ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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前書き
 すべてを、奪還する。






第25話 帝都へ

 ついに108星が揃った。僕にはそこまで強烈に揃えたい願望はなかったが、自然と集まった。これも宿星の巡り合わせだろうか。とにかくそれで僕の心残りはなくなった。

 

 そして、僕らは大広間に集合した。

 

「よし、全員そろったよ。マッシュ」

 

「ええ、それではティル殿、始めます」

 

 マッシュが歩み出る。110人の仲間は整然と並んでいる。

 

「解放軍の戦士達よ! ついに皆の願いが叶う時だ! 長きに渡って民を虐げてきた赤月帝国の最期だ!」

 

「友を思え! 家族を思え! そして彼らの為に戦うのだ! 情報ではシャサラザード陥落後、クワバの城塞から軍が撤退したということだ。空になった城塞を占拠した義勇軍が、数日前に帝都へ向けて北上したとのこと。友もいる! 仲間もいる! ついに時がきたのだ。帝都を攻める時が!」

 

 レパントがマッシュに次いで言葉を述べる。

 

「人々の怒りは地に溢れて、嘆きの声は天にまで届いている! 今こそ、それを止める時なのだ! 立ち上がれ戦士達よ! 力を合わせ、戦うのだ。解放軍の勇士達よ!」

 

 ウォーレンも声を張り上げる。と、

 

「おおおおおおっ!!!!!」

 

 地鳴りのような歓声が広間に響き渡る。皆の気持ちが一つになる。そして、僕の思いもまた、皆と共に。

 

「皆。僕が言うことは一つだけだ。ここまで皆、力を合わせて突き進んできた。だから明日も力を合わせて戦おう。ただ、それだけだ。僕らの勝利を信じよう!」

 

「ティル殿の言う通りです。今までの戦いにより、我らにも少なくない犠牲が出ました。死んでいった友のためにも、そしてこれから先の未来の為に、我々は進まなければならない。この戦いを終わらせるのです。解放軍の旗の下、ティル殿の下……」

 

 マッシュの視線を受けて、僕は大きく息を吸い込む。

 

「よおし! 明日は全軍、帝都グレッグミンスターに進軍する!! 我らの力を信じよう! 我らの未来を取り戻そう! 我らに勝利を!」

 

「我らに勝利を!」

 

 ビクトールが叫ぶ。

 

「我らに勝利を!」

 

 オデッサさんも、フリックも、ハンフリーも、そして皆が。広間に、そして城に、勝利を願う声を響かせたのだった。

 

 

     §

 

 

 再び現れるレックナート様。まあ今回の訪問には意味がある。僕はベッドからむくりと起き上がった。……こんな風に慣れるのもどうかと思うが。

 

「ティル、ついにここまできたのですね。今こそ全てを話す時。我が姉、ウィンディの望みは世界への、ハルモニアへの復讐です。我ら“門の一族”は数百年の昔、力を狙われて皆殺しの目に遭いました」

 

 すみませんレックナート様。僕それ知っています。

 

「その時、私とウィンディのみが紋章のちからで逃げ延びました。門の紋章は“表”と“裏”、“入口“と“出口“からなります。姉は”表“を、私は”裏“の”門の紋章“を宿しているのです。その力は表裏一体」

 

「レックナート様も狙われているのでしょうか?」

 

「ええ、完全な力をその手にしようと、私の持つ“裏”の“門の紋章”も手に入れようとしていたのです。だからこそ、私は魔術師の島に引き籠もり、力を奪われない為に結界を張って時を待ちました」

 

 そうか、レックナート様もやっと自由になれるのか。まさに解放なんだ。

 

「ティル、貴方が現れるのを、私は待ちました。今、貴方の下に天地宿命の108星が、ここに揃ったのです。みな、この空を自由に駆けることができる放浪の星。それが今やここに集まったのです。必ずや勝利を得ることができるでしょう」

 

「ええ、僕は必ず掴んでみせます。この手に勝利を!」

 

 

     §

 

 

「いよいよ、ですね……ぼっちゃん」

 

「ああ、これが最後の戦いだよ、グレミオ」

 

 僕達はトラン湖を走る船の舳先で、湖面のさざ波を眺めながら呟く。僕達は将兵が乗り込む七百の船で、帝都を目指していた。

 

「帝都に、戻るのですね……なんだか、あの都市を出たのが、遠い過去のように感じられます」

 

 とクレオ。

 

「これまでの日々が嘘みたいだね」

 

 船べりによりかかったパーンがこちらを向く。

 

「嘘なんかじゃありませんぜ、ティル様。これから起こることだって……」

 

「だな。それにしても、こんな風にあの都に戻ることになるなんて」

 

 感慨深げに、テッド。

 

「この戦いに勝って、またあの屋敷で、皆と一緒にご飯を食べたいね」

 

「ふふ、そうですね」

 

 微笑むグレミオ。

 

 僕達、解放軍の兵力は、約一万九千と巨大なまでに膨れ上がっていた。帝都の敵は概算だが二万程度だろうという話だ。総力戦だな、と視線を上げる。僕達はシャサラザード水上砦の横にある水門を通り、トルナ運河を下って帝都の軍と相対するのだ。クワバの城塞から北上している義勇軍のところにはレパントが合流し、共に城を攻めるてはずだ。ミリアも竜洞騎士団と、フリックが戦士の村と、キルキスとバレリアがドワーフと、クロミミがコボルトと、カスミがロッカクの里とそれぞれ連絡をとり、最後の戦いに赴く。

