僕達は全ての準備を整えて、船を出した。トラン湖には強い風が吹く。冬に吹く季節風だとタイ・ホー達から教わった。
――と、右腕に痛みが走る。これは――。
ぐっと堪えた、堪えられる程度の痛みだったが、これはまさかⅡで描写されたアレか――? だとするなら、やはりこの戦いで……。
「ティルさん、到着だぜ」
船頭をしているタイ・ホーから声が上がった。船は湖畔のほとりに止まる。兵士達が乗った船が続々と到着する。馬を下ろしたり
「恐らくですが、絶対の自信があるのでしょう」
「本当に僕達を撃破するつもりなら、上陸している途中で襲えばいいんだもんね」
傍にいるクレオとそんな会話をする。自分の鉄甲騎馬兵に自信があるから、真正面から解放軍を破るつもりなのだ。だが、こちらには火炎槍がある。父さん、できることならば退いてくれ――。
マッシュが陣容を整えて部隊を展開する。五百歩ほど離れて解放軍と帝国軍は睨み合った。敵は鉄甲騎馬兵を横一列に並べている。このままではこちらの思うつぼだ。中頃には赤いマントのアレン、緑の服を着たグレンシールが騎馬隊を率いている。鉄甲騎馬兵約三千、本隊約一万一千。
対するは火炎槍を備えたビクトール、フリックさん、ハンフリーを中核に、左翼にはオデッサさんとバレリア、右翼にレパント、そこから後ろにカイ師匠とバルカス・シドニアの歩兵。更に後方ではキルキス、ローレライ、ルビィの弓兵だ。遊撃として今回はルックを筆頭とした魔法部隊を組織させている。その総数は約一万と膨れ上がっていた。総力戦、だね。
「反乱軍よ! よく聞け! 何度戦おうが結果は同じ! 我が鉄甲騎馬兵に適う者はいない! 無駄に血を流さず降伏せよ! さすれば兵の命は保証しようぞ!」
と、レパントが叫び返した。我慢がならなかったのだろう。
「帝国という名の蛮族に耳を貸すものか! 貴様達こそ我が軍が巻き起こす強き疾風に薙ぎ払われたくなくば、虐げられた民の悲鳴に頭を垂れよ!」
戦場の空気が高まる。もう、駄目だ。止められない。
「……全軍…………すすめぇぇーー!!!」
僕は最後の刃を振り下ろした。これでもう後戻りはできない。敵の充分に休息をとった騎馬兵が怒濤の勢いで突っ込んできた。
「火炎槍隊! その威力を見せよ!!」
「応!!!!」
前線の兵士から覇気が発せられた。敵部隊との距離が二百歩ほどに近づくと、三人の将が手を振り上げた。兵士が火炎槍を構える。そして百歩の距離に縮まった時、
「……っっ撃てぇぇぇーーーー!!!!」
火炎槍が、文字通り、火を噴いた。真っ赤に燃える炎が長い距離を飲み込んだ。炎の波が地面を打つ。三将は一直線に兵を展開していたので、横に逃れられた敵兵はごくわずかだった。とっさに跳躍しても、噴き出す炎の向こう、こちらに着地することなどできず、炎の海に降りることになった。
(ぐぐぅ!)
鉄と人とガルホースが焼けていく臭い。鼻の粘膜にこびりつこうとするそれに吐き気をもよおすが、必死にこらえた。この戦争の責任は全てリーダーの僕にある。今死んでいる敵兵は僕が殺しているんだ。目を、背けるな!
「まさか、こんな……」
「これほどとは……」
オデッサさんとマッシュの声が虚ろに響く。オデッサさんは特に、これほどの惨劇を生むとは思っていなかったのだろう。僕とてそうだ。無邪気に優勢を喜ぶ事などできない。
紋章片の効力が尽きて、ぽつぽつと炎が消えて行く。そして、全てが終わった後、そこはもはや草原などではなく、地獄と化していた。
「解放軍! 進めぇっ!!」
僕は悪魔のようにその命令を下した。明らかに驚愕の打撃を受けた敵を、更に蹂躙しようというのだ。だが、テオの軍は徹底抗戦の構えだ。アレンとグレンシールを両翼に、こちらへ進んでくる。
「マッシュ!」
「――はっ! カイ、右側面から攻撃。バルカス隊は左側面から! キルキスとルビィはそれぞれ援護を飛ばしなさい!」
マッシュが采配を振るい、部下に旗を振らせる。指示を受けた部隊はそれぞれ生き物のように蠢いて移動する。と、巨大な火柱と、暗雲から雷がそれぞれ上下に天を貫く。
「ルック!」
アレンとグレンシールがそれぞれ火と雷の上位紋章を持っていることは息子の情報として伝えてある。彼らの配下も下位の紋章ではあるが、火と雷をその身に宿している者が多い。だから彼らの部隊はそれぞれの紋章魔法を得意としているのだ。だが――。
「我が身に宿る風の紋章よ……力を示し、敵を撃て!」
ルックの紋章が戦場を支配する。風が黒雲を払い、火を散らす。敵の魔法は封じられた。さすが!
