ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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第14話 戦争

 まんじりともせず夜が明けた。そしてドワーフの村を出立する。山道の向こうに置いてきた馬は無事だろうか。

 

「さあ行こうか」

 

 何よりもあの町にいる老婆と接触できなかったことが悔やまれる。それさえなんとかなれば、一瞬での移動ができるのだが。だがあの町には今は帝国軍が支配しているので船で上陸できないのだ。これも「仕方ない」。くそ、仕方ないことばかりで嫌になってくる。

 

 ちなみにダッシュできるようになる「神行法の紋章」は使わないの? という疑問もあるだろうが、普通に、現実的に考えてみて欲しい。ゲームではパーティーがその恩恵を受けられるけど、現実的に考えるなら「紋章を宿した人」にしか効力を発揮しないだろうさ。一人二人だけ宿しても意味がない。その宿した人間は先行できるが、魔物がいる世界なのだ。一人二人のパーティーで魔物の集団に襲われたら死ぬよ。普通に死ぬ。だからと言って「全員が」最大三つある紋章枠の一つを使用して六個ずつ神行法の紋章を宿すのも馬鹿げているだろう。で、それが嫌ならパーティーの中の一人だけ足が速くなるだけでしかない。が、そうして速くなったとして、それは目的地に着く速さが上がるだけでしかない。普通に移動するのと同じだけ疲労するしお腹も空くし、水分も必要とするんだよ。まあ速くなるのは確かに魅力的だけどさ、実際の世界として考えるとそんなにメリットないんだよね、あれ。紋章を宿していなくても、当然早歩きや走ることはできるんだからさ。

 

「やれやれ、即日移動か……解放軍も楽じゃないぜ」

 

「ぼやかないぼやかない。君の好きな女性も一緒だろ」

 

「……偶然訪れた先にいただけで、最初は男だけのパーティーだったじゃん」

 

 シーナのぼやきをなだめるが、最初に男だけのパーティーだったことをつかれる。ふむ、確かに。僕はバレリアがここで仲間になることを知っていたけど、彼はそうじゃなかったからな。そう思われても仕方ないか。

 

 しかし現実的に女性と一緒の行動は不都合が起きることが多い。

 

「……それを考えたら女性だけのパーティーというのもいいかもしれないな」

 

 ぼそっと口の中でだけ呟く。女性だけのパーティーと言っても僕もいるハーレムパーティーではなく、僕すらいない完全女性だけパーティーだ。ゲームとは違うのだから、複数のパーティーを作ったり、主人公である僕がいないパーティーを組んだりすることもできる。現実世界の妙だね。

 

 さて、それでは行こうか。間に合うか、どうか。

 

 

     §

 

 

 ざかざかと山道を歩く。急ぐ。間に合うかどうかは神のみぞ知る、だが。自分達に出せる最高速度で移動したいのだ。

 

「はぁ……ふぅ……おーいティル、そろそろ休憩しねえかぁ。疲れたぜ」

 

 シーナが情けない声を出した。すると言い寄られているバレリアが厳しく言い放つ。

 

「休んでもいいぞ。ただし置き去りにするがな」

 

「バ、バレリアさん。キビシー!」

 

「頑張れシーナ。疲れるのは皆同じだ」

 

 フォローしないリーダーの僕。

 

「なるだけ急いでエルフの村に戻って、皆を避難させたいのです。すみませんがこらえて下さい」

 

 同胞思いのキルキスも言葉を重ねる。

 

「ドワーフの凶悪な兵器で危険だと言えば避難してくれるかな……あの態度は気に食わねえが。と、悪いなキルキス」

 

 パーンはエルフにいい印象を持っていないようだ。だけどすぐ気遣えるのは偉い。そして確かにドワーフの兵器だと言えば……それでも厳しいだろうか?

