アリシアお姉ちゃん奮闘記   作:燐禰

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拝啓:親友、ありがとう

 青空が再現された訓練場で、轟音を響かせながらアリシアとシグナムがぶつかり合う。近距離、中距離、遠距離と多彩な手札を切り替えながら戦うアリシアとは対照的に、シグナムは愚直とすら感じるほど真っ直ぐアリシアに向かい剣を振るう。

 ともすればそれは冷静さを失った力任せの戦法とも見えるが、そんな事は無い。あくまでアリシアに対して、この戦法が最も有効というだけ。シグナムは歴戦の勇士であり、その戦闘経験は並ではない。時に冷静に、時に烈火の如く、時に愚者の様に……莫大な戦闘経験に基づき、シグナムはアリシアに対しての戦術を研ぎ澄ましていく。

 

 アリシア・テスタロッサの戦い方は、桁外れの状況判断能力と奇策を張り巡らせての一撃離脱。強者の心の隙を絡め取る様な戦い方には天賦の才すら感じる。将としては悔しく感じる部分もあるが、シグナムは冷静にその部分に関してはアリシアが上だと分析している。

 裏の読み合いでは敵わない。奇策を張り巡らされれば、どんどん泥沼の中心へと引き込まれていく。ならば、それをさせなければいい。近接戦闘ではシグナムの方が圧倒的強者である以上、ひたすら密着し剣を振るえば、そう易々とアリシアが有利な展開には持ち込まれない。

 

「紫電一閃!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!?」

 

 シグナムの刃がアリシアを捕らえ、何度目か分からない叫び声と共にアリシアは吹き飛ぶ。廃ビルに突っ込み土煙を巻き上げるが、数秒の後当り前の様に煙を押しのけてアリシアが姿を現す。

 

「……(未だあの余裕……また有効打は入っていないか。本当に見事だ……テスタロッサ、貴様の言葉に偽りは無かった。お前の姉は、確かに恐るべき強者だ!)」

 

 アリシアの力を認め、凶暴にすら見える笑みを浮かべる。強者との戦いはシグナムにとって喜ばしいものであり、特にアリシアのようなタイプの強者は珍しく、飽きが来ない。

 身に纏う炎が煌めきを増し、剣を握る手に力が宿る。鋭い眼光で自分を見据えながら、ジッと空中に留まるシグナムを見てアリシアは考える。

 

「……(こっちの罠に突っ込んで来てくれなくなったし、こっちから向かえば即密着される。さて、どうすれば切り崩せるのかな。近接戦闘じゃ私に勝ち筋は無いけど、もうそうそう遠距離攻撃も当ってくれないか……)」

 

 シグナムから見れば、アリシアは余裕の表情を浮かべ、未だ戦局を手の内に納めている様に見える。しかし当のアリシアは、余裕など欠片も無かった。

 アリシアはシグナムの攻撃を今まで最小限のダメージに抑えている。そう、最小限……ゼロでは無い。10のダメージを1に減らしたとしても、10回攻撃されてしまえば明確なダメージになってしまう。

 

「……(くっそぅ……やっぱ、滅茶苦茶強いよ。ちょっとでも気を抜いたら、膝から崩れちゃいそう……駄目だ。気を緩めるな! 笑え、余裕たっぷりに笑うんだ! 弱者の私が、精神的優位まで失ったら本当に詰んじゃう。考えろ、考えろ……一瞬だって気を抜くな! シグナムの次の手、攻撃の種類、交差する場所)」

 

 アリシアは凡才であり、まぎれも無い弱者。デバイスの力でいくらか見栄えをよくしても、そのスペックが上がる訳ではない。もう既に彼女の体力は限界が近くなっており、魔力も半分を切った。シグナムは多少ダメージこそあるが、魔力消費の少ない近接戦闘を主軸に攻めている為、まだまだ魔力にも体力にも余裕がある。

 

 アリシアは考える。才能無き弱者である自分にとって、思考停止は即ち敗北だと理解しているから。シグナムの狙い、場の状況、次の展開。膨大な選択肢を頭の中に広げながら、必死にソレを……アリシアがシグナムに勝てる道を探し続ける。

 

「……(長期戦の目は無い。長期戦に持ち込まれたら、その時点で詰む。ならやっぱり短期決戦……魔力温存とか言ってらんない。次の攻めに全てを賭けるつもりで行かないと……シグナムに見せていない手札は三つ。この流れから切り札で倒せなければ、私の負け……さて、気合い入れていきますか)」

