瞼に微かに差し込む光を受け、ゆっくりと張り付いていた瞼を開く。ぼやける視界の先には、よく見知った顔が見えた。うん、間違いなく私の母親だ……でもなんか、ちょっと私の知ってる姿より高齢じゃない?
「……お母さん?」
「……良かった。生き返ってくれたのね」
生き返る? 可笑しなことを言う。それではまるで私が今まで死んでたみたいじゃないか……
まだ意識が覚醒しきっていないのか、ぼんやりとした頭で考えていると、母さんは優しく私を抱きしめる。
「ここに流れ着き、ようやく貴女を生き返らせることができたけど……ごめんなさい。母さんは一緒に居られない。私の命はもうすぐ尽きてしまうから……」
「何を、言ってるの? 母さん」
儚いとすら感じるその微笑みは、まるで今すぐにでも消えて無くなってしまいそうで……慌てて、石みたいに硬い体を動かして母さんに触れる。
「大丈夫。貴女は誰よりも強い子だから……私が居なくても、きっと大丈夫」
私を強く抱きしめた後、母さんが優しく告げて手をかざすと、私の体が光に包まれて浮き上がる。
何がどうなっているのか分からなかったけど、その後に聞こえた母さんの言葉だけが鮮明に耳に響いた。
「……母さんね。いっぱい悪い事をして、沢山の人を傷つけちゃったの……許されるなんて思っていないし、自分で選んだ道に後悔もしていない……だけど、一つだけ心残りがあるの……」
悲しく懺悔する様な言葉。己の過ちを悔い、何かを私に託すような目……
「あの子を……私が弱かったばかりに傷つけてしまった。私のもう一人の娘を……どうか助けてあげて」
「……」
母さんの姿が小さくなり、声がどんどん遠くなっていく。母さんとの別れを悲しむ気持ちは勿論あったが、それ以上に母さんが私に託した願い、それを心に刻みつける。
「……お願いね『アリシア』」
「うん。分かったよ……母さん」
意識が光に溶けていく中、母さんにしっかりと返事を返した。
光が晴れると、私の目には何というか……いまいち雰囲気の出ない光景が飛び込んできた。自然の緑色いっぱいに包まれながら、人工物が立ち並ぶ場所。
何で墓地? これじゃあまるでゾンビじゃん私……いや、まぁ母さんは『生き返った』って言ってたし、その言葉を信じるなら私は一度死んだってことなのかな? って事は二度目の人生ってやつだね。
体は、うん。特に問題は無い様だけど、やっぱりちみっこいなぁ……まぁ、五歳なんだからこんなもんかな? 何か不思議と実感がわかないと言うか、自分の体だってのに変な感じはするけど……
ここはどこだろう? ミッドチルダだとは思うけど、あまり見覚えの無い場所……まぁ、私はアルトセイム地方の一部しか分かんないけどね。
服は、薄い緑のワンピース……てか、私お金持って無くない? 見ず知らずの場所で一文無しとか、何そのハードモード……二度目の人生でいきなりホームレスとか笑えないよ。どうしよ……
そんな事を考えていると、後方で何かが落ちる様な音が聞こえてくる。
「……う、うそ……あ、アリ……シア……」
「うん?」
驚愕した様な声で自分の名前を呼ばれて振り返ると、そこには……私?
振り返った先には地面に転がっているバケツと、それを落としたであろう花束を持った十歳くらいの少女が居たけど……驚いたことにその顔は私にそっくりだった。や、まぁ世の中には三人は自分に似た人が居るって言うしね。
そしてその私にそっくりな『プリティーで愛らしい』顔は、何故かお化けでもみたかのように驚愕一色だった。
「……そんな……お姉ちゃん……」
「ファッ!?」
お姉ちゃん? オネエチャン? ONEETYAN? 何言ってるのこの子?
