ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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第16話 監獄と薬

 川を下って~は~るばる~行くぜ~♪

 

 さて、デュナンという名前の川を下って行く。だが、

 

「う、お……この急流、とても乗り切れねえぞ」

 

 渦が巻いている。大きな渦だなー。川が三方向から流れているからこんな渦ができているのかな?

 

「ここからは行けそうにないね……遠くに家が見えているけど、あそこにリュウカンさんがいるのかな?」

 

 僕の言葉通り、確かに家がある、のに。

 

「困りましたね……」

 

 ビクトールとグレミオ、頭を突き合わせて困る。

 

「テイエンの町に船大工がいたよね。ゲンさんっていう。彼に仕事として頼めないかな」

 

「そりゃいいアイディアだ。早速戻ろうぜ」

 

 

     §

 

 

「ほう、デュナンの急流を渡りたいと、こりゃ随分腕が唸るぜ。面白れぇ仕事になりそうだ」

 

 テイエンに来た。見た。勝っ……てはいない。ねじり鉢巻に黒の法被。いかにも大工って感じだ。それにしても大工のゲンさんというとアレだよね。

 

「何とかなりますか?」

 

「隣にいるカマンドールってジジイも協力させるぜ」

 

 隣家に行く。すると、

 

『研究中。お客はお断り。……錬金術師カマンドール』

 

 という張り紙が。

 

「こんなもん張りやがってあのジジイ。出てきゃあがれジジイ!」

 

 張り紙を破いて叫ぶゲンさん。

 

「何だまだ貴様か! 家の前で騒ぐなと言っておろうが!」

 

 白衣を着たお爺さんが出てきた。モノクルをしている。ジャバとかぶっているよ!

 

「へっ、呼ばれて飛び出てきやがったぜ。よう、妖怪ジジイ。てめぇならあのデュナンの急流を乗り切れる方法があるんじゃないかと思ったが、良く考えりゃあてめえ程度がそんなこと知ってる訳もなかったな」

 

 煽りよる。

 

「いきなりなんじゃあ! このわしにできないことなどありはせん! ……金と時間があればの」

 

「対価としての資金なら、解放軍の予算から出せるかと」

 

「あほう! お前らのような子供から金がとれるか! ええい、いいから家の中に入れ」

 

 ずかずかと家の中に入る。すると大人三人分くらいの大きさをした機械があった。

 

「これを使えば急流なぞ屁のようなもんじゃ」

 

「なんだぁこりゃあ」

 

 ゲンがつんつんと機械をつつく。

 

「これは油を燃やして動く機械じゃ。“エンジン”と名付けた」

 

「油を燃やす? ……胡散臭いな」

 

 フリックさん、失礼だよ。確かに遥か後の時代、その技術を先取りしているけどさ。

 

「とにかくこれを船に取り付ければ急流を乗り切れるということですね。僕達でリコンの村に運びましょう」

 

「え……」

 

「もしかして……」

 

「俺達が、運ぶのかよ」

 

 それぞれで言葉を紡がないで、きりきりと運ぶよ。

 

 ……ちなみに、持った状態で瞬きの手鏡を使い、更にテレポートすればいい。とか言わないでね。やろうと思えばできるけど、風情がないよ風情が。

 

 ……………………………………。

 

「お、重かったぜ。これを担いで歩くのは」

 

「もう歩きたくねえ……」

 

 情けないよフリックさんにビクトール。年少の僕がへばっていないのに。そしてここまでの道で魔物にも襲われたが、三パーティーで十九人も人数がいるのだ、戦闘とエンジンを運ぶ係に分かれればいいだけの話である。

 

「ぼ、ぼっちゃんは意外と体力ありますよね……」

 

「鍛えているからね」

 

 伊達に野山を駆けてはいないのである。重りを持ったり身につけたりのランニングは日課のようなものだ。

 

「早速取りかかるぞジジイ」

 

「ジジイと呼ぶな! ジジイと!」

 

「僕達は……」

 

「あんたらにできることはねーよ。宿屋で休んでな」

 

