GIOGAME   作:Anacletus

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ようやく第一話の始まりです。色々とプロローグが長かったかもしれませんがこれからドンドン投稿していく事になるかと思いますので、よろしくお願いします。


第一話 迫り来る恐怖の影

第一話 迫り来る恐怖の影

 

朝方の薄暗闇に画面からの光が輝く。

 

マンション二十五階ワンフロアーの一角で朝からシュールな音楽が流れていた。

 

じゃーじゃん、じゃーじゃん、じゃーじゃんじゃーじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん―――。

 

朝から海と叫びとヒレと牙とサスペンスが繰り広げられる一室で、裸の女が毛布に包まり寝こけている。

 

横のソファーでバスローブ姿の優男が次々に餌食になっていく画面の中の人々をぼんやりと見つめていた。

 

ポチコーンと安っぽい呼び鈴の音が鳴ると優男はノロノロ起き出して玄関まで遠い廊下を歩きつつ、あちこちに散らかる衣服を無造作に拾い上げ一応の身嗜みを整えた。

 

無造作に玄関のドアを開けた優男はドアの先にいた男の顔を見て、閉めた。

 

「おい?! ちょっと待て!! さすがにそれは傷つきますよ?! ええ、オレの心情的に!!」

 

「何だ。ただの新聞配達のおっさんか。家新聞取ってないですよ」

 

優男の返答にドアがガンガンと叩き壊される勢いで打ち鳴らされる。

 

「もうその発言が矛盾してるから!? 親友として少しは親友を敬いやがれ!! というか飯を食わせろ!!」

 

優男がドアを開ける。

 

「本音はそれ? 久重」

 

「う・・・」

 

「今月で何回目だっけ?」

 

「ぐく・・・」

 

「あ、そっか。今月は借金の利息で首が回らなくて二日に一回ペースだったかな?」

 

「だ、ダメ?!」

 

ヒシッと低姿勢で久重が優男に上目遣いのキレーな瞳で訊く。

 

「はぁ・・・」

 

優男がサンダルを突っかけてマンションの外付け非常階段を下りる。

 

「僕、永橋風御(ながはし・かぜお)はこれから親友(笑)と食事に行きたい気分だから、来たかったら来れば?」

 

「おぉ、心の友的な発言に感謝しませう」

 

なむなむと拝み倒す勢いに優男風御は親友(笑)久重にジットリとした視線を向けた。

 

「朝っぱらから友達に食事をたかるしか能の無い人間て最低だよね」

 

「人間は食わなければ生きていけないんだ」

 

「ドヤ顔で言うな」

 

風御は歩きながら財布の中を確認した。

 

現金なんてものはなく、カードばかりが並ぶ財布の中身に久重が脂汗を浮かべた。

 

「何でお前のカードは金ぴかと真っ黒しかないんだろうな」

 

「僕、昔からカードコレクターだったんだよ。結構今でもコレクターらしいだろ?」

 

「ええ、そうでございますですはい。どうせオレは鉄道ゲームで必ず貧乏神的な何かが付くような人間ですよ」

 

「朝から何かテンションおかしくない? 僕は今はスーパー賢者タイム突入中なんだけど、さすがに切れていい?」

 

「何て羨まし――ごほん。何て爛れた生活を!? そんなんだから未だにスーパーニートなんだよ!!」

 

「悔しがれビンボー人」

 

「自分で言っておいて何だが自滅!?」

 

下らない話をしながら二人が向かったのは大手牛丼チェーンだった。

 

朝っぱらから開いている聖地を目の前に久重がハートマークにならんばかりの瞳を輝かせる。

 

牛丼大盛りが二つ。

 

久重の箸が牛肉に掛かる刹那、風御が話を切り出す。

 

「で、どうしたの久重?」

 

「ぐ、こういう時だけ鋭い・・・」

 

「で?」

 

「・・・アズからの仕事だ」

 

「僕、関係ないみたいだから帰ろっかな。あ、支払いはしておいて」

 

