ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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前書き
 今までの拙作を読んでいる方はご承知の通りですが、このSSが初の方もいるでしょうからお知らせして起きます。土日はネットに繋がれません。感想返しは月曜日の朝にまとめておこないます。すみませんがご了承下さい。





第6話 帝都脱出

 雨が、降っていた。体を打ちつける冷たい雨に心まで打たれるような気分だ。この近くには父テオと同じ五将軍のソニアさんとミルイヒさんの屋敷があるが、近衛隊がうろついている現状ではそう簡単に入れてくれないだろう。城門も抜けようとしたのだが、クレイズが手を回したのだろう、検問が張られていた。

 

 そうやってうろつく間も雨が体を打つ。気分が沈んでいく。その気分のまま、僕は宿屋「赤月亭」に行くことを提案した。料理が美味しいと評判の店で、何度か料理だけ食べたこともあり、宿屋の女将マリーさんとは顔なじみだ。この後の彼女を思うと辛かったが(そんなのばっかりだ)、他に頼れる人間がいなかった。僕らは藁にも縋る思いで宿屋に向かった。他に頼れる人は、いなかった。

 

「まあ、まあ、まあ、まあ」

 

 宿屋の入り口をくぐると、そんな声が自分達を迎えてくれた。

 

「誰かと思えば、マクドールさんとこのぼっちゃんじゃないかい? いったい……とにかくこっちへ」

 

 マリーさんは僕達を外から見ることのできない屋根裏部屋に通してくれた。豊かな体躯を白いエプロンで包んだマリーさんは、白いもち肌の頬に柔らかな微笑みを浮かべてこう言った。

 

「まったく、何があったってんだい? 帝国の兵士達は走り回っているし、あんたらは濡れ鼠で逃げてくるし。…………? まあいいさ。話せない訳があるんだろう。大丈夫、しばらくはここにいな。宿代はツケにしといてあげるよ」

 

「かたじけありません」

 

「ありがとう、マリーさん」

 

 グレミオに次いで僕も礼を述べる。バネの飛び出したベッドや、()びた大釜が誇りを被ったまま放置されている屋根裏部屋だったが、とりあえずマリーさんの宿屋に身を隠すことに成功したのだった。

 

 だけど、マリーさんから出されたふかふかのタオルで濡れた体を拭いても、温かい食事をごちそうになっても、僕の心は沈んだままだった。ロックランドでの帝国兵の横暴、賄賂を受け取ったカナン、そして何の罪もないテッドへの仕打ちが思い出される。特に親友のテッドを傷つけられたことは、自分で思う以上に僕の心を苛んでいた。

 

 やっぱり、帝国は――心の中で見切りをつけた。

 

「ぼっちゃん。こうなった以上、しばらくは身を隠した方がいいですね。しかし、こんなことになるとは……」

 

「テオ様のいる北方へ行き、力を借りる以外に帝国に戻る(すべ)はないと思います。今は無事にこのグレッグミンスターを抜け出す方法を考えないと……」

 

 しばらくは身を隠す以外ない、か。沸き上がる鬱憤に耐えきれず、つい口を開く。

 

「グレミオ、クレオ……。帝国はいったい、いつの間にこうなってしまったんだろう。ロックランドのことも、テッドのことも。いつの間に帝国は、こんな酷いことを平気でやるような国になったんだろう」

 

 それは純粋な疑問だった。それとも、はっきりした契機などなく、緩やかに崩れていったのだろうか。

 

「私も同感ですよ。噂には聞いていましたが、まさかこれほどとは……」

 

 グレミオのその言葉に、クレオも続く。

 

「最近になって聞いた話ですと、バルバロッサ様はほとんど政治に触れていないとか。だからクレイズやカナンのような奴らがのさばっているんですよ」

 

「バルバロッサ様が……?」

 

 やはり、そうなのか?

