アリシアお姉ちゃん奮闘記   作:燐禰

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拝啓:お姉ちゃん、ぬくもりは貴女がくれました

 まどろみの中から目を覚ます。ああ、またあの夢だ……薄暗く寒い公園。震える手に握りしめた小さな宝石……叶わぬ願いを抱えた少女の夢。ああ、まだほんの2~3年前の出来事……なのは達と出会う前の自分の姿。

 

 私はお姉ちゃんの記憶の一部を持って生まれた記憶転写クローン……の失敗作。この頃はまだそれを知らず、記憶に残る優しい母さんを求めて戦いに身を置いていた。でも、本当にそうだったのだろうか? 私は本当に、自分に何も疑問を抱く事は無かったのだろうか? 

 

 そんな事は無い……本当は微かに、いやそれなりに大きく違和感はあった。でも、それを認めたくは無かった。その疑問が杞憂だと言う証明が欲しかった。自分が……母さんに愛されていないんだと……信じたく……無かった。

 

 でも、結局その不安は現実となってしまった。時の庭園で母さんからその事を告げられた時は、心が粉々になってしまいそうなほど辛かった。なのは達が居なければ、私はきっと私で無くなってしまったと思う。なのは達には本当に感謝している。

 

 だけど、少し、本当に少しだけ考えてしまう事がある。もしあの時、最後のその瞬間まで、私が母さんの味方をしていたら……真実を受け止めた上で、母さんを理解しようとしていたら……何かが変わっていたのだろうかと……

 

 私が本当に欲しかったものはなんだったんだろうか? 母さんの愛情? 家族の団欒? 結局今となってはそれも分からなくなってしまった。なのは達と共にある事を幸せに感じる反面、自分自身の気持ちに不安を抱く事もあった。特にお姉ちゃんに関して……私は本当はお姉ちゃんを恨んでいるのではないかと考えたこともあった。

 

 でもそれは結局杞憂だった。闇の書事件の中で、私は幸せな夢を見た。母さんが居て、リニスが居て、アルフが居て、お姉ちゃんが居る。そんな幸せな夢を……でも、私は結局その夢に背を向けて戦場に戻った。優しく私の背中を押してくれたお姉ちゃんに心からの気持ちを告げて……

 

 はやてを救う事が出来て、なのはと楽しく話をして、正式にリンディさんに引き取られて、傍目には何もかもうまくいっていたのかもしれない。でも、一人になった時考える事が増えた。私は今何を欲しいと思っていて、どんな未来に進みたいと思っているのか……答えはいつか出るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よく晴れた空の元、私は片手に水の入った容器と布巾を持って霊園の前に居た。ここには母さんとお姉ちゃんのお墓があり、今日は掃除を行う為にやってきた。とは言っても、ここに母さんとお姉ちゃんが眠っている訳では無く、あくまで私が勝手に作ったお墓があるだけだ。

 

 管理局の魔導師としてなのは、はやてと共に正式に働き始め、給料を貯めて食料等以外で一番初めに買ったのが、母さんとお姉ちゃんのお墓だった。それからは週に一度くらいの頻度で来ており、二人のお墓に色々な事を報告している。今回はなのはが入院したこともあり、二週間ほど間が空いてしまった。報告するのが執務官試験に落ちた事なのは、ちょっと情けないけど……でも、今日は休暇で時間もあるし、二週間空いた分しっかり掃除をしなくちゃ。

 

 そんな事を考えながら、霊園に入ると……お姉ちゃんのお墓の前に誰かが居た。それは後姿だけだったけど、私が動揺して手に持った容器を落とすには十分な光景。その後姿には覚えが……あの夢の中でみたお姉ちゃんの後ろ姿とピッタリ重なった。

 

「……う、うそ……あ、アリ……シア……」

 

「うん?」

 

