ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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第9話 軍師

「もう用事がすんだってどういうことですか?」

 

 グレミオの疑問の声。もっともだが、夜早く寝るなんて真似をしなかった僕達を褒めて欲しい。

 

「ふふ、昨日の夜にね。ね? ティル」

 

 オデッサさんのお茶目な笑顔。こうやって気を抜くことができればそうそう重責に潰されることはないだろう。

 

「はい。無事任務は完了です」

 

「そういえば……夜中、ぼっちゃんのベッドがもぬけのからになっていましたね」

 

 気づいていたのかクレオ。

 

「なーにをしていやがったんだぁ? おいティル」

 

 ビクトールが肘でごつごつと突いてくる。だから貴方体硬いんだってば! 痛いよ!

 

「ぼ、ぼ、ぼ、ぼっちゃーん!」

 

 グレミオは無視だ。すまないね。さて、レナンカンプに戻ろう。

 

 

     §

 

 

 ふぅ、ふぅ、かなりの行軍になったな。疲れも蓄積するよ。だけどこんなのでへばっている訳にはいかない。この後だ。この後にアレが起きるのだ。これ以上はないというほどに気を張っていなくては。

 

 レナンカンプの街中に入る。すぐに「けやき亭」を目指す。

 

「どうしたの! これは……」

 

 宿屋の中には倒れている主人の姿があった。血が流れている。非戦闘員を攻撃しやがった!

 

「て、帝国の……奴ら……突然、やって、きて……すい、ません……」

 

「グレミオ! その人を頼む」

 

 その言葉は疾走に置いていかれることとなった。何故なら僕が走り出したからだ。“オデッサさんと同時に”。

 

「!? ぼっちゃん!」

 

「……ティル……」

 

 オデッサさんは横に並んで走り出した僕を驚きながら見たが、コクンと頷いてくれた。よし、二人でアジトへ――!

 

 アジトに入った。置き時計がスライドする間すらもどかしい。そして奥に入ると……そこには仲間達の姿はなく、帝国兵がいた。ここからだ、僕が死なないように、オデッサさんが死なないように振る舞う。オデッサさんを守って僕が死んでは元も子もないので、基本は自分優先で。

 

「気をつけて!!」

 

 オデッサ、という名前を出せば集中攻撃を受けるだろうから、名前は呼ばないで、注意を促す。

 

「み、皆が……」

 

「逃げた可能性もあります! 諦めないで!」

 

 諦めてなるものか!

 

 その時だった。ざっと僕達の前に姿を現す帝国兵。その腕には小さな子供。

 

「子供!? まさか……貴方っ!」

 

 ぎりっと歯を食いしばりながら、オデッサさん。だが残念だったな、この展開は予想済みだ!

 

「やーーーーっ!!!」

 

 掛け声と共に子供を拘束している兵士に突撃する。オデッサさんも兵士も驚いた。当然だね、「正義の味方」の解放軍がこんな真似をしたのだから。でも僕まだ解放軍じゃないし。それにこの時にいるであろう子供について、色んな可能性を考えていたのだ。そしてとるべき行動も。……十数年の思考を舐めるなっ! こっちはずっとこの時の為に生きてきたんだよォ!!

 

「がっっ」

 

 ばきぃっと頭を殴られた(子供を抱えるので片手が塞がっているのだ。当然だ)兵士は左方向に吹き飛んでいく。運良く子供に刃などは当たらなかった。僕は棍を持たない左手で子供の腕を握って背後にかばう。正直この子供一人を抱えるのはかなり危険だ。全ての戦闘が終わるまで敵方に拘束されている方が、面倒がないくらいだ。

 

 僕がいきなり攻撃をしかけたのは、それが一番相手の虚をつけると思ったからだ。敵は子供を害したい訳じゃない。僕達解放軍を一方的に攻撃したいが為に人質にとったのだ。だから、いきなり敵(僕)が殴りかかってきたからといって、「攻撃を食らいながらでも子供を害してやる!」というように“子供に攻撃すること”を第一とする奴なんていない。その時の相手がとれるのは、とっさに防御するか回避するぐらいだろう。僕はそんな隙なんて与えないけどね。

 

「この子を!」

 

