全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

40 / 80
前回からだいぶ時間を経ていますが、生きています
ちょっとパソコンの方がついに壊れ、新調するのに時間かかってました

今回もまたいつもの出来ではありますが、のんびりとお付き合いくださいませ
また、今回は一部の文章はリメイク前のを引っ張ってきています

よろしかったらどうぞお楽しみくださいな


#33 マゼンタの男

門矢士がこの世界にやってきたのは、大体一か月くらい前だったか

オーロラに招かれて潜り抜けたその先が、たまたま今いる病院の前だった

そしてさらにたまたま外に出ていた女の看護婦―――浅上藤乃に見つかって外からここに異動してきた先生だと言われ、住む家などもない士はそのまま住み込みで病院に住まわせてもらい、今に至る

 

ちなみになぜ勘違いされたのか、というとこのオーロラを潜り抜けたあと、よく見ると自分の格好がいつもの格好+上に白衣(名札付き)になっていたからだ

役割を与えられたのなんか久しぶりな気がする

普段ならば医者の真似事なんてやる気も起きないし、そもそもできないしなんか理由でもつけて断ろうと思ったわけだが、藤乃と名乗る女性の割と澄んだ目に何も言えず、流されて医者となってしまった

 

まぁ士は割となんでもできると自負しているが、さすがに医者なんてのはやったことがなく、珍しく宛がわれた自室で一日みっちり三時間教本などを読み漁り知識を軽く詰め込んだ

結果軽い診察ならこなせるようになり曲がりなりにも一応医者の仕事はできるようになった

だからといっても手術はさすがに請け負えず、そればかりはカエル医者に頼み込みそういうのは来ないようにしてる

怪人は捌けても人間は捌けないのである

 

「やれやれ。…医者なんて大したこたないと思ってたが…やってみるとシンドイな」

 

書類仕事やら診察やらなんやらかんやエトセトラ

一通りの仕事が終わり、白衣を脱いで軽くたたんで自室のベッドに放るとそのまま士は学園都市を歩いて散策し始める

この学園都市に来ていの一番に分かったことはめちゃくちゃ化学が発達している、ということだ

以前パソコンを用いて軽く調べたときに、都市伝説として〝仮面ライダー〟が紹介されていた時は多少驚いたがとりあえずこの世界にも仮面ライダーがいるということが分かっただけでも士は少し安心した

 

「…いちごおでんとかこの都市のやつらどんな味覚してんだよ。飲むやついんのかこんなの」

 

とりあえず無難な天然水のボタンをおして、自販機から出てきたそれを掴むと蓋を開けてそれを飲む

飲み物も買ったし、適当にこれを飲みながらその周辺でもぶらついてみようかな、と歩き出した時だ

 

 

「―――お姉さま。どこに向かわれるのでしょう。すでにミサカのスケジュールは、三十八秒ほどの―――」

 

 

「…?」

 

変な会話が聞こえてきた

スケジュール? それにしたって秒刻みで管理されてるもいるのかこの都市の連中は

ちょっと気になってしまった士は少し息を潜めて様子を伺ってみることにした

視線の先に見えたのは二人の女の子

見た感じは背格好はまるで同じ、着てる服も同じと来た

ペアルックか何か? と思った感想を心の中にしまいこむ

 

◇◇◇

 

人気のないところに美琴は彼女を連れてきた

周囲を見渡す限り、ここに誰かがいる気配はない

震わす声を我慢しながら、美琴は聞かねばならないことを聞きだすべく言葉を紡ぐ

 

「…実験は。計画は中止されたんじゃないの!?」

「―――その計画が、絶対能力進化計画(レベル6シフト)なら、予定通り進行中です」

「ッ!!?」

 

息を飲む

予定通り?

進行中?

なんで、どうして!?

 

「先ほど、一万二十次実験が行われたばかりです」

「…いち、まん…!?」

 

何を言っているのだろうか

だって、研究に携わってた機関は全部撤退したはずじゃなかったのか

どうやって…何がどうなっているのだ

あまりの衝撃にぐらりと美琴は足元をふらつかせた

思考がまとまらない

考えが追い付かない

頭が理解を拒んでいる

ただはっきりとわかるのは

 

 

また、された

 

 

(―――違うッ…!!)

