GIOGAME   作:Anacletus

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この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。


第四十五話 彼もしくは彼女の戦い

第四十五話 彼もしくは彼女の戦い

 

『この爆発の死者は述べ一千万以上になると見られ、数百万人以上の負傷者も出していると現地入りしたWHOの特務医療チームからの報告が上がっています。国連は沿岸軍閥との調整に入っていますが、海外からの救援物資及び救助隊の受け入れなどに付いては調整が難航しており、未だ実現には遠い模様です。

 

爆発した原子力爆弾は中性子爆弾と見られ、その出所が現在のところ第二次日中戦争を占なう鍵になると見られています。

 

沿岸の4軍閥は公式見解を発表し、これは中国軍閥連合の用意したものではないとの回答と同時に日米の謀略であると主張していますが、各国の有識者の間からは日中近海事変において軍閥所属の潜水艦から核が発射された事を踏まえ、未だ残されていた核弾頭が何らかの外的要因によって起爆したのではないかとの見方が多数を占めています。

 

中国軍閥連合の見解に対し日本政府外務省は【日本が核弾頭を製造し、各国の監視衛星の網を掻い潜って北京に投下する事は不可能である。太平洋から発射され日本近海に落下したミサイルの回収を急がせているがほぼ間違いなく核弾頭であるのは明白であり、これは日中近海事変において行われたような日本を陥れる為の中国の欺瞞行為である可能性が高い】と反論しています。

 

軍閥から脱出した軍閥連合高官筋の話によりますと中性子爆弾の爆発時、北京には各軍閥の代表者達が集っていたとの話もあり、日本を降伏させる為の提案が為されていたという事です。

 

この情報の拡散により、SNS上では【軍閥連合の秘密兵器が爆発したらしい】【何故、日本製を使わなかったんだ?】というような書き込みが各国で爆発的に行われており、軍閥連合の自作自演用の核弾頭が何らかの拍子に爆発したとの見方が強まっています。

 

こういった見方に多くの華僑コミュニティーが反発しており、各国で中華系移民の反日デモが多発、和僑系コミュニティーの警戒が続いています。当事国である日本では市民から軍閥連合への非難が噴出している模様ですが、一部のネットコミュニティーやNGOからは【中国軍閥にではなく中国国民へ支援をしよう】との計画が複数持ち上がっており、募金や物資が集められているという事です。

 

日本国内の華僑系移民労働団体は被爆地の支援を政府に求めていますが、これに日本政府は事実関係の確認が終わり次第【同じ被爆国】として人道的見地から救援物資を送るかどうか検討を開始するとしており、北京への支援が行われるかどうかは不透明な情勢です。では、次のニュースです』

 

一室に流れるラジオ放送に耳を傾けながらトレーナーにジーンズという井出達の池内豊は窓際でハラハラと落ちる落葉を見つめていた。

 

風に舞う紅葉を眺めつつ彼は隣で同じように外を見つめている女をチラリと横目に見た。

 

オーストラリア陸軍がGIOに送り込み第二GAME終盤で捕まったアマンダ・フェイ・カーペンターだった。

 

今やGIOの虜囚として囚われている二人には接点らしき接点は存在しない。

 

敵ではないが味方でもないというのがどちらにとっても正式な見解だった。

 

GAME終盤。

 

日中近海事変の中心にいた池内にとっては殺されていないだけでもマシであり、GIO内部から機密情報その他諸々をどさくさで盗み出そうとしたアマンダは射殺されていないのが不思議な状況。

 

互いにGIOに拘束され、引き合わせられたのは数日前。

 

これからどうなるかと未来を悲観していたアマンダと、もう祖国の道先を先導する事も出来ないと諦観していた池内は互いが同じ中華系の血筋に連なるという以外にまったく接点が無かった。

 

互いの素性を知らされたものの、GIOに掴まっている以上どうする事も出来ないのは言うまでも無く。

 

ろくに話しもせず二人は同室に放り込まれる事となった。

 

『今は猫の手も借りたい時期なので、地獄の沙汰もお休みです。GAMEも延期して関連したアレコレは全部GIOの復興が終わってから行う事になりました。貴方達のこれからの処遇が決まるのはとりあえず諸々が片付いた後ですので。それでは』

 

猛烈に忙しいと愚痴りながら二人を引き合わせた張本人であるGIO特務筆頭亞咲は二人に対して投げやりな態度で事情を説明してから去っていった。

 

与えられたのは東京某所にある3LDKアパートの一室。

 