「ちょ、ガチで親友を食い逃げ犯にするつもりか親友!?」

 

溜息を付いて風御は再び席に腰を降ろした。

 

「それで僕に何を頼みたいわけ?」

 

「あ~~~ほんのちょっとでいいから真っ黒の方貸してくんない?」

 

「とうとう落ちるとこまで落ちちゃったんだね久重・・・・」

 

哀れみの視線に久重が否定する。

 

「今回行かなきゃならない場所の情報は解ったんだが、入る方法がそれしかなくてな」

 

「一分以内で簡潔に説明してよ」

 

「アズに頼まれたスニーキングミッション【あるはずのないクラブを探し出せ (できれば内部の情報も一緒に)】でそれらしい場所までは解ったんだが、扉の前にこわーいガチムチ黒人お兄さんがいて【おいジャップ。テメェみたいな貧乏人には此処に入る資格なんざねーんだよヒャッハー】とか言われた」

 

「金持ちのフリして入りたいわけね?」

 

「ま、まぁ、簡単に言うと」

 

「・・・何処?」

 

「さっすが親友。話が解るぅううう」

 

「そのキャラうざい。静かに食べようよ。人間でしょ君?」

 

「はい。申し訳ありませんでした親友様」

 

イソイソと食事に戻った久重が牛丼を約三分で平らげる。

 

「それにしてもまだ諦めてないの? あのアズトゥーアズに狙われて無事だなんて君くらいだよ」

 

「オレだってまだ人生の墓場に向かうのは早いと思ってる」

 

「最終手段はアズの奴隷か。これが大学一の頭脳(笑)とは世界って広いよね」

 

「頭の出来と貧乏は関係ない」

 

「ちょちょいと書庫で金融工学でも学んでくれば?」

 

「オレはそういうのは・・・」

 

久重が苦い顔で水を呷る。

 

「あーはいはい。頭良い癖に中の中で成績維持してた人間には無理か。ま、こっちも人のことをとやかく言えるような人間じゃないからいいよ」

 

「・・・悪い」

 

「悪いと思ってるなら誠意で返して欲しいね。今まで奢った朝食代を耳を揃えて返してくれるとか」

 

「ごめんなさい。オレが全面的に悪い」

 

溜息を吐いて久重から時間と場所を聞き出した風御は食事を済ませた後、久重を連れて駅へと向かう。

 

「カード貸したところで入れる場所でもないでしょ。僕が付いてってやるからガードと調査は任せる」

 

「了解した。それで何処に向かってるんだ?」

 

「こんなみすぼらしい格好でクラブとか行けとかどうかしてるよ。久重」

 

「男の買い物に付き合うとか。オレの青春が遠のいていく」

 

「ま、君もだけどね」

 

「は?」

 

久重がその言葉を理解するのは数時間後。

 

無駄に高そうなスーツを着込まされ、グラサンを与えられ、ちゃらいリングや指輪を付けさせられてからだった。

 

 

午後八時。

 

当初の予定時刻に達した二人は高層ビルが立ち並ぶ一角の商業ビルへと足を運んでいた。

 

未だに営業している店が多数あるというのに早々とネオンが消えたビルの中を進む。

 

あちこちにある監視カメラに視線を向ける事もなく二人はその入り口まで辿り着く事が出来た。

 

安っぽい鉄製の扉の前にはお約束の如く黒スーツの黒人が屯している。

 

「ハロー」

 

ズンズン進んでいき軽いノリで挨拶をかました風御に黒人の瞳が集まる。

 

如何にもちゃらいスーツ姿の優男。

 

無駄に光物が使用されている腕時計を煌かせる姿は何処かのホスト風とも見える。

 

しかし、黒人達はその腕に囚われるわけでもなく、風御の隅々まで舐めるように見回した。

 

「いやん。僕そういう趣味ないよ?」

 

ゲラゲラと品も無く笑う男の全身がまったくもって完全無欠に【金】以外の言葉が見当たらない事を確認して、二人の内の一人が風御にボソボソと質問した。

 

