ゲーム小説 幻想水滸伝   作:月影57令

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第8話 サラディ

 ロックランドについたぞと。さて、どうやって軍政官の屋敷に忍び込んだものか、と話していると、ビクトールが自分に任せろーバリバリと言ったので(嘘)、任せることにした。

 

 パチパチパチ……。

 

 木が燃える音がする。グレィディの屋敷は燃えていた。

 

「な、何をしたんですかビクトールさん」

 

「へっへっへ。いやぁ最近は空気が乾燥してるからなぁ。そのせいじゃねえの」

 

「な、なんてことを、こんな人の真似をしたら駄目ですからね! ぼっちゃん!」

 

 言われなくても真似なぞしないよ。さて混乱している屋敷に入りますかね。

 

「アチチ、火傷しそうだぜ」

 

 火に近づくなよ、ビクトール。さて、屋敷を進む訳だが、原作のように宝箱なんてものはない。机とかを探せばお金があったりするのかも知れないが、そんな真似はしない。ひたすらにズンズンと進むだけだ。軍政官の屋敷なので当然のように帝国兵がいる。僕は積極的に棍を振るった。クレオの飛刀に火の紋章。ビクトールの大剣、グレミオの斧では殺してしまう。できるだけ人死には避けたかった。それが悪政を敷く帝国の兵士でも。

 

 そうして屋敷の外庭に出た。二人の首領が磔にされている。

 

「う、うぅん……目が霞んできやがった……うーむ」

 

 ああ、バルカスがもう限界だ。磔にされている十字の木から下ろしてやらねば。俺達はロープを切って体を下ろしてやった。

 

「あ! て、てめえらはあの時の帝国……!」

 

「私達もグレィディにだまされていたんですよ。税金を納めないのが貴方達のせいだとね」

 

 とグレミオ。

 

「今じゃあんた達と同じお尋ね者さ、今助けてやるよ」

 

 冷静に、クレオ。

 

「裁判もなしに処刑するなんて、法に違反しています。僕達を許せないかもしれないけど、助けさせて下さい」

 

「……ありがてえ、相棒の方も頼む」

 

 シドニアの方も縄を解こうとして、

 

「ふっ、その必要はない」

 

 しゅんっと瞬間移動――誇張ではなく本物だ――したシドニアは、縄から抜け出して地面に着地した。紋章じゃないよね? いったいどうやっているんだろう? 謎だ。

 

「てめえシドニア! そんな真似ができるなら、なんで最初からっ」

 

「俺一人だけ逃げる訳にはいかんだろう? 見張りもいたしな」

 

「シドニア……」

 

 この二人の関係もよくわからないな。壮年のバルカスに若者のシドニア。どういった経緯でコンビを組むことになったのか。

 

「さあ、それじゃあ脱出しましょう」

 

 屋敷の中を歩きながら、山賊の一人が解放軍のアジトに来たこと、自分達も偶然解放軍に招かれていたことを話した。脱出したら解放軍に恩義を感じてくれと言っておく。と、グレィディだ。

 

「き、き、き、きさまら~~!! 許さんぞ。山賊を解放した上に、その上、その上、私の屋敷に火を~~!!」

 

「ほう、どう許さねえってんだい?」

 

「帝国を欺いて山賊に罪を着せたんです。棍の錆びにしてやりましょうかね」

 

 税金を隠匿して帝国を欺きやがったのだ。この野郎は。

 

「ふっ、俺は八つ裂きでいい」

 

「んじゃ俺は目ん玉くりぬいてやろうかい!」

 

 僕とバルカス・シドニアコンビが脅す。

 

「えっ、あっ、いや、その…………覚えてろよ~~~~!」

 

 グレィディの奴は脱兎の如く逃げ出した。殺すまでもない。あいつが人の上に立つことなどこの先ないだろう。放っておくことにした。屋敷を脱出し、街の外に出る。

 