 

 そうして山の美しい景色を眺める暇もなく歩いていた。すると――。

 

「あ……あれ、は……」

 

 山道の半分を踏破した頃、森の方で緑以外の色が見えた。赤やけだ。やはり、こうなったか。止められなかった。

 

「あれはエルフの村の方向じゃ……まさか、それじゃあ」

 

 顔を青ざめて、グレミオ。

 

「遅かったというのか」

 

 バレリアも顔を歪めている。

 

「馬鹿な! そんな、そんな! ティル様、急ぎましょう!」

 

「ああ、行こう!」

 

 魔物など無視して(最初からそうしているが)、体力なんて考えずに走り出す。全てをかなぐり捨てて。山道を走り終えると、何とか生きていた馬を走らせてエルフの村へ。

 

 そして、僕らはそれを見るはめになった。

 

「これは、酷い」

 

 バレリアの言葉通り、辺りは惨状と化していた。巨大な炎で一瞬にして焼かれたのだろう。森では既に黒煙すら立ち上ってはいなかった。どうやら焦魔鏡(しょうまきょう)はかなり前に使われたようだ。

 

 森は一帯が焦土となっていた。僕達のうめく声が虚ろに響く。巨大な破壊の爪跡、その前では全てが虚しかった。大木も森も面影をすっかりとなくして、焼け野原だけが広がる。焼けた木の枝をパキパキ踏みながら歩く。

 

「あれだけの大木だったのに、消滅している……」

 

 焼失ではなく消滅。違いがある。

 

「焦魔鏡の光が直撃したってのか……」

 

 エルフの姿はどこを探しても見当たらない。

 

「この状態じゃあ……」

 

「私達が、やった、ことは……」

 

 顔を下に向けるバレリア。忸怩たる思いなのだろう。僕も沈痛な思いを表情に滑らせる。

 

「無駄……だったんだ……うああ」

 

「キルキス……」

 

「ティル、様……無駄、でした。すべてが、むだに……」

 

 がくり、と両膝をつくキルキス。僕達も言葉がかけられない。

 

「なぜ? なぜ、な…………ぐぅっ…………ぼくたちは……がんばったじゃあないですか。ばかにされても、くじけたりしなかった……それなのに、ああ、それなのに……」

 

 滂沱と涙を流すキルキス。

 

「なのに……なにも、なんにも! のこらなかった……ぼくが守ろうとおもったもの、すべて……」

 

 キラリ、と光る物を取り出す。それは知っている。

 

「すべてが終わったら、シルビナに渡すつもりだったんです」

 

 そう言って指輪を見つめるキルキス。彼の目からはぽろぽろと涙が……。

 

「くっ」

 

「くそっ!」

 

 パーンやシーナも苦しげな表情だ。嘆かずにはいられない。人が、こんな残酷にことを行えるなんて。やはりエルフの長老が言った通りなのだろうか? 人間は、愚かな生き物でしかないというのだろうか?

 

「可哀相なシルビナ……可哀相な指輪。誰の指にもはめられることのないまま、無意味になってしまった」

 

 ピン、と指でその光を弾く。ころころと転がる金属。

 

「もう、なにも……」

 

 下手な慰めも展望も言えなかった。自分の知識通りになった保証などないのだ。彼女が死んでしまっていたとしてもおかしくない。全ては彼次第。だが僕は彼に何かを働きかけてはいなかった。こんな未来など語ってもおかしい人にしか思われないだろうから。予知のような言葉を吐いて、当たったら不審に思われるから。だから、「何もしなかった」。

 

 だけど、

 

 でも、

 

 それでも、

 

「キルキス。これを、この指輪を捨てちゃいけない。これは君の希望なんだ。希望を投げ捨ててしまってはいけない」

 

 言葉を吐かずにはいられなかった。欺瞞だとしても。見殺しにした最低の人間だと知りつつも。

 

「ほんの少しの希望さえあれば、人やエルフは今日を生きていける。それは種族なんて関係ない、今日を生きる為の力なんだ」

 

 指輪を拾う。

 

「ティル……さま……」

 

「みんな、城へ戻ろう。こんな悲しみをこれ以上繰り返させちゃあいけない。クワンダ・ロスマンの軍を打ち破って焦魔鏡を壊す。そうじゃなきゃ、あまりに報われない」

 

 僕はキルキスに手を差し伸べた。汚れた手を。

 

「…………行きましょう。それが、少しでもシルビナの慰めになるなら……」

 