 震える事で名前を呼ぶ。もしかしたら似ているだけの別人かもしれない。いや、お姉ちゃんは死んでいるんだし、別人であると考えるのが当たり前なのに……答える様に、振り返ったその顔は……間違いなく、寸分の狂いもなく、私の知っているお姉ちゃんだった……

 

「……そんな……お姉ちゃん……」

 

「ファッ!?」

 

 もしかしたらまたこれは夢なのかもしれない。でも、それでも良い! もう一度お姉ちゃんと会えたのなら。でも、私が呼んだ言葉に、お姉ちゃんは驚いた様な表情を浮かべ、少し沈黙が流れる。

 

「……えと、君は誰かな?」

 

「ッ!?」

 

 その言葉は静かに、そして冷徹に告げられた。思わずふらついてしまう様なショックは、あの時母さんに真実を告げられた時以来だった。

 

 別人? こんなに似てるのに? それとも、私の事を知らないだけ……また、拒絶されてしまうのだろうか? 母さんにそうされた様に、お姉ちゃんにもお前なんか偽物だと言われてしまうのだろうか……

 

「あ、や、私はなんか……ちょっと自分でも何言ってるか分かんないけど、生き返ったらしくてね。き、君の事覚えてないんだよ」

 

「い、生き返った?」

 

「う、うん……何かそうらしいよ」

 

 生き返った? じゃ、じゃあ、目の前に居るのは夢とかじゃなくて、本当のお姉ちゃん? どういう事なのかは分からない。

 

 どう、答えたら良いんだろう。初めまして? お久しぶり? 分からない。どう答えたら、お姉ちゃんは私を受け入れてくれるの? どう答えたら拒絶されずにすむの? もし、お姉ちゃんがお前なんて認めないって言ったら、私は今後笑う事は出来なくなってしまうかもしれない。

 

「……私は、フェイト……フェイト・テスタロッサ……貴女の妹です」

 

「……」

 

 自分でも自覚する程震える声で、恐る恐る告げた言葉。お姉ちゃんは私をジッと見つめながら沈黙する。声だけでなく体も震える、握った手に汗が流れる。怖い、怖い。もし、拒絶されたら……

 

「それって、なんか宗教の勧誘とか、壺買ってとかそう言うのじゃないよね?」

 

「ち、違うよ!」

 

 お姉ちゃん。困った顔してる。当り前だ……見ず知らずの相手にいきなり妹だなんて言われても、困るに決まっている。やっぱり、話し方を間違えた。こんなの、受け入れてくれる訳が……

 

「……オッケー、分かったよ。じゃあ、えと、フェイト? ひ、久しぶり? お、お姉ちゃんだよ?」

 

「!?!?」

 

 認めた? 受け入れてくれた? こんなあっさり、いきなりあった相手の言葉を……

 

「お、お姉ちゃあぁぁぁぁぁん!」

 

「うぉっ!? 想像より、グワッと来た!?」

 

 認めてもらえる筈が無いと、そう思っていた。それがあっさり認められ、夢で見たのと同じ明るい笑顔で声を掛けられ、もう私は限界だった。お姉ちゃんに飛び付き、しがみ付きながら涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから霊園の外に出て、お姉ちゃんにこれまであった事……特に母さんが引き起こしたPT事件の事を詳しく説明した。母さんとリニスの事、アルフの事、なのはの事、クロノやユーノの事……そしてその最後の結末。出来る限り詳しく話したが、私自身の事はぼかしたまま話した。

 

 分かっている。今お姉ちゃんが私を受け入れてくれているのは、私がクローン……プロジェクトFによって生まれた人造魔導師だって知らず、本当の妹だと思ってくれているから。私は、ずるい。お姉ちゃんがよく知らないのを良い事に、大事な事を隠している。

 

 でもやっぱり隠し通す事は出来なくて、お姉ちゃんは私の事について聞いてきた。嘘は……つきたくなくて、全部正直に話した。自分がクローンである事も、母さんに愛されて無かったことも、全部懺悔する様にお姉ちゃんに告げた。

