GIOGAME   作:Anacletus

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とても懐かしい記憶が蘇ります。色々と試行錯誤し始めた頃から見てもかなり改変が加えられました。とりあえず第一話までちょっとお付き合いください。*今回以降からあとがきに中二病っぽい次回予告が付きます。


プロローグ2 GIONET

プロローグ2 GIONET

 

20××年某月。

 

国会において一つの法案が提出され全会一致の可決を見た。

 

時に人類の生存から十五年後。

 

太陽系絶対防衛線構想が持ち上がってから十年の月日が流れていた。

 

【個人座標情報保護法案】

 

俗に【ジオネット法】と呼ばれる個人情報保護法案は新たな時代の到来を告げた。

 

それは政府の下にGPSの送受信を一元管理保護する法案である。

 

その実態は複数の財閥、コングロマリットが政治工作を全面的に行ったと揶揄される程に一部の者達には刺激的な内容だった。

 

具体的内容に付いては政府管理下のサーバーを経由しなければGPS情報を扱えないよう端末への新OS導入を行うというものだ。

 

あらゆる環境下で通信を確保する光量子通信網を持って旧態然とした複数の情報網を刷新する。

 

正に法案は建設会社などを抱える財閥にも莫大な利益を齎す大規模な公共事業。

 

そんなインフラ整備でもあった。

 

ただ、多くの人々が思うような公共事業的側面よりも本質的な部分で法案は大きな変化を国民に与える事になる。

 

商業利用においてのGPS機能。

 

特にジオゲームと呼ばれる位置情報の送信によって様々な特典を得るゲームに端を発した新たな概念。

 

【位置情報利益(ジオプロフィット)】

 

それに関する様々な規定・罰則を設けた事でジオネット法は後の世に多大な影響を及ぼした。

 

GPS機能を用いた個人位置情報の取得とその送受信に関して世界に先立って行われた法整備が威力を発揮しだしたのはそれから数年後の事ではあったが、一部の者は理解していた。

 

これから世の中が変わるのだという事が。

 

人々の生活に浸透した商業目的でのジオプロフィットは莫大な利益を生む利権と化した。

 

企業側から提供される特典と特典を得る為に特定の場所へと集まる民衆。

 

この図は一目では企業側からのみ利益が供与されているように見えるが、実際には人を集める新しい方法として企業側にとっても有益な手段となった。

 

最初期、イベントなどの開催を行いながら人を集めて収益を上げるという形を取っていたジオプロフィットの基本的なスタイルに変化が起きた。

 

複数のジオプロフィットを扱う企業や団体が日時や位置に規定を置き、その規定によって得られる利益にも起伏を付けるという事をやりだしたのだ。

 

これによって単なる客寄せ効果は人口を複雑に分配する効果へと昇華された。

 

人の位置を自在とまではいかなくとも、ある程度コントロールする術を企業・政府・民間を問わず手に入れたのだ。

 

心理学とジオプロフィット。

 

最初に新しいジオプロフィットスタイルを確立した男はそう最初に説いた。

 

人を動かす為に必要なのは動機。

 

その動機を補強する為の因子として彼はジオプロフィットを使った。

 

「もしも、目の前の位置で十秒後十万円を確実に得られるとしたら君たちはどうする?」

 

カリカリと講義を行っていた老齢の教授が訊く。

 

窓から入ってくる熱線にグッタリしている学生達は心此処にあらずと言った心境で無言だった。

 

「まぁ、大概の連中は十秒後までにその位置に陣取って待つだろう」

 

反応は無い。

 

「簡単な話だ。ジオプロフィットは人間を特定位置へ精神的にも経済的にも縛り付ける効果を発揮する。これを心理学的な応用と組み合わせて、彼は様々なイベントや政府主催の巨大事業をプロデュースしたのだ」

 

カリカリと応えない学生達がノートを取る音だけが響く。

 

「現在、政府のジオプロフィット政策には主に三つのものがある。一つは超高齢者社会対策、福祉分野への応用。二つ目は税制に関する応用。三つ目は企業へのジオプロフィットマニュアルの推進。その他の例外として自衛隊、つまり軍事関連が現在模索されている状態だ」

 

ジリジリと髪を焦がしているような顔で教授が話しを進める。

 

「君達も知る通り、高齢化と過疎化が進む地域では特定の期間や時刻に政府が特典を設けている。その時期、その時間帯を歩きながら端末で位置情報を送るだけではあるが、人が集まる事で地域の横の繋がりや高齢者と若者の交流、更にはもしもの時の対策として多いに役立っている。昨年、この政策で夏場に病院へ運ばれた人間は六千人。政府広報は当てに出来んが、少なくとも数百人以上の人間は命を取り留めただろう。効果を疑問視されていたにしては上々な成果だとは思わんかね? 利益目当ての人間でも死に掛けた老人をそのままにしておけない奴がいれば電話の一つも掛けてくれるというわけだ」

 

丁度、ベルが鳴った。

 

「続きは来週。各自、今回話した福祉分野においてのジオプロフィット応用についてレポートを一枚提出するように。それと先週から言っていた任意の常時位置情報送信については更に一週間期限を延ばす。来週の講義は外国人条項の削除がジオプロフィットスタイルにおいて望ましいかどうかだ。では、解散」

 

ゾンビのように起き出した学生達がフラフラと部屋から出て行く。

 

「あちーよ。なげーよ。もうことばがぜーんぶひらがなになっちまうぐらいな」

 

背丈のある青年だった。

 