「全軍、前進ー!」
再び旗がはためく。それで解放軍は地面を走る戦車のように敵を砕いていった。数が少なくなった帝国軍は解放軍に包囲されてしまう。そして徐々にその円を狭める解放軍。敵の抵抗が目に見えて衰えていく……。
「っっくぅっ、と、うさん」
もう我慢できなかった。このままでは父さんは死んでしまう。僕が、僕の軍が殺してしまう。
「父さぁぁぁぁぁん!!!」
僕は馬を駆け、マッシュらの制止も聞かずに、前線へと向かった。
辿り着いた場所では、血塗れになりながら戦っているテオ達の姿があった。兵士の影は既になく、アレンとグレンシールが背後を守り、三角に陣形をとっている。
僕は兵士をかきわけ、その場所を目指した。敵三人は獅子奮迅の動きを見せ、いつしか味方の兵士は円形に退いていた。そこに僕が飛び出る。
「貴様は……」
顔を上げて僕を見るテオ。
「テオ将軍! 貴方達自慢の兵は破られました。
後を追いかけてきたマッシュが勧告する。
「我らは最後の一兵になろうとも降伏なぞするものか!」
「この命、帝国の為、テオ様の為に捧げましょう」
アレンとグレンシールが気を吐く。
「……我が軍は確かに破れたかもしれない。だが! このテオはまだ地面に立っている! 皇帝陛下に弓引く大逆人ティル・マクドールよ、貴様を殺すまで我が身が朽ちることはないと思え!」
父に、殺すと言われた。かつて恨んだ世界は、その恨みに応えるかのように残酷な結末を望む。……このままでは、このままではテオは死ぬ。救う術は……。
「テオ・マクドール殿! 帝国の大将軍である貴方に一騎打ちを申し込む! 皇帝の威光を示したくば、僕を恐れなければ、この申し込み、受けてもらいたい!」
その場が驚愕に包まれる。どよめきが上がった。だが、もうこれしか手段はない!
「……面白い、反乱軍のリーダーである貴様を討ち取れるというなら、否やはない。この剣の錆びにしてくれるわ!」
テオが申し込みを受けてくれた。まだ望みはある! 殺さずに倒せれば!
「ティル殿! 馬鹿な真似はおやめ下さい! ビクトール、その者の首を跳ねよ!」
命令されたビクトールはちらとこちらを見る。コクン、と頷いてやると、静かに馬を後退させた。
「マッシュ……下がっていてくれ……」
「しかし……」
「いいんだ。いいんだよ。マッシュ……。僕は、負けない。皆の為にも負けられない。だから……僕を、信じてくれ……」
卑怯な言葉かもしれない。だけど他に言う言葉が見つからなかった。マッシュは、静かに、馬を下げた。
「ありがとう、マッシュ」
僕は馬を下り、棍を強く強く握りしめた。
「行くぞ! テオ・マクドール!」
「来い!」
その時の僕は、もはやテオの息子ティルではなかった。解放軍のリーダーたる、ティル・マクドールとなっていた。
「いやああああ!!」
先手をとる。力量の差は歴然! ならば常に先手をとり攻めるのみ!
疾風のように走る棍。テオの剣は烈火のようにそれを跳ね返した。テオの攻撃は、その一撃一撃が重かった。気持ちが詰まった攻撃だと思った。だが気持ちならばこちらも負けてはいない。自分の思い、自分に預けられている解放軍全員の思いが! 僕を突き動かす!
「やああっ!!」
二つの頭を持つ棍で絶え間なく連撃を繰り出す。しかしテオは軽々とそれを受け、こちらに剣を振り下ろしてきた。さすが百戦して百勝した男。尋常な剣ではない。
「ぬおおっ!」
「がああっ!!」
テオが吼える。僕も負けじと獣のような叫び声を上げた。刃が肩をかすめる。心臓がヒヤリと跳ねた。だがやられるか! 僕は棍で首筋を狙った。剣がそれを阻む。いつしか棍と剣の打ち合いは一方的な展開になり始めた。技量の差が出てきたのだ。剣が縦横無尽に動く。それを弾くだけで精一杯になってしまう。一騎打ちなんて馬鹿な真似をしてしまっただろうか。テオを救うほんのわずかな、一欠片の可能性。僕が殺さずに倒す、その為に自分の命を差し出してしまったのではないか?