「あーうん。紹介は無いんだけどさ。お得意様にはなってあげられるかもよ? ここそういう場所でしょ?」

 

黒人が難色を示すと風御は後ろで控えていた完全無欠に危ない「お兄さん」と化した久重に目配せする。

 

久重は手に持っていたケースの中身をぶちまけた。

 

比較的重い紙の束がほぼ百、床に落ちたソレを見て黒人達が慌てる。

 

「あーうん。これでここのオーナーさんに取り次いでくれる? 幾分か懐に入れても構わないよ?」

 

サラッと流した風御の言葉に男達が二人で顔を見合わせた後、一人を残して慌てて扉の中に入っていく。

 

扉を開けると更に扉があり、その扉の内には更に扉がある。

 

三重の警戒を解いた内部へ駆け込んだ黒人が戻ってくる頃にはケースに再び束が収められていた。

 

残って散らかった束を片付けた黒人が手数料とばかりに幾つか束を懐に入れているのをニコニコしながら見ていた風御が出てきた黒人に振り返る。

 

慇懃無礼に男達は礼をして扉の内部へと二人を招き入れた。

 

扉の先の暗幕が払われる。

 

ボディーチェックを受けて入った扉の中には十数人の客。

 

(!?)

 

内部の様子に僅かに久重が動揺した。

 

「久重。自重」

 

「―――解ってる」

 

久重がグラサン越しにも解る内部の様子に歯を軋ませ風御に止められる。

 

内部では競りが行われていた。

 

競りが行われている以外の場所には複数の強化プラスチック製とも見える大きな箱が無造作に置かれている。

 

商品はまるで生気もなく与えられた食事をもそもそと口に入れていた。

 

「あなたがお見えになられたお客様ですか?」

 

競りを行っているステージ横から出てきたのは安っぽい流行りの戦隊モノの仮面を被った壮年の男だった。

 

「その仮面も売り物?」

 

「いえ、これはちょっとしたお遊びですよ。競りに来ている方々の中にもそういう方がいらっしゃいます」

 

久重が競りを行っている者達の内の数人が様々な仮面を付けている事に気付く。

 

東南アジアのものと思われるもの。

 

米国のヒーローを象ったもの。

 

それぞれにまったく別の仮面が競りに夢中で札を上げ下げする光景は滑稽なものに見えた。

 

「ふーん。結構、雰囲気良い店だね。昔はこういうとこって、もっと臭い場所だったもんだけど」

 

「いえ、それでは近頃の商売は成り立たないもので」

 

「そうなんだ」

 

「はい。それでお客様は何方様からの紹介も無いという事ですが、此処の事は何処で?」

 

「え? ああ、僕さ。【ADET】の関係者だったもんなんだけど、一人で商売始めたら少し仕入れが芳しくなくてね。小耳に挟んだ此処でちょっと仕入れて見ようかなぁって」

 

「【ADET】の? 今はフリーという事ですか?」

 

「まずいかな?」

 

「いえ、それなら基本的に身元確認さえ行っていただければ今からでも競りに参加できますが」

 

「あ、そう? 無理言って悪いね。それじゃあ、ほら出して」

 

久重が懐から数枚の書類を取り出して仮面の男に渡す。

 

「はい。では、どうぞ。ご既約はお読みになりますか?」

 

「え? いいよ。どうせ、何処も同じでしょ」

 

「それは・・・まぁ、そうかもしれません」

 

「そうそう。で、ちょっと相談なんだけど、今競りに出されてるモノと此処にいるモノ合計で何匹?」 

 

「今はそうですね。おい、在庫表を」

 

仮面が競りの参加者にシャンパンを配っていたボーイ風の男に声を掛ける。

 

ラテン系の顔立ちの男はすぐに店の奥に消えて戻ってきた。

 

男から渡された紙に仮面の男が目を通す。

 

「現在二十四匹で。今競りに出されているのが一、上物が七、売約済みが一、それ以外が十四、塵が一」

 

「売約済みと競りに出されてるの以外を全部でコレぐらいでどう?」

 

