「君さぁ、転生させるから」
「……え?」
「君の心残り、現世への執着が強すぎるんだよ。そういう人物は、魂を洗いなおして同じ世界に転生させることができないんだ。地面にこびりついたガムみたいでさ、転生システムが上手いこと働かないんだ」
「言うに事欠いて地面にこびりついたガム扱いですか……」
「という訳で、そういう魂は、一度全然別の世界に転生させて、現世への思いをなくさなきゃいけないんだ。別の世界に行って、そこで人生を生きればさ、『その世界に』執着や心残りが移るだろ? 前の世界への執着なんて生きているうちに消えてしまうだろ? そういうこと」
いやそういうこと、じゃないだろう。なんですかその無茶苦茶な理論は。
「なんでもいいだろう。とにかく君は転生させるから。心の準備はOK?」
何故英語。まあ……仕方、ないのか。
「じゃ、君の世界でゲームだった、幻想水滸伝って物語の主人公に転生させるから」
「……………………………………………………………ふざけんなぁあああああ!!!!!!」
「うるさいなぁ……」
「ふざ、ふ、ぐふざけんだよぉろやぁあ!!」
「何言っているかわけワカメだよ」
げ、げ、げ、幻想水滸伝の主人公って言ったらあのぼっちゃんだろ! あのどん底まで不幸な主人公だろ!!
「もう決まったことだから、決定は覆らないよ」
お役所仕事か!!!
「どうどう、まあ落ち着きなよ。そんな君に朗報だ。転生するに当たって、『一つだけ』君の望みを叶えてあげ……なくもないかな?」
「………………………………???」
ど、どっちなの?
「そこら辺は私の裁量次第だからさ、私が気に入るような内容であれば考えてあげないこともない」
だからどっちだと。…………しかし、そうか。例えば「全ての生物を支配できる」とか「全ての人間に効く催眠術を使えるようにして欲しい」とかの無茶なものは
「あ、それ駄目ね」
……やっぱ駄目ですよね。それにしても……幻想水滸伝か。あの幻想の世界を生き抜ける能力とかもらった方がいいんじゃないか? ゲームじゃないんだから、ザコ敵との戦闘で負けて死ぬ。GAMEOVERってこともありえる。戦闘があるゲームなんだから、百戦して百勝しなきゃいけない。全ての戦いに勝利しなけりゃ死ぬ! ってことだよね? だけど……高い戦闘能力が欲しい、なんて願ったら、戦闘には勝てるかもしれないけれど、原作で起きた悲劇を回避できないんじゃないか? 戦闘能力は転生した後に自分を鍛える、鍛錬すれば身につくけれど、悲劇を回避するのはこの「お願い」で何とかするしかない。ということにならないだろうか。それに「戦闘能力を下さい」なんて、目の前の人物(?)の好みじゃない気がする。
「お、私の嗜好を上手く見抜いているね。確かにそんな実利一辺倒で汎用性のある、楽になれる能力なんて私の趣味じゃないね」
やはり。なら…………。しばらくの間、考えた。考えて、そして。
「僕は…………」
僕が求めるたった一つの望みは――――。
§
そうして僕は転生した。生前はとても好きだった幻想水滸伝の世界へと。しかし、転生してからは最大最強の敵となったその世界へと、僕は足を踏み入れたのだった。
§
転生してからの日々、それは語りたくない。
だって、生まれなおした後、将来自分を襲う「死ぬ要因」の数を数えて眩暈がしたのだから。考えてもみて欲しい。ゲームをやっている時には普通にしているザコ敵との戦闘ですら死ぬ可能性がある。そんなの……死ぬかもしれない戦いが百も二百もあるってことじゃないか。そんな世界に生まれ変わったらそりゃあその前に死にたくもなるわって話さ。特に……。
「どうした? ティル?」
この親友を目の前にしたらね。
テッド。それが僕の唯一と言っていい親友の名前だ。そして原作において、自分に強力無比だけれど、とてつもないデメリットのある紋章を譲り、僕(主人公)を守る為に三百年以上逃げ続けた相手に捕まり、肉体を支配され、あげく死ぬ人間でもある。………………この世界、幻想水滸伝の主人公(つまり僕……ああ、凄く言いたくない文字)と同じくらいかそれ以上に不幸な人間だ。
