ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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第4話 清風山

 ロックランドを出立して半日が過ぎただろうか、もう夕方になろうという頃、僕達は山の(ふもと)に辿り着いた。清風山という名は山頂から吹き下ろす冷たい風に由来するものだが、今はその季節ではないらしく、風は比較的暖かかった。しかしその分植物がよく育ち、山道を塞いでしまっている。到底馬では入れそうにないので、僕達は麓の木々に馬をくくりつけ、徒歩で山を登る準備を整えた。

 

「ふう、やっと清風山についたな。お前ら、相手が山賊だからってびびって逃げるなよ」

 

「あんたもな」

 

 カナンの威張り散らす態度にパーンがぼそっと呟く。

 

「ようし、行くぞ! パーン、お前が先頭に立て」

 

 言いながら、カナンは自分の荷物をパーンに押しつけた。パーンは歯ぎしりしたが、こらえた。

 

「ええっ? 何で俺が先頭なんだよ」

 

「うるさい、グズグズ言わずに早くしろ。俺様はリーダーだから一番後ろだ」

 

 どうやらカナンは一番被害が少ないであろう一番後方に陣取って動かないつもりらしい。大した面の皮の厚さである。

 

「ティル、ふふ、ゾクゾクするな」

 

「僕も、何だか武者震いしてきたよ」

 

 これから挑むのは人との実戦だ。日頃の修練の結果が試される時がきたのだ。この時の為に苦しい鍛錬を乗り越えてきたのだ。きっと大丈夫さ。僕は師匠との研鑽の日々が思い起こしていた。……うぇっ。あまりの苦さに吐き気が。おえぇっ。

 

「テッド君。あんまり変なことを言わないで下さい。ぼっちゃん、危ない真似はしないで下さいね。ぼっちゃんの身はこのグレミオが守りますから」

 

「グレミオは大げさだなあ。大丈夫だよ、きっと」

 

 そんな風に受け答えしていると、カナンから号令がかかった。

 

「おい、行くぞ!!」

 

 そして僕達は山の中に入って行ったのである。

 

 

     §

 

 

 山に入ると早速山賊と出くわした。山賊は二人、恐らく見張りだろう。弓を持っている。僕達はそれぞれの武器で戦った。僕は棍で、グレミオは斧、パーンは拳、クレオは飛刀、テッドは弓矢だ。

 

 クレオの火の紋章は温存してある。紋章魔法は日にそう何度も使える術ではないのだ。使ったら使ったで一日眠らないと使用できる回数は回復しない。それに比べてパーンの持つ紋章、獅子の紋章は何度も使える優れものの紋章だ。一時的に使用者の体を強化して連撃が放てるようになる代わりに、一定時間体が自由に動かせなくなる(一応防御体勢くらいは取れる)という紋章だが、一定時間体が動かせなくなるというデメリットがあると同時に、一日の内に何度も使用できるというメリットがある。これがある限りパーンが一対一で敗れる姿など、僕には想像できなかった。

 

 出くわした山賊は二人ともその命を落とす結果になった。……今回は僕がとどめを刺すことはなかったが、初めて目の前で人が死んだ。殺したのだ。…………慣れるっきゃない。僕が生きる為には人を殺して進むしかないのだ。血塗れになっても前へ進め!

 

「ぼっちゃん……大丈夫ですか?」

 

「うん。大丈夫だよグレミオ」

 

 村々を荒らしまわる山賊。実際にその猛威を振るっているのだ。倒す、殺すことは仕方ない。仕方ないんだ。

 

 更に進むと兵隊蟻という魔物に出くわした。彼らはその身に特殊な繊維を持ち、とんがり帽子と呼ばれる防具の素材が手に入る魔物だ。主に六体の群体で行動する。カナンが戦えないので五対六という敵に数の利がある状態だが、飛びかかってくる蟻どもを何とか撃退して今は一息ついているところだ。

 

 道具屋で買ったおくすりを使って治療する。おくすりは飲んでも塗っても効果がある薬で、主に外傷などに効果がある。道具屋での販売価格は六個一組で100ポッチだ。それなりの出費だが、魔物を倒して得られる金銭(ポッチ)もあるので、まあ何とか、といったところだ。