洒落っ気の無い黒のスラックスと黒革のごついベルト、ワイシャツを着込んでいる。

 

何処かのバーでソファーに寝そべっていれば「組」に関係した「そっち系」な「有力株」のように見えない事もない。

 

彫りの微妙に深い顔はまるで刃物の鋭さとは無縁そうなだらしないものだが、ワイシャツの中に詰まっている決して太くは無い洗練された筋肉が青年の雰囲気を多少シリアスに保っている。

 

青年はソファー代わりの長椅子でだるそうに寝そべったが如何せん椅子すら熱を帯びていたので体感気温が変わる程の涼は得られなかった。

 

その手にあるペットボトルのお茶はもう既に温くなっている。

 

「貧乏学生してるかい。貧乏人」

 

姿の見えない声の主に青年はだるさ全開で無視を決め込む。

 

「僕が恵んであげた熱いお茶も温くなってるみたいだけど、君もこちらの冷たいアイスティーの方が良かったかい?」

 

クスクスと声が弾む。

 

青年は嘆きながら顔を顰めた。

 

「それじゃあ、賭けは僕の勝ちだね。利子は明日までに払ってもらおうかな」

 

「金は無い。それ以前にこのクソ熱い時間帯に熱湯寸前のお茶を飲み干せたら利子を待ってやるとか何か? 悪鬼羅刹なのかお前は?」

 

「可哀想な人生の負け犬には僕の家に飛び込んでくれば三食昼寝つきで借金帳消し待遇をご用意するけど?」

 

「それは、ない」

 

「あ、今一瞬だけ考えただろう?」

 

悪戯ずきな子供のように声の主が笑う。

 

「まぁ、それじゃあ仕方ないね。利子も払えぬ輩には一仕事してもらおうかな」

 

青年の顔に一枚の紙が落ちる。

 

「探偵事務所もとい興信所の犬として君には新しい任務に付いてもらおう」

 

「非合法の癖に」

 

ボソッと青年が愚痴ると紙が細い手によって引き上げられそうになった。

 

青年は紙の端をさっと掴む。

 

「探偵じゃなくて【何でも屋】だろう?」

 

青年が起き上がる。

 

その目の前にはニヤニヤと笑う女が一人立っていた。

 

真夏だというのに全身を黒のスーツで覆い男のように無造作な髪型の女は甘い声で青年に囁く。

 

「いい加減に返済を諦めてくれると僕も嬉しいんだけどな。外字久重(がじ・ひさしげ)君」

 

「テメェだけはお断りだ。アズ」

 

黒のスーツの内、ワイシャツのボタンが上から三つまで外れている女はまるで汗を掻いていない。

 

ワイシャツの中に治まっている胸はかなり「無い」ものの、そのまま直視し続けるのは躊躇われて、青年久重はアズと呼んだ女から顔を背けて紙を強引に奪い取った。

 

「ふふ、ノーブラな僕に釘付けになりたくないという君の気持ちは男として普通の事だよ。ひさしげ」

 

「僕口調の年齢不詳女が何言ってやがる」

 

吐き捨てられる言葉にニヤニヤしながらアズはやれやれと肩を竦める。

 

「未だに僕の事が怖いなんて、君はよっぽど強い星の下に生まれたんだね」

 

「たまには人間らしい顔でもしてみせやがれ。この悪魔」

 

「悪魔だったら今頃僕は君を誘惑し放題でとっくの昔に落としてるよ」

 

「オレの信条はノータッチオカルト、ノータッチアズ、だ」

 

久重が紙の内容を頭に入れ始める。

 

「今回のは別に【ちょっと怪しい病院で夜の叫び声の調査をしたら不倫現場でした】とか【丑三つ時の路地裏で行われている取引を調査したらヤクじゃなくてチャカでした】とかじゃないから大丈夫大丈夫。君なら楽勝さ♪」

 

「無いはずのクラブを探し出せってのはどこら辺が大丈夫なんだおい?」

 

「ダミー企業でジオネット使って連中の足取りを追ってみたんだけど、途中で消えちゃって困っててね。地下か特殊な施設にでもいるのか一定区域で情報が途切れちゃって」

 

「おい。ダミー企業でジオネット使うとか何考えてるんだテメェは?!」

 

「大丈夫大丈夫。休眠状態の宗教法人複数買い取って、その系列の会社って事で審査通してるから。使い終わったらポイっとね」

 

置かれていた飲み掛けのペットボトルに蓋をしてアズがゴミ箱へと投げた。

 

「あ~~~もう?! 訊かなきゃ良かった!! そんな裏話?! オレのささやかな青春がバラ色からドブ色に!!」

 

もう、お前なんかの話を聞いてられるか。

 

ベチリとそう机に紙を置いて久重はその場から「うわ~~ん。オレの青春がぁああああああ」と逃げ出していく。

 

アズは放り出された紙に目を通した。

 

ビッシリと書き込まれた情報は普通の人間ならば一度見ただけでは覚え切れない程の量に達している。

 

「ふふ、やっぱり君は僕に相応しい男だよ。久重」

 

妖艶に笑んだアズの指から離れ紙が窓から外へと運ばれていく。

 

20××年七月下旬。

 

外字久重二十四歳の日常は借金と危ない仕事と黒い女によって九割が占められていた。

 




そう。
人は出会いによって変わる。
重き決断は死と再生の始まり。
少女は現われ、青年は知った。
物語の幕が開く。
第一話「迫り来る恐怖の影」
其処に決する人々は誘われた。
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