もっと言えば原点クウガの劣化1話、2話ですこの内容
きっかけは蒼崎橙子の些細な言葉だった
「博物館?」
「あぁ。知人から譲り受けたものを提供しに行くんだ。息抜きも兼ねて学園都市の外に、お前も連れて行こうと思ってね」
そう言って裸眼の彼女はごとりと机の上にオークションで買ったのか、はたまたどこぞのコネで入手したであろう骨董品(?)を置いていく
素人の自分からみたら何がなんだかわからないようなものばかりで、はっきり言って価値などわからない
その中でひとつだけ、とても気になるようなものがあった
「…なんだこれ」
それは石のようなベルトだった
中心にサークルみたいなのがあり、付近には四角いのが四つほど
触れてみた感じだと石そのもののような感じがしてずっしり重たい
「あぁ、そいつは妹から送られてきたものさ。どうしようかと思っていたが、これを機に一緒に提供しようかなと」
ごそごそとひとつひとつ品をダンボールに詰めながら橙子は言った
ふーん、と曖昧な返事をしながら自分はそのベルトをずっと眺めていた
数分眺めているうちに、一つの欲求に駆られた
「―――なぁ、試しにつけてみていいかな」
それが、始まりだった
◇◇◇
鏡祢アラタ
彼の名前だ
学園都市に住まう
両親はいない
物心ついた時には二人共病死していたらしく、祖父母の知り合いであった蒼崎橙子へと預けられた
蒼崎橙子は不思議な人だ
正直読めないところもあるが、面倒見のいいところもあるというか
眼鏡の有無で人格がスイッチしたり、凄腕の人形師でもあったり、建築家(?)でもあったり、と、とにかくいろいろ多彩な人だ
現在
「おい、身体に大事はないか?」
「うん、至って健康だよ」
蒼崎橙子の車に乗って、例の博物館に移動している最中である
あの後
好奇心に駆られアラタはその石のベルトを思い切って腰に巻きつけてみた、その結果―――
あろう事かその石のベルトはアラタの体の中に入ってしまったのだ
いや、入ってしまったというと違和感があるかもしれないが、そうとしか表現できないのである
付ける際には焼けるような痛みが全身に走ったり、妙なフラッシュバックが頭の中巡ったりとあったが今は特に体調に変わりはない
指もちゃんと動くし、足もしっかりと歩ける
問題はないはずだ
「そうか。なら安心だが、気分を悪くしたらすぐに言え、いいな?」
橙子の言葉にわかった、と返事をしながらなんとなくアラタは外の景色を眺めだした
思い出すのは、ベルトを装着した時に見た誰かの記憶
戦っていたのだろうか、誰かを守るために奮闘していたようにも見える、二本の角のあの戦士
赤から青、緑、紫へと色を変え、様々な武器を使いこなしていたあの戦士
あの時視えた光景は一体何だったのだろうか
しばらく考えてアラタはぶんぶんと首を振る
考えたって仕方がない、今は橙子がくれたこの息抜きの時間を楽しまさせてもらおう
◇
「…結構高そうな博物館だな。大丈夫なのか俺たちが入っても」
「問題ないよ。そのへんでも見て待っててくれ」
ついたその博物館は結構大きいものであった
なんでもこの近辺では有名な博物館であるらしく、世界各国からホンモノを取り寄せて飾っているらしい
最もホンモノと言われてもアラタには全く価値などわからないのだが
館長である男性とメガネをかけた橙子がなにやら話し込んでいる
内容は全く理解できないがおそらくは展示する品などとかについて話しているのだろう
その時ぽふ、と自分の足付近に誰かがぶつかった感触がした
「こら美加ちゃん、はしゃぐんじゃありませんよ。―――ごめんなさいね」
先程こちらにぶつかってきた女の子の頭を撫でながら起こすとお母さんであろう女性はこちらに視線を向けてぺこりと頭を下げてくれた
それに倣って娘さんであろう女の子もぺこりーと頭を下げる
その後お母さんであろう女性は娘さんの手を取って橙子と話している男性のところへと歩いて行った
タイミングよく橙子は話し終わったのかメガネを外しつつこちらに戻ってきた
「あの人は館長の奥さんさ。年若いだろう?」
そう言われて仲睦まじく話し合う館長と奥さんの様子を遠目から伺う
年齢は両方とも四十代前半かもしれないが、見た目だけならまだ三十代とも言えるかもしれない