 

 水上砦に辿り着いた時には、既に太陽は西に下りていくところだった。部隊を陸に上げ、野営を行う。早朝にまた船に乗って軍を進める。レナンカンプとグレッグミンスターの中ごろ、その川岸に船を止めて、解放軍は上陸を果たした。待ち伏せを警戒していたが、どうやらその様子はなさそうだ。

 

「ティル殿」

 

 マッシュが僕の傍に馬を寄せる。

 

「これより帝都へ……」

 

「ああ、最後の戦いだ。行こう!」

 

「ええ、では……。ビクトール、ハンフリー、フリックよ、前へ!」

 

 部下に降らせた旗によって、将達が、兵士が動く。解放軍は帝都へ向かいつつ、マッシュの的確な指示によって陣形を整えていく――。

 

 名前を呼ばれた三隊が前衛を務め、右翼にクワンダ、左翼をミルイヒ、中盤にアレンとグレンシールの二将、後詰めにカシムとオデッサさん、最後尾にキルキスら弓兵、クロウリー、ルック、ジーンの三人も魔法使い部隊を引き連れている。遊撃部隊にはバレリア、マクシミリアン、ペシュメルガの騎馬隊。パーン、クロミミ、カイ、バルカス、モーガン、カミーユ、そしてソニアの歩兵を配置した。僕の護衛には親衛隊。いつものようにクレオ、グレミオ、テッドがついていてくれる。

 

 後は、戦うだけ。しかし今回はいつもと違い、戦の前にやらなければならないことが。それは草原を進んで半日が経ち、もう少しで帝都という時だった。マッシュの放った斥候が戻ってきたのだ。キルキスが斥候部隊のリーダーを務めていた。

 

「報告、報告です!」

 

 尋常でない様子だ。やはりアレが起こったか。

 

「ティル様。帝都の前にいる帝国軍ですが、その兵力はざっと見積もっても約十万!!」

 

「な、そんな馬鹿な!」

 

 さすがのマッシュもこれには驚いた。僕とマッシュは馬を走らせ、小さな丘の上に立つ。すると――、

 

「こ、こんな……」

 

 グレッグミンスターの周囲には、やはり兵士がひしめき合っていた。しかし驚いたのはそれだけが理由ではない。兵のほとんどが人間ではなかったのだ。一つ目の巨人、剣と鎧だけの亡霊戦士、見たことがない魔物ばかり……。

 

「これは……」

 

「解放軍のゴミ虫どもよ! この十万の大軍の前では、貴様らなど羽虫のようなものよ! さあ、血祭りにあげてやるからかかってくるがいい!!」

 

 魔物達の先頭に立った黒騎士がそう叫ぶ。ユーバーめ、調子に乗っていられるのも今のうちだ。僕はペシュメルガとルックを呼び出した。

 

「ペシュメルガ、約束を果たす時がきたね。これから君にはユーバーと戦ってもらう」

 

「奴は私の宿敵、当然私が戦おう」

 

「ああ、頼むよ。……レックナート様、あの魔物達ですが……」

 

 僕はルックに同行していたレックナート様に話しかける。

 

「あの魔物達は、ウィンディが表の門の紋章を使って召喚したものどもでしょう」

 

 やはりか、さすが真の紋章。その力は伊達ではない。ウィンディもさすがの黒幕といったところか。だがこちらにも手はある。

 

「私の力で元の世界に返します。我が身に宿る紋章よ、そなたの兄弟が喚び出した者たちを、元の世界へ……!!」

 

 レックナート様が裏の門の紋章を使うと、魔物達は一匹、また一匹と消えていく。だが……。

 

「くっ、駄目、です……。私の力だけでは、姉の力に勝てない……」

 

 力が足りないらしい。レックナート様はさすがではなかった。

 

「ならばここには真の紋章が三つあります。使いましょう!」

 

 僕は素早くヨシュアさんを呼んだ。

 

「ソウルイーター、竜の紋章、真なる風の紋章。これで真の紋章が三つそろいました」

 

「いけません。ソウルイーターは呪いの紋章。その力を使う訳にはいきません」

 

 ことここに至って力の正邪なんて関係ないと思うのだが、レックナート様はよほどソウルイーターを危ぶんでいるらしい。過去に何かあったのか、それともソウルイーターは紋章に関わる者にとってよほど邪悪なものとして認識されているのか……。

 

 ソウルイーターは使えないということで、ヨシュアさんとルックの二人が力を貸すことになった。

 

「我が竜の紋章よ……。人ならぬその力、空を裂くその力をこの者に貸さん」

 

「我が風の紋章よ……その大いなる自然の力をレックナート様に……」

 

 再び発動する裏の門の紋章。その力に、魔物兵は飲み込まれて行った。草原に解放軍兵士の歓声が上がる。全ての魔物はその姿を消していた。

 

「よおし! こうなればこっちのものだ! 皆、敵を恐れずに戦うんだ!」

 

 見たかユーバー、ウィンディ! これが数の力だ! そしてこれから僕の仲間達がその力を見せてくれる。きっと僕らは勝つ!