鍵付きの牢獄に入れられるわけでもなく。

 

GIOの特殊施設に連行されるでもなく。

 

監視すら付いていないのではないかと思えるようなお気楽な放置は二人の目には異様なまでの自信と映った。

 

生活費が振り込まれる通帳を手に二人はそれ以来誰に接触を図るでもなく暮らしている。

 

暴挙とも思えるような投げやりさで生活させている背景を考えれば、池内もアマンダも行動など出来なかった。

 

いつでも消せる。

 

誰と接触を図ろうと無意味。

 

大人しくしていろ。

 

つまりはそういう事だ。

 

GIOが本気になれば、それこそ日本政府すら動かせる。

 

ジオネット上の情報で怪しい動きがあれば【明示されない事柄】がどうなるか分からない。

 

例えば、二人の仲間達の安否。

 

下手をすれば殺されるだろう。

 

GIOが人道的である等と一ミリたりとも思わない二人にとって何も言われず知らされず誰かに接触できるという誘惑の横に置かれるのは拷問と言えた。

 

「心の檻・・・か。GIOには臨床心理学の権威がいるらしい」

 

思わず愚痴った池内にアマンダが視線を向ける。

 

「あの池内豊が愚痴とは・・・」

 

「人は自分で思っている程には強くない。状況を見通せる目を持つ事だ」

 

「第二次日中戦争が勃発するか否か・・・この後に及んでGIOはまだ諸々を手玉に取れると考えているのでしょうか」

 

「だろうな」

 

「お国は大変なようですね」

 

「あの老人達の行動を考えてみれば、確かに何かしらの切り札を隠していたのは理解出来る。最後の脅し文句が消えたと思っていた諸国に対して強硬な姿勢を取れる力があったからこそ、武装難民の流入を許容したと考えれば、納得できる部分は多い」

 

「爆発は・・・事故だと思いますか?」

 

「いや、事故に見せかけられた可能性が高い。核の扱いまで耄碌していたとは考え難い」

 

その可能性すらあるという含みを持たせた池内の内心にアマンダは同情した。

 

その手の世界では絶賛される手腕を持つ男がそういう権力構造に悩まされている姿は同じ世界に生きる者として歯痒いものがあった。

 

「人民を愚かにしたのは党だ。だが、その本人達すら己が愚昧だとは気付かなかった。大真面目に日本の占領政策が検討され、その青写真までは出来ていた事を思えば、金と憎悪が瞳を曇らせていたのは必定。他国から事故扱いされても心底反論できようはずもない。たぶん、当事者達すら内心は事故だと思っているはずだ」

 

「太平洋からの核攻撃に付いては何か心当たりがありますか?」

 

「こちらの管轄に回されてきたのは3発だけだった。それが最後だと聞かされていたが、この状況を見る限りは幾つか隠されていた核弾頭が秘密裏に運用されていると見るべきだろう」

 

「大変ですね。そちら側も・・・」

 

「今やこの身に従う兵は無い。核を本土に向けて撃った時点でな」

 

心情的には何も聞くべきではないとアマンダの内心、感情は囁く。

 

しかし、この期に及んでも諦める事を知らない理性が勝った。

 

「どうして、日本に撃たなかったのか聞いても?」

 

「律儀だな。だが、それは君が知るべきではない事だ」

 

「そうですか」

 

アマンダは素直に引き下がる。

 

どちらもがプロフェッショナルとしての矜持を持っている故に弁えていた。

 

訊いたところで答えは返らないのだと。

 

「まだ、この檻から出られると思っていますか?」

 

だから、そんな他愛の無い言葉でアマンダがお茶を濁す。

 

「さぁ、な」

 

本来なら愚痴ったところで誰が聞いているわけでもない。

 

訊かれていたとしてもGIOが盗聴しているくらいのものだ。

 

それでも池内はこの世の裏側よりも尚深い奈落に歳若い兵を招き寄せるような真似はしない。

 

あまりにもおふざけが過ぎる真実など生真面目な若輩に聞かせるようなものではない。

 

「そろそろ買出しに言ってきます」

 

会話が途切れたところでアマンダはそれ以上追及するでもなく席を立つ。

 

全ては未だ手の届かない場所にある事を二人は強く実感していた。

 

 

国際空港の管制塔の上で少年が一人座っていた。

 

その手にはゴツイ双眼鏡が握られている。

 

水色のパーカーに半ズボン。

 

外見だけを見るなら何処にでもいそうな少年だった。

 

無論、そんなものがわざわざ管制塔の上なんて目立つ場所に陣取っているわけがない。

 