 ありがたい言葉を頂いたので、その通りにしよう。宿屋でチェックインの手続きをする。

 

「あいつら、あんな重い物を運ばせて」

 

 ぶちぶちと不満ばかりのフリックさん。

 

「さすがに疲れたから早く寝てーな」

 

「ぼっちゃん。おれぁもう腹が減って腹が減って」

 

 夕食・朝食付きにしたから、もうちょっと我慢しなさいパーン。

 

「俺は女の子がいるからいいや」

 

 気楽なシーナ。確かに女子達はいるけどね。

 

「悪いけど僕達以外のパーティーは明日テイエンの港から船に乗って帰ってもらうよ。情報収集は終わったからね」

 

「な、何ィ!?」

 

「外泊すると宿代も馬鹿にならないだろう」

 

「せ、せこいこと言うなよ!」

 

「大人数だと行動が遅くなるから。仕方ないね」

 

 ずーんと落ち込むシーナを尻目に部屋へ入る。さあベッドでぐっすりと休もう。ゲンさん達は徹夜で仕事をしてくれるはずだ。

 

 

     §

 

 

「…………………………」

 

 夜、ベッドでぐっすり。むにゃむにゃと体をよじる。

 

「ぼっちゃん……グレミオは、ぼっちゃんが幼い頃からお世話してきました。私にとってぼっちゃんは弟……いえ、息子とすら思える時があるのです」

 

 身に過ぎた思いですがね、と微笑むようにグレミオ。……僕にとっても君は兄で父のような存在だよ。

 

「最初は確かにテオ様への恩返しだったのです。それが……今は。だけど……もう、ぼっちゃんには私の助けなんていらないのでしょうね……それでも私は……」

 

 グレミオ……必ず助けるよ……僕が……君を……。

 

 

     §

 

 

 朝になった。ゲンさん達の作業ははかどっているだろうか?

 

「それではティル様、我々はテイエンから船に乗ってトラン城へ帰還します」

 

 クレオ達を見送る。

 

「うん。気を付けてね」

 

 さて、船のところに行こう。

 

「見なよ、夜通し作業して仕上げたぜ」

 

「年寄りをこき使いおって」

 

「お疲れ様です。それじゃあ進水式といきますか」

 

 二人も一緒に船に乗る。よし、目指すはあの渦の向こうだ。

 

 スイスイと渦を越えてリュウカンの庵らしき場所に辿り着いたぞ。ゲンとカマンドールさんは船に残ってもらう。ログハウスの前に腰の折れた人影、リュウカンさんだ。

 

「すみません。僕はティル・マクドールと言います。貴方がリュウカンさんでよろしいですか?」

 

 茶色の作務衣に白い顎鬚。おじいちゃんだ。

 

「…………やれやれ、こんな所に引き籠もっても無駄なのか」

 

 厭世気分がぷんぷんする。もう薬を作る生活に疲れたんだな。こういう人も説得しなければならないリーダーは辛いよ。

 

「察するに、薬師としての仕事にでも疲れたのですか?」

 

「そうじゃ。わしはもう疲れたのよ」

 

「それでも僕達にはお願いすることしかできません。ミルイヒ将軍の毒を防ぐ薬を作って頂けませんか?」

 

「そんなものを作られたら困りますねぇ」

 

 きたなミルイヒ将軍! 迎撃してや……!

 

「竜が、三匹も!!」

 

 数を増やしてきたか。そうきやがったか! ミルイヒ将軍は三匹いる黒い竜の真ん中に乗っている。

 

「皆、リュウカンさんを……!」

 

 言いながらもミルイヒが乗っている竜に突撃する。両脇に飛んできた竜が邪魔で……!

 

「リュウカン殿は、我が鉄壁のソニエール監獄で息絶えて頂きましょう」

 

「何を勝手な……」

 

 リュウカンさんが!

