アリシアお姉ちゃん奮闘記   作:燐禰

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拝啓:母さん、なのは可愛いです

 

 黒と紫を基調としたシックな色合いながらも煌びやかさを感じさせるドレス。滅多に着る事は無いその服に身を包み、ディアーチェ・K・クローディアはその場に居た。

 赤と白、縁起の良い色使いが随所に見られる建物の中に人はまばらであり、彼女が早くこの場に着いた事を示している。

 

「本日は、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 黒い鞄から祝儀袋を取り出し、受付を行っている女性に深々と頭を下げて挨拶を交わす。

 王様……そんな愛称で呼ばれ、尊大な物言いが目立つディアーチェだが、決して彼女は無作法者でも無礼者でも無い。礼儀もしっかりと心得ており、使うべき場や目上に対しては敬語もしっかりと使う。彼女が尊大な物言いをするのは、親しい間柄の人間に対してのみ。逆に言えば、彼女が歯に衣着せぬ喋り方をする相手は、ディアーチェにとってそれなりに親しい相手と認識されていると言う事。

 

 受付から離れ、用意されている控室に向かおうとした彼女の前に現れた人物もまた、そんな遠慮をする必要がない人物であり、ディアーチェは顔を歪める。

 

「……なんで、なんで、私と目おうただけで、そんな嫌そうな顔するん? めでたい席なのに、失礼やない?」

 

「……悪かったな、我の視界から消えてくれ」

 

「謝る気ゼロって事だけは伝わってきたわ」

 

 ディアーチェが露骨に嫌そうな顔を浮かべた相手は、彼女にとって唯一無二のライバルであり、彼女の元となった人物……八神はやて。

 白と言うよりは銀に近い色合いのドレスに身を包んだ姿は、何の偶然かディアーチェとは対極の色合いで、同じ顔と言う事もあって姉妹を連想とさせる。

 

 ディアーチェとしては即刻、直ちに、目の前のはやてを撤去したかったが……場が場であり、互いに目的地も一緒とあれば並んで歩くのもやむ終え無い選択だった。

 

「でも、王様。早いなぁ~まだ1時間以上はあるよ」

 

「今回の席には、お偉方も招かれているのだ。さして高い階級で無い我が、遅く来るのも礼儀に反する。貴様も同じ理由であろう?」

 

「うん。まぁ、一番乗りかな~って思うてたけど、披露宴で出し物とかする人は、もう来てるみたいやね」

 

「まぁ、練習などもあるのであろう」

 

 軽く雑談を交えながら廊下を進み、目的の控室に辿り着く。はやての言葉の通り、披露宴で出し物を行うグループは既に到着しているらしく、中からは微かに音が聞こえてくる。

 

 はやてが扉を開き、二人が中に入ると……クロノの友人であろう男性陣の前に、非常に見知った人物が立っていた。

 

「そこ、切れが甘いよ! もっと音楽を意識して!」

 

「うっす! 了解です!」

 

「駄目駄目! もっとスピーディかつコミカルに!」

 

「はい!」

 

 何やらダンスの練習をしているらしきグループの前、肩から『友人代表』と書かれたたすきの様なものを付けた女性が厳しく指示を行っており、それを見たディアーチェはこめかみを押さえながら呟く。

 

「……あの、ギネス級馬鹿は、いつから友人代表になったのだ……」

 

「アリシアちゃんって、本当に読めん人やね」

 

 そう、彼女達の視線の先に居たのは……アリシア・テスタロッサその人であり、アリシアは何故かクロノの友人で構成されたグループの指揮をとっており、その奔放さは頭の痛くなるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ~し、良くなったよ! 本番でも、この動きを忘れない様に!」

 

 出し物のダンスを頭から通して踊ってもらった後、私は額の汗を軽くぬぐう。いや~良い仕事したね。この動きなら世界を狙える筈だよ。本番が楽しみだね。

 

「おい、そこのギネス馬鹿」

 

「ギネス馬鹿!?」

 

 後ろから失礼極まり無い台詞と共に、王様とはやてが現れる。って、しまった。振り返っちゃったら、自分で馬鹿だって認めた様なものじゃないか……なんて巧妙な罠なんだ。

 

「……流石だね。王様、世界狙ってみる?」

 

「訳の分からん事を言うな。というか、貴様は何をしている?」

 

「何って、早めに着いて控室に着たら練習してたから……監修した」

 

「……そ、そうか……」

 

 今日はクロノとエイミィさんの結婚式と披露宴であり、私はフェイトがクロノの家族でもある事から早くこの場に来ていた。んで、暇を持て余してたら、なんか面白そうな事やってたんで、とりあえず参加してみた感じだ。

 

 ちなみに余談だけど、私も今回はバッチりおめかししてる。薄緑と白のドレスに、髪もおろしてあるから見た目は完璧な美少女だね。ふふふ、会場の視線を奪っちゃうかもね。

 

「たわけ」

 

「いったっ!? 何で殴るの!?」

 

「いや、何か阿呆な事を考えてそうだったのでな」

 

 何この王様、エスパー? エスパーなの? 私の心の中のボケにまで突っ込み入れてくるとか、マジで半端じゃないよ。実は心読めるんじゃない?