そもそも発見されないのも不思議な場所で悪目立ちもせずにいられる時点で尋常ではなかった。

 

メリッサ。

 

そう呼ばれる少年は一人今日も黙々と己の任務をこなす。

 

これから離発着する航空機を観察するのはそこが一番の特等席だった。

 

「そろそろかな」

 

十数キロ先でもクリアーに見える双眼鏡なんてものを使いながら、メリッサは一人空港へ続く主要道路に視線を向けた。

 

双眼鏡の先には一台のクーペ。

 

その内部には数人の少女が乗っている。

 

嘗ての仲間である監視対象。

 

ソラ・スクリプトゥーラ。

 

中国の幇出身の兵(つわもの)。

 

小虎(シャオフウ)。

 

小さな財閥を管理する布深家の長女。

 

布深朱憐(ふみ・しゅれん)。

 

「楽しそうで何より・・・」

 

少女達はお喋りに花を咲かせている。

 

その内容は唇を読む限り、これから飛行機で帰ってくる主に対する想いだけだった。

 

クーペを運転する女フィクサー【アズ・トゥー・アズ】すらも何処か浮かれている。

 

それほどまでにあの男の帰りを待っているのか。

 

メリッサは気に喰わない己を殺して見(けん)に徹する。

 

「外字久重(がじ・ひさしげ)・・・か」

 

世界には星の数程も男がいるのにどうしてよりにもよってあの男なのだろう。

 

そう思わずにはいられなかった。

 

何でも屋としてアズというフィクサーに飼われている男。

 

最初はその程度の認識だった。

 

だが、そんな認識は当の昔に捨てている。

 

不可解と不可思議を足して2で掛けたような男。

 

それが現在メリッサの久重に向ける評価だ。

 

身辺調査を行った時から何かと監視する傍ら集めた情報や評価し直した情報にはある種、異質な気配が纏わり付いている。

 

己の上司が上げた報告書や詳細なデータを整理して初めて見えてくる異常性。

 

それはおぞましい程に意表を付く。

 

最初期に出された報告書にはまるで馬鹿げた内容が書かれていた。

 

素手においてソラ・スクリプトゥーラと交戦。

 

更にエージェントであるターポーリンを殴り飛ばして負傷させたと。

 

NDを持ち、その力で戦闘をこなしている人間と初回で当たって同等に戦う。

 

その時点で普通ではない。

 

更には負傷させたというのは常識的に在り得ない。

 

その時のエージェントでありメリッサの上司であるターポーリンは【連中】が抱える中でも指折り。

 

NDに詳しく開発者の一人であり、同列の存在との戦闘すら熟知した手慣れと言っていい。

 

不可解なのは銃が当たらなかったという記述にも見受けられる。

 

走って近づいてくる標的に銃弾を正確に撃ち込んだと報告書には記載されていた。

 

NDの加護ある人間が扱う銃器の命中精度はかなりのものだ。

 

それこそ、曲芸染みた射撃能力があると言っても過言ではない。

 

それなのに一発も銃弾は当たらなかった。

 

NDで強化され、通常の徒手空拳で傷付けるのはほぼ不可能なはずである肉体にダメージを与えた。

正に正体不明の敵。

 

その最初の一戦を見る限り、NDの加護すらないはずの青年が一体どうしてNDの権化のようなエージェントに勝てるというのか疑問に思うのは当たり前だ。

 

フィクサーに鍛えられていた精鋭という言葉だけでは理解出来ない。

 

更に理解しがたい深い霧に包まれているのはその出生。

 

表面上の電子情報はあるのに幼少期からの生活実態が何処にも存在しない。

 

それは天才とも言われる女フィクサーの仕業かと最初は思っていた。

 

しかし、専門の業者を雇って調べさせた後も殆ど何も分からなかった。

 

戸籍情報はある。

 

育ったはずの地域の学校にもいた痕跡はある。

 

なのに、その地域の公共機関には何の情報も無い。

 

生活すれば必ず出る情報の断片すら無い。

 

様々な情報が電子媒体に変わった昨今、在り得ないはずの事態だ。

 

生活実態に関する公的情報が消えているというのはどう考えてもおかしい。

 

大規模な情報操作か。

 

そうならば、その痕跡は残るはずだが、その可能性は無かった。

 

【連中】のハッキングで一バイトすら情報は出なかった。

 

消されたデータを復元する事なんて容易な人間達が本気で探して無いというのだから、それは確かに無いのだ。

 

