ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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第24話 シャサラザード水上砦

 モラビア城を落として一ヶ月後、広間で軍議が開かれた。普段は軍議に参加しないメンバーも、広間に顔を出している。いよいよ佳境だからね。

 

「現在、我々は帝国領土のほとんどを解放し、後は帝都首都部のみとなりました」

 

「ついにここまできたのね……」

 

 マッシュの表明に、感慨深げにオデッサさんが言う。

 

 カシムの兵も加わったので、兵力は一万五千にまで膨れ上がっている。兵士達の士気も高まっている。この時期を逃す訳にはいかない。

 

「僕らの兵力も、帝都に残る皇帝直属の帝国中央軍第一軍に匹敵するほどになった。次は帝都への道を開くだけだ」

 

 リーダーとしてみなの顔を見回しながら大きく声を張り上げる。

 

「よっしゃ。次はどっちを攻めるんだ?」

 

 ビクトールが気合の入った声を上げる。帝都に攻め込むには、アイン・ジードが守るクワバの城塞か、ソニア・シューレンのシャサラザード水上砦を落とす必要がある。

 

「私はクワバの城塞を攻めるのが良いと思うが……我らには全ての部隊を輸送する船がない」

 

 レパントが発言する。それにニコリと笑ってマッシュが答える。

 

「当然帝国側もそう考えるでしょう。そこで、私はシャサラザードを攻めようと思います。船については心配しないで下さい。明日までに五百の船を用意しましょう。そして全ての部隊で敵に攻撃を仕掛けます」

 

「五百……!」

 

 みなが驚きに包まれる。五百の船とは大きく出たね。さて、僕は、

 

「わかった。全て任せるよ、マッシュ。早速準備に取り掛かってくれ」

 

 信頼に応える。マッシュに任せておけば問題ない。彼は最高の軍師だよ。

 

「ありがとうございます。明日早朝に城を出発しましょう。明日は一大決戦になります。心と体の準備を各自お願いします」

 

 そうして軍議は終わった。

 

 

     §

 

 

「軍師殿……」

 

 ハンフリーが、マッシュの部屋を訪れていた。

 

「軍師殿は、以前帝国軍にいたと聞いています。そして、あのカレッカの事件で帝国から離れたと……」

 

「そうです……。私はあの悲しい事件を止めることができませんでした。帝国が自らカレッカの民を虐殺し、その罪を都市同盟になすりつけるという、残虐でこれ以上ないというほどの愚行を。結果的には帝国兵は『都市同盟が民を虐殺した』と思い奮起し、敵の侵攻を防ぎましたが、私は無力さに打ちのめされました。ゆえに私は、帝国を離れ、静かに暮らすつもりだったのです」

 

「軍師殿。私もあの時カレッカを襲った兵の一員でした。あの時のことは、忘れることができない。当初はカレッカを占領した都市同盟を撃退するというものだった。だが、気がつくと私達は罪のない民を斬っていた……」

 

「ハンフリー殿……」

 

 二人の声は沈痛に響いた。

 

「真実に気づいた私は、怒りに任せて指揮官を斬った。そして帝国を追われたのです。憎しみだけで人を斬ったのは、あれが初めてです……そして、できればあれが最後であって欲しい……」

 

「ハンフリー。今は悩む時ではありません。私達には、まだできることがある。この争いが終わったら……」

 

 この戦いが終わったら、それを二人は思い描いていた。

 

 

     §

 

 

 そんな会話が行われていることを、当然知った上で、僕は一人屋上に来ていた。風に当たりたかったのだ。

 

「ティル様……」

 

 そうしているとカスミが屋上に現れた。

 

「カスミ、どうかしたかい?」

 

「ティル様こそ、……眠れないのですか?」

 

「うん。そうだね。考えることが色々とあって……」

 

 ソニア・シューレン。グレッグミンスターに屋敷を構える彼女は、幾度となく会ったことのある相手だ。鮮やかな金髪をなびかせた美しい女性。水軍頭領の地位は継承戦争で戦った母親、キラウェア・シューレンから引き継いだものだ。彼女はその地位に負けない立派な活躍をしていた。

 

 厳しさの中に優しさをもつあの(ヒト)を、自分は好きだった。ソニアさんも僕を可愛がってくれた。父のテオとも仲が良く、二人は噂になるほどだった。……僕とて子供じゃない、二人の関係は知っている。あの人は、僕の母になるかもしれなかった人なのだ。その人と、明日、殺しあう。僕はそれが辛かった。

 

