全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

41 / 84
#34  樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)

まだ小さい頃、御坂美琴が泣くと、母―――御坂美鈴がなんでも解決してくれた

だけど、それはあくまでまだ自分が何も知らなかった子供のころの話だ

最も今もまだ十分子供だが―――それでも自分で考え、どうにかしようとする意志はある

 

母はここにはおらず、自分を助けてくれるような〝ヒーロー〟も存在しない

神頼みなんてことはできない

だから、全部自分で終わらせる

 

―――これは、私が引き起こしたことなのだから

 

◇◇◇

 

一人、御坂美琴は飛空艇のよく見える場所で、黄昏ながら時間を潰していた

 

「そろそろ、時間ね」

 

言いながら何とはなしに携帯をのぞき込む

映っている画像には、友達が映っていた

白井黒子

初春飾利

佐天涙子

春上衿衣

そして…鏡祢アラタ

これは春上衿衣がここに来て、みんなで歓迎するときにゲームセンターで撮った写真だ

 

「…私の友達ってだけで、変な目で見られないといいな…」

 

呟いた言葉を飲み込みながら、涙が零れそうになる

だがなんとかそれを我慢して、美琴はキッと、今ものんびり飛んでいる飛空艇をにらみつけた

空をゆっくり飛んでいる飛空艇のモニター画面には、明日の天気が表示されていた

その天気画面の結果には、一つのスーパーコンピューターが関わっている

 

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)…」

 

美琴はその向こうにいるコンピューターの名前を呟く

樹形図の設計者

気象データ解析という建前の元、学園都市が打ち上げた、人工衛星おりひめ一号に搭載された、世界最高のスーパーコンピューター

月に一回、地球上全ての空気の粒子を予測して、一月分の天気をまとめて演算して、その一回以外はこの学園都市に数多ある研究機関の予測演算として使用されている

それにはもちろん、二万人の妹達の製造と殺害の演算にも関わっている、アブソリュートシミュレーター

 

「よ」

 

不意に、聞き慣れた声が聞こえてきた

足音が徐々に近づいてくるのを感じながら、美琴は後ろを振り向いた

そこにいたのは、鏡祢アラタだった

美琴はすぐに思考を放り捨て、なるべくいつもの自分を出せるように笑みを浮かべながら

 

「あら。アラタじゃない。どうしたの?」

「どうしたの、はこっちのセリフだ。何してんだお前こそこんなところで」

「別にどうもないわよ。私だって、センチメンタルな気分に浸りたいときとかあんの」

「ふーん? …お、飛空艇だ」

 

何気なくアラタが視線を上にあげ、そんな言葉を呟いた

美琴もつられて、彼の視線を追いかける

そこには先ほど睨みつけていた飛空艇がのんびりと飛んでいた

 

「…私、あの飛空艇嫌いなのよね」

「? 唐突だな。理由は?」

「―――機械が決めた政策に、人が従ってるから、かな」

 

だから―――二度とこんなイカれた指示を出さないように、計画を改竄した上で…ブッ壊すッ!!

 

「それじゃあ、私そろそろ行くね」

「お、おう? またな」

 

踵を返して美琴は彼に背を向ける

背後から聞こえてくる彼の声に少しだけ耳を傾けた後、美琴は目的のために足に力を入れて歩き出した

 

◇◇◇

 

なんか美琴が変な感じだ

急にあんなわけわかんない言葉言ってくるようなやつだっただろうか

とりあえず訳も分からずのんびりと歩いていると一つの自販機が目に入ってきた

それは美琴と出会うきっかけにもなった自販機だ

 

まあきっかけと言っても、スキルアウトか命知らずか知らんけど、絡まれていた美琴を助けたのが始まりだった

 

 

「…助けてくれって、頼んだ覚えないんだけど?」

「そうかい。そいつは余計なお世話したな、けど性格上そういうの見過ごせなくってな」

 

その日は風紀委員の腕章はうっかり忘れており、腕にそれをつけていなかった

恐らく美琴も初めて会った時はその辺にいるチンピラの一人にでも見えただろう

 

「…だけど、一応礼は言っておくわよ。その、ありがとう」

「どういたしまして。まぁ分かってるとは思うけどさ、案外学園都市ってこういうの多いから、気を付けた方がいいぜ。君みたいな可愛い子は特にな」

「―――! か、可愛いって、誰のこと言ってんのよ!?」

「いや貴女以外誰がいるの。…え、まずいこと言った?」

 

お世辞抜きで褒めたつもりなのだけど

別にアラタは体形や年齢とかで人を判断したりしないし、実際目の前の常盤台の女の子は普通に可愛いと思ってあんな言葉が出たのだが

 

「…」

「? ど、どったの?」

「その、アンタは、馬鹿にしたりしないの? アタシのことガキとかガサツだとか」

「別に? 見方を変えればそれは個性だし、言葉遣いなんてのは後からでも矯正できる。…大事なのは、今をどう過ごすかだよ、お嬢さん」

「―――美琴」

「え?」

「御坂美琴よ。…私の名前」

「―――アラタ。鏡祢アラタだ」

 

向こうから名乗ってきたのだからこっちからも名乗らねばなるまい

しかし名前を聞いてびっくりした

この子後輩の黒子が敬愛してる人と同じ名前じゃないか、もしかして本人?

