ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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第四章 父を越えて
第15話 解放軍、西へ


 僕は解放軍のリーダーとして、クワンダ将軍を殺す決定をしなかった。

 

「キルキス、クロミミ。クワンダ将軍は操られていただけなんだ。彼に罪はない、と僕は思う。だけど、君達には君達の思いがある。どうしても、どうしても殺さないと気がすまないというのなら、二人を止めはしないよ。……どうする?」

 

 最悪の場合キルキス達が殺してしまうこともありえると思った。そうなっても仕方ないと考えていた。同胞を殺された彼らの思いは彼らにしかわからないのだから。同胞を殺したクワンダと同じ人間の僕が何を言っても虚しい戯言でしかない。

 

 レックナート様には集めるように言われたが、僕は別に108星を集めるつもりはなかった。そりゃあいれば戦力が増えて戦争に勝てるようになるから、できるだけ仲間にしたいとは思うが、「絶対に、何が何でも揃えてやる!」とまでは思っていない。集まらないなら集まらないでいいや、というのが僕の意向である。別に108人そろっていなくても帝国軍は倒せるし、死なせなければ生き返らせることもないからだ。

 

「……僕は、ティル様に従います」

 

「ワォン。そいつを殺しても仲間は戻ってこない」

 

 という二人の寛大な心によってクワンダ将軍は死ななかった。なので、仲間になってくれるよう要請した。なにより、償いの為に。ウィンディを倒す為にも仲間になってくれ、と。

 

「今の陛下はウィンディに操られているのかもしれません。私も陛下をお諌めしたい。帝国を正す手伝いができるというのなら……」

 

 クワンダ将軍は何とか仲間になってくれた。また、クワンダ将軍配下の兵士で、将軍についていく・帝国の酷い行いに心を痛めていた、というバレリアと同じような兵士達も解放軍に加わってくれた。やはり一緒くたにはできない。帝国軍にだって正しき心の持ち主はいるのだ。それだけにエルフを救えなかったことが僕の心を苛む。話し合えれば、逃げてくれるエルフもいたかもしれないのに。

 

 ええい、いつまでも下を向いてはいられない。とにかく僕らは勝利したのだ。凱旋である。兵をまとめ、城の帰るのだ。

 

「ティル殿、初戦としては大戦果です。仲間も増えたようですね」

 

 そのマッシュの言葉通り、

 

「ティル様。僕も解放軍で戦っていきたいです。帝国を倒すこと、それがエルフの村を再興する前に、行わなければならない戦いだと」

 

「キルキスが行くなら私も!」

 

「俺も俺も!」

 

 ということでエルフのトリオも仲間になった。

 

「クロミミも戦う。仲間は治ったけど、この国は治っていない」

 

 母親や兄が元に戻り再会を果たしたクロミミも、そう言った。精神支配が解けたのだ。これでコボルトに襲われることもなくなったね。

 

「私も解放軍に入りたい。国の為にこの剣が役立つのなら……」

 

 とバレリアも。

 

 そして帝国の敗残兵約三千人を新たに加え、トラン城に戻る。

 

(だけどあれはどうしよう)

 

 エルフの村、焼けてしまったそこに一人の仲間がいるのだ。それをどうするか。あそこに寄る、皆を納得させられる理由が思いつかない。今更「焼けたエルフの村に行っていい?」とか言い出したら確実に変な人だ。……と考えていたところ、エルフの村近くを北上している時に少年と出会った。

 

「エルフの村を焼くなんて、ひでぇことをするなぁ。こんなことをされちゃあ地図が変わってしまうよ。……解放軍? そっか、トラン湖の城が解放軍のものになったとは聞いていたけど……よし、僕も仲間に入れておくれよ。どこよりも正確な地図を提供させてもらうよ。その代わりトラン城の内部を知りたいな」

 

 ということで、地図職人のテンプルトンが仲間に。ねんがんの 水滸図 を手にいれたぞ!

 

 そしてコボルトの村に立ち寄る。

 

「クロミミの兄貴がいるなら僕も解放軍に入りたいワン」

 

「もちろんいいよ」

 

「良かったなゴン。ティル殿が許してくれたぞ」

 

「わーい」

 

 コボルトの戦士、ゴンが加入。そして少し時間はかかるけれど、コボルトの戦士達で一隊を作ってくれるという話だ。

 

「解放軍か。飯を食わせてくれるなら入ってやってもいいぜ。がっはっはっは」

 

 宿屋で飯を一万ポッチ分も食べていたこいつ、フー・スー・ルーを仲間に引き入れた。一万ポッチて。家が建つよ。人間のくせに虎の毛皮なんてかぶりやがってさぁ。

 

 そして、

 

「ん? キルキスか。お前、人間なんかと何をしているんだ?」

 