 名前を出さずに背後のオデッサさんに子供を託す。さて、これから二人をかばいながら、僕も死なないように戦うのだ。相当の苦境だ。だが――。

 

「オラァ!」

 

 僕達に注視していた兵士達が、背後からの剣薙ぎにズバッと斬られる。背中を、横に斬られたのだ。

 

「ビクトール!」

 

 オデッサさんが喜びの声を上げる。

 

「はぁっ!」

 

 僕はビクトールの剣を受けていない兵士に棍を振るう。手に持った剣で受け止められた。が、僕は棍を旋回させると剣を絡め取り上方へ跳ね上げる。キンッと音を立てて空を飛ぶ剣。それに目もくれず更に棍を回して敵の首を打ちつける。

 

「ビクトール、僕の横に! クレオは彼女と子供を守りながら後方から支援!」

 

 素早く指示を出す。グレミオは宿屋の主人を見ているのだろう。この場に姿は見えない。僕の後をついてきてくれたクレオには切り札がある(その為にグレミオを残した)。とにかく敵を一方向に集めるのだ!

 

 おおおお! と怒号を発してこちらに剣を向ける敵兵士達。よし、上手く二人は合流してくれた。これなら――、

 

「クレオ! アレを!」

 

 僕の声でクレオは安全な後方にて集中する。

 

「炎の嵐!!」

 

 中空から落ちた火炎が僕らに当たらないよう、敵の後方に着弾。敵の背中を舐める。よし、これで。

 

「ぐぁあああ!」

 

 苦悶の声を上げる兵士達。僕とビクトールに攻撃してきた奴らも背中を焼かれてうめく。その隙を逃す僕達じゃない。僕達はそれぞれ素早く攻撃を行い、敵を打ちのめした。

 

 戦闘は、終わった。人質にとられていた子供の泣き声がひっくひっくと響く。そりゃあこんな殺し合いや人間の焼ける音に匂いを感じてしまえば、そうならざるをえまい。だけど、やった。僕は子供もオデッサさんも守りきったのだ。……おっと、油断はいけない。生き残りがいるかもしれないのだ。気は抜かない。

 

「オデッサ、その子は……」

 

「大丈夫よ」

 

 オデッサさんが子供をぎゅっと抱きしめる。

 

「とにかく、上に上がりましょう。グレミオに任せた主人も心配です。その子供も、どこから来たのか聞きだして、帰してあげましょう」

 

 冷たいようだが、今は実利的に動くべき時だ。僕はそう判断した。

 

 

     §

 

 

 一夜明けた。グレミオが必死に看病した宿屋の主人は、何とか峠を越えた。良かった。これで、原作で死ぬ人物を二人共助けることができたのだ。とっさの判断でグレミオに看護させた僕、ファインプレーだ。子供も、レナンカンプの子だったらしく、家を聞いて帰してやった。その後、僕達は同じ街の別の宿屋に泊まり、一日を過ごした。あの後、再度アジトを訪れもした。明かりを持って。仲間であるフリックとハンフリー、サンチェス、そして解放軍の兵士達は取るものも取らず街を脱出したらしい。主人の証言でそれがわかったので、後は敵だけだった。まだ生きていた者がいたので、とどめを刺した。残酷なようだがこれは帝国軍と解放軍の戦争だ。慈悲なんてものはないのだ。

 

 そうして今、僕は喜びの中にいた。

 

(みたか!!)

 

 かつて恨んだクソったれな世界に一撃食らわしてやった気分だ。助けたぞ、原作で死んでしまうオデッサさんと宿屋の主人を。僕は歴史を変えたのだ。やってみせたのだ。それは、これから先に起こる悲劇も変えられる可能性があることを示していた。

 

 そしてこれが唇を噛みしめながらもテッドを見捨てた理由、その一つだ。僕らが帝国に追われて解放軍のアジトに来ないと、多分もっと人が死んだ。火炎槍(かえんそう)の設計図を届けることがまず困難だし、そこに人をやると、ここの守りは更に薄くなる。どう考えても帝国軍の襲撃で多数の人が死んだはずだ。その時にオデッサさんも原作通り死んでいれば、原作で解放軍を受け継ぐ僕がここにいないから、解放軍の命運も尽きてしまうところだった。それも回避できた。リーダーオデッサは健在だ。これらのことがあるから、僕はテッドを苦しみながら見捨てたのだ。

