アリシアお姉ちゃん奮闘記   作:燐禰

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拝啓:リニス、おかえり! それから……ただいま

 風が吹く緑の丘で、私とリニスが向い合う。なんて、言っていいんだろう……

 

「……リニスさ、なんか……えと……ちっちゃくない?」

 

「ふふふ、困ったことにもう大人の姿を維持できる程力が残ってないんですよ。ここに居る私は、プレシアとの契約が終わり、魔力の残りカスで体を保っている状態ですからね」

 

 そう、今のリニスの姿は……私がフェイトの夢で見た大人の女性では無く、私と同じ位の子供の姿。笑顔にもどこかあどけなさが残っており、夢で見た姿とは大きく違っていた。

 けど、なんだろ……むしろ私的にはこっちの方がしっくりくるかもしれない。私とリニスの関係は……家族で、友達で、何て言うのか対等だってずっと思ってた。だからこそ同じ目線の方が、ずっとしっくりくる気がする。や、確かに私が死んでた時間もリニスが生きてたら、大人の姿で相違無いのかもだけどね。

 

「ずっと、私の中に居たんだ……」

 

「ええ、ずっといました。貴女が目覚めてから、ずっと同じ景色を見ていましたよ」

 

「……フェイトの事を、育ててくれたんだよね」

 

「ええ、私はあの子の事は娘の様に思っていますよ。貴女の事は……う~ん。家族、姉妹、主従、恋人、親友……何て表現して良いか分かりません。ただ何物にも代えがたい大切な存在である事だけは、確かなんですけどね」

 

「あはは、それは私も同感だよ」

 

 穏やかに、本当に穏やかに言葉を交わし合う。聞きたい事もいっぱいあるのに、何故かそれを言う気にはならない。それよりももっとこの時間をって本能が思っているのかもしれない。

 

「……それにしても、貴女は相変わらずですね。アリシア?」

 

「うん? 何が?」

 

「頑張り屋さんで、明るく前向きで……『隠す事ばかりがとても上手い』、昔と同じです」

 

「……やっぱ、リニスには……分かっちゃうんだ……」

 

 その言葉は、驚くよりも納得の感情が大きかった。私とリニスは、私が死んじゃうまでずっと一緒に居た。本当にいつも一緒に居たし、私はリニスには何でも話した。隠し事なんてしなかった。

 だから、だろうね……こんな、簡単にバレちゃうんだ。フェイトにも王様にも、気付かれた事は無かったのに……

 

「……貴女はプレシアの事が大好きでした。将来はプレシアの手伝いがしたいからと、遊びたい気持ちを抑えて勉強ばかり……そんな貴女が、彼女の死を受けて平静でいられるわけがない」

 

「……」

 

「気付いてますよ。貴女がそれを押し込めたのを……勉強が嫌いだと公言し始めたのも、ソレを思い出さない為……貴女が生き返ってから、一度もプレシアの事で涙を流していない事も……」

 

「……だってさ、生き返るなり妹が出来ちゃって……凄く私を頼りにしてくれて……弱い所なんて見せられなくて……」

 

 顔に震える手を当てる。だって、ずっと我慢してたんだ。二年以上ずっとずっと、溢さない様に気を張ってたんだよ……誰にも気付かれない様に、必死に隠してたんだ。

 ううん。もしかしたらただ、それを認めたくなかったのかもしれない。ずっとずっと張り裂けそうな心の内を、認識してしまうのが怖かったのかもしれない。

 

 震える私の体に、リニスがそっと手を触れさせる。頬を優しく撫でてくれながら、リニスは暖かい笑顔で口を開く。

 

「貴女は、本当に強い人です。私の知る誰よりも、本当に……でも、感情のある一人の人間なんです。だから、私の前でくらい……強がらないで下さい。私の貴女の間に、隠し事は無しでしょう?」

 

「……リニスゥ……」

 

 もう限界だった。ずっと押し込めていた感情が沸き上がり、私はリニスの手をしがみつく様に掴んで……大粒の涙を溢す。

 

「……私……私……ママの事……助けてあげられなかった! ありがとうも、さようならも、何も言えなかった! 大好きだったのに、ママと一緒に居たかったのに! 何も、何も出来なかった!!」

 

「……」

 

「う、ぅぁ、あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「……」

 

「ママ! ママッ!! なんで、何で居なくなっちゃったの!! 何で! 何でッ! 嫌だよ……もう、ママと会えないなんて……嫌だよ……」

 