「とりあえず、橙子の方は仕事終わったのか」
「あぁ。あとは適当に展示物でも見てまわるとでもしよう」
橙子からそう言われてアラタは頷いた
ちょうどいい、自分も適当にこの博物館の中を見て回りたいとは思っていたのだ
なんかパンフでもとってきて回ってみようかな、と思っていた時である
ふと入口あたりがざわついているのが目に見えた
なんだろう、と思いながらそちらを見てみると、スーツを着込んだ妙な連中が何人か歩いてきている
対応しようと館長の男性が彼に近づいていく
そこで徐にスーツの男は懐から拳銃を取り出した
パァン、と一発の銃声が耳に届いた
ドサりと倒れる館長
銃弾は心臓を貫き、床には夥しい血が流れている
刹那―――博物館は阿鼻叫喚の渦へと飲まれていった
その混乱を見計らい、部下であろう男女二人組が展示品のケースを破壊して、そこから価値のあるであろう物品をいくつか選び、持ち運んでいく
「あとは適当に暴れてこい」
スーツを着込んだ男がつぶやく
彼の傍らにいた男が懐から一つのメモリを取り出した
ふいにかちりとそのメモリのボタンを押す
<SPIDER>
そう電子音声が聞こえた気がした
どこかで聞いたことがある、もしかするとあれは、ガイアメモリというやつじゃないのか
手にしたメモリを男は首筋のコネクタへと突き刺し―――その姿を怪物へと変容させる
スーツの男は怪物となった男にいくつか命令を飛ばすとそのまま外に向けて歩き出していった
「アラタ、何をしてる」
橙子の声で我に変える
彼女はアラタの手を掴み、こちらを見据えていた
「何を呆けてるんだ、私たちも避難するぞ」
「え、けど他の人たちはどうするんだ、っていうか、アイツ等はなんなんだ!?」
「私にもわからん、展示物に目をつけたただの犯罪者集団かもしれんが―――」
そう橙子が言っている最中、ふと視界に女の子が入ってきた
それは先程自分にぶつかってきて、親の女性と一緒に謝ってくれた、あの幼い女の子だった
女の子はぺたりと地面に座り込んで、地面に倒れ―――もう息絶えて―――ている父親を一生懸命に動かしている
そんな彼女を逃がそうと母親は彼女の手を取るが、女の子は動いてくれない
それを煩わしく、鬱陶しく思ったのか蜘蛛の化物は拳を握り締めながら歩いて行った
何が起こるかなど、容易に想像できてしまった
そこからはあんまり考えてなんていなかった
後ろからは橙子が自分を呼ぶ声が聞こえていたが、気にしてなどいられない
「おぅらぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
らしくない雄叫びをあげながら全身全霊の力を込めて蜘蛛の怪物にタックルして跳ね飛ばす
突然の行動だったからか、蜘蛛の化物は大きくその体制を崩し、仰け反った
アラタは叫ぶ
「橙子! この人たちを!」
自分が出る限界まで大きい声を絞り出しアラタは目の前の怪物に視線を向ける
「全く勝手だなお前は!」
そんなこと言いながらも橙子も駆けつけ、女の子を抱え上げ、女性とともに避難していく
そして改めて体制を立て直した蜘蛛の化物を見やった
「―――クソガキが」
短い言葉を吐き捨てると、化物はこちらに向けて手を伸ばしてきた
想像以上に早い、喧嘩には多少慣れているといえどやはり化物、速度が違う
それでもなんとか身をかがめて化物のパンチを回避し、思いっきり後ろの方へと後ずさる
何か抵抗できる武器とかないだろうか、と見渡したとき展示されていた剣が目に入ってきた
即席の武器になってくれればいいのだが、そもそも武器として使えるのか
いろいろな考えが頭をめぐるが今はそんな事を言っている場合ではない
申し訳ないと思いながらもその辺に落ちている品を適当に怪物に投げつけて、牽制を図りつつ、ゆっくりとその展示物の前に移動する
到着するやいなや剣を引き抜き、そのままぶっ叩く勢いで剣を振り下ろす
結果は一瞬
ぽきりとこちらの剣が真っ二つに折れ、無様な姿を晒してしまった
「…やっべ」
そう判断した時にはもう遅かった
腹部に蹴りを入れられ、そのまま体を掴まれて大きく投げ飛ばされた
ドシン、と地面に叩きつけられ肺の息を吐き出す
圧倒的にこっちが不利だ
(こりゃ、本格的にまずいかも知れない…!)