「ルビィ。あんたは助かったんだな」

 

 はぐれエルフのルビィだ。こいつも強いんだよね。魔が高いから魔法攻撃力・防御力が高いし、他のステータスも高い。そして遠距離攻撃の弓矢を持っている。是非仲間にしたいのでキルキスと一緒に説得する。

 

「僕は解放軍に入ったんだ。でも、それは村の復讐をしたい訳じゃない。帝国軍に苦しめられている人々を助けたい。皆を、助けたいんだ。それには種族なんて関係ないと思う。僕と一緒に戦ってくれないか?」

 

「……村を出る前はただの子供だったお前が、いつの間にか俺を越えていたんだな……いいだろう。俺も解放軍に加わろう。お前と一緒に戦おう」

 

 こうして仲間を続々と増やし、僕らは城に帰るのだった。これにて長かった大森林方面への旅が終わった。

 

 

 

 そして今、僕はセイカに来ていた。この時期にマッシュの家に寄れば、彼女がいるはず……いた。

 

「貴方……貴方がティルね。どうしてマッシュ先生を連れて行ったの!? 先生はもう争いには関わらないって言っていたのに!」

 

 うう、すまない。君の敬愛する先生で親と同じくらい大切に思う人を戦争に駆り立てたのは僕なんだ。僕があんな説得をしたからマッシュは……本当にすまない。だけど、僕の言があったとはいえ、最後にはマッシュ本人の意思で参加してくれたんだ。なら、ここでの答えは……。

 

「マッシュがそれを望んだから、ですよ」

 

「嘘! 嘘よ。貴方嘘をついているわね。もういいわ、私が直接先生に会って確かめるから!」

 

 と鼻息荒くトラン城に乗り込んできたのは、マッシュの軍師としての弟子、アップルだ。眼鏡の似合うおかっぱの可愛い女の子である。マッシュを戦争に引きずり出したので、僕は恨まれる立場だが。そして後の城にてこう言われた。

 

「……先生がいいって言ったから、仕方ないのかもしれない。でも! 私は貴方を認めないから!」

 

 ツンツンしているなぁ。でも自分の大切な人が戦争に参加させられたと思えば当然の態度だ。僕は黙ってその批判を受ける。僕の責任だからね。

 

 それに文句を言いつつも副軍師として頑張ってくれるというのだ。戦争での働きに期待しよう。戦災孤児で戦争が嫌いだろうに、我慢して解放軍に入ってくれたんだ。彼女にはできるだけ気を使ってあげよう。

 

 

 

 現在の仲間、45人――。

(うち宿星でないオデッサ1人)

 

 

     §

 

 

 さて、大森林方面での108星も全員仲間にした。更にクワンダの兵が加わったことで、兵力も六千超えだ(戦死者も出ているので、増えた分減っている)。しかし……。

 

「浮かない顔だね。マッシュ」

 

 マッシュの部屋を訪れる。アップルもいるが構わない。彼の考えは弟子である彼女も知りたいだろう。

 

「ティル殿……。私は、もう二度と争いごと、人と人が戦うような事に関わり合いにならないと、決めていたんですよ。オデッサは違いましたが。あの娘は自分の信じるものの為に、その身を戦いの中におくことをよしとした。オデッサはかつてこう言いました。力を持っているのに、それを使わないのは臆病だと。確かに私は臆病者です。しかし、臆病と言われても、やはりあんな場面を再び見るのは嫌でした」

 

「マッシュ先生……」

 

「あんな、場面?」

 

 カレッカのことだと知りつつ聞いてみる。

 

「自らの行いで、人が死んでいくこと。それが、敵であれ、味方であれ。私は、やはりあの町で子供相手に教師をしていた方が良かったのでは……と思い始めているのです」

 

 それを言うならリーダーである僕も同じだ。僕の肩や背中には、死した仲間や敵の命が乗っかっている。とうに血塗れになった僕とマッシュ。だけど、

 

「マッシュ……貴方が自分の居るべき場所について悩んでいるのはわかったよ。その上で言わせて欲しい。貴方がいなければパンヌ・ヤクタの戦いには勝てなかった。あそこで負けていれば解放軍の六千人が死ぬことになっていただろうし、操られたままのクワンダはコボルトとドワーフも殺しつくした。そしてクワンダも操られたまま救われなかった。逆に考えれば、貴方は今話した全ての人や種族を救ったんだよ」

 

 そこで言葉を切る。間違ったことを言わないように、言葉は慎重に選ぶ。

 

「一人の人間を殺したことを悔いるのは正しい心の動きだよ。人を殺して後悔しない人間では駄目だ。だけど、同時に、殺した人の数を数えるだけの人間になってもいけないと思う。殺した人数を数えるのなら、生きた、救った人数も数えるのが正しい在り方だと思うよ。下を向かないでくれ。貴方は万に近い人を救ったのだから……」