 

 そんな事を考えていると、王様はジッと私を見つめた後、少し首を傾げながら口を開く。

 

「……使い魔とでも契約したのか?」

 

「……え? 何で分かったの?」

 

「貴様の魔力は良く知っておる。何やら継続的に流れている様な、そんな感じがしたのでな……何らかの魔力契約でも結んだのだろうと推測したまでだ」

 

 おぉ、さっすが王様。リニスと契約したのは昨日で、まだフェイトにも話して無いのに……単純に凄いね。しかし、私の魔力はよく知ってるか、何となく口説き文句みたいにも聞こえない?

 

「流石王様、愛のなせる技だね! 私達も結婚しよっか!」

 

「……」

 

「え? なに、その……嫌過ぎて言葉すら無いみたいな顔……」

 

「……我は今、ようやく理解した。成程、これが『殺意』と言う感情か……」

 

「そこまで嫌!?」

 

 くっ、やはりツンデレの攻略は正面突破では難しいか、出来るだけ回り道しながら行くべき。今目の前に出た選択肢は三番目の、それとなく褒めるが正解だったか……ロードして選び直さないと……

 

「まぁまぁ、その辺に……アリシアちゃん以外は、まだ来てないん?」

 

「なのはとシュテルが一緒に来てたよ。今はクロノに挨拶しに行ってるよ」

 

「へぇ、またあの二人、一緒に来たんや」

 

「……ドレスも、良く似てたよ」

 

「お、おい、貴様等……」

 

 今、私とはやての中で何かが通じ合った気がする。具体的には、同じ何かを持つ者同士が引かれあったと言うか何と言うか、凄まじい一体感を感じるレベル。

 

「……アリシアちゃん。私達って、友達やろ?」

 

「……当り前じゃん。ソウルフレンドって当て字してもいい位だよ」

 

「……なのはちゃんって、反応可愛いやん」

 

「……純なとこが良いよね」

 

 それ以上の言葉はいらなかった。私とはやては固く互いの手を掴み視線を交わす。これは正に通じ合った者達……ソウルフレンドにしか成し得ない戦友の誓い。なんて、心強い味方なんだろう、千の軍勢を得た気分だよ。

 

 私達は今無言で誓いあった。これから互いに持つ情報を共有し、より良い……より、なのはをいじれる布陣へと歩みを進めていく誓いを……

 

「……(逃げよ小鳥。全力で逃げよ。恐らくこの世で最も組んではいけない二人が手を組んだ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間になり、先ずは身内や親しい友人のみで行われる結婚式。ホテルに隣接した教会を模した式場に向かって30人ほどの人数が移動していた。

 

 皆緊張と期待が織り交ぜになった様な顔をしていたが、その中でなのはだけ……真っ赤な顔で、丘に上がった魚の様に口をパクパクと動かしながら放心していた。

 

「な、なのは……どうしたの? 大丈夫?」

 

「……フェイトちゃん。お願い、アリシアちゃん、何とかして……」

 

「ごめん無理」

 

「早い。本当に早いよ……こんなとこでまで高速機動しなくて良いのに……」

 

 時間になるまで散々、アリシアとはやてによってからかわれまくったなのはは、助けを求める様にフェイトを見つめるが……即断即決の不可能回答だった。

 

「……あはは、ごめんねなのは。ちょっと悪戯が過ぎたね」

 

「出来れば、その結論にあと30分くらい早く辿り着いて欲しかった」

 

「もう、お姉ちゃん。なのはの事、あまりいじめないであげてよ……なのはとシュテルは別にイチャついてたとかじゃなくて、一緒に勉強しようってなのはが誘って、そのままシュテルがなのはの家にお泊りしたりしてるだけで……」

 

「やめてえぇ!? フェイトちゃん、お願いだからやめて!? 気持ちは嬉しけど、フェイトちゃんのフォローはフォローじゃないから!! 私もう、今の時点でオーバーキルだから!」

 

 それはもう必死という言葉が当てはまる形相だった。あくまで、そうあくまでフェイトは困っている親友を助けようと思っているだけ、100%善意での行動なのだがなのはにとっては追撃以外の何物でもない。

 