ぜーはーと呼吸を繰り返し、その場でなんとか体勢を整える
どうせこのまま死んでしまうのなら、精一杯足掻いて足掻き抜いてやる
そう決意して、アラタは自分の拳に全力で力を込める
瞬間、アラタの内部にある、ベルトが反応したことを本人は気づかないままに、こちらに向かって歩いてくる蜘蛛の化物に向かって渾身の一撃を打ち込んだ
一瞬の輝きのあと
拳を打ったアラタの右手は妙なモノへと変化していた
殴ったアラタも、殴られた蜘蛛の化物も、その変化にはついていけていない
しかしよくわからないが、これはチャンスでもある
このまま一気に畳み掛けることができれば、多少なりとも隙はできるかもしれない
そう考えたアラタは大きく息を肺に取り入れ体を起こし立て続けに蜘蛛の怪物に向かって拳と蹴りの乱打を叩き込んだ
一撃、また一撃叩き込むごとに、アラタはその姿を変えていく
気づいたときには、鏡祢アラタの姿はそこになく
「…!」
そこには白い鎧をまとった、短い二本の角を携えた姿があった
蜘蛛の化物は先程までの相手が突然姿が変化したことに驚愕し、アラタ自身もこの姿に変化したことに驚いていた
「―――聞いてねぇぞ、仮面ライダーがいるなんて!」
蜘蛛の怪物はそう短い捨て台詞を残し、そのまま適当な建物の上へと跳躍して、どこかへと去ってしまった
しばらくは呆然とその場に立っていた
危機はさったのだろうか
「アラタ!」
橙子の声が聞こえてくる
気づくとパトカーのサイレンの音もしきりに耳に入ってきていた
この姿を警察の人たちに見られるのは少しまずいと思い、試しに思い切り戻れと念じてみる
するといとも簡単に姿は人間の鏡祢アラタへと戻ることができた
「何を呆けてる、早く来い」
「あ、あぁ」
ぺしん、と軽く頭を叩かれてようやく現状を理解したアラタはそのまま橙子の後ろをついていく
結局その日は何がなんだかわからないままに、橙子が予約していたホテルへと到着した
また、あとで地元警察の人たちが事情聴取に来たらしく、メガネをかけた橙子がそれに応対、簡単ながらも情報を聞くことができた
幸い、という言葉は不適切だが、あの騒動で怪我をした人はいなかったらしい
死亡したのも銃で撃たれた館長のみ、展示品のいくつかは持って行かれ、あるいは破壊されてしまったようだ
…ぶっ壊したモノの中にはアラタがぶっ壊したものがあるのだが
「…しかし、いろいろあって整理がつかないな」
「ホントだよ…」
一応の事情聴取が終わった後、缶コーヒーを買ってきてくれた橙子から一本を受け取って、それを胃に収める
先の橙子の呟きに、アラタはゆっくり頷いた
何よりも理解が追いついていないのはアラタ自身なのだ
「―――まぁ、お前が一番困っているな。とりあえず今日は休んでいろ」
ベッドに座らされて、そのまま額をぺしっとされて寝かされる
一度体を横にしてみると一気に疲れが体を遅い、そのまま瞼が沈んでいく
一回目をつむってしまうと眠気がやってきて、気がついたら眠りへと落ちていた
◇
眠ったアラタに軽く布団を掛けると橙子は窓を開け、タバコを取り出した
そのままライターで火を点けて窓から見える景色を見ながら煙を吹かす
ちらりとしか見えなかったが、一瞬変化していたアラタの姿