「今回は助かったぜ。オデッサ様にはよろしく言っといてくれ。何かあったら山賊のバルカスが駆けつけますってな」

 

「ふっ」

 

「確かに承りました」

 

 そう言って二人とは別れた。それはそうとして貴方は一々「ふっ」と言わないと死ぬのか、シドニア。

 

「ぼっちゃん……私達、本当に帝国へ戻れるんでしょうか……」

 

「はっはっは。心配すんな。人間、生きていこうと思やなんとでもなる」

 

 憂慮するグレミオを独特ななだめ方をするビクトール。

 

「ぼっちゃん、レナンカンプについたら一度しっかり考えましょう。そうでないと、このままでは……」

 

「わかったよ、クレオ」

 

 まあ考えなんて決まっているんだけどね。さて、これにて山賊の救出は終わりだ。またレナンカンプへ戻ろう。

 

 

     §

 

 

 レナンカンプ。すぐさま宿に入りアジトへ降りる。と、

 

「ティル! 良かった。無事戻ったのね。これで懸念が解消されたわ」

 

「って、ちょっと待ってくれオデッサ。それじゃあまさか……」

 

「ええ、貴方の想像通りよ、フリック」

 

 自分達を放って繰り広げられる会話。

 

「どういうことですか?」

 

 三人を代表して聞く。

 

「これを見て」

 

 ばさっと広げられた、それは何かの設計図だった。白い紙に書き込まれた線や文字が綺麗な形を描いている。

 

「これは?」

 

「これは武器、火炎槍(かえんそう)の設計図よ」

 

「んん? 何です? 私にも見せて下さい」

 

 首を伸ばすグレミオ。

 

「今は小康状態を保っている私達だけれど、いつか必ず帝国と真正面から戦うときがくるわ。これはその時の為の切り札なのよ。これがあれば帝国とも渡り合える」

 

 火炎槍か、ついにこれがきたな。本格的な解放運動への参加だ。

 

「ドワーフから高い値段で苦労して買い取ったんですよ」

 

 頭に右手を当てながら、サンチェスさん。財政の切り盛りとか大変なんだろうなぁ。

 

「……そんな武器が」

 

 新たな武器に対して脅威を感じるクレオ。

 

「だけどこれはただの設計図。だから、この設計図を解放軍の秘密工場に届けなければいけないわ。橋を渡った先の虎狼山を越えて、サラディの村に行く必要があるわ。それを貴方達に頼みたいの」

 

「――! じょ、冗談じゃないですよ! どうしてぼっちゃんがそんなことをしなければいけないんですか!? これ以上帝国に仇なす行為はできません! 行きましょうぼっちゃん」

 

 グレミオが僕の腕を掴んで後方に引っ張る。強引にアジトから出すつもりか。

 

「待って! グレミオさん。貴方だって、帝国が横暴を働くのを見てきたでしょう。帝国に苦しめられる人を見てきたはずよ。その目で、その耳で、感じてきたはずよ」

 

 ピタリ、とグレミオの動きが止まる。

 

「それなのに、貴方は自分の見たものに蓋をするの? ティル、貴方はどう? いつまでもマクドール家のお坊ちゃんでいたい?」

 

 ……煽るなぁ。しかしその通りだ。僕はこの目で見た、聞いた、感じたんだ。帝国が横暴を働くその姿を。

 

「父は父、僕は僕だ。僕の進む道は僕が決める。オデッサさん。その役目、僕が引き受けます」

 

「ぼっちゃん!?」

 

「グレミオ。これ以上は僕も強制はしない。僕についてきたいと思うならそうすればいい。だけどこれ以上付き合いきれないと感じたなら、一人ででも北の地へ行って父さんに会えばいい。クレオもだ。したいようにしていいんだ。人は、自由なんだから」

 

 僕はグレミオの手をぐいっと引き離すと、テーブルに近づく。

 

「この設計図をサラディまで届ければいいんですね?」

 