 どうにか立ち上がった彼。瞳にわずかな光を灯して。復讐に燃える……というのは彼の性格じゃない、か。それでも後のことを思うと憂鬱だ。ここはゲームなんかじゃない。一つの世界なんだ。仲間同士で不和や喧嘩、殺し合いにだってなるかもしれないのだ。僕はリーダーだから、そういうところもどうにかこうにかやるしかないね。

 

 馬に乗って(水と食料は与えた)大森林を目指す。誰も言葉は発しなかった。ルックですら神妙な表情だ。彼とて人の死を楽しむような性格じゃない。

 

 そうして、出口であった(こっちからは入口)コボルトの村に辿り着いた。

 

「クロミミ、つかまっていられない。みんなをたすける」

 

 三度クロミミである。その彼を囲もうとしていたのは、帝国兵だ。

 

「なんだ貴様ら。 ん? お前……裏切り者のバレリア! こんなところにいやがったとはな。懸賞金もかかっているんだ。へへ、捕まってもらうぜ」

 

 その人数は十数人。さすがに多勢に無勢だ。紋章魔法も発動に時間がかかる。となると……。

 

「後ろからも! ぼっちゃん、囲まれてしまいました」

 

 僕の背後を守りながら、グレミオ。

 

「これでは……」

 

 少し復調したキルキスも周囲を見回す。

 

「…………貴様ら、私が大人しく捕まってやろう。それで残りの者には手を出すな。ただの旅人なんだ」

 

 いや、かなり苦しいよバレリア。裏切り者と行動を共にしていたんだ。それとエルフとコボルト……クワンダが弾圧している相手もいる。僕達が解放軍だと知られなくても充分にまずい状況だ。

 

「ふふん。取引という訳か。いいじゃないか。神に誓おう。他の奴らには手出ししない」

 

 この野郎。

 

「ば、バレリアさん。まじいっすよ。捕まれば反逆者は死罪だってハナシだぜ!?」

 

 シーナがかばう。困りものの彼ではあるが、こういう時は素直にいい奴だと思える。女性の甘いということは優しいということでもある。

 

「知っているさ。元帝国軍なのだからな。だが、焦魔鏡は誰かが止めなければならないだろう? ここで全滅なんてする訳にはいかない」

 

 それは確かにその通りだけど、相手が約束を守る保証はないんだよ。

 

「解放軍だって今リーダーを失う訳にはいかないだろう」

 

 その思いに、

 

「すまないバレリア。クワンダは倒す。君もなるべく早く助け出すから」

 

 返せるのはこんな言葉だけだった。

 

「ありがとう、ティル」

 

 奴らの元へと向かう彼女。何もしてくれるなよ、と思う。

 

「へへへ。いい態度だ。大人しくしてりゃあ酷い目にも遭わないさ。……さーてと、それじゃあお前ら、あいつらを殺せ」

 

 ……解放軍と知らないのにこれだからなぁ。ホントに帝国はもう駄目だ。

 

「な、何! さっき神に誓ってと言ったではないか!」

 

「神様なんている時代かよ」

 

 ……この野郎。

 

「いくぞ! クロミミ、君も円陣を組むんだ!」

 

 円陣になって背中を守りつつ、戦う。

 

「くぅっ」

 

 棍で二本の剣を受け止める。やばい! 真面目に人数が違いすぎる。

 

「あぉおおおん!」

 

 どきゃっと剣を斬るというより叩きつけるようにして、僕に攻撃していた一人を打ち倒すクロミミ。

 

「あきらめない!」

 

 クロミミの言葉。そうだ、僕だって諦めてなんかやれない!

 

「眠りの霧!」

 

 ルックが隙をみて眠りの魔法を使った。

 

「う……」

 

 全員とはいかなかったが三分の一は眠った! よし!

 

「おおおおっ!」

 

「こんなとこで死ねるかよっ!」

 

 奮起する皆。もう少し持ちこたえれば、きっと……!