 

 敵二万を相手取るつもりだった解放軍、十万の敵で蹂躙するつもりだった帝国軍。魔物が消えてしまった今、どちらに勢いがあるかは歴然だった。

 

「行くぞ、ユーバー!」

 

 宿敵を目の前にしたペシュメルガはその力を全力で発揮した。

 

「ペシュメルガ! まだ生きていたか!」

 

「会いたかったぞ! その身、ここで朽ち果てるがいい!」

 

 お互いの剣が激しい音を立ててぶつかり合う。

 

「死ぬのは貴様だ! 虫けらどもと一緒に消えろ!」

 

 あの二人の戦いには誰も割って入れない。あとは彼に任せよう。

 

「マッシュ!」

 

「ええ!」

 

 頼もしい軍師が采配を振るう。両翼のクワンダとミルイヒが敵を包む形で左右から迫る。

 

「フリック、ハンフリーは前へ! 前列の敵を潰しなさい!」

 

「おお!」

 

 ビクトールの部隊だけを残し、二隊が前へ出る。

 

「アレン、グレンシールも前へ! 後列から前に出ようとする部隊をせき止めなさい!」

 

 激しく飛ぶマッシュの命令に従い、将兵が動き出した。

 

 すると、解放軍の背後から別の軍が姿を現した。

 

「ティル殿ー!」

 

 ドワーフや戦士の村、ロッカクの忍びといった外部の者達が合流してくれたのだ。レパントの姿と義勇軍も。こうなれば後は勢いに任せて進むのみ!

 

 マッシュは新たに加わった味方を急いで編成すると、後詰めのカシムとオデッサさんだけを残して全軍に総攻撃を命じた。バレリアが、パーンが、カミーユが、自由に動き回り敵を翻弄する。やがてフリックやクワンダらが敵を潰し、アレンとグレンシールが敵部隊を挟み撃ちにする。帝国軍は徐々にその数を減らし、壊滅していった。兵の数は同じくらいでも、僕らには最高の軍師と将達がいるのだ。勢いもこちらにある。勝利を得るのは僕達だ。

 

「くそがっ!」

 

 ユーバーが逃げ出した。ペシュメルガが後を追おうとしたが、帝国兵を上手く隠れ蓑にして逃げていく奴をとらえきれない。そのうちユーバーは味方のはずの帝国兵すら手にかけて逃げていった。なんて奴だ。奴を追うのはペシュメルガに任せてしまおう。指揮を執るはずの奴がいなくなれば、敵は総崩れになるはずだ。

 

 やがて戦いは野戦から攻城戦に移った。平原の敵はその姿を城壁の中へと逃げ込ませたのだ。それに追撃する解放軍。キルキスやルビィらは懸命に矢を飛ばす。マッシュはついにカシムとオデッサさんの部隊を動かし、敵の息の根を止める手を打った。

 

「マッシュ、後は敵にとどめを刺すだけだ。僕と親衛隊も攻撃に参加する。いいだろう?」

 

「ティル殿……。貴方が死しては全てが水の泡です。決して無茶をなさらないよう……」

 

「わかっているよ。だけど、皇帝陛下の首をとるのは僕の役目だ。任せてくれ」

 

 僕は最後の会話を交わすと、テッド達親衛隊と共に城門を目指した。最後に、本当に最後となる伝令を出して。

 

 

     §

 

 

「城門は!? まだ破れないのか!?」

 

「城内の帝国兵が最後まで抵抗を続けているのです。そして、アイン・ジード将軍が必死に守りを……」

 

 やはり! 彼が最後まで残ったか! 僕は味方を置き去りに前へ出た。黄色い軍服をした細面の男――アイン・ジードだ。

 

「矢を止めよ!」

 

 僕は味方に指示を出す。そして、

 

「アイン将軍! もはや戦いの大勢は決した! 大人しく投降してくれ!」

 

 悲鳴のような叫びを上げる。だが、彼が投降などしないであろうことは、痛いほどにわかっていた。

 

「ティル、様……。お久し、ぶり、ですな……」

 

 体に矢が突き刺さった状態で、彼はまだ地面に立っていた。――だがまだ間に合う!

 

 僕は前に進み出た。

 

「逞しく、なられましたな……お父上も喜ばれることで、しょう……わたし、も……貴方と、剣を交えるこの日を、待ち望んでおりましたぞ……」

 

「頼む、アイン将軍。降伏してくれ……!」

 

 もう、僕の目の前で死ぬ人を見たくなかった。例えそれが偽善だろうと。

 

「お気持ちは、ありがたいですが……私は帝国の武将。たとえ帝国が敗れるさだめだとしても、私はバルバロッサ様を裏切らない。私まで裏切っては、あの方がお可哀相だ……」

 

「なら、僕は貴方を倒す! 倒してでも、その命を落とさせはしない!」

 

 じゃきっ、と棍を構える。僕は一人、前へ走り出した!

 

「ああああっ!!」

 

 がきぃんっ! と棍がアイン将軍の剣を叩く、そのまま一気呵成に攻め続けた。しかし、さすが将軍、一瞬の隙をついて距離を空けられる。と、魔法だ。

 

「――最後の炎!」

 

 火の紋章魔法が発せられ、僕に火の玉が群れをなして打ち出される。だが、

 

「氷の息吹!!」

 

 僕の水魔法がそれを阻む。文字通り大気中の水分を凍りつかせるそれが、火の玉すら凍らせる。さらに僕の強大な魔力で放たれたそれは、アイン将軍の体をも包んだ。

 

「ぐっ!」

 

 ――今だ! この瞬間を逃せば望みはない。僕は脚に込めた力で地面を蹴りつけ、一瞬で彼の真横まで移動する。

 

「――っぁあぁああ!!」

 