「…青子め。なんてものを送ってきたんだ」
間違いない、いくつか文献で目に通していた
名前はたしか―――クウガといったか
◇
翌日
改めてその博物館へと足を伸ばす
傍らに橙子の姿はなく、今はアラタ一人しかいない
そこには警察官が何人か出入りしておりドラマとかで見かけるキープアウトと書かれた黄色いテープが貼られていた
ここに足を運んだのは、単純に気になったから、というしょうもない理由である
一般人のために、さすがにテープの中に入ることなどできず、見える範囲で博物館内を見回してみる
昨日館長が倒れていたところには血の痕のようなものがあり、正直見るに耐えなかった
直視することができず、視線を逸らし―――その視線の先に、警察に話をしている館長の奥さんの姿が見えた
傍らには、娘さんである女の子もいる
よく見ると、お母さんの目元は腫れていた
―――女の子は、今も泣いていた
思わず視線を逸らす
あまり交流はない、はっきり言って他人である
それでも、やっぱり
誰かの涙は、辛いモノだ
無意識に拳を握り締める
同時にこんなことを平然とできる昨日の連中に怒りがこみ上げてきた
その時彼の中にあるひとつの決意が生まれる
以降の自分を形成しうる、ある決意を
◇
「橙子」
彼女の予約したホテルへと戻ってきて、窓際でタバコを吸っている彼女の名前を呼んだ
橙子はちらりとこちらに視線を向けるとタバコを灰皿に置くと立ち上がってわざわざこっちに歩いてきた
「どうした、何か用事か?」
「橙子は、昨日の連中の居場所って探れるか?」
アラタのその一言に、橙子は目を鋭くする
「…何を考えている」
「昨日の奴らを捕まえる」
「無茶を言うな。お前にそれができるとでも? 自惚れるなよ小僧」
橙子はかつかつと歩いてきて、目の前で歩みを止める
鋭い眼光のまま、彼女はアラタの瞳を射抜くように見据えた
「つい最近までただの一般人だったお前がそんなことできるとでも思うのか。気持ちは察するがここは退け」
「いいやできない。今ここで学園都市に帰ったら、それこそアイツ等みたいな連中がのさばっちまうだろう」
ぎりり、と拳を握り締め、橙子の目をまっすぐ見つめ返す
ここで気圧されて目をそらしてはいけない、己の本気を伝える必要がある
それに一人ではあの連中を探すことなんてできない、なんとしても蒼崎橙子の助力が必要なのだ
「ワガママだってわかってる、ガキの戯言だってことも。けどここで戻ったら、また〝あの人たち〟みたいに涙流す人がいるんだろ!?」
アラタは橙子の目をみて、はっきりと言った
橙子ははぁ、と短くため息をついて
「…全く。私に関わる男はどうもこうして無茶したがるのか」
そう言い捨てて橙子は踵を返し放置してあるタバコの前まで歩いて灰皿に置いてあったタバコを改めて拾い上げもう一度口にくわえた
「…悪いな、自分でもようやく気づいたけど、ああいうのを許せない性分みたいだ。あんな奴らのために、ほかの誰かの涙なんて見たくない…。その、やっぱりみんなには、笑顔でいてほしいから」
「―――やれやれ」
咥えているタバコを一息吸うともう一度タバコを灰皿に戻した