 

「ティル殿!」

 

 少なくない傷を負った時、森の奥から声が。白いハーフコートの姿。

 

「マッシュ!」

 

 来てくれた! 僕は喜びの感情を溢れさせた。

 

「我らは解放軍! 死にたくなければ退けぇっ!」

 

 怒号と共に兵士達が飛び出してくる。

 

「か、解放軍だとぉ。ひ、引け、引けー!」

 

 人数が多くなったと見るやすぐこれだ。だから帝国軍は駄目なのである。

 

「ティル! 無事で良かった。貴方の言う通り、ハンフリーとサンチェスが兵を引き連れて来てくれたの!」

 

 オデッサさんが喜色をあらわにする。やっぱりね。

 

「彼らが来てくれたんですか」

 

 グレミオもほっとしている。と、怪我しているな。

 

「皆、集まって、傷を癒すよ。――優しさの水」

 

 すぅっと水色の光が瞬いて、戦闘していた仲間を癒す。と、捕らわれたバレリアも解放されていた。良かった。

 

「でも、どうやってここへ? 迷いの森はエルフが案内しないと駄目だったんじゃ」

 

 だからつまり、

 

「ええ、私達も森の手前で立ち往生していたのですが」

 

 そういうことだった。

 

「キルキスーーーーー!!! キルキス、キルキス、キルキスぅ!!」

 

 現れた紫の髪の乙女がキルキスに抱きつく。

 

「シ、シルビナ!! どうして!?」

 

「へっへへ。そりゃあ俺様のおかげよ!」

 

 次に現れたのは青い髪をした青年、スタリオンだった。

 

「凄いのよ、スタリオンてばピカッと光ったかと思ったら、シルビナを背負って走ってくれたの」

 

 しかし何故スタリオンはシルビナを助けたんだろう。何か思いを抱いたり、またはキルキスの方に友情でも感じていたのだろうか?

 

「俺の逃げ足の速さ、見せてやりたかったぜ」

 

 得意げなスタリオン。まあ確かにこれは誇っていいことだ。

 

「シルビナ、シルビナーーーー!!!」

 

 ぎゅっとシルビナを抱きしめるキルキス。僕は先ほどの指輪を取り出してキルキスに差し出す。

 

「はい、指輪だよ。やっぱり希望は捨てちゃあいけなかったね」

 

 希望、小さいけれど二人が生き残ったのは希望なんだ。これから先の未来を作る希望。

 

「ティル様……」

 

「? 何なに? なんの指輪?」

 

「あ、いや、これはなんでもないんだ」

 

 何故隠す。……まあ皆の前だし恥ずかしいのかな。確か後で渡すはずだしね。

 

「マッシュ、オデッサさん。事情を話すよ」

 

 とりあえずエルフの三人は置いておき、二人にこれまでの経緯を話す。

 

「そんなことが……」

 

「大変だったのね……」

 

「エルフの村人を救うことはできませんでした。あの三人が残っただけでも僥倖ですが。それとドワーフとは一応の友誼を結べました。コボルトは聞いた話だと何やら病気にかかっているようです」

 

 そこで戦友となったクロミミに話を聞く。共に戦ったので最低限の信用は得られたようだ。それで話だが、なんでも突然仲間が狂いだしたように操られ、暴れさせられたのだとか。何故か唯一正気を保てたクロミミは難を逃れて、仲間を助けるように動いたのだと。しかし謎だ。何故クロミミは操られなかったのだろう。108星だから、というなら後で仲間になるあのコボルトも操られないだろうけど、操られているっぽいし……謎だ。どんなに強力なウィルスも何%か絶対にかからない人間がいる、っていうのと同じなのかな? ともあれ操られていることについて言及するか。

 

「……心当たりがないでもないかな」

 

「ほんとか!」

 

「ティル……それは?」

 

 僕は原作の知識を伝聞として話した。

 

「人などの精神を支配するという悪しき紋章のことです。確か……ブラックルーンという名前で、宿した者が、その紋章を授けた者に操られてしまうといいます」

 

「ブラックルーン……そのようなものが……」

 

「クワンダ・ロスマンがコボルトやエルフを弾圧しようとしていたのなら、コボルトに起こった異変はクワンダ将軍が関係しているかも知れません」

 

「わかった! そいつ、たおす!」

 

