全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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戦闘以外はそんな変わらず
カブトの出番はAIMバーストに持ち越し

出来はいつものなのでお察し

誤字脱字とか見かけたら報告をば



#8 マジョリティリポート

少しだけ時間は遡る

 

幻想御手(レベルアッパー)?」

「あぁ。なんでも、そいつを使用することで、自分の能力の強度(レベル)をあげられるらしい」

 

伽藍の堂内部にて

ソファに腰掛けながら深々と帽子被った男性がコーヒーを飲みながら翔に向かってそう言った

翔は驚きながら

 

「れ、レベルあげるってそんなのあるんですか!?」

「まだ信憑性は薄いが、上がるという話だ」

「で、でもでも、実際あったらすごくないですか!? だって、レベル上がるんですよ! ついに能力者に―――」

「そう言って、痛い目見たのはだれだっけ?」

 

言葉を遮りながら一人の少女がコーヒーをお盆にのせて運んでくる

彼女の名前はアリステラ

とある事件で帽子の男に翔ともども助けられた女の子である

 

「どうぞ。はい、翔も」

「ありがとう、アリスくん。彼女の言うとおりだ、君、先日それで痛い目みただろう」

「…はい。け、けど、それでアリスに会えましたし、ね」

「…調子いいんだから」

 

そう言ってアリスはお盆と自分の口元を隠し、若干頬を染める

仲が良くてなによりであります

えぇ、嫉妬なんてしていませんとも

ノロケやがってとか思っていません

 

「とにかく、よかったら君の出来うる限りで情報を集めてくれると助かる。頼めるか?」

「わかりました。そんなわけで行こう、アリス」

「え? あ、うん。橙子さん、ちょっと出てきます」

 

アリスは橙子にそう言って「あぁ」という短い橙子の返事を聞いたあと、翔と一緒に伽藍の堂の外に出ていった

彼らが出て行って、しばしの沈黙

そしてくっくと漏れ出す橙子の声

それは笑いを噛み締めている声

やがて耐え切れなくなったのか大きな声で笑いだした

 

「おい、笑うなそこの人形師!」

 

帽子を剥ぎ取ってアラタが突っ込んだ

橙子は腹を抱えながら

 

「これが笑わずにいられるか! 同じ歳の男に対して同じ歳の男が必死にキャラ作って演技してるんだ! これを笑わずいつ笑う!」

「知っとるわ! なんで自分でもこんな変なキャラにしたのか未だに迷ってんだよ!」

 

ソファに改めて腰を下ろしながら、はぁ、と思いっきりため息を吐く

自分でもなんでこんなキャラにしてしまったのか

おかげでいつも気軽に入れた伽藍の堂にタイミング見計らわないと入れなくなってしまった

何してんだあの時の自分

 

「はぁ、とりあえず、俺も出るよ。いろいろ調べないといけないしね」

「あぁ。ま、無理はするなよ。倒れてしまっては元も子もないからな」

「わかってるって」

 

◇◇◇

 

そんなことをふと思い出した炎天下

ハッとする

 

炎天下の中、三人は木山を待っていた

今頃はここの院長と専門家にしかわからない話をしてる頃だろう

 

L字型の椅子に腰掛けて待ってはいる結構時間がかかっている

美琴に至ってはぐっすりと眠ってしまっているくらいだ

普段見せない彼女の姿から繰り出される寝顔は破壊力がある

 

「…しっかし、暑いなぁ」

「そうですわねぇ。…ふぃ~」

 

黒子はそう言いながら手をパタパタさせ、人口手団扇を展開する

しかしこの病院はなんでエアコンを起動させていないのだろう

メンテナンスでもしているのだろうか

 

「…黒子、なんか飲み物奢ってやる。何がいい?」

「あら。ではお言葉に甘えて…ていうかお茶でいいですのー」

 

この際三人ともお茶でいいだろう

純粋に今は水分を身体が欲している

アラタは椅子から立ち上がってすぐ近くにある自販機に歩み寄ると小銭を投入し、何気なく右側の通路を見た

視線の先には話が終わったのかこちらに向かって手をポケットに突っこんで歩いてくる木山春生の姿が見えた

 

「黒子、木山さんが来た。美琴を起こしてくれ」

「了解ですの。お姉様、起きてください、お姉様」

 

そう言ってゆさゆさ、と出来るだけ優しく揺する

しかし意外に眠りは深いらしく軽く揺すった程度では起きそうにない

 

「お姉様、おねえ…さま」

 

