ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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前書き
 幻想水滸伝(Ⅰ)のテレビCM曲はマジ名曲。「予感」という曲なのですが、本当に名曲です。聞かれたことがない方は是非聞いてみて下さい。





第3話 ロックランド

「ほーらよ、俺の仕事はここまでさ。あんたらは、“星見の結果”を隊長に渡す仕事が残ってるんだろ」

 

 無事、グレッグミンスターに戻ってきた。やはり大地の感触が普段と違って感じられ、ふわふわと浮ついた足取りになってしまう。

 

「ありがとう、フッチ君。色々あったけど、お世話になったね。感謝しているよ」

 

 この子には後で世話になるからな。できるだけいい印象を持たれるように……と。やれやれ、また打算だよ。僕がこれから解放されるのはいつになることやら。

 

「いやあ、いいのさ。これが俺の仕事だからな。見習い向けの簡単なやつだけど、やっぱりちゃんとこなせりゃ嬉しいもんさ」

 

「もう帰るのかい?」

 

「そうだな、俺達はせっかく都に来てるんだ。何か見物してから帰るかな。芝居でも見に行こうかブラック?」

 

 いや、ブラックと一緒に芝居を見に行くのは無茶だろ。

 

「何かあったら遠慮なく言ってよ。僕はここの城下町に住んでいるからね」

 

 僕が差し出した手を、フッチが握り返す。

 

「ありがとう。その時は世話になるとするかな。じゃあ、またな」

 

 フッチと別れて王城の方へ戻る。

 

「さあ、最後の仕事だ。クレイズ隊長のところへ報告に行こう」

 

 暗い気分や考えを吹き飛ばすようにそう言う。皆はその言葉に従って、城へ入っていく。日が沈み、暗くなった城内ではまだ臣下の者が働いていた。

 

「だいぶ遅くなったけど……、大丈夫かな……」

 

 呟きながら控え室に入った僕に、想像通り部屋の奥から甲高い声が飛んでくる。

 

「ふん。やっと戻ってきたか。俺を待ちくたびれさせるつもりか? 早く“星見の結果”を渡せ」

 

 くそぅ、こんにゃろめ。そう思いながら渋々書状を渡す。

 

「はい、ここに」

 

「ふん。どうやら仕事はこなしてきたらしいな。全くの役立たずというわけでもないか。よし、すぐにでも次の仕事にかかってもらう」

 

「は……?」

 

 僕は慌てて顔を上げる。これからすぐに!?

 

「ん? どうした。もう少し嬉しそうな顔をしたらどうだ。帝国の為に働けるのだぞ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 

 たまりかねたグレミオが口を挟む。

 

「私どもはたった今、魔術師の塔から戻ったばかりなのです。すぐに次の任務というのは、さすがに無理があるかと。今回の任務は私ども、ご確認されたようにしっかりとこなしてきたはずです。まずはそれを陛下に奏上して頂いて、次の任務はそれからにして頂けませんか?」

 

 ナイスグレミオ。

 

「そうだ」

 

「まったく」

 

 パーンとテッドが小声で言った。クレイズは困ったようにうめいている。

 

「しかし……、ことは一刻を争うのだ。今すぐとは言わないが、帝国を思い早々にとりかかってくれると助かるのだが……」

 

 そう言われると、さすがにグレミオも何も言えなくなった。嫌なキーワードを出すなぁ。

 

「そうだ、そうだぁ。クレイズ様の言う通りだ」

 

 すると、今まで部屋の隅、クレイズの左後方――僕達から見て右奥にいた赤い軍服を身に纏った男が追従して言ってきた。

 

「いいか、よく聞けよ。この帝都グレッグミンスターの東にロックランドという町がある」

 

 ロックランドくらい知っているっての。こいつの中で僕はどれだけおぼっちゃんになっているんだよ!?