「……ええ、そうよ。……ありがとう、ティル。決心してくれて」

 

「…………しかしなぁ。オデッサ、どうしてそこまでそんな奴を信用するんだ? 帝国のスパイかも知れないんだぜ」

 

 フリックさんが当然の疑問を呈す。そこに、

 

「大丈夫よ。今回は私も同行するもの」

 

 爆弾発言が落とされた。

 

「なっ何ィ! 君が行くなら俺も……」

 

「貴方までいなくなったら誰がこのアジトを守るの。いい加減貴方にも副リーダーとしても自覚を持って欲しいわね」

 

「心配するなよフリック。オデッサは俺が守るさ。あんたはアジトを守ってくれ」

 

 ビクトールがぐっと右拳を握って掲げる。だけど君、原作だと守れてないじゃないか、と突っ込みたい。非常に突っ込みたい。

 

「僕も、決して裏切らずにこの任をこなして、オデッサさんを危険から守ります。信用してもらうのは無理かも知れませんが、精一杯やってみます」

 

「じゃあ、出発ね」

 

 オデッサさんは瞳を爛々と輝かせた。さて、この道行きではそれほど大きな出来事はないと思うが、予想外のことだって充分起こりうるのだ。油断せずにことに当たろう。

 

 

     §

 

 

 レナンカンプの道具屋で旅装を調え、早速出発だ。結局グレミオとクレオの二人はついてきてくれることになった。クレオは

 

「私の役目はぼっちゃんをお守りすることです。どこまででもついて行きますよ」

 

 と嬉しいことを言ってくれた。

 

 なので、オデッサさんとビクトールを含めた五人で旅に出る。まずは川沿いに移動して橋を渡り、お次は虎狼山だ。ここにはスライムのようなはいよるねんえきや、カットバニーという刃物を持った兎、マイマイと呼ばれるカタツムリのような魔物が出る。これが結構強敵だ。

 

「眠りの風!」

 

 オデッサさんは右手に風の紋章を宿している。なので、それも使ってもらう。敵を眠らせる風魔法だ。眠らせた後は手に持った武器でぼかぼかとやりあう。打撃ではねんえきにはダメージが通りにくいので、クレオの火の紋章やビクトールとグレミオの斬撃が効果ありだ。ちなみにオデッサさんの武器は鉄の弓である。

 

 魔物との戦い以上に、山を登るのって結構疲労するんだよね。まあ僕は鍛えているからある程度は平気だけど。仲間達がかなり堪えた辺りで宿を見つけた。建物の前の一人のおかっぱ頭をしている男が。

 

「おっと、旅人の皆さん、よければ宿に寄っていきませんか?」

 

「ちょうどいい、俺は脚がもう棒みたいになっちまってるんだ。ああ、脚が勝手に……」

 

 つかつかと宿に向かうビクトール。

 

「おや、気が合いますね。私もこれ以上はもう……」

 

 ここでも選択肢が出るはずだが、意味はない。どちらを選んだにしろ、宿に泊まることになるからだ。自分以外の仲間がみな賛成するのだから、反対しても意味はない。

 

「オデッサさん、クレオ、どうかな? 今夜はここで一泊していくっていうのは」

 

「まったく、しょうのない男どもだね。オデッサ、あんたの脚も勝手に動いたりするのかい?」

 

「ふふ、実を言うと私の脚も勝手に動いて休みたがっているわ」

 

 ということで宿に泊まることに。主人の名前はルドンだ。こいつも後で……。

 

 それなりのもてなしとして出された食事に舌鼓を打ちつつ、食後に出されるお茶を手に取る。なるほど、食事で安心させておいてお茶でそうする訳ね。理にかなっている。

 

「さ、さ、どうぞ」

 

 ここでも選択肢がでるが、飲むのを断っても無限ループするんだったか。どうするか? うぅん。現実として対処するなら皆に飲ませず、ルドンをとっちめるのがいいのだろうが。いきなり「怪しいから主人、お前が飲んでみろ」とか言うのも不自然だしなぁ。仕方ない、飲むか。覚悟を決めて飲む……フリをする。ホントには飲まない。茶碗を傾けるだけだ。