唐突に黒子の口元がにへら、と歪んだ

その声色は明らかによからぬことを考えているときのもの

黒子の狙い、それは美琴の唇だ

未だ誰にも穢されていない、柔肌―――

そうだ、普通に起こしても起きないお姉様が悪いのだ

黒子は自分にそう言い聞かせ目覚めのキスをするべく自分の唇を美琴の唇へと―――

 

「…にゃ」

 

間一髪で美琴が覚醒

そして自分の身に何が起こるかを瞬時に先読みした彼女は勢いよく立ち上がるとごちんっ! と黒子の頭にゲンコツをブチ当てる

殴った右手を握りしめながら美琴は言う

 

「普通に起こせないの!?」

「起きなかったではありませんのー…」

「…自業自得だよ。ほら、お茶」

 

先ほど購入した缶のお茶を二人に手渡しながらアラタは呟く

まぁ今回は普通に起こしても起きなかった美琴も多少は悪いかもだが

 

「君たち…まだ残っていたのか?」

「あ、いや…。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

 

頭をさすりながらその場を代表して黒子が聞いた

 

 

「…それにしても暑いな。ここは真夏日でも冷房を効かさないのか…」

「まぁ…確かに暑いですけど…別に耐えれないってわけじゃ」

 

その時この病院の看護婦さんがきゅらきゅらと何かを押しながらその疑問に応えるように

 

「現在、機械系統のメンテナンス途中でして、エアコン等の機材は使用できないんです。申し訳ありません」

 

そのままからからと通り過ぎていく看護婦さん

木山は「そうか」と呟きながらネクタイを緩め始めた

その行動の意味は分かりきっていた

唯一、そしてこれが初見な黒子は木山の取った行動の意味が分からず「ふぇ?」と素っ頓狂な声を上げる

 

「あ、あんたは見るな!」

「あだだ!?」

 

若干顔を赤くしながら美琴は両手を使ってアラタの両目を圧迫するように押し当てる

意外にも手の圧迫は眼球にダメージがあり、結構痛い

本気でやられたらしばらく目が見えなくなりそうだ

 

「ななな!!? 何をいきなりストリップ、もとい脱衣しておられますの!!?」

 

一般人の正しいリアクション

しかし木山はさも当然、と言わんばかりに

 

「いや…だって暑いから」

 

やっぱり理由になってない

 

「殿方の眼がありますの!!」

「下着つけてても?」

「ダメです!!」

 

そう言われて少ししょんぼりとする木山春生

…この人には羞恥心という概念がどこかに抜け落ちているのではないだろうか

 

「…木山先生、専門家として、一つご意見を伺いたいんですが…」

 

そう言って美琴はアラタの両目から手を放す

ようやく目の圧迫から解放されたアラタは少し目をぱちぱちさせるアラタ

…うん、大丈夫、見えてる見えてる

 

「…それは構わないが…ここは暑すぎる…」

 

どこまでもマイペースなお人だ

 

◇◇◇

 

「遅いなぁ佐天さん」

 

そう言いながら初春は先ほどメールを貰った携帯を開いて時刻を確認する

そんな何気ない確認をした直後である

 

「今日は青のストライプかー!」

 

佐天の強襲である

全くためらいなくどうして彼女は友人のスカートをめくることができるのか

 

とりあえずせめてもの抵抗として初春はポカポカと佐天を叩くのだった

 

 

一通り落ち着いて

初春はさっそく本題の事を聞き始めた

 

「見せたいものってなんですか? 佐天さん」

 

初春にそう聞かれた佐天はふっふっふ、と不敵な笑みと共に

 

「よくぞ聞いてくれました…。…括目しなさいっ!!」

「へ!?」

 

いきなり声を大きくした佐天に初春は軽く驚いた

佐天はそこでくるくると回りながら

 

「ついに見つけたの! あの噂のアイテム!」

 

次第に佐天はスケートリンクの選手のように初春の周りを移動しながらやがて初春の正面に移動し、そして

 

「じゃじゃーん!!」

 

と佐天は音楽プレーヤーを突き出した

そんなテンション高めな佐天に初春は見たままの感想をもらす

 

「…音楽プレーヤー、ですよね?」

 

見たまんまな感想である

いつも彼女が聞いている音楽プレーヤーそのままだ

しかし佐天はちっちっち、と舌を鳴らしながら

 

「中身が問題なのよね~」

 

やけに勿体ぶった様子で佐天は初春の前を歩く

そして振り返って

 

「あとで、教えてあげるっ」

 

そこにはいつもの佐天の笑顔があった

 

◇◇◇

 

ところ変わってファミレス〝Joseph's〟

ここは冷房完備なパーフェクトなお店である

そこにファミリー席に陣取り、木山は両手を組んで

 