 彼女はきっと自分を許さないだろう。テオを殺した自分を……。明日は激しい戦いになるだろうことが予想された。

 

「ティル様……心を乱されることは多々あると思います。ですが、そんな貴方様を思うみなのことを忘れないで下さい。城のみなは貴方様を思っています……」

 

 カスミの言葉に気持ちが少しだけ楽になった。そうだ。僕には皆がついていてくれる。その思いがある限り、自分が折れることはないだろう。

 

「そう、だね……ありがとう。カスミ。明日も早い。そろそろ休もうか」

 

「はい、ティル様」

 

 階段を下りて自分の部屋へ。もう休もう。と、ベッドで寝ていたらビクトールが部屋を訪れた。

 

「よ、ティル。もう寝てたのか。一軍の将はそうでなきゃいけねえよな」

 

「何か用かい? ビクトール」

 

「いや……ただ、俺がお前と出会ってから、色々なことがあったな、と思ってよ」

 

「そうだね、ビクトールと出会わなかったら、僕の人生はもっと違うものになっていただろうね」

 

「ああ、……明日は大きな戦いになるな。きっと多くの命が失われる。だが、お前は前に進まなきゃならない。未来を信じて戦った者達の為に……そうだろ? ティル」

 

「うん。ありがとう。ビクトール」

 

「明日は勝とうぜ、じゃあな、ティル」

 

 最後まで、僕は僕の戦いを。きっと、戦い抜いてみせる。そう決意するのだった。

 

 

     §

 

 

 次の日。早朝に兵士達の歓声が響いた。船着場が騒がしいが、きっとあれを見て驚いているのだろう。素早く準備を整えて、船着場へ向かう。

 

「親分、船着場はすげえことになってますぜ。軍師様はとんでもねえことを考えつきやがった」

 

 ゲンが喜色満面にそう言う。皆のところに進み出ると、整然と並んだ五百の船。三十人の兵士がゆうに乗れる大きさだ。これで全兵を乗せるのだろう。そして――その船は氷でできていた。分厚い氷をくりぬいて、帆を立てただけの簡単な造りではあるが、

 

「すげえ、この船はちゃんと浮いてやがる。しかも結構頑丈だぜ」

 

 タイ・ホーの言葉通り、ちゃんと船として機能しているようだった。

 

「まったく、私のスラッシュをこんなことに……」

 

 ぶちぶちと不満を漏らすのはミリアだ。彼女の竜がアイスブレスを吐いてこれを作ったのだ。湖面の水を凍らせて。

 

「マッシュ!」

 

「ティル殿、約束通り五百の船を用意致しました。後は進軍するだけです」

 

「よし! シャサラザードを攻める!」

 

 僕は皆に向かって進撃を命じた。

 

 今回の戦では湖賊の三人や漁師の二人が大活躍してくれるだろう。まずは戦に勝つ。そしてそれから例の件を片付けて、ソニアを殺さずに捕らえる。簡単にはいかないぞ、と気を引き締める。

 

 さあ、戦だ! 湖面には大船団が待ち構えていた。これを今から撃破するのだ――。まずは矢で攻める。キルキス、ローレライ、ルビィらを将とした弓兵を前へ進ませる。だが敵もさるもの、盾でしっかりと受け、あちらも弓矢で応戦してくる。だが、事前にマッシュは策を練っていた。

 

 パァン! と火薬が炸裂する音が響く。この戦争唯一の銃手、クライブだ。

 

「クライブ、引き続き指揮官を狙って下さい!」

 

「任せろ」

 

 冷徹な狙撃手はそう答えた。敵は銃の存在を知らないのだろう。指揮官をやられて判断に戸惑ってしまっている。やがて、船が近づいて接近戦が始まった。アンジー、レオナルド、カナックらが右から攻める。左の敵にはフリック、ハンフリー、クロイツ、ビクトールなどが船に飛び移っては敵を湖に叩き落す。そして――。

 

 竜洞騎士団がやってきた。空を飛ぶ竜からブレスが吐きかけられる。それで敵の三分の一、五千近い兵力が潰されてしまった。さすが! 強いよこの竜洞騎士団!