 

 山賊の隠れ家に入り込んだら骨董品などもあった。無造作に置かれていたが、さすがに山賊の物とは言え持ち逃げするのは気が引けたのでそっとしておいた。カナンなどは「値打ちものなら持って行け」とうるさかったが、そんなに持ち出したければ自分で持ち運びして下さいと言うと、とたんに黙った。

 

 山の中には行き倒れている人などがいたりもした。見つけると手を合わせたが、カナンは「上等な装備があれば……」などと言って皆から白い目で見られていた。

 

 その後も見張りの山賊を散発的に倒しつつ、ずんずんと奥へと進む。すると開けた場所に出た。切り払われた枝の向こう、森の中にぽっかりと空いた草原の奥に、木を組んで作られた砦が見えた。周りには当然のように柵が張られている。柵に遮られて内部の様子はよくわからないが、外観から判断するに、二階建てでちょっとした宿屋ぐらいの大きさはありそうだ。四、五十人の山賊なら楽に収容できるだろう。柵が高く正面の門もしっかりと閉じられているので何か手立てを考えなければ攻めようがない。

 

(どう考えても数十人はいるよなぁ。一網打尽にする方法は……)

 

「よおし、お前ら行くぞ! 俺様に続くのだ!」

 

 しかしカナンは、何を思ったかいきなり剣を抜いて勇ましく突撃していった。

 

(アホめ)

 

 仕方なく僕達も続いて走り出した。その瞬間。

 

「うわっ」

 

 カナンの姿が地面に吸い込まれたかと思うと、僕達の足下にも突然大きな穴が空いたのだ。どうしようもなく、六人は崩れ落ちる土砂と共に穴に飲み込まれた。こんなの聞いてないよ!?

 

「くっ……。皆、大丈夫か?」

 

 薄暗い穴の中で僕は皆の状態を心配した。

 

「な……、なんとか……」

 

 痛みをこらえるようなテッドの声。

 

「ぼっちゃんこそ、お怪我はありませんか?」

 

 自分よりも僕の身を案じているのはグレミオだ。いつもすまない。

 

「なんてこった……こんな手に引っかかるなんて」

 

 パーンは罠にはまったことを恥じているようだ。

 

「落とし穴……、山賊の仕業か……?」

 

 クレオはいつものように冷静に状況を分析している。

 

「いたたた、くそぅ、早くここから出せっ!!」

 

 そして、少しの間痛みにうめいていたカナン。カナンの言葉につられて五人は上を見上げたが、穴はとても深く、何か道具でもなければ昇れそうにない。ちぇっ、今度からこういう時に対応できる道具を携帯してやる。二度と引っかかると思うなよ。

 

「お、おおおお前ら、ここから脱出する方法を考えんか!!」

 

 カナンはこんな状況にも関わらず元気にわめいている。

 

「そうですね。上が駄目でも横には行けますよ。ほら」

 

 グレミオが即席の松明(たいまつ)を作ってかざすと、自分達の後ろの壁に、高さは成人男性の背丈ぐらい、幅はカナンの太鼓腹ぐらいの横穴が空いていた。

 

「お、おおそうか。もちろん知っていたさ、わはははは」

 

 他に方法がないので、僕達は横穴へと足を踏み入れた。……けどこれってさぁ。誘導されているよね? 松明を持ったグレミオが先、次に体の小さい僕とテッド、その後にクレオとカナン、体の大きいパーンは最後尾になった。湿った土の臭いで満たされた空間をしばらく歩いた頃、グレミオが足を止めた。

 

「大きな空洞があるようですよ。とりあえず出てみますね」

 

 進み出た先にぽっかりとした空間ができていた。一体何があるのかと思ったところ、上の空間から今まで山で戦った兵隊蟻とは比べものにもならない大きさの蟻が飛び出してきた。その体は横穴の直径を上回るほど大きい。

 

「まさか、こんな奴がいるなんて……」

 

 言いながら、僕はぎゅっと棍を握りしめた。知っていた相手だがこうやって出てくるとは思わなかった。そこで、後ろに逃げるという選択肢が残っていることに気づいた。ゲームではないのだからボスだろうと逃げられる。