「さて、話しの続きだが。なぜ同程度の露出でも下着は駄目で水着は問題ないのか…」

「それは是非私も議論したわばっ!?」

 

思いっきり美琴にぶん殴られた

グーであるグー

流石に生身にグーは痛い

 

 

話を戻して、本題である

 

幻想御手(レベルアッパー)、か…」

 

黒子からその話を聞いた木山はふむ、と小さく息を吐いた

眼の下に隈ははあれど考えるその姿はまさに研究者、と言ったところか

 

「それはどういったシステムなんだ? 形状は? どうやって使用する?」

「…まだ分かっていないんです。…こちらから聞いておきながらお恥ずかしい限りですが」

 

からん、と飲み物に入れたままのストローが揺れたのを聞きながらアラタはそれに返答する

正直に言って昏睡の原因は不明

今回の事だって半ば縋るような思いで木山博士に聞きに来たのだ

 

「とにかく君らはその幻想御手(レベルアッパー)とやらが、昏睡に関係しているのでは、と。そう考えているわけなのだな?」

 

木山の問いに三人はうん、とそれにしっかりと頷いた

仮にそれが原因であるならそれを取り締まる事が出来れば被害を少なくすることができるかもしれない

 

「で、そんな話をなぜ私に」

「能力を成長させるということは、脳に干渉するシステムであることが高いと思われますの。ですから、もし幻想御手(レベルアッパー)が見つかったら専門家である先生に調べてもらいたいんですの」

 

黒子はまっすぐ木山の眼を見ながらそう告げる

仮にこちらで幻想御手(レベルアッパー)を確保できたとしても正直調査などできないだろう

だからこういう場合は専門家の力を仰いだ方が効率がいいと判断したのだ

ちなみその時窓の方からなんかガラスになんか引っ付いた音が聞こえたような気がしたがあんまり気づきはしなかった

 

「…むしろこちらから協力をお願いしたいね。大脳生理学者として、興味がある。…ところで、さっきから気になっていたんだが」

 

そう言いながら木山は窓の方へ視線を動かす

 

「あの子たちは知り合いかね?」

 

釣られてアラタたちもその窓の方へと首を動かした

視線の先には手をべったりとガラスに引っ付けてこちらを笑顔で見ている佐天の姿が

その少し後ろには申し訳なそうに苦笑いしている初春もいた

 

 

店内へ彼女たちが移動中

 

 

そんなわけで初春佐天が合流

木山側に初春佐天、その対面にアラタ、黒子、美琴

席の順は初春が端(窓側)で佐天が中央、その右(通路側)に木山が座っている位置だ

その対面での席順は黒子(窓側)、美琴(中央)、アラタ(通路側)という位置である

 

「へぇ~…脳学者さんなんですか~…。…はっ!! 白井さんの脳に何か問題がっ!?」

 

どうでもいいが最近初春の黒子に対する言い分が少し過激になってきたなぁ。と思う

そんな初春に対し黒子は若干イラッとした様子で

 

幻想御手(レベルアッパー)について話していましたの」

 

幻想御手(レベルアッパー)、という単語を聞いてプリンを食べていた佐天はその手をいったん止めて

 

「あ、それなら―――」

 

「アラタや黒子が言うには、幻想御手(レベルアッパー)の所有者を、保護するんだって」

 

え、と佐天の手が止まる

そんな何気ない仕草に気づくものはおらず、純粋に疑問を抱いた初春が質問する

 

「まだ調査中ですので、はっきりとは言えませんが…使用者に副作用が出る可能性がありますの」

「おまけに強度(レベル)が上がったからって調子に乗って犯罪に手を染める連中もいる始末だ。困ったよ本当に」

 

別に二人は佐天の事を言っているわけではないだろう

ただ、風紀委員(ジャッジメント)としての仕事から言っているだけで、悪気があるわけでもない

それでも何故だか自分が言われているような錯覚に襲われる

 

「? 佐天さん、どうかしました?」

「あっ、い、いや、別に―――」

 

驚いた拍子に自分の近くに置いてあったコップに手が当たってしまいコップが倒れて中身を木山のストッキングにぶちまけてしまった

 

「あ」

「あぁ!? すいませんっ!!」

「あぁ、大丈夫だ―――」

 

しかし佐天は予期していなかった

その後に木山がとる行動を

それを予期していた美琴は再び両手をアラタの両目に押し当てる

だが問題ない、今度は受ける直前目を閉じたから軽傷だ

 

「―――濡れたのはストッキングだけだから…脱いでしまえば…」

 

