「お前は誰だ?」
そう聞かれて自分が何者か答えるのは簡単だと思う。氏名を明かして、場合によっては免許証や保険証といった身分証明証をドヤ顔で見せつけたら済む話だ。
でもその身分証明証が存在しない時代、例えば戦国時代ならどうだろうか?しかも自分はこの時代に来たばっかり。どうやって証明しろと?
そんなトンデモな場面に私は直面していた。
「貴女は一体何処からって来たのだ?」
私は例の鎧姿の少女に鳴海城という城に連行され尋問を受けていた。
「私は・・・その・・・」
目を泳がせながら私は言葉を濁す。果たして私は『未来から来ました』と正直に言うべきか、それとも適当に誤魔化すべきか。
しかし状況は悪く、私を取り囲む武将達の中には「今川か小田の草(現代で言うスパイ)ではないか?」と疑い、刀に手を掛けている者もいる。下手打つとこれ切られるんじゃないかな?
まだ死にたくないしなぁ・・・。
「私は・・・未来から。今から400年程先の西暦2015年から来ました」
私は決めた。とにかく本当の事を話そう。
とりあえず現代より扱いが酷い訳じゃない(現代では化け物扱い、この時代では神様扱い)。当たって砕けろと言うじゃないか!
「未来・・・だと!?」
私の発言で武将達はざわつき、鎧姿の少女も目を白黒させる。
「私は和泉 桜。見ての通り『化け物』、一族の血か遺伝子か知らないけどね」
そう言って私は口を指で広げて犬歯を見せる。狼の様な耳と尻尾に歯、そして紅い目。どれも普通の人間には無い要素だ。
私は尻尾をパタパタと振りながら鎧姿の少女を見つめる。ちなみに尻尾を振るのは私の興奮した時の癖だ。
「嘘を申すな!貴様、今川の草だろうに!」
私の衝撃的なカミングアウトで静まったこの空気を打ち破るように後ろから男性の声が響く。
振り返ると既に抜刀した中年の武将が息を荒立ててこっちを睨んでいた。
「現神様を装う不届き者め!成敗してくれるわっ!」
「止めろ!平八郎!」
と今度は鎧姿の少女が声を挙げる。するとどうだろう、平八郎と呼ばれた武将はこっちに殺気を向けながら刀を鞘に納めて再び座る。
やっぱりあの少女がここのボスなのか。
「続けてくれ」
と少女。私の話を信じるのだろうか?
「私は気が付くとこの町から離れた平原にいた。何故かなんて知らない」
「では貴女が本当に未来から来たという証拠はあるのでしょうか?」
証明ね、正直言って私の知っている歴史と同じ歴史を辿るとは限らないし、未来を教えても確認のしようがない。
「証明なんて無い。ただ私は未来の武器の作り方、効率の良い稲作の方法、高度な建築方法を知っている」
私の持っている電子辞書がだけど。
「それに私が本当に未来人では無い証明なんて出来ない。そして私は未来の技術を知っている」
悪魔の証明。
私は未来の技術を知っている(電子書籍を持っている)、これ一つで私は『未来人である』という一つの証明となる。しかし私を『未来人でない』と証明するには私の持っている技術を覆す技術が必要な上に私が未来に存在しない証明もしないといけない。これは『不可能』に限りなく近い状態で、人はこれを『不可能』と判断する。つまり私は『未来人でない』という証明を『出来ない』のである。
身近な事例なら満員電車での痴漢の証明とかがあるけど、これを話し始めたらキリが無くなるので辞めておこう。
「ふふふ、未来の和泉家は面白い事を言うのですね」
「進化しているんだよ」
トンチとか屁理屈とも言うのだけど。
私の答えに満足したのか、鎧姿の少女は少し笑いながら立ち上がって私の所にやってくる。
そして私の目の前で三つ指を付いて。
「今までのご無礼お許し下さい。貴女は和泉家の人間、現神様でありました」
「へ?」
我ながら間抜けな返事だ。
でも確かに唐突すぎて私は何が起こったのか理解出来ていなかった。
私はこの少女を論破してしまったのだ。
「私は本多忠勝。第43代和泉家当主の和泉 信輝様から名代役を仰せつかりました者でござります」
本多忠勝・・・って!この娘が本多忠勝!?女の子じゃん!!
私の知っている歴史では本多忠勝って男だったと思うのだけど・・・。それに徳川家所属だった気もするし。
「私はこの時を持ちまして、代44代和泉家当主である和泉 桜様に主権を返上する次第でございます」
「ちょ、ちょっと待って!」
いくらなんでも急展開過ぎない?
そもそも私はこの時代の人間じゃないし、大名だなんて出来る訳が無い!
それに彼女が納得しても、他の武将が納得しないでしょう!?さっきの平八郎さんとか平八郎さんとか平八郎さんとか。
「忠勝殿!私は反対です!このような馬の骨も分からんような者を当主にするなど・・・っ!」
って早速怒ってるし。しかも賛同する武将も多数、ヤバくない?
「未来だろうと過去だろうと関係は無い。桜様は和泉家の人間だ、それに貴様は我が和泉家自体を否定するのか?」
そう言って忠勝さんが指さしたのは私の耳と尻尾。確か『天照大神』の証か何かだった気がする。伝承なんて興味無かったからあまり覚えてないけど。
「この平八郎、もう我慢なりません!帰るぞ!」
そう言って平八郎を始めとする多くの武将はぞろぞろとこの部屋から出てゆくのだった。