 

殺されたんじゃない

幼いときの自分の浅はかなあの行動が…彼女たちを死に追いやった!

つまりは―――自分がしたも同然だっ…!

だから、目の前の…この子だって―――

 

「ッ!!」

 

最悪な想像をしたとき、吐き気がこみ上げてきた

何とか口を押さえ逆流してきた胃液を何とか飲み込み、吐かないように美琴は耐える

そんな美琴の内心を知らず、単に気分が悪くなったと判断したミサカは首を傾げつつもなんて言葉をかけようかと頭の中で思考する

 

「なー」

 

がさり、と近くの茂みから小さい子猫が這い出てきた

そういえば自分とは違う個体が猫と遭遇していたことを思い出すとミサカは子猫を指さしながら

 

「〝お姉さま〟、子猫が―――」

 

きっとミサカが呟いたその言葉は、何気ないものだっただろう

だが、今の御坂美琴にとってその何気ない言葉は、心を抉り尽くす凶器となって美琴の耳に入ってくる

 

お姉さま おねえサマ オネエサマ おねエサマ 御姉様 オネえさま お姉様

 

 

 

お姉様

 

 

 

「やめてぇぇぇぇぇっ!!」

 

叫ばれた絶叫

つんざくようにこだまする彼女の叫びに、ミサカは目を丸くした

美琴は両手で自分を抱くように動かすと、震える声で言葉を続ける

 

「もう…! 止めてよ…ッ!!」

 

彼女はそのまま自分を見ることなく、固く目を閉じながら

 

「その声でッ…! その姿で…! 私の前に現れないでッ!!」

 

明確な拒絶

震える彼女に対して返す言葉など、今の彼女には持ち合わせてはおらず、ミサカはおおよそ時間にして十秒前後かけると、ようやく言葉を口にした

 

「…はい」

 

もうこれ以上ここにいてはお姉様を混乱させるだけだろう

だから、もうここにいる意味はない

そう判断して踵を返してミサカはそのまま歩き出す

 

「…あっ…」

 

ミサカの履いている革靴の足音のおかげか、言葉を吐いた後落ち着きを取り戻した美琴は去りゆく背中に手を伸ばそうとする

だが今更なんて言えばいい?

自分の都合で現れるななんて言葉を吐いて、挙句取り繕うとして

やりきれない怒りとか、自分への感情とかを吐き出す、あるいは八つ当たりするように、美琴は近くの街灯を思い切り叩きつけた

叩いた右手がじん、と痛む

そのまま街灯にもたれかかると、はぁ、と冷静に息を吐き出した

 

「―――最低だ、私」

 

◇◇◇

 

そんな話の顛末を隠れながら聞いていた門矢士は少なくなっていたペットボトルの水をいっきに飲み干す

飲み干したボトルのキャップを締めながらふぅ、と一つ士は息を吐いて歩き出す

 

(…どんな世界にも、厄介事はつきものか)

 

そのまま街灯にもたれかかった女の子を横目にしながら、士は顎へと手をやった

 

(レベル6シフト、だったか? 少し調べてみるかな)

 

ハッキングとかできるコンピューターでも探そうか

まぁ当然購入するわけにはいかない

病院に戻ればパソコンはあるにはあるが、ぶっちゃけ戻るのは面倒くさい

なら、その辺の研究所にでも忍び込んでみるか

 

「…どうやらこの世界でも、〝コイツ〟の出番はあるらしい」

 

そう言いながら士は懐から何かを取り出す

〝マゼンタ色〟をした、ナニカを

 

◇◇◇

 

御坂達がどっかに行ってそういやこれどうすんだいとアラタはちらりとそちらに視線を向ける

それはこのベンチの上に積まれている約十九本の缶ジュース

まぁ当然ながら持って運ぶしかないのですけど

流石にかわいそうになったアラタは約半分の九本くらいを持ってあげた

そんな訳で赤い夕暮れの街並みをジュース抱えてのんびり歩く姿は正直シュールである

 