いそいそとスカートを脱いだかと思うと今度はストッキングを脱ぎ始める木山

その艶めかしい素足はとれもきれいなものがある

そんな光景を見て初春は顔を真っ赤にし、美琴は目をつむって小さくため息を吐く

 

DAKARA(だから)っ!! 人前で脱ぐなといってますでしょうがええ!!?」

 

そんな中入る黒子の一喝

けれどやっぱり木山はポカンとしながら

 

「しかし…起伏に乏しい私の身体を見て劣情を催す男性なんて…」

「趣味嗜好は人それぞれですのっ!! それに殿方でなくとも、歪んだ情欲を抱く同性もいますのよ!! ねぇ!!」

 

何故だろうか

黒子が言うと無駄に説得力がある

 

 

「忙しい中付き合って下って感謝しています」

 

そう言ってアラタが軽く一礼する

それに合わせて黒子と初春も腰を曲げる

 

「いや。私も教鞭を振るっていたころを思い出して楽しかったよ」

「木山さん、教師を?」

 

何気ない問いに頷くと

 

「あぁ。…むかぁし、ね」

 

そう言った時の表情はなんだか寂しいものがあった

軽く手を挙げて歩き去る木山を見送りながら黒子が呟く

その言い方にどこか含みがあったような気もするが、その時は気にならなかった

 

「一度、支部に戻らなければなりませんわね」

「木山先生に渡すデータも揃えないといけませんしね」

「あぁ、そうだな。…それじゃ俺たちはいったん戻る。美琴は…」

 

振り返ったとき、なぜか美琴はいなかった

いや、なんとなく行き先はわかってた

同様にいなくなったもう一人を追っかけていったんだろう

不思議に思う黒子と初春を連れながら情報を整理すべく、アラタは一七七支部へと歩を進めた

 

◇◇◇

 

手放したくない

 

それが佐天涙子が思った率直な思いだった

ようやく手に入れた幻想御手(レベルアッパー)

まだ使用したわけではないし、黙っていれば問題ないはずだ

大きな橋を支える柱に背中を預けながら佐天は音楽プレーヤーを握りしめた

 

「やっと見つけたんだもん…」

 

ようやく見つけた一縷な望み

無能力者(レベル0)と断定されてからも消えなかった憧れ

ズルはいけない、わかっているけど、それでも縋るしかなかった

 

「こんなところで、女性一人は危険だよ」

 

だから不意に聞こえたその声にビクリ、とした

聞いたことない声色にビクビクしながら佐天は声の方へと視線をやる

そこにはアラタと同い年くらいの青年が立っていた

 

「あ、貴方は…?」

「ああ。いきなりでごめんね、俺は右京翔」

 

そう言いながら彼はこちらに向かって歩いてくる

腕章がないのを見る限り彼は風紀委員ではなさそうだ

 

「ここは夜間よく不良たちが(たむろ)しているからさ。そんな中に入っていく貴方を見て、気になって、ね」

 

どうやら善意で彼はここに来てくれたようだ

きっとこの人は何気ない相談事でも全力で向き合ってくれるような人なのだろう

 

「佐天さーん」

 

もう一つ聞こえたその声色は美琴のものだった

佐天は振り返ってその声に応える

 

「御坂さん…どうして…」

「だって急にいなくなるんだもん…。あれ、この人は…」

「あ、ごめん、俺右京翔って言って―――」

 

そう言って彼はここに来た経緯を軽く話す

美琴は一瞬ナンパの類かとも疑ったが、見た感じそんな勇気はなさそうだ

 

「…それはそうと、心配してたのよ、佐天さん。急にいなくなるから」

 

不意にこちらに振ってきたものだから佐天は驚きながら

 

「な、何でもないですよ!!」

「でも―――」

「ほ、ほら! あたし、事件と関係ないじゃないですかっ!」

 

佐天は無理に笑顔を作り、ポケットにその音楽プレーヤーをしまいながらその手を出し

 

「風紀委員じゃないし!」

 

その拍子にポケットから何かがポロリと落ちた

それは赤をベースに桜の花びらのような模様が刺繍されたお守りだ

 

「何か落ちたよ?」

 

右京がお守りを拾い上げ、佐天に手渡した

佐天はそれを受け取りながら「ありがとうございます」と礼を言う

 

「それ、いつもカバンに下げてるやつでしょ?」

「はは…えぇ、そうなんです」

 

人差し指に紐を通しぷらん、と掲げ苦笑いを浮かべる

 

「母に、貰ったんです」

 

ぷらん、と掲げたそのお守りを見ながら佐天は言葉を続ける

家族の事を馳せながら

 

「お守りなんて。科学的根拠、何にもないのに…」

 

佐天は思い出す

自分が学園都市に行くといった時の事

 