 私を抱きしめてくれるリニスの胸で、私は大声で泣き続ける。ずっと溜め込んでいたものを、全て吐きだす様に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれぐらい泣いただろう。もう一生分の涙を流したんじゃないかってぐらい泣いてから、ようやく私は顔を上げる事が出来た。何も言わず、ただ私の涙を受け止め続けてくれたリニスのお陰で……

 

「……ありがと、リニス。おかげで、凄くスッキリした」

 

「強すぎるのも、考えものですね……周りに、フェイトにすら全く気付かせないなんてね」

 

「あ、あはは……」

 

 少し呆れた様に話すリニスの姿が、なんだか猫だった頃の呆れた様な姿と重なり思わず苦笑する。リニスはやっぱりリニスだなぁって、暖かい気持ちになれた。

 

 その後リニスと一緒に、大きな木の根元に座る。さっき大泣きしちゃったせいか、私の方がなんだか気恥ずかしくて、何て口を開いて良いのか分からなかった。どこか穏やかな沈黙が流れ、少ししてそれはリニスによって破られる。

 

「……私は、フェイトのデバイス……バルディッシュを完成させ、自分の役目を終え消滅を迎えるつもりでした。心残りは一杯ありましたが……もう、これ以上は『耐えられない』と、そう、思ったんですよ」

 

「……耐えられない?」

 

 なんだか引っかかる言い回しだ。耐えられないという言葉をそのまま受け取るなら、リニスは何らかの苦痛か重荷を背負っていて、それに耐えられなくなったから消滅を選んだって言ってる様に聞こえる。

 リニスの視点で見ていた夢では、声が聞こえなかったのでハッキリそれが何かは分からないけど……フェイトの視点で見た夢の範囲では、母さんがリニスに酷く当たっていたって感じでは無かったんだけど……

 

 

「……消滅を選んだ私は、その前に貴女の遺体に残る全ての力を宿し……プレシアの元を訪ねました」

 

「……それが、さっき見た夢?」

 

 どうやら先程の疑問には答えたくないのか、この後で話すからあえて無視したのか分からないけど、話は進んでいくみたいだね。リニスは私に隠し事はしない筈だから、たぶん後者……これからその耐えられないって言葉の真意が分かるんだと思う。

 

 でも、さっきの夢か……確か母さんは、凄く取り乱してるみたいに見えたけど……

 

「私は、最後にプレシアを止めようとしました。あの時のプレシアは、本当に世界の全てを滅ぼしてでもアリシアを生き返らそうとしていましたからね。彼女の元を訪れ、貴女がそんな風に自分を顧みず、フェイトの気持ちを無視し、沢山の犠牲の上にアリシアを生き返らせても……優しいあの子が、喜ぶ筈がないと……」

 

「……それで、母さんはあんな風に……」

 

「ええ、きっとプレシアも気が付いてはいたのでしょうね……認める事は、出来なかったみたいです。結局、私はプレシアを止める事は出来ませんでした」

 

「それは、仕方ないんじゃないかな? その時の母さんは、きっと他の言葉なんて耳に入らなかったんだと思う」

 

 母さんの気持ちは、よく分かる。多分、それは逆でもそうだったんだと思う。母さんが死んでしまって、私だけが残っていたら……私も、もしかしたらそんな風に世界を滅ぼしてでも、大好きな母さんを生き返らせようとしたんじゃないかな?

 きっとそれは凄く強い感情で、他人がどうこう言って簡単に止められるものではないと思う。だからリニスが母さんを止められなかったのは、仕方がない事だとは思うんだけど……リニスは納得していないみたい? いや、もしかしたらそれが耐えられないって言葉に繋がるのかもしれない。

 リニスは少し沈黙し、一度大きく首を横に振ってから体ごと私の方を向く。

 

「……もし、私が本当に、心からプレシアを止めようとしていたら……止められたんじゃないかって思うんです」

 

「……え?」

 

「先程の言葉は極端な話かもしれません。世界を犠牲にしてでもアリシアを生き返らせる。それが間違っている事だと言うのは、しっかり頭で理解していました。そして何度もプレシアを止めようと、苦言を呈しました」

 

「うん」

 

「でも、私の言葉は全部……ただの張りぼてだったんです」

 

「リニ……ス?」

 

 直後に強く体を抱きしめられる。リニスは顔を伏せており、その表情は見えなかったけど……肩がふるえていた。

 そして、私の体に雫が落ちる。

 

