織田信奈の野望 〜和泉立志伝〜   作:トリックマスク

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戦の常

「今です!矢を射って!」

 

私の号令と共に弓矢を持った足軽達が矢を放ち、敵陣に矢の雨を降らせる。そして敵が混乱しているうちに槍隊に突撃させて戦線を切り開いていく。

鳴海城から東南へ少し離れた刈谷という所で私は合戦をしていた。

 

「無駄に追わないで!今は私達はこの敵を抑えておくだけで十分です!」

 

境川という川を挟んでの戦い。私は相馬と佐久間さんを敵陣への強襲、忠勝さんに岡崎城の攻略をお願いし、私はたった2千に兵を率いて5千はいるだろう敵軍と戦っていた。

 

「姫様!敵が撤退します、いかがなさいますか?」

 

そんな中、侍大将の報告と同時に敵軍が少しずつ引いていく。まだ戦いは始まったばかり、いくらなんでも撤退にしては早すぎるけど・・・。

 

「大変です!境川上流に敵別働隊を発見!こちらへ向かって来ます!」

「しまった!」

 

私の部隊で別働隊と本隊の両方を相手は・・・難しい。

ここは撤退するべきか、無駄に兵を失う訳にはいかないし・・・。

 

「引きます!早く鳴海城まで引いて下さい!」

 

ドドドと地面が微かに揺れるような感覚を受けながら私は必死に指示するが・・・。

 

「和泉 桜、その首貰いに参ったぁ!」

「くっ!」

 

時すでに遅し。陣は崩れて別働隊が乱入し、私は乱戦の中で慣れない刀を抜いた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

噴き出すアドレナリンで興奮しながら私は小刀で敵兵に斬りつける。当然ながら紅い血が吹き出し、敵兵は力なく倒れる。

殺した。今私は人を一人殺した・・・。

 

「あ・・・え・・・?」

 

手には紅い血が付いて、まだ斬りつけた時の感触が残っている。

初めて犯した『殺人』に私は恐怖していたのだった。でもそんな時間なんてある訳が無く・・・。

 

「もらったぁ!」

 

後ろからそんな声がしたかと思うと、背中に冷たい感触が走る。

そして遅れて痛みが走って私はようやく理解する。

 

「(斬られた・・・!?)」

 

紅い雫が背中を濡らしながら私はその場に倒れたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「忠勝様、城門が開きました!突入します!」

「分かった!皆のもの、進めぇ!!」

 

岡崎城の城門前。私こと本多忠勝は攻城戦を繰り広げていた。

既に城門は壊されて、後は本丸を落とすだけになった。

後の事を考えたらこの岡崎城は出来るだけ傷を付けたくない、そう思った私は何度か降伏を勧告してみたが返事は無かった。

 

「火は付けるな!できる限りこの城を無傷で手に入れるのだ!」

 

早く落として桜様に合流しなければ・・・。そう思うと、次第に指示が荒くなってしまう。

ああもう!戦いに集中しないと!

 

雑念を振り払って私は槍を持って城内へと突入するのだった。

 

「我こそは本多忠勝なり!死にたい奴から出て来なさい!」

 

扉を蹴り開けて廊下に突入。雑兵を穿ちながら目指すは城代のいる軍議の間。大体の籠城戦では大将は城の中心である軍議の間で指揮を取っている場合が多い。

 

「どこだ?軍議の間はどこだ?」

 

一つ一つの襖を蹴り破って確認するが、中々中央部にありつけない。

 

「いたぞ!忠勝だ!」

「うわぁっ!」

 

敵の怒号と共に矢が飛んで来る。とっさに今は蹴る破った襖に飛び込まなかったら死んでた・・・。

 

「何かするんですか!?殺す気ですか!?」

 

いや、よく考えたら殺す気ですよね。じゃないと戦なんてしないですもんね。

 

「このっ!」

 

飛来する矢を槍で払って、弓矢を射る敵兵に接近する。

そして大きく振り払って弓兵達をなぎ払う。

 

「早く落とさないと・・・」

 

焦っていた私は直ぐに他の部屋を見て回って城代を探し回った。

そんな時だった。

 

「忠勝どの!早馬です!」

 

部下の侍大将が慌てて私の所に駆け寄ってくる。

 

「内容は?」

「はい!刈谷にて敵将の首を相馬隊が討ち取りました!これを受けて岡崎城の兵達が逃亡を始めています」

 

なるほど、よかった。もう岡崎城が落ちるのも時間の問題だし、相馬達が討ち取ったという事は桜様も無事だろう。

 

「あともう一件。姫様が・・・」

 

胸を撫で下ろしていた私に侍大将が表情を暗くして告げる。

 

「姫様が重傷を負い、鳴海城まで撤退されました」

「なんだって・・・?そんな・・・」

 

思わず私は槍を落とし、侍大将からの報告に愕然としてしまうのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

青い空、緑の草原。

私がこの時代にきた時と似ている情景だ。

 

「ここは?」

 

ただ違うのは足軽や武将達が同じ方向に歩いている。私一人では無かったという事だ。

それに歩いているのは和泉家の旗を持った人ばかり、どういう事だ?

 

「なんだみゃぁ?どうして姫様がこんな所におるんだみゃぁ?」

 

ふと後ろから声が掛かる。

振り向くと痩せこけたような風刺のおっさんがいた。装備からして足軽だ。

 

「貴方は?ここは!?」

「わしは藤吉郎、木下藤吉郎じゃ」

 

藤吉郎・・・、後の豊臣秀吉じゃん!でも何で?秀吉って織田家じゃないの!?

 

「ここは戦で無念にも死んでしまった者が黄泉へ向かう道。わしも運が無かったみゃぁ」

「そんな・・・」

 

私は死んだの?何も出来ずに・・・。

 

「わしは自分の夢を坊主に託したみゃぁ、もう悔いも無念も無いみゃぁ。でも姫様は違うみゃぁ」

 

そう言って藤吉郎さんは私の頭を撫でる。

 

「今でも思い出すみゃぁ。針を売りに茶屋に寄ったら姫様が現れて、そんでこの戦でわしの隊を指揮していたのが姫様だったみゃぁ。見事な采配だった」

「そんな・・・、私は・・・」

 

私はこの人を死なせてしまった。そう思うと涙が出てくる。

 

「もっと姫様に仕える事が出来なかったのが残念だみゃぁ」

「藤吉郎さん!私は・・・私は別働隊に気づけなかった、だから貴方たちを殺してしまった・・・」

「違うみゃぁ。勝ち負けは戦の常よ、今回がたまたま運が悪かっただけだみゃぁ」

 

そんなに簡単な事じゃない。私が勝っていたら・・・藤吉郎さんは生きていたんじゃ・・・。

 

「さて、わしは逝くのじゃ。姫様、妹によろしく言っておいてくれだみゃぁ」

「え?」

 

そう言うと藤吉郎さんは私の胸を押して、向こうへと歩いていった。

私は草原にぽっかり空いた穴に吸い込まれるようにただ落下していた。

 

 


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