 

「私はそんなこと、信じたくないですけど……」

 

 グレミオが寂しげに言った。

 

「でも帝国に悪政がはびこっている以上、陛下ももう昔の陛下ではないと考えるしかないですね……」

 

 そこで僕らは口を閉ざした。すきま風が吹き込む部屋の中で、僕達は辛い気持ちとしばし戦った。いつまでもそうしていても仕方ないので、話はこれからのことに移った。やはり北方へ出向きテオの力を借りるしかないという結論に至った。国を正すのであれば、将軍であるテオから直に陛下に進言してもらうしかない。

 

(陛下……貴方は未来でこう言うんだ。「自分にとって唯一の過ちだった」と……。たった一人の孤独な皇帝という立場は、辛いのだろう。苦しいのだろう。だけど……貴方はなんてことしてしまったんだ……。こんなにも人々が苦しんでいる……僕は……貴方を助けられそうにない。貴方は……倒されるべき暗君になってしまったんだ。ホントは……ずっとずっと素晴らしい皇帝だったのに……王妃を失ったことが……貴方の心に暗い影を落としてしまったのか……)

 

 僕はマリーさんが運んできてくれた温かい毛布にくるまりながら眠りについた。なかなか寝付けなかったが、それが屋根を叩く雨音のせいなのか、自分が進むべき危険な道のせいなのか、判断がつかなかった。

 

 

     §

 

 

 次の日の朝になった。一晩寝ても、心は全然落ち着かなかった。テッドのことを思う気持ちが、悲しみが張り裂けそうだった。「自分も逃げ切ってみせる」とは言っていたが、紋章をもたないテッドは近衛隊を撃退できない。であるならば、彼はやはり原作通りに……っ! わかっている! 「必要なこと」だってわかっている! だけど!

 

 せめて屋敷だけでも見ておきたかった。屋敷を見ればそこでどの程度の戦闘が行われたかがわかるかもしれないと思ったからだ。それに、あの男と出会うタイミングも逃してはならないと思った。あの男との邂逅は、僕の進むべき道、唯一の光への道標なんだ……。

 

「ぼっちゃん。あんまり、ウロウロしないでくださいね」

 

 とグレミオに言われたが、もう僕の気持ちは決まっていた。二人の目を盗んで棍を手に取り階下に下りる。周囲の人間の注意を引かないよう静かに、ゆっくりとした動作で玄関に向かう。そしてちらと食堂を見る。黄色の服をした熊のような男――やはりいた! なら……。そして玄関の外からざわめきが聞こえた。よし、このタイミングなら――。

 

 玄関の扉を開けようとした時、ちょうど、扉を開けて兵士が入ってきやがった。こうすれば。

 

「い、いてて。なにすんだこの野郎」

 

 どしーんとぶつかった。少しばかり悪い気がする。しかしこれも大事なことだからね。僕は騒ぎが聞こえるように、食堂の方向に引いてみた。

 

「ぶつかりやがって。こーのチビすけがぁ!」

 

 ぶつかったのはお互い様だろ。そう思いつつ顔を伏せる。さすがに顔を見られたらアウトだ。ぶつかったその相手は肩に近衛隊の肩章を光らせている。背後には一人の男、こちらは一般兵だろうか?

 

「んん? その風体……」

 

 疑問の声、しかし……。

 

「大丈夫ですか! ぼっちゃん!」

 

「貴様ら! 何をしている!」

 

 グレミオ、僕の身を案じてくれるのは嬉しいけど、ぼっちゃんはやめようよ。明らかに身分がバレるだろう。

 

「ぼっちゃんだと……、それに貴様らも……」

 

 ああほら、怪しまれている。まあこれは必要なことだからな。

 

「俺達が徹夜でかり出された反逆者の捜索……そのお尋ね者のガキに似ているような」

 

 ピーンチ! 早く来てくれ-!

 

「はいはいはい。そこまでにしときなよ兄ちゃん達。そっちの奴らも武器をしまいな」

 

 目を向けると、軽い感じで声をかけてきた男の姿が。ぼっさぼさ、という形容が似合う髪の毛に無精髭。茶色の革服からにゅっと太い腕が出ている。腰には両手で持つのだろう大剣を()げている。がっしりとした体格で、いかにも「傭兵」という言葉が似合いそうな人物だった。

 

 近衛隊の奴らは突然現れたその男に厳しい視線を向ける。……まあわかる。胡散臭いからなぁこの人(客観視)。

 

「お偉いさんはこれだからいけねぇ。よーく考えてみなよ。お尋ね者になってまだこの辺をうろついているような、んーなマヌケはいないでしょう」

 

 悪かったな、マヌケで。口の中でだけぼそっと呟く。助けてくれるからありがたいけどさ。

 