ティル、頑張れ!!
その時、声が聞こえた気がした。それはビクトールのものだったか、グレミオのものだっただろうか、オデッサさんのものだったかもしれない。あるいはテッドの――。
「くううっ!」
みなの顔が脳裏に浮かぶ。熱が、体よ燃えよとばかりに湧き上がる。負けられない! 負けられないんだよ!
テオの鎧に棍が当たる度、悲しみの波が腹の中で砕け散る音を聞いた。剣を打ち据える度に、こうなった悔しさが弾ける気がした。
「陛下の為、貴様を討つ!」
しばらくの間、僕達は激しくぶつかりあった。父と子、だけど今は敵同士。互いに信じるものの為、人殺しの武器を振るう。
「ぐっ!!」
歯をガチリと噛んで耐えようとしたが、こらえきれずに体が流される。
僕は、
その時、
止まった時間の中にいた。
脳裏に二つの選択肢がよぎる。いよいよとなって捨て身の攻撃に全てをかけるか、それとも最後まで我慢しきるか――。
僕は、
後者を選んだ。
耐える、耐える、耐えるのだ。最後の最後まで集中を切らすな。
しかし最後まで待っても攻撃のチャンスがなければどうする? 賭けだろうがなんだろうが、捨て身の攻撃で相手を越える方が優れた方法ではないのか? 弱気の芽を摘み取りながら、僕は耐えた。そして――。
「ぐぅっ!」
「さらばだ! 息子よ!」
僕の体勢が決定的なまでに崩れた。それを見てテオは剣を大きく振り上げた。
その時、僕の目に、先日のカイ師匠との鍛錬で教え込まれた、必殺の急所が飛び込んできた。がら空きだ。テオは、僕を、息子と呼んだ。それは彼の、最後の最後に残った優しさだったのかもしれない。しかしその優しさが、ほんのわずかな、毛筋ほどの隙を作ったのだ。恐らくは刹那の時間だけ生まれた隙。そこに――。
「うぁあああああああ!!!!!」
叫びながら、乾坤一擲の一撃を、叩き込んだ。手加減など、する余裕は、なかった。
どさ、り。と重い重量をもった何かが倒れる音がした。僕は、それを、見た。
兵士達から歓声と悲壮な声が上がった。それは決着の証。テオは、父は、草の上に倒れていた。
「っ! 父さん!!」
棍を放り出して父の体にすがりついた。僕が、父を――。
「テオ様……!!」
アレンやグレンシール、そしてビクトールやグレミオ、マッシュ達も駆け寄ってくる。
「テオ様!」
「父さん!」
皆が見つめる中、父さんは穏やかな顔をしていた。
「ティル……強く……なったな……」
「父、さん……」
僕、は。勝った。勝って、しまった。やりすぎたのだ。勝ちすぎた。最悪の急所に人間では耐えられないほどの一撃を打ち込んでしまったのだ。力を抜いて勝てる相手ではなかった。だがしかし――!!!