 

(良かった。凄く嫌だったテッドを見捨てたことが、無駄にならずにすんだ)

 

 嬉しい。ただ、嬉しかった。これからも悲劇を回避してやる。そしてテッドを助けるんだ。きっと、きっと。

 

 さて、それはそれとして今後の僕達だが、

 

「セイカの町?」

 

「ええ、そこにマッシュという男がいるわ。……あまり頼るのは気が引けるけれど、彼を頼りに向かおうと思うの。アジトがバレて勢力も、兵も散り散りになってしまった。この現状をせめて元の状態まで回復させたい。それにはマッシュの力を借りるのがいいと思うの」

 

「オデッサの決めたことなら反対なんてしねえぜ。行こうじゃねえか、セイカの町によ」

 

「…………」

 

 ここだな。ここが分水嶺だな。僕は一歩足を踏み出した。

 

「オデッサさん。僕、決めました。解放軍に入ります。子供を人質にとるような帝国軍には戻りたくないです」

 

 まあその子供がいる状態で攻撃した僕ではあるのだが。オデッサさんは突っ込まないがかなり綱渡りな行動ではあったので、批判も覚悟していたけれど。

 

「僕の立場ならば、帝国に戻って中から、内部から帝国を変えるという方法もあると思います。でも、僕は解放軍に入って外から帝国と戦おうと思います。……それが、僕の道かと」

 

 僕の心は決まっていた。後はオデッサさんの承諾だ。断られるだろうか……?

 

「……解放軍の道は苦難の道よ。何年もの間国中を駆け回る長い、長い戦いになるわ。それでも?」

 

「はい、心は決まりました。僕を解放軍に入れて下さい。オデッサさん」

 

 (ひざまず)いたりはしない。この後僕の身分がどうなるかはわからないけど、僕はオデッサさんの臣下になるのではなく、対等な立場になりたかった。

 

「…………わかったわ。貴方の加入を認めます。よろしくね、ティル」

 

「はい、オデッサさん」

 

 僕の心は澄んでいた。三人の人間を助けることができたから。敵は殺したけど。

 

「どうするよグレミオ、クレオ、お前らも後戻りできない立場になっちまったぜ」

 

「その言葉は正確じゃないね。まだ二人にはここから帝国に戻る道だってあるよ」

 

 ビクトールの面白がるような言葉に答える。

 

「私も、決断しました。……ぼっちゃんについていきます。ぼっちゃんが行く道であれば、私もついていきたい。テオ様もお許しになってくれるでしょう」

 

「私もです。もう腐った帝国には愛想が尽きました」

 

 と、グレミオとクレオ。この二人はついてきてくれる。嬉しかった。

 

「ありがとう、二人共」

 

 二人の手をとって握る。思いを、伝えるように。

 

「ということで、二人も一緒にお願いします」

 

 振り返りながら言う。

 

「よろしく、グレミオ、クレオ」

 

 優しく微笑んで、オデッサさん。

 

「ではセイカの町に行きましょうか。南にあるクワバの城塞を超えなければならないけど……」

 

「城塞は父テオの部下であるアイン・ジードさんが守りについています。当然僕の顔を知っているので、そこは上手く機転をきかせるしかないですね」

 

「クワバの城塞か……じゃあ行こうぜ」

 

 そのビクトールの掛け声で、僕達は出発した。

 

 

 

 レナンカンプから南下して城塞へやってきた。徒歩での旅なので時間がかかるなぁ。その間にグレミオへの仕込みはすませておいた。もう「放っておいても原作と同じになるだろう」なんて思ったりしないよ。

 

「よし、あらかじめ偽名を考えておこうぜ」

 

 ここら辺は手慣れているビクトールだ。

 

「じゃあ私はロイで」

 

 とグレミオ。

 

「そうね、それなら私はマリアで」

 

「マリアってガラかよ」

 

 おいビクトール。失礼だよ。

 

「あんた何か言ったかい?」

 

 すごむクレオ。まあ当然だ。

 

