ふとした感じで怖い話   作:島ハブ

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風船

 

 

 

 挨拶や自己紹介はいる?いらない?あぁそう。それじゃあ最低限にしよう。つまり、話に関係する部分だけってことでね。

 俺の地元はまあ田舎だったよ。いっとくが、のどかな田園風景を想像してるならそれは違うぜ。要は山に囲まれた街ってやつで、国道があって、国道沿いには全国でも知られてるような店がちょこちょこ並んでたよ。スーパーとか本屋とかね。けど、そこから更に一歩外にいくともう山なんだ。山の間を縫うようにできた街って訳さ。

 こういうところは大体不思議な街並みでな。古い民家が並んでるところに、ぽつんとぴっかぴかのビルが建ったりしてるんだ。土地の権利とかが絡むんだろうが、流石に詳しくはわからん。俺が言いたいのは、でっかい店のすぐそばに古い墓地があったりするような場所ってことだよ。

 

 ウチの両親は共働きでさ。兄弟もいなくて、仕方ないから仕事中は俺を祖父母の家に預けてたんだ。俺が小学校にいく前の話だよ。

 家と職場は遠くて、祖父母の家と職場は近かった。仕事終わりに俺を迎えにきて、そのまま帰り際に道路沿いの店で買い物を済ますってのがいつもの流れだったね。さっき言った国道だよ。

 その日はスーパーに寄って夕飯の材料を買って、そこからどういう会話があったかは忘れたが、とりあえず洋服を買いに行こうってなったのは確かさ。

 有名な服屋だった。知ってるだろ?洋服の○○ってやつさ。CMでもよくやってるじゃないか。ああいう店ってのは、流石だね。キャンペーンとかなんとか、よく客を釣ってるよ。

 どういうキャンペーンだったのか、当時の俺にはわからなかったが、とりあえず服を買ったおまけで黄色い風船を貰ったんだ。小学校入学前だから5歳ぐらいで、そりゃあはしゃいだんだろうな。空に飛んでかないようにって紐を握って走り回った。

 で、買い物も終わって外に出たんだけど、俺はすっごいどんくさい奴で、駐車場で綺麗に転んだ訳。風が強い日で、すぐに風船は山側の道を転がっていったんだ。親の仕事終わりが8時だから、このころは夜の9時ぐらいかな。

 

 とにかく、風船を追って真っ暗な山道へと俺は駆け出した。浮かぶ筈の風船が跳ねるように道を転がっていくのを疑問にも思わないでね。車1台がやっとな道を頑張って走ったよ。そうすると、右手に墓地が見えてきたんだよ。山の斜面に沿ってできてる墓地でね。左手には街の灯り、墓地の更に向こうにも街の灯り。墓地だけが真っ暗だった。そこだけ異世界みたいな感じでさ、不気味で怖くて、泣きながら走ってたよ。

 けど、まだ5歳だからね。体力なんて全然なくて、息が切れちゃってついに立ち止まったんだよ。膝に手を置いてぜーはーぜーはー。でも、もし風船が墓地の中まで行ったら流石に取りに行けないと思ったから、すぐに上体を起こしたんだ。

 そこで初めて、とんでもないことに気付いたんだ。

 吹いてないんだよ、風。走ってる間に、いつのまにか風は止んでたんだ。気持ち悪いぐらい無風の中で、なぜか風船だけが墓地の方へ墓地の方へと転がってる訳さ。おまけに、墓地の中になにかいるんだよ。ちょうど墓地の真ん中辺りで黒いなにかが動いてる。しかもそいつと俺のちょうど中間に風船があってね。わかるかい?釣られてる魚のような気分にならない?当時の俺がそこまで考えてた訳じゃないけど、おびき寄せられてるのかもしれない、ぐらいのことは間違いなく思ったね。

 もうパニックだったよ。泣き叫びって状態で、駐車場へ向けて猛ダッシュ。そしたら急に向かい風が吹き始めてまたパニック。

 両親がすぐに駆けつけてきて、風船はまた貰ってあげるからね、って撫でてくれたよ。別に、風船がなくなったから泣いてる訳じゃなかったけど、そんなこと言う余裕もなくてうんうん頷いてた。

 

 これで今回の話は終わりだよ。それから1年ぐらいは、洋服の○○のそばを通るときは絶対に顔を伏せてたってのが、つまらない余談さ。

 

 

 

 







フェイク混じりですが、大筋には実体験です

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