まてまて……ちょっと状況を整理しよう。
目が覚めたら母さんが居て、私は生き返ったとかそんな事を言ってて、更にいつの間にかミッドチルダに居て、私そっくりな子が現れて、どう見ても私より年上のその子は、私をお姉ちゃんと呼ぶ……うん、さっぱり分かんない。
「……えと、君は誰かな?」
「ッ!?」
とりあえずその子に聞いてみようと尋ねると、少女はショックを受けた様子で後ずさり、目に薄く涙を浮かべる。その顔やめて、なんか私がいじめてるみたいじゃん。
「あ、や、私はなんか……ちょっと自分でも何言ってるか分かんないけど、生き返ったらしくてね。き、君の事覚えてないんだよ」
「い、生き返った?」
「う、うん……何かそうらしいよ」
私が戸惑いながら告げた言葉を聞き、少女は何かを考える様にうつむく。
少し気まずい沈黙が流れた後、少女は顔を上げ私の目を真っ直ぐに見つめながら口を開く。
「……私は、フェイト……フェイト・テスタロッサ……貴女の妹です」
「……」
真っ直ぐに告げられた言葉を受けて、少し考える。確かにこれだけ顔が似てるんだし、姉妹って言うのは納得できるし、なんかこの子の泣き顔は無視できないと言うか……
「それって、なんか宗教の勧誘とか、壺買ってとかそういうのじゃないよね?」
「ち、違うよ!」
まぁ、そうだろうね。この子人を騙したりとか、そう言う事出来そうな感じじゃないし……大体一銭も持ってない私を騙した所で、この子にメリットがあるとは思えない。
「……オッケー、分かったよ。じゃあ、えと、フェイト? ひ、久しぶり? お、お姉ちゃんだよ?」
「!?!? お、お姉ちゃあぁぁぁぁぁん!?」
「うぉっ!? 想像より、グワッと来た!?」
正直私はフェイトの事は知らないので、たぶんこの子は私が死んでから生まれたんだと思う。まぁ、だからと言って私の妹であることには変わりない。
そう思って出来るだけ明るく声をかけてみたけど、まさかタックルしながら抱きついてくるとは思わなかった。てか、体格的に私の方が小柄なんだから……こ、これ、支えるのはかなり辛い。
人目もはばからず……いや墓地だから人目はなかったけど、大泣きするフェイトを何とかなだめた後、流石に墓地のど真ん中で話をするのもあれだったので、霊園の出口まで移動して近くにあったベンチに腰掛ける。
妹の奢りで缶ジュースを飲む情けない姿を晒しながら、フェイトに私について色々と教えてもらった。
何でも私は母さんの研究していた何とかって機械の事故に巻き込まれて死んだらしい……何となくおぼろげに覚えている気がしなくもないけど……自分の死に様を詳しく思い出すとか、ぶっちゃけ生き返ってる今となっては興味もない。
んで、母さんは私を生き返らせる為に常識を越えた技術の眠る遺失世界を目指し、ジュエルシードという宝石を求めて事件を起こした。そして管理局に阻止され虚数空間に、私の死体と共に消えた……母さん無茶するなぁ……
「……成程ね。それで母さんは何の偶然か、そこで私を生き返らせる術を見つけて最後の力でそれを行って、私をここに飛ばしたんだね……って、ちょっと待って、フェイトは何処に出てくるの?」
「……わ、私は……」
今フェイトから聞いた話の中には、何故かフェイト自身が登場しておらず、母さんを止めたのも管理局と高町なのはという子だと言っていた。
しかしフェイトは私の妹なんだから、母さんと一緒に居た筈じゃないのかと思って尋ねると……フェイトは顔を伏せ、先程話さなかった。いや、意図的に隠していた事を話し始める。
フェイトは私の……アリシア・テスタロッサのクローン。プロジェクトFという物から生まれた人造魔導師で、私の代わりとして生み出された存在だと……