 

「うぅっ。苦いですよ」

 

 子供じゃないんだから黙って飲みなさいグレミオ。

 

「ひょい、このお茶ふぁ……な、なにをのまへたんら!」

 

 毒にやられてろれつが回っていないビクトール、と皆。

 

「ふ、ふはく、こんなふぇにひっははるなんへ」

 

「ぼっひゃーーーん!」

 

 そして気を失う皆。僕も気絶した演技をしますかね。

 

「ひへへ、ぐっすりおねんねだぜ。…………と、旅の一行って割に持っていやがったな。これならしばらくは暮らせそうだぜ」

 

 いや、真っ当に宿屋をやれよ。

 

「よう、儲かってるか、ルドン」

 

「これはケスラーの兄貴」

 

 つぶらな瞳をしたケスラーがやってきた。この虎狼山で山賊の頭目をしているんだったか。

 

「ふぅん。中々の上玉までいるじゃあねえか……………………あ!」

 

 気づいたか。

 

「お、おいルドン。お前誰になんてことしやがる!」

 

「誰って、まぬけな旅人」

 

「あのなぁ! お前だって解放軍を率いてるオデッサ様のことは知ってるだろ!」

 

「やだなぁ親分。オデッサ様のことならそこいらのガキでも知って……え? まさか」

 

 その後、二人はわたわたと騒いで解毒薬を調合し、全員に飲ませた。僕はまた飲むフリをしたが。解毒薬といえど薬、毒薬を飲んでいない状態で飲んだらどうなるかわからないからな。

 

 そうして介抱された後にちゃんとしたお茶を出され、それを飲んでその日は寝た。

 

「ひ、ひでぇめにあった」

 

 用心しないからそうなるんだよ、ビクトール。

 

 

     §

 

 

「あんたも解放軍なのか? ……そうか、違うのか。オデッサ様は凄いお方だ。帝国の圧政に苦しむ人間は多いが、本気で帝国をひっくり返してやろうと考える人間は少ない。それを本当にやろうとしているのだからな」

 

 とケスラー。

 

「いやぁ。毒入り茶はもうこりごりですよ。今後はちゃんとした宿屋をやるつもりです」

 

 と宿屋の主人、ルドン。

 

 二人との会話もすませたし、宿屋を出てサラディを目指そう。しかし、

 

「…………」

 

 クレオは相変わらず寝起きが悪いな。それにしても……、

 

「…………ふわぁ……良く寝たわ」

 

 まさかオデッサさんが本当に歯軋りするとは。いや、ゲームで知っていたからそこまで衝撃ではなかったけどさ。それでも実際に聞くとこう、クるものがあった。美人の歯軋り……。

 

 さて、気を取り直してサラディへ。

 

 

 

 山をえっさらほいさと越えて平地に出た。その少し先に村はあった。

 

「ここで使者と落ち合う予定よ。とりあえず宿に泊まりましょう。小さい村だから探せばすぐ見つかるはずよ」

 

 その言葉通り、宿屋は簡単に見つかった。なので、そこでまた休むことに。山越えの疲れもあり、みな早々に寝入ってしまった。だが僕は起きていた。今夜はここで……。と、オデッサさんが起き上がって宿の外、デッキに出た。僕もなるべく音を立てずに出てみる。

 

「あら……ティル」

 

「眠れないんですか? オデッサさん」

 

「ええ……ティル、少しだけ、私の話を聞いてくれるかしら」

 

「なんですか?」

 

 表情を緩めながら答える。

 

「私も……眠れない夜を過ごすことがあるわ。でも、夜風に当たっていると、ほんのちょっぴり心が癒される。……そんな気がするの」

 

「少しだけ……わかるような気がします。グレッグミンスターの屋敷にいる時、僕も将来を思ってそんな夜を過ごしました」

 