 僕はクロミミにどうどう、と落ち着くようなだめる。

 

「それは疑惑でしかないけれど、エルフの村に関しては確実にクワンダ将軍の行ったことだ。これ以上の暴挙は許しておけない」

 

「では……?」

 

「兵を挙げよう。マッシュ。今は戦うべき時だと思う」

 

「新しくきた兵は五千五百ってとこでさあ。元いた数と合わせりゃあ六千五百はいますぜ」

 

 話を聞いていたバルカスが報告してくれる。

 

「これならばクワンダ将軍の軍を破ることも不可能ではありません。私の策でそれをなしてみせます」

 

 自信をもってマッシュが言ってくれる。

 

「よし! パンヌ・ヤクタ城に進軍する!!」

 

 僕のその言葉で、進撃が始まった。後世において、「パンヌ・ヤクタ城攻防戦」と呼ばれる戦いの、始まりだった。

 

 

     §

 

 

 僕の号令で、新生解放軍は動き出す。頼りになるハンフリーと兵士が来てくれたことも頼もしいが、エルフやバレリアら新しい仲間も参加してくれる。特にバレリアがいることが大きい。クワンダ将軍の配下だった彼女は敵の内情を知っているのだ。二日後には本陣が出来上がった。

 

「一番厄介なのは、やはり何と言っても焦魔鏡だ。ドワーフの長に聞いたところ、空気中から熱を集め、一点に集中させるのがあの鏡の能力らしい。つまり……」

 

「日の光がなく、気温も低くなる夜、夜戦ですね」

 

 さすがマッシュ、素早い理解だ。

 

「では軍容を発表します」

 

 先方を務めるのはレパントだ。これが本隊となる。レパントの下には中隊長としてバルカスとシドニアがつく。その両脇にパーンとカミーユの歩兵部隊とバレリアの突撃部隊。ハンフリーとビクトールが遊撃部隊として、将の裁量で臨機応変に動く。後詰めにオデッサさんが控える。

 

「キルキス、貴方には弓兵をつけます。ただし、一つ条件が」

 

「条件、ですか?」

 

「貴方の村を滅ぼしたクワンダ将軍、貴方にとってはこれ以上ないほど憎い人物でしょう。ですが、解放軍の戦いを憎しみの発露に、遺恨にするべきではありません。解放軍の戦いは、圧制や横暴に対する反抗であり、個人の私怨を晴らす為ではないのです。私は、今回の虐殺について問いただす為、クワンダ将軍は生きて捕らえるべきだと思います。貴方があくまで彼を殺したいと思うのであれば、兵を任せることはできません」

 

「…………」

 

 私怨を捨てろとはきつい言葉だ。しかしマッシュの言う通り、解放軍は憎しみで戦ってはいけない。彼も人なり我も人なり、だ。敵とて人間。決して虐殺されたからといって虐殺し返してはいけないのだ。

 

「キルキス。軍のリーダーとして言うよ。マッシュの言葉通り、クワンダ将軍を殺すつもりなら、戦争には参加させられない。戦いの為に憎しみを封じられるかい?」

 

「…………確かに、僕はクワンダが憎いです。だけど、今は解放軍の一員として戦いたい。ご命令には従います」

 

「わかりました。では五百の弓兵を任せます」

 

「はっ! ありがとうございます」

 

 リーダーである僕と、ついていてくれるグレミオとクレオは万が一の為に後方で待機だ。だけど兵力は負けているのだ。遊ばせておくことなどできない。いざという時はすぐに突撃するよ。

 

 陣地では兵達の意気が徐々に高揚しつつあった。旧・新合わせて初めての帝国軍との戦。これに負ける訳にはいかないとみな張り切っている。僕の中にもふつふつと力が湧き上がってくる。負けられないぞ、勝つんだ。きっと――。

 

 やがて夜が深まり、空気が冷え込む闇が侵食してくる。夜襲を悟られない為、明かりをつけずにそろそろと移動する。歩兵であるパーンとカミーユの部隊が先に出て、馬に乗ったバレリアの部隊が続く。横にはキルキス達弓兵が。やがて遊撃部隊も出陣し、いよいよ戦争が始まる。