フェイト自身は私の記憶を微かだが継承しており、母さんの愛情を得る為に必死だったが、結局最後の最後まで母さんは自分を見てくれなかった事。大切な親友達と共にあり、自分は本当に救われたが……それでも時々、自分は何なんだろうと考えてしまう事がある事……
時折言葉に詰まりながら、微かに涙を浮かべて話し続け……話し終えた後は俯いてしまう。
「……ごめんなさい。本当は私は……お姉ちゃんの妹じゃ……」
「しゃらっぷ!」
「いたっ!?」
ウジウジとネガティブオーラを垂れ流していたフェイトの頭に、鋭く手刀を叩き込む。なんなのこの子は? ネガティブの精霊? 精霊なの? よくもまぁそんなに自分が悪い自分が悪いと、長々言葉を並べたてられるもんだ。
まったくこの子は……私の妹のくせに、私とは正反対の性格じゃないか、ウジウジと自分が悪いとばかり、まったく、そんなの放っておけないでしょ。
「まったく、聞いてれば見当違いなことばっかり……母さんはフェイトの事、愛してたと思うよ」
「……え? だ、だって……」
「たぶん、認めたく無かったんだと思う。母さんもフェイトと同じで、自分が悪いって考えるタイプだから……私を死なせちゃった自分が、今さら他の子を愛せない愛しちゃいけない。私を生き返らせていないのに、自分が幸せになる訳にはいかない……そんな風に考えてたんじゃないかな?」
「……」
母さんは優しい人だけど、だからこそ負わなくてもいい傷を負って傷ついちゃう。私は確かに寂しい思いもしたけど、母さんの事は大好きだったし、私が死んだせいで母さんが責任を感じたって聞いて悲しく思った。当の私の感覚で言えば、死んじゃった私の事なんて忘れて幸せに生きて欲しかった……
「母さんはさ、いつだって気付くのが遅すぎるよ……私の事なんて放っておいて、フェイトを大切にしてあげればよかったのに……」
「わ、私は……」
「私さ、死んじゃう前に母さんにお願いしたんだ……妹が欲しいって」
「ッ!?」
「だから、母さんが本当に夢見てたのは……必死に私を生き返らせようとしていたのは……母さんにとっての幸せの形が、姉として私が居て、妹としてフェイトが居る光景だったからだと思うよ」
母さんは本当に頭が固いというか、こうと思ってしまうと一直線過ぎる所がある。寄り道や回り道が出来るほど器用じゃなくて、諦めたり捨てたりする事が出来ない。そしてそれはきっとフェイトも一緒なのだろう。どんなに傷つけられても母さんの事を諦めたり捨てたり出来なくて、色んな方法を試せるほど器用じゃなくて……お互いにそう感じながらも、動けないままだったんじゃないかな? だから母さんは……
「母さんは、私をここに送る前に言ってたんだ。私が弱かったせいで傷つけてしまった、私の『もう一人の娘』を助けてあげて欲しいって……」
「……母さん……が……」
「うん。母さんにとってフェイトはちゃんと娘だったんだよ。勿論私だって、フェイトがどんな生まれかなんて関係ない……君は、私の妹なんでしょ?」
「~~!? う、うん……うん……」
私にしがみ付く様に涙を流すフェイトを優しく抱きしめる。きっとこの子は、今までずっと一人で頑張って来たんだと思う。涙を押し殺して、自分が偽物じゃないかという恐怖に怯えながら、それでも歯を食いしばって……
分かったよ母さん。貴女が私に何を託したのか……そう、私はこの子のお姉ちゃんなんだ。だから、この子を守ってあげなくちゃいけない。苦しみから、寂しさから……大丈夫。母さんの願いはちゃんと受け取ったよ。
フェイトが泣きやんだ後で、フェイトと一緒に彼女が今借りている部屋に移動する。
何でもフェイトは普段は管理外世界の地球ってとこに住んでるらしいってか学校に通ってた? けど、なんか今は難しい試験を受ける為にこっちで勉強をしているとかなんとか。
「おぉう……フェイトってば、もしかしてお金持ちさん?」
「そ、そんなことないよ。勿論仕事のお給料は貰ってるけど……」