 振り回した棍が、したたかにアイン将軍の体を打つ。そして、僕は彼の意識を刈り取った。

 

「ぅ……ぉ……」

 

 アイン将軍は、その体を、横たえた。

 

「――クレオ!」

 

 僕はクレオを呼ぶと、アイン将軍の身柄を捕縛してもらった。

 

「ティル様……では……」

 

「うん、行ってくる。くれぐれも将軍を頼むよ」

 

 コクンと頷くクレオを残し、城門への攻めを再開させる。

 

 南の城門にはアレンとグレンシール、キルキスを。ビクトール、フリック、ハンフリー、ローレライは西の門へ。カシム、オデッサさん、ソニア、ルビィを東の門に配置し、三方向から帝都を攻めた。わざと北の門を空けたのは、逃げ出す帝国兵がいるのなら、そこから逃げて欲しかったからだ。これ以上同じ国の人間で殺し合うことなんてない。逃げるなら、逃げてしまえばいいのだ。

 

 戦いは長時間に及んだ。まだ帝国に残っている将兵は人一倍帝国に、皇帝陛下に忠誠が厚い者達だろう。簡単には落とせなかった。だが、日が西に傾いた頃、ついに南の門で歓声が上がった。

 

「城門が破られた!」

 

「突入ーっ!!」

 

 ようやっと破られた城門を通り、城の内部へと侵入する。そして敵を中からも食い破るのだ。帝都グレッグミンスターは、その門を打ち崩され、街の内部では火の手が上がっていた。

 

「行くよ、テッド、グレミオ! クレオ!」

 

「おう!」

 

「はい!」

 

「行きましょう!」

 

 僕達は市街戦に対応して馬を降りた。侵入した内部は、解放軍の放った火と、帝国兵の骸、そして血溜まりによってその様相を変えていた。そこに自分の見知った景色はなかった。ただ、惨状と化した街だけがそこにあった。だが、郷愁を振り切り前へ。僕らは前へ進むんだ!

 

 僕は周囲の将兵に王城へ向かうことを知らせると、先へと足を運んだ。城の堀にかかった橋がある。ここを越えればついに王城だ。

 

 僕は、かつて彼と出会った玉座を目指した。

 

 

     §

 

 

 城内に飛び込んだ。王城の中は既に混乱のるつぼと化していた。僕はそこで玉座へ向かって走る。帝国軍近衛隊――かつて自分も所属していたそれが、その道行きを阻む。何も考えずに棍を振るった。テッドは弓で、グレミオは斧で、クレオは飛刀で敵に攻撃する。

 

 そして、ついに玉座へと辿り着いた。そこには既に将の姿があった。

 

「ティル、言われた通り玉座へ来たぜ」

 

「ティル殿」

 

「まだ全員じゃないが、先に出発しよう。のんびり待っている時間はないからね」

 

 そう、僕は事前に将(108星)の中で、最後の戦いに参加するメンバーを選び、伝えておいたのだ。王城へ攻め込む段になったら、玉座を目指して欲しいと。僕はこちらも事前に用意していた書置きを、玉座に短剣で突き刺した。これでまだ来ていないメンバーも後を追いかけてくれるだろう。と、

 

「バルバロッサがいたぞ!」

 

 ちょうど、タイミングを計ったように陛下を見つけた声が。

 

「どこだ!?」

 

「屋上です! 屋上の空中庭園です!」

 

「よし、皆! 行こう!」

 

「おう!」

 

 声に答えたメンバーは以下の通りだ。ビクトール、フリック、ハンフリー、クワンダ、ミルイヒ、バレリア、シーナ、ルビィ、フッチ、テッド、グレミオ、クレオ。

 

 辿り着いていないメンバーは、カシム、ソニア、オデッサさんだ。

 

 ともかく、このメンバーでバルバロッサのところを目指そう。人数が多い? 何とでも言ってくれ。

 

 そうして解放軍の兵で満ちた空中庭園に駆け上る。

 

「皇帝は?」

 

 近くの兵士に尋ねる。

 

「庭園の奥におります。ただ、並の強さではありません。多数の兵士がお命を狙いましたが、全て撃退されました。お気をつけ下さい」

 

 頷いて、兵の間を縫うように歩く。様々な思いが、頭に去来した。

 

「兵士達は下がって! 僕達が決着をつける!」

 

 兵士達を後ろに下げさせる。そして皇帝の前に立つ。

 

「ティル殿ー!」

 

 カシムとソニアが追いついて来た。オデッサさんは来ない。あえて来ないことを選んだのかもね。

 

「君は……ティル、か。見るが良いこの庭を。花咲き乱れる、美しい場所だ」

 

 兵士達の屍、その上に立って、剣を構えている。輝く黄金の鎧も、その剣も、血に濡れていた。その姿に僕は訳もなく悲しくなった。かつて玉座の間で会った面影がまるでない。そこには憔悴しきった一人の男がいた。

 

「陛下!」

 

「皇帝陛下ぁ!」

 

 クワンダとミルイヒがたまらず声を上げる。

 

「クワンダに、ミルイヒか……久しいな」

 

 感傷に浸りそうな皇帝に声をかける。

 

「お久しぶりです、皇帝陛下……。解放軍を率いるティル・マクドールです。一つだけ、一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか? 貴方のような方が、どうして国の政治を(かえり)みることをしなかったのですか? 何故こうなるまで悪政を止めなかったのです?」

 

「ティルよ、話すことはなかろう。私はまだ、敗れた訳ではないぞ」

 

