全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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一部展開の変更
今回はそれだけ

あとは大体いつもどおり

誤字脱字見かけましたらご連絡をば


#EX ある女の子の結末

周囲を見渡して一つ息を整える

思えばここに来るまで気づくような点はあったんだ

誰ともすれ違っていない道とか誰も出入りしないコンビニとか

ただあまりにも自然すぎて気づくのが遅れただけ

 

アラタはキョロキョロと首を動かす

これが魔術の類ならおそらくここら一体はその魔術の効果を受けているだろう

そしてこんな効果に絡まれそうな知人は―――

 

「…当麻…インデックス…」

 

先日赤毛バーコードに襲われたのは誰だったか

そしてその襲われた女の子を守ろうと全力で奮起したのは誰だ―――!

 

思い立ったが吉日、アラタは走り出していた

幸いにもここの道路は一直線、このまま走ればすぐに当麻かインデックス、どちらかとエンカウントするはず―――

 

ドンっ!! と唐突に聞こえたその大きな音に足は止まった

 

撃たれたとも錯覚するほどの衝撃に耐えながら音の聞こえた方向、つまりは自分の後ろを見る

視線の先では闇に染まった夜が夕焼けのような色に焼かれるのが見えた

その正体は炎

恐らく自分の背後のいるのは先日のバーコード神父だ

一瞬どっちに走るか本気で迷った

しかし万が一、まっすぐ行っても収穫がなかったらと想定すると正直恐ろしい

だからアラタは敵が分かっている方へと足を進める

無事でいてくれ、と願いながら

 

 

どうしよう、とインデックスは頭の中で思考を回転させていた

少し考えれば分かる事だったはずだ

当麻と一緒に、大きいお風呂に入って小萌が教えてくれたコーヒー牛乳というものを飲んで、ありふれた、それでいて楽しい会話をして一日を過ごすはずだったのに

小さい意地がそれを邪魔してしまった

自分は魔術師に狙われているのに

彼を、当麻を一人にするべきではなかったのだ

 

「…魔女狩りの王(イノケンティウス)

 

目の前の赤い髪の魔術師が呟くと彼の隣に顕現された炎の化け物が動き始める

どうしようか、とインデックスは考える

ひとまずこの魔術師から逃げて何とかして逃げ延びて当麻と合流しなければ

幸いにもここまでの道のりは覚えているし、どうにかしてこの魔術師を撒くことが出来れば―――

 

そう思っていたインデックスの考えはもろくも崩れ去った

反転して走ろうとしたその目の前に、信号機のような人影が立っていたからだ

何時の間に、とも思ったが魔術師がこういった用意をしていないとも思えない

インデックス単体にああいった者と戦える知識はないし、あったとしてもその知識を生かせる身体構造ではない

 

「諦めてくれ。…彼を傷つけるつもりはないよ」

 

嘘だ

魔術師は二人いたハズだ

もう一人がここにいない、という事はつまりそういうことだ

目の前に信号機の人、後方には炎の化け物

…もう逃げられない

 

覚悟を決して目をつぶったその時だった

 

バウッ! という風を斬るような音がした

どこからか放たれた弾丸がその信号機の人にぶち当たり、消滅した

 

「はっ!」

 

そんな声と共に跳躍してインデックスの前に降り立つ緑色の人影

その姿を見た魔術師はわずかに顔を強張らせた

 

「…君は…!」

「やぁ。その様子だと、なんか加工したっぽいね」

 

降り立ったのはクウガだった

しかしその姿は依然見た赤い姿ではなく、緑の姿で右手には銃のようなものを握っている

 

「あぁ…君の助言通り、ラミネート加工させてもらったよ。…その点だけは感謝してるけど」

「どういたしまして。じゃあついでに―――」

 

クウガは言葉の途中で隣にいるインデックスを抱き上げて続けた

抱き上げる過程でインデックスが「わひゃあ!?」と言葉を漏らしたが気にしない

 

「見逃してもらうともっと嬉しいんだけど」

「見逃すと思うのかい。そう思ってるならうぬぼれがすぎるよ」

 

当然の返答

バーコード神父がラミネート加工されたルーンカードを取り出して身構えた

 

「…まぁ、そりゃそうか。―――じゃあちょっと強硬手段だ」

 

バッとクウガが手を上げてパチンと指を鳴らす

その動作にステイルは一瞬訝しんだが、すぐにその正体が分かることとなる

その次にクウガは手に持っているボウガンのような銃をこちらに構え、数発それを撃ちだした

牽制の意味合いが強いのか、あるいは舐められているのかそれらは地面にぶち当たり、わずかに地面を抉る

 

「それじゃあな!」

 

気が付くと相手はインデックスを抱え、クワガタのような変なものに乗って空へと登っていく

最初からこれが狙いだったのかと気づいたときには後の祭り

かなりの速さで彼らを乗っけたクワガタはどこかへと飛び去っていく

 

「…ちっ」

 

憎々しげに呟いてステイルは魔女狩りの王を解除する

…もしかしすると、心のどこかで期待しているのかもしれない

アイツ等がインデックスを助けてくれるのを

そう考えて、ステイルは頭を横に振る

あり得るものか、あんな化物どもに、救えるものか―――

 

 

 

何度打ちのめしても目の前の少年は向かってくる

瞳にある闘志は消えることなく、むしろ増してさえいるような気さえもする

どうして

どうして彼はここまで戦える?