 

「そうだ。後ろに……」

 

 背後を振り返ったが、そこには兵隊蟻と格闘するパーンの姿があった。

 

「駄目です、ぼっちゃん! こいつら急に!」

 

「いけません、ぼっちゃん。ここはこいつらの罠だったんです!」

 

 クレオの言葉で気づいた。ぽっかりと空いた空間、後方の横穴から一斉にわいて出た兵隊蟻、上から襲いかかってきた恐らく女王蟻。

 

「僕達、まんまと罠にはまったってわけか……」

 

 呟きながら、あの場面がやってきたかと諦め半分、苦渋半分で顔をしかめる。

 

「ど、どどどどうするのだ。お、お前ら何とかしろぉー!」

 

 カナンががなり立てる声がうるさい。考えごとに集中できない。今は状況に最適な作戦を練らなきゃいけないというのに――。

 

その時、クレオが虎の子の火の紋章を使った。

 

「火炎の矢!」

 

 クレオの指し示す手から真っ直ぐ伸びた紋章魔法、“火炎の矢”は女王蟻――クィーンアントに直撃した。それに会わせてテッドも、こちらはただの矢を放つ。だが、クィーンアントはさほどの痛痒も見せず、こちらに前進してきた。

 

「くそっ、なんて強さだ。全く相手にならないぞ」

 

 パーンが珍しく弱気な発言をする。

 

「まずいな。このままじゃ全滅……」

 

 冷静なクレオが絶望的な未来を予想する。

 

「バカもの! な、なにを言っておる。お前ら、俺様を守らんか」

 

「ぼっちゃん、ここは逃げましょう。私が守りますから」

 

 グレミオはそう言うが、とても逃げられるような状況じゃない。それに僕にはグレミオ達を犠牲にして逃げ出すつもりなどなかった。

 

「いや、逃げ切れるかどうか」

 

「どうするのだ!!」

 

 クレオの冷静な声にカナンが噛みついた。

 

 パサ……。

 

 僕の(かたわ)らに、乾いた音を立てて何かが落ちた。地面に目を向けるとそこにはテッドの革手袋が落ちていた。火傷の跡を隠していたはずの革手袋が。

 

「テッド……?」

 

 僕のすぐ傍にテッドは立っていた。何かを決意したような眼をクィーンアントに向けて。

 

「ティル、みんな。下がっていてくれないか。俺に考えがあるんだ。」

 

「何をする気だ!?」

 

「いいから、早く!」

 

 テッドの言葉に従い、後ろに下がりながらテッドの右手を見てしまっていた。当然、火傷の跡なんてそこにはなかった。テッドの手の甲にあったのは、異様な形をした刻印だった。おぼろに揺れる影が大きな鎌を振りかざしたような形に、僕は強い畏怖を覚えた。――あの紋章だ! じっと見ていると刻印に吸い込まれそうだった。

 

「紋章……!?」

 

 僕をかばうように壁に押しつけながら、クレオが呟いた。紋章を体に宿すことで、人は魔法を使えるようになる。しかしテッドの紋章は特別製である。

 

「テッド、よせ! 危ないぞ!」

 

 僕は無意識の内にテッドを止める言葉を放っていた。先の展開はわかっている。わかっているがしかし、直面すると心が痛む。必要なことだとわかっているけれど――!

 

「心配すんなって。任せとけよ。ありがとなティル、心配してくれて」

 

 テッドはそう言ってにこりと笑い、再び敵に向き直った。テッドはその右手をかざすと、呪文を唱えた。

 

「我が身に宿る紋章よ……、その力を示せ!!」

 

 テッドの叫びが穴に反響する。テッドの右腕から真っ黒な何かが、闇としか例えようもないものがほとばしった。闇はテッドに迫っていた敵の足を呑み込んだかと思うと、見る間にクィーンアントにまとわりつく。そして周囲の兵隊蟻も巻き込んで、闇は加速しながら地面へと吸い込まれていった。

 

 闇と共にクィーンアントもまた、消滅した。

 