「ふえぇ、魔導師ってのは高給なんだねぇ……」
案内された部屋は驚くほどに広く、私とフェイトどころか後三人位住んでも大丈夫な程だった。最低限のものしかないあまりに広いリビング、テーブルの上には母さんとフェイトの映った写真と大事そうに置かれている白いリボン……これが、今この子が生活している環境。
拝啓、母さん。フェイトは中々良い生活をしている様です。でも部屋から感じる寂しさは、きっとこの子の心を映したものなんだと思う。だからその辺は私がめちゃめちゃに変えてやることにします。
「でもさ、今さらだけど……私って今のフェイトより年下なんだけど、お姉ちゃんで良いのかね?」
「え? でも、お姉ちゃんってたしか……通算すると二十代ぐら……」
「おい馬鹿やめろ! うら若き乙女に二十代とか言うんじゃない。てか、死んでた間のはノーカンで良いでしょ!」
「う、うん。でも、私はやっぱり、お姉ちゃんはお姉ちゃんの方が良いなぁ……」
「うん、OK。じゃ、それで行こう」
どうしよ、母さん!? うちの妹めっちゃ可愛いんですけど!! あの庇護欲を貫く様な上目づかい、破壊力が半端じゃない。もう何と言っても顔が可愛いね! 私と同じプリティーでラブリーでキュートな顔だから、そりゃ可愛い筈だよ。今すぐ抱きしめて頭撫でまわしてあげたい!
「えと、リンディさんにも紹介しないといけないから……明日なのはのお見舞いに行く時に会えるかな?」
「フェイトさんや、私に分かんない内容で話されましてもねぇ」
なのはってのはさっきの話に出て来たし、リンディってのも聞いた覚えはあるけど……なんでそのリンディさんとやらに紹介するのか、なんでなのはに見舞いが必要なのかあたりが分からない。
「あ、ごめん。えとねリンディさんってのは私の身元を引き受けてくれている人で、なのははさっき話した親友なんだけど、少し前に事故があって入院しちゃってるの」
「成程、分からない!!」
「え、え、ええと、リンディさんは提督で……」
「成程、分かった!」
「なんでっ!?」
本当は初めの説明で分かっていたんだけど、フェイトがあまりに素直なのでちょっとからかってみた。
それを話すとフェイトは頬を膨らませ、怒った様にそっぽを向くが……何と言うか怒る姿まで可愛らしい。
「お姉ちゃんの、いじわる!」
「あはは、ごめんごめん。謝るから、機嫌直してよ」
「あぅ……」
笑いながらフェイトを抱きしめると、フェイトは明らかに嬉しそうな声を上げ、微かに頬を染めながらこちらを向いてくる。
てかマジで可愛い。完全に私の事を信頼しているというか、甘えたがってる感じの様子は、一歩間違うと過ちを起こしてしまいそうなほど可愛い。出会ってすぐこれだど、ちょっとこの子のガードの甘さが心配だけどね。
甘えてくるフェイトを抱きしめながら、明日の事について少し話し……フェイトが泣きついてきたので、一緒のベットで眠る。私よりも少し大きい体を、ピッタリと私にくっつけ幸せそうな顔で眠るフェイトを見て、私の顔にも自然と笑みが浮かんでくる。
なんだかいいなぁ、こう言うの……妹が居るってのは、こんな感じなんだ……
ミッドチルダ中央区画にある大きな医療センターの一室。時空管理局の次期トップエースと期待され、少し前に不慮の事故により入院している高町なのはの病室。そこには彼女の多くの友人達が集まっていた。
「なのはちゃんも大分元気になってきたなぁ、この分ならもう少しで退院できそうやね」
「うん。もうすっかり大丈夫だよ」
ベット脇にある椅子に座り話しかけるのは、なのはの友人である八神はやて。本来なら、この場には彼女の守護騎士達も来ることが多いのだが、今日は保護観察処分中の守護騎士達は管理局へと出向いている。
はやての言葉に笑顔を浮かべた後、なのはは落ち着きない様子で病室を見渡す。