 

 片方がそのような状態に陥ったのだ。軍と軍のぶつかり合いは解放軍がみるみるうちに敵を駆逐する一方的な戦いとなった。やはり竜洞騎士団が強い。と、マクシミリアン、カイ、バルカス、パーン、カミーユらも続けざまに帝国兵を悲鳴の海に落とした。

 

「よし、敵はあらかた撃破されました。水塞を攻めます」

 

 いよいよ塞に攻め入るのだ。マッシュは乱れた軍を素早く編成しなおすと、再びキルキスら弓兵を前へと出す。そして、火矢が塞に突き刺さる。

 

 ぼおぼおと燃える音が聞こえる。やがて帝国兵は消火に追われ、戦いどころではなくなってしまった。ここに戦いの趨勢は決したのだ。火矢をとめ、アンジー達の部隊を水塞に向かって行く。

 

 僕達は水上砦前に上陸した。

 

「油をかけよ!」

 

 壷を投げ入れる。それが桟橋や船、砦に当たって砕けると、油が流れ、火の勢いが強まる。

 

「とどめです。魔法船団は前へ、風の魔法を!」

 

 マッシュの指示で風の魔法が使われる。それは火を煽り、ついにシャサラザード水上砦は炎の渦に飲み込まれた。

 

「僕達の勝ちだ……」

 

 呆然と呟く僕。策、軍師とはここまで圧倒的に強さを誇るのか。戦いは始まる前に決まるという話を聞くが、まさにそれだった。

 

「マッシュ! 僕らは砦に侵入して水門を閉じるよ」

 

 油で砦を焼き払うのだ。その為、砦の奥にある水門を閉めなければならない。僕はその役目を担った。

 

「ティル殿……お気をつけて」

 

 もはやこの活動的なリーダーを止める気はないのだろう。僕は後をマッシュやオデッサさんに任せると、砦に侵入した。あの人を助ける為に。

 

 

     §

 

 僕はテッド、グレミオ、クレオといういつものメンバーと共に砦へ入った。敵兵士は炎を消すのに必死で僕らを気にしている暇がない。それどころかわらわらと外へ逃げ出す兵士もいる始末だ。逃げるなら逃げろ。命は最大限大切にされるべきものだ。

 

 ソニアさんにもウィンディの手は伸びていなかったのだろう。魔物がいない。おかげで楽に進める。そして、水門を閉じて元来た道を引き返す。その道の途中だった。

 

「ティル!」

 

 呼び止められた。この砦で僕を知る人なんて一人しかいない。僕達は振り返る。と、

 

「一つだけ聞かせなさい。ティル。貴方はどうして帝国を裏切ったの。何故、父親を、テオ様を裏切ったのだ……」

 

「僕は帝国を裏切ってなどいませんよ。帝国が僕らを裏切ったんです」

 

「何……!」

 

 僕の言葉に目を細めるソニアさん。テッド達は僕と彼女の会話をはらはらしながら聞いている。

 

「そして、父を裏切ったつもりもありません。十数年父に育てられた経験が、人生が、言うのです。人々を帝国の横暴から、圧政から、解放しろと。僕は父と違って皇帝陛下に心からの忠義を誓った訳ではなかった。だから、忠義を誓っていた父と違う道を歩くことになったのです」

 

「…………」

 

「ソニアさん。僕は、貴方を殺したくありません。降伏して下さい」

 

「降伏などするものか! 私を下したくば言葉ではなく力でもって行いなさい!」

 

 ソニアさんが突撃してきた。僕は彼女の持つレイピアを捌き、体を入れ替える、そして棍の先端で突きを放った。それが的確に彼女のみぞおちをとらえた。

 

「ぐっ」

 

 いつも厳しく稽古してくれたことが思い返される。いつしか僕はこの人を越えていた。ひゅんっと棍で風を切り、彼女に右肩に突きつけた。

 

「やはり、勝てぬか……テオ様が、勝てなかった相手なのだからな」

 

「ソニアさん……」

 

 テッドが悲しげに呟く。

 

「しかし、この身を汚させはしない!」

 

 刃で自害しようとするソニアさんを、棍で打ち据える。そして、武器を持つ手も同様に。

 

「なにを……する……ぐぅ……」

 

「ソニアさん。貴方は死してはいけない人だ。僕は、貴方を、生かすよ……」

 

 僕はソニアさんを気絶させた。クレオとグレミオが運んでくれる。

 

「ぼっちゃん……」

 

「大丈夫、僕は大丈夫だよ、クレオ……。さあ、火が回る前に脱出しよう」

 

 そうして砦を後にする。その先には……、

 

「サンチェス、どういうことだ!」

 

 捕らえられているサンチェスさんがいた。

 

「ティル様……お言葉通りに、サンチェスさんを止めました」

 

 報告してくれるカスミ。

 

「ありがとう」

 

「一体、どういうこと? サンチェス。どうして水門を閉じる前に砦を火にかけようとしたの?」

 