 

 これで、拒絶される。気味悪がられる……そうだよね。自分のクローンなんて気持ち悪いよね。カタカタと体は震え、視界は涙で霞む。結局私は偽物なんだ……

 

「……ごめんなさい。本当は私は……お姉ちゃんの妹じゃ……」

 

「しゃらっぷ!」

 

「いたっ!?」

 

 返って来たのは罵声では無く、おでこへのチョップだった。お、怒られる? でもお姉ちゃんの顔は怒っているって言うより、呆れてるみたいな……

 

「まったく、聞いてれば見当違いなことばっかり……母さんはフェイトの事、愛してたと思うよ」

 

「……え? だ、だって……」

 

 告げられた言葉は、信じられない内容……だって、私は一度も母さんに……

 

「たぶん、認めたく無かったんだと思う。母さんもフェイトと同じで、自分が悪いって考えるタイプだから……私を死なせちゃった自分が、今さら他の子を愛せない愛しちゃいけない。私を生き返らせていないのに、自分が幸せになる訳にはいかない……そんな風に考えてたんじゃないかな?」

 

「……」

 

 お姉ちゃんが優しく告げる言葉を聞いて、私の頭には今までとは真逆の考えが映る。そういえば、どこかで愛情の反対は関心が無い事だって聞いた覚えがある。母さんは、どうだろう? 母さんいつも私の事を忌々しげに睨んでいた……そう、私を『見ていた』。

 

 お前なんて居なくなってしまえと言う表情では無く、お前を認めないと言う顔。私が気付かなかった……気付けなかっただけで、あの母さんの苛立ちは私に向けられたものじゃなく、自分に対してのものだったのかもしれない。だって母さんは、あの時……もしかしたら私の勘違いかもしれないけど、虚数空間に消える瞬間、ほんの一瞬だけ……私の目を見て悲しそうに微笑んだ。

 

「母さんはさ、いつだって気付くのが遅すぎるよ……私の事なんて放っておいて、フェイトを大切にしてあげればよかったのに……」

 

「わ、私は……」

 

「私さ、死んじゃう前に母さんにお願いしたんだ……妹が欲しいって」

 

「ッ!?」

 

「だから、母さんが本当に夢見てたのは……必死に私を生き返らせようとしていたのは……母さんにとっての幸せの形が、姉として私が居て、妹としてフェイトが居る光景だったからだと思うよ」

 

 そっか、私は今になってようやく気が付いた。ずっと母さんが私に向けていた目は、苛立つ様な表情は……足りなかったんだ。私と母さんの間にもう一人、お姉ちゃんの存在が……それさえあれば、母さんはあの時闇の書の夢で見た様な、優しい母さんになってくれたんだ。

 

 後悔は、してないつもりだった……PT事件の事も、母さんの事にも自分なりに決心を付けたつもりだった。でも、今お姉ちゃんから母さんの本心を聞いて、少しだけ後悔した。あの時、私が自分自身の存在を知って、母さんの目的知った上で、母さんの手を自分から取ってあげていたら……母さんの事を、救えたかもしれない。

 

「母さんは、私をここに送る前に言ってたんだ。私が弱かったせいで傷つけてしまった、私の『もう一人の娘』を助けてあげて欲しいって……」

 

「……母さん……が……」

 

 私のもう一人の娘……そのたった一言が、どれだけ欲しかっただろうか……たぶんその一言があったら、私はなのは達に刃を向けても、母さんを守ろうとしたと思う。こんな形でそれを聞く事になったのは、少し皮肉なものだと思うけど……良かった。母さんの本心を知ることができて、偽物の私にもちゃんと存在していた意味があるって分かって……

 

「うん。母さんにとってフェイトはちゃんと娘だったんだよ。勿論私だって、フェイトがどんな生まれかなんて関係ない……君は、私の妹なんでしょ?」

 