「ふう……」

 

 静まり返った穴の中で、テッドのため息が小さく反響した。テッドは右手を下ろすと疲れたようにうなだれ、革手袋をはめる。

 

「こ、これは……」

 

 カナンも驚き戸惑っている。

 

「テ、テッド君! 今のは何だったんですか!?」

 

 グレミオがテッドに問いただす。

 

「すいません。今は、説明することはできません。ティル、家に戻ったら話したいことがあるんだ。それまでは聞かないでくれ」

 

「うん……、わかった……」

 

 僕が頷くとテッドはもういつも通りのテッドに戻っていた。僕はその姿を見つつも、やはりこうなったか、と歯噛みしていた。僕が介入しなければ原作通りになる。僕が介入すれば原作が壊れる。どうしろというのだ。

 

「さあ、さあ、早いとこ山賊をやっつけちまって、グレッグミンスターに戻ろうぜ!」

 

 僕達は戦闘の傷を癒すと、再び横穴を進んで行った。

 

「ふーむ、これはクレイズ様の言っていた……」

 

 カナンがぽつりと呟いた言葉が、僕の耳に消えていった。

 

 

     §

 

 

 僕達はようやく見つけた傾斜から、穴を上に昇る。僕はふと、カナンの様子がおかしいことに気づいた。出発前の威勢の良さはどこへいったのか、静かな風体で時々テッドのことをちらちらと見ていた。きっと先ほどのテッドの魔法が気になっているのだろう。

 

「ぼっちゃん、見えましたよ! あれがきっと出口です!」

 

 先に進んでいたグレミオの声に顔を上げると穴の先に確かに光が見えた。

 

「やった! 助かったぞ!!」

 

 喜びのあまり叫んだテッドは、走り出した。その出口から差し込む夕日の下に彼が飛びだそうとした時、

 

「……!!」

 

 テッドは急に足を止め、そのまま出口付近で立ち尽くした。

 

「テッド君、どうしたんだ? 外に出ないのか?」

 

 パーンが不思議そうな声を上げる。振り返った彼は唇に人差し指を当てる「静かにしてくれ!」というポーズを取っていた。後から追いついた僕達四人とカナンは音を立てないように静かに外を見る。

 

「なるほど……、そういうわけですか……」

 

 蟻の巣の出口、つまり今六人がいる場所から少し行った坂の上に、山賊の砦が見えていた。僕達は蟻の巣穴を通って砦の下を抜け、その裏手に出てきたというわけだ。

 

 革袋を探りながらクレオが言う。

 

「ぼっちゃん……。こちらの人数は少なく、先ほどの戦闘で疲れてもいます。薬をつけたとはいえ、パーンらの傷も心配です」

 

「うん。どうしたらいい?」

 

 クレオは冷静な戦士だ。こういう時非常に頼りになる。クレオが革袋から数枚の布きれと油の入った小さな革袋、そして数本の飛刀を取り出した。

 

「こういう時は奇襲が有効です。幸い私達は砦の裏手へ出られました。見張りもいない様子。こちらから火をつけ、山賊どもを混乱させてから攻めるのがいいでしょう」

 

 作戦が決まった。こちらは二手に別れて一組は裏から侵入して山賊共をかき乱す役割。もう一組は正面で待ち伏せて逃げ出す山賊を捕らえる役割。裏から侵入するのは僕、クレオ、カナン。正面の側はパーン、テッド、グレミオだ。

 

 クレオが飛刀とテッドの矢に布を巻きつけ、油を染み込ませる。それにグレミオが火打ち石で火をつける。

 

「じゃあ俺達は正面に回ります。クレオ、ぼっちゃんを頼むぞ」

 

「わかってる」

 

「気をつけて下さいね、ぼっちゃん」

 

 作戦が始まった。テッドとクレオが砦に向けて火を飛ばす。その混乱の中をそれぞれの持ち場に別れ、炎が広がるのを待つ。やがてあちこちで慌てる声が聞こえ始め、砦の中が騒がしくなる。大きくなりつつある喧噪を危機ながら、僕は棍を握りしめた。そして柵の扉が焼け落ちた。

 