 オデッサさんが詰問する。彼女の前にはこれまた厳しい表情のフリックが。

 

「やはり……こうなりましたか。サンチェスさん――貴方がスパイだったんですね」

 

「!?」

 

 元々騒然としていた場がさらにざわめく。

 

「どういうことだ、ティル!」

 

「以前からサンチェスさんが怪しいと睨んでいたんです。スパイではないかと。根拠については説明しづらいですが……その為、マッシュにも内緒で、彼にはカスミら忍者をつけていたんです」

 

 原作のこの場面ではサンチェスさんが火をかけ、マッシュをナイフで刺すのだ。それを防ぐ為にカスミをサンチェスさんの監視に、カゲとフウマの二人をマッシュの護衛につけておいたのだ。もちろん見えないように影からね。

 

「そうですか……バレていた、という訳ですね」

 

 観念したように、サンチェスさん。

 

「本当なの? 本当に……貴方が、スパイだったの!?」

 

「……ええ、そうです。私は継承戦争の頃から皇帝陛下にお仕えしていました。継承戦争の頃の陛下は、本当に素晴らしいお方だった。その時私も、将軍や兵士のように忠誠を誓ったのです」

 

「サンチェス……」

 

 悄然とするオデッサさんにフリックら。

 

「マッシュ、どうする?」

 

 ここはマッシュに判断を仰ごう。

 

「……ここで彼を斬ったり、拘束したりしてスパイだったことが判明したのでは、解放軍全体の士気に関わります。今は、それをすべきではないでしょう。彼の処分は後回しです。軍を整えてグレッグミンスターを目指すことを優先させます」

 

「わかった。みんな、とりあえずサンチェスさんがスパイということは秘密にしよう。今はトラン城へ戻ろう」

 

 そうして、シャサラザード攻略戦は終わった。

 

 

     §

 

 僕は今地下に来ていた。ここにはソニアさんがいる。彼女を牢に捕らえて、サンチェスさんを野放しにしていることは、何だか変な感じがした。

 

 牢屋の前にはソニアさんに面会しているクレオが。

 

「貴様は、確か……テオ様の」

 

「はい。テオ様のお屋敷にいたクレオと申します」

 

「何をしに来た。貴様もやはり裏切り者だ」

 

「ソニア様、私はいつもテオ様のお傍におりました。だから貴方の気持ちは良くわかります。それに、ソニア様とテオ様のことも……」

 

「無礼者! それ以上言うな!」

 

「ソニア様、テオ様はティル様を恨み、憎んでいたでしょうか? 二人の戦いを私はずっと見ておりました。お二人は正々堂々、真正面から戦ったのです。自分達が信じるもの、その為に……」

 

 クレオ……。

 

「テオ様の死に顔は穏やかなものでした。息子の成長を喜び、彼の選んだ道を祝福し、テオ様は息を引き取られました。それだけは、言っておきたかったのです……」

 

「…………」

 

 クレオが牢屋から去るのを隠れて見ていた。僕はソニアさんの前へ行く。

 

「ティル……何の用だ」

 

「貴方に、仲間になって欲しいのです。既に五将軍のうち三人が解放軍に加わっています。貴方も解放軍に参加して欲しい。そして、願わくはこの後帝都へ攻め込んだ後に、皇帝陛下の御前に貴方達を連れて行きたいのです」

 

「皇帝陛下の……。しかし、私はお前を憎んでいる。それでもいいのか」

 

「僕のことはいくら憎んでいても構いません。それでも、僕は貴方に生きて欲しいのです」

 

 素直な心を言葉にした。

 

「……いいだろう。しかし手は貸さんぞ。お前の死に様を見てやるのだ」

 

 彼女に憎まれているのは、正直に言って悲しかったけれど、僕はそれでも良かった。生きているのなら、それで。僕は父の顔を思い出した。もう遠くなってしまったあの顔を。

 

 

 

 現在の仲間、110人――。

(うち宿星でないオデッサとテッド2人)

 

 ついに、108の星がここに揃った。僕は天魁星として、この地の戦乱を治めることを誓うのだった。







後書き
 マッシュ生存。ちなみに軍記帳の仲間数にサンチェスさんは含まれておりませんでした。数えて頂ければわかったことです。

 しかしこうやってSSを書くと原作の良さがよくわかりますね。原作は悲劇がたくさんあったから名作だった。こうやって悲劇を潰すと、悲しみは減るけれど作品の質はどんどん落ちていく気がします(元から作品の質なんて低いだろ、というツッコミはおやめ下さい。作者の心が砕けます)。
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