「~~!? う、うん……うん……」

 

 それは当り前の様に告げられた優しい言葉。どんな生まれかなんて関係ない、私を認め受け入れてくれる言葉。もう、我慢なんて出来なかった。お姉ちゃんにしがみ付いて泣きじゃくる。お姉ちゃんはそんな私を、優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。

 

 お姉ちゃんは、凄い。ずっと私の心にあった不安を、簡単に消し去ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私は、お姉ちゃんと二人で暮らし始めた。最初はお姉ちゃんに今の常識とか、お姉ちゃんが死んでいた間に変わった事を教えて、それから魔法を教えたりした。

 

 お姉ちゃんは明るくて優しくて、一緒に居ると自然に笑顔になれて、本当に凄いって思った。母さんが私とは全然違うって言った意味が分かる。魔法の才能が無くても全然落ち込む事なんてなくて、物凄く強い魔導師達と模擬戦をしに出かける背中は、凄くカッコ良かった。なのはやはやてともすぐに打ち解け、お姉ちゃんが加わるだけで何倍も話が弾んだ。

 

 でも、やっぱり何もかも上手くいく訳じゃなくて、今少々困った問題に当っている。

 

「ねぇ、アルフ……いい加減お姉ちゃんと……」

 

「……会わない。フェイトが何と言おうと、今は会う気はない」

 

 私の使い魔で、ずっと私と一緒に居た友達……家族の様なアルフが、お姉ちゃんと会おうとしてくれなかった。アルフはお姉ちゃんの話をすると不機嫌になって、どうにも嫌っている様な感じがする。でも、一度話してくれさえすれば、きっとお姉ちゃんを認めてくれるって思うのに……会ってくれないんじゃ難しい。

 

「でも、お姉ちゃんはね……」

 

「……分かってる! アイツがフェイトを傷つけた訳じゃない。でも、あのババアがフェイトに酷い事ばかりしてた原因はアイツだ」

 

「そ、そんな……」

 

「駄目だ。私はフェイトみたいに割り切れない。きっと会えばアイツの事滅茶苦茶に攻めちまう。だから、アイツとは会わない」

 

 こんな感じで、アルフは母さんの目的がお姉ちゃんを生き返らす為で、私を認めようとしていなかったのを凄く怒っている。私の事を心から想っての言葉だからか、あまり強く反論できない。

 

 でも、やっぱり私としてはお姉ちゃんとアルフには仲良くして欲しい。どうすればいいんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転機が訪れたのは、お姉ちゃんと一緒に暮らす様になって7ヶ月くらいたった頃。今まで会わないの一点張りだったアルフが、急にお姉ちゃんと会っても良いと言いだした。正直それを聞いた時は嬉しくて、すぐにアルフを連れていったのだけど……

 

「……」

 

「……」

 

 家がこんな険悪な雰囲気になるなんて予想していなかった。お姉ちゃんもアルフも、顔を合わせた時から無言でジッと互いに見つめ合ったまま、ソファーに向かい合って座り何も言わない。重くのしかかる様な空気の中、私はどうして良いか分からずオロオロと動き回るだけ。

 

「……お前が……アリシアか……」

 

 先に沈黙を破ったのはアルフだった。静かな怒気を含んだ声で、お姉ちゃんを睨みつけながら話す。お姉ちゃんはその言葉を受けて、一度頷いた後で立ち上がる。

 

「そう、私がアリシア・テスタロッサ……じゃあ、自己紹介もすんだ所で……さあ、こいっ!!」

 

「は?」

 

「え?」

 

 親指で自分を指差しながら告げるお姉ちゃんの言葉に、私もアルフも意味が分からず硬直する、いや、まぁ、お姉ちゃんが訳分からない事言うのは大体いつもの事なんだけど……今回は、ふざけている様子もなく目は真剣そのものだった。

 

「えと、お姉ちゃん?」

 