 

「いいか、わかったか。グレッグミンスターの東のロックランドだぞ」

 

 赤い軍服の男がクレイズの言ったことを繰り返し言ってくる。うざい。

 

「この町が、どうしたことか今年は税金を納めにこないのだ」

 

「どうしたことか、こないのだ」

 

 ロックランドはグレッグミンスターから最も近い町だが、馬を使っても三日はかかる。その道のりを考えただけで、僕達五人は行く前からげんなりしてしまった。休みなしでこの任務。近衛隊は辛いよ。

 

「そこで、お前達はロックランドに出向き」

 

「そうとも、出向くんだ」

 

 赤い軍服の男が(以下略。

 

「税金を納める日が……」

 

「税金を納める日だぞ」

 

「うるさい!! 貴様はさっきからごちゃごちゃと少し静かにしてろ!」

 

 さすがにクレイズがたまりかねたのか、男を叱りつけた。

 

「そうとも、お前ら静かにしろ」

 

 いや、お前のことだよ! 五人の心が一つになった。

 

「ばかもん!! お前のことだ、カナン!!」

 

 どうやら赤い軍服の男はカナンと言うらしい。小太りの体に丸顔、ちょび髭のなんとも締まりのない男だった。こいつ、後でもちょろっと出てくるし、確か幻想水滸伝Ⅱにも名前だけ出るんだよね。……ティルとして生を受けた僕だ。不幸な身の上を嘆いているが、さすがにこいつに転生とかしなくて良かった。こいつになるぐらいならティルでいた方が十倍はマシだよ。

 

「ええ? 俺のことですか?」

 

 クレイズは再度こちらに向き直ると、こほんと咳払いして言い直した。

 

「ふん。まあいい。とにかく、ロックランドの軍政官に税金のことを聞いてくるんだ。軍政官はグレィディという男だ。それから、今回はこのカナンがお目付役としてついていく」

 

 するとカナンは得意げな顔で言ってきた。

 

「へへへ、お前らよく聞けよ。近衛隊じゃ、俺様の方が先輩だ。俺様の命令に逆らった奴は帝国に逆らったことになるんだからな。覚えておけよ」

 

「ゲスな奴め」

 

 クレオが珍しく吐き捨てる。

 

「よし、話は終わりだ。わかったら、さっさとロックランドへ向かうんだ!」

 

 【カナン が ムリヤリ ついて来た。】

 

 そんなシステムメッセージが幻視できた。ああ、放り出したい。

 

「東に向かえばロックランドはすぐだ。軍政官の名前はグレィディだ。税金の納入が遅れている訳を聞いて来るんだ。忘れるなよ」

 

 

     §

 

 

 それからが大変だった。早くロックランドに行くぞと息巻くカナンをなだめすかし、ロックランド行きの準備を早々に整えた。食材の調達、武器の手入れ、やることは山ほどあったのだ。落ち込んでいる暇もない。

 

 そう言えば、旅の準備をしている際、道具屋に行ったらこんなことがあった。

 

「グレミオさん、この間の宴はうまくいきましたか? お代の方はいつものように月末に取りに行きますよ」

 

 どうやらグレミオはこの間にやった宴の代金を、借金で捻出していたらしい。これ、アレの伏線だよね。

 

 それはさておき、レックナート様にもらった封印球があったので紋章屋にも寄ったのだ。紋章師によるとその封印球はやはり火の封印球とのこと。せっかくなので、クレオに宿してもらった。もらったのはクレオだからだ。クレオの右手に宿してもらった封印球はその姿を紋章に変えた。紋章を宿せる人間の部位は額・右手・左手の三箇所だけだ。それすら普通の人はどれか一箇所に宿すだけでせいぜいだったりする。三箇所全てに紋章を宿せる人間は少ないのだ。

 

 次の日の午後、早々にロックランド行きの旅支度を調えた僕達六人は、渋るクレイズから無理やり六頭の馬を借り、任務遂行の為にグレッグミンスターを出立した。幸いにして雨に降られることもなかった。行軍ははかどり、帝都を離れて二日目の昼には遙か遠くにロックランドが見えてきた。とはいえカナンがやたら休憩をしたがったのでその旅も思うようにいかなかったが。旅の疲れに加えてカナンに気を使わなければならない気苦労から、僕達の疲労は極限に達していた。ロックランドに着いたらすぐ休もう。僕は固く心に決めた。