 

「テメェらが、もう少し強かったら…! 嘘を貫き通せるくらいに強かったら! 一年の記憶を失っても次の一年にもっと楽しい記憶を与えてやれば、その次の一年にもっと楽しい幸せが待ってるってわかってれば、逃げる必要なんかねぇんだ! それだけの事だろうが…!」

 

少年は彼女の持つ刀の鞘にしがみ付き、言葉を続ける

握った手からは血がにじみ出ていた

手だけではない、腕全体からだ

 

「ふざけんな、お前は力があるから仕方なく人を守るのか!? 違うだろう!? 守るために力を手にしたんじゃないのかよ…!!」

 

少年―――上条当麻の言葉はわずかだが、それでも確実に彼女―――神裂火織の心を揺さぶっていく

当麻は鞘から這い上がり、神裂の襟首を掴むとさらに言葉を続ける

 

「誰のために力を手にしたんだ、その手で誰を守りたかった!? …どうして! そんな、力があんのに…!」

 

急に彼の視界がぐらりと揺れた

身体に蓄積した疲労が一気に彼を襲ったのだろう

その言葉を最後に上条当麻は意識を手放し、その場に崩れ落ちた

 

その場に倒れた少年を見ながら神裂は立ち尽くしていた

この場で彼を排除するなら簡単だ

だが神裂にはそれが出来ない

繋がりがある状態で彼を斬れば当然インデックスが悲しむ

それもあるが、自分をここまで追い詰めた少年に興味も生まれた

諦めかけた希望、この少年なら、或いは―――

 

「…いえ。それは甘えすぎというものです」

 

考えかけた思考を放棄し、ひとまず彼を運ぼうか、と彼を抱えようとしたとき

 

 

 

「とうま!」

 

 

 

聞き慣れた声が聞こえた

何事か、と思い目を見開き声の方を向く

そこには上空から赤いクウガと一緒に降りてくる自分が一番見知った彼女の姿が視界に入ってきた

す、とクウガが身構えたのに合わせて神裂も当麻から離れる

しかしクウガからは殺気のようなものは感じられない

 

「…インデックス、当麻を連れて逃げるんだ。確か小萌先生のアパートって言ってたね?」

「うん。…だけどとうまを担いでいくのは流石に…」

「大丈夫、その辺は考えてある。…ゴウラム」

 

彼が呟くのと同時に羽を羽ばたかせてインデックスの目の前に降り立ったクワガタのような機械を見る

まだゴウラムに慣れておらず、戸惑いを隠せないインデックスを尻目にクウガは当麻を前足に抱えるように乗せてその背中にインデックスを乗せてあげる

 

「頼んだよ」

<がってん>

 

ゴウラムの頭を撫でてそう呟いた

それに答えるように赤い目を輝かせて、ゴウラムはゆっくりと浮上し再び羽を羽ばたかせた

 

その場に残ったのは、クウガと神裂のみ

 

ヒュウ、と誰もいないその場に風が吹きすさぶ

先に動いたのは神裂だった

 

「貴方がステイルが言っていた古代の戦士、クウガですね。変身者の調べはついています、鏡祢アラタ」

 

問われたクウガは振り向きながらその変身を解く

現れたのはどこにでもいるようなごく普通の少年だった

目の前の少年はその辺のコンビニを見つけると、そのゴミ箱に拳銃を捨てる

よく見るとその拳銃は玩具だった

捨てた後少年は向き直り

 

「ご明察。…もう調べられてるとはね。流石」

「…彼の敵討ちですか」

「普通ならそうしたほうがいいんだけど。…貴女には聞きたいことがある」

 

そう言って彼は神裂の顔を見る

その瞳に敵意はなく、まっすぐな瞳だった

先に見た、少年のような

 

「…なんです? 聞きたいこととは」

「わかってるだろう。…インデックスの事だ」

 

 

「こちらからも一つ聞きたいのですが」

 

適当に公園に場所を移し、唐突に神裂が問うてきた

 

「その、ステイルはどうしたのですか?」

「逃げてきたよ。流石にアイツも空高い位置にいるこっちを攻撃する術なんてなかったのかな」

 

もしかしたらあったけれども使わなかったのかもしれないが

去り際にちらりと表情を見たが、彼のインデックスを見る目つきはどことなく感情があったようにも見えたがそんな事はどうでもいい

 

「まずアンタたちとインデックスの関係は? 正直ただの敵味方には見えないんだけど」

「…そうですね。私とステイル、そして彼女は本来、同じ所属…必要悪の協会(ネセサリウス)なんです。…インデックスは私の同僚で、大切な親友なんですよ」

 

最初にこう聞いた時嘘をついているのではないか、とも思った

しかし彼女の表情は真剣そのものだし、声色も少なからず震えていた

だからそれが嘘であることはないだろう

 

「貴方は、〝完全記憶能力〟という言葉に聞き覚えはありますか」

「それが十万三千冊の正体なんだっけか。…とてもそうは見えないが」

「貴方には、インデックスがどんなふうに見えますか?」

 

どんなふうに見えますか、なんて聞かれても

触れ合った期間は恐ろしく短いからそう詳細に彼女を評価することは出来ない

それでも見た感じのままの言葉を連ねてく

 

「そう、だな。…普通の女の子にしか見えないけど、それでもアンタらの攻撃から逃げるんだからある種の天才なのかもしれないね」

「…ええ。彼女は紛れもなく天才です。扱い方を間違えば天災ともなるレベルの。教会がまともに取り扱わない理由(わけ)は明白です。…怖いんですよ、彼女が」

 

まるで道具のように彼女を扱うその言い方に少々ながら苛立ちが募ったが、それを何とか抑え込める

 

「…じゃあなんでアンタは彼女の敵であり続ける? 友達なのになんでインデックスは二人を敵だと認識してるんだ?」

「それは―――彼女が何も覚えていないからです」

「…はぁ?」

 

何も覚えていない?