 

「残虐極まりない所業、許し難し! 帝国将軍クワンダ・ロスマンよ! 臆すことがなければ我らの前にその非道な顔を見せてもらおうか!」

 

 レパントが高々と名乗りを上げた後、クワンダ将軍を誘い出す為の文句を並べ立てる。まずは敵を引きつけるのだ。

 

「どうした! 臆病風にでも吹かれたか! 将軍がこれでは黄金皇帝であるバルバロッサも大したことはないな!!」

 

 おおぅ、凄い言葉だ。まさか皇帝を引き合いに出すとは。しかしこれを言われては皇帝命の五将軍である彼は出てこざるをえまい。

 

「うぬぅ!! 反乱軍何するものぞ! 我の後に続け! あの無礼な将の首をとるのだ!」

 

 と、出てきた。彼が短気なのは会ったことのある僕とマッシュから言われて知っているのだ。レパントは。その上で挑発した。ゴゥンと音を立てて城門が開かれる。

 

「レパントと言ったな! 田舎者がぁ! 我が破軍の斧の錆びにしてやる!」

 

「我が剣キリンジにかけ、エルフを虐殺した貴様を倒す!!」

 

 そこから両軍は激突した。よし、まず誘い出す作戦は成功したぞ。後は敗退した風を装い、凹の陣形の中に引き込むのだ。遠目から二人と兵士達の戦いを見る。さすが“鉄壁のクワンダ・ロスマン”防御力はピカイチだ。頑丈な鎧でさしものキリンジも歯が立たない。

 

「退け! 退くのだ!」

 

 レパントの部隊が下がる。それに合わせて攻め入るクワンダ将軍。よし! 軍太鼓を鳴らし両脇のパーン、カミーユ、バレリアがクワンダらの後方に回った。突然の襲撃、伏兵によって強く引っ張られた布のように裂かれていくクワンダ将軍配下の兵。更に矢が飛んでくる。するとクワンダ将軍は後方に控えていた軍を動かした。援軍を得て活気付くクワンダ将軍。そうはさせない! マッシュは遊撃部隊に指示を出し、援軍を阻止させる。

 

「援軍だ! 援軍が来たぞ!」

 

「負けるな! 押し返せ!」

 

 後方から見ている僕にも戦場の熱気が伝わってくる。初めての戦争に脚が震え、歯の根が合わなくなるのをぎゅっと押さえこむ。

 

「マッシュ、このままでは決定打が……!」

 

「わかっております。オデッサ! お前の軍を進めよ。総力を持ってクワンダ将軍を捕らえるのだ!」

 

「承知したわ!!」

 

 後詰めのオデッサさんが動いた。

 

「解放軍の底力、見せてやるぜ!」

 

 ビクトールが吼える。彼とハンフリーがクワンダ将軍に迫る。帝国兵は大きな悲鳴を上げた。

 

 大森林の地が血に染まる。捨て置かれた亡骸(なきがら)も増えてきた。戦闘はまだ続いている。

 

「マッシュ! もう!」

 

「ええ、夜明けまで時間がありません。ティル殿の部隊も動かします――総攻撃開始!!!」

 

 マッシュの声で僕らも戦場に踊りこんだ。クワンダ将軍を捕らえるんだ――!

 

 だが、もう少しで将軍に味方の兵が届くというところで、閃光弾が空高く上がった。

 

「あれは……まさか!」

 

 ちくしょう! 焦魔鏡はクワンダ将軍が使うと思っていたが、部下に任せたというのか! クワンダ将軍は遮二無二解放軍から離れると城門に向かって駆け出した。いけない! これでは戦場に残るのは味方だけ。つまり焦魔法の発動条件を満たしてしまった。まずいぞ……!