「そ、そうだなーじゃあ俺は」

 

 片言になるビクトール。

 

「シュトルテハイム・ラインバッハ三世とでもしておこうか」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 四人は無言になった。いや、ある意味恒例の偽名なんだけどね。

 

「……オデッサさんはどうします?」

 

「こういう時はセリスと名乗ることにしているわ」

 

「なら僕はトーマスとでもしますかね。さ、それじゃあ行きましょう」

 

 ずかずかと歩いて関門に行く。当然のように兵士が二人、と。

 

「おい、そこのお前!」

 

 一応泥でメイクを施してあるし、服装もレナンカンプで買ったとりあえずのものに変え、バンダナも別の色にしてあるのだが……。

 

「ええっ? なんでしょう? あっしは貧しいなつめ売りでして……」

 

 ビクトールが適当なことを言い出す。

 

「お前じゃあない。そこのチビ……手配書にあるティル・マクドールに似てるな……」

 

 手配書が回っているのか……暗い気持ちになる。ちなみにオデッサさんは宗教関係の女性に見せかけてケープを被っている。簡単でいいなぁ。

 

「……どうしたのだ?」

 

 アイン・ジード将軍がきた。やはりそうなるか。兵士はアイン将軍に事情を話す。

 

「ティル……か。そこの少年よ。顔をあげなさい」

 

 さあ、グレミオ、出番だよ。

 

「おおおっ! きっさまー! もう俺は我慢ならん! お前はいつも俺達の足ばかり引っ張って! 役立たずの上に今度はお尋ね者と疑われるとは! 黙っていても厄介事を起こすのか!」

 

 激発するグレミオ、に首元を掴まれる。

 

「お役人さん。お疑いならばここでこいつのそっ首を叩き切って差し上げましょう」

 

 ちゃき、と斧を革袋から出して構えるグレミオ。これが仕込んだことだ。この芝居で苦境を乗り切る。……実を言うと今一番見つかってはいけないのは僕ではなくオデッサさんだ。だからこの芝居にはオデッサさんから僕に注意を移すという意味もある。

 

「ま、待て……!」

 

突然の修羅場に慌てる兵士達。これなら……。

 

「ふぅむ。考えてもみろロッシュ、マクドール家の子息がこんなみすぼらしい姿でいるものか? ……おい、もう行っていいぞ。そこの一行」

 

 よし! これ以降で関門などに悩まされることはない。後は僕の頑張り次第なものばかりだ。

 

「い、いや、しかし……」

 

「いいんだ。行かせてやれ」

 

 僕達はそろりそろりとその場を通過した。――と、

 

「おい少年、父を大事にしてやれよ」

 

「心の底から尊敬していますよ。父も、貴方も」

 

 僕達はお互いだけに聞こえる小声で言葉を交わしあった。すれ違う――。アイン将軍は気づいて見逃してくれたのだ。原作でも思ったが、彼のこの行動がなければ全ては違う物語になっていただろうな。

 

「ふぅーっ、肝が冷えたぜ」

 

「私ももうドキドキよ」

 

「ぼ、ぼっちゃん、すみません! 私は……」

 

「僕が打ち合わせで命じていたことじゃないか、気にしなくていいよ。グレミオ」

 

「ぼ、ぼっちゃん……」

 

 何で感激したように見るのさ? グレミオの尺度はよくわからないなぁ。

 

 セイカの村は遥か遠くにだが見ることができた。気を取り直して出発だ。

 

 

     §

 

 

 セイカの村に到着した。マッシュの家に向かいたいところではあるが、宿をとるのが先だ。マッシュは逃げないけど宿は満杯になったら困るからね。

 

「地方が変わったからか、町並みもがらっと変わったね」

 

「そうですね……帝都からは随分離れてしまいましたね」

 

 クレオとそんな会話を交わす。土の壁に瓦屋根。町を歩く人たちはみな着物だ。そういやあの二人も着物だったっけ。あらためて世界の広さを感じる。

 

 そうして土の匂いがする町を歩く。

 

「マッシュ!」

 