それは一体どういう事なのか

 

「―――どうして何も覚えていないのさ。忘れてしまったとでもいうのかよ」

 

だからシンプルにそう問いかける

その問いかけに神裂はゆっくりと首を振って

 

「私たちが、消しました。…そうしなければ、彼女が死んでしまうから」

 

空気が凍りついた

あまりにも自然に口にしたその言葉を一瞬聞き逃すところだった

 

「…穏やかじゃないな。どういうことだ死ぬって」

「言葉通りの意味ですよ。彼女の脳の八十五パーセントは十万三千冊に使用されているんです。ですから、彼女はその残りの十五パーセント分しか脳を使えません。でなければ、彼女の脳がパンクしてしまうんです」

 

嘘を言っているようにはとてもじゃないが見えない

つまり、本当に?

 

「人の脳のスペックは案外小さいものなのです。それでも百年単位で動かせるのは、いらない記憶を忘れて、頭を整理しているからです」

 

完全記憶能力は一度見たものを忘れない事

街を歩けば人の顔を覚え、書店に入れば何気なく見たどうでもいい本のタイトルでさえ完璧に覚えてしまう

つまり彼女は自ら忘れることが出来ないから

生きていられるように、消していく

そうしないと、生きることができないから

 

「彼女は忘れることが出来ないんです。それこそ本当にどうでもいいゴミみたいな記憶でさえ完璧に記憶してしまう彼女が生きるには、誰かの力を借りて忘れる以外に道はないんです」

 

…本当にぶっ飛んだものに関わってしまった

彼女を襲ってくるものを撃退して、当麻と笑い合って彼女の無事を喜び合う

そんなものは儚すぎる幻想だったのだ

 

「…あの子の脳が持つのはあとどれくらいなんだ?」

「あと三日が限界です。…遅すぎても早すぎてもいけません、ちょうどでなければいけないんです」

 

それが真実なら、あのバーコードも初めはインデックスの友達だったという事になる

しかし今は彼女の敵

あの仮面の下にどれほどの決意を秘めているのか想像もできない

 

「…私たちだって頑張った。頑張ったんですよ…春も秋もいつの日も笑い合って、忘れないようにと日記やアルバムを胸に抱かせても、ダメだった」

 

表情から読み取ることが出来るのは例えようもない悲しみと虚無感

春夏秋冬、毎日を忘れないように過ごし、笑い合ってきた

記憶に残せないならせめて記録にして残すことにして、それを見せることで断片くらいなら―――

それでも、ダメだった

 

「もう、耐えられなかった。私たちに彼女の笑顔をこれ以上見るなんて、不可能です…」

 

だから二人は敵になった

失う記憶がなければ悲しみも軽減される

そのために、親友を捨て、敵という立場を選んだ

 

「…なるほど。だいたいわかった」

 

インデックスが抱えているものも、この二人の想いも

 

「もしよろしかったらで構いません。…貴方から、彼を説得してもらえれば」

「…まぁ、考えておくよ」

 

そう曖昧に返事をしてアラタはその場を後にする

その足は一直線にある場所へ向かっていた

魔術関連で相談できるのは、あの人しかいないから

 

◇◇◇

 

伽藍の堂

蒼崎橙子の仕事場にて

翔とアリステラは出かけているのか姿は見えなかった

 

「…そんな話を聞いたんだけど」

 

先ほどの事のあらましを蒼崎橙子に話していた

対する橙子は煙草を吸いながら「ふむ」と短く息を吐き

 

「それはおかしいな」

 

といきなり否定するような言葉を彼女は漏らした

どういう事だろうか、と素直にその疑問を口にすると彼女は

 

「ならなんで彼女は今生きているんだ」

「…は?」

 

言ってる意味が分からなかった

まるでその口ぶりはもう死んでいなければおかしい、とでも言っているようではないか

 

「百分の八十五が魔導書で埋め尽くされている、と言っていたなその女は。ならその子は六~七歳で死んでいることになるぞ」

 

一瞬何を言っているか理解できなかった、がしかしすぐにあっ、と言葉を口にする

確かに神裂は八十五と、そう言った

しかしどうやって神裂はその数字を叩きだしたのだろうか

数学にでも強ければ仮定として導き出すことが出来そうだが

 

「完全記憶能力なんて世界を捜せば割といるぞ。そんな病みたいなのがあれば流石に耳に入ってくると思うが」

「確かに、そんなもんが実在するならニュースにでもなってそうだ…」

 

アラタの呟きを聞くと橙子は興味を失くしたように煙草を携帯灰皿にブチ込むと徐にコーヒーを淹れるべく席を立った

 

「人間の脳はそこまで脆いものじゃない。仮にそれがあるとしたら、本当に彼女自身がそういった体質か、教会が何らかの細工をしたかのどちらかだな」

 

こぽこぽ、とカップにコーヒーを注ぎながら橙子は言葉を続ける

その後ろ姿を、なんとなくカッコいいと思ってしまった

 

「私が教会側だったら迷わず後者を選択する。聞き分けのいい駒を手放すわけないからね。ありもしない嘘でも吹き込んで縛り付けるさ」

 

橙子のその言葉で合点がいった

恐らく、神裂たちは騙されている可能性が高い

しかしそれでもまだ憶測の域を出ない故、断定はできないが、確率は高いはずだ

 

「細かい事はお前が調べてくれ。幸いここは学園都市、脳医学に関する本なら山ほどあるだろう?」

「あぁ。…いろいろありがとう燈子、希望が見えた」

 