……できることなら救いたい。いや、僕の想定通りなら救えるはずだ。しかしその為には、一度彼を見捨てなければいけない。単純に救ったり助けたりすればいいというものではないのだ。その場だけ救ってもその後に死んだり殺されたりするとどうしようもない。自分の持つ知識、それを活用できるのは、全て原作通りに進んだ時だけなのだ。だから、ある程度は原作通りに進めるしかない。その為に彼を見捨てるのだ……。
いや、これは今考えても仕方ない。とにかく今は戦闘の技術を磨くのだ。強くなるのだ。強くなって、生き抜けるようになるのだ。
「しっかしティルも熱心だよなー。こんな時まで鍛錬なんてよ」
こんな時、というのは明日に迫った一大イベントのことを言っているのだろう。
「僕の将来を考えたら、これでも足りないくらいさ」
誰? と聞かれそうだが、これが僕の口調。すまないが慣れてくれ。
「……はっ!」
ごぎゃっ! と音を立てて兎の首が潰れた。目の前を通ったので反射的に体が動いた。元の世界でこんなことしたらP○Aとかに訴えられそうだな。だけどこの世界では普通だ。僕はヒュンっと手に持った黒い色の棍をバトンのように回した。手に馴染んだこの感触。これとももう十年近い付き合いだ。
「お、また一匹か。こりゃあ今夜は豪勢だぞー」
「グレミオのシチューは美味しいからね」
「グレミオさんの料理はうまいけど、やっぱ肉だよな」
そう、僕が今行っているのは狩猟だ。野山を駆け巡り、兎、そして猪などを狩るのだ。今日は猪と出会わなかったな。そっちの方が敵として手強いのだが。…………なんだか、慣れてしまったな。「猪と出会った方が戦闘の経験が積める」だなんて。僕も強くなった……と言っていいのかな。いや、油断は禁物だ。
「とりあえず、この二匹を持って帰ろう」
「よっしゃ! じゃあ競争だ!」
あははー待てよー。とかはやらない。やらないからね? やらんと言っている!
§
さて、家の使用人兼僕の世話役、兼僕の護衛も務めるグレミオは、料理などの家事も一手に担っている。僕も暇な時は手伝いをするけれどね。彼のシチューは絶品なんだ。僕がこの世界に転生して良かったと思うことの一つだ。同じ家の中には、クレオという姉代わりかつ軍人の女性がいる。それとパーンというできの悪い弟のような、でも年上の武人も同居している。パーンだ。PAね。バーンじゃないから。テッドはこの家、屋敷にはいない。彼は戦災孤児なのだが、僕の父親であるテオによって拾われ、この帝都グレッグミンスターに連れてこられたのだ。今は屋敷の近くに一軒家を借りて住んでいる。時々遊びに来て夕食を食べたり泊まったりもする。テッドとは時間をかけて段々と友人になった。友人にならないという選択肢もあったが、そうすると原作と違う展開になり未来がどうなるかわからなかったので、友人となった。……この打算的な友情が、僕は酷く嫌いだ。そばにいたくない。これ以上嘘で仲良くなりたくない。だけど友人じゃないと未来が狂う。二律背反だ。どうしろっていうんだ。くそっ。
……気を取り直そう。明日は僕にとって大事な日だ。大事な……ね。そうして僕は、原作の中にこの身一つで飛び込む。戦乱を、治める為に。
後書き
はい、主人公が転生しました。彼の転生特典はここでは明らかにしません。まあ原作を知っている人なら簡単に予想がつくものです。なので感想欄などでの予想は控えてね(こんな駄作に感想がくるかどうかはわからんが)。
バーンじゃないから:原作ゲームだと文字が潰れていて読みにくいのです。パーンです。パンを伸ばしてパーンです。ゲーム実況とかしている人を見ると、たいていバーンって呼んじゃっている。
最後に、こんな拙作でも良ければ最後までお付き合い下さい。