 

「散れ! 散るんだ! 少しでも散って被害を少なく……」

 

 僕の叫び声が戦場に木霊する。僕らは負けてしまうのか――。

 

 歯噛みした瞬間だった。これ以上はないというほどの大きな破砕音が響き、城の屋上にある巨大な鏡が割れた。音は森に響き渡り、味方と敵にその存在と結果を知らせる。

 

「これは……ぼっちゃん! 焦魔鏡が……」

 

 僕達の背後、かなり離れた所にその姿はあった。人間が十人は入れそうな大筒が。

 

「ほっほっほ。若いエルフ殿。今度こそ間に合ったようじゃな」

 

「ドワーフの長!」

 

 来てくれたんだ。やった! 僕らの行動は決して無駄ではなかった!

 

「長! 風火砲が完成したのですね!」

 

「わしらは約束を果たしたのよ。こそこそとわしらの宝を盗んだクワンダめ。人のものを盗むから痛い目を見るのじゃ」

 

「よおし! これで敵は決定打を失った! 丸太をもって城門を破壊するんだ!」

 

 固く閉ざされた城門を丸太が打ち付ける。城壁からこちらを攻撃しようとする部隊にはキルキス達弓兵が矢を飛ばす。勢いはこちらにある。やがて城門が破られ、解放軍が城内部になだれ込む。すると、

 

「ま、魔物……!」

 

 中には帝国兵と魔物が仲良く並んでいた。

 

「やはり! 帝国軍は妖異に支配されている。クワンダ将軍だ! 将軍を倒すんだ!」

 

 全ての元凶はあの女だが、今の敵はクワンダ将軍だ。彼さえ正気に戻せれば、この状態は何とかなる。

 

「ぼっちゃん! 将軍は屋上に上がって行ったと報告が!」

 

 よし、クワンダ軍の最後だ。僕は素早く指示を出し仲間を集めた。ルックとキルキス、そしてクロミミは重要なので必ず連れて行く。屋上へ乗り込む。魔物や帝国兵はこちらの兵士に任せた。城の三階に上がると、魔物の親玉と思しきドラゴンが城主の椅子に鎮座していた。

 

「後のことを考える必要はない! 魔法をありったけ叩きつけろ!」

 

「やれやれ、人使いが荒いね」

 

 再びルックとキルキスから風の魔法が飛ぶ。こいつも風属性が弱点なのである。あっけなくやられるドラゴン。打ち捨てて階段を駆け上がる。

 

「来たか……反乱軍めが!」

 

「クワンダ将軍……」

 

 やはりグレッグミンスターの屋敷で会った時と違う。目が濁り、顔色は青白い。操られている。

 

「テオの息子か。噂は聞いている。貴様が首魁だそうだな。我が斧で斬り捨ててくれる!」

 

 …………殺すのであれば、先ほどのように魔法を釣瓶打ちしてやればいい。だがこの人は殺しては駄目だ。説得が上手くいく保障はない。しかし、操られているのだから、救うことを最後まで諦めたくなかった。

 

「皆……下がっていてくれ。クワンダ将軍は僕一人で倒す!」

 

 棍なら急所に直撃せねば殺さずにすむという目算もあるが、後のこともあり、僕は一騎打ちを望んだ。彼を越えられないようでは、いずれ戦う父も越えられはしない。

 

「ぼっちゃん、危険です!」

 

「ティル! 俺達も……」

 

「いいんだ……彼は僕が倒す。乗り越えなきゃいけないんだ!」

 

 そう言って駆け出す。

 

「クワンダ将軍! 勝負!」

 

「その意気やよし! 真っ向から斬り捨ててやる!」

 

 僕は果敢に攻めた。……と見せかけて実は脚は動かさずに手打ちで棍を振り回し、防御姿勢を崩さなかった。鉄壁の異名を持つこの人の防御を破るには、攻めさせてカウンターを叩き込むしかない。

 

「帝国と皇帝陛下の為、貴様を前へは進ません!」

 

 言ったな、そんな道理、僕の棍でこじ開けてやる!

 

「うおりゃあああああ!!」

 

 僕の隙を見た将軍は戦斧を大上段に構えて振り下ろす。一瞬の後に斬られる自分の姿を幻視する。――だが!

 

「はああっ!」

 

 油断なく動けるように脚に入れていた力を解放し、横っ飛びに跳ぶ。そして斧を振り下ろして無防備になった腕めがけて棍をぶちかました!