 

「ティル殿……」

 

 マッシュのこの迷いは、決して答えの出ない問いのようなものだ。それでも彼は考え続けるのだろう。ずっと。

 

 

 

 戦争が終わって少しだけ暇になったので、タイ・ホーとヤム・クーを連れてトラン城の西にある湖賊の砦を訪れる。

 

「ん? お前タイ・ホーじゃねえか。何しに来た」

 

「アンジー。お前さんらはここでくすぶってるのか? ちょっとはピリッとしたところを見せて欲しいもんだね」

 

「俺がくすぶってる? この俺がくすぶる? 冗談じゃねえ。おい、レオナルド、カナック、力を貸しな。こいつらを叩きのめしてやる!」

 

 湖賊三人を相手に戦闘だ。

 

「行くぞ二人共!」

 

 声を張り上げ、突撃する。アンジーは僕だ。他二人をこちらの二人で抑える……

と。

 

「おおらぁ!」

 

「てぇーい!」

 

 タイ・ホーとヤム・クーの協力攻撃、漁師攻撃だ。X字に動くその攻撃で、鎖鎌を持った赤いバンダナの男カナックが吹き飛ばされる。この攻撃は体に負担がかかるので、通常ならそう連発はできない。だが……。

 

「へへっこの紋章はすげぇな」

 

 ドワーフの村で買ったかめの封印球を二人に宿してある。体勢が崩れることはない。状態異常を防ぐ紋章だが、アンバランス状態(協力攻撃などの負担・疲労)も防いでくれるのだ。再び漁師攻撃。今度はたてがみのような髪が真っ赤な、大斧を持ったレオナルド、彼も武器の上から攻撃を食らって転がる。

 

「さて、貴方一人になったね」

 

「ぐ、ちくしょうっ!」

 

 僕の棍はクワンダすら破ったものだ。腕は上達しているんだよ! 右手を添えた先端でアンジーの武器である槍を抑えて、素早く両腕を動かし逆の先端で顎を打ち抜いた。打ち倒され転がる三人。

 

「く、くぅっ。俺が、こんな奴らに……」

 

「どうですか? その有り余る力を解放軍で生かしてくれませんか」

 

「……いいだろう。やってやろうじゃねぇの。帝国の奴らに目にもの見せてやるぜ」

 

「アンジー、あんたが決めたならついて行くぜ」

 

「俺もだ」

 

 湖賊三人をゲット。彼らにはトラン湖で教練に励んでもらおう。いずれくる決戦に控えて。

 

 これで今行ける場所の108星は全員仲間にできた。そしてクワンダとの戦争にも勝利した。今は一時の安らぎを享受しよう。

 

 

 

 それから、三ヶ月の時が流れた。

 

 

     §

 

 

「はっ!!」

 

「まだまだぁ!」

 

 僕が突き出した棍を腕で捌くパーン。武術の力量は伯仲している。棍と腕がぶつかる鈍い音が、トラン城の屋上で響く。鍛錬の真っ最中だ。

 

「いきます!」

 

 棍を強めに打ち払いこちらの体勢を崩すと、パーンが突撃してくる。僕はパッと棍から両手を手放した。瞬間パーンの眉根が寄る。――と、僕の右足が拳を突き出したパーンのわき腹に突き刺さる。このタイミングでの攻撃はこないと踏んで拳を振ったのだろうが、棍ではなく無手の技を繰り出したことでその目算を破ったのだ。当然僕は地面に落ちる前の棍を再び掴み、右の蹴りから左からの薙ぎ払いに連携させる。それがパーンの腕をすり抜けて側頭部に当たる――というところでピタッと止める。

 

「はぁ……はぁ……参り、ました」

 

「うん、僕の勝ちだね」

 

 昼間から始まったこの手合わせは、二勝二敗で幕を閉じた。

 

「それにしても……ぼっちゃんはさすがですね。相手をするのがやっとになってきました」

 

「リーダーとして練武は欠かせないからね。皆に認められるだけの武力もないと」

 

「はあぁ」

 

 ため息をつくパーン。僕の成長が嬉しいと同時に負けそうになって困っているのだろう。あくまで僕を守る側でいたいだろうからね。

 

「大森林での戦いぶりも、見事なものでした。特にクワンダ将軍を下したあの勝負。テオ様が重なって見えましたよ」

 

「いや、まだまだ父さんには敵わないよ。でもいつか勝てるだけの男になってやるんだ」

 

「ぼっちゃん……」

 