これを確定させるためには自分は少々脳医学について調べなければならない

説得? 違う、これは当麻を後押しするためだ

まだ希望はあるんだから

 

 

翌日のカフェテラス

そこにアラタはいる

適当な席に座り、それでいて見つけやすい位置

今ここでアラタは人を待っているのだ

座りながら携帯を弄り、わかる範囲で脳医学に関する情報を仕入れていく

 

しばらくして、こちらを呼ぶ声が聞こえた

 

「おまたせー、悪いわね、探すのに手間取っちゃって」

 

そう言って歩いてきたのは御坂美琴である

彼女が所持している手提げ袋には何冊か本やコピー紙の束が入っており、席に座るとそれらをアラタの前に置いていく

 

「はい、こっちが常盤台で一番詳しいと思う脳医学の本で、こっちが初春さんに調べてもらった脳医学の論文」

「ありがとう。わざわざごめんな、こんな変なこと頼んで」

 

感謝して笑いかける

それに美琴も笑顔で返しながら

 

「別にいいわよ。それにしてもなんでいきなりこんなこと頼んできたの? 学者にでもなるの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

 

別段学者など目指す気はさらさらない

研究者など柄じゃないと思うのだ

そこで改めてテーブルに置かれた本と紙に触れてみる

両方とも結構な暑さだ

 

「とにかくありがとう。あとはこいつを読みふけってみるさ」

「ちょっと待って、ねぇアラタ。私に何か手伝えることってない?」

「え、手伝いって…いや、大丈夫だよ、悪いし」

「逆に聞くけど、あんた一人でこれ全部読む込む気? 結構分厚いのよ、これ」

 

そう言って机に置いた論文やら本やらに触れていく

改めてその量を見ると、流石に残り二日じゃ読み切れるかわかったもんじゃない

だけど、全く関係ない彼女を巻き込んでもいいのだろうか

 

「私でよかったら手伝うわ。…やっぱり、ダメかな」

 

僅かながらこちらを伺うように若干の上目遣い

サバサバしている彼女のイメージからは想像できないくらい可愛いと思える程だ

やがてアラタは折れて

 

「わあったよ。今回はお言葉に甘えようかな」

「―――! おっけー、美琴さんに任せなさい! …で、何を手伝えばいいの?」

 

エラい嬉しそうな彼女が少々気にはなったが、今更気にしても仕方がない

色々かいつまんで説明して、彼女にも手伝ってもらうことにした

 

◇◇◇

 

ふと、目が覚めた

 

「あ、起きた?」

 

視線を向けるとそこには料理をテーブルに置いている美琴がいた

どうやらすっかり眠ってしまったみたいだ

 

「すっかり寝ちゃってたわね。まぁずっと本読みふけってたから、仕方ないかもね。軽くご飯作ったけど、食べる?」

「いただきます…」

 

眠気眼をこすりながら出された料理をぱくついてみる

あっさりした料理炒めだが、十分美味しい

そこでなんとなしに時計を確認して―――ハッとする

時計の針は、零時を指している

インデックスの容態を聞いたのは三日前で、その足で橙子のところへいって詳しい話を聞いた

その翌日に本を美琴から貸してもらい、そのまま美琴に手伝ってもらいながら今日まで本を読みふけっていて二日経ち―――

 

「…やばい!」

 

不意にがたりと立ち上がったアラタにびくりとしつつ、美琴が問いかけてくる

 

「わ! びっくりした…。どうしたのよ急に」

「悪い美琴、こんな時間だけど、急用思い出した! だからちょっと出てくる!」

「え!? あ、ちょっと!? 待ちなさいよ!」

 

美琴の言葉も待たず軽くアラタは何か羽織ると一直線に走り出す

その焦りようが気になった美琴も、彼の後を追いかけた

 

◇◇◇

 

「十分間だ! いいなっ!!」

 

アラタ、と彼の後ろの美琴が小萌先生のアパートについたときに聞こえたのはそんなバーコード神父、ステイルの声だった

傍らには神裂の姿も見え、二人はカンカンと階段から降りてくるところだ

そしてばっちり二人と目があった

先に口を開いたのはステイルだ

 

「…なんだ、君も彼女に別れを告げに来たのか」

「別れだぁ? 違うね、俺はあいつらを助けに来たんだよ」

 

助ける、なんて言葉を耳にしたとき心の底からステイルは不服そうな表情をした

ステイルを睨むアラタと、睨み返すステイル、両方を見ながら美琴は戸惑うような表情をしている

ステイルはこちらを侮蔑するかのような視線のあと

 

「まだそんな事をいっているのか異常者が。君もなかなかに物覚えが悪いな」

「あいにく人間なんでな。諦めが悪いのが短所であり長所だよ」

 

いずれにせよ、ようやく掴んだ希望なんだ

ここでそれを当麻に伝えないと、多分一生後悔する

そしてステイルの横を通り過ぎようとしたその時、神裂の声が耳に入った

 

「鏡祢アラタ」

「? …なんだい神裂さん。先に行っておくけど止めても無駄だぜ?」

「えぇ。それはわかっています…願わくば、最後に素敵な悪あがきを。…ところで、こちらの女性は?」

「―――友達だよ。俺の友達」

「…そう、ですか。あまり無関係な人を巻き込んではいけませんよ」

「わかってる」

 

そう伝えて神裂は視線を戻す

部屋の前にきて、一度美琴の方へと向き直り

 

「ごめん、部屋の前で待っててくれるか?」

「え? えぇ。…わかったわ」

 