弟はそんな自分をカッコいいと言ってくれたし、母は最後まで心配してくれていたこと、そんな母を笑って励ます父

表面上は笑ってごまかしていたが本当は怖かった

 

超能力開発

すなわちそれは自分の頭の中をいじられるというものだ

超能力に期待すると同時に、能力開発に対する恐怖も当然あった

そんな事を言い出せず、佐天は一人公園のブランコで黄昏ていたそんな時

 

―――はい、お守り―――

 

母がお守りをくれたのだ

ヒカガクテキ、と言葉を口にしながらも心の中は嬉しさで一杯だった

 

―――何かあったらすぐ戻ってきていいんだからね? 私は、涙子が一番大事なんだから―――

 

「…こんなもので、身を守れるわけないですよね?」

 

お守りを両手で握りしめながらまた苦笑いを浮かべる

本当に、迷信深い人なのだから

 

「…いいお母さんじゃない」

「そうだよ。とってもいいお母さんだ」

 

美琴と右京、それぞれが口にする言葉

もちろん、それはわかっている

このお守りをくれた事が、自分を気遣ってくれたということを

 

「…けど、そんな期待が、重い時もあるんですよ。…いつまで経っても、無能力者(レベル0)のままだし」

 

自分はそんな母の期待を裏切ってしまった

心配してまでお守りを渡してくれたのに、結果は、貴方は無能力者(レベルゼロ)ですの文字

右京は言葉を探しながら、自分なりの励ましを考えているのだろうか

それより先に美琴が口を紡いだ

 

「レベルなんて、どうでもいいことじゃない」

 

そう言われて、苦い顔をする

その言葉は―――能力者だから言えるのだ―――

内心そんな言葉を、毒づきながら

 

◇◇◇

 

翌日の事である

パソコンの前でにらめっこする初春に足してアラタが「どうだ?」と聞いた

聞かれた初春は「うーん」と首をかしげながら

 

「暗号や仲間の中でしか使われない言葉ばっかりで、正直何とも言えないですけど、幻想御手(レベルアッパー)の取引場所に 使われているであろう場所をいくつか見つけました」

 

「さっすが初春ですの!」

 

初春はカタカタとパソコンを操作し取引場所をリストに纏め、プリントアウトしたものをそれぞれ黒子とアラタに手渡した

それを受け取った二人はその瞬間顔を歪ませる

 

「…多すぎる」「全くですわ…」

 

言葉にするのも億劫な場所の量である

しかしそれでも動かなければ始まらない

黒子とアラタは頷いて支部の出口へと歩き出す

 

「白井さん、アラタさん―――」

 

何も言わずに出口に向かう二人を呼び止める

二人は振り向いて

 

「この中に必ずあるんでしょう?」

「なら虱潰(しらみつぶ)しに当たるまでだ」

 

そう言って二人は笑む

その笑みに初春も笑みで返した

これならきっと、問題ない

そう信じて

 

 

「ではお兄様、後程」

「あぁ。黒子も無理しないようにな」

 

言葉を交わして黒子は空間転移(テレポート)で姿を消す

先ほど黒子がいた空間を見ながらアラタは手元にあるリストを見た

 

「んー…しっかし、やっぱ多いな」

 

しかし初春にああいった手前退けない

というか退く気もない

とはいえ流石に徒歩で行くとなると疲れる

ここは自分の移動の為の足が必要だ

 

「…とりあえず、橙子んとこの近くの取引場所を潰しながらバイク取りに行きますか」

「やっほー、アーラタさーん」

 

リストを折りたたんでポケットに突っ込んで歩き出したその瞬間、視界に入ってきた人がいた

腰まで伸びた長い髪の持ち主をアラタは知っている

 

「…神那賀」

 

ひらひらと手を振りながら彼女はこちらに向かって歩いてくる

やがて自分の前に来た彼女は

 

「これからお仕事?」

「まぁそんなとこ。お前はなんだ」

「私はただ歩いてただけ、なんだけど」

 

少しだけ声を低くして神那賀はこちらを伺うかのような声色になった

彼女はテクテクと持っている紙を覗き込むようにアラタの隣に移動して

 

「? なんだ?」

「私も手伝っちゃダメかな? 幻想御手(レベルアッパー)の事」

 

◇◇◇

 

幻想御手(レベルアッパー)、かぁ」

 

最初聞いたとき流石にそれは噂だろう、と心の中で何度思ったことか

無論仮面ライダーの噂も最初は疑ったが、のちにネットにアップされた動画でその存在を信じることが出来た

しかし幻想御手(レベルアッパー)はどうか

証拠がある仮面ライダーとは違い、証拠があるわけでもない

 