 そうして少しばかり屋上で休む。と、カクの方面から船が、新しい人かな? というかそろそろあの人が来る頃だろうから、それかな? と思い階下に下りる。

 

「オデッサ!」

 

「フリック!」

 

 恋人同士の再会シーン。やっぱりフリックさんだった。いやぁ、それにしてもあの時頑張って良かった。

 

「噂を聞いて駆けつけたんだ。しかしリーダーがあのティルって坊主に変わったと聞いて心配していたんだ。君の身に何か起こったんじゃないかと」

 

「新生解放軍のリーダーはティルよ。私がリーダーの座を譲ったの」

 

「何だって!?」

 

 僕も挨拶しよう。

 

「フリックさん。お久しぶりです」

 

「お前……」

 

 そこで少し揉めた。やはり長く解放軍で戦ってきたフリックさんにしてみれば、ぽっと出の自分がリーダーなぞ認められないのだろう。しかしオデッサさんの説得が炸裂!

 

「アジトが襲われ、散り散りに散ったメンバーを集めてようやく辿り着いたんだ。お前をリーダーと素直に認めることはできない。……ハンフリー、サンチェス。お前らもこいつがリーダーだと認めてるのかよ!?」

 

「………………………………リーダーは必要だ。ティルは、良くやっている」

 

 ハンフリーに褒められた。嬉しいな。

 

「フリックさん、そんなに興奮せずに。ここに来た用があったのでしょう?」

 

「俺はリーダーであるオデッサに用があったんだ!」

 

 事実を認めず激発する。青いフリックさんであった。でも今まで解放軍を盛り立ててきたプライドもあるのだろう。簡単に認められなくても無理はない、か。

 

 とりあえず長旅で疲れているという、彼が連れてきた兵士を船で城に収容する。フリックさんも一日、時間をおくことにした。

 

 

 

「キルキスに指輪貰っちゃった。どうお返ししたらいいかなぁ」

 

「手作りのものをプレゼントしたらどうかな?」

 

 シルビナはキルキスに指輪を贈られたらしい。良かったね。お嫁さんかぁ。僕は無理だろうなぁ。

 

 では頭が冷えたであろうフリックさんの元へ。と、オデッサさんが先にいた。

 

「フリックさん。僕も未熟なリーダーです。できればオデッサさんと一緒に副リーダーをやって欲しいです。支えて頂けると助かります」

 

「そうよ。副リーダーとしての自覚を持って欲しいわ」

 

「…………わかったよ、オデッサ。確かにいつまでもすねている訳にもいかないな。怒りで目的を見失ってた。……ティル。俺はお前をリーダーと認めた訳じゃない。だが、そんなことを言っていられる状況じゃないのも理解している。一緒に、戦ってくれ」

 

 何とか怒りは収まったらしい。

 

「もちろん! 一緒に戦いましょう。共に帝国からの解放の為に」

 

「ありがたい。残してきた仲間もこれで救われるだろう」

 

 残してきた仲間という言葉が気になったが、とりあえず首脳陣を集めてからだね。そして大広間に集まるメンバー。

 

「レナンカンプが襲われて、俺は必死のていでミルイヒが治める西方へと逃げたんだ」

 

 ミルイヒ……五将軍の一人、ミルイヒ・オッペンハイマーだね。花将軍の異名を持つ、剣の技量が高く魔法の腕も達者な人だ。

 

「俺はそこで、それぞれ逃げ出した解放軍のメンバーをまとめ上げようとしていたんだ。だが、帝国の反乱分子潰しが始まった。大勢の仲間が捕まり、窮地に陥った。そんな時、新しい解放軍の噂を聞いた。あのクワンダを破ってパンヌ・ヤクタ城を落としたとな。……西方を解放する為に軍を上げて欲しい」

 

「マッシュ、見通しはどうだい?」

 

「西方への入り口であるガランの関所は兵力六千。フリック殿が連れてきた兵士で膨れ上がった軍で破れるでしょう。ティル殿、どうされます?」

 

「少しでも早く動くべき時なんだ。軍を進撃させよう!」

 

 号令を下す! さあ再び戦争の時間だ!