 

 先頭に立ったパーンが、馬に乗ったまま大きく伸びをして僕を振り返る。

 

「おお、やっと見えてきましたよ、ぼっちゃん。俺はもうケツが痛くて痛くて……。向こうに着いたら宿でも取って休みたいですね」

 

 僕もお尻が痛い。いや変な意味じゃなくてね。

 

「同感だね」

 

 パーンの横で馬を歩ませていたクレオも、さすがに疲労の色は隠せない。

 

「ゆっくりシャワーも浴びられない任務を押しつけるなんて、クレイズはきっと、女にゃもてないよ」

 

 シャワーかぁ。の○たさんのエッチ!

 

「皆さん気楽におっしゃいますが……」

 

 馬の足を速め、グレミオが二人の横につく。その顔は疲労からか青い。

 

「ここから先は自腹ですよ。貰った経費は準備で既になくなっています」

 

 そのグレミオの言葉を聞いてパーンが怒った。

 

「なにぃ? クレイズの野郎、遠方に出向くぼっちゃんに、そんなはした金しかよこさなかったのか?」

 

「なんでも財政難だとかで……。聞いた話だとロックランドだけでなく、税金を滞納している町は他にもあるらしいんですよ」

 

「でも、どうしてだろうな?」

 

 不思議そうにテッドが呟くので、僕は彼と会話する。

 

「今年は大きな災害とか飢饉とかの話は聞かないっていうのに……。きっと何か、理由はあるんだろうけど……」

 

 理由……つまりはそれだけ帝国が圧政を重ねていて、反抗する街が出始めてきているのだ。

 

「ホントだよなあ。おかげでこっちにとばっちりがきてるんだから」

 

 テッドもさすがにいつもの元気は出せないようだ。そうして、疲労困憊の五人と一人はロックランドに辿り着いたのだ。ロックランドに着いた一行は町に一つだけある宿にチェックインした。そして僕はついてこようとするグレミオ達に休んでいるよう言って、町で聞き込みをした。

 

「……税金の取立ては厳しいよ」

 

「食べるもんなんか何もありゃしないよ! 作ったそばからみんなもっていっちまうんだ!」

 

「山賊? この辺の村々を襲ったりしているね。だけど軍政官の奴から盗んでいくから痛快さ」

 

「人死にかい? そりゃあまったくの無傷って訳にゃあいかないね。建物が壊されたりってのもあるよ」

 

 ふむふむ。やはり知識通り、税金の取立てはなされているようだな。だというのに税金を納めないとは。だが、尋ねたところで山賊を理由にかわされるんだろうな。そして山賊の活動は結構活発で、人が怪我をしたり建物への被害もある、と。それなら山賊討伐はやらなきゃいけないな。僕らは治安を守る帝国軍の一員なのだから。

 

 宿に戻ると、皆は既に床についていた。今回ばかりはカナンも文句は言わなかった。というより高いびきをかいて寝ていたのだが。軍政官の屋敷へは、明朝行くことになった。さて、僕も休もう。

 

 そうして、僕達は一時の休息を得たのだった。

 

 

     §

 

 

 明朝、六人は早めに起きて準備をし、ちょうどよい時間帯を見計らって軍政官の屋敷を訪れていた。

 

「こらこら、お前らは何者だ。ここはグレィディ様のお屋敷だぞ。勝手にズカズカと上がり込むんじゃない。用なら私が取り次いでやる」

 

 応対する人間でその屋敷の格がわかるね。するとカナンが進み出ていつも以上に威張り散らし始めた。

 

「なんだと! 俺様は帝国近衛隊隊長クレイズ様の副官カナン様だぞ! とっとと、グレィディに出てこいと言え!」

 

 使用人はその勢いに完全に押されてしまっていた。しかしクレイズ様の副官カナン様て。敬称つけ過ぎ。

 

「えっ! は、はい。いますぐ、少々お待ちを」

 