 

「くそぉっ! 邪魔だぁっ!」

 

 棍で竜の頭を一撃する。

 

「おおおおっ!」

 

 パーンの連撃が竜の腹を殴りつける。

 

「――激怒の一撃!」

 

「雷雨!!」

 

 フリックさんとシーナから雷が飛ぶ。

 

「ちぃっ」

 

 ビクトールの剣が竜の口に、歯に咥えられる。

 

 攻撃が三体の竜に向けられるが、中央の竜は上手いこと二匹の竜に守られて攻撃が届かない!!

 

 そうしているうちに中央の竜はリュウカンさんを連れて飛び去ってしまった。

 

「――ごきげんよう」

 

 そんな言葉だけ残して二人は空に消えた。くそっ、また、知っていたのに止められなかった。僕が弱かったから……!!

 

 歯噛みしても結果は覆らない。次の手を打たなくては!

 

「ソニエール監獄に潜入する。とりあえずはマッシュに潜入する方法がないか、相談してみよう」

 

 僕達は急いでトラン城へ戻るのだった。

 

 

     §

 

 

 トラン城は人数が増えたおかげで、五階建てに進化していた。地下は一階なので六層あることになる。左右と奥の砦にも回廊が延びて住めるようになっている。僕の部屋も最上階である四階に移された。本丸の四階が広間やマッシュの部屋になったので、エレベーターで移動する。

 

「――む。ソニエール監獄、ですか……わかりました。わたくしに考えがあります。」

 

 話を聞いてマッシュはすぐに方策を練ってくれた。ちなみにゲンとカマンドールも勧誘して来てもらった。解放軍にも船があるので、大工として作業してもらったり、錬金術師なので科学者としてジュッポなどと共同の研究をしたり、と勧誘の理由は色々あった。

 

「こちらに手紙をしたためました。アンテイの町に彼女……キンバリーはいます。彼女と、テスラという男を仲間に引き入れましょう。それで監獄に侵入しましょう」

 

 よし、マッシュの手紙が手に入ったぞ。急いでアンテイの町に行くぞ。テレポート!

 

「なんだ。なんだいあんた達。……? マッシュが? 手紙を……ねぇ」

 

 アンテイの民家で彼女を発見。手紙を渡すが、確か彼女って……。

 

「悪いがあたしゃあ字が読めないんだ。誰か読んでくれないか」

 

 だよねー。

 

「では僕が」

 

 とうとうと説明する。

 

「ふ、ん……マッシュの奴まーたあの手でいこうって腹だね」

 

 そうですね。

 

「では、仲間に?」

 

「そうだねぇ……」

 

 この後の展開を思い出してくすりと笑いが漏れそうになる。僕達全員を値踏みするキンバリー。

 

「そこの色男、あんただよ。あんたがあたしの相手をしてくれるんなら仲間になってやろうじゃないか」

 

 フリックさんが狙われました。

 

「え、いや、俺は……」

 

「どうぞどうぞ。彼で良かったらいくらでも付き合いますよ」

 

「ティル! てめえ!」

 

 何か言っているが聞こえなーい。それにミルイヒ将軍を倒さないと解放軍のメンバーが捕らわれたまんまなんでしょう? ならその為に最大限できることをやらないとね。

 

「そりゃそうだが……俺には心に決めた相手が」

 

「よしよし。色男、こっちに来な」

 

 さて、意味深な言葉だが、二人はお酒の席を設けるだけだ。僕らは宿屋に行って休もう。

 

 ………………………………。

 

 リュウカンさんを(さら)われることは止められなかった。本当に僕はあれを回避できるのか……あの竜が三匹来た時のように、予想外のことがあったら……彼が死んだら……僕は正気でいられる自信がない。……いや、弱気になってどうする。回避できる悲劇は回避する。力を尽くすと誓っただろう? なら、できることをやるだけだ。やるんだ。僕が。

 

「うぅーん。中々いい酒だった。色男、湖の城に行ったらまた飲もうじゃないか」

 

「そ、それは勘弁して下さい……オデッサの前でそんなことをしたら……」

 

「なーに言ってんだい。よこしまなことをする訳じゃないんだ。大きく構えていればいいんだよ」

 

 朝まで飲んでいたのに元気なお人だ。

 