 

 

     §

 

 

 トラン湖から流れるデュナン川に設置された橋の上に作られた、ガランの関所を攻める。解放軍では珍しい、敵より兵力の多い戦いだ。だが油断せずに攻めるのだ。

 

 フリックさんが連れてきた兵士は千五百。都合八千の兵力がある。前の戦いでも死者が出たのでこの数だ。

 

 トラン湖からカクを経由しコウアンを通りすぎ、コウアンとガランの中間地点で本陣を張る。今度も夜戦だ。奇襲をかけるのである。しかし前回と違う点が一つ。ガランの関所はあくまで関所に過ぎない。守るにはあまり適さない場所なのだ。戦は野戦となるだろう。

 

「ティル殿、今回の戦では、将達に策を授けました。前回のように総攻撃の必要もないでしょうから、貴方は後方で戦いを見守って下さい」

 

 つまり僕に戦うなということだろう。リーダーであるがゆえの措置だ。僕個人としては一人安穏としているのは嫌だが、マッシュとてそういう感情を理解した上での物言いなのだ。僕は今回、大人しくそれに従った。

 

 戦いはマッシュの作戦通りに進んだ。先鋒を任されたフリックさんが突撃し、合図と共に引く。そして両翼が前進し凹型に陣を変えた解放軍が敵を包み込み、圧倒した。ビクトールが将を討ち取る戦果をみせ、戦いは終わった。帝国兵を一蹴する、圧勝であった。

 

「はっはっは。見たかい。帝国軍と威張っていてもこんなもんよ」

 

「ふぅ……ふぅ。ぼっちゃん大丈夫ですか?」

 

「心配性だなぁグレミオは。怪我なんてないよ。後ろにいただけなんだから」

 

「ティル様、このまま攻めこんでやりましょう!」

 

 パーンが意気込む。血気にはやるなパーンよ。

 

「お待ち下さい。相手の手の内を知らずに攻めるのは危険です」

 

「いや、敵も油断しているはず。俺についてこい!」

 

 青い、青いよフリックさん。オデッサさんも止められないと見て、処置なしという顔をしている。仕方がないなぁ。

 

「マッシュ、確かに貴方の言う通りだと思う。フリックさんも少し慢心しているみたいだね。だけど兵士達の戦意は高揚しているようだ。これを抑えるのは簡単にはいかないよ。ここは本格的に攻めるのではなく、軽く手合わせして敵の手を観察しよう。兵士も一度攻めれば納得してくれるはずさ。本当に危なくなったら即撤退する構えでいこう」

 

 軍師(脳)の命令で動くのが兵士(手足)というものではあるが、兵士達にも感情はある。戦意が高まっているのを無理に抑えれば反発や士気が低下を招いてしまう。それにミルイヒ相手には一度戦わないとわからないことがあるのだ。ここは様子見程度に戦おう。損害が出ないように準備は抜かりなく行うけどね。

 

「……わかりました。ではそのようにしましょう」

 

 スカーレティシア城攻防戦、開始だ。だが僕は後方に位置し、様子を見た。回収要員も後ろに下げておく。スカーレティシア城は城というより宮殿と言った方が正しい外観をしていた。かなり悪趣味な黄土色、というよりクリームのような色をした外壁。頭にはピンクの屋根だ。それを見た解放軍の兵士はこらえきれずに苦笑した。

 

「馬鹿な人達ですね。私のアントワネットの餌食となりなさい」

 

 そんな言葉を聞こえた気がした。先鋒として攻めたフリックさんとビクトールの部隊が苦しげに、ばたばたと倒れ始める。スカーレティシア城の二階にあるバルコニー、そこにある、大人が五人以上腕をいっぱいに伸ばしてやっと囲めるほどの大きさをしている花弁から、毒の花粉が出ているのだ。花はアントワネットという名前らしい。目に見える緑色の花粉に解放軍の兵士は包まれた。

 

「皆、先鋒達を回収して速やかに撤退だ!」

 

 後ろに待機させていた兵士で先鋒の兵士を担ぎ上げさせる。帝国兵が「おおおお!」とわめき声を上げて襲ってくるので、ひたすらに逃げるのだ。僕達は奪ったガランの関所まで脱兎の如く逃げ出した。負けるのは解放軍の常道みたいなものさ。最初から不利な戦争なのだ。

 

「くそったれ。何だいあのバラは。あれから出る花粉が毒みたいに体を蝕みやがった」

 

 嘆くビクトール。

 

「帝国兵は口と鼻に布を当てていた。多分あれに薬品でも染み込ませて花粉を防いでいるんだろうね」

 

「帝国兵達が利用しているその薬を入手できれば……ここはやはり偵察を出すべきでしょう」

 

 サンチェスさんナイス提案。

 

「そうだね、マッシュ。いくつかパーティーを作って調査させよう。僕も行くよ」

 

「ティル殿! 危険です。貴方はリーダーなのですから……」

 

 渋く顔を歪めるマッシュ。僕を特別扱いしたいのだろうが、僕にも考えがある。

 

「マッシュ、僕は後ろに控えているだけで何もしないリーダーにはなりたくない。誰よりも先を歩き、皆を導けるようなリーダーでいたいんだ。皆と共に戦い、苦しみ、喜んでこそ皆に認められるリーダー足りえると思うんだ」

 

「ティル殿……」

 

「よっし俺も行くぜ。ティルの護衛は任せろ!」

 