冷たいジュースとは意外にも長時間持っていると体の体温を奪っていく

確かに時期は夏ではあるが、流石に缶ジュースで凍傷とか笑えない

と、いきなり当麻がずっこけた

誰かが遊んでそのまま放置していたテニスボールを運悪く思いっきり踏んづけたのだ

手の中にあるジュース缶をぶちまけダイレクトに背中を打った当麻はゴロゴロとのた打ち回る

こうまで彼が不幸だとさすがにアラタも笑えない

っていうか前より不幸がマッハな気がしている、と思うアラタだ

 

「うー…いってー。俺が何したんだよ…」

 

手伝いたいのも山々だが今アラタの腕もジュースで埋まっている

一人しょぼんとジュースを回収する当麻を見ているとひとりの人影がその二人に近づいた

 

「うん?」

 

とアラタは首を向ける

そこには御坂美琴―――の妹さんが立っていた

一見、見分けがつかないが、妹と美琴の外見的違いは頭につけているヘッドギアだ

割かしカッコいいデザインは見分けるのに十分である 

そんな妹さんはアラタに向かって軽く一礼をして後、当麻に

 

「必要あれば手を貸しますが、とミサカはため息を吐きつつ提案します」

「え? あ、妹か。…にしてもお前ホントにアイツに似てるのな」

 

当麻の言葉に妹は首をかしげつつ

 

「アイツ…あぁ、お姉様の事ですね? とミサカは確認を取ります」

「いや、他にいないでしょう」

 

そんなマイペースな妹にアラタは面食らいながらふと気になったことを妹にぶつけてみる

 

「あれ、けどさっき美琴に連れてかれなかった?」

「ミサカはあちらから来ましたけれど? と来た方向を指差します」

 

そう言って妹は通りの向こうを指差した

見当違いの方向だった

 

当麻とアラタは顔を見合わせながら頭に疑問符を浮かべる

 

「それで散らばった缶ジュースはどうするのです? とミサカは問いかけます。必要なら手も貸しますが、とも付け加えます」

「え? いいよ、流石に。半分はアラタが持ってくれてるし大体お前が手伝う必要性なんてないだろ?」

 

その時運悪く軽トラックが走ってきた

軽トラは当麻たちの前で止まると乱暴にクラクションを鳴らす

そのクラクションを聞いて妹は無言で缶ジュースを拾い始めた

一瞬何か言いたげな当麻だったがクラクションがうるさいからかそれを喉の奥にしまい込む

平等に二人で半分づつ缶ジュースを持つことにした

 

「…あれ?」

 

いつの間にか缶ジュースを多く持っているのはアラタになってしまった

いや、別にいいんだけど

 

缶ジュースを回収し終えると軽トラは怒ってる様子を隠さずに乱雑に発進した

 

「それで、このジュースはどこまで運ぶのでしょう、とミサカはジュースを抱えて問います」

「あぁ、だからいいってば。お前が運ぶ義理とか―――」

「早くしなさい」

 

言葉が鋭くなった

思わず助け船を期待して当麻はアラタを見る、が彼もやれやれと言った感じで首を振った

ハァ、と諦めて御坂妹に荷物を持ってもらうことにした

 

◇◇◇

 

「ひゃく…はちじゅうさん…!?」

 

一体実験はどうなっているのか

本当に続行されているのか

本当に中止になっていないのか

気になって居ても立っても居られない美琴はかつてそうしたように公衆電話で再度ハッキングを試みていた

 

簡潔に述べよう

実験は継続されていた

携わっている機関を、〝百八十三〟へと増やし、何事もなかったように

なんでこんな短期間にこれだけの数を増やすことができたのか

こんなのはもう一企業にできることでは―――

 

「―――あ、…そっか…」

 

なんて、愚か

どうしてこんな簡単なことに気づくことができなかったのか

学園都市内部は常に衛星とカメラで監視されている

そして都市内部で行われている非人道的な実験も、都市の上層部は承知していないはずはない

 

つまり

 

都市のすべてが、〝敵〟なんだ

 

 

侵入者が来た

そんな知らせを受けて、芝浦淳は耳を疑った

現在、関連施設は百を超えて邪魔される心配はないだろうと思っていた

だがそれでも、いくつかの企業からはこんな風に念のためとして浅倉を介して護衛依頼が来ていたのだ

とはいっても、流石に百を超える企業すべてを守ることなど不可能

だからこんな依頼はっきり言って杞憂でしかない

仮に襲撃が来なくても報酬は出す、ということだから小遣い稼ぎ感覚で芝浦一人でこの依頼を引き受けたのだが

 