メリッサが知る限り、【連中】に嗅ぎ付けられもせずに情報操作するのは例え大国でもほぼ不可能。

それを上回る隠蔽工作が出来るなら、正にその個人又は組織の力は世界を征するに足る。

 

(そして・・・あの異様な街・・・)

 

出生地である山間の寂れた場所に行った時、メリッサは確かに通常では考えられないような異常に出会った。

 

灰色に染められた世界。

 

上空に浮かぶ世界を滅ぼすはずだった隕石。

 

そして、その下にあった外字久重の生家。

 

恐ろしい何かの片鱗を味わった。

 

連中ですら為しえないような光景。

 

だが、それよりも驚いたのは全てが終わった後。

 

NDの活動ログには映像も記録されているはずだったが、まったくメリッサが体験した映像は映っていなかった。

 

映っていたのは普通の街に普通の廃屋と化した生家の姿だけ。

 

隕石も灰色の雪のようなものも確認できなかった。

 

それだけではない。

 

情報収集に専門業者を使ったのはいいものの、結局生家に辿り着ける人間はいなかった。

 

サテライトによる確認も為されたものの【生家なんてものは街の何処にも存在していなかった】のだから、疑念は深まるばかり。

 

明らかな映像との矛盾を【連中】は何某かの技術で妨害されていると断定。

 

調査は引き続き、行われている。

 

「第一級の危険指定・・・正体不明(アンノウン)・・・」

 

きっと、そんな事を男の傍らにいる少女達は知らない。

 

メリッサにはそれが何か致命的な齟齬を引き起こすような気がした。

 

「ようやくお帰りか」

 

思考に耽っていた顔が上げられる。

 

予定の便が空から降りてくるところだった。

 

クーペも空港の駐車場へと止まっている。

 

急いでいるのだろう。

 

少女達がワラワラ車から降りると急いでターミナルへと走っていく。

 

「ソラ・・・」

 

ポツリと呟いたメリッサの懐が震えた。

 

端末に新しい情報だった。

 

それを見た顔が険しくなる。

 

(【M計画】の関連オペレーションに追加案? 生体強化案の修整協議・・・・・・まさか僕にやらせてたウィルス強化の検体(サンプル)採集はこの布石だった?)

 

今では昔の上司と同格になっているメリッサには様々な情報が開示されるようになっている。

 

これから何が起こるのか。

 

何となく察したメリッサは搭乗口付近で青年に抱き付く嘗ての仲間を見ていられず俯いた。

 

「僕は・・・・・・」

 

結局、言葉にならず。

 

監視の引継ぎの為、管制塔の上から飛び降りた。

 

硬いコンクリートの地面にメリッサが難なく着地するとそこにはもう部下が不満たらたらでいた。

 

「いい加減ソラお姉ちゃん大好きっ子止めたら? 上司殿」

 

戦略病原兵器搭載型少女シャフの嫌味に返す元気もなく。

 

少年は双眼鏡を渡すと誰にも見咎められず滑走路内部を去っていく。

 

舌打ちした後、少女は一人イライラした様子で少年の背中に毒を吐いた。

 

「女々しいのよ! そんなに好きなら略奪するなり殺すなりすればいいじゃない!?」

 

しかし、その声に答えは返らない。

 

相手にされていない事が心底に腹立たしく。

 

シャフは追い討ちを掛ける。

 

「その内、あの男に大好きなソラお姉ちゃんが犯(や)られちゃうかもね♪」

 

足が止まった。

 

振り向いて僅か口が動かされる。

 

何事かを呟いた後、メリッサはその場所から忽然と姿を消した。

 

「・・・・・・」

 

返された皮肉は確かにシャフへ伝わっていた。

 

【そんなに羨ましいなら、あの中に混ざったら?】

 

一人ポツンと残された少女は何故か言い返されてショックな自分に戸惑い。

 

その理由を胸の内に求めて。

 

「ああ、そっか」

 

気付いた。

 

「あたし・・・もう本当に一人なのね・・・」

 

今まで繋がりのあった仲間ですら、もうシャフの【傍】にはいない。

 

新しい居場所を見つけて幸せそうに微笑む奴。

 

新しい目標に向って歩き出してしまった奴。

 

そして、一人残された奴。

 

「上等じゃない。全部・・・全部・・・奪ってやるわよ・・・あたしは・・・」

 

―――あたしは世界平和を憎む簒奪者なんだから。

 

数分後。

 

少女の姿は消えていた。

 

深く静かに監視は続行される。

 

 