「俺もだ。俺はまだお前をリーダーとして認めていない。器を見極めさせてもらう」

 

 ビクトールとフリックさんが加わる。

 

「ぼっちゃん。私も行きますよ」

 

 するとビクトールが、

 

「グレミオ……お前は残りな。もうティルは一人前の男だ。お前のお守りはもう必要ねえだろ」

 

「何を言うんですかビクトールさん! 確かにぼっちゃんは立派になられましたけど、だからといって私がついて行っちゃいけない理由にはなりませんよ!」

 

 ビクトールとグレミオの会話。ここはグレミオに残って欲しいところだが……。

 

「俺は長いこと旅をしてきた。だからかね、何かが起こる“虫の知らせ”を感じるんだ。悪いこた言わねえ、お前はここに残れ」

 

「ビクトールの勘か……グレミオ、ここに残る気は?」

 

 できれば外れて欲しい勘である。

 

「ぼっちゃんまで……冗談はやめて下さい。ついて行きますよ」

 

「……ってことらしい。仕方ないから連れて行くよ。その代わり! 自分の身は自分で守るんだよ。窮地に陥ってもリーダーである僕は身を呈してグレミオを守ったりしないからね」

 

「…………わかりました。頑張ります!」

 

 さて、それじゃあ他にもパーティーを作ろう。クレオ、カミーユ、アイリーン、ローレライ、メグ。この女性陣で女性パーティーを作ってもらう。女性なら敵も油断するだろう。彼女らは西にあるアンテイの町へ行ってもらう。仲間探しも忘れずに行ってくれるよう頼む。

 

 次にキルキス、スタリオン、シルビナ、ルビィ、クリン、クロミミ、ゴンでパーティーを組み、こちらはスカーレティシア城に斥候として行ってもらう。城に近づく時は、毒の花粉があるので三角巾で口などを塞いでね。少しでもマシになるように。

 

 僕らは近場のテイエンで情報収集だ。パーンとシーナを連れて行く。

 

「じゃあ情報収集が終わったら、南にあるリコンの村の宿屋で合流しよう。いいね?」

 

「了解しました」

 

「必ずや有益な情報を持ってきます」

 

 クレオとキルキス、各パーティーリーダーが返事をする。さて、各自出発したな。ではガランの関所、その西側でぽつんとしていた弓矢を手にした男に話しかける。

 

「おいらはクインシー。しがない森の狩人さ。解放軍? クワンダ将軍を破ったって話だったな。いいよ。解放軍につこう。おいらの弓を見せてやる」

 

 クインシーが仲間に。では気を取り直して出発。

 

 

     §

 

 

 テイエンに到着。といっても数時間で着いた。湖の傍にある港町だ。船も係留されているので、ここからトラン城と往復できるね。とはいえ宿屋だ。まずは宿屋を目指すのじゃ。

 

「おっほんおほん。ここはラック・ビィルジニテの町だ。南にはプルミエ・ラム―ルであーる。西にはビィル・ブランシェの町があーる」

 

 この独特の名前はミルイヒ将軍が西方を治めるようになってつけた新しい街の名前だ。まあぶっちゃけ覚える必要はない。やたら誇らしげな町人が少しだけむかつく。心を乱されたが、宿屋にいるおばあさんに話しかける。

 

「私の名前はヘリオン。あんたはティルだろう? 知っているよ。紋章の力を振るう者にはわかるのさ。あんたの持つソウルイーター、それは無限の力と邪悪な意思を併せ持つ紋章だ。その力をどこに導くのか。あんたの未来には興味がある。どうだい? 私を仲間にしてくれないか?」

 

 呼び戻しおばあさんキター! これで本拠地に一瞬で戻れるようになったぞー! ビッキーと合わせれば簡単移動のできあがりである。

 

「仲間になって下さい。よろしくお願いします」

 

「ありがたいね。私の力は呼び戻し。この“瞬きの手鏡“を使えば一瞬で決めた場所に戻れるのさ。だけど使用には太陽か月の光が必要だから、注意するんだよ」

 

 おお、建物の中で使えないのか。そうきたかって感じだな。おっと、宿屋と同じ建物の中にある道具屋で黄色い花の種が売られていた。買っておこう。

 