するとおもむろに床においてあったアタッシュケースくらいの大きさのカバンを持ち上げてテーブルにそれを置いた
少し時間が経つとどこからともなく一匹の猫が地面へと降り立った
橙子はその猫をひとつなでると
「少しだけ時間をくれ」
「え?」
「原始的な方法だが、探してやるさ。その奴らの居場所をな」
「―――いいのかよ?」
「曲がりなりにもあの館長とは知り合いだったからな。仇討ちとかではないが、お前の手伝いをしてみるさ」
目を閉じて薄く笑みを浮かべると、小さい声で橙子はいけ、と使い魔であろう猫に命令した
その声をうけて猫は窓から飛び出す
アラタ橙子に深く頭を下げて
「…ありがとう、その、こんなことに付き合ってもらって」
「乗りかかった船だ。今更気にするな」
そう言ってくれるだけでだいぶ気持ちが楽になる
だがあくまで彼女は調べてくれるだけであり、実際に行動を起こすのは自分自身だ
◇
時刻は夜
居場所はあんがいあっさり見つかった
遠い昔に破棄された廃ビルを現在は拠点としているらしい
橙子の黒猫(?)の案内のもと、アラタはその拠点の真ん前までやってきていた
今日は大勢の手下であろう人たちはいないのか、扉の前に見張りなどはいなかった
しかしそれは逆に好都合だ、早いとこ内部に侵入してしまおう
最上階は天井のない、割と広い空間だった
そこには以前見たスーツ姿の男性と、蜘蛛の化物へと変異した男性、他に二人、部下であろう男と女が立っていた
スーツの男がこちらを睨む
「―――なんだテメェ、ガキがこんなところにくるんじゃねぇよ」
「あぁ、用なんかないさ。多人数で博物館の品盗りにくるチンケなやつなんか」
「…あぁ?」
アラタはゆっくり歩き始める
「それでもアンタたちが仕出かしたことは許されない、あろう事か、誰かの命を奪うなんてことも」
「…なんだテメェ」
「はっきり言うとさ、捕まえに来たんだよ、アンタたちを」
アラタの言葉に周りにいる連中はそれぞれ声を出して笑い始めた
当然だ、いきなり目の前に年端もいかない小僧がやってきて自分たちを捕まえるとほざいてきたのだ
スーツの男は笑いながら立ち上がり
「立派な心意気じゃねぇかガキ。だがどうやって調べたのか知らねぇが、この場所を知っちまった上でここに来たからな。―――死んでもらうぜ」
男は視線で合図する
それは蜘蛛の化物へと姿を変える男だ
彼はメモリを取り出し、スイッチを押して電子音声を発生させる
<SPIDER>
そのメモリを自身の体へと突き刺し、再度その姿を怪物へと変容させた
「聞くところによると、お前仮面ライダーらしいじゃないか。だが、そんな強くもなさそうって話もな」
「えぇ、あの時は大事を取って退きましたが…特に強敵でもないですよ」
首を回しながら蜘蛛の怪物がこちらに向けて歩いてくる
その歩きを視界に収めつつ、以前自分でベルトを巻いた位置に己の両手をかざす
そして右手を左斜めへと突き出し、左手をベルトに添える
そのまま開くように己の両手を動かした
かつてフラッシュバックで見た幻視では、その姿は赤かった
だが前姿を変えた時は白い姿だった
おそらくあの時は突然のことで動揺していたのと、自分自身に戦う意思が足りなかったからだ
