GIOGAME   作:Anacletus

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始まりました。東京決戦編です。本稿から章形式での投稿になり、投稿の合間の期間が数か月になると思われます。近未来科学を使ったバトルとバラバラだった人々のドラマがこれから描かれる事になるかと思います。では、次は第一章で・・・。


GIOGAME~東京決戦編~プロローグ

GIOGAME~東京決戦編~

 

プロローグ

 

人の五感の内で直接的に脳から記憶を引き出すものは匂いだと言われている。

心理学の心理誘導技術における工程が煩雑に見える程、香りは心理状態を大きく左右する。

香水、芳香剤、制汗剤、人口の香りは世の中に満ちているが、本当に記憶と関連付けられるのは極々日常的な部分で人々が嗅ぐ匂いだ。

例えば、常に人を色分けする香りというものがある。

特定の煙草を常用する者。

料理の匂いをさせている者。

農業に携わり土を弄る者。

それは父であったり、母であったり、祖父であるかもしれない。

人々の五感はそれぞれが多くの記憶と結び付くが、匂い程鮮烈に一瞬で記憶を引き出すのは難しい。

自分の家のカレーの匂い。

近所の畦道で見た夕景には夏の匂い。

懐かしいと思えるものには香りが付くものだ。

それは例え人の生活がコンクリートの上で行われ、土の匂いを忘れ去っても変わらない。

香りを科学する、とは誰の言葉だったか。

恐怖と人災に襲われた東京の最中。

人々が自らの周囲で嗅いだものは確かに多くの人間が知らない【戦争】の匂いだった。

ある者はアスファルトの焼ける匂いを嗅いで言い知れぬものを感じ、少しでもその臭いから離れたいと逃げ出した。

ある者は砲弾が降り注いだ場所に立ち込める住宅火災の煙に命の危機を感じながら、動けず横たわった

彼あるいは彼女達の思考は全てを塗り潰す争いの臭いの中で諦観へと変わってゆく。

故にそちらの方が余程に人らしい最後を迎えるに当たり、良かったのかもしれない。

というのも。

【・・・この匂い・・・何だったかな・・・】

今、諦観の淵で死していく者達は仄かに世界を包み始めた香りに一時、恐怖を忘れて。

諦めたくないと。

まだ、死にたくないと。

そう残酷にも思ってしまった。

助からない命。

そこに希望を齎す香りとは何か。

助かりたいという生の欲求を引き起こし、深い絶望に涙を浮かべさせるのは何者か。

香りを嗅いだ何割かの人間は恐慌を来たしていた精神を復調させ、理性的な判断力を取り戻して行動する事により、惨状から脱する事に成功した。

そして、残った何割かの人間は助からない事を悔しがり、咽び泣き、絶望を顔に浮かべながらも、最後まで生きたいとの思いを胸に没した。

果たして。

それは神の善行か。

それとも悪魔の所業か。

「・・・・・・」

東京湾に浮かぶ巨大な影。

揚陸潜水艦。

そこから現われた氷の小島。

幾多の無人兵器群。

銀の頭無き蜘蛛達。

世界覆う人造りし万能の雲。

それら全てが人間の業。

人が生み出した激甚災害とすら言える。

これらの悪意の塊が蔓延った燃える東京で。

周囲のビルに倒れ掛かり押し潰したスカイツリーの残骸の上で。

一人の女が全てを俯瞰していた。

全裸の女だ。

しかし、この騒がしい闇の中で身震い一つしない女だ。

日本人なのか。

あるいは外国人なのか。

顔はアジア系だったが、妙に特定の人種とは掛け離れた印象だった。

「【M計画】初期段階。国家活動の減速。及び人口破壊。順調に推移。高齢個体削減。重要情報施設の保護。重要人材の保護。実行中。実行中。実行中」

女の口からポロポロと零れていく呟き。

【十三人】以外知らないはずの言葉達。

「重要な要因(ファクター)であるND個体群の存在を確認。製作者イブラヒム・イームと推定。重要な要因(ファクター)である人口削減行為を確認。実行者をミーシャ・ベルツ・クロイツェフ、御崎彰吾、波籐雅高と推定。メインフレーム【Fatelist.NO.00】への情報登録開始。シナリオF18-011に固定。状況の推移によって他のシナリオへの転轍を行う」

爆発。

ツリー下部のビル群が漏れた都市ガスの充満と温度の上昇により、爆裂した。

しかし、女は慌てる素振りもなく呟き続ける。

「案件処理者。物理学専行、御崎彰吾。冶金学・材料力学専行、ミーシャ・ベルツ・クロイツェフ。分子生物学専行、波籐雅高。量子力学・数学専行、イブラヒム・イーム。更に探索中。探索中。探索中」

砲弾のように飛び交うコンクリート片がツリーを下から破壊していく。

「勢力図の策定。日本国政府。防衛省。第十六機関。GIO日本。アメリカ政府。在日アメリカ軍。CIA。NSA。DARPA。ND保有者の検索・・・エラー・・・二名の要管理個体発見。一名を特記される最優先保護対象と認識。確認。確認。確認」

ついにツリーが中央から断裂し、完全に真っ二つに折れ、先端部分がゆっくりと落下していく。

「DNA情報合致。指紋情報合致。音声情報合致。顔認証合致。ND保有者を個体名【外字久重】と確認。計画主要構成因子たる固体の保護を優先。目視による監視を続行。死亡要因の排除を開始。順次シナリオにEX(エクストラ)構成を付随。随伴する要管理個体一名に【EP反応】を検知。フィールド生成能力は確認できず。最重要優先個体【外字久重】への干渉が確認された場合、排除及び抹消の可能性有り」

周辺構造物が多数落下、区画全域を巻き込んで大規模な粉塵が舞い上がる。

「監視を続行。行動開始。行動開始。行動開始」

仄かに人の希望を誘う香りを残して、女の姿は粉塵の中へと消えた。

 

誰の為に何の為に戦うのか。

 

今、その回答が出され始める。

 


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