「アルフが何考えているかは分かるよ。母さんの罪は、娘である私の罪でもある……だから、ほら、私を殴っちゃえばいいさ」

 

「お、お前なにを……」

 

「時には、拳じゃなきゃ収まらない激情もあるさ! ささ、遠慮せずにどーんと来い!」

 

 信じられない事に、お姉ちゃんはアルフに自分を殴れと言っているらしい。その言葉を聞いたアルフは、ゆっくりと立ち上がりお姉ちゃんの前に立つ。大人の姿になっているアルフは、お姉ちゃんより頭二つは大きい。

 

「言っとくが、私は手加減なんてしねえぞ……ふざけてるようなら……」

 

「真剣だし、誰が手加減しろなんて言った? 君の怒りって、その程度?」

 

「……あ?」

 

「母さんに対する怒りも、憎しみも、全部私にぶつけて来いって言ってるんだよ!!」

 

「ッ!?」

 

 それは、思わずアルフの方が後ずさる程の凄い気迫だった。覚悟を決めた真っ直ぐな目は、思わず止める事を躊躇う程のもので、私が何も言えずに沈黙していると……アルフの肩が震え、拳を握りしめる。

 

「て、めえぇぇぇぇ!!」

 

「アルフ、駄目!!」

 

 慌てて制止しようとするが時すでに遅く、振り上げたアルフの拳が凄まじい速度でお姉ちゃんに向う。そして目を逸らす事もなく閉じることもなく、真っ直ぐ拳を見つめるお姉ちゃんの顔を捕らえる……直前で止まる。

 

「……うん?」

 

「……殴れるわけ、ねぇだろ……お前を殴ったら、フェイトが、悲しむ」

 

 首を傾げるお姉ちゃんに静かに告げた後、アルフは崩れる様に膝をつき顔を伏せる。

 

「……お前と暮らす様になってから、フェイトは本当に幸せそうに笑う様になったんだ……お前の事ばかり話す様になったんだ」

 

「……」

 

「だから……だからっ!」

 

「あ、アル……ッ!?」

 

 バッと顔を上げたアルフは、そのままお姉ちゃんの胸倉を掴んで、私は慌てて止めようとしたけど……今にも泣き出しそうな、アルフの顔を見て踏みとどまる。駄目だ。私が今割って入っちゃいけない。たぶん二人にとって凄く大事な話なんだ。

 

「……信じて……良いんだな? お前は、フェイトの事を大切に思って、フェイトの事守ってやれるやつなんだって……信じても、良いんだな!」

 

「……うん。そうありたいと、思っているよ」

 

「……分かった。今までごめんな、アリシア」

 

「気にしないでよアルフ。それだけ、フェイトの事大切に思ってくれてるんでしょ? むしろ、ありがとうだよ」

 

 重かった空気は消え去り、どこか吹っ切れた様に笑う二人を見て、私もホッと胸を撫で下ろす。良かったこれでお姉ちゃんとアルフも仲良くなれる。時間はかかるかもしれないけど、少しずつ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でさ、その時にフェイトがな~」

 

「あはは、それは面白いね。続きはよ!」

 

 ……何かあっという間に仲良くなっちゃった!? いや、まぁ、この二人性格的に仲良くなれそうだなぁとは思ってたけど、さっきまでのはなんだったのってレベルで打ち解けちゃった。

 

「……って感じで……おっと、もうこんな時間か?」

 

「あれ? 帰るの?」

 

「ああ、エイミィが心配するだろうしね」

 

「ああ、確かクロノと婚約したんだっけ?」

 

 アルフが時計を見て立ち上がり、帰り支度を始める。今アルフは地球にあるクロノとエイミィさんが購入した家に住んでいる。と言うのも、私が最近執務官試験で忙しく、アルフは勉強では力になれないから、邪魔しないようにと地球で待ってくれている。

 