学園都市で風紀委員として活動している時も、スキルアウトといった連中と戦う時はどうにかなると考えていたのに、いざ実際命の危機に瀕すると身体が震え、あの時は無我夢中だった
けど、はっきり自覚した今は違う
身に余るかもしれないこの力を、誰かの笑顔のために
「―――変身」
広げた腕をベルト左側へと持っていき、小さくその姿を変える言葉を呟く
色のなかったベルト中央の霊石が輝き、赤い光を宿す
拳を握り締めアラタは目の前の化物に向かって駆け出した
蜘蛛の化物―――スパイダーは迎撃しようと蹴りを繰り出した
その蹴りを受け止め、お返しにその顔面に一撃を叩き込む
当てた拍子に足を離して今度は腹部に向かって蹴りを打ち込んだ
一撃を受けてひるんだスパイダーにもう一度拳を繰り出す
左、右と連撃を叩き込むうちに、徐々に彼の体は変質していく
炎のような赤い鎧
全てを移す紅の複眼、宝石の陽に輝くベルト中央の霊石
闇夜の中にただひとり、赤の戦士はそこに立つ
「…なんだ、前と違うじゃねぇか」
スパイダーはそう言って改めて襲いかかってくる
しかし不思議と相手の動きが読める
この姿になったことで自身の身体能力が多少強化されたのだろうか、相手の攻撃がどこにどうくるのか、なんとなくだがわかるのだ
顔面にくる拳は手でいなし、腹部にくる蹴りは受け止めそのままジャイアントスイングの要領で投げ飛ばす
いつまでも時間のかかる部下に苛立ちが募ったのか、スーツの男は背後に控えていた部下に指示を飛ばした
「いつまで時間かかってんだ! …くそ、やれ!」
男女は頷き、二人共メモリを取り出してそれを起動させる
<COCKROACH>
<HOPPER>
電子音声が鳴り響き二人の姿を変異させる
一人は…ゴキブリをモチーフにしているのだろうか、生理的に気持ち悪い造形だ
そしてもうひとりはバッタだろうか、どっちにしても両方虫ということに変わりはない
プラスするなら状況的にさすがに三体一はマズイ、せめてこの蜘蛛だけでも即効で倒さなければ
幸いにも味方が来たという状況で若干隙を見せたその相手にすかさず赤の戦士は一気に拳のラッシュを叩き込む
さらに顔面を固定し、腹部に膝を打ち込んだ後、両手を開いて掌底を繰り出す
そして短い助走の後、軽い飛び蹴りを胸元に直撃させた
蹴りを撃つ寸前に足に焼けるような感覚が走り、威力が向上したような気がした
「―――ぐおぉ!?」
胸元に現れた変な紋章とともに後方に吹き飛ばされ、スーツの男の横を突っ切る
そのまま後ろの壁に激突し、爆散した
爆炎が止んだあと、変身していた男性と使用していたガイアメモリがからりと落ちる
とりあえずこれで状況は二体一、多少は楽になるだろう
そう思っていたのも束の間、ゴキブリモチーフの敵が一気に接近してくる
速度は蜘蛛の何倍か、おそらく数十倍か?
さすがはゴキブリ、といったところか
しかしいくらなんでも速すぎる
幾度も攻撃をくらい、次第に少しずつではあるが、劣勢となっていく
そこでふと、頭の中で再度光景がフラッシュバックする
緑色へと色を変えた戦士は素早い相手の攻撃を見切り、それを捌く
また、手に持つ銃のような武器で遥か遠くの敵を射抜いていたりもしていた
色を変える、なら、今の自分でも変えられるのではないか?