「ティル、テスラの奴も引っ張り出すんだろう? 奴もこの町にいるぜ。今はアルバートとかって偽名を名乗っているはずさ」

 

「わかりました。何とか引っ張って行きます」

 

 ということでアルバートさん家にやってきました。

 

「え、あ、いや、私は普通の大人しい町人ですよ。平々凡々で……」

 

 おらぁ。

 

「ひぐぅ」

 

「面倒なのは嫌いなんです。ちゃっちゃと話をしましょう代書屋のテスラさん」

 

「うっうぅ、また悪事の片棒を担がされてしまうんですね……可哀想な私……うふぅ……」

 

 何かブツブツと言っていたような気がするが、僕のログには何もないな。

 

「ぼ、ぼっちゃん……」

 

 そんな目で見ないでよグレミオ。

 

「無実の罪で収監されたリュウカンさんを出してあげなきゃならないんだ。しかもあの人はかなりのお歳だ。急ぐ必要がある」

 

「…………まあ、そうだな」

 

 ビクトールに呆れられるとは思わなんだ。行き過ぎなんだろうか? 僕は。でも「原作がこうだから……」という思考はなるべく捨てようとする僕だ。その状況でものを考えたら、老人のリュウカンさんが監獄に入れられた(しかも無罪)のはかなりまずい。ぽっくり逝ってしまったら終わりである。

 

 トラン城へ帰還。

 

「戻られましたか、ティル殿。手はずは整えてあります。この偽の命令書があれば、監獄の兵士を欺くことができるでしょう。キンバリーとテスラが頑張ってくれましたから」

 

 ちなみに瞬きの手鏡は使っていない。だって普通に移動する二人に合わせる必要があるからね。特にテスラが厄介だった。僕らを山賊扱いして寄りつこうとしないんだから。瞬きの手鏡が使えなかったのだ。

 

「あたしの仕事は完璧」

 

「わ、わ、わたしの方も問題ないかと……何かあっても責めないで下さいね」

 

 職人達は仕事に自信があるようだ。これなら大丈夫だろう。

 

「ミルイヒのサイン、帝国の印も真似てあります。クワンダ将軍が仲間になっていたので、パンヌ・ヤクタ城の書類を持ち出せていたのが功を奏しました。命令書の内容はリュウカン殿をスカーレティシア城に連行するというものになっています」

 

 なるほど、同じような書類があったから似たものを作れたと。そしてリュウカンさんを連れ出せる内容か。

 

「これで大手を振ってソニエール監獄へ入れるね」

 

「急ぎやしょう、ぼっちゃん」

 

 パーンがせかす。わかっているよ。しかし準備はぬかりなく。一階でちょろっと作業をした。これが役立つことを祈ろう。

 

 

     §

 

 

 アンテイの南にあるソニエール監獄に着いた。兵士に命令書を提示する。全員帝国兵士の服を着て。これもパンヌ・ヤクタ城の兵士が仲間になっているので、彼らが着てきた軍服が役に立ったということだ。やったね。

 

「こちらにミルイヒ様の命令書がある。確認願います」

 

「……ふむ……ほう……確かに、では通るがよい」

 

「お勤め御苦労様です」

 

 目上の人じゃなく同列の相手なら御苦労様も失礼じゃないはず。さて、中に入ろう。

 

 しかし……。

 

「まさか、魔物が出るとはな」

 

 フリックさんが驚く。

 

「パンヌ・ヤクタ城でもそうだったよ。これは……どうやらミルイヒ将軍にも宮廷魔術師ウィンディの手が伸びているようだね。彼もブラックルーンの支配下にある可能性が出てきた」

 

「またブラックルーンですか……ひょっとしてテオ様にも……」

 

 懸念を話すグレミオ。原作では二人だけだったが、この世界ではどうだろう。……いや、逆に紋章に支配されているのなら救う術もあるということにならないだろうか? 支配されていないのに立ち向かってくるなら、倒すしかない。しかし支配されているなら、「貴方は邪悪な魔法使いに支配されていたんですよ」ということでより説得しやすくなる。

 