現在この病室に居るのは彼女の友人であるはやて、クロノ、リンディの三人。他にもなのはを見舞いに来る人物は多いが、他は仕事の関係もありこられないという連絡を受けている。しかしなのはが探しているのはその連絡を受けた人物達では無く、この病室に誰よりも多く足を運んでくれ、複数人が来る時は誰よりも早く来てくれる一番の親友……今日は何故かまだ来ていないフェイトだった。
「そういえば、今日はフェイトちゃん遅いな~」
「そう言えばそうね。いつもは一番早く来ているのに」
なのはの視線にはやてが気付き、リンディもそれに同意する様に周囲を見渡す。なのはも二人の言葉を聞き、不安そうな顔で病室のドアを見つめる。
何かあったのではないか? そんな心配は杞憂に終わり、直後に小さな足音と共にドアが開かれる。
「遅くなりました」
「フェイトちゃん!」
現れたフェイトを見てなのはが満面の笑みを浮かべ、はやて、リンディ、クロノの三人もどこかほっとしたように微笑む。しかし当のフェイトは何故か普段より明るい表情を浮かべており、四人は不思議そうに首を傾げる。
フェイトは本来どちらかと言えばやや内気な性格をしており、こう言った場合はかなり申し訳なさそうな表情になる筈だが、今日のフェイトは弾けんばかりの笑顔だ。
「フェイト、何か良い事でもあったのか?」
クロノが口にした疑問に対し、フェイトはその言葉を待っていたと更に明るい笑顔を浮かべる。
「うん! 聞いて! なのは、はやて、クロノ、リンディさん。お姉ちゃんが……アリシアお姉ちゃんが……生き返ったの!!」
「「「「は?」」」」
四人共フェイトの事はよく知っており、当然の事ながらアリシアの存在についても知ってはいる。しかし死者が生き返ったと言われて、はいそうですかと納得できる者はおらず、四人の間には高速で念話が飛び交う。
(ねぇ、今、私聞き間違えたかな? アリシアお姉ちゃんが生き返ったって聞こえたんだけど……)
(私もそう聞こえたわ……どないしたんやろ?)
(フェイト……ここの所執務官試験の勉強ばっかりだったから……)
(ああ、それになのはの事もあって相当疲れているんだろう。出来るだけ刺激しない方がいいな)
高速の念話の後、フェイトは最近疲れているから幻覚でも見たのだろうと失礼極まりない結論に辿り着き、代表してなのはが言葉を選びながら尋ねる。
「えと、フェイトちゃん……アリシアお姉ちゃんって、あのアリシアさんだよね?」
「うん!」
「そ、そそそ、そうなんだ。良かったねフェイトちゃん」
「ありがとうなのは! それでね。皆にも紹介しないといけないと思って……」
「っと言う訳でっ! フェイトの姉のアリシア・テスタロッサです! はっじめまして~!」
フェイトの言葉に呼応する様に、フェイトの後ろからアリシアが登場し、大袈裟な動きで敬礼をしながら自己紹介……四人の目は点になった。
「「「「……え? えぇぇぇぇぇ!?」」」」
そして病室にあるまじき絶叫が木霊することとなった。
おぉ、期待通りの反応だ。うんうん、やっぱ生き返ったんなら驚いてもらわなくちゃ面白くない。フェイトの知り合いで私の事を知っているのが何人いるか分からないから、何度でも使える手じゃないけど……お土産だなんだって、フェイトをわざと遅れさせたかいもあるってもんだね。
フェイトが皆に事情を説明していくのを見ながら、私はニヤニヤと満足した笑みを浮かべていた。
「フェイトの説明は以上! 改めて皆よろしくね!」
「え、あ、うん……いや、はい。アリシアさん」
「おいおい、他人行儀じゃないか、フェイトの親友なら私にとっても友達だよ。敬語は無しで、フェイトみたいにアリシアちゃんって呼んでよ。私もなのはって呼ぶからさ」
「う、うん」
