しかし、そんな彼女に世界は無慈悲だった。悲劇の果てに何が!?
儚い命だった。流れるように時は過ぎて、私の生涯は幕を閉じた。理不尽で、不条理で、それでもこの命が誰かの役に立っていたのだとしたら、何も悔いはない。
私は施設生まれ、施設育ちの世間知らずな女の子。たくさんの仲間に囲まれて幸せな日々を過ごしています。
何一つ不自由なことはなく、友達と共にする時間はとても充実していて楽しいものだ。
しかし、大人になると私たちは施設を出ていかなければいけないのです。
私はそんなのイヤだ。いつまでもみんなと楽しく暮らしていきたかった。
そんな心とは裏腹に、体は日に日に成長していきました。
年上の子たちが、どんどん外の世界に旅立っていきます。そんな景色を眺めていると、私も少しずつ外の世界に興味がわくようになっていました。
外の世界はどんな広さなんだろう、どんな景色なんだろう、どんな匂いがして、どんな生き物がいるんだろう。
大人になったら全部わかるのかな?知りたい。この目で確かめてみたい。大人になるのが待ち遠しい。早く大人になりたいなぁ。
いつしか私はそんな期待に胸を膨らませるようになっていました。
……文字通り最近だんだん胸が膨らんできました。ムム。恥ずかしい……。大人になっていく証なのかな?少し重くて疲れます。
瞬く間に時は流れ、ついに私もその日がやってきました。施設に別れを告げる日です。
大人になったほかの子たちと一緒に育った施設から外の世界に羽ばたきます。
名残惜しそうに、育ててくれたおじさんが手を振ってくれました。
と、ふいに、意識が……。
……あれ?ここはどこだろう。意識が朦朧として視界がぼやけます。
あたりを見渡すとほかのみんなは眠っています。
生まれてからずっと施設で生活していたからか、目の前にあるものが何なのかさえ、私には理解できません。
何やら騒々しい音がします。おっきな何かがガチョン、ガチョンと動いています。
きゃっ、ちょっと、そんな乱暴しないでよっ!デリカシーないなぁ、プンプン。えっ?どこ触ってっ、嫌ぁ。
軽々と私の体は持ち上げられ、(お姫様抱っこというやつだろうか)何やら台に乗せられた。
ガゴン、という音とともに周りの景色が流れ始めます。何これスゴイ。
それにしても、一体ここはどこなんでしょう。いまだに分かりません。
「ねえ、いったいここはどこなのですー?」
私の前に乗せられている幼なじみのジョン君に尋ねてみます。
「知るもんか、大人になるための場所なんじゃないのか?」
う~ん。物知りのジョン君でもわからないみたいです。お手上げだ。
その時。
嫌ぁ、と悲鳴が聞こえました。
前方を覗き込むと、色気たっぷり自慢のマチルダさんではありませんか!
剥かれるもの剥かれて素っ裸で、目のやり場に困ります……って!そうじゃなくて。
何で裸にされているんですか、非道いです。
あ、意地っ張りなレイ君も、温和なミレイナさんも、みんな生まれたままの姿にされてしまっています。
どうして?これも大人になるには必要なことなんでしょうか?
みんな嫌がっているのに。
私の番が来ました。あっ、あああ。
尊厳も誇りも一緒に、乱暴に脱がされていきます。
そんな私の屈辱も知らずに「大人になる場所」はどんどん私たちを運んでいきます。
あっ!前方のみんなが、今度は逆さに吊られ始めました。足をすくわれ、どんどん宙吊りになっていきます。
頭を下にして、プラプラとぶら下がって、その先には長いトンネルのようなものが見えてきています。
流れは緩やかなカーブを描き、お友達がトンネルを通過していく様子が、はっきりと見えるようになりました。
そして、そして、先頭の子がトンネルをくぐりました。
スパァンという音がしました。続いてどんどんみんながトンネルに入っていきます。
スパァンスパァンスパァン。一定のリズムを刻んでいきます。
なんだかとてもいやらしい音……。
そしてトンネルを潜り抜けてきた私の仲間たちは、 ――頭がありませんでした。誰が誰だかもう区別がつきません。みんなおんなじ感じに見えます。
何で頭がないんだろう。大人には頭部は必要ないのかな? 大人になる証? そうだよね、うん、きっとそうだ。
って、いやいや、そんな訳あるか。みんなもう動いてないじゃないですか。
え?てことはもう ―――――――死んでる?
ええ!?ウソ、だって、えっ、何それいやだいやだ私あれ大人になってそれでそれで外の世界でいっぱいあのなんかいろいろその楽しいこと?してそれでそれでうんえっとえっと
逃げなきゃ? 逃げなきゃ!? 逃げなきゃ!! あるぇー?変だなぁ、体が思うように動かないや。
ああうあうやばいやばいえっちょまっウソウソウソなんであれトンネルくぐるだけであんなに血が出てっああああ。
待って待って、一回ストップ。ウェイウェイウェイ、説明無いの?あの、ちょっと説明 あれ?嘘!?嘘嘘足っ足吊らないでよエッチエッチエッチ!
きゃっ、やだやだ、頭に血が上るんですが!?
私の世界がぐるんと反転します。
私は逆さで吊られたまま運ばれていきます。
……なあんだそうか。頭に血が上るなら、頭をとっちゃえばいいんだ。そういうことかぁ。ホッ。
―――――――なあんて。
本当はわかってるんです。私ここで死ぬんですよね?短い命だったなぁ。しょうがないや。ぜんぶ神様が決めたことです。もうこの世に未練なんて、なんてっ……嘘。やっぱりいやだよ、まだ、死にたくないよぅ。もっと生きていたいよぉ。まだまだやり残したこといっぱいあるんだからぁっ。ズズッ。やめて、殺さないでぇうっうっ。
でも……、殺されなきゃいけないってことは私の命は有意義に使われるってことなんですよね?きっと誰かの役に立つんですよね?私の命でほかの誰かが救われるのだとしたら、―――――――それならちょっとだけ、本当にちょっとだけ、私の命を差し上げても、いいかなぁって、気もするのでスパァン。
某国、某所。
「ママー、この肉なに?不味いよぉ~」
「あら、ごめんなさい。マー君「鶏肉」苦手だったわね。いいわ、もう捨てちゃいましょう」
「ママー、黒毛和牛~」
「はいはい、マー君の好きな黒毛和牛でちゅよ~」
ドサッ。ドサッ。乱雑にゴミ箱へと放り込まれたそれは、無機質な音を立てて沈黙した。
完