「……私が……貴女を……諦められる筈なんて……無かった」

 

「……」

 

「頭ではそれが間違いだと考えていても……心は違いました。もし、もし、本当に貴女が生き返る事が出来るなら……それに縋りたい気持ちが消えてくれなかった。天秤にかけた時……私にとって……貴女の存在は……世界より、他の全てより……重かったんです……」

 

 嗚咽と共に涙が零れ落ちてくる。先程とは逆、リニスが涙を流し私が受け止める。そんな形になりながら、リニスは震える声で言葉を続けていく。

 

「だから……私の言葉には、心が無かった。そんな中身の無い、自分の心にすら嘘をつく仮初の言葉でプレシアを……止められる筈がなかった。それでアリシアが喜ばない事は分かっていても、どうしても……貴女が生き返る。その馬鹿げた希望を捨てる事が出来なかった」

 

「……リニス」

 

「……もう一度、貴女の笑顔が見たかった……貴女がくれた、この名前をもう一度呼んで欲しかった!」

 

 私を抱きしめる力が強くなり、リニスの声も大きくなっていく。私は戸惑いを消し、その涙を静かに受け止める為、リニスの背中に手を回して抱きしめる。

 

「もう、耐えられなかったんです。あのままでは、私もきっと……プレシアと同じ様に、貴女を生き返らせる為に狂気を身に宿していた。だから、消える事にしたんです」

 

「……」

 

「……会いたかった。貴女に会いたかった……何年も、何年も……ずっと……」

 

「いっぱい、待たせちゃったんだね。ごめんね……辛かったよね」

 

「アリシアッ、私は、私は……」

 

「大丈夫。ちゃんと伝わってるよ……リニス」

 

 そう、そんなんだ。これが私とリニスの関係……どっちかが一方的に支えたり、守ったりじゃない。互いに対等で、弱い所も全部見せて……そんな絆を紡ぎ合う関係。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は私の方が、ありがとうございます。ですね」

 

「あはは、そうだね」

 

 泣きやんだリニスと苦笑しながら向い合う。凄く幸せな時間だ。微かに吹く風も、時折訪れる沈黙も、全てが心地よい。でも、その時は近くなってきちゃってるんだよね?

 

「……リニス。消えちゃうの?」

 

「……もう、私には殆ど力が残ってません。むしろ、よく持った方なんですよ。自分で言うのもなんですけど、私は使い魔としては規格外なレベルで大きな力を持ってましてね……プレシアとの契約が切れてから、何年も自分の魔力の欠片で存在を維持できたのは凄い事なんですよ。えっへんって感じですね」

 

 今は小さな体を少し反りながら、おどける様な言葉が帰ってくる。それはどこか無理に明るく振舞っている様で、つまりそれは……今の言葉が真実だと言う何よりの証拠。

 

「質問変えるね……リニス。消えたいの?」

 

「……ずるい質問ですね」

 

「うん、分かってる」

 

「……消えたくないです。あの時は、それで良いんだって思いました。でも、本当に貴女が生き返って……どうしようもない程、大きな未練が出来ちゃいました」

 

 私には隠し事はしない。リニスが語ったその言葉の通り、彼女は包み隠さず自分の心情を吐露してくれる。考えてみれば、奇妙なものだ。私もリニスも、本当はとっくの昔に死んじゃったはずなのに……今こうして、当り前の様に言葉を交わしている。

 人の見る夢は儚いものだって言うけど、実際間違いでは無いんだろうね。この世にはどうしようもない事がいっぱいあって、どうにもならない気持ちを抱えながら人は生きていく。でも、だけど……これは本当に、どうにもならない問題なのかな?

 

 くるぐると頭を巡る思考に沈黙してた私の手を取り、リニスは儚げに微笑みを浮かべる。

 

「……アリシア。何か、最後に貴女にしてあげられる事はありませんか? 私の残った力は、それに使いたい。まぁ、あまり大した事は出来ませんが、この夢の中で叶えられる事なら……」

 

 本当に消えてしまいそうなほど儚い笑顔。目には微かに涙が浮かび、必死に訴えかける様な光が宿っている。たぶん、何かを残したいんだと思う。私の中に、リニスが居たって記憶を残してから消えたい。私に忘れられない様に……

 リニスの悲痛な覚悟も、私に対する大きな信頼と期待も、痛いほど伝わってきた……だけど、却下。却下だ! リニスがこのまま消える? 最後に私に何かしてくれる? ふざけんな……私はそういう事にはいそうですかって納得できる程諦めの良い性格はしていない。