未だ驚きが抜けてない様子のなのはに、遠慮せずタメ口で来てくれと告げる。だってフェイトにとって私は姉だけど、実際私の感覚としては五歳な訳だから、敬語とか使われるのはすっごいむず痒い。けどここで私が遠慮していたら、打ち解けるまで時間がかかっちゃうし少し強引に行くべきだね。
「し、しかし、死者が生き返るなんて……本当にどうなってるんだ?」
「良い質問だねクロノ。そこの所だけど、私にもよく分かんない!」
実際の所私が生き返った方法や経緯は母さんしか知らない訳だし、私としては自分が死んでたなんて言われても正直ピンとこない。ぶっちゃけ今後どういう扱いになるかも分からない。IDカードに種族・ゾンビなんて文字が刻まれない事を祈るばかりだよ。
「成程ね。それで私の所に連れて来たのね……戸籍IDの再登録……流石に生き返ったので更新をなんて難しいし、虚数空間で行方不明だったとでもしておきましょうか……」
「むぅ、確かに私も二十代後半なんて登録されると困るし、色々検査されるのも嫌なんで、上手い事誤魔化してくれると助かります」
確かに今の私の状態は自分でもよく分からないけど、異常だって事位は認識できるし、そのまま素直に理由を話したらめっちゃ研究とかされそうなので、フェイトが信頼してる相手以外には話さない方向でお願いしたい。
そんな感じでリンディさんにお願いすると、何とか上手く手を回してくれるらしいのでホッと胸をなで下ろす。
「しっかし、フェイトちゃんのお姉さんなのに、性格は全く真逆やね」
「そうだよね~フェイトは私とは正反対に大人しいし、頭も良さそうだよね」
まぁでも実際、フェイトが私と同じ性格してたら、本当にどっちがどっちか区別がつかなくなりそうだし、これはこれで丁度良かったのかもしれないね。
そのまま皆としばらく雑談を続け、タイミングを見計らって真面目な顔で話しかける。
「皆……フェイトと仲良くしてくれてありがとう」
「え? アリシアちゃん?」
「フェイトはさ……や、私も昨日会ったばかりだけど、この子が内気で何でも自分で抱えちゃうような真面目すぎる性格だってのは分かってる。だからこそ、今のこの子の笑顔は皆のお陰だって思うから、姉としてお礼を言わせてほしいんだ」
「お、お姉ちゃん……恥ずかしいから、やめてよ」
慌てた様子で顔を真っ赤にして、私の手を掴んでくるフェイトに微笑みながら、もう一度皆の顔を順番に見る。今のフェイトはきっとこの人達のお陰で笑っていられるんだと、心からそう思ったから。
「ねね、今私お姉ちゃんぽかったでしょ?」
「……台無しだよ」
私はフェイトを守っていくって決めたから、今までこの子を守り続けてくれてきた人達にお礼を、同時にこれから先の自分への誓いを……
フェイトの笑顔は誰にも奪わせない。この子がずっと笑顔で居られるように……私は頑張ろう。
「ああ、そうだフェイト。私にも魔法ってやつ教えてよ」
「え?」
「出来ればいつまでも、フェイトの傍に居てあげたいんだ。駄目かな?」
「う、ううん! 教える! 何でも教える!」
私のフェイトの姉としてのスタートは少し遅いのかもしれない。でも、それなら他の何倍も頑張ればいいだけだ。私だって母さんの子供、一度こうって決めたら曲げたりなんてしない。いいお姉ちゃんの定義なんて私には分からないけど、私はこの子にとって笑顔で接していられる……心から甘える事の出来る存在でありたいと思う。
接した時間はまだ短いけど、この子を好きになるのに長い時間なんて必要なかった。フェイトを守る。それは母さんが私に託した願いであり、同時に生き返った私の心に初めて生まれた決意でもあった……
この作品はStrikerSの世界に蘇ったアリシア・テスタロッサを主人公とした物語です。
オリキャラは出てきませんが、マテリアルズの面々はそこそこ登場します。
ちなみにフェイトは映画版で、アリシアの夢を見た設定で、プレシアも映画版基準です。