風御がスマホを取り出して計算した金額を提示した。

 

「ん・・・んん。今日のお客様方をこちらも手ぶらで帰らせるのは忍びないのですが」

 

難色を示す仮面の男に風御が更に追い討ちを掛ける。

 

「ま、それじゃあ、ちょっとおまけしようか。参加者に一人これくらいでどう?」

 

「ふむ。それならば」

 

「商談成立。ちなみにキャッシュでいいよね?」

 

「ええ、それ以外は受け付けていません」

 

「なら、コレ。隣のビルの七階にフェラーリ止めてあるから。車ごとでいいよ。差分は次の競りが行われる時に回収でいいかな?」

 

「よろしいですとも」

 

仮面が上機嫌に頷く。

 

「で、モノの移動はどうやってしてるのか聞いていい?」

 

「はい。落札後は基本的にお客様のご自宅に私どもの宅配業者が赴く事になって――――」

 

「トイレって何処?」

 

「トイレは左奥の部屋を曲がって突き当たりです」

 

久重の言葉に仮面の男がすぐに返した。

 

「じゃ、後は任せる」

 

「はいはい」

 

風御が安請け合いすると久重はそのまま歩き出した。

 

(ホント、君は優しいよ。久重)

 

内心で溜息を吐きながら、親友の善良さを好ましく思う風御は更に商談を進めた。

 

 

誰もいないトイレの鏡の前。

 

「クソがッ」

 

手洗いの台に拳を振り下ろして久重が唇を噛み締めた。

 

店内の商品と競りが生み出す空気が未だ久重の肺に蟠っていた。

 

「人間を何だと思ってやがる!?」

 

店の商品は人間であり店の競りは人間の競りだった。

 

嘗て黒人奴隷が競りに賭けられていた如く店内では若い人間が競られていた。

 

(ああ、くそ! アズめ!? 最初からオレがどういう反応するか解ってて・・・・・)

 

妖艶な笑みで人を地獄に落とす天才を恨みながら久重は頭を切り替える。

 

トイレを出ると左脇にスタッフオンリーの文字が扉に刻印されていた。

 

躊躇無く扉を開けて内部に侵入し扉を閉じる。

 

内部で監視モニターを見ている二人と先程までボーイをしていたラテン系の男がギョッと驚いている間に久重は行動に移る。

 

距離を瞬時に詰め、立っているラテン系の男の喉を拳で潰し、そのまま肘で鳩尾を抉り抜く。

 

振り向きざまに二人の男の一人を無防備な首筋に拳を振り下ろし昏倒させ、立ち上がろうとしたもう一人の顔面を蹴り砕いた。

 

脳震盪で意識を失った三人の男達がそれぞれに下手をすると死亡する可能性があったが、久重は構わずに辺りに積み上げられている資料の何枚かを掴んで懐に収める。

 

部屋の上部にブレーカーと配電盤を見つけて、久重は座る者無き椅子を持ち上げて投げ放った。

 

突如として店内の全ての電源が落ち、一瞬の静寂の後、ざわめきが広がる。

 

部屋から出た久重は確認しておいたステージの舞台裏へと移動した。

 

まだ何が起こったのか把握しない監視者が三人いた。

 

舞台裏で外国人の少年少女を監視していた男達へ音も無く歩み寄った久重は予め闇に慣らしていた片目からの情報を頼りに拳銃を取り出していた男の鳩尾に拳を打ち込んだ。

 

「がはッ!?」

 

仲間の苦鳴に驚いた二人が銃口を向けた時には、姿勢を低く保ったまま突進していた久重の拳がもう一人の鳩尾を打ち抜いている。

 

「がッッ」

 

やっと慣れてきた目で仲間を打ち倒した侵入者を見つけた最後の一人が発砲する。

 

左腕を掠めた銃弾に怯む事なく、久重が低姿勢から全力で膝蹴りを放つ。

 

「―――――――」

 

ゴチュリ。

 

男の下半身から聞こえる男には耐え難い音に顔を顰めて、久重は男達が落とした銃を舞台へと蹴った。

 

