織田信奈の野望 〜和泉立志伝〜   作:トリックマスク

4 / 5
初陣

「しかし、かなり厄介な事になりました」

 

私がこの和泉家の当主に任命(?)された会議の直後、忠勝さんはそう呟いた。

確かに平八郎と呼ばれた中年の武将(とその取り巻き達)はかなり怒って出て行ったし、謀反とか起こってもおかしく無いかもしれない。

ちなみにさっきまでこの会議に参加していた武将達の殆どは反対派で、平八郎に連なって出て行ってしまった。今この部屋にいるのは私と忠勝さんと2人の武将の4名だけ。

 

「そういえばまだ桜様に自己紹介しておりませんでしたね」

「え?」

 

唐突に忠勝さんは思い出したように言うと、残り2人の武将も連れて私の所に来る。

 

「名前はもう紹介しましたが、改めて。本多忠勝です、槍働きに自信がありますのでどうぞこき使って下さい」

「よ、よろしくお願いします」

 

忠勝さんは腰まで届くであろう長いポニーテールを揺らしながら頭を下げる。それにしても礼儀正しい人だなぁ。

 

「では順を追って。相馬からいこうか」

「はい」

 

と忠勝さんが片方の黒い着物を着た青年を呼ぶ。

顔立ちは整っていて、なおかつ身体つきも華奢なのでどこか中性的な印象を受ける。

 

「天城相馬(あまぎ そうま)です、気軽に相馬と呼び捨てにしてください。ここでは軍師をやっておりました」

「あ、よろしくお願いします。えっと、相馬」

「はい!」

 

相馬は少しの嬉しそうに返事をすると、後ろにいた青い着物を着た少女と交代する。

 

「・・・佐久間信盛(さくま のぶもり)。交渉が得意」

 

とまるでロボットのように言う。ボーカロイドでさえもっと感情的な声を出すのに・・・。

 

「・・・眠い。姫様、先に失礼します」

 

そう言うと信盛さんはフラフラと部屋を出てゆく。

なんというか、無口な人だ。

 

「はぁ、桜様。佐久間のアレはいつもの事なので気になされなくて大丈夫ですよ」

「は、はぁ・・・」

 

とまぁ、取り敢えずこれで全員か・・・。

反対派の人数はこの倍だと考えると、説得するにも戦をするにも極めて不利だ。

 

「して姫様、現在の状況ですが・・・」

 

そう言って忠勝さんは近辺の地図を広げて、私と相馬に説明を始める。

 

「元々この鳴海国には2つの城が存在しています。一つはこの鳴海城、そしてもう一つは東の岡崎城になります」

 

そう言って忠勝さんは地図にバツ印を付けて城の位置を示す。しかし地図が正確で無い(今のような正確な地図が完成するのは江戸後期に伊能忠敬が測量してから)ので見づらい。

 

「そういえば・・・、ちょっと待って」

「?」

 

そう言って私は背負ったままだったリュックから教科書を取り出す。

取り出したのは『日本地図帳・2015年度版』。A4サイズで厚さ1cmを誇るこの教科書(?)は日本全国をかなり詳しく記されている上に、鈍器としても活用出来る極めて優秀な教材だ。

 

「さ、桜様。これは?」

「あー、未来の地図かな?ちょっと待ってて・・・」

 

パラパラとページをめくって出したのは愛知県中部の地図。2015年度版だから違う所は多々あるけど、鳴海城と岡崎城の間の距離と地形ぐらいは分かる。

 

「むぅ、線がいっぱいで分からないです」

 

と忠勝さん。確かに等高線とかもびっしり描かれてるから分かりづらいよね。

相馬は何と無く読めるようで、双方の地図を交互に見比べて何か頷いていた。

 

「相馬は読めるのか?」

「なんとなくですが、しかし物凄く正確に描かれた地図です。姫様の時代にはこんな地図が完成しているのですね」

 

実際は江戸後期だから200年程先の未来になるけど、口は災いの元とも言うし無駄な発言は控えておこう。

 

「では話を戻します。平八郎率いる岡崎城勢は挙兵こそしていませんが、謀反と考えて間違い無いでしょう」

「謀反・・・」

 

その言葉で私がこの時代に来たという重さが分かってしまう。私一人の所為で一体何人の人が死んでしまうか・・・。

 

「そう気を病む必要はありませんよ、姫様。平八郎は居なくとも、事を成していたと僕は予想します」

 

と相馬がフォローしてくれるが、私が引き金である事には変わりない。

 

「とにかくこのままでは他家に隙を与えるだけです、一刻も早く岡崎城を落としましょう。現在の鳴海城の兵力は1万程、それに対して岡崎城側は7千程です。合戦に持ち込めば必ず勝てるでしょう」

 

そう言って忠勝さんは地図の上に囲碁の石を鳴海城に10個、岡崎城に7個を置く。

 

「問題は合戦に勝てるか・・・という事ですね」

 

と真剣な声で相馬。

確かに兵力差は相手も知っているのだからそれなりの対策を練って来ると思う、兵力差は3千程だから奇襲をかければ一気に形勢は逆転してしまうだろう。

 

「相手は奇襲で来る・・・だったら、こっちも奇襲してやろう!」

「え!?奇襲・・・ですか?」

 

忠勝さんが驚いたように声を挙げる。確かに奇襲してこようとしている敵を奇襲するなんて前代未聞だろう。

 

「私と忠勝さんを囮にして、相馬と信盛さんで出て来た敵を叩く。これは賭けになるけど、上手く決まったら一気に有利に立てる」

「しかしそれでは桜様が危険に・・・!」

「忠勝さん。この謀反は私がここに来たから起こったんです。だったら、私がこの謀反を鎮圧しないといけないんです」

「しかし・・・」

 

私の身を案じて忠勝さんが反論してくれるが、徐々に押されて口数が減ってゆく。

 

「大丈夫、必ず上手くやれます!忠勝さん、私を信じて下さい」

「・・・っ!桜様、必ず無事でこの戦を終えて下さい!」

 

しばらく考えた後、忠勝さんは不安の色を隠せないままそう言って部屋を出てゆく。

 

「相馬、戦の準備を」

「はい!」

 

大丈夫、私はやれる。

そう思いながら私は初めての合戦に臨もうとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。