 と言うのもなのはとフェイト、二人は互いに一番の親友であり、なのははフェイトだけには色々他の人に話しにくい事も告げている。互いに腹を割って話せる間柄である事は素晴らしい事であり、姉に対して倒錯気味のフェイトも、なのはが絡むとなのはの方を味方する事も少なくない。

 

 しかし困ったことに、フェイトは少し天然気味な所があり、アリシアやはやての言葉をストレートに受け取って、彼女達がなのはの事を誤解していると認識している。そしてフェイトはなのはの味方をし、二人の誤解を解こうと逐一説明を入れてしまうのだ。

 無論アリシアとはやてはなのはの事を誤解しているのではなく、わざと穿った見方をして反応を楽しんでいるのであり、フェイトの反論はただただ二人のからかいネタを追加するだけになってしまう。

 

「ナノハはどうしてそんなに慌てているのですか? 友人の家に宿泊し『共に入浴』する位、別におかしなことでは無いでしょう?」

 

「……もうやだこのメンツ」

 

 更に天然の追加である。シュテルの方はシュテルの方で、当事者ながらそういった方面には極端に疎く、アリシアとはやての言葉を全く理解していない。寧ろ、自分となのはの友人関係を色々聞いてくるのは、興味ある事を知ろうと言う知的欲求からであり、出来るなら協力したいとさえ考えている。

 ただ友人であるなのはが何故か嫌がっているので、積極的に行わないだけである。なのはにとっては四面楚歌も良い所であり、アリシアとはやてが目を輝かせたのを見て、ガックリと肩を落とす。

 

「いい加減にしろ貴様等! ここは祝いの場、少しはわきまえよ」

 

「失礼しました。我が王……確かに新郎新婦の為、素早く移動するべきでした」

 

「うむ、後チビひよこと小鴉、今日はもう控えておけ……さもなくば、我が魔法を持って応じる事になるぞ」

 

「うっ、い、イエッサー」

 

「りょ、了解や」

 

 ディアーチェの鶴の一声で、再びなのはをからかおうとしていた空気は霧散し、皆静かに移動を続ける。

 

 なのははようやく味方を得たのが嬉しかったのか、ディアーチェをキラキラした目で見つめながら念話を飛ばす。

 

(ありがとう、ディアーチェ)

 

(貴様も、ほとほと苦労性だな……)

 

(うぅ、本当に、ようやく常識ある人に会えた気分だよ)

 

(まぁ、貴様の心にある感情が何か……今はまだ答えは出ぬだろうが、焦る事も無い。周りの声等気にせずに、気のすむまで考えれば良い。シュテルは気の短い奴ではない故な……)

 

(うん)

 

 なのはを労いつつ、今後に対しても焦る事は無いと助言を告げる。正しく出来た大人の対応であり、アクの強いメンバーの中では、一種の清涼剤の様な存在だった。

 

(……後な……小鴉の方は知らぬが、チビひよこの方は……何も考えて無いわけでもなさそうだ)

 

(アリシアちゃんが?)

 

(ああ、時折溢しておった。自分の妹を救ってくれた貴様には、幸せになって欲しいんだと……貴様は無茶をする所があるから、出来れば支えられる様な者が隣に立ってくれればいいとな……まぁ、面白半分と言う部分もあるのだろうが、貴様等の関係を応援する気持ちだけは本物であろう)

 

(……そっか、なんだか、嬉しいな。ディアーチェって、アリシアちゃんの事よく分かってるんだね)

 

(……芯のある人間は、好ましく映るものだ。奇縁ではあるが、長く見続けていれば期待もしよう……)

 

 本人の前であれば、即座に否定したであろう台詞だが、今はなのはとディアーチェ二人にしか聞こえていない念話。ディアーチェはなのはを言葉を否定するでもなく、遠回しな肯定と……含む様な言い方を返す。

 

 実際彼女がここまで一人の人間を評価するのは珍しく、それだけ彼女がアリシアを買っていると言う証明でもあった。ただ、今のどこか期待が籠った様な物言いに、なのはは一つ思い当たる節があった。ディアーチェに、いやディアーチェを含めた者達に欠けている物、もしかして彼女はアリシアがそれを埋めてくれるのを期待しているのではないか、だからこそ彼女を鍛え上げているのではないかと……

 

(それって、もしかして……『紫天の書』の所有者として……)

 

(……馬鹿馬鹿しい。奴は我の求める基準には達しておらん……今はまだ……な)

 

 否定の言葉。しかし、ディアーチェの口元には……微かな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アリシア:本心が読めない自由奔放人
フェイト:スイッチ入ると弩シスコン化
はやて:なぜか貧乏くじ
シュテル:ストイックな天然
ユーリ:ゆるふわ天然
レヴィ:未登場
なのは:いじられる


王様は貴重な常識人。

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