 使用人は扉の奥に引っ込んだ。扉を何枚か隔てた向こう側から声が聞こえてくる。

 

「なんだ。また村の奴らが抗議に来たのか? とっとと追い返せ」

 

 やっぱ横暴を働いているようだな。後でとっちめてやる。

 

「いえ、何でも近衛隊の奴らだとか……」

 

「近衛隊だか何だか知らんが、私は忙しいのだ! 早いとこ……? んっ? 近衛隊? 何だって? 近衛隊だって。何で早くそれを言わん!」

 

 漏れ聞いた話を聞く限り、カナンと同タイプの人間らしい。グレィディは扉を開けてこちらに出て来た。

 

「いやあ、これは近衛隊のみなさん。こんな田舎の町までようこそいらっしゃいました。こんなところで話も何ですからこちらへどうぞ」

 

 その言葉に従い、奥の部屋に通される。軍政官の部屋はそれなりに立派な調度であった。

 

「ふん、中々いい暮らしをしているようじゃないか」

 

 カナンが部屋の様子などを見てそう言う。

 

「いえいえ、そんなことはありません」

 

「まあ、そんなことはいい。それよりも、何故我々がここに来たかわかっているな」

 

「もちろんですとも。税金のことでしょう。私達もほとほと困っているんですよ。実は、この近くの清風山に山賊が住み着きまして、辺りの村を荒らし回りとても税金を取れないのです。その為に税金の納入が遅れていたのですが、もう大丈夫ですね」

 

 やっぱりそれを盾にしてかわしてきたか。だけど山賊が捕まったらもうその言い訳は通用しないぞ。覚えていろよ。

 

「大丈夫? どういうことだ」

 

 グレィディはカナンに向き直った。軍政官は地方を治める監督者なので、帝国の中央機関である近衛隊に頭が上がらないのは理解できる。しかしグレィディは、何もそこまでと思えるほどカナンに対して媚びた態度を取っていた。もみ手、というものを僕は初めて見た。ホントにこんなことする奴いるんだな。彼は言う。

 

「そりゃあもちろん近衛隊の勇士のみなさんが来てくれたんです。田舎の山賊ごとき退治するのは朝飯前でしょう。まさか、尻込みしませんよね」

 

 カナンは大笑いしながら返答した。

 

「わっはっはっはっは。もちろんだとも、ん? 山賊? う、うん。まあ、大丈夫だろう。そんな奴ら一ひねりだ。はっはっはっはっはっは」

 

「バカな、我々の任務は……」

 

 クレオが注意しようとするが、

 

「はっはっはっ、腕が鳴るぜ。やっぱこうでなくちゃな」

 

 パーンはすっかり乗り気になってしまったようだ。

 

「そうですね、一暴れしてやろうぜ。なあティル?」

 

 テッドまでその気になっている。

 

「もちろんさ、山賊が村を荒らしているっていうなら止めなきゃならない」

 

 ここは選択肢があるところだ。だが尻込みするような台詞を言っても、結局山賊は逮捕しなきゃいけないんだ。さっさと賛成しておこう。

 

「ぼっちゃんまでそんなこと言って」

 

 グレミオが制止しようとするが、僕の心はもはや決まっていた。

 

「仕方ない男どもだね」

 

 クレオは一人冷静に呟いた。

 

「よし、すぐさま出発だ。お前ら遅れを取るなよ」

 

 カナンは意気込んでいる。

 

「清風山はこのロックランドから東に行ったところにあります」

 

「よし、出発だ!」

 

 そのカナンの号令と共に、清風山に向けて出発することとなったのである。

 







後書き
 道具屋との会話はちゃんとゲーム中にある会話イベントです。幻想水滸伝を何度かプレイした事がある人でも中々気づけないレアイベントだと思います。会話の内容はゲームをプレイした人ならもちろんわかる、あの後の展開に関する伏線です。

 二十年前の作品ですけれど、プレイする度に新しい発見があってまったく飽きません。二十年経った今でも毎年プレイしています。もう何度クリアしたことか。
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