 

「じゃあ……私と使い魔の契約を結んで」

 

「……はい? ちょ、ちょっと待ってください。一体何を……」

 

「今のリニスは、母さんとの契約が切れて存在を維持できなくなってきてるんでしょ? だったら、私と契約を結べば……私の魔力で、リニスの存在を維持できるんじゃない?」

 

 そう、理屈としては間違って無い筈だ。リニスがもう完全に消えてしまっていたのなら不可能だろうけど、今こうして存在している以上……新たな契約を結ぶ事は出来る筈。完全に元通りには出来ないかもしれないけど、今の状態を維持する事は出来るんじゃないかなって思う。

 

「あ、貴女は、本当に、突拍子の無い事ばかり……」

 

「シャラップ! お小言じゃなくて、それが可能かどうかを答えなさい!」

 

「……………………可能です。確かに、貴女と新たな契約を結べば、私は自分の存在を維持できる。でも、そんな単純な事じゃない。先程も言いましたが、私は使い魔としては規格外の存在。あの比類なき魔力を持つプレシアでさえ、私の維持には労力を使うと溢していた程です」

 

 まぁ、それも何となくは予想していた。多分リニスの力は、上級魔導師に匹敵する程……少なくとも、私よりは遥かに上の力を持っている筈だ。

 使い魔の契約ってのは、単純に言えば主従と使役に近い。術者より遥かに強大な存在と契約を結ぶ事には、恐らく何らかのリスクが伴う。だから、リニスはその提案を出してこなかったんだって思う。

 

「それで、リスクはどの位なの?」

 

「私の今の状態を維持するだけでも、貴女は恐らく全体の3割近い魔力を回さなければならなくなります。ただでさえ魔力量の少ない貴女が、7割の魔力しか使用できないと言うのは、あまりにも重……」

 

「よっし、契約しよう! 魔法陣とかいるのかな?」

 

 やれやれ、一体どれほど重いリスクなのかって思ったら……軽過ぎだったね。この程度のリスクなんて、リニスの存在と天秤にかける意味すらない。即断即決でオッケーだね。

 

「ってちょっと!? 私の話を聞いてますか!?」

 

「聞いてるよ。私の魔力の3割とかって、格安条件でリニスが消えなくて済むんでしょ? んじゃ、悩む事なんてないじゃん」

 

「た、確かに、今の私の存在。貴女の心に魔力として宿っている状態では……契約を結べる可能性があるのは貴女だけです。しかし分かってるんですか、アリシア! 貴女の魔力は、フェイトと比べても三分の一以下しかないんですよ。ハッキリ言ってへっぽこです、へっぽこ!」

 

「お~い。何か毒吐き始めたよこの猫。や、事実だけどさ……」

 

 どうやらリニスは相当慌てている様だ。理由は……まぁ、大方私の足枷になりたくないだとか、そんな辺りだろうね。リニスをこの状態で維持する為に必要な魔力を1とすると、私の最大魔力は3~4、フェイトや母さんは10以上ってとこかな? いや、こうして考えると、私の魔力ってほんとポンコツだなぁ……

 

「貴女は……強くなろうとしてるんでしょ? どれだけ、努力しているか、私は泣きたいぐらいに分かってます。なのに、こんな、未練がましくしがみ付いている私なんかの為に……」

 

「……はい、そこ! その前提間違ってるからね」

 

「……え?」

 

「7割の魔力しか使えない事と、100%の実力が出せない事はイコールじゃないでしょ? 7割の魔力しか使えないなら、その7割で120%の実力で戦えるように考えればいい。ただそれだけでしょ? そんなの……私が今までやってきた事と、何も変わらないよ」

 

「ッ!?」

 

 リニスの言葉が止まる。表情は驚愕から、涙を浮かべたものに変わり、唇を噛んで私を見つめる。もう、リニスだって分かってるんだろう。私が決して譲らない事は……

 

「リニスの、さっきの言葉さ……嬉しかった。だから、私も言うね。もし本当に弱くなったとしても、私の返答は変わらない。そんなもの程度で……私が、リニスを、諦められる筈がないよ」

 

「……ばか……」

 

 帰ってきた言葉は、たったの二文字分。だけど、その一言には山ほどの感情が込められている。やっぱ、魔力3割程度なんてのは安すぎるね。おつり考えなきゃいけないレベルだよ。