 それは虚勢などではなく、厳然たる事実だけを告げる声だった。

 

「では、ではせめて、貴方に忠義を尽くして亡くなった我が父テオに向けて言ってはくれませんか? 父は最期まで皇帝である貴方を信じて命を散らしたのです」

 

 父さんを引き合いに出す。

 

「テオ……か、君が倒したのだったな。万夫不当を誇ったあのテオを」

 

「ええ…………。皇帝陛下、この戦いは我々の勝利です。もはや帝都は制圧され、城もまた僕達の制圧下に置かれた。これ以上、僕は誰の死も見たくありません。味方だろうと、敵である帝国兵であろうと。そして、貴方も……。できれば潔く降伏を」

 

「死を見たくない、か……よく聞くがよい。ティルよ。帝位とは、戦いの上に成り立つ。人の死によってこそ築かれるものだ。そんな甘い考えで、私を倒せると思っているのか? 私は確かに追い詰められている。だが負けた訳ではない。ここが、この空中庭園が、私に残された最後の帝国領だ。私はこの帝国を守る。この手で最後の地を守ってみせるぞ!」

 

 バルバロッサが鋭い殺気を放った。全員が戦闘体勢をとる。固唾を呑んで見守る中、バルバロッサはゆっくりと剣を振り血糊を払った。そして――夕焼けの空に剣を振りかざす!

 

「竜王剣よ!! 我に力を!!」

 

 やっぱりこうなったか!! 剣が光を放ち、みるみるうちにバルバロッサの体が変化していく。あまりの眩しさにまぶたを閉じた。そして、光が空中庭園全体を包んだ時、ずしんっと重々しい音を立てて庭園が揺らいだ。まぶたを開いた先に見えたものは――。

 

「そんな……」

 

「嘘だろ!?」

 

 僕も、そして解放軍の全ての兵士が目を(みは)る。そこには金色の鱗が眩い巨大な三つ首の竜がいた。庭園の縁に前足をかけて立ち上がると、黄金竜はその真っ赤な目を僕に向けてきた。

 

「皇帝にこんな力があるなんざ聞いてないぜ!」

 

 ビクトールの叫びに星辰剣が答えた。

 

「そんなことも知らんのか? 『覇王の紋章』の宿る竜王剣を持つ者は、紋章に自分の身を委ねて黄金竜に姿を変えられるのだ」

 

「…………もう、ここまできたらやるしかない! 竜を、バルバロッサを倒すんだ! 僕に続けぇっ!」

 

 そう言って三つある首のうち一番左の首に棍を打ち込みにかかる。とても巨大なのでそう簡単にはいかないが、攻撃しないと終わるものも終わらないのだ。

 

「チィッ、なんてこった!」

 

「悪夢だぜ!」

 

「……………………皇帝陛下! 私が、貴方をお止めするっ!」

 

 僕達は戦いを挑んだ。真の紋章、その力に。

 

「攻撃を集中させろ!」

 

 この三つ首竜は左のやつが回復を担うのだ。ゆえに一番先に倒す必要がある。ビクトールやフリックの剣が竜の首を斬り落とそうとする。僕は一番前に出て棍を振るう。と、クワンダとグレミオが斧を叩きつけた。人数が多いので、上手く連携しないと攻撃できない人が出てしまうが、そこは歴戦の猛者達、見事な動きで絶え間なく攻撃してくれる。

 

 ぎしゃあああ!!

 

 真ん中の首が叫びを上げる。すると空中に生まれた火球によって、ハンフリーが火に包まれた。

 

「ルビィ! 回復を頼む!」

 

 後衛で水の紋章持ちのルビィに回復をしてもらう。

 

「任せろ! ――優しき雫」

 

 うずくまるハンフリーの体を雫がぽちゃりと癒してくれる。

 

「皇帝陛下! 元に戻って下さい!」

 

 ミルイヒとカシム、ソニアが剣で攻撃する。また首が魔法攻撃をしてきた。今度は雷魔法だ。

 

「ちっくしょう! 雷雨!!」

 

 シーナが逆に雷の紋章魔法を使った。しかし……。

 

「き、効いてねえ……」

 

「耐えたとかじゃなく、完全に打ち消されたぞ!」

 

「真の紋章だ! 何が起きても不思議じゃない! とにかく直接攻撃で攻めるんだ!」

 

 僕の知識が確かなら、覇王の紋章は他の紋章を無効化したり打ち消したりする紋章だったはずだ。紋章の属性によっては通る魔法攻撃もあるかも知れないが、それを探すより直接攻撃に徹した方がいいだろう。これだから今回は魔法使いのルックとかクロウリーとかへリオン、ロッテを連れて来なかったのだ。

 

「おおっ」

 

「いけぇっ!」

 

 フッチが槍を突き立てて、テッドが矢を放つ。クレオの飛刀も突き刺さった。

 

「はぁぁっ!」

 

 バレリアの剣が目に突き刺さる、と。

 

 ぐぅぉおおおお!

 

 叫びを上げてふぅっと消える左の首。

 

「よし! 首を倒せばこの竜も消えるだろう。次は中心の首を!」

 

 皆で攻撃を集中させる。傷ついたらすぐに後方から回復が飛ぶ。やがて真ん中の首も消えていった。こちらの人数を舐めないで欲しい。戦いは数の多い方が勝つ。まさにそれを体現したような戦いだった。黄金竜は口から熱光線を吐いたり炎を生み出したりしたが、その度に後方からの回復が飛ぶ。攻撃・補助・回復。バランスよく紋章や人物を配置しているのだ。隙なく絶え間なく攻める。そうして中心の首が消えた。僕らは最後に残った右の首を攻め立て、打ち倒さんと死力を振り絞った。

 

 ぐ、うぉぉぉん!