 表向きは将軍の息子ということで。裏、本当はこの世界と自分を襲う悲劇などについて考えると、そんな夜を何度も耐えるはめになった。離れ離れになった父さんとテッドを思う。

 

「山で会ったケスラー。それにフリック、ハンフリー、サンチェス。皆がね、私に期待してくれているの。でもね、私は、弱い私はそこから逃げ出してしまいたくなる時があるの」

 

 木々がざわめく。風が出てきたな……。僕は黙ってオデッサさんの言葉に耳を傾ける。

 

「彼らの大きすぎる期待に、私で応えられるか、とね。……貴方は、これからどうしていくの? 本当は帝国に戻りたいんじゃない?」

 

 本心では赤月帝国に忠誠も帰順もしていないしするつもりはない。だけどここで、「ボク解放軍に入って頑張るヨ!」なんて言うのは軽すぎる。不審に思われるだけだろう。だから無難な言葉を返した。

 

「わかりません。自分がどう進めばいいか……」

 

 ふと、父さんの顔が浮かぶ。僕を育ててくれた厳しくも優しい父。大きな手で撫でられた感触……。

 

「なら、考えることよ。貴方なら正しいことを選び取れる。そう思うわ。貴方の父親は帝国の大将軍ですもの。上手くいけば平穏な暮らしに戻ることができるかもしれないわ。でもね、覚えておいて。貴方は貴方の見たもの、感じたものから目を背けることはできないのよ。それをするのは、あまりにも、罪深いことだから……」

 

 オデッサさんは噛みしめるようにそう言った。

 

「……はい。逃げるつもりはありません」

 

 ずっと、思っていたことだ。この世界に生まれてから。ずっと。僕は――

 

「帝国が、世界が間違っているなら、僕は世界に立ち向かうつもりです。この身一つで、立ち向かってやるまでですよ」

 

「…………」

 

 オデッサさんは僕を見て目を(みは)った。ぱちぱちとまぶたをしばたたかせる。

 

「そう……強い、のね……」

 

 それは違う。

 

「違います。僕はとても弱いんです。でも、僕が生きる為には、立ち向かっていくしかないんですよ。――反抗するしかないんですよ」

 

 それしか生きる道がない。それでしか生きられない。そうするしかこの世界で生存することを許されていないんだ。……僕は。

 

「…………」

 

「……そう言えば、一つだけ、お聞きしたいことがあったんです。聞いて、いいですか?」

 

「……え、ええ。何かしら」

 

「貴方は……どうして、解放軍を発足したんですか。何故、帝国に反逆を?」

 

 僕がずっと思っていた女性、オデッサさんの戦う理由。大好きな世界だけど、知らないことはある。描かれなかったこと、わからないことは、知ることができないのだ。せっかくの機会なので聞いて起きたかった。この世界に芽吹いた反逆の芽――それはどうして?

 

「……あまり吹聴することではないのだけれど、聞きたいなら教えてあげるわ。……私には、昔、恋人がいたの……」

 

 確かにそういう話だったよね。でもそれがどう影響しているのか。

 

 そこから、オデッサさんの昔語りが始まった。しかしやはり聞くべきではなかったのかもしれない。僕が、やすやすと踏み入っていい問題ではなかった。だけどもう聞いてしまったから……。

 

 彼女は元々、帝国の貴族だった。それは知っていた。シルバーバーグだもんね。そして帝国の悪政が始まった数年前、彼女はレジスタンス組織に協力している貴族と一緒に暮らしていた。しかしことが明らかになり、罪を問われる時がきた。恋人は囚われの身となり、死刑が宣告された。刑を宣告された者は、最後に一つだけ願いを聞いてもらえる。…………まるで、死者としてこの世界に転生した自分のようだ、と僕は思った。とにかく、その最後の願いで、結婚式を執り行うことになったのだ。

 