 

 リニスはそのまましばらく涙を流しながら沈黙し、それを拭いてからふっ切れた様な表情を浮かべる。

 

「改めて、私の方からお願いします。アリシア、私と……使い魔の契約を結んでください。これから先も、貴女と同じ景色を見させてください」

 

「うん!」

 

 その言葉と同時にリニスの足元に魔法陣が浮かび、同時に私の足元からも魔法陣が現れる。そしてその二つの魔法陣は、私達の間で重なり……私達を包みこむほど大きく広がる。

 

 煌めく円の中心で、私とリニスは同じ高さの目線で向い合う。さあ、これから契約を結ぶぞっと思ったけど……その前に一つ気になっている事がある。

 この契約はリニスの『今の状態』を維持する為のものだ。つまりあくまでリニスが存在できるのは、私の心の中にだけで、干渉出来るのも私に対してだけになるだろう。折角リニスがこうして存在してるんだし、フェイトとも会わせてあげたいんだけど……難しいのかな?

 

「そう言えば、結局リニスを現実世界に出す事は出来ないの?」

 

「……難しいでしょうね。プレシア程馬鹿げた魔力を持っていれば、取れる手段もあるでしょうが……アリシアの魔力では媒体でもなければ……媒体? そうか……私の体があれば……」

 

「リニスの体?」

 

「ええ、と言うより遺体……今は骨でしょうかね? それがあれば、貴女の魔力でも私を実体化させられるかもしれません」

 

 成程、確かに言われてみれば尤もな話だ。魔力だけでリニスを現実世界に呼びだすのは、本当に尋常じゃない魔力が必要だろう。少なくとも私には……いや、母さんぐらいにしか出来ない方法だろうね。でも、リニスと現実世界を結ぶ何かがそこに存在しているなら、それを軸に術式を構築出来るから、私にも可能かもしれない。

 

「とは言え、私の体が何処にあるか分かりません。私を使い魔とした際には、当然使っているでしょうから……プレシアが持っていたのは間違いないでしょう。共に虚数空間に消えてしまったのか、或いは彼女がどこかに捨てたのか……まぁ、どっちにせよ、今どうこうできる問題では無いですね」

 

「むぅ、それじゃ仕方無いね」

 

「ええ、それに、今でも十分過ぎる位の奇跡です。貴女とまた会え、これからも一緒に居られる。それ以上を望むのは贅沢と言うものでしょう……さぁ、アリシア。契約の言葉を……」

 

 使い魔の契約は、何かしらの設定の元に人造の魂魄を作り出し、死ぬ寸前や死んだとの動物に憑依させる事で完成する。生前の記憶を受け継ぐけど、人間を使い魔にする事は不可能だったりで、これを死者蘇生と呼ぶ事は無い。実際生まれてくる使い魔の性格も、その気になれば術者が設定できてしまう。なので極端な言い方をしてしまえば、ユニゾンデバイスを作っている様な分類の扱い。実際生前の記憶を受け継がなかったり、性格が全く違ってたり、そもそも喋ったりできなかったりって場合も多いみたいだ。

 

 その部分は術者の技量に大きく影響されるみたいだから、たぶん私が死んだリニスの人造魂魄を生成して契約したとしても、今の様な完璧に記憶を受け継いだリニスは生まれなかったと思う。でも、幸いなことに今のリニスの元となる人造魂魄を作ったのは、大魔導師と呼ばれた母さんであり、私はそのリニスと新しい契約を結び直すだけなので生成は必要ない。

 

 ここで重要なのは私とリニスが交わす契約の内容。使い魔の存在は契約によって維持され、その契約が完了した時点か、どちらかが任意に破棄した場合に消滅する。つまるところ契約とは使い魔にとっての命とも言えるものであり、それ形式は大きく分けて二つ。命令か誓いかのどちらかだ。一つ目の命令は、使い魔にこういう風に行動しろ、或いはこういう目的を達成せよって形で契約を結ぶ方法。この形式で目的ごとに使い捨てるのが、一般的な使い魔の使役方法らしいけど、私は好きじゃない。