美琴にそう伝えて改めてアラタは部屋の扉を開けた

ドアを開けて最初に目に入ってきたのはインデックスのそばで項垂れる上条当麻の姿だった

インデックスは横たわっており、苦しそうに息をしている

 

「…当麻」

「―――俺ってさ、結局何にもできねぇのかな」

 

言いながら彼はゆっくりとこちらを見た

その眼には光こそ宿しているものの、絶望の陰りが見えた

いけない、心が折れかけている

 

「神様の奇跡だって壊せるのに、目の前の苦しんでる女の子一人さえ助けることが出来ないなんてさ…」

 

自嘲気味に笑う目の前の男に僅かばかり苛立ちを感じた

今、インデックスが手を伸ばしているのに、この男は掴まないつもりなのか

 

「…おい、当麻」

 

アラタの声を聞いて当麻が顔を上げる

ハテナマークでも浮かんでそうな表情をする友人に言葉を続けた

 

「一つ聞く。お前、インデックスの容体はもう知ってるよな」

「あ、あぁ。記憶を消さないと生きていけないことや、十万三千冊が脳の八十五パーセントを占めてるってことも、神裂って人から聞いたけど…」

「その八十五パーセントって数字は、どこから聞いたんだろうな、あの神裂って人は」

「え? …あれ?」

 

そこまで言ってようやく当麻も言葉の違和感を感じ取った

そもそも八十五なんて数字がおかしいのだ

インデックス以外に完全記憶能力者なんてものがいたとしても、その人たちは魔術などで記憶の消去を行わない

それでも十五パーセントで一年単位でしか記憶できないなら、世の中の完全記憶能力者は橙子が言っていたように本当に六~七歳で死んでしまう計算になる

 

「神裂さんは脳医学については詳しくないと思う。だから上司から言われた言葉をそのまま受け入れていると思うんだ」

「そうか…! 友達がそんなことになってりゃ、信じるしかないもんな…」

 

その場で考えるようなしぐさを当麻は見せる

そしてふと思い立ってようにアラタへ言葉を投げかけた

 

「そもそも完全記憶能力って、本当にそんなもんなのか? 一年で十五パーセントも脳を使うもんなのか?」

「俺も気になって調べてみたんだ。そして、そんな訳ないって結論が出た」

 

アラタは一言で切り捨てた

そして常盤台の脳医学本で得た知識をフル動員して答えていく

 

「そんなもんで脳がパンクするなんてありえないんだよ、人の脳は本来、百四十年分の記憶が可能なんだ」

 

記憶というのは一つだけではない

 

言葉や知識を司る〝意味記憶〟

運動の慣れや間隔を司る〝手続記憶〟

思い出を司る〝エピソード記憶〟

 

これらは現実で例えるなら容器、である

燃えるゴミ、燃えないゴミと別々に分けるようなものだ

入れる容器が違うのだから、それで圧迫されるなんてありえない

 

「…え、と。つまり―――」

「早い話、どんなに本を記憶して意味記憶を増やしても、それだけでエピソード記憶がパンクするなんてことは、脳医学的に考えてあり得ないんだ」

 

その言葉を聞いた当麻は頭に冷水をかけられたような気分になった

真実が何を意味しているのか、それは明白だ

教会が神裂たちに嘘をついていたことになる

彼女の能力は、命を脅かすものではなかったんだ

 

「けど待ってくれ、なんでもともと何もしなくていいはずのインデックスにそんな一年置きに記憶を消さないと死ぬって嘘をついたんだ? …目の前で苦しんでるこいつを見ても、とても嘘には見えねぇんだけど…」

「…たぶん、縛り付けておきたかったんじゃないか」

「え?」

「考えてもみろよ、インデックス(この娘)は十万三千冊もの魔導書を記憶してんだろ? もし彼女が何もしなくても大丈夫な体だったらどこに行くか分からない。…だから」

「一年ごとのメンテナンスを受けないと生きていけないっていう、首輪を括り付けた…?」

 

考えられる結論はおそらくそれだろう

教会は何が何でもインデックスを手中に収めておきたかったのだ

そこから導き出される答えは一つ

 

 

問題なかった彼女の頭に、何か魔術的な細工を施した

 

 

「…そっか、そう考えれば妙に納得がいく。…教会に頼んないといけないようにしたんだな」

「あぁ、そしておそらく、彼女のどこかにそれが刻まれてるはずだ。人目につかない場所、例えば、喉とか」

 

人間の喉は直線距離ならもっとも脳に近い場所

同時に最も人の眼に触れない部分

アラタの言葉を聞いた当麻は意を決してインデックスに近寄って「…ごめん」と短く謝ってから彼女の口に自分の右手の指を入れた

もしこれで違っていたなら完全に詰みだ

合っていてくれ、と心の中で願いながら当麻を見守る、そして

 

 

バギンっ、と当麻の右手が勢いよく後ろへ吹き飛ばされた

同時に鮮血の球が飛び散り、上条の右手から血が零れ落ちる

 

 

「当麻!!」

 

 

何が起こったか理解できない

アラタはとりあえず名を叫び、彼の隣へと移動する

当麻を支えながら、ふとインデックスを見た

倒れていたはずの彼女は両目を開き、眼は赤く光っている

その眼球の奥に、朱い魔方陣のようなものは確認できた

 

(やべっ!!)