 

 頭の中で考えを固め、アリシアは新たなデバイスコアを取り出す。

 

「フォーチュンドロップ№6『ミラードール』」

 

「むっ……(等身大サイズの人形? なんだ? 今度は、一体どんな機能がある?)」

 

 アリシアが起動させたのは、アリシアと同じサイズの人形。ここまでの戦いから、何らかの能力を備えていると見て間違いない。その考えを肯定する様に人形がブレ、アリシアの姿に変わる。

 

「『踊れ』ミラードール!」

 

「ッ!? 自立戦闘型デバイスか!」

 

 そう、アリシアのマルチデバイス6番目の形態は、自立戦闘型デバイス・ミラードール。アリシアの発する単語のトリガーによって自動で戦闘を行うデバイスであり、アリシアの姿を形取る事で陽動等にも利用できる7つの形態で唯一複数の機能を持つ形態。

 ハリセンを構えて一直線にシグナムへ向かう姿は、正確かつ高性能のデバイスである事を感じさせる。しかし……

 

「……(遅い。それに攻撃が単純だ)」

 

 そう、自立戦闘型デバイスは……所謂自動攻撃スフィアに近い。その戦闘力は決して高くは無く、下級魔導師相手ならともかくシグナムに通じるレベルではない。瞬時に叩き落とせる筈だが、シグナムは強く反撃せずに攻撃を受け流していく。

 シグナムは警戒していた。ここまでの流れから見て、アリシアが何の勝算も無くこのデバイスを向かわせたとはとても思えない。となれば、このデバイスにも何らかの機能がある筈。しかも当然それは、先程までの状況を覆すもの……攻撃、或いは破壊によって発動する能力か、それとも攻撃系の能力か……アリシアがこちらに向かってこないのは、巻き込まれない為か……そうシグナムは考えた。しかし機能の正体は推定できない。

 

 しばらく攻撃を受け流していたシグナムは、ある考えの元アリシアに視線を動かす。いつの間にか手にはインパクトフィストが同時展開されていたが、やはり動く気配は無い。

 

「……(読み合いに付き合う必要はないか……このデバイスは無視して直接仕掛ける!)」

 

 不明な機能を考える必要はない。少なくとも現時点でこの形態は脅威にはなりえない。そう考えたシグナムは、デバイスの振るったハリセンを強く弾きアリシアに向け加速の体勢を取る。ここからアリシアの元まで、シグナムの速度なら1秒以下……体勢を立て直してこちらに向かうデバイスを無視し、シグナムは強く踏み込む。

 

「それ、外れだからね」

 

「なにっ!?」

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「ぐっ、がはっ!?」

 

 声が聞こえた。そして直後に背後から凄まじい衝撃。地面に向かって吹き飛ばされながら視線を動かすと、ファクトフィストを振り抜いたアリシアと、『先程までアリシアが居た場所に立っている』デバイスが見えた。

 

「……成程、そのデバイスは貴様と位置を入れ替えるのか(駄目だ。まともに入った……ダメージが、くそっ……衝撃による痺れが体から抜けるまで、10秒はかかる。この隙は、まずい)」

 

「そうだよ。このデバイスは転送術式をいじったものを搭載しているから、瞬時に私と位置を入れ替える事が出来る……まぁ、魔力消費は半端じゃないけどね(思ったより、効いてる? 追い打ちをかけるべきか、それとも当初のプラン通りいくべきか……でも、誘いこまれてる可能性もあるし……ああ、くっそう! エア・ハンマーここまでとっとけばよかった)」

 

 №6ミラードール。この形態が有する最大の機能は、デバイスとアリシアの位置を転送魔法で入れ替えると言う強力な能力。しかし、無論強力だからこそリスクも大きい。先ず術式準備に最短で30秒、そしてこの機能による魔力消費は……何とアリシアの最大魔力量の10%である。

 この発動によりアリシアの残り魔力は3割を切り、だからこそここで追撃するべきかをアリシアは数秒迷った。しかし最終的に棚ぼたに頼るのは止め、当初の予定通りシグナムに背を向けて逃げ出す。

 

「ッ!?(距離を取ろうとしている? 身を隠されれば、奇襲を受ける可能性が……ぐぅ、早く動け)」

 

「……№3、№6解除。フォーチュンドロップ№5『ガンホエール』」

 

 体に力を込めて起き上がるシグナムに対し、アリシアは最高速度で逃げながら新たな形態を展開する。黒く大きめな片手銃。

 