銃声に恐慌を来たした客達が扉の方へと殺到しているのか。

 

悲鳴とざわめきに包まれる暗闇がやっと本来の意味を取り戻したように異様な気配を醸し出す。

 

人が売り買いされるという異質さを包んでいたオブラートが消え去った今、その場に残っているのは暴力と悪徳の気配のみだった。

 

「これで後は警察にでも任せるか」

 

さっさと撤収しようと久重が親友の姿を探そうとした時だった。

 

「【ITE】起動」

 

小さな声に篭る殺意に久重は反射的にその場から飛び退いた。

 

刹那、久重が今までいた場所が明滅した。

 

瞬時に治まった光が何だったのか解らない久重の背筋に冷たいものが走る。

 

理解できない致命的な何か。

 

それを本能的に感じ取った久重がその場から舞台へと疾走する。

 

「【ITEND】Multiplication Rate4。Increase Level3」

 

久重の後を追うように立て続けに光が明滅した。

 

「【Devil1】Armoryより項目Martial Artを検索。第四種近接格闘武装Download」

 

久重が舞台から飛び降りると明滅が止まる。

 

しかし、それでも久重の耳には小さな声がしっかりと聞こえていた。

 

その声に込められた敵意の源を見定めた久重が呻く。

 

「マジか・・・・子供とか」

 

声の主が今まで震えていた舞台袖の子供達の中から立ち上がる。

 

夜目の利く久重には線の細い欧州系の人種、十二歳程の白人の少女と見えた。

 

「構築終了まで十七秒。SabWeapon“Fire Bag”」

 

舞台へと進み出てくる少女が仄かに照らし出された。

 

「な!?」

 

少女の手が燃えていた。

 

辺りにガソリンの匂いが立ち込め始める。

 

『助けてくれぇええええええええええええええええええ!!!』

 

誰も少女など見ていなかった。

 

客の誰もが入り口へと殺到し続けている。

 

一人客席に取り残された形になった久重は己の手が燃えている少女の瞳に息を呑む。

 

その瞳には殺意と侮蔑と敵意だけが宿っていた。

 

「アレは絶対に渡さない」

 

「な、何の話だ!? ちょ、ちょっと待て!!」

 

「惚ける気? 言っておく。もし、私があの場所まで行けばジオネットを通してアレは破壊される」

 

「何か物凄い勘違いで殺されかけているような気が。って何だソレ?!」

 

少女のまったく聞く耳を持たない姿勢に久重が脱力しようとして、少女の燃えている手に長い棒が握られつつある事に気付いた。

 

「痛いじゃ済まない。もう増殖は終わってる。構築も終了した。“Fire Bag”の威力は知ってるでしょ? この屋内で逃げ場が無い以上、逃れられると思わないで!」

 

一人で盛り上がる少女が血気盛んに叫ぶ。

 

ギリッと今だに燃えている手が握っていた棒が差し向けられる。

 

(この棒・・・伸びてるのか?)

 

異常な状況を久重は冷静に受け止める。

 

1少女は自分を敵だと思っている。

 

2少女は手が燃えて、燃えた手に握られた棒は伸びている。

 

3少女はFire Bag(たぶんはあの発光現象)を攻撃手段として認識している。

 

4少女の言い分を聞く限り攻撃が当たったら死ぬ(かもしれない)。

 

5少女から安全に逃げる術が今のところ思いつかない。

 

以下の条件から導き出されるその場での最善の方策を久重は瞬時に叩き出した。

 

「投降する。だから、オレの話を聞いてくれ」

 

「馬鹿じゃないの?!」

 

思い切り悪態を吐かれて、棒が振り回される。

 

飛び退った久重のいた場所を棒が通り抜けていく。

 

少女の燃えていた手の光が消える。

 

次の瞬間、久重は一瞬少女を見失い、大量に何かの欠片が落ちる音を聞いた。

 

「い?!」

 