 そしてつい先月の事だが、クロノとエイミィさんが婚約をして結婚することが決まり、最近私達の中ではその話で持ちきりと言える。まだ式の日取りは決まっていないけど、結婚式なんて見るのは初めてだしちょっと緊張している。

 

「いいなぁ、私も参列したいなぁ」

 

「勿論、アリシアも来てくれよ。エイミィには私が話しとくよ」

 

「おお、ありがとうアルフ」

 

 お姉ちゃんはクロノとは会ったことがあるけど、エイミィさんとはまだ会っていない。というか、地球にそもそも行ったことが無い。お姉ちゃんの戸籍IDはちゃんと発行されたし、行こうと思えば行けるんだけど……私は執務官試験の勉強。お姉ちゃんは魔法の訓練で忙しくて、今の所行けていない。

 

「でも、結婚っていいよね……よし、フェイト! お姉ちゃんと結婚しよう!」

 

「ふぇっ、えぇぇぇ!?」

 

「フェイトは、そう簡単にはやれんな」

 

「アルフお父さん! フェイトさんを、ボクに下さい!」

 

「君の収入は、安定しているのかな?」

 

「うぐっ、痛い所を突いてきよる」

 

「もうっ!? お姉ちゃん! アルフ!」

 

「「あはは」」

 

 ホントもう、仲良くなりすぎだよ。全く私がお姉ちゃんと結婚とか、結婚とか……いや、まぁ、私としては、お姉ちゃんとはずっと一緒に居たいけど……そ、そう言うのじゃなくてね。そ、そう姉妹として!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーテンを閉めた薄暗い部屋の中、私はガックリと項垂れていた。今日は待ちに待った執務官試験の日で、しっかり勉強はしてきたつもりで、それなりに自信もあったのに……筆記試験を終えて、自己採点してみたら3点足りなかった。

 

 応援してくれたお姉ちゃんやなのは達に会わせる顔が無い。もうこれで落ちたのは二度目……クロノは二回目に合格だったって聞いたのに、私は本当に駄目な子だ。お姉ちゃんと会うのが怖い。私はお姉ちゃんみたいに凄くなくて、取りえなんて魔導師としての力位なのに……こんなんじゃ、お姉ちゃんに嫌われてしまうかもしれない。駄目な子だって思われてしまうかもしれない。それが本当に怖い。

 

「たっだいま~!」

 

 現実は待ってなんかくれなくて、明るいお姉ちゃんの声を聞いて心臓が飛び跳ねる様に驚いた。

 

「……おか……えり……」

 

「……」

 

 お姉ちゃんの顔が見れない。顔を見るのが怖い。お姉ちゃんに嫌われてしまったら、私はもう笑えなくなってしまうかもしれない。

 

「ふぇ、フェイト?」

 

「……何で、あんな問題を……いっぱい勉強したのに……私は駄目な子……」

 

 間違える様な問題じゃなかった。なのに、なんで、私は本当に駄目な子だ。何の役にもたたない置物同然だ。

 

「フェイト、試験落ちちゃったんだね……筆記かな?」

 

「……うん……」

 

「ほ、ほら、難しい試験なんだし、失敗することだってあるよ」

 

「……」

 

 落ち込む私を慰めようとしてくれるなんて、お姉ちゃんはやっぱり優しい。きっとお姉ちゃんが試験を受けたりしてたら、余裕で合格する筈だよ。お姉ちゃんは凄いから……

 

 その後もお姉ちゃんは落ち込む駄目な私に何度か声をかけてくれたが、私は顔を上げる事なんて出来なかった。お姉ちゃんは呆れてしまってるんじゃないだろうか? こんな簡単な問題も解けないのかと、私に失望してるんじゃ……そんな風に考えていると、頭が引き寄せられ暖かな柔らかさと、とても良い香りがした。

 

「……え?」

 

 お姉ちゃんに抱きしめられ、頭を優しく撫でられる。

 