「テオ様! しっかり、しっかりして下さい!」
「グレミオ……クレオ……パーン。ティルのことを……よろしく頼む……」
「テオ様……」
三人の瞳から涙が流れる。涙? そうか、父は、死ぬのか。僕が、殺すのか。だから、涙が……。
「アレン、グレンシール。お前……達に、頼みが……ある」
「はい。テオ様」
「なんでしょうか……?」
「私は、皇帝陛下、お一人の為に戦った。だが、お前達までそれに付き合うことはない……時代の流れは……もう、止められないようだ……できることなら……息子に力を貸してやってくれ……」
「くぅっ!」
「テオ様……!」
「ティル……息子よ……もう、泣くな……私は、幸せなんだ……父にとって、息子が自分を越える瞬間を見られるなど……最高の幸せだ……私は……お前の選択を祝福するぞ……」
「父さん、嫌だ! 死なないで、父さん!」
父さんが、ずっと、僕を愛し育ててくれた父さんが。
「頑張れよ……我が息子……ティル……」
「あ――」
ぼやける視界の中で、父が瞳を閉じたのが見えた。もう、父の体は、動くことはなかった。
その時、右手の甲にピリッとした痛みが走り、同時に革手袋で包まれているその手が光輝いたのだ。
ソウルイーター。その紋章が、父の魂を盗み取ったのを、認識した。僕は、ソウルイーターの主として、歩き始めてしまったのだ。
そうして、父テオとの戦いが終わった。多くの者に、消えない傷跡を残して。
§
あれから、既に四ヶ月の月日が流れていた。爽やかな夏の風がトラン湖に吹きつける。アレンとグレンシールが解放軍に加わり、しかし戦争は停滞を見せ、訓練の日々が続いていた。
僕はといえば、あれからずっと呆けたままの毎日を過ごしていた。父を救うことを考えて、一騎打ちを申し込んだ。あの選択が誤りだったのではないか――。何か他に打てる手があったのではないか、と考え続ける日々。生まれる前のことを思い返しては煩悶し、父と過ごした記憶を思い出しては涙を流し、とても破竹の勢いである解放軍のリーダーとは思えないものだった。
「ティル……ごめんなさい」
オデッサさんがそう言った。
「私が貴方を解放軍のリーダーにした為に……こんな思いをさせてしまって、あんな戦いをさせてしまって……」
「……………………オデッサさん。それは間違いです。リーダーじゃなく一人の将だったとしても、僕はあの場面で一騎打ちを申し出ていたでしょう。それならば結果は変わらなかったはずです。僕が父をこの手で殺すことになったのは、運命という奴だったのかもしれません」
「……違う。違うわ! 父と子が殺しあうことが運命なんてことはない。運命なんかじゃない!」
そんなに酷いことはない、とオデッサさんは嘆いた。でも、僕はその優しい気持ちに触れて、少しだけ気が楽になった。
「僕が今の道を歩いているのは、誰のせいでもない、自分で選んだことなのです。だから、自分のせいだなんて言わないで下さい」
そんなことを言われたら、僕の心が崩れてしまう。だから言わないで欲しかった。誰かのせいになんてしたくなかったから。
「ぼっちゃん……最近、お辛い表情ばかりです。気晴らしに外を歩いてみませんか? 少しは気分も晴れるのでは……」
グレミオに気を使われたり、
「ティル……落ち込むな、と言っても無理かもしれない。だが、俺はお前を助けると決めた。決めたぜ。お前が、リーダーだ。だから、前へ進んでくれ。リーダーが前を向いてくれなきゃあ、後ろの奴らも迷っちまう」
フリックに認められたりした。
また、父の側の事情も知った。
「ティル様……実は」
アレンが、自分に語ってくれたのだ。アレンの友人、元帝国近衛兵だった男がいた。しかしある日突然、身に覚えのない無実の罪を着せられてしまい、帝都を離れることとなった。アレンからテオ将軍の人格を聞いていた彼は、もう一度仕官してくれないかと思い、テオ将軍の元を訪れたのである。
その友人は帝都のことをつまびらかに語った。腐敗の現状、汚職の横行を。父さんやアレン、グレンシールはあまりの酷さに閉口した。信じられないような内容だった。また、その時に聞いたのだ。宮廷魔術師ウィンディがテッドなる少年を捕らえる為に近衛隊に命令を下したこと(本来そのような権限はないはずだが)。テッドを守る為に息子のティルが反逆者の汚名を着せられて帝都を追われたこと。そしてティルの率いる新生解放軍がパンヌ・ヤクタ城を落としたこと……。父さんはそれを確認しようと屋敷に手紙を出した。しかし返事が返ってくることはなかった。クワンダも捕らえられたのではなく、解放軍に寝返ったと聞いて、アレンやグレンシールは帝国に疑問を持つようになった。父さんに進言などもしたらしい。
だが、それでも父は皇帝陛下を信じたらしい。
(皇帝陛下……貴方を信じる忠臣が一人死にましたよ……。それでも貴方は過ちを続けるつもりなのですか……貴方は……貴方はどこまで……っ!)