「行きますよ!」

 

「よし!」

 

 僕とクレオは草むらをかき分け、同時に走り出した。少し遅れて、実戦向きとは言えない派手な装飾がついた剣を(たずさ)えたカナン。巣穴の出口から斜面を駆け上がり、柵の前に辿り着く。クレオが裏門の残骸を蹴倒して中へと躍り込む。

 

「この野郎!」

 

 剣を振りかぶった山賊が、いきなりクレオに襲いかかった。クレオの体越しに棍を突きだしてそれを防ぐ。僕達二人はそこで前後を入れ替えた。近くの山賊を僕が払いのけ、遠くの山賊をクレオが倒して援護する。カナン? あいつならいつの間にか姿を消していたよ。

 

「ぼっちゃん、中です! 首領を捕らえるんです!」

 

「わかった!」

 

 しかしその時、怒号と共に十数人の山賊が襲いかかってきた。僕は後衛のクレオを孤立させまいと、前に出る。クレオは数瞬、集中すると、紋章魔法を放った。

 

「炎の嵐!!」

 

 クレオから放たれた火炎の渦は、敵の中心に着弾すると轟音と共にその火を四方に広げた。それで大体の片がついた――焼け死んだ。僕はまだ抵抗を続ける山賊を棍で殴って気絶させると、引き続き首領の姿を探した。

 

(僕の棍ならよほど急所に直撃しない限り殺さずにすむ!)

 

 人の物を強奪する山賊。だが命を持った人間でもある。討伐はするがなるべく殺したくはない。

 

 僕は扉を蹴破り向こう側へ出る。するとそこには数人の男と共に装いの違う男がいた。奴が首領だな!? 知識通りのその姿、申し訳ないが倒させてもらう! 棍を握りしめると敵に襲いかかった。

 

「やぁっ!」

 

 棍を振り回し、山賊を打ち倒さんとする。

 

「小僧! この旋風斧(せんぷうおの)のバルカスが相手だ!」

 

 名乗りを上げてきた。やはりこの男がバルカスか。いずれ共に戦うかもしれないバルカス。だが今は敵だ。考える暇もなく、体に似合わず素早い動きでバルカスが近寄り、斧を降り下ろす。負けまいとして僕も棍で応戦する。バルカスの技量は凄まじかった。荒さが感じられるが、熟練の斧さばきで攻撃してくる! 刃をかわしたかと思えば次の攻撃がくる。一瞬も気が抜けない。(うな)りをあげて襲いかかってくる彼の斧は、まさに旋風斧のバルカスと言う名に恥じないものだった。

 

「税金泥棒の帝国軍め、怪我しない内に帰りな!」

 

 くそっ――歯噛みしながら、僕はとっさの思いつきで棍を下げ、頭上を空けた。チャンスとばかりにバルカスが斧を振り上げる。

 

「うりゃあああ!」

 

 バルカスは斧を振り下ろす。それを待っていたんだ!

 

「くっ!」

 

 両手で棍を持ち上げる。受け止めたのは斧の柄だ。僕の目の前で斧の刃が冷たく輝いた。心臓がヒヤリとする。その直後。

 

「ヤッ!!」

 

 掛け声と共に、僕は上半身を大きく反らす。斧の刃が棍に引っかかると踏んでの行動だった。

 

「なに!?」

 

 バルカスの手元にあった斧が、手を離れて宙を舞った。僕は上半身を反らした反動を利用して棍を思い切り降り降ろした。

 

「せやぁっ!」

 

 ガツッと大きな音がして、バルカスの眉間に僕の棍が振り下ろされていた。バルカスはうめき声を上げると、その場に倒れた。

 

「くそっ。帝国の犬ごときに、この俺様が不覚をとるとは」

 

 倒されたバルカスは片膝をついてうめいている。そして戦闘は終わった。正面に回った部隊は遠当てのシドニアと呼ばれる山賊の副首領を相手にしていたらしいが、そちらも三人で問題なく倒せたようだ。良かった。三人なら大丈夫と思ったが、シドニアも倒せたか(殺さなかったか)。ボス敵であるバルカスを問題なく倒せた。これは大きな指針だ。僕の戦闘能力は順調に成長しているようだ。