「……(シグナム相手だと……3分はいるかな? 逃げ切れるか……)」

 

「逃すか! レヴァンティン!」

 

 再び空中に飛翔したシグナムは、遠ざかるアリシアを見据える。直後にレヴァンティンにカートリッジが二つロードされ、デバイスは弓の形状に変わり、カートリッジが付いた矢が手に現れる。

 ボーゲンフォルム。ベルカ騎士が苦手とする遠距離攻撃を、一撃必殺にまで高めたシグナムの切り札。

 

 矢を弓につがえ、必殺の魔力が練り上がっていく。そしてその異変は、逃げるアリシアも気が付く。

 

「遠距離攻撃ッ!? くぅ、フォーチュンドロップ! №1スマッシュハリセン!」

 

 シグナムの様子を見たアリシアは、それが必殺の一撃だと言う事を瞬時に悟る。そして腰のホルダーにガンホエールを差し込み、スマッシュハリセンを取り出しながら地面に降りる。避けるのは恐らく不可能。防御するのも不可能。ならば彼女が取れる手段は一つだけ。

 

 地面に降りて何度か地面を踏みしめ、アリシアはハリセンを両手で構えて腕を引く。

 

「駆けよ、隼! シュツルムファルケン!」

 

 そしてその直後シグナムの準備が終わり、矢が放たれる。砲撃魔法を越える程の速度、周囲のビルを根こそぎ破壊し尽くす程の魔力を纏った炎の鳥。恐ろしい程の速度で迫る一撃に対し、アリシアは強く片足を踏み込む。

 

「放て、逆転のアーチ!」

 

 炎の鳥に白きハリセンが叩きつけられ、一瞬の硬直。瞬間ハリセンの周りに魔法陣が展開し、同時に衝撃が走る。シグナムの一撃はあまりに重く、アリシアは顔を歪めたが……歯を食いしばり、更に強く足を踏み込みハリセンを振り抜く。

 

「スマッシュ、ホームラアァァァァン!!」

 

「反射術式だと!?」

 

 遠距離の魔力攻撃を反射するハリセンの一撃により、炎の鳥はまるで反旗を翻す様に放った主へと向かう。流石のシグナムもシュツルムファルケンを返された事には理解が追いつかず、迫る炎の鳥を前に硬直。直後に轟音と共に爆発が起こる。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 しかし、強烈な攻撃を撃ち返したアリシアもかなりの消耗をしている。バリアジャケットはあちこち破損し、肩は大きく動いている。

 大きく煙が上がる着弾地点を見ながら、アリシアは悔しそうに呟く。

 

「これで、勝てたら嬉しいけど……その程度なら、もうとっくに決着付いてるよね」

 

「……ああ、その通りだ」

 

「虚を突いた高速の矢を……逆手で掴むって、どんな反射神経……」

 

 煙の中から逆手で矢を掴んだシグナムが現れ、その絶技とも言える反射神経を見てアリシアは顔を歪める。これで決着だとは思っていなかった。しかし、多少はダメージを期待していたのだが……新たなダメージはほぼ無い。つまりそれほど完璧にあの凄まじい速度の矢を掴んだと言う事。

 

「……(まっずい……スマッシュホームラン使ったから、ガンホエールに回せる魔力が……くそぅ、出来れば三本は貯めたかったけど、二本が限界だね)」

 

 アリシアは即座に体を反転させ、再び低い高度で逃げる。あまりに低い高度、地面すれすれをアリシアが飛び、その後ろをシグナムが追う。

 当然アリシアとシグナムの飛行速度には大きな差があり、二人の差はぐんぐんと縮まっていく。アリシアも当然直線では距離を詰められると理解しており、廃ビルの間を器用に抜け、少しでも逃げようとしている。

 

 しかし広い訓練場に再現された街は、当然の如く広く狭い路地ばかりでは無い。ついにアリシアは大通りに追い立てられ、ここからシグナムとの距離が一気に縮まる……筈だった。

 

「ハーヴェスト・クレイジーアップル!」

 

「ッ!?」

 

 アリシアが手を振った瞬間、いつの間にか手には№2アリアドネが装備されており、最初にこれを使った際にこっそりと張り巡らせた魔力糸が一斉に爆発する。

 背の高いビルが崩れ、シグナムの上部に瓦礫の山が壁の様に押し寄せてくる。訓練場に再現された建物は、それなりの強度を持っており、これだけの瓦礫が降り注げばシグナムとてタダでは済まない。訓練場自体の設定が非殺傷である為物理ダメージは受けないが、今の消耗した状態で喰らう訳にはいかなかった。シグナムであればこの程度の瓦礫が降り注ぐ前に抜ける事は可能な筈だが……上空の道は塞がれた。これがアリシアの狙いだとするなら……