「―――へへっ、しかし暇な一日になりそうだと思ったけど、こいつはラッキーだ。いい暇潰しになればいいなー」

 

驚きはしたが、同時に嬉しくもあったその知らせ

正直今の今まで何にもやることがなかった

携帯ゲーム機と何冊かマンガを持ち込んで暇を潰していたのだが、それらが飽きると携帯でのネットサーフィンしかなかった

今日一日これで終わるかな、と思いきやこの知らせ

神は自分に味方していると初めて思った

どんな馬鹿が侵入してきたのか、前みたいなガシャポンカプセルみたいなライダーに変身する雑魚か、あるいはオリジナルと呼ばれるあの常盤台の女か

まぁどっちでも構わない、前は浅倉や手塚がいた手前何もしなかったが今は一人

せいぜいそれらのどっちかだったら楽しませてもらおうじゃないか

 

意気揚々と、かつ気配を殺して事前に監視カメラの映像から捉えていたそいつが今いる部屋へと侵入する

視界に映っているのは緑色で、かつなんか首元にタイヤみたいのが巻き付いて…いや、かぶっている? ともかく、珍妙としか言えない後ろ姿だ

想像や期待と違った、おまけに対して強くもなさそうだ

この程度ならもう気配を消す必要もなさそうだ

 

「———あーあ。侵入者だって聞いたからさ、どんな奴かと思ったら雑魚みてぇなのが来てんなぁ、おい」

 

煽る意味合いも含めて芝浦は嫌味たっぷりに言葉を紡ぐ

しかし緑色のアイツは全く意に介した様子はなく、無言でカタカタとキーボードを叩き続けている

ノーリアクションに腹が立った芝浦は無防備なその背中に一発蹴りでも打ち込んでやろうとして、軽く助走をつけて右足を繰り出す

 

「…無視すんじゃぁ―――!?」

 

言葉は最後まで続かなかった

何故なら当たる寸前にすらりとそいつは立ち上がり、ごく普通に避けたからだ

結果、芝浦の体はそのまま緑色のヤツが叩いていたキーボードへとぶち当たり、盛大に文字キーをぶちまける

 

「ってぇ…聞こえたのかよこの野郎…!」

「当たり前だ。あんな分かりやすい煽りまで言ってくるとは思わなかったが」

 

そう言って緑色のヤツは手に持ったUSBを弄びながらこちらへと向き直る

見た感じは仮面ライダーみたいだ

特徴的なのは複眼か? まるで車のライトみたいだ

 

「クソが…もう容赦しねぇぞ! 変身!」

 

苛立ちを隠さず、芝浦はサイのカードデッキを取り出すと目の前に掲げ、現れ出でたVバックルに装填し、ガイへの変身を敢行する

幾重の残像が彼の体に重なり、鏡の割れるような音の後でガイへなった芝浦はそのままの勢いで緑色のヤツに向かって殴り掛かる

 

繰り出されたガイの拳は容易く受け止められ、カウンター気味に腹にケンカキックを繰り出し、そのまま吹っ飛ばされた

壁に激突するガイを見据えながら緑色のヤツは両手でパンパンと手を叩きながら

 

「生憎お前と遊んでる暇はない、知りたいことは知れたからな」

「はぁ!? 何言ってんだお前!」

 

激昂するガイを尻目に、緑色のライダーは徐に腰にあるベルトを開いて一枚のカードを取り出した

そのまま開いたバックル部分にそのカードをセットして、開いた部分を閉じる

 

<ATTACK RIDE INVISIBLE>

 

そんな電子音声と共に緑色のライダーの姿は風景と混ざるように消えていき、この場からいなくなってしまった

目の前で起きた余りの出来事にガイは周囲を見渡す

気配すら感じることができず、意味が分からないといった具合に地面を殴りつけた

 

「クソが…! なんなんだよアイツは…!!」

 