 

「どうだ、まいったか。ハハハ」

 

 パーンが得意げに笑っている。

 

「ふう。お怪我はありませんか、ぼっちゃん」

 

 グレミオはいつも通り自分の心配をしてくる。

 

「へへへへ、俺様に逆らうからこんなことになるんだぞ」

 

 カナンは何もしていいないのにふんぞり返っている。

 

「自分はなんにもしてないくせに」

 

 クレオが冷静にその事実を告げる。

 

「ようし、山賊どもを引っ捕らえろ」

 

 六人は打ちのめした山賊達に縄をかけていった。

 

「討ちもらした奴もいますけどね。六人でこれだけ捕まえられれば、十分でしょう」

 

「ようし、これでこんな所に用はない! とっとと山を降りるぞ!!」

 

 

     §

 

 

「ふうううううう……あのバカ、降りる時だけは妙に元気だな」

 

 その言葉の通り、山賊退治で疲れた五人に比べ、カナンは一人気を吐いていた。

 

「さあ、お前ら何をしているのだ。ロックランドに凱旋だぞ! はっはっはっはっはっは!!」

 

「ふう。何とか無事戻ってこれましたね。ぼっちゃん」

 

 グレミオのねぎらいに答える。

 

「うん、そうだね。でも僕達の任務は税金のことに関する確認だからね。原因もわかったことだしグレィディに報告するまで気が抜けないよ」

 

「おっと、そうでしたね」

 

 そうだ。山賊は税金の納入を送らせる原因ではあったが、それは任務の本質ではない。今は大人しく捕まっていてくれよ。いずれ必ず助けるからな。僕は自分が打ち倒した山賊にそう思っていた。

 

 

 

「貴様、よくも俺様のピカピカのブーツに泥をつけたな!!!!」

 

 ロックランドに戻ってきた一行はそんな現場に居合わせた。帝国兵が、村の子供を地面に倒して踏みつけていたのだ。しかも話を聞く限り、ブーツを汚したことがその原因らしい。

 

「なんだお前らは? あっちにいけ!」

 

 こんな暴挙を許すわけにはいかない。僕はそんな人間にはならない。僕は自分が帝国近衛隊の一員であることを明かし、近衛隊の肩章を見せる。そして厳重に注意した。

 

「もうこんなことはしちゃ駄目だ」

 

 僕の言葉で可哀相なほどにすくみあがった帝国兵達を道の脇によけると、踏みつけられていた子供を介抱した。

 

「大丈夫かい? 君?」

 

「……お兄ちゃん……。お兄ちゃんは帝国軍の人なの? 違うよね? だってお兄ちゃんは僕をぶたないじゃない」

 

 僕はその言葉に頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。この子にとって帝国兵とは、自分をぶつ怖い人という認識になっているのだ。僕はその子供を迎えに来た親と一緒に帰っていくのを見送ってから、どこか寂しいような気持ちになっていた。自分は帝国にちょっぴり誇らしい気持ちを抱いていた。なのにあの子は――。

 

 僕はうまく感情を整理できない気持ちのまま。ふらふらと軍政官の屋敷に行くのだった。







後書き
 当作品では初めての殺人描写ですね。これを描いてしまうと、後々彼らと溝ができてしまうのではないか? と思われるでしょうね。しこりは多少残るでしょうが、彼らも山賊、命を失うことは覚悟していたでしょう。彼らも、許しはしないかもしれませんが、責めもしないでしょう。きっと。

 ダンジョンや戦闘の説明。おくすりは飲み薬かつ塗り薬という形にしました。あと宝箱の説明ですね。Ⅲで行き倒れポイントという素晴らしいアイデアがあったのでそれを採用しました。まあ今回は山賊の砦ということで物を取りはしませんでしたが。

 クィーンアントとのボス戦闘。山賊の砦に魔物の親玉がいるという不自然な状態を解消するアイデアとして、公式小説で落とし穴トラップという描写があったので採用しました。

 バルカスとの戦闘。シドニアさんはすまないがカットだ。彼の挙動は面倒すぎる。
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