【中国軍閥領内12:05】

 

朝居・インマヌエル・カークスハイドはモムモムと生春巻きを食べていた。

 

丸く巨大なテーブルが一つ置かれた部屋の四方には小銃を持った中国由来である辮髪(べんぱつ)でスーツ姿の男達が直立不動で立っている。

 

「・・・・・・」

 

ここまで生きた心地のしない昼食を取るのは何も初めてではない。

 

拾われてからずっとそんな感じだった事を思えば、もはや【日常(いつも)】の光景と言っても差し支えは無い。

 

「ん~今日の昼食はいいじゃないか。調理師にお前はまだまだ使ってやるって言っておいて」

 

子供特有の何処か無邪気な声が木霊すると傍に仕えていた給仕三人の一人が頭を下げてから部屋を退出していく。

 

「・・・相変わらず傲慢ですね。貴方は」

 

「貫禄があるって言い方をして欲しいな。君には♪」

 

丸いテーブルを挟んでマヌエルと対面する形になっている少年が笑った。

 

長い黒髪を女性の如く一つに束ね、朝だというのにグレーのスーツ姿で朝食を取っている姿は堂に入っている。

 

愛らしい顔立ちをしているものの滲み出る雰囲気はまるでマフィアの幹部のような重圧。

 

子供と馬鹿にすれば、一瞬の内に笑顔で銃殺しろと言い出しかねない。

 

それがマヌエルを死の淵から救った【富儀(フギ)】と名乗る十四歳程の少年だった。

 

「それでいつになったら私を日本に返してくれるんですか?」

 

「生憎と玩具は手放さない主義さ」

 

「人を玩具呼ばわりする人間に関わってる暇なんて無いんです。早く・・・早くしないと・・・」

 

唇を噛んだマヌエルに富儀が笑う。

 

「ちなみに君のやってたGIOのGAMEは延期になったそうだけど」

 

「な!?」

 

「君の素性くらいちゃんと調べたよ? それに君が帰りたいと思う理由もね」

 

「・・・・・・」

 

「喋ってくれればもっと早く調べてあげても良かったんだけどな」

 

「私は・・・」

 

「ちなみに君のチームは全滅だって」

 

「え・・・」

 

思わず目を見張って立ち上がったマヌエルに生春巻きを口にしながら富儀が説明する。

 

「何でもGAMEを見てて死にたくなったらしい。自前で調達してた拳銃で全員が自殺したとか何とか」

 

「――――――」

 

目の前が真っ暗になって、マヌエルが崩れ落ちる。

 

「ああ、椅子に座らせてあげて」

 

四方にいる男の一人が頷いて床のマヌエルを椅子に優しく座らせた。

 

「色々と調べてみたけど、銃を買えるような感じの人間達じゃなかったから・・・もしかして、君の?」

 

ビクリと震えたマヌエルが何も言えないまま恐怖に歪んだ顔で富儀を見る。

 

「持ってきてたのを置いてきたままだったとか?」

 

「ッッッ」

 

「そんなに落ち込む事ないよ。自分で死を選んだ人間が一番悪いなんて当たり前だしね」

 

「貴方に何が分かるんですか!?」

 

「分からないよ。此処にこうして暮らしてれば、君にも理解できる通り、僕はこういう人間だから」

 

「~~~!!!?」

 

「そんなに親しい間柄だった?」

 

「人が!? 人が死んだんですよ!?」

 

「君の拳銃で死んだから君のせいだと言いたいなら、僕には慰める言葉はないよ」

 

「そ、それは?!」

 

「今日この中華の大地で一千万人が死んだ」

 

「え!?」

 

「ニュース出して」

 

テーブルの中央に立体的な映像が映し出される。

 

各国のニュース一面が無数に映し出され、その中でも日本のものが大きく表示された。

 

流れてくる音声に愕然とした様子でマヌエルが見入る。

 

「人が大勢死んだ。でも、僕はそれを悲しまない。だって、戦争してればこういう事は覚悟の内だからね」

 

「あ、貴方は!? 自分の国でこんな・・・こんな事があったのに!?」

 

「僕は君が死んだら悲しいよ。でも、見ず知らずの人間や政争でやりあう間柄の老人や軍閥連合の中枢部が消えたって喜びこそすれ悲しむ謂れはない」

 

「―――喜びこそすれって・・・何を貴方は・・・」

 

僅か後ろに下がるマヌエル。

 

口元を拭いてから富儀が立ち上がる。

 