「……頑張ったね。フェイト。凄いよ、こんなにいっぱいの問題を解いてさ、殆ど正解しちゃって……私には真似できないよ」

 

「……お姉ちゃん」

 

 子守唄の様に優しく告げられる言葉、その言葉を聞いた瞬間心が大きく脈打つ音が聞こえた。

 

「今回は残念だったよね。落ち込んじゃうよね? でもさ、フェイト。今日間違えちゃった問題は、もう次に同じのが出てきたら間違えないよね?」

 

「う、うん」

 

 お姉ちゃんはこんな駄目な私を見放さない。優しく暖かく、私の事を見てくれる。

 

「だったら大丈夫。フェイトは立ち止まってなんかいない。ちゃんと前に進んでるよ。今回は947点だったかもしれない。でも次は1000点取れるかもしれないよ? フェイトは、駄目な子なんかじゃないよ。私の自慢の妹だから……ね、もう顔を上げて」

 

「お……姉ちゃん……」

 

 目が熱くなり、自然と涙が零れ落ちる。暖かい……ただ抱きしめられているだけなのに、心がどんどん軽くなる。

 

「……甘えて、良いんだよ? 私はフェイトの味方だから……落ち込んでたら慰めてあげる。間違ってたら叱ってあげる。嬉しい事があったら一緒に笑ってあげる……だからほら、また頑張ろう?」

 

 ……そうだ。そうだったんだ……これだ。私が欲しかったのは、寒空の下で震えながらも、ずっとずっと求め続けていたのは、自分でも気付かないほど遠くにあると思っていたのは……

 

 この、冷たい心を優しく包み込んでくれるぬくもりだったんだ。私が欲しかったものは、手に入らないと思っていたものは……お姉ちゃんが持ってきてくれた。

 

「……うん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……」

 

「うん、私はちゃんとここに居るよ」

 

 なんて安心できる言葉なんだろう。たった一言、お姉ちゃんに告げられただけで、涙が止まらなくなる。でもそれは嫌な涙なんかじゃなくて、凄く幸せな涙だった。

 

 大丈夫、私はちゃんと前を見て歩ける。お姉ちゃんが居てくれるなら、私はきっと誰にも負けないほど強くなれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗く寒い公園。震える手に握りしめた小さな宝石……叶わぬ願いを抱えた少女の夢。ああ、またこの夢だ。寒くて辛い夢……

 

 しかし、その夢はそこで終わらなかった。突然伸びてきた手が、少女が手に持った宝石をつまみ上げ、放り捨てる。それを追う為立ち上がる少女の前に、真っ直ぐに差し出される手。顔を上げた少女の目に映ったのは、心まで照らす優しい笑顔だった。

 

 そんな心地良い夢を見て、目を覚ます。隣にはお姉ちゃんが穏やかに眠っており、小さな手は私の頭を抱きしめる様に置かれている。

 

 なのはの事を私の暗闇に光を灯してくれた星だと例えるなら、お姉ちゃんは太陽みたいな人だ。明るくて優しくて、心から尊敬できる自慢のお姉ちゃん。

 

 私はそっとお姉ちゃんに近付き、私より小柄な体にくっつく。

 

「……お姉ちゃん。大好き」

 

 この暖かな心地良さ、包みこまれるぬくもり……私の幸せはお姉ちゃんの傍にある。

 

 お姉ちゃん、ありがとう。貴女が私にぬくもりをくれました。幸せを持ってきてくれました。

 

 私ももっともっと、強くなるよ。守られてばかりじゃなくて、お姉ちゃんの事を守ってあげられるように……もっとずっと、私なんかよりずっと強いお姉ちゃんに追いつけるように……

 

 

 




という訳で、弩級のシスコン化が進んでいるフェイトさん視点でした。

フェイトから見たアリシアのハードル。

お姉ちゃんは、執務官試験を一発合格出来る位頭が良い。

お姉ちゃんは、私よりもずっと強い。

鬼である。

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