あかん、確かにこれは余計なお世話だったかもしれない

もうやっちゃったからいいけど

 

「アンタって、さっき性格上見過ごせないって言ってたわよね」

「あぁ、言ったけど?」

「…お人好しって、言われない?」

「よくわかったな、言われてる言われてる」

 

微笑んでそんな言葉を返すと、アラタの笑顔に釣られたのか美琴もくすりと笑顔になる

美琴はアラタの隣を過ぎるともう一度アラタの方を振り向いて

 

「ねぇ、そっちの都合が良ければだけど、ちょっと付き合ってくれない?」

「おいおい、初対面で告白かよ。出来ればお友達からで―――」

「違うわよ! ちょっとゲームセンター行きたいから、相手してくれって言ってんの! 一人でやるとつまんないゲームとかあるじゃない? 格ゲーとか」

「なるほど。まぁ俺でいいのなら相手になるが」

「決まりっ。それじゃあ行きましょう、時間なくなっちゃう」

 

そう言って小走りで駆けていく彼女の背中を、同じように小走りで追いかけた

 

 

その後は何となく想像つくだろう

門限が近づいて彼女を迎えに来た黒子と遭遇することで、美琴との関係はより強固なものへとなった

強固と言っても知り合いから友人に変わっただけではあるが、気兼ねなく話せる友人は大切だし、有難いものだった

最も、向こうが自分のことをどう思ってるかはわからないけど

せめてそこそこ仲いい知人クラスになってればいいんだけどな、なんて考えながら鏡祢アラタは足を運ばせた

 

くるくると、歯車が回っていることに、気が付かないままで

 

◇◇◇

 

たまたまか、偶然か

〝目的地〟への近道として、路地裏を選んだが、シンプルなカツアゲの現場を目撃してしまった浅倉涼ははぁ、とため息をつく

別段、カツアゲされている方を助けようなどという気はない

そんなもんされる方が悪いんだし、助けなくても別に自分の人生になんも支障はない

 

「あ、何見てんだテメェ?」

 

が、そういう時に限ってうっとうしい三下は絡んでくる

己の力量も分からずに、図に乗ってくる

 

「何シカトこいてんだあぁ!?」

 

ありきたりなセリフを叫びながらカツアゲしていた学生をこっちに向かって拳を突き出してきた

浅倉涼はあえて最初の一発を顔面で受け止める

 

(…痛ぇ)

 

多少鍛えてはあるが、やっぱり殴られるのは痛い

痛いけど―――これで〝正当防衛〟だ

浅倉涼は殴られたまま歪な笑みを浮かべながら、お返しと言わんばかりにその男の腹に拳を突き入れた

 

「ごっっふっ!!!?」

 

そのまま右手で右腕を掴み、その二の腕をへし折るように膝で叩きつけた

 

ボギリ、と硬い板を割ったような感覚

 

完全にぶっ壊れるように二度三度とそれを繰り返して、ついでに地面にその男を叩きつけてトドメと言わんばかりに全力でジャンプしてから両足で踏みつけた

 

「あぎゃああぁぁぁぁ!?」

「て、テメェ!!?」

「テメェらから吹っ掛けたんだ、殺さねぇだけマシだと思いなぁぁぁ!!」

 

倒れた男の仲間がこっちに向かってくる

丁度狙いやすい位置でもあったから、つい好奇心から二本の指を突っ込んだ

 

相手の〝眼球〟に

 

ぐぢゅり、と硬いゼラチンに指を突っ込んだみたいな感覚の後、絶叫しようとした男の顎を砕いて地面に倒れさせる

 

「…やりすぎたかなぁ、ま、どうでもいいか」

 

さすがにその光景を見て恐怖のあまり逃げようとする男をとっ捕まえて、壁に顔面を叩きつけた

壁に男の唾液や血が付着する

ふと、視線の先にとある人物が目に入る

それはバイザーをかけている妹達の一体だ

ガンガンと男を壁に叩きつけつつ、携帯を取り出しながら浅倉は時間を確認した

 

「もう時間か。ま、いい退屈凌ぎにはなったかな」

 

最後にもう一回全力でガツン、と壁に叩きつけて手を放す

ひゅーひゅーと息を吐きながら仰向けに倒れたその男の顔に最後に蹴りを叩き込みながら、浅倉涼はその場を後にした

絡んできた連中はスキルアウトみたいな容姿だし、カツアゲされてた男はいつの間にかいなくなってた

ま、この学園都市には生きてさえいれば治すような医者がいるみたいだし、大丈夫だろう

 

◇◇◇

 

御坂美琴は、現在樹形図の設計者情報送受信センター、という場所にいる

なぜその場所にいるか、というのははっきり言えば樹形図の設計者をハッキングするためだ

もちろん、樹形図の設計者を直接ハッキングするなんてことはできない

だから、学園都市で唯一樹形図の設計者と送受信するこのセンターで、樹形図の設計者に偽の予言を吐かせようというのが美琴の計画だ

 

もちろん、送受信センターの機密レベルはトップクラス

万が一バレてしまえば、自分は暗部コース一直線だろう

だから見つからないように細心の注意を図ってきていたのだが―――

 

「…人の気配が全くない…なんで?」

 

ここに至るまで、警備ロボが外にあっただけで、警備員や科学