 

本能で危機を理解する

衝撃が身体を襲う前に、アラタは当麻を抱え、右後方へ飛んだ

衝撃は真っ直ぐ飛び直線状にあった本棚へとぶつかり、破壊される

 

「…当麻、立てるか」

「あぁ、問題ねぇ」

 

右手の調子を軽く確かめつつ、当麻は目の前のインデックスを視る

その時、扉を勢いよく開けて誰かが入ってきた

 

「ちょっと!? なによ、今すごい音が―――て、えぇ!?」

 

御坂美琴だ

彼女は目の前で起きている現状に驚き、視線をアラタとあの女の子と行き来している

 

「アラタ、何が起こってるの!?」

「説明は後だ! 当麻」

 

立ち上がる当麻の肩を叩き、アラタは美琴を庇うようにその身を動かす

その間にも、インデックスは無機質な言葉を呟いていく

 

「―――警告。第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum―――禁書目録の〝首輪〟、第一から第三までの結界の貫通を確認。再生、失敗。自己再生は不可能。現状、十万三千冊の〝書庫〟保護のため、侵入者の迎撃を最優先します」

 

のろのろとまるで軟体生物のような動きでインデックスが立ちあがる

両目には真紅のような赤い瞳が写っている

 

「…そういや一つだけ聞いてなかったな、なんでお前に魔力がないのかってこと」

 

拳を握りしめながら小さく当麻が口の中で呟いた

…恐らく理由としてはこれだろう

彼に誰かが秘密を知り、無理矢理に首輪を外そうとした場合、彼女は自動的にその十万三千冊を駆り、最強ともいえる魔術を行使しその口を封じる

彼女の魔力はすべてその迎撃システムの方に回ってしまっているのだろう

 

「ま…魔力…?」

「…あとで説明する。悪いけど、今は手を貸してくれ」

「―――えぇ、私で手伝えることなら手を貸すわ」

 

アラタの隣で身構える美琴

それらを視線に捉えているかはわからないが、インデックスは虚ろな瞳で当麻やアラタを見据える

 

「侵入者に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより、聖ジョージの聖域を発動、対象を破壊します」

 

バギン、と音を立て彼女の両目にある魔法陣が大きくなる

唐突に彼女の背の空間に亀裂が走り、何かが這い出ようとしている

だが怖いという感情はない

早い話そいつを倒すことが出来れば、彼女を救えることが出来る

しかしそれをなすことが出来るのはいくらなんでも自分では無理だ

隣にいる、当麻の右手以外には

 

「出来うる限りサポートする、行けるか当麻」

「当たり前だ! ここまで来て、退けるかってんだ!!」

 

そう言って当麻はじりじりとインデックスへと接近する

サポートすると言ってもこのまま行けば当麻が彼女の術式を破壊して終わり、だといいのだが

そう問屋が卸さないというのが世の摂理である

 

不意にべギリ、と亀裂が一気に広がって、そこから何かが覗き

 

 

ゴウッ! とその亀裂の奥から光の柱が襲い掛かる

 

 

瞬間当麻は右手を前に突き出し、その柱を防ごうと試みるが、そのすべてを消し去れない

消しても消しても湧き上がる

僅かずつではあるが当麻の方へと近づいているのだ

 

何かないか、とアラタは部屋の周囲を見渡した

と、部屋の隅に破り捨てられた先月のカレンダーがあった

…これを丸めれば剣の代わりになるだろう

考えている暇はない

アラタはそれを手に取り、軽く丸める

すると子供たちがチャンバラにで使うような紙の剣が出来上がった

 

「―――変身!」

 

言葉と共に紫のクウガへと変身し、手に持つ紙をタイタンソードへと変化させた

 

「アラタ!」

 

直後、美琴の雷が手にした剣へと注ぎ、そのままクウガへと注ぎ続けるべく彼の近くへと移動する

そのまま自分の体がバヂリとなにかが走る感覚がしたあと、クウガは当麻の横に行きその攻撃をこちらへと分散させた

案外いけるものだな、と納得しているとき、当麻を見やり、そして事態を思い出す

クウガは急いで当麻へと接近し、自らを襲ってくる波動を受け止めた

こちらへ波動を放ったからか、当麻の方に向けられている光の柱の出力が落ちた気がする

 

「悪ぃアラタ! 少し楽になった!」

「気にすんな! 困ったときはお互い様だ!」

 

しかしそれでも状況は変わらない

と、そんな時勢いよく階段を走る足音が聞こえてきた

自体に今更気づいたのか、と文句を言いたくなるがそんなのぶっちゃけどうでもいい

そして勢いよくドアが開かれた

 

「何をしてる! この期に及んでまだ―――!!」

 

叫びかけたステイルは言葉の途中で息を詰まらせた

同様に神裂も光の柱を放つインデックスを見て絶句した

 

「ど、竜王の殺息(ドラゴンブレス)!? いえ、そもそもなんであの子は魔術を使ってるんですか!」

 

「見て分かれよ! あんた等は教会の奴らに騙されてんだ!」

 

自分に向けられた波動を防ぎながらクウガが叫んだ

今まで自分たちがやってきたことはすべて仕組まれたものだったんだ、と

 

「考えてもみろよ!」

 

光の柱を受け止めている当麻が振り返らずに叫んだ

 

「禁書目録なんて残酷なシステム作った奴らが馬鹿正直に真実話すと思ってんのか! 何ならいっそ目の前のインデックスに聞いてみろよ!」

 

ステイルと神裂は亀裂のその先にいる、彼女(インデックス)を見る

二人の視線の先には、ロボットみたいに声を出す彼女の姿

 

「―――聖ジョージの聖域に効果は見られません。術式を切り替え、〝首輪〟保護のための侵入者の破壊を継続します」

 

それは間違いなく二人が知らない彼女の姿

それは間違いなく教会が教えなかった彼女の姿

 

「…!」

 