 

 シグナムの考えを肯定する様に、アリシアは腰のホルダーからガンホエールを抜く。シグナムの視線の先、構えられるガンホエールの銃身には……赤い二本のラインが走っている。

 

「……(なんだ、あの赤い模様は? 最初奴が展開した際には、無かった筈……あれは、まさか! 魔力か!?)」

 

「撃ち抜け! チャージブレイカー!!」

 

 №5ガンホエールに備わっている能力は、魔力の蓄積と一斉発射。引き金を引くまで注がれる魔力を貯め続け、トリガーを引くと同時に、蓄えた魔力の全てを砲撃魔法として発射する。性質上、連射は不可能だが、その一撃の威力はフォーチュンドロップの七つの形態の中でも、特殊な一つを除いて最高火力。

 正しく渾身の一撃と言える砲撃魔法は、一直線にシグナムに迫る。

 

「引けば、負ける……ならば! 貫く!」

 

 シグナムの行動は早かった。迫る砲撃魔法に対し、突き出す様にレヴァンティンを構え、カートリッジをロードして先端に魔力を集中させ全力で空を駆ける。

 自身が矢になったと言える全力の一撃を持って、アリシアとシグナムの一撃が衝突する。

 

「疾風迅雷!」

 

「うっそっ!?」

 

 死力のぶつかり合いを制したのは……シグナムだった。圧倒的魔力が集中された突きにより、アリシアの砲撃を貫く。

 そしてそのまま速度を維持し、シグナムは一瞬のうちにアリシアの懐に飛び込む。

 

「紫電一閃!」

 

「あぐっ!?」

 

 シグナムの一撃がアリシアの体を捕らえ、アリシアが吹き飛び地面を転がる。それは先程まで幾度となく見てきた光景ではあったが、今回は今までとは違った。

 

「……手ごたえ、ありだ」

 

「ぐぅ……あぅ……」

 

 全力の一撃を破られ、僅かに硬直した体。ほんの数コンマアリシアの思考が固まり、完全にシグナムの一撃がその体を切り裂いた。

 

 地面に倒れたアリシアは、震える手を動かして必死に起き上がろうとしているが……元々ダメージの蓄積していた体にあの一撃。今それは凄まじいダメージとなってアリシアに襲いかかっている。むしろ、これで気を失わなかったのが見事と賞賛すべき程だが、シグナムは冷静に……そして冷徹に剣を構える。

 

「無駄な質問だとは思うが……ギブアップするか?」

 

「……し……なぃ……」

 

「そうか、ならばトドメを刺す事が、強敵への礼儀だろう」

 

 もはやアリシアは起き上がれないだろう。これまで幾度となく敵を打ち破ってきたシグナムにはそれが分かる。更にアリシアの魔力は、先程の砲撃魔法でもう殆ど残っておらず……防御魔法もまともに使えないだろう。

 シグナムは最後まで全力で戦う事が礼儀だと考え、剣を構える。そして数秒の後、高速でアリシアに向かい剣を振るおうと……した。

 

「なっ!?」

 

 シグナムの攻撃は……止まった。いや、止められた。アリシアまで一直線に向かう途中、空中でその動きが完全に固まっていた。

 そして、倒れているアリシアの口元に……深い笑みが浮かぶ。

 

「……右手の緑の糸は、爆発する果実クレイジーアップル……左手の『透明な糸』は、相手を捕らえる粘着性の糸……アラクネ!」

 

「透明な魔力糸だと……いや、だが、そんなものをいつ!?」

 

 勿論魔力糸の色を変える事は出来る。透明にするのは多少難易度が高いが、決して不可能ではない。そしてその糸に相手を捕らえる効果を付与することも可能だ。しかし、いつの間にこれを張られたのか分からなかった。アリシアはシグナムの一撃で大きく吹き飛び、そして今も現在倒れ伏している。

 

「……この場所、見覚えない?」

 

「ッ!?」

 

 アリシアの言葉を受け、慌てて周囲を見渡してシグナムは気が付く。軽く爆発の被害を受けている周囲の建物、見覚えのある構図。そう、ここはアリシアがアリアドネを初めに使用した場所だ。