 まあそこら辺は実際に相対したら考えよう。今はリュウカンさんを救出するのだ。

 

 出る魔物はトランプのカードが巨大化したマジシャン、はいよるねんえきの色違いであるハイドロゲル、コブラ使いと壺(文字通りただの壺とそれを操る魔物)。それほど強敵ではないので倒しながら進む。

 

 この監獄はことに重犯罪者用に作られているらしく、脱獄など絶対にさせない為、牢屋は全て地下にある。さらにそこまでの道は一本道になっており、出入り口には二重の扉が設置されている。一つでも閉じれば道は閉ざされてしまうのだ。厳重に警戒されたその中をおっかなびっくり進む。

 

 と、見張りだ。こいつら兵士には偽の命令書が通用しないはずだが……。

 

「うむ、確かな命令書だ」

 

 通用しました。……まあいいか。通用したならそれでいい。

 

「リュウカンさん」

 

「お迎えが来たかね。覚悟ならとっくにできとるぞい。特に執着するものもないしな」

 

 帝国兵の格好なので、勘違いされた。牢屋を開ける。

 

「この間庵を訪ねたティル・マクドールです。貴方を救出に来ました」

 

 声を潜めて語りかける。

 

「死なれては困ります」

 

 グレミオも困り顔。

 

「そうか、あんたらか。わしの家に来て厄介事を起こした」

 

 す、すみません。ぐぐっと頭を下げる。腰のところから深くね。

 

「とりあえずここを出ましょう。お日様の下に出るんです」

 

「お日様か……そうじゃな。久々に見たいものじゃ」

 

 リュウカンさんを引っ立てる風にして兵士の前を通過する。

 

 ……僕の心臓はドクドクと脈打っている。いよいよだから。必ず助ける。様々な状況を想定しろ。想定外さえも想定するのだ。そして、現場で瞬間の判断を下す。準備はしてある。後は神のみぞ……いや、神なんて関係無い。人事尽くすだけだ。できることをやるのだ。

 

 リュウカンさんを連れて後もう少しで出口、というところでミルイヒ・オッペンハイマー。

 

「ミルイヒ将軍!」

 

 部屋の片方に僕ら。ミルイヒ将軍は部屋の中心にいる。よし! 最悪は向こうの扉の前で通せんぼされることだったが、ゲームと同じく部屋の真ん中にいる。これならやれる!

 

「マクドール家のぼっちゃん、テオ将軍が泣いていますよ」

 

「例え父を泣かすことになっても、僕は僕の道を貫き通す。それが僕の意思です」

 

「ふふん。こそ泥が入ったら知らせるようにしていたのですよ。ここで死になさい」

 

「言いやがったな。ここで決着をつければ全てが終わる。てめえも剣を使うと聞くぜ。勝負だ!」

 

 ビクトールが前に出る。

 

「野蛮ですねぇ。剣の腕で遅れはとりませんがね。気分じゃありません。そこでこれ!」

 

 テレホンショッピングじゃないんだから。

 

「貴方達にはこれを振る舞って差し上げましょう。苦心して作った人食い胞子ですよ。これは恐ろしい速度で人間の体を食べちゃうんですよ。怖いですね~。……ってい!」

 

 パリーンと手に持った瓶を地面に叩きつけたミルイヒ、だがその時には既に自分も動いていた。額に宿した神行法の紋章で二倍ダッシュだ! ミルイヒを大きく迂回するが二倍スピードなのでほぼ一瞬で向こう側の扉に到着。

 

 がちゃ、と出口方向の扉を開けて、最大限開ききる。

 

「皆! すぐ外に!」

 

「ちちぃっ」

 

 ミルイヒ将軍が自分に向かって来る。右足で扉を押さえ、棍で奴の剣を弾く。

 

「皆! 胞子から逃げるんだ! 僕がしんがりを務める!」

 

「ぼっちゃん!?」

 

「紋章がある! そう簡単には追いつかれない。だから!」

 

「行くぞグレミオ、もたもたすんな!」

 

「わりぃティル!」

 

 仲間達が扉を通っていく。

 

「おおぉっ!!」

 

 力ずくで押し切り、ミルイヒ将軍を吹き飛ばす。鍛えた膂力を甘く見るな! 僕は一メートルほど距離が空いたその瞬間を狙って扉の外に走り出した! 後ろから背中を剣で斬られるかもしれないが知ったことか! 怪我なら水の紋章で治せる!