ステイルは少しだけ歯を噛みしめる

奥歯が抜けるほどの力を込めて噛みしめて

 

「―――Fortis931」

 

漆黒の服の内から幾枚ものカードがばら撒かれる

ルーンが刻まれたそのカードはあっという間に部屋の壁や天井を埋め尽くす

それはすべて当麻の為ではない

たった一人の女の子を助けるために、ステイルは彼の背中へと手を突きつけた

 

「曖昧な可能性なんていらない。記憶を消せば〝とりあえず〟彼女を救うことが出来る。そのためならだれでも殺す。なんでも壊す! そう決めたんだ! ずっと前に!」

 

ある単語を聞き、当麻の足に力がこもる

 

「とりあえず、だぁ!?」

 

当麻は振り返る事なく言葉を続ける

 

「ふざけんな! そんな事なんかどうでもいい!! ただ一つだけ答えろ!!」

 

当麻は大きく息を吸って

 

 

「―――テメェらは! インデックスを助けたくないのかよ!!」

 

 

二人の吐息が止まる

隣のクウガは仮面の下で小さく笑みを浮かべる

その横の美琴も、無意識に小さい微笑をする

 

「ずっと待ってたんだろ! 待ち焦がれてたんだろ! 記憶を奪わなくても済む、敵にならなくても済む、誰もが笑って望む最高なハッピーエンドを!」

 

光の柱を抑える彼の右手からグキリ、と嫌な音がクウガの耳に届いた

ふと見ると彼の小指が折れている

 

「ずっと主人公になりたかったんだろ! 絵本や漫画、小説みたいに命を懸けても一人の女の子を守る、そんな魔術師になりたかったんだろ! 少しくらい長い序章(プロローグ)で諦めてんじゃねぇ! まだアバンタイトルなんだよ! 絶望なんかしてんじゃねぇよ!!」

 

絶対に諦めないその背中に、二人の魔術師は何を見たのか

最後に当麻は叫ぶ

 

 

 

「手を伸ばせば届くんだ! いい加減始めようぜ!! 魔術師!!」

 

 

 

その言葉の直後、クウガが受け止めていた波動が少しだけ弱くなり、同様に当麻が受け止めていた光の柱が強くなる

唐突に力を強くした光の柱はついに当麻の右手を弾いた

 

「まずい!!」

 

流石にクウガにあんな光を受け止めるほどの力はない

無防備になった当麻の顔面に光の柱が襲い掛かり

 

 

 

「―――Salvare000ッ!!」

 

 

ぶつかる直後に神裂の言葉を聞いた

それは日本語ではなく、彼女の魔法名

彼女が持つ二メートル近い日本刀が大気を裂く

七本の銅糸を用いる七閃がインデックスの足元の畳を斬り裂いた

不意に足場を失ったインデックスは後ろへ倒れ込む

彼女の眼に連動していた魔法陣は動き、本来当麻を裂くはずだった柱は天井を斬り裂く

否、それは天井はおろかはるか空にある雲さえも斬り裂いた

もしかしたら大気圏外の人工衛星までも斬り裂いたかもしれない

裂かれた壁や天井は木片すら残さず、その代わりに破壊された部分は光の羽となってはらはらと雪のように舞い落ちる

 

「それは〝竜王の吐息〟―――伝説の聖ジョージのドラゴンの一撃と同等の力を有しています。いかなる力を持っていても、まとも取り合おうと考えてはなりません!」

 

彼女の言葉を聞きながら光の柱の束縛から解放された当麻は一気に接近する

しかしそれより先にインデックスが首を動かした

大きな剣を振り下ろすかのようにその光の柱が振るわれた

当麻を捉えるその一瞬

 

魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

現れた大きな人を形作る火炎は真正面からその光の盾になった

 

「行け! 能力者!」

 

ステイルが叫ぶ

 

「もともと彼女の期限は過ぎている! 成し遂げたいなら時間を稼ごうとするな!」

 

当麻はその声に答えることもなく、振り返る事もしなかった

ステイル自身がそれを願ったから

その言葉の真意をくみ取り、理解したから

彼は右手を握り、走る

 

「警告―――戦闘思考変更。現状、最も難度の高い強敵、〝上条当麻〟の破壊を最優先とします」

 

ブン、と光の柱ごと首を動かした

それに合わせて魔女狩りの王も動いて彼の盾になり、それは互いに打ち消しあいを始めた

 

当麻は無防備となったインデックスへと直進する

確実に距離を詰めていき―――

 

「いけません! 上!」

 

引き裂くような神裂の声

思わず足を止めないで上を見て確認しようとした当麻を

 

「そのまま行け!」

 

クウガの言葉がそれを止めさせた

そして当麻の頭上を凪ぐようにクウガが手に持つ〝ロッド〟を振るい、その隣の美琴が雷を小さい雷撃を撃ちだしわずかながらの援護をする

クウガはいつの間にか青へと姿を変えており、剣も棒に変化していた

 

「立ち止まるな当麻! お前はあの娘を救う事だけ考えろ!」

 

美琴が彼のロッドに電気を纏わせているからか、多少羽の数も減っているような気もする

あくまでも多少、なのだが

しかしそれでも状況はあまり変わらない

そんな状況の中でも当麻は進むことをやめない

 

「―――警告、第二十二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。曲解した十字教の教義をルーンにより記述したものと判明、対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、〝神よ、何故私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)〟、完全発動まで十二秒」

 

直後白かった光の柱が血のような朱色へと変化していく

すると魔女狩りの王の再生速度が弱まっていき徐々に押され始めた

クウガや美琴の助力もあるが光の羽は減る気配はないし、いずれ態勢を立て直されるかもしれない

 

(神さま…! この世界がアンタの作ったシステムの通りに動いてるなら―――)

 

簡単な事だ

どっちを救ってどっちか倒れる、そんな簡単な話

答えなんて決まってる

この右手は、目の前の女の子を助けるためにあるんだ

 

(―――その幻想をぶち殺す―――!!)