 と、あっさり見つかった。頼りになる男、マッシュだ。和風のこの町に洋装をしている彼は酷く目立つ。白いハーフコートに膝まである革のブーツ。黒髪は後ろに流し、すっきりとした細身の姿。うーん、カッコイイ。

 

「オデッサ……何をしに来たのです? 今更私になど……」

 

「……今更、かも知れない。でも、私は貴方に協力して欲しいの! お願い、力を貸して!」

 

 兄妹である二人の会話を黙って聞く。僕達の出る幕はない。大人しく下がっていよう。しばらくの間二人はやりあったが、

 

「そんなことに首を突っ込む気にはなりません」

 

「わからず屋!!」

 

 決裂した。まあ仕方ない。彼は戦いが嫌いなのだ。

 

「なんでぇあいつは。俺達のやってることをそんなことだと!?」

 

 語気荒く、ビクトール。

 

「まあまあ、彼には彼の考えがあるんだろうから、強制はいけないよ」

 

 なだめる僕。

 

「あーーもう!! わかっていたけどあのわからず屋っぷりは頭にくるわ!」

 

 珍しいほどにぷんすかと怒るオデッサさんだ。確かこの後だな……僕は、しばらくの間町に留まって説得しようと言い放ち、一行がその場に残るようにした。

 

 宿屋で食事をとる。小麦粉をこねて伸ばしたうどんである。グレッグミンスターにはなかった食べ物だ。地味に嬉しい。ずるずるとすする。ずるずるずる。

 

「何故あんな人に協力を要請しようとしたんですか?」

 

 グレミオがオデッサに質問する。

 

「彼は……マッシュ・シルバーバーグ。私の兄よ。そして、あの有名なカレッカの戦いで采配を振るった名軍師でもあるの」

 

「え!?」

 

「カレッカの……!」

 

 目を見張る三人。僕は知っていたのでどうということはない。ただ、カレッカの事件についてはあまりマッシュを褒めるようなことは言わない方がいいと思った。あれは彼の心に根深い痛みを残すことになった事件だから。

 

 食事を食べ終わってさあどうしようと思ったその時だ。

 

「あれは……帝国兵だ!」

 

 さっと身を隠す。知っていたので速やかに。ちなみに城塞を超えたので服装はいつものやつに戻した。白いシャツの上に赤い服を着て、黄色いズボンに深緑色のバンダナだ。

 

「こんな田舎町まで追ってきやがったのか!?」

 

 ビクトールは警戒したが、彼らの目的は違う。マッシュの家がある方向に向かった。

 

「まずいわ……!」

 

 オデッサの言葉と共に全員でマッシュの家へ。手遅れになってはいけないので急ぐ。

 

「な、何をする!! その子を離しなさい!!」

 

 僕の耳を鋭いマッシュの叫びが打った。石段を登ると右側にあった草むらに姿を隠す。マッシュの家、庭には五人の帝国兵がいた。そして子供を捕らえている。またか! 僕らの気持ちはいきり立った。

 

「ついに発見したぞ。マッシュ・シルバーバーグめ。カシム・ハジル様がお前を必要としていらっしゃるのだ。大人しく帝国へ来い」

 

「カレッカの立役者ともあろうものが、こんな田舎町で隠居暮らしもないだろう。いいから来るんだ」

 

「寂れた町で子供相手に塾の教師など……帝国に戻れば俸禄が与えられるのだぞ」

 

 と、まあこの会話でわかってくれたと思うが、マッシュ・シルバーバーグは元帝国軍の人間だ。更に優秀な軍師でもあった人物。それ故、上司のカシム将軍は彼を欲している。しかし……こいつら好き勝手言いやがって。マッシュは争いが嫌いなんだよ。……僕達も、戦いに引っ張り出そうとしていることは一緒、か。でも、全てが終わったら――。

 

「お断りだ! 私はもう、争いごとには関わらないと決めたのだ。さあ、帰ってくれ!」

 

「力ずくでも貴様を連れて来いとの命令だ」

 

「この子供はどうするか。バナーの鉱山送りにでもするかな?」

 

 しゃらっと剣を抜く兵士。これ以上は見ていられない。僕はオデッサさんに合図を送ると、彼女が持つ鉄の弓で子供を人質にしている兵士を的確に射ってもらった。

 