 そーしーてー。ここの道具屋では「必殺の封印球」が売っているのだ。ゲームではクリティカル発生率を上げるこの紋章。ゲームをプレイするなら物理系では最強の紋章でだと僕は思っていた。何故か? それは幻想水滸伝のクリティカルは通常の三倍ダメージだからだ。他のRPGだとたいてい二倍ダメージだけど、三倍なのである。しかも必中攻撃。だからクリティカル発生率が上がり、また元々クリティカルが発生しやすい原作ゲームでは猛威を振るうのだ。で、現実として、この世界においての取り扱いだが、一定時間三倍の膂力を発揮する紋章となっている。一定時間という制約つきだが、地面を蹴る力も武器を振り下ろす力も三倍なのだ。当然破壊力も三倍だ。ダメージとは(パワー)×速さ(スピード)だろう? その両方とも強化されるのだから強いなんてものじゃない。僕は手持ちの資金に最低限のポッチを残しつつ、必殺の封印球を爆買いした。さらに道具屋の主人に、チャンドラーのことを話して流通経路を確保させる。これでトラン城に大量の必殺の封印球が持ち込まれることになるだろう。一般兵士もできるだけ宿して強化するのじゃ。108星の戦闘メンバーももちろん宿すよ。

 

 ……ふう。つい発奮してしまった。少し落ち着こう。

 

「おーれーはエイケイ。旅の武術家だ。アンタは強いか?」

 

 港にいたハゲに話しかけたらいきなりこの質問である。

 

「ふっ!」

 

 くるくるくる、しゃきん、と棍を構える。

 

「おう、アンタ強いな。アンタの元でならこの腕も振るい甲斐がある。これを待ってたんだよ! 是非仲間に入れてくれ」

 

 ハゲは師匠のカイに次いで二人目だ。トラン城が光り輝くよ。次は情報収集のターン。

 

「どんな毒でも役立たずにできる薬、それを作れる男がどこかにいるって話だ」

 

 ふむふむ。

 

「南のリコンにリュウカンという高名な薬師がいたんだ。彼に作れない薬はないそうだよ」

 

 よすよす。仲間達も納得できる情報だ。最初から何をどうすればいいかはわかっているが、ティルが知っている情報ではないので、こうやって町人から情報を得る必要がある。

 

 鍛冶屋があるので、パーンの武器、爪を鍛えてもらう。これ重要。そして民家に突撃。

 

「なんだぁ、てめーら。解放軍? 興味ねえな。俺が興味を引かれるのは船だ。この俺の腕を存分に振るえるような仕事があれば別だがね」

 

 船大工のゲンだが、現段階では仲間にできない。今は彼がここにいるという情報を書き留めておこう。

 

 よし、大体の情報は揃ったな。ではリコンへ向かおう。

 

 平原を歩いていたら魔物と遭遇。植物型の魔物、いかれるツタだ。こいつは耐久力が高い敵だ。剣を持つ味方に斬ってもらおう。そして蛙型の魔物、カズラー。こいつも手ごわい相手。ちなみに土の封印球を落とす。後で買えるからあまり意味はないけどね。そして出てきましたひいらぎマスター! こいつを倒して奴らが持つ名無しのつぼを奪うのだ。

 

 戦いの後、名無しのつぼを無事手に入れた。思ったより小さい壷だったな。まあ魔物が持っていたんだから当然か。これを持って行こう。

 

 ……………………………………。

 

 リコンの村に到着。小さい村だなぁ。分割したパーティーでは一番目だろうから、先に情報収集をすませておこう。

 

「あんたらもリュウカン目当ての旅人かい? でももう無理だよ。腕利きの薬職人だが、今では山奥で隠居暮らししている」

 

「リュウカンさんかい? たまーにこの道具屋へふらっと来るよ。買い出しにね」

 

 マッスルマッスル。じゃなかった良かった良かっただ。これで情報が集まれば、係留させてある村の船で川を移動するという話になるだろう。と、道具屋では青い花の種と土の封印球が売っていた。花の種だけ買っておく。

 

「高名な薬職人がいるって聞いたんです……。はるばるやって来て、やっとうちの子供を病気から治してやれると思ったのに……」

 

 おおう。ゲームでも気になっていた町人の女性だ。後で仲間になったら連れて来てあげよう。

 

「僕らも彼を探しているんです。もし会えたら連絡しますよ」

 

 と言って連絡先を聞いておく。

 

「ジャバの奴、やたらと偉そうに“俺に鑑定できないものはない”とか言ってやがる。知ってるんだぜ。奴が昔一度だけ失敗したってことをな。確か……名無しのつぼってやつだったはずだぜ」

 

 その話を町人から聞いて、村の鑑定屋を訪れる。

 

「俺はジャバ」

 

 ジャバジャバ~♪ 片眼鏡(モノクル)をかけ、紫色の帽子をかぶったおじいさんだ。

 

「鑑定の目なら誰にも負けないぜ。俺に鑑定できない物があれば、何でも言うことを聞いてやる」

 

 ほいっと名無しのつぼを渡す。

 

「うーーーーん。……………………………………参った。これは俺にも鑑定できない。確かな値打ち物だと思うんだが。しかし、俺の目でも鑑定できないつぼがあるとはなぁ」

 