しかしこの場に銃はなさそうだし、射抜くことはできなさそうだが―――反撃の糸口くらいは掴めるはずだ
敵の一撃を喰らいつつ、地面を転がり体勢を立て直す
心の中で変われ、と強く念じながら
すると赤色だったベルト中央の霊石が緑色へと変化し、もう一度その姿を変化させる
左右非対称の、緑色の鎧だ
同時に頭に周囲のありとあらゆる情報が入ってきた
緑になると聴感覚が強化されるのか、あんまり長い時間はなれそうにない
とにかく今は目の前の敵に集中しなければ
「―――!」
ガバァ! と背後から掴みかかるように強襲してきたコックローチ
完全に動きをホールドされる前に肘鉄をコックローチの顔面へと動かした
ごき、と直撃した感触のあと、腕を掴みあげ、一本背負いの要領で自分の前に投げ飛ばす
直後再び色を赤へと戻し、その腹部に全力を込め踏み抜いた
燃えるような感覚の後、そのストンプはいい具合にヒットする
「が、ぁぁぁ!?」
爆散
炎が消えゆくなか、現れたのはやはり変身した人間と使用したガイアメモリだ
自分ではメモリの破壊はできないのだろうか、などと考えている場合じゃない
あと一人いたはずだ
「貴様…一体なんだ!」
バッタが怒りながらそんな事を言ってくる
なんだと言われても自分でもよくわからないのだから答えようがない
そのままバッタは鋭い蹴りを繰り出してくる
バッタは跳躍力の高い虫だ、それは怪人となっていても健在で、その一撃のひとつひとつはとても強力だ
おまけに反撃しようにしても
「ふっ! ―――!」
放った蹴りは空振りし、空中からの奇襲を受ける
跳躍力という長所にして最大の武器を活かし高所からの攻撃にシフトしてきたのだ
おまけにここは天井のない開放空間、赤い形態でも頑張れば跳べないことはないだろう、しかしバッタほどの跳躍力はない
そこでまた、頭の中でベルトをつけた時の映像がフラッシュバックする
それは青い鎧をまとった姿だった
赤の姿と比べるとジャンプ力などの身体的ステータスが向上しており、その手には長獲物を携えたその姿
咄嗟に軽く周囲を見渡し、手頃な鉄パイプを手にとり、それを真ん中あたりで握る
そして空中でこちらを見下ろしている
不思議と見下しているこちらに対して、下卑た笑みを浮かべているのを幻視できるほどだ
―――あそこまで届くように!
そう固く決意して、全身全霊を込めて両足で地面を蹴った
瞬間、再びベルト中央の石が青く輝きだし、それと同時に赤い鎧も青く変色していき、手に持っている鉄パイプもその姿を変え、両端がシャキンと伸縮していた
「嘘!? 貴方、本当に何者―――」
バッタがそう言っている時には、もう高度は同じ位置
そしてそのまま、手に持っている己の獲物をあらん限りの力を込めて振り下ろす
長柄の武器はバッタの脳天に直撃し、今いる場所が空中なのも相まって絶大な威力を生んだ
バッタは地面へと激突し、そのまま爆散
傍らに着地するとやはり変身していた女性と使っていたガイアメモリがからんと落ちた
残るはスーツの男ただひとり
このまますんなり捕まってくれるといいのだけれど
「―――クソがッ!」
やはりというかなんというか男も懐から一本のメモリを取り出した
しかしその口ぶりからすると本心では使いたくなかったことが伺える
男はメモリのスイッチを押した
<VIOLENCE>
「後悔すんなよ、クソガキが!」
そのメモリを己に突き刺し、男はその姿を怪物へと変える
バイオレンス―――直訳で暴力を意味するその姿は筋骨隆々で見るからにかなりのパワーがありそうな姿だ
左腕の鉄球を振りかざし、男はこちらに言葉のままの暴力を振るおうとしてくる
なんとかその一撃を回避したのも束の間、すかさずに右手のパンチ攻撃をモロにもらってしまい、わずかながら隙が生まれてしまった
「シャァァァァぉうらぁぁぁぁッ!」
そんな叫びとともに、鉄球の方の腕の一撃が腹部を捉えた
がはっ、と肺の空気を吐き出しつつ、後ろ向きにバック宙の要領で回転し、地面に激突してしまった
そのまま地面を軽く転がり体制を立て直す
はぁはぁと息を漏らし立ち上がって身構えた
相手の力が強すぎる、青のままではどうあがいても力負けするだろう
仮に赤に戻っても勝てるかどうか―――
そして三度目のフラッシュバック
それは紫の鎧を纏った姿
一本の剣を携えた、豪腕の剣士の姿
近づいてくる相手を見据え、手に持つロッドを握り締める
そして心の中で念ずる―――もっと強く!