「う、ぐ……な、なにが……」

 

 僕は素早く駆け出すと、その兵士の後頭部を一撃した。子供を素早く抱える。

 

「行くぞ! 皆!」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

「やれやれ、また厄介ごとか。ぼっちゃんのお供は辛いね」

 

「クレオさん。ほんとは嬉しいくせに」

 

「な、なんだ貴様ら!」

 

「解放軍の生き残りさ!」

 

 言いながら踊るように身を投じた。

 

 そうして、マッシュの目前が戦場と化した。

 

 …………………………………………。

 

 土に血が流れ出し、酷い臭いを醸し出す。青々とした草も赤い鮮血に染まっていた。本当はこんなことはしたくなかったが、駄目なのだ。思いだけではどうにもならないことが世の中にはある。逆に、力だけではどうにもならないことも、また。

 

 だけど、僕は勝った。生きる為に勝ったんだ。戦闘を、生き抜く。強くなくちゃあ生きてはいけないから。ここは、そういう世界だから。

 

 オデッサさんには子供達とマッシュに退いてもらうよう下がっていてもらった。最初の一撃で一人を落としていたので、四対四の状況にもっていけたのだ。

 

「貴方達は……なんということを……こんな、こんな子供達の前で、こんな、殺し合いを……」

 

 ざっ、と文句を言おうとしたビクトールを遮ってマッシュの前に立つ。

 

「マッシュさん。すみません。子供達の心に恐怖を植えつけてしまって。でも、あのままではその子供達が害されるところでした。こんなことを言ってはずるいかもしれませんが、戦う力のない貴方にあの子達が救えましたか? 僕達だとて好きで戦っている訳ではありません。いや、ホントは好きで戦っている人間なんていやしないんです。僕も、オデッサさんも」

 

 真摯にマッシュを見つめる。オデッサさんも黙って聞いてくれている。

 

「マッシュさん……貴方が何故争いから身を引いたのかは聞きません。でも、例えば自分が守りたい、と心から思うものが危険に陥った時、戦わねばいけない時もあるのではないでしょうか。争いが嫌いだからと言って、目を閉じ、耳を塞いだところで、この世から争いが消える訳ではありません。僕達一人一人の人間が、か細く弱くて、ほんのちっぽけな力しか持っていないとしても。立ち向かわなくてはならない時もあるのではないでしょうか?」

 

「……………………」

 

 マッシュは、噛みしめるように、僕の言葉を聞いてくれた。

 

「…………そうかも、しれませんね……。この世から争いがなくならないのだとしたら、私が育てているあの子達も、結局は苦しむことになる……」

 

 すっ、と手を差し出していた。

 

「もし、貴方の心に戦いをなくしたいという気持ちがあるのなら、僕と一緒にそれを目指して頂けませんか? 僕達と、一緒に。争いをなくす為のあらがい(戦い)を……」

 

 しばらくの時が過ぎた。マッシュは僕の手を掴んでくれた。

 

「わかりました。今日この日から、私も貴方やオデッサが目指しているものを目指すとしましょう」

 

 ぎゅっと手を握り合う。

 

「マッシュ……。『兄さん』、ありがとう……」

 

 そうして、僕らは軍師を得た。僕達にとって、最高の軍師を。

 







後書き
 オデッサ生存であります。ついでに宿屋の主人も。すぐ介抱すればなんとかなるんじゃないかなぁと思ってそうしました。全ての死ぬ人間を救える訳ではありませんが、主人が死んでいるのに、オデッサを救っておいて「やったーオデッサ救えたー」というのは何か違う気がして、こうしました。

 人質をとった兵士を即攻撃。この主人公、躊躇いなしである。ある映画で「人質をとられたら? 人質を撃てば予想外の出来事すぎて犯人に隙ができるんじゃないの?」という理屈を見ましたが、同じようなものです。片手に子供、片手に武器では動きに制限もでましょう。そこに全力の一撃を見舞うのです。

 マッシュ説得。原作ゲームが大好きな私ですが、ここの説得に関しては小説版の方が好きですね。マッシュが仲間になることとティルの今後に説得力が出るから。だからオデッサを差し置いて主人公に説得させました。
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