 そしてシグナムは瞬時に悟る。アリシアが背中を向け、一心不乱に逃げていたのは、先程急に反転して攻撃を仕掛けてきたのは……全て、予め仕掛けておいたこの場所に誘導する為。

 

「……(最初に緑の糸だけを使い、私に奴の魔力糸は緑なのだと錯覚させた? 馬鹿な、いつからこの展開を読んでいた!?)」

 

 周到に計画された罠に驚くシグナムの前で、倒れていたアリシアは震える手を地面に付き力を込める。

 

「ぐぅぁ……あぁぁぁぁ!」

 

「馬鹿な!?(あのダメージで立つだと? どれ程強靭な精神力だと言うのか……)」

 

 大ダメージを受けながら、雄叫びと共に立ち上がったアリシアの姿は……まぎれも無い怪物。そして、この状況はシグナムにとって圧倒的に不利、いやそれどころかこのままではただの的でしかない。

 慌てて糸の拘束を解こうと体と動かすシグナムに、アリシアは素早く手を向ける。するとシグナムの肩、体、足に青緑のバインドが浮かびあがる。

 

「三連バインド!?」

 

「……私のへっぽこバインドでも……三つなら、そう簡単に抜け出せないよ」

 

「くっ……」

 

「そして……これが、ラストターンだ!!」

 

 アリシアが今まで見せた攻撃の中で、最も火力があったのは先程の砲撃魔法。しかし、あれにはそれなりの時間が必要であり、しかも現状のシグナムの状態でまともに喰らったとしても、大ダメージは受けるが落ちる事は無い。アリシアにそれが分からない筈がないと思うシグナムの頭に、一つの言葉が蘇る。

 

「……(七つの形態を持つマルチデバイス……七つ? まだ、あと一つ…)」

 

「フォーチュンドロップ! №7! 『セブンスカード』!!」

 

 叫び声と共に、アリシアの最後のデバイス。今まで一度も使用していない……本当の切り札が姿を現す。

 

 アリシアの手に現れたのは、少し大きめの紫色に染まったカード型デバイス。形としては特別凄まじいものではないが、それを見たシグナムの目は驚愕一色に染まる。

 

「な、なんだ……その、馬鹿げた魔力は……」

 

 そう、アリシアが手に持ったカードからは桁違いの魔力が迸っており、彼女の力量から考えればそれはあり得ない大きさだった。

 

「教えてあげるよ。このセブンスカードは、カートリッジシステムと紫天の書の技術を合わせて完成した物」

 

「紫天の書!?」

 

「このセブンスカードは、他人の魔力と術式を保存し……行使できる!」

 

「なっ!?」

 

「発動は一度きり、一度使えばもう一回誰かに頼んで保存してもらわないと、ただの置物になっちゃうデバイス。でも、もう意味は分かるよね……このデバイスは、一度だけ他人の魔法を、その人の魔力で、私が発動できる!」

 

 アリシアへの切り札として、ディアーチェとユーリが作り上げた最高傑作。この一枚で武装隊一個小隊のインテリジェントデバイスが作れるほどの技術の塊。どんな物でも利用し、勝利を掴もうとするアリシアに贈った最強の一撃を生みだすジョーカー。

 

「セブンスカード……発動!」

 

「ッ!?」

 

 アリシアの掛け声と共に、セブンスカードは形を変える。あくまで気分重視の外見だけの再現だが、アリシアが手に持つデバイスは、シグナムにとっても見覚えのあるもの。示す色は「紫」。

 

「……(ディアーチェ、力を貸してね)」

 

「……エルシニアクロイツ」

 

 茫然と呟くシグナムの視線の先で、アリシアの周囲に古代ベルカの魔法陣が展開する。それは火力という一点においては他の追随を許さない広域殲滅型魔導師の必殺の一撃。いかにシグナムと言え、この一撃を受けては……しかしバインドを解くのは間に合わない。

 

「紫天に吼えよ、我が脈動、出よ巨重、集え暗黒、王命を下す、敵を屈服させよ!」

 

「……見事だ」

 

 それは騎士の誇りからか、シグナムは脱出が間に合わない事を悟ると、全身の力を抜く。それが全身全霊を尽くして挑んできた好敵手への礼儀。

 そして口からは嫌味の無い、心からの本心が零れ落ちる。

 

「我が暗黒、ここに極まれり! 平伏せよ! ジャガーノート!」

 

 黒き暴虐の閃光がシグナムを飲み込み……勝者は一滴の涙を溢して咆哮する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




№1「ワンチャンあった」
№4「遺憾である」

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