 いえ、ひいらぎマスターから乱獲できるほど、簡単に手に入れられる大量生産品です。

 

「仕方ない、言うことを聞いてやるよ」

 

「解放軍のトラン城で鑑定屋をやって欲しいんです。鑑定士が誰もいなかったので……」

 

「何だそんなことか、いいよ。すぐ城に行ってやる」

 

 ジャバジャバげっと。では宿屋へレッツゴー。

 

「なんだ、何見てやがる」

 

 灰色のローブに全身を包み、銃を持つ男。

 

「珍しい武器をお持ちですね。書物で読んだ銃という武器に似ています」

 

「ほう、こいつがわかる人間がいるとはな。何者だ?」

 

「僕は赤月帝国に対する解放軍のリーダー、ティル・マクドールです。よければ解放軍に入っていただけませんか? その武器なら遠距離の狙撃もできるでしょう」

 

「解放軍か……そういう運動には興味ないが、この国で情報を集めたいと思っていたところだ。俺の人探しを手伝ってくれるなら仲間になるぜ」

 

 銃を持つ狙撃手、クライブが仲間になった。彼はかなり後であの町に連れて行ってあげよう。まあその人の行方がわかるものではないんだけどね。

 

「ねぇ。私の猫を見なかった? ミナって言う名前なの。探してくれたら仲間になってあげる」

 

 二階では可愛い女の子を見かけた。可愛い。おっと猫だな。確かカクの町にいるはずだ。後で連れて来てあげよう。

 

 他のパーティーを待つ時間がかなりあるので、試しに瞬きの手鏡を使ってみる。ふっと一瞬で城の地下に座っているヘリオン婆さんの前に出現する。

 

「おお、こりゃ凄い。便利なもんを手に入れたなぁ」

 

 とフリックさん。ビッキーのテレポートでカクへ行き、猫を捕まえる。女の子から聞いた特徴、間違いない。

 

「ぬこぬこ~」

 

 しっかと捕まえてリコンの村へと戻る。

 

「……良く覚えてましたね、ぼっちゃん」

 

「観察力もないとリーダーは務まらないよ」

 

 そんな謎理論を話しながら、再びリコンの宿屋へと。

 

「わぁ! ミナだぁ! ありがとうティルさん。私は魔術師ロッテ。仲間になるよ!」

 

 これで戦争での魔法攻撃も強くなってくれるだろう。

 

 じゃあ宿屋でぐっすりと待機だ。ぐっすりすやすや~。

 

 

     §

 

 

「スカーレティシア城ですが、やはり毒の花粉で近づけませんでした」

 

「アンテイの町では毒の花粉を無効化できる薬使いがいると聞いたのですが、詳しいことはわかりませんでした。その他に仲間になった人物がいるので報告します」

 

 ふむ、クロンという名の少年がトラン城の案内役をしたいと。そして宿屋には踊り子のミーナにエスメラルダという女性二人が仲間となってくれた。エスメラルダはオパールの指輪を所望したので、経費からお金を出して道具屋で買ったとのこと。そして防具屋のチャップマンと紋章屋のジーンさんが仲間になったと。やったね。これで防具の仕入れと本拠地で紋章を宿せるようになった。

 

「情報を統合すると、スカーレティシア城の毒を無効化できる薬がある。それを作れるのはリュウカンという薬師。その薬師は山奥で隠居している……ということだね」

 

「ここには船がある。船で川を移動して山奥のリュウカンって爺さんを訪ねるしかないな」

 

 僕とビクトールの言葉通り、僕達は船で川を下ることにした。

 

 僕はすぐそこに迫った脅威を静かに見つめながら、行動するのだった。

 







後書き
 かめの封印球でアンバランス状態を防ぐ。実際にできます。湖賊の三人と戦う時は、レベルと武器レベルを上げた漁師二人にこれをさせておくと、大体一ターン700ダメージぐらいをコンスタントに叩き出してくれます。楽に勝てるのです。

 湖賊の三人。彼らの名前と外見、持っている武器を当てられたら、貴方も立派な幻想水滸伝ファン。

 必殺の紋章ですが、さすがに強すぎる設定でしょうか? しかし実際にゲームをプレイするとクリティカルをバンバン出してくれるこの紋章が強いんですよね。クリティカルにならなければただの一撃でしかありませんが、クリティカルになると三回分の攻撃ダメージになりますからね。私はいつも直接攻撃をする人物には必殺の封印球を宿しています。

 最初で最後のパーティー分割。さすが現実。こんなことすらできる。せっかく108人も仲間になるのだから、それぞれで動いたっていいじゃない。

 台詞すらなく仲間になったアンテイの皆、すまんな。
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