遠い空にいるバルバロッサを恨んだりもした。しかしそれで心が晴れることはなかった。
そうして無為に時間を浪費している時だった。軍議が開かれた。
「ティル様、我ら解放軍の勢力、日増しに大きくなってきていますぞ。既に大森林と西方を解放しました。そして帝国では各地で反乱の手が上がり、帝国軍はそれにかかりきりになっているようです」
レパントがそう話す。マッシュも言葉を添える。
「帝国最強とうたわれたテオ・マクドール将軍の敗北が、大きく影響しているのでしょう。各地に話が伝わった為、このような状況になった。やはりテオ殿の武名は強力だったということでしょう」
「テオ殿が失われた今、帝国軍はどうやら地方の部隊を中央に集めて、とにかく帝都付近の反乱だけを鎮めるつもりです。そこで我々は敵の隙をついて、各地の反乱勢力をまとめ、吸収できれば、と思うのです」
レパントの言う通りだろう。そうするのが最善だ。そう思いつつも言葉がでない。前なら賛成する言葉を発していたはずなのに、今はそんなことすらできなくなっていた。
「そこで、最近南西にあるロリマーの城塞を越えた地方から、帝国軍が引き上げたという噂があるのです。まずはここを攻めるべきかと」
マッシュが提言してくれる。そうだね。それがいいだろう。
結局、僕はろくすっぽ発言しないまま軍議が終わった。解放軍は、次にロリマーの城塞を攻める。……わかっているよ。この後の展開はね。この後は誰かが死ぬなんてことは起きないはずだから、気軽に構えていよう。
§
一軍を率いてソニエール監獄から見て南にあるロリマーの城塞へやってきた。しかし……。
「おかしいな、全く手応えがないぜ?」
フリックの言葉に、マッシュがカスミに言って中を探らせる、と、城門が開いた。中からカスミが出てくる。
「城塞ですが、中には誰もいません。もぬけのからです」
その報告を受けて、城塞を調べてみよう、となった。
「なんだぁこりゃあ。城塞の中にある墓が全部荒らされてるぜ。まるで死体を掘り起こしたいみたいになってるし、葬られた戦没者の姿も土中にない。どうなってんだ?」
ビクトールの疑問。それは君の仇敵であるあいつの仕業だよ。
「お、あれは……」
一人の男が墓の前に立っていた。彼か。
「俺の名はキルケ。しがない首切り役人さ。死刑になった奴をあの世に送ってやるのが俺の仕事だ。だが最近は見ての通り、おまんま食い上げだぜ」
「仲間になってくれませんか? 解放軍に」
装飾など全くないストレートな言葉を発する。言葉を飾る手間なんて面倒だ。
「俺をかい? 首を切るくらいしかできないが、それでも構わないってのか?」
「それで構いません。よろしくお願いします」
「……あんた面白いな。いいだろう。俺もお日様の下に出てみたくなったぜ」
キルケは詳しい事情を知らないというので、結局その日の調査はそれで終わった。
「マッシュ、僕がパーティーを率いてロリマー地方の反乱勢力に協力をお願いしに行くよ」
無茶なことを言い出す。
「ティル様、また……」
「ロリマー地方には戦士の村があるって聞いたことがある。そこを仲間にできれば心強い。相手に接する時、リーダーである僕が行けば礼儀を失したことにはならないだろう?」
心配そうな顔で僕を見る皆。
「軍師さん。ティルもたまには外に出てみるのもいいんじゃないか? 俺が護衛につくからよ」
たまには外に出てみるのも……ってなんだか病人みたいだね。
「当然私もついていきますよ。ぼっちゃん」
「私もお供いたします」
「戦士の村へ行くなら俺も加わろう。俺はその村の出身なんだ。あの村はな、男は全員戦士になるのさ。きっと頼もしい味方になってくれるだろうぜ」
グレミオとクレオにフリックか。なら回復担当としてルビィも連れて行こう。これだけいればなんとかなるだろう。あの少年も加わるはずだしね。
さて、吸血鬼退治といこうか。
後書き
テオ死亡です。転生者として死ぬ運命のオデッサやグレミオを救った彼ですが、テオを救うことはできませんでした。作者である私としてもどちらにするか迷ったのですが、テオ・マクドールという一人の人物には、あの死はそこまで悪いものじゃない気がしたので、このような結末になりました。
それと物理的、直接的原因として、主人公の技量がテオには叶わないという事情がありました。主人公の方が圧倒的に強いのであれば、手加減して殺さずに倒すこともできたでしょう。しかし力量は圧倒的にテオが勝っていたのです。彼が勝てたのは最後の最後にテオが隙を生んだからです。それがなければ十回やって十回ともテオが勝つ勝負でした。
主人公鬱になりかける。ろくに言葉も発せないくらい元気がなくなりました。また、「気軽に構えていよう」なんて、前の彼だったら思わないことです。全てにおいて事前準備を抜かりなくやろうとしていた彼ですが、こんなんなっちゃいました。まあこれも意味があってそういう展開にしていますけどね。