拳をぎりり、と握り締めるが、すぐに力を緩めた

まぁこんな一施設のデータ盗んだくらいじゃあ今後の実験などに支障は出ないだろう

…任務事態は失敗だから、この後めちゃくちゃ浅倉や手塚に怒られるんだろうなぁ

などと、もう先の男については頭から消し去り、今後のお仕置きにどう言い訳しようかを考えだしていた

 

◇◇◇

 

人気のないところで、緑色のライダー―――ディケイドドライブタイプテクニックはバックルを開いて変身を解除した

そのまま門矢士は手の中に収めていたUSBメモリを一瞥する

 

「…まぁ、概要は大体わかった」

 

念のためコピーしておいたものだが、正直必要なさそうだ

士はそれを地面に落とすと何度かそれを踏み抜いて、二度と利用できないように破壊する

もっとも、関連施設は百を超えているみたいだから、一企業襲撃された程度で実験は止まらない

 

現状自分にできる事はなにもない、様子見が一番だろう

 

あるいは、こんな状況を覆してくれる、ヒーローでも現れない限り、は

 

◇◇◇

 

あくる日の夜

特にこれといった仕事もなく、のんびり夕食を済ませて適当にゲームとかでもして時間でも潰していた

時間はもう十一時過ぎ、さぁ自分も寝るかと布団に潜り込もうとした時、携帯が鳴った

 

こんな時間に誰だろうと思いながら携帯の画面を見るとそこには御坂美琴の文字が表示されていた

 

「美琴から? なんだろ一体」

 

気になったアラタは通話ボタンを押して電話を耳に押し当てる

 

「もしもし?」

 

帰ってきたのは僅かな息遣い

吐息にも似たそれのあと、美琴は言葉を発した

 

<―――もしもし? もう寝てたかしら。…だとしたら、ごめんね?>

「いや、問題ない。それで、こんな時間に何の用だ? なんか相談事か?」

<相談事って、いうか、さ。…ねぇ、アラタ>

 

不意に改まって名前を言われ、アラタは首をかしげる

 

「…どうした?」

<もし、もしもよ? アタシが、学園都市に、災厄をもたらすようなことしたら、どうする?>

「はぁ? なんだそれ、自販機からジュースパクってることなら、早いとこやめた方がいいぞ」

<アンタもか! 黒子にも聞いたら同じこと言われたわ! そうじゃなくて!>

 

個人的には茶化したようにしら感じだが、美琴のある言葉にうん? と首を捻る

〝黒子にも〟? 自分に聞く前に黒子にも似たようなこと聞いたのだろうか

 

<もっと、学園都市全体の根幹に関わること…それこそ、色んな人の笑顔を奪うようなことよ…>

 

こんな夜更けに何を聞いてくるのかと思ったら

しかし美琴がもしそんな悪事に手を染めようなどという姿は想像もできない

できないが、万が一、そんなことがあったなら

 

「…まぁ、そん時はお前を止めるために立ちふさがるさ」

<…それは、風紀委員として?>

「馬鹿。友達としてに決まってんだろうが」

 

割と真剣に答えてしまった

電話越しで助かった、今間違いなく自分の顔は赤くなっているだろう

だって自分でもわかるくらいなのだから

 

<―――ふふっ、アンタらしい答えね>

「は、はぁ? それ喜んでいいのか?」

<当然じゃない。それじゃあお休み、〝また明日〟ね>

 

そう短く答えて電話は切れた

思わずアラタはそのまま画面を見つめる

黒い画面に映っているのは反射されている自分の顔しかない

どうしてあんな質問をしたのか、アラタにはわからない

わからないけど…なんだろう、この妙な胸騒ぎは

 

「…俺の知らないところで、何かが起きてる…?」

 

しかし考えたところで答えなど出てこず

これ以上考えても無駄と判断したところで思考を放棄しアラタはベッドへと身体を投げた

だが頭の中で、いつまでも美琴の顔がチラついていた

 

 

―――よかった

 

ベッドに眠る黒子をちらりと見ながら、美琴は携帯の画面へと見やった

電話の画面に映るのは、先ほど電話した鏡祢アラタの名前が表示されている

 

―――計画の中止と引き換えに、黒子やアラタに捕まるのなら、それも、いいかな


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。