 

 よし、よし、よおし! 乗り切った。僕、乗り切ったぞ! 事前に宿した神行法の紋章のおかげで、迅速に逃げることができる。と、監獄の出口で二人の兵士(門番)が仲間達と打ち合っていた。が、

 

「雷雨!!」

 

 シーナの雷魔法が炸裂。じーんと痺れた隙に逃げ出す。リュウカンさんもいるのだ。逃げの一手である。

 

「よし、皆集まって、瞬きの手鏡を使う!」

 

 太陽の光を浴びて、僕らはトラン城の地下へと飛んだ。

 

 

     §

 

 

「はぁ……はぁ……やった。やったぞ……」

 

 僕は、グレミオを助けられたんだ。原作ならあそこで彼は死ぬはずだった。それを救えたのだ。しかし……。

 

「ぼっちゃん!」

 

「ティル!」

 

 皆はお怒りだ。リーダーにあるまじき行動だと責められる。

 

「神行法の紋章を宿していたから瞬間的にあれが最適の行動だと判断したんだよ。そんなぶつぶつ言わないでよ」

 

「二度目はねえぞ」

 

 すごまないでよビクトール。全員助かったんだからいいじゃない。

 

 さて、リュウカンさんが城に着た。とりあえず休んでもらおう。

 

「お休みのところすみません、リュウカンさん」

 

「あんたか……」

 

「僕の話を聞いてくれますか?」

 

 僕は話す、これまでの道のりを。自分が歩んできた歴史を。

 

「僕は、今は離れ離れになってしまった親友を助けたい。帝都グレッグミンスターでの生活も取り戻したい。帰りたいんです。幸福でいられたあの頃に戻れたら……。しかし、父は帝国の大将軍、いつかは父と相争うことになるかもしれません。僕がこの手で、父を殺すことになるかもしれません。ですが、僕はそれでも抗っていたい。戦いから、逃げたくはないのです。たとえ一時の平和だろうと、時間が経ればまた争いが起こる仮初の平和だろうと、僕はその一瞬の平和を目指して戦いたいのです。そして、貴方にもその手伝いをして欲しい。願わくは、今生きている一瞬の為に……」

 

「…………」

 

 リュウカンさんは黙って聞いてくれた。

 

「今生きている一瞬の為に……か。若いのう。じゃが確かにお前さんの言う通りかもしれん。わしは歳をとりすぎてしまったのかな。……こんな老いぼれでも役に立つというなら、また薬師として働いてみるかの」

 

「!? それじゃあ!」

 

「うむ、薬を調合してみよう」

 

 こうして、次の戦い、その準備が始まったんだ。

 







後書き
 グレミオ救済であります。108人集めれば生き返る彼ですがどうなんでしょうね。平行世界から無理やり召喚しただけで、同じ世界のグレミオとは同一人物じゃないという説も聞きますし……。まあこのSSでは助かりましたのでよしとしましょう。しかし逆にソウルイーターの魔法は一向に解禁されません。まあ、あの紋章強すぎますからね。とはいえいつまでも大人しくさせているつもりはありません。かの紋章にも猛威を振るってもらいましょうか。

 主人公の敬称のつけ方:
基本的に仲間は呼び捨て。
仲間になる前で目上ならさんづけすることもある。
明らかに年齢が高いおじいちゃんおばあちゃんにはさんづけ。
仲間内でも個別に恩がある人・特別な相手と思う人(マリー・オデッサ)にもさんづけ。
本当の意味で仲間とは言いがたい人物は、認めてくれるまでさんづけ(フリック)
敵も呼び捨て。将軍などの役職があればそれをつける。
 例外はあるけど、だいたいこんな感じです。
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