 

 ドコンッ! と音を立てて右手の甲に棍の先端がめり込む。確か右腕に宿しているはずだ。それに……僕はさっと頭の中で考えた。あの女から紋章を宿されたのは二人。その二人目が原作において呪縛から解かれたのは戦闘や一騎打ちで負けたからではない。目の前で愛する花を燃やされた後に呪縛から解かれたのだ。それを勘案するに、多分この紋章の呪縛を打ち破るには相手の心を折ればいいのだろう。それしかないとも言えるかな。とにかく、クワンダ将軍の心を折るなら、彼の持つ鉄壁の防御力を貫いて一撃を与えることだというのが僕の予想。ならば……。

 

「ぐぅぅわぁあぁ! 腕がぁぁぁぁああ! ……ウ……ィンディ……さ……ま」

 

 クワンダ将軍は、倒れた。

 

 

     §

 

 

 時が止まったかのような静寂。しかし僕は安堵していた。クワンダ将軍は倒れる際に右腕から白い光を発して倒れたのだ。であるならば、呪縛は打ち破れたはず。僕は棍を持ったまま将軍を助け起こした。

 

「……こ……こは、わたしは……。君は……テオ殿の息子、だったか……」

 

「はい、ティルです」

 

「くんくん、くんくん。……おかしいぞ、そいつから魔物の臭いがしなくなった!」

 

 ナイスクロミミ。

 

「魔物……コボルト? 一体、何が……」

 

「クワンダ将軍、今までのことを覚えていますか?」

 

 尋ねる。

 

「私、が? 何が何だか……」

 

 キルキスが進み出る。

 

「焦魔鏡を使って、私達エルフの村を焼き払ったでしょう!」

 

「クロミミの仲間、たくさん死んだ」

 

「何!?」

 

「……やはり、これは……」

 

「まさか、ぼっちゃんが言っていた……」

 

 そこで僕はキルキスとクロミミをなだめ、僕が知る範囲での彼の行動を伝えた。そして右手にあったであろう紋章についても聞く。

 

「そんな……そんなことを……私が……? 私の右手には、昨年の謁見でウィンディから授かったブラックルーンという紋章があったのだ」

 

 話を聞くと、武術の腕が上がる紋章だと言われて宿してもらったということ。

 

「貴方はウィンディに操られたのでしょう。彼女が暗躍していることは、僕も知っています」

 

「私が……エルフやコボルトを滅ぼそうと……」

 

 キルキスやクロミミは僕らの話を聞いて悔しそうにクワンダ将軍を睨んだ。話が本当ならこの人は操られていただけ、ということがわかったからな。

 

「では……何を言っても言い訳か……エルフよ、コボルトよ。私の首をとれ。それでもって散ってしまった仲間の慰めとするがよい」

 

 僕は二人とクワンダ将軍を遮るように棍を横にした。

 

「キルキス、クロミミ……仲間を殺された君達の気持ちは、僕にはわからない。でも、彼に罪がないことはわかっただろう? この状態のクワンダ将軍は殺してはいけない。殺めてはいけないんだ……解放軍の戦いは解放の為にある。憎しみで人を殺す為じゃない」

 

 彼ら種族にとってみれば、部外者である僕の言など知らないと言われればそれまでだ。だけど――。

 

「耐えろ……と言われるのですか……」

 

「うぅうー」

 

 僕は、クワンダ将軍に最後の言葉を放った。そして――。

 







後書き
 鼻くそ戦闘描写再び。戦争の描写も酷いですね(ならもっと上手く書けや)。ブラックルーンを伝聞で知った、ということにしました。小説版だとクレオさんが説明するんですよね。その世界観なら主人公が知っていることにしても構わないだろう、という感じです。

 ドラゴンも風属性が弱点なのですよねー。二連続なのでキルキスに風の紋章は必須です。切り裂きで楽に倒せます。

 クワンダを殺すかどうか迷いました。原作ゲームで許さないを選ぶとキルキスがとどめを刺すんですよね。その後ウィンディまで現れる始末。最終的に操られていたので罪はない、としました。しかし操ったウィンディの悪辣さが強く印象に残る結果に。彼女は殺すべきなのでしょうか?
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