 

 黄金竜は苦しげにうめく。大きな悲鳴を上げて、首を震わせた。そして――。

 

 大きな光が竜を包んだと思った次の瞬間、黄金竜の姿はもうなかった。剣で体を支えているバルバロッサがそこにいた。

 

 

     §

 

 

「うぉぉぉぉぉぉ……」

 

 皇帝のうめき声が響く――。

 

「やった……やったぞ!」

 

 最後の戦いに勝利したんだ。これで、戦いは終わる! だけど……、

 

「五将軍! 皇帝の背後に回れ! 囲むんだ。いいか! 絶対に自害なんてさせるな!」

 

 原作ではウィンディと共に高い城壁から飛び降りて死ぬのだ。だが僕の目が黒いうちはそんなことさせてたまるか!

 

「皇帝陛下!」

 

 五将軍の中では一番年長なカシムが歩み出る。

 

「貴方は変わってしまった。何故……我らが信じた貴方は……」

 

「カシム、懐かしいな。お前達と戦っていた日々が懐かしい」

 

「貴方は、あの女……ウィンディの……」

 

 カシムも紋章で操られたクワンダとミルイヒのことを聞いているのだ。そう思っても不思議ではない……か。

 

 その時、キュゥゥンと音がして、ウィンディが地中から現れた。門の紋章はゲートを開く力だから。

 

「バルバロッサ。なんだい、負けてしまったのかい。情けないねえ、黄金皇帝の名が泣くよ!」

 

「おのれ! 貴様、皇帝陛下を侮辱することはこのカシム・ハジルが許さん!」

 

「ふん! 馬鹿め!」

 

「気をつけろ、カシム!」

 

 ウィンディが手のひらから雷を打ち出した。わわわ、と飛び跳ねて逃げるカシム。

 

「ティル、次はあんたの番だよ。よくもまぁ赤月帝国を滅ぼしたもんだ。この帝国はもうお終いさ。だけど、私は帝国なんてどうでもいいのさ。あんたのその手に宿る“ソウルイーター”だけが大事なんだ。さあ、その紋章を渡しなさい!」

 

「ティル殿!」

 

「ぼっちゃん!」

 

「ティル!」

 

 みなが心配する中、僕はウィンディの前に進み出た。自信があったのだ。彼女にはこの紋章を手に入れることはできない。僕は右手をウィンディに向けて上げてみせた。

 

「皆……下がっていてくれ」

 

 僕の手のひらから漆黒の闇が這い出てきた。闇はまるで水のように庭園の床を這ってウィンディへと――。

 

「ほほほ! やっと渡す気になったね! 最初からそうすればよかったのに。あんたが意地を張るからこんな面倒なことになったのさ!」

 

「ティル! その紋章だけはウィンディに渡しちまっちゃあ駄目だ!」

 

 テッドが認められないと叫ぶ。

 

「安心してくれ、テッド、この女にはソウルイーターは手に入れられない。とられてたまるものか!」

 

「ふん! “ソウルイーター“が遂に手に入る! これで世界を恐怖に陥れてやる!」

 

 その女の、悲しい叫びが響く。

 

 ――呪いの紋章ソウルイーターよ。僕と共にあれ!

 

 強く、強く願った。自分の心の中に呼びかけるのだ。そうして、僕の意思とソウルイーターの意思が合わさる。今、僕とソウルイーターは一つになっていた。

 

 パン!! と何かが炸裂したような音がして、床を這っていた闇が消えた。僕の腕も縛られているような痺れから脱却した。

 

「な、何故だソウルイーター、何故私を拒む。人の魂を盗む悪しき紋章よ! 私こそお前の主に相応しいではないか! 私の(もと)へ来い。そして共に、この呪われた世界に復讐しようではないか。お前まで! お前まで私を拒むのかソウルイーター! この世界で最も呪われた紋章よ! お前さえも、私を受け入れようとしない、のか……」

 

 ウィンディが言葉を止めた。背後にバルバロッサがいて、彼女を背中から抱きしめたのだ。

 

「もういい、もうやめるんだウィンディ。ソウルイーターはお前を拒否した。ティルを選んだのだ。つまりお前にはソウルイーターを宿すことができない……」

 

「そんなことがあるものか!」

 

「いや、私はお前が追うソウルイーターのことを密かに調べさせておいたのだ。ソウルイーターは、魂を喰らうだけの紋章ではないのだ」

 

「ソウルイーターのことを……」

 

 調べていたのか。

 

「そうだ。ソウルイーターは『生と死を司る紋章』なのだ。命を生み出す生の力、命を奪う死の力。ソウルイーターとは、その両方を兼ね備えた紋章なのだ。ウィンディ、ソウルイーターに死の力のみを求めるお前には、宿す資格がないということだ……」

 

「だ、黙れ! バルバロッサ! お前など私の魔力で……!?」

 

 ウィンディが再び言葉を止める。バルバロッサがじっとウィンディの瞳を覗き込んでいたのだ。復讐のみを求めるウィンディを、哀れむように。

 

「無駄だ、ウィンディ。無駄なのだ。お前がいかに強大な魔力を振るおうと、私に魔法は通用しないのだ」

 