一瞬仮面の中で瞳を閉じて、一気に目を見開いた
刹那、ベルトの中央の石が紫色に輝き、それに呼応して彼の体も変えていく
銀色をベースにして、紫色で縁どられたその姿は幻視で見た光景そのものだ
応えるように手に持っていたパイプも姿を変えて、フラッシュバックで見た剣そのものと化した
多種多様に姿を変えるその姿に、相手はその表情を驚愕の色へと染める
若干後ずさりをしつつ、男は言った
「―――お前はなんなんだクソガキィ!」
激昂しつつ、ソイツは体を丸め、一つの球体へと変化させた
そのまま押しつぶさんとばかりにこちらに向かって突っ込んでくる
もしこの姿が青や赤ならばまずかっただろう、だがこの銀と紫の姿ならば対抗できるはず
剣を両手で持ち、正眼に構え直前まで引き付ける
そして向かってくる鉄球を右に避けつつ、一気に剣を振り抜いた
振るわれた剣は鉄球を横一文字に深い傷を受け、自身の背中の方で、大きな爆発が起きる
爆炎が消えた時、やはりそこに倒れていたのは気を失ったスーツの男と、使用していたガイアメモリだ
念のために相手グループが使用していたメモリは全て破壊しておくとしよう
一応、警察の人に連絡しておいた方がいいだろうか
…なんだろう、全部終わると一気に疲労感がこみ上げてきた
とりあえず動かないように適当に拘束でもしてから通報しておこう
適当に近辺を探してみると工事現場とかでよく見かける黒と黄色のロープを発見した
これで拘束しよう
◇
「終わったのか」
廃ビルからアラタが姿を現すと、そこには傍らに使い魔である黒猫を携え、カバンを抱えた蒼崎橙子が立っていた
黒猫は橙子の肩に飛び乗ると鳴くようなアクションをする
橙子はそのまま近づいてきて
「しかし、お前も無茶をするな」
「…同僚からも言われてるよ。
そのおかげで無駄に心配されている
「お前は少し、戦いを学んだ方がいいな」
「我流になるのは仕方ないだろ。どっちみち俺は素人どまりなんだし…」
「あぁ。だから近いうちにお前を知り合いのところに連れて行く。そこで少々戦いを学べばいいさ」
「…知り合い? 俺としては貴女に知り合いがいた事の方が驚きだぜ?」
苦笑い混じりにアラタは橙子にそういった
それを耳にするとくっくと笑みを返したあとひとつタバコを吸って、煙を吐き出しながら
「まぁ、そう思われても仕方ないだろうな。だがまぁ安心しろ、信頼できる相手だ」
「…橙子がそう言うのなら」
「最も、私も久しぶりに会うんだが」
「…本当に大丈夫なのか」
タバコを吹かしながら前を歩く橙子にアラタはついていく
黒猫は今度はアラタの肩に飛び乗ってきた
軽くお腹のあたりを撫でながら、傍らに歩を進めていく
そしてその数時間後、匿名の通報で駆けつけた地元警察によってその犯罪者集団は全員御用となった
連中を見つけたときには既にロープで拘束されており、なぜだか気を失っていたという
一体誰が彼らを拘束したのかは、まだ誰にも分かっていない…が、ようやくこの集団を逮捕できたことも相まって、特に話題になるようなことはなかった
そして少し時間は進み、物語は始まる―――
しばらくは昔のやつに加筆修正した内容で投稿していくゾ
あくまで予定だし気長に待っててくださいおねがいします