りを見回しても民家一つ無いし、何気に動物の糞が道の脇に固められてて臭い。
「・・・?」
鼻が利きすぎるのか、糞が臭すぎるのか。とにかく私には強烈な匂いのせいで声も出せずに私は道に沿ってとりあえず進むのだった。
踏まないように足元に気をつけなきゃ。
「電線も無い、線路も無い、アスファルトも標識もガードレールも無い。緑いっぱいの草原や森はある。犬はまだ会ってない・・・」
結局人造物を見ることなく私は未舗装の道を歩き続け、1時間程した頃だろうか。私はやっと町を見つける事が出来たのだった。
しかし・・・
「・・・木造剥き出しの長屋、後ろに見えるのはお城?」
現代ではまず見ない、江戸時代か戦国時代の街並みがそこにあった。
ますます分からなくなってきた・・・。
よく見ると人々は皆和服だし、中には帯刀したチョンマゲもいる。
「・・・とりあえず、情報を集めなきゃ」
そう思って私は街へと向かい、行き交う人々にここは何処で今は何時なのかを聞き出す事にした。
しかしこれがまた勇気のいる作業で、しかも人々は私の服装が珍しいのか物色する視線が痛い。
「やっぱり江戸時代か戦国時代なのかなぁ?」
周りを見てそんな不安が広がる。
トラックに引かれて映画撮影の現場にいましたなんて訳無いだろうし、だとしたら私が考えているのはタイムスリップとか別世界に転生とか・・・。そんな小説や漫画の設定のような事を考えていた。
「茶屋・・・」
とふと目線に入ったのは茶屋、現代で言う喫茶店のような店・・・だったと思う。
とにかく人が集まる所で、もしかしたら何か情報が得られるかもしれない。ていうか場所と月日ぐらい絶対に分かる。
そう思って私は茶屋に入るのだった。
「ん?お嬢ちゃん、見ない顔に服装だな。旅の者かい?」
と入るなり穏やかに店主が話しかけて来る。
「ええっと、そんな所です」
「そうかい。で、何か食べるかい?」
そう言って店主は皿を取り出す。
団子も魅力的だけど今は色々聞き出さないと・・・!
「えっと、その、無粋な事を聞くのですが・・・ここは何処なんでしょう?」
「え?お嬢ちゃん、自分が旅をしている場所も知らないのかい?」
と店内は爆笑に包まれる。
「ここは鳴海の国。尾張と三河に挟まれた小さな国さ、そしてこの町は鳴海城城下町だ」
尾張と三河の間に国なんて無かった気がするけど・・・。
「ありがとうございます!あと、今は何時でしょうか?」
「お嬢ちゃん大丈夫かい?今は永禄元年・・・じゃなかった、永禄2年の1月12日だろ」
また店で爆笑が起こる。恥ずかしい、恥ずかしすぎて死にたい。恥ずか死する!
「そ、そそそそ、その!ありがとうございました!」
あまりの恥ずかしさに私はテンパって勢い良くお辞儀をして店を後にしようとするが、パサという音と共に頭が少し軽くなる。
これって・・・
「あ、え?ひゃぁ!えっと!」
ヤバイ!ヤバイヤバイヤバイ!!
見られてる!店が一気に静まり返って、皆の動きが時間を止めたみたいに一切動かなくなってる!
「あわわわわ!失礼しました!」
急いで店を出ようと半泣きになりながら扉を開けて飛び出すが、何かにズボンが引っかかって転けてしまう。
「ふぎゃぁ!」
バリバリと扉を破って私は情けない事に耳を曝け出したまま外へ出てしまうのだった。しかもズボンがズレて長くてフサフサした尻尾も露出してしまう。
「ううっ!」
過去の記憶が蘇る。化け物、気持ち悪い、来ないで、怖い・・・、今までに言われた事のある暴言が頭を過る。
思わず蹲って耳を塞いで目を閉じる。怖い・・・。
「・・・あれ?」
しかしいつまで経っても暴言や石や物は飛んでこず、未だ周りは静かだった。
何も無い?何で?
そう思いつつ恐る恐る目を開けてみると・・・。
「・・・えぇ!?」
私を中心に町中の人々が全員三つ指を付いていた。
「ええぇぇぇぇぇっ!?」
どういう事態か、正直飲み込めなかった。
そんな中・・・。
「すまん、通るぞ!」
頭を下げる住民達の間を掻き分けて、鎧を着た少女がやってくる。
「現神(あらかみ)様・・・?」
そう呟いた少女は私の体を上から下まで何かを見定めるように見回し、考え込んでいた。
「ふむ、しばしご同行願おう」
そう言って少女は私の手を取って城へと連れて行くのだった。