「な、なんだって!」

 

 そうだ、皇帝に魔力は通じない。

 

「私の持つ竜王剣、“覇王の紋章”はいかなる魔力をも受けつけない。それが、例え“門の紋章”の力であってもだ」

 

 真の紋章、その強大な魔力すら退けるのが覇王の紋章だ。

 

「し、しかし、お前は今までブラックルーンに操られて……」

 

「それもまた、戯れ言に過ぎない」

 

「つまり、皇帝陛下、貴方はウィンディに操られていた訳ではないのですね。全て自分の意思だったと」

 

「ああ……。ティルよ。お前が父を戦争で失ったことは、私にも責任があることだ。だから言っておこう。ソウルイーターに呪いがあるように、覇王の紋章にも、また呪いがあるのだ。先程言ったな。帝位とは、人の死によって築かれるものだと」

 

 空を見上げて言葉を紡ぐバルバロッサ。呪い……。真の紋章の。

 

「人は皇帝である私を恐れて、私に尊敬という名の隔意を抱く。わかるか、ティルよ。覇王の紋章に込められた呪い、それは人から恐れられること。ひいては、人の愛情を失うということなのだ」

 

「愛情を……失う」

 

 そんな呪いがあったのか。ソウルイーターにも呪いがある。真の紋章には全て呪いがあるのか?

 

「しかし、皇帝陛下! 貴方はクラウディア様に愛されていたはずです! そのようなことを仰せになるなど……!」

 

 ミルイヒが反応する。確か王妃のクラウディアに懸想していたんだったな。

 

「確かに、そうだった。クラウディアは、私を愛してくれた。しかし、それが故に紋章の怒りを買い、命を落としてしまった……」

 

「そんな……」

 

 それが本当だとしたら、この人の孤独は……。

 

「しかし、陛下! クラウディア様に及ばぬとはいえ、私達も、テオ様も変わらぬ忠誠を誓ったではありませんか!」

 

 ソニアが訴えかけるようにそう言う。

 

「お前達には感謝してもしきれない。だがな、人には、私には、それでは埋まらないものがあったのだよ……」

 

 バルバロッサは僕に顔を向ける。

 

「わかるか、少年よ。人に愛されぬ悲しみが、寂しさが……」

 

 それ、は。僕にはわからない。父に、グレミオ。愛されてきた自分には……。

 

「人間とはか弱きものだ。帝位にあっても、私の心は孤独だった。そんな時だ、私はウィンディと出会った」

 

「私、が?」

 

 バルバロッサに抱かれたまま、ウィンディが呟く。

 

「私が、一体なんだと言うの……?」

 

「ウィンディ、私はお前の瞳の奥に、やはり孤独の悲しみを感じ取った。そんなお前を、私は愛していた……」

 

「嘘よ! お前が愛したのは、私に見えるクラウディアの面影よ!」

 

 ウィンディが、自分が愛されていたなど認められないという風に、嫉妬を目に映しながら顔を振る。

 

「それは違うのだ。門の力を持った為に、一族を滅ぼされたお前。世界を憎みながらも、お前の瞳、その奥には悲しみと孤独が潜んでいた。私はそんなお前を愛し、お前の中に沈んでいる悲しみを消してやりたかったのだ……」

 

 すれ違う思い。それは少しわかる。最後の父さんと僕もそうだったから……。この二人もまた、すれ違っていたんだ……。

 

「バルバロッサ……そんな……そんなの」

 

「受け入れられぬ悲しみを癒してやりたかった。私はお前を愛した」

 

「やめて、やめてちょうだいバルバロッサ」

 

 ウィンディが顔を振りながら言う。きっと自分が愛されていたなんて、愛情をもらえていたなんて、認めたくないのだろう。復讐に燃える我が身が崩れてしまうから。その身を抱きしめているバルバロッサ。優しさという棘が彼女に突き刺さる。

 

「しかしそれは間違いだったのかも知れぬ」

 

 僕は、そう言ったバルバロッサに、言わずにはいられなかった。人を愛することが間違いだなんて、そんなことはない!

 

「皇帝陛下。僕はそうは思いません。貴方は国と引き替えにしても、得たい愛情があったのでしょう? 今更後悔なんてしないで下さい。貴方は確かにウィンディを、皆を愛していた。例え人から愛されなくても、貴方自身には確かに愛があったのだと、僕は思います。そんな貴方でなければ、父テオや五将軍、アイン将軍らも、命を賭けてまで忠誠を誓わなかったはずです」

 

「ありがとう、ティルよ……。しかし、私は過ちを犯したのだ。唯一つの過ちだ。そして、それは許されるものではない。私は私の過ちによって、民を苦しめ、自分の帝国を失った。その罪は、あがなわなければならぬ……」

 

 やはり。だがそうはさせないぞ。

 

「皇帝陛下……貴方、自決するつもりですね? そうはさせませんよ。貴方が自分の罪をあがなおうと思うのと同じにくらいに、僕は人を死なせたくないんだ! もう、目の前で失われる命を“仕方ない”なんて思いたくない!」

 

 テッド、エルフ達、父さん、ブラック。僕の力が足りなくて見捨ててしまったもの達。だけど、もう失わせない。失わせてたまるものか! 目の前で失ってしまった僕だから、見捨ててしまった僕だからこそ強く思う! 失わないですむ命ならば失わせないと!!