「やめときなって。ほら、さっきからずっと下を向いたままでしょう? 泣きそうになってるんじゃないですか?」

 

「まあ、な。でも一応……」

 

 ぐす、と鼻をすする真似をしてみる。近衛隊の奴らもさすがにやりすぎかと思ったようだ。

 

「ほらね? こんなガキ共を締め上げたって恥にしかならんでしょう。聞きゃあ徹夜で反逆者捜しだって話じゃないですか。このガキと邪魔な兄ちゃん姉ちゃんは俺が叩き出してやりますよ」

 

 グレミオ、クレオ、と小声でうながし、ちょうどいいので外に出てみようとする。

 

「ふ、ふん。これからはちゃんと前を見て歩け!」

 

 素敵な捨て台詞をありがとう。僕は二人と男、四人連れ立って外に出るのだった。男は「早く消えろ、近衛隊さん達の邪魔すんな」などと言いつつ僕達の尻を蹴飛ばしにかかる。いて、いててっ。くそっ、地味に痛い。この人、体硬いんだよ。

 

「な、なにするんですか」

 

 グレミオは抗議の言葉を言っている。すまないけどここは黙って従ってくれ。

 

 宿屋から出て建物の裏側に回る。確かこの人……。そう思いつつも助けてくれたのでお礼を述べる。

 

「ありがとうございました」

 

「へへへっ、危ないところだったな? お尋ね者のマクドール家のぼっちゃん」

 

「――!」

 

 クレオ達が絶句する。正体に気づいていて助けたのか、と。

 

「ま、困った時はお互い様って言うしな。俺も飯代が払えなくて困ってたんだよ」

 

「め、飯代って……まさか!」

 

 グレミオが宿屋の玄関を見やると、カンカンになって出てきたマリーさん。

 

「宿屋の飯代を踏み倒すダシにしたって訳だね。まあこっちも困っていたからお互い様というなら納得だよ。それと、僕はティル・マクドールって言うんだ。貴方の名前は?」

 

「っ! ……あ、ああ。俺はビクトールってんだ。ただの風来坊さ」

 

 やっと会えたなビクトール。正直言ってグレッグミンスターを出るだけなら、この男の力を借りなくてもなんとかなることはなるのだ。しかしこの男との出会いはこの先の道に繋がる重要なものだ。

 

「ビクトールか、いい名前だね。こっちにいるのは僕の付き人や護衛をしてくれているグレミオとクレオだ。…………それで、唐突で悪いんだけど、僕達は無実の罪をきせられて困っているんだ。何とかこの帝都を脱出したい。もし良ければ協力してくれないかい?」

 

 いきなり無茶を言ってみる。

 

「はぁ!? ぼっちゃん何を……」

 

「ぼ、ぼっちゃん、こんな得体の知れない奴を……」

 

 まあ普通そういう対応だぁね。ああ、原作知識を持っている僕にしてみれば面倒この上ない。まあそれにもこの十数年で慣れたけどね。

 

「…………そっちの二人の言う通りだぜ。俺なんかを簡単に信用しちまっていいのかい?」

 

「貴方は随分と機転がきくようだから、賭けてみる気になったんだ。それに通報はされないと踏んでいる。そうすれば貴方も食い逃げの罪で捕まってしまうだろうからね。それぐらいの保身はあるよ」

 

「……へぇ。こりゃまた驚いた。肝が据わってんなぁ。それに頭の切れも悪くない……ふむ。脱出の手伝いを、ねえ……」

 

 ビクトールは少しの間考えた。だが直感型のこの人らしく、すぐに答えを出してくれた。

 

「よし! いいだろう。力になってやるよ。その代わりと言っちゃあ何だが、こっちにも条件を出させてもらうぜ」

 

「ほら、来ましたよ」

 

 警戒するように、グレミオ。

 

「僕に守れる約束なら守るよ。ただし、この街を脱出してからになるね」

 

「話が早くて助かるな。それじゃあ行こうか」

 

 歩きながら話もしたりする。僕達(もちろんクレオは除外だ)の体を触って、「武器はそんだけかい?」などと言っている。……なぁーるほど。こうしてきたか。

 

「一応この斧だけですけど……何をする気ですか? 騒ぎはごめんですよ」

 