「僕にまで手番は回ってこないかと思ってたら面白いところでリーチ・・・笑っちゃうね。さ、お前達にも働いてもらわないとならない。軍閥のお偉いさんに書類を幾つか回さないと」

 

男達が慌しく部屋の外に出て行く。

 

「あ、貴方は・・・」

 

「僕? 君も知っての通り。金持ちで傲慢でマフィアっぽい男達に傅かれてるちっぽけな子供さ。まぁ、一つだけ普通と違うとすれば、僕の血には特別な家系のものが流れてる事くらいかな」

 

「特別・・・」

 

「そう。皇帝の血筋。と言っても軍閥が言ってるだけで本当かどうか分からないし、DNA鑑定すら怪しいけどね」

 

今度こそマヌエルはどう反応していいか分からなくなった。

 

「それでもこれから僕の周りには権力と金と薄汚い人間がわんさかやってくるだろう。中国がこれから先残ってるかどうかは分からないけど」

 

戸惑うマヌエルに近づいて手を取ると富儀が先導して歩き出す。

 

「ど、何処に行くんですか!?」

 

「演説会場。明日までに動けば、先んじて日本に対してもコネがある僕の有利は揺るぎないものになる。君には僕の秘書をしてもらうよ」

 

「な、何を!? 何を言って!?」

 

腕を振り払おうとするマヌエルを見上げて少年が腕を放した。

 

「君がもしもまだGAMEを続けようと思うならバックアップが必要じゃないかな? もしも、手伝ってくれるなら僕は君に対して軍閥連合を掌握した後、支援を約束しよう。それと僕の屋敷で一ヶ月以上飲み食いしておいてただで帰れると思ってる大物なところは買っておく」

 

「な!? ま、待って!? 待ってください!?」

 

再び手を取って歩き出そうとした少年からマヌエルが身を引く。

 

「わ、私がこれからどうするかなんて貴方に分かるわけな―――」

 

「分かるよ。君はこれから日本に帰れば絶対GAMEに参加する。そして、一人であろうと戦い続けようとする」

 

「わ、私を決め付けないでください!!?」

 

あまりに付いていけない言動だった。

 

「僕が何で君を引き上げてからも此処に置いたか。そう言えば話してなかったね」

 

「何の話ですか!?」

 

「君は覚えてないかもしれない。けど、一番最初に目覚めて朦朧としていた君は僕に最初こう言ったんだ」

 

―――戦いに行かないと。

 

「その時、僕は思ったよ。面白い者に出会ったと。僕が助けるに値する者に出会ったと」

 

「富儀・・・それは・・・ただ・・・私は・・・!!」

 

「朝居・インマヌエル・カークスハイド。もしも君が誰かを救う為に戦うなら、手段を問うな。死んだ人間にかまけて生きてる人間まで蔑ろにするな。君はそれが出来る人間だ」

 

二人が見つめ合う。

 

「調べたんですね」

 

「無論ね・・・僕は君が思うように傲慢で政争相手を落としいれるような汚い人間だが、君と同じように自分の信念を曲げても戦い続ける覚悟がある。だから、僕は君を傍においた。君が僕に少しだけ似ていたから・・・」

 

長い間があった。

 

「私は・・・貴方が嫌いです。傲慢で人の死なんて何とも思ってなくて人を勝手に巻き込んで・・・でも、貴方が助けてくれた事、貴方が私に思い出させてくれた事、感謝します。だから」

 

そっと今度はマヌエルの方から手が差し出される。

 

「もうしばらくだけ、GAMEが始まるまでお世話になります。でも、私は私の思うように行動しますし、貴方の意見に賛同したりしません」

 

フッと富儀が唇の端を吊り上げる。

 

「それでいいじゃないか。君が疑問や嫌悪、不満に思った事があるなら言えばいい。僕は何でも頷いてくれるイエスマンが欲しいわけじゃない」

 

二人の手が結ばれる。

 

其処に朝居・インマヌエル・カークスハイドの新たな物語が始まった。

 

北京が死滅してから一日後。

 

世界に一つの演説が放送されることになる。

 

そこには軍閥連合の複数の高官が出席している様子が映し出されていた。

 

中国に新たな皇帝を迎える為の演説だった。

 

その後(のち)、事態は大きく動き出していく。

 

皇帝と目される少年の横に顔を隠した秘書が一人立っている事を誰も意識する事は無かった。

 




思い返すは我にあり。
忘却だけが救いでも。
永き淵を共に覗かん。
それは始まりへと続く深み。
第四十六話「回顧射程」
遠き過去への扉が開く。
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