「…無能力者(わたし)でも能力者になれる、夢のようなアイテム」

 

だから見つけた時は本当に好奇心だった

これを使えばこんな自分でも無能力者じゃなくなる

母からの期待に応えることができる

そう簡単に考えていた自分の幻想は昨日、いとも簡単に砕かれた

 

「…得体のしれないものは怖いし、よくないよね…」

 

そう自分に言い聞かせながら形態のディスプレイに表示された〝消去しますか?〟の文字に指を這わそうと

 

―――幻想御手(レベルアッパー)! 譲ってくれるんじゃなかったのか!?―――

 

そんな時耳に入ってきた別の声

驚きのあまりその動作をやめ、「え…?」と短く声を漏らした

 

 

声の聞こえた方に佐天は足を運んだ

そこには一方的に一人の男を殴っている数人の男

 

取引現場―――!?

 

佐天は本能で察し、急いで物陰に隠れる

少し音が聞こえてしまった気がするが、それより先に身体を隠すことができたからきっと問題ないはずだ

 

(とりあえず、警備員か、風紀委員か…)

 

内心で呟きながら佐天は急いで携帯に視線を移す

しかしそこには充電してください、と無情にも表示されたディスプレイ

 

(やば、充電切れ!?)

 

万策尽きた

どうしようか、と考える

しかし正直言ってもう自分にできることは何もないのだ

 

連中はいかにもな男たちが三人

こちらに至っては最近まで小学生をしていたのだ

適う訳ない

適う訳ない、が―――

 

 

「やめなさいよ!」

 

逃亡か、挑むか

佐天涙子は後者を選んだ

なし崩しの勇気を振り絞り、佐天は言葉を振り上げる

 

「その、人、怪我、してるみたいだし、すぐに警備員が―――」

 

その言葉が最後まで紡がれることはなかった

リーダー格と思われる男が佐天のすぐ後ろの壁を蹴りを打ち込んだからだ

バガン!! と音が鳴り響き、佐天は思わず頭を押さえる

 

「今、なんつった?」

 

歯並びが悪いその男が佐天に向かってそういった

 

「…え?―――きゃあ!?」

 

男は佐天のむんずと掴みあげ、

 

「ガキのくせに生意気いってくれるじゃねえか。あ?」

 

男は続ける

 

「なんも力もない奴が、グダグダ指図する権利はねぇんだよ」

 

「―――!!!」

 

…あぁ、やっぱりそうなんだ…

力もない自分が、出しゃばる事なんか―――

 

 

「ちょっと待てよ」

 

 

そんな絶望も切り裂くように一人の男の声が耳に響いてきた

 

 

「―――浅ましい連中だな。恥ずかしくないのかよ」

 

 

佐天は声色で判断する

 

(う、きょう、さん…?)

 

「調べ物してるとき、なんか騒がしいから来てみれば。こんなとこにもゲスはいるんだね」

 

傍らには女の子がおり、やれやれといった様子で首を振る

数で言えば圧倒的に右京たちが不利だ

 

「けっ!! 何かと思えばよぉ…」

 

男の一人がにやにやと笑いながら右京に近づいていく

 

「優男が一匹増えただけじゃねぇか」

 

そう言って男は右京の胸ぐらをつかみあげる

彼はつかみがかってきたその腕を掴み返し―――

 

「喧しぃんだよ」

「はぁ!? 何言ってんだこの野―――」

 

ぷぎゃる!!? と男の声が響いた

情けない声を上げながら仰向けにぶっ倒れた男の口元からは若干の血が流れている

言葉の途中で右京が本気のアッパーカットを叩き込んだために恐らく唇を切ったのだろう

 

「アンタらと話すことなんてない。それはそうと、幻想御手(レベルアッパー)について何か知ってるなら、洗いざらい吐いてもらう」

 

言葉が終わると同時、また別の男が右京に向かって走ってくる

走りながら男は右京から見て右側に避けた

その直後後ろから鉄パイプやら何やらがこちらに向かって飛んできていた

 

「念動能力!? 下がっててアリス!」

 

しかしひるむことなく右京は傍らの女の子―――アリスを守るように前に走り出す

一直線で向かってきた一人の男のパンチを回避し、右京はその男に組み付いて、その男を盾にした

ぶっ飛んでくる鉄パイプやらが壁にしている男に全部ぶち当たる

 

「な!?」

「しゃぁおぅらぁぁぁぁ!」

 

一瞬ためらったその隙に盾にしていた男を放って、念動能力使いの男に一気に接近する

そしてみぞおちに一発、ごふっと息を吐き出しているさなか、さらに頭を掴んで一気に引き寄せ膝で顔面を追い打ちする

完全に意識を刈り取った

 