 

振るわれた右手はいともたやすく亀裂ごと魔方陣を斬り裂いた

まるで水に濡れた紙を破くかのごとく

 

「―――警、告。最終、しょ…首、わ…再生、不可…消」

 

プツンとラジオみたいにインデックスの声が消えた

柱も消え失せ、部屋の亀裂も消えていく

 

「…終わった、の?」

「あぁ。一段落、かな」

 

美琴の言葉にそう返してクウガは安堵しつつ、ロッドをその辺に放り捨て手をだらりとぶら下げて何気なく当麻を見て気づいた

 

彼の頭上に、ひらりと舞い降りる一枚の光の羽に

 

「と―――」

 

もう遅かった

名前を呼んだ時には遅く、当麻の頭上にはその光の羽が舞い降りる

 

触れられたとき一度ビクンと震えたのちに、倒れているインデックスを庇うようにどさりと倒れ伏した

まるで今も舞う光の羽から彼女を守るように

 

当麻はそれでも笑っていた

笑ってはいるが、彼の指が動くことはなかった

 

この日、この時、この夜に

 

彼は

 

上条当麻は〝死んだ〟

 

◇◇◇

 

目の前をインデックスが走ってくる

彼女はこちらを確認すると大きく手を振ってきてくれた

アラタと美琴もそれに答えるように小さく手を振った

 

「ようインデックス。当麻はどうだった?」

「全く問題なさそうだったよ! えへへ…」

 

彼女の瞳には僅かながら涙を拭ったような後があり彼女の笑顔は本当に嬉しそうな表情だ

どうにかして、守りきることはできたようだ

 

「それじゃあ、あの人が退院した暁には、何かご飯でも作ってみんなで食べましょうか」

「ご飯! みことご飯作れるの!?」

「人並みには、だけどね」

「味は保証するよ。とっても美味しいぞ」

 

インデックスの頭を撫でながらそんなことを言う

 

「うん! そのときは、とうまと、あらたと…みことで…! みんなで食べようね!」

 

そう言って彼女は再度走り出す

嬉しくて体を動かさずにはいられないのか、そんなインデックスの背中を美琴とアラタは見えなくなるまで見守っていた

その姿が見えなくなったとき、二人からゆっくりとだが笑みが消えた

そしてそのまま、当麻が入院している部屋の中へと入っていく

 

「…何があったの」

 

小さく美琴が呟いた

 

よくわからないが当麻は上半身だけベッドからずり落ちており、頭を押さえて若干涙目になっていた

…これはまた、派手にやらかした

 

「…あれで、よかったのか?」

 

問いかけるようにアラタは聞く

それに答えて「なにがだ?」と聞き返す

 

 

 

「―――お前、何にも覚えてないんだろ」

 

 

 

当麻が受けたのは記憶破壊、というもの

記憶破壊という名称自体はカエル顔の医者が決めたものだが言いえて妙だと思う

思い出を忘れたわけでなく、物理的に脳細胞ごと壊された―――

それはどうやっても治せるものではない

 

聞かれて当麻は黙り込む

先にインデックスを一人で入らせたのはこういった話を聞かせないためだ

そしてそのインデックスに当麻は優しい嘘をついた

ただそれだけの事

 

「…けど、それでよかったじゃんか」

 

目の前の少年は言う

 

「俺さ、なんでかわかんねぇけど…あの子には笑顔でいてほしかったんだ。確かにそう思えた。これがどんな感情かはわからないし、二度と思い出すこともないんだけど、さ。確かにそう思うことが出来たんだよ」

「…ほんっと、アンタってお人好しね」

 

美琴が微笑みながらそう言った

彼女の言葉に、当麻はははっと笑みをこぼす

それに釣られてアラタも思わず笑ってしまう

同時にひどく心が締め付けられる

当麻の顔はまるで鏡だ、否、どっちが鏡なのかわからなくなるくらい、当麻の笑みには何にもない

悲しみも、寂しさも感じることもできないくらいに

 

「それにさ、あんたらとも初めて会った気がしないんだ。なんでかわかんないけど…俺の心が、そう言ってる」

 

当麻らしい、とアラタは思った

けどだからこそ、どうしてあの時もっと早く気付いてやれなかったんだと自分を殴りたくなる

気づくのが早かったら、もっと普通にインデックスと触れ合えたはずなのに

 

「…ごめんな」

 

気づいたら小さくアラタは言葉を漏らしていた

その呟きは幸いにも当麻に聞こえていなかったのが救いか

 

「なぁ、もしよかったら、俺とあんたの…鏡祢アラタとの関係ってやつを聞いておきたいんだ」

 

アラタと当麻の関係は変わらない

記憶があっても、なくても変わらない

これまでも、これからも

 

「俺たちは親友だ、相棒」

 

そう言って鏡祢アラタは彼に向かって手を差し伸べる

手を差し伸べられた当麻は笑みを浮かべ、彼の手を握った

二人の手が強く結ばれて、美琴が見守る中、何気なく当麻が言った

 

「…案外、俺は覚えてんのかもしんねぇな」

「へぇ、それはどこに残ってんだい?」

 

鏡祢アラタの問いかけに、上条当麻は答える

 

 

「決まってるじゃねぇか。―――心に、だよ」

 

 

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