 

「貴方は言いましたね。帝位とは人の死や屍の上に築かれるものだと。ならば僕はそれを否定する! 僕はここに国を打ち建てる! 決して人の死によって築かれるのではない国を! もう二度と人を切り捨てたりしない国を!」

 

 叫ぶ。全身で!

 

 近づく、二人に。今にも自分の首に刃を向けそうな皇帝に。

 

「貴方達を拘束させて頂きます。これから一生をある場所で過ごしてもらいましょう…………」

 

 これが、僕が考えたことだ。この二人には紋章を捨ててあの場所へ行ってもらう。そこで一生を償いの為にしてもらうのだ。終身刑だ。死んで逃げるなんて許すものか! 生きてもらうんだ! そして自分達の罪を後悔させるんだ!

 

 僕は、傷ついた皇帝と、呆然とするウィンディに当て身を食らわせた。倒れ伏す二人。静まり返る空中庭園。

 

「フッチ……彼女はブラックの仇だ。そしてテッド、君の村を滅ぼして、祖父を殺し、君を支配しようとした相手だ。他の皆にとっても国を荒廃させて多くの人を苦しめた元凶だ。許せないと思う気持ちは当然あるよね。でも、でも、僕はこれ以上人を死なせたくない。殺したく、ないんだ。……許して、くれないか」

 

 戦ならば人も殺そう。戦争ならば死ぬ仲間も看取ろう。だけど、戦が、戦争が終わったのに、助けられるのに殺すのは違うだろう。命はそんな簡単に扱っていいものじゃないはずだ。大切に、しなければならないもののはずだ。殺すなんて、死ぬなんて簡単に言わないでくれ。人が死ぬのは悲しいことなんだ。

 

「ティル……」

 

「…………」

 

 フッチとテッドは沈黙している。やはり簡単に許す、なんて言えないよね。更にいえば、間接的にとはいえエルフの村を滅ぼしたのもウィンディだ。罪だらけの彼女と彼。僕だって父と敵対し、殺すはめになった原因の皇帝。怒りや憎しみはある。だけど、僕は死なせたくないんだよ。もう、人が死ぬなんて悲しいことは、嫌なんだ!

 

 二人を布にくるんでその身を五将軍に預ける。彼らが生き延びたことは、できるなら大勢の人間に知られない方がいいだろう。とくに帝国兵側に知られると、禍根となる。新政府樹立後に反乱が頻発するなんてごめんだ。いつかは公表しなくちゃならない時が訪れるかも知れないが。今はまだ限られた人間だけの秘密にしておく。この後にフッチとテッドがどう言うかはわからない。どんな決断をするか。どうしても憎しみが消えない、殺したいと言ってくるかもしれない。だけど今は……。

 

 と。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

「やべぇ!」

 

「さっきの竜のせいで、王城が崩れるぞ!」

 

 ビクトールとフリックが警告する。

 

「帝国の最後だ……」

 

「い、急いで脱出しましょう!」

 

 ハンフリーは感傷を感じているようだが、グレミオは脱出を望む。

 

「これ以上は危険だ! 総員退避!」

 

 そうして、魔物と近衛隊が襲いかかってくる通路を抜けて、その場から逃げ出した。

 

 

     §

 

 

「見ろ! 勝った! 俺達が勝ったんだぜ!」

 

 タイ・ホーが興奮して叫ぶ。普段の飄々とした態度からは考えられない熱さだ。

 

「ああ、遂に帝国は滅んだのだな……」

 

 レパントが感慨深く呟く。

 

「やったよシルビナ!」

 

「キルキスー!」

 

 抱き合う恋人達。

 

「やった、見てよテンガアール! 帝国を倒したんだ!」

 

「い、痛いよヒックス! 引っ張んないで!」

 

 こちらはまだまだ初々しい。というか未熟って感じだ。

 

「終わりましたね、ティル様」

 

「俺達の帝国も滅んだ……」

 

 クレオとパーン。

 

「ブラックの仇……か」

 

 曖昧な表情で、フッチ。ごめんね。仇をとらせてやれなくて。

 

 そして、マッシュとオデッサさん。

 

「やりましたね。ティル殿」

 

「ティル……やっと、終わったのね……」

 

 それらを全て飲み込んで、心を静めて叫ぶ。

 

「皆、聞いてくれ! ついにバルバロッサは倒れた! 同時に赤月帝国も滅んだんだ! 我ら、解放軍の勝利だ!」

 

 静まる兵士達。

 

「解放軍の勝利だ! 剣を収めて戦をやめるんだ! そして、勝利の声を上げよ! 我ら解放軍は、勝利した!」

 

 解放軍の兵士達から歓声が上がった。轟き叫ぶ。

 

 そうして、赤月帝国は滅んだのだった。







後書き
 前書きの言葉は「幻想水滸伝Ⅴ」のキャッチコピー。あまりにもカッコイイ言葉だから使ってみたかった。すまんな。

 サブタイトルは凄く迷いました。「黄金皇帝」「終焉」「勝利」色々考えました。まだ終わりじゃないし勝利はネタバレになるので、こうしました。

 アインとの戦いで使った攻撃用の水魔法はⅢのものです。

 皇帝と黒幕ウィンディについて。殺さないのは甘いと言われるでしょうね。でも死は逃げだと思うのです。殺すのも何か違うような気がして……。死になんて逃がしてやらない、というのは厳しさに分類されるのかなぁ。まあまだ最後のエンディングと後書きを残しています。できればそちらも読んでご判断下さい。
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