「なんだ、能力なしかお前」

「そんなインチキで手に入れるんなら、なにもない方がマシだね」

 

くっくっく、とリーダー格は笑い

 

「あっそ」

 

<DRACULA>

 

おもむろに取り出したメモリを起動させる

その行動に右京とアリスは目を見開いた

 

「お前、そのメモリまで…」

「力がすべてなんだよこの世はよぉ」

 

汚い歯並びから繰り出される言葉の後、露出した二の腕にガイアメモリを差し込んだ

差し込んだところを起点にし、リーダー格の男が変わっていく

その姿はまるで西洋の吸血鬼みたいな風貌だ

 

「…そうか。だったら俺も容赦しない」

 

徐に右京は妙なドライバーを取り出した

それを腰に巻きつけると、女の子の方にもそのドライバーが顕現する

 

「ねぇ、そこの貴女」

「え、は、はい!? 私、ですか?」

 

唐突に呼ばれた佐天は驚きながらも返答する

女の子は笑みを浮かべて

 

「ちょっと私の体、お願いしていいかな?」

「えっ?」

 

<CYCLONE><JOKER>

 

二人はそれぞれメモリを取り出して起動させる

そして同時に、Wの文字を彷彿とさせるように己の腕を動かした

 

『変身』

 

先に女の子の方がメモリを入れる

するとそのメモリは男性の方のドライバーに転移し、右京はそれを押し込み、反対側に自分が持っていたメモリを差し込み、それを開いた

 

<CYCLONE JOKER>

 

けたたましい音楽とともに風が吹き荒れる

風とともに彼の体が変わっていき、同時に倒れる女の子の体を彼は抱きとめた

 

<…やっぱり私外に出ない方がいいかもねぇ>

「ぼやいても仕方ない。行くぜアリス」

 

彼は意識を失ってる彼女をお姫様抱っこすると一度跳躍して佐天の所へと移動した

そしてアリスを佐天へと一度預ける

預けられた女の子を抱きとめつつ、佐天は彼に向かって呟いた

 

「…仮面、ライダー?」

 

まさか昨日知り合ったばかりの人が都市伝説の人だったとは誰が思っただろうか

 

「へぇ…噂の仮面ライダーをぶっ潰せるとは…今日はラッキーだなぁ!」

 

ドラキュラドーパントがダブルに向かって走ってくる

しかしどういう訳かその姿は一回り大きく見えた

しかし些細な事と切り捨てたダブルは大振りに放たれたその拳はいなし、ドラキュラドーパントの背後に回って反撃を繰り出そうと―――

 

「あれ」

 

振り返ってみるとそこには何もなかった

ただあるのは先ほど自分がノックアウトした野郎二人だけだ

どういう事だ、自問自答する中、背後からの足音

 

「っ!?」

 

瞬時に判断し大きく放たれた蹴りを振り向きざま両手で防ぐ

何が起こった?

思考はまだ追いついていない

 

(今確かに回り込んだ。なのに…!)

 

同じように攻撃を仕掛けようとしてもこっちの攻撃が思ったところに当たらない

蹴りを外れるし拳は空を切るし、どうなっているんだ

ドラキュラドーパントはそのままダブルに向かって直進し両手にあるその鋭利な爪を向ける

ダブルはその一撃を避け、大きく後ろに飛び退いた

 

<…少し身を犠牲にしようよ、カケル>

「あぁ、だな」

 

そう呟いて、ダブルは一度身構える

ドラキュラドーパントが一直線に突っ込んでくる

そしてそのままの勢いで大きく蹴りを放つ

予想ルートは上段

だから左手でそれを受け止めようとした

しかしその蹴りはがら空きの腰にぶち当たった

 

「うぐっ!?」

 

結構キツい痛みが体を襲う

生身なら肋を持って行かれたか

 

「ちっ。んだよ結構タフだなぁおまえ」

 

そんな言葉と共にドラキュラは気味悪い笑みを浮かべる

ゆっくりとダブルは息を整え

 

「読めたぜ。アンタの能力」

「…へぇ?」

<君の能力。それはただの目くらまし>

 

軽く体を動かしながら、ダブルはドラキュラドーパントに対して言い放った

 

<多分周囲の光を歪ませて、相手の視覚情報を誤らせるんだ。ぴったりだね、君と>

「っへ…偏光能力(トリックアート)ってんだけどよ。だからって何が出来んだ。…自分の眼しか頼れない雑魚がいきがってんじゃねぇって」

「頼るものなら、あるさ」

 