 願いは聞き届けられたが、あまりにも酷いものだったらしい。席の両側に武装した近衛兵、誓いの言葉は死刑台の前で行うように、というような仕打ちだった。そして式が終わると同時に刑が執行される。オデッサさんは誓いの言葉、最後の言葉を交わした瞬間に、近くにいた兵士の剣を奪い、それを振るった。純白のドレスは紅に染まったという。混乱に乗じて脱出しようとした二人ではあったが、近衛隊の弓矢に射られて恋人は命を落とした。……命を失ったのか。では原作の彼女は……彼女の最期は……あまりに、あまりにも酷いじゃないか……そんな……そんなの……。

 

 そうして近衛隊に刃を向けたオデッサさんは反逆者として扱われることになった。

 

「……でもね? ティル……私は自分の恨みだけで帝国と戦っているのではないわ。人は、自分の為だけには、それほど頑張れないものよ。私はその後も色んな街を巡ったわ。やっぱり、国に苦しめられる人々を見てきた……。……………………私はね、過去は、もうどうやっても取り戻せないものだと思うわ。だけど、未来は違う。皆が、これから生きていく子供達が笑って暮らせる世の中にしたいの。だからね」

 

「もう……もう、いいです。オデッサさん……聞きたいことは、全てわかりましたから……」

 

 オデッサは、辛気くさいことを聞かせてごめんね、などと言ったが、僕は自分の身がつまされる思いだった。

 

「貴方は不思議な人ね……自然と口が動いちゃった。貴方といると優しい気持ちになれる……ビクトールも、案外そんなところを見抜いて連れてきたのかもね。解放軍にも多くの人がいるわ。サンチェス、ハンフリー、モース。そして……フリック」

 

 恋仲であるフリックはやはり別枠か。

 

「でも……貴方のような、人を惹きつけるような目をした人は、いない。多くの人々を……惹きつけるような……ねぇ、もし私が……」

 

 そこまで言った時だった。ガサガサっと近くの茂みが揺れた。

 

「誰だっ!」

 

 僕は棍を構えてオデッサさんの前に立つ。もはや、原作なら大丈夫だから、という気持ちは消えていた。すすすっと進み出て来たのは忍者装束に身を包んだ男だった。

 

「それがし、カゲと申します。秘密工場の長であるモースどのから使者として送られてきました」

 

 そこで少しのやりとりが行われる。オデッサさんは本当にモースの知己かどうか試すような言葉を言い、カゲを見定めた。その結果、間違いなく使者だと判明したので、火炎槍の設計図を渡すことになった。契約中は決して契約主を裏切らないというカゲ。

 

 確かこの人があれの設計図も盗み出したりするんだよな。それがあの事件に繋がる訳だが……残念なこと、僕にはカゲを長期間拘束できるほどのお金は持ち合わせていない。し、いきなりここで長期間契約したいとか言い出すのも変だ。何故そんなことを言い出すの? とオデッサさんに不審がられるだろう。それに確かに今現在解放軍に雇われている彼だ。ここで雇うと言い出すのは契約の重複だ。それと、カゲはあくまで手足、手段でしかないのだ。大本の頭、指示を出すあの将軍を止めないことにはどうしようもない。仮にここでカゲを拘束できたとしても、あの将軍をなんとかしないと別の忍者などを雇われるだけだろう。……仕方、ないのか。……また、見捨てるのか。くそぅ。

 

「これで任務は終了ですね。オデッサさんも疲れたでしょうから、眠りましょう」

 

 そう言って、僕達は床についた。もう僕の気持ちは決まっていた。昔から決めていたこと、それに身を投じる覚悟が生まれたのだ。

 

 僕は、そうしてサラディでの大切な夜を過ごした。






後書き
 オデッサの過去は捏造や独自設定などではなく、公式小説で語られていることです。製作者にチェックを受けているので、公式の設定ととらえていいでしょう。それ以外の書籍でも書かれていることですしね。
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