 ここでもう一つの誓いと言う形は、術者と使い魔、それぞれが約束事を述べそれを持って契約を結ぶ方法。フェイトとアルフの契約形態がこっちで二人は「ずっと一緒に居る」と言う誓いを立てて契約を結んでいる。こっちの方法の契約は割と曖昧で、アルフとフェイトの場合は互いを家族だって想いあってさえいれば契約が維持され、魔力が契約を通じて供給されるって言う感じになっている。だからこそ、この形式は使い魔側の自由度が高く、場合によっては術者に服従しなかったりするから、一般的には好まれない方法らしい。でも、やっぱ私はこっちだね。

 

 私がリニスに対し何を誓うか、それは即ち私がこれからリニスにどうあって欲しいのか……それを頭の中でゆっくりと形にしてから、魔法陣の中心でリニスの手を握る。

 

「……私、アリシア・テスタロッサは……星々の契約の元、誓いを立てる。私の命ある限り、私はリニスと共にある事、そして……いつか必ず、リニスの体を見つけ、彼女を現実世界に戻す事を誓う!」

 

「ッ!? 貴女は、本当に……では、私も主の契約の元、誓いを立てます。アリシア・テスタロッサの命ある限り、私は共にあり、そしていつかこの体が現実世界に戻った時……その全てを尽くして、アリシアに仕える事を誓います」

 

 私とリニスの言葉をトリガーに、魔法陣が一際強い光りを放つ。そしてそれが晴れるとほぼ同時に、私の体に少し脱力感が現れる。それは即ち、私とリニスの間に魔力のリンクが結ばれ、私の魔力がリニスに供給されている証拠だった。なるほど、結構抜けてる感じがするし、これだと本当に魔力の3割は供給用にしておかないと追いつかないね。規格外って言うだけはあるよ。

 

 初めて感じる継続的な魔力消費を体感していると、リニスの手が私の背に回され、しがみつく様に抱きついてくる。

 

「……リニス?」

 

「……いいん……ですね? 私、これからも……アリシアと一緒に居て……」

 

「当り前だよ。これからも、よろしくね」

 

「はい……ありがとうございます……私の、愛しいご主人様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契約を終え、自分の体の状態とか諸々を確認しつつ、リニスと雑談を続けていると異変が訪れる。

 

「あれ? 私の体、ちょっと透けて無い?」

 

「ああ、そろそろ朝ですからね。体が目覚めかけているのでしょう」

 

「え? まだ1時間位しか経って無いよ?」

 

「それはそうですよ。寝ている間ずっと夢を見る訳でもありませんし、ずっと夢の中で意識があったら疲れも取れないですよ」

 

 成程。それもそうだ。今の私の状態は、体は寝ているけど頭は起きてるみたいな感じなんだろうね。こればっかりはしょうがない。けど、リニスとは夢の中でしか話せないんだし、ロスタイム的なのとか欲しいなぁ。

 

「あ~もうちょっと、リニスと話ししたかったんだけどなぁ」

 

「大丈夫。また次の夢でもこうして話せますよ。なにせ、私と貴女はこれから先ずっと一緒に居る訳ですからね」

 

「……だね」

 

「ええ、それに……私もただ貴女の心に居候しておく気はありません。この状態でも術式のサポート位は出来るでしょうし、閃光系魔法等はお任せあれ」

 

 ああ、そうか……私とリニスの間に魔力のリンクがあって、更にリニスが私に宿ってる状況だから、そういう補助みたいな事も出来るんだ。これは正直ありがたい。私魔力を別エネルギーに変換する系の術式って苦手だったし……やっぱ3割は安いね。

 

 そうこう話している内にも、私の体はどんどん透けていき。間もなく目覚めの時を迎えようとしていた。

 私を見送る様に立ち上がったリニスに視線を向け、言い忘れてた大事な言葉を告げる事にする。

 

「言い忘れてたけど……リニス」

 

「はい?」

 

「おかえり! それから……ただいま」

 

「ッ!? はい、アリシアも……おかえりなさい。そして……ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作との相違点としましては、原作ではリニスはバルディッシュ完成後に消滅しましたが、当作では命の大半をアリシアに宿し、プレシアを止めようと彼女の元を訪れた感じになっています。

尚リニスは、アリシア自身の同じ目線の方がしっくりくる戸の希望もあり、ロリニス状態です。猫耳尻尾茶ショート丁寧語ロリとか私得です。




アリシア

魔力量:E⇒D(現在)⇒実質E(3割供給用に使用凍結)
New:使い魔リニス(術式補助のみ、実体化不可)
術式:ジェットセイバー(弱)スピンセイバー(弱)プラズマセイバー(弱)

あれ? これむしろ強化じゃない? ただし、武器はハリセンだ。


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