ダブルはそう言いながらドライバーのメモリを引き抜き、また別のメモリを取り出した

青と黄色のメモリを同時に起動させる

 

<LUNA><TRIGGER>

 

そしてそれを改めてドライバーにセットし直して開いた

 

<LUNA TRIGGER>

 

サウンドとともにダブルのカラーリングが変わっていく

緑色が黄色に、黒色が青色へと

左手にマグナムを握り締め、その銃口はドラキュラへと向けられる

ルナトリガーとなったダブルは引き金を引いた

 

ドラキュラは特に気にした素振りもなく、悠然と歩いていた

当たることなどないと思っていたから

しかし、背後からの衝撃に倒れこむ

 

「な、なんだよ!?」

「はぁ!」

 

ルナトリガーはさらに引き金を引く

放たれた弾丸は自在に放物線を描き、その尽くがドラキュラにヒットしていく

弾丸はまだ止まらない、確実にダメージを稼いでいく

 

「おい、どういうことだ! なんでその弾が当たりやがる!?」

<言う必要はないわね>

「あぁ。ブレイクだ」

 

そうアリスの声が聞こえ、ダブルはマグナムを開き、青いメモリをそれにセットする

 

<TRIGGER MAXIMUMDRIVE>

 

電子音声の後に、ゆっくりとその銃口をドラキュラへと突きつける

ドラキュラは焦りながら付近にいた佐天へと視線を向けた

考えていることは容易に想像できる

だから先に先手を放つことにした

 

「はっ!」

 

幻想の力を宿すルナサイドの手を伸ばし、ドラキュラを襟首(?)を掴み上げた

焦っていたからか能力は発動しておらず、思いのほか簡単につかみあげることができた

そして軽くこっちに引っ張って、体制を崩す

 

―――これで決まりだ

 

「<トリガーフルバースト!>」

 

放たれた黄色と青色の追尾弾

それらは体制を崩したドラキュラドーパントに襲い掛かり、その全てが直撃する

ドラキュラは叫び声を上げながらその場で爆散し、その場には使用した男と砕け散ったメモリが残っていた

 

 

「大丈夫? 佐天さん」

 

駆け付けた警備員にすべてを任せた後、右京は佐天に向かってそう言った

佐天は苦笑いを浮かべながらあはは、と乾いた笑いを浮かべる

 

「…すいません、迷惑、かけちゃって。…力のない私が、誰かを助けようだなんて―――」

「それは違うよ、佐天さん」

 

佐天の言葉を右京が遮る

彼の瞳は、いつになく真面目だった

 

「確かに、この学園都市で強度(レベル)は大事だよ。…だけど、もっと大切なことがあると思うんだ」

「右京、さん…」

幻想御手(レベルアッパー)で能力が使えるようになったら、そのときは嬉しいかも知れない。だけどそれのせいで、君に何かあったら、たくさんの人が悲しむよ」

「…とも、だち…」

 

―――もう少しで、自分はもっと大切なモノを失うところだったのだろうか

脳裏に浮かぶ、家族の事、初春の事、黒子の事、美琴の事…そしてアラタの事

そうだ、思ってくれる人が、私にはたくさんいるじゃないか

どうしてこんな簡単なことに気が付けなかったんだろう

 

「…ありがとうございます。右京さん。それと、えっと…」

「アリステラ。アリスでもステラでも、好きに呼んで」

「は、はいっ。えっと、じゃあ…アリス、さん?」

「うん♪」

 

彼女はそう言って微笑みを浮かべる

改めて佐天は二人に対してお辞儀する

顔を上げた佐天の表情(カオ)は良い笑顔となっていた

 

「本当にありがとうございます。…私、もっと自分を誇れるように頑張ってみます」

「あぁ。できるよ、絶対」

「応援してるよ、佐天さん」

 

そんな笑顔に二人も同じように笑顔で返した

 

 

さしあたっては自分の持つ幻想御手(レベルアッパー)について誰かに説明しなければならない

何らかの副作用があるならやっぱりこれは危険なものだ

しかし今携帯の充電は切れているのでここは公衆電話を使わなければいけなさそうだ

 

よし、と一人決意した佐天は走り出した

もう自分は無能力者であることを悲観しない

力がないからなんだというのだ

 

そう思える佐天の足取りはいつも以上に軽かった

軽快に走る背中を右京とアリステラは見えなくなるまで見送って

 

「…いい友人持ってるね、彼女」

「うん。俺たちも情報集めて、伽藍の堂に行こう」

 

そう言葉を紡ぎながら、彼らもまたどこかへと歩き出す

これ以上、幻想御手(レベルアッパー)による被害を増やさないために

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