「わかってるって」

 

 そうして城門のすぐ近くまでくると、僕達三人には壁の横に張り付いているように言って、ビクトールは城門で警備をしている兵士のところへすたすたと歩いて行った。

 

「えっ……!?」

 

 グレミオとクレオは驚いた。近衛兵は今まで厳重に門を守っていたというのに、ビクトールと二言三言交わしたかと思ったら、大きく体を伸ばしてのんびりと陽気に当たるかのように、街の中央にある広場へと足を運んだからだ。

 

「行くぞ!」

 

「わかった。行くよ二人共」

 

「あ……はい……」

 

 呆然とする二人を連れてビクトールと合流し、ばたばたと城門を駆け抜けた。無事城外へ脱出。しばらくの間草原を走り、距離をとる。

 

「こんな簡単に城門を通過できるなんてね……一体どんな手を?」

 

 知っているけど尋ねてみる。

 

「なーに。簡単なことさ」

 

 ビクトールは懐に手をやり、革袋を取り出した。左右に振ると硬貨のちゃらちゃらとした音が鳴る。

 

「まさか、それは……」

 

「お察しの通り、賄賂さ。『辛いお役目ごくろーさまです。これは差し入れですよ』――とくりゃあもう兵隊さんはニンマリってなもんよ。帝国も弱者には強いが金には弱い」

 

 ゲームでも印象的だったその台詞をこともなげに言い放つ。

 

「麗しの帝都って言っても実態はこんなもんさ」

 

「まったく、嘆かわしいね……」

 

 クレオが我慢ならないという風にこぼす。と、

 

「だけど、貴方さっき飯代を払えないって……」

 

 抜けているぞグレミオ。

 

「どうしてあんたらが逃げる為の金を俺が用立てなきゃいけねえんだよ?」

 

 呆れたようにそう言う。きっと無防備すぎるので実際呆れているのだろう。

 

「ほら、ちゃんと懐にしまっておきな」

 

「しまってって……ああーー!! これ、私の財布じゃないですかぁ! さてはあの時に!?」

 

 グレミオ……戦いとかは気を張っているのに、普段は使用人で主夫だからなぁ。ちなみに僕は事前に知っていたので決してすられない場所にしまってある。体を触られた時も必要以上に接触しないよう身をよじったし。

 

「さてと、ぼうず。さっきの約束、まさか忘れちゃいないよな?」

 

「ぼうずじゃなくてティルだよ。ビクトール。もちろん覚えているよ。それで? 僕はどこに行けばいいんだい?」

 

「へっ。中々の気風(きっぷ)の良さだな。さすがマクドール家のご子息だ。何、難しいことじゃない。あんたら三人に会って欲しい人がいるのさ」

 

「会う……誰にだい?」

 

 尋ねながらも気ははやっていた。ようやく会える。あの(ヒト)と――。

 

「そいつぁまだ秘密だ。まずはレナンカンプに行こう」

 

 レナンカンプはグレッグミンスターの南西に行った所だ。水路などの整備がなされ、帝都への行商人なども立ち寄る、この地方では規模の大きな街といえよう。

 

「レナンカンプか。料理が美味しくて水もいいと聞いているよ。それじゃあ早速向かおうか」

 

「徒歩の旅になるから、まあ四日ってとこかな。んじゃ行こうぜ」

 

 従者二人は既に行く気満々の主に言葉を挟めないままだ。

 

 そうして僕らは、レナンカンプへ向けて足を進めることとなる。帝都を、背にして。――あの街に戻れる日は、きっと遠いのだろう。だけど――僕は必ずそこに辿り着いてみせる。必ずだ。

 

 僕は一人、心の中で決意を固めるのだった。







後書き
 幻想水滸伝シリーズは結構な本数の作品が存在しますが、私はそれに順列を付けるのが好きじゃありません。そりゃあⅠは好きですけれど、「Ⅰが一番」とか、「Ⅱが最高傑作」とか「Ⅳは他と比べて駄目」って意見を聞くと、それは違うんじゃないかなぁ、と思うのが私です。私はシリーズ全作好きです。どれも違った面白さがあるし、楽しめました。ゲームなんだから全てを楽しめた方がお得だと思うんですよね。だから順列付けは好きじゃないです。
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