それが少女の振り回した棒の通り過ぎた後の観客達の椅子の末路だと気付いて、久重はそろそろ全員が脱出しそうになっている扉へと逃げるべきか悩んだ。

 

「ッッ」

 

久重が瞬時にその場から跳ぶ。

 

瞬間的に空間がまた明滅した。

 

「何ソレ?! 気配も何も無い攻撃避けるなんて薬でもやってるの?!」

 

「オレは基本的にノータッチオカルト・ノータッチアズ・ノータッチヤクの厳然とした普通人だ!!」

 

「そうやって混乱させようなんて!! 【連中】らしい手口!!」

 

「『連中』って誰だ!!」

 

明滅から逃れながら瞬間的に見える少女と棒を回避しつつ、退路を探す久重の耳に開けっ放しのドアの外から警察よろしくパトカーのサイレンが聞こえ始める。

 

「く、警察にだってまだ息が掛かってない場所くらいあるんだから!!」

 

「何か大事になってくれてるようでまったく嬉しくない予感だチクショォオオオ!!」

 

涙目で回避行動を取りつつ久重が何とか少女を取り押さえようとした時だった。

 

銃声が響く。

 

「あうッッ!?」

 

弾かれたように少女が倒れた。

 

「何の騒ぎかと思えば、やはり貴女でしたか。ソラ・スクリプトゥーラ」

 

突如、電源が回復し当たりに明かりが戻る。

 

「ッ、おい!!」

 

久重の目の前で少女の金髪が血に塗れていた。

 

「ター・・ポーリ・・・ン」

 

少女はどう考えても致命傷だった。

 

出血する胸元から後から後から血が溢れていく。

 

「気をしっかり持て!! すぐ救急車を呼んでやる!!」

 

少女の傍に膝を付いて久重が胸の傷を押さえながら声を掛ける。

 

「どうやら逃避行も此処までのようで。【D1】は回収させて頂きます」

 

舞台袖から白いスーツの青年が降りてくる。

 

普通の日本人然とした顔とは不釣合いな白いスーツが薄暗い中で浮かび上がり・・・底知れぬ何かを連想させた。

 

「おい!? テメェか!! この子を撃ったのは!!」

 

「え・・・?」

 

「ソラ。彼はどういったお知り合いですか?」

 

「ま・・さ・・か・・・」

 

少女が死の間際に目を見開く。

 

「おや? まさか、貴女の知り合いではない。という事は部外者? はは、貴女も最後まで笑える人生ですねぇ。関係ない人間と戦ってる最中に隙を見せるとは・・・く、くく、いやいや、傑作にも程があるでしょう」

 

笑いを堪え切れないように青年が口元を押さえる。

 

「ぁ・・・ご・・・め・・・ッ」

 

少女が久重を見上げて喋ろうとして吐血した。

 

「いい!? もう喋るな!! すぐに助けが来る!!」

 

「で・・・ごめ・・・・な・・・・かん・・・・け・・・・」

 

「いい!! 気にしてない!!」

 

「ぁ・・・」

 

少女は微かに久重の言葉に微笑んで、手から棒が零れ落ちた。

 

「さて、掃除も済んだ事ですし、貴方にも死んで頂きましょうか」

 

「おぃ」

 

「はい?」

 

薄ら笑いを浮かべていた青年が銃を久重の頭に付けて撃ったと同時。

 

青年の顔が見事に歪み、体が数メートル吹き飛んだ。

 

「テメェは、クズだ」

 

白く握り締められた拳から血が滴り落ちる。

 

「はは、これは・・・どういう冗談で・・・私が傷を?」

 

何か酷く驚いている青年が見上げた。

 

「貴方は何なんですか?」

 

「オレか? オレはただの通りすがりの何でも屋だ」

 

近づいてくる久重に対し、青年は構わず銃を連続で撃ち放つ。

 

計十五発。

 

しかし、弾丸が久重に当たっている様子が無かった。

 

弾丸は全て外れていく。

 

「銃弾が効かない? いえ、これは、ッ?!」

 

立ち上がった青年の顔に渾身のストレートがめり込み舞台下へと激突した。

 

「これはいけない。さすがに未知数の存在との交戦は骨が折れる」

 

鼻がねじ折れ、歯が欠けた青年が己の状態を意に介した風も無く立ち上がる。

 

久重が疾走する。

 

まるでトラックが激突したような衝撃音。

 

最後の一撃を見舞われた青年が何とかその拳を両腕でガードして、舞台へと吹き飛ばされる。

 

ゴトリと立ち止まった久重の足元に何かが落ちた。

 

閃光。

 

「彼方のような得体の知れないモノと戦うのは遠慮します。もしもまた会う事があれば、その時はお相手しましょう。では」

 

舞台からすでに消えている青年の足音が遠ざかっていく。

 

追いかけようとした久重だったが、その時異様な臭いに気付いた。

 

「ガソリン!」

 

ハッと顔を上げた久重に雨のようなガソリンが降り注ぐ。

 

「くそ!? 証拠隠滅は万全とか!?」

 

舞台袖で震えていた子供達の事を思い出し、久重が走る。

 

数人の子供達を見つけた時にはスプリンクラーで撒かれたガソリンに部屋の一角から火が回り始めていた。

 

久重が透明な箱の鍵を次々に破り、売り物にされていた誰もを走らせる。

 

避難させる途中。

 

客達の椅子の最中に倒れ臥した少女を見つけたが、完全に炎に巻かれていた。

 

「――――悪い」

 

久重は歯を食い縛って、未だに逃げ遅れている者の誘導を行う。

 

見る限り最後の一人を外に出した時点で扉の外に出た久重は扉を閉めた。

 

すでにビル周辺には紅いパトカーのサイレンが屯していた。

 

大勢の足音が駆けつけてくる。

 

「この子達を非難させてくれ!!」

 

銀色の衣服を身に纏う消防隊数人が寄ってくると久重の言葉に頷いて走っていく。

 

そのまま隊員に先導されてビルの外に出た久重が上を見上げるとビルの一角から煙が立ち上っていた。

 

「くそ!!」

 

助けられなかった少女の事を思い、久重が歯を噛み締める。

 

「君!! そこの君!! 今、ビルから子供達と一緒に出てきたね!!」

 

警官の声に振り向いた久重は自分が多くの警官に囲まれている事に気付いた。

 

「ちょっと事情を聞かせてもらいたい。署の方までご同行願うよ」

 

 

完全に密室となった店内。

 

炎がうねり、全てを呑み込んでいく。

 

血に塗れた少女の死体もまた燃えていた。

 

しかし、燃えているにも関わらず、少女の体には焦げ目一つ付いてはいない。

 

少女の前髪が炎の熱で炙られて揺らいだ。

 

髪に今まで隠れていた額付近に僅かな輝きが灯る。

 

少女の額に文字が浮かび上がった。

 

【ITE】Automatic Control。

 

Lost Part Activate。

 

【ITEND】Re:Start。

 

周囲の炎が急激に静まり始める。

 

その熱量はただ一点へと吸収されていく。

 

少女の負った傷へと。

 

GIONET Connecting。

 

Channel Police Radio。

 

【あーこちら233。本件の重要参考人と思われる青年一名を確保。これより移送する。名前は本人によると外字久重。二十四歳。來邦大学大学院一年生。尚、現場での―――】

 

「・・・ひさ・・・しげ」

 

その日、商業ビル群の一角で起こった小火騒ぎは比較的小規模で収束した。

 

火の手は何故か急激に弱まり、二時間後には鎮火。

 

火事における犠牲者は零。

 

ただ、不思議な事に店内の一角だけが不自然に焼け残っていた為、現場検証が引き続き行われている。

 

そこにはもう少女の姿は無かった。

 




ある者は受け入れ、ある者は謀り、ある者は慮る。
少女は思い出す。
世界には未だ温かなものがあると言う事を。
言葉にならぬ想いに名があったと言う事を。
第二話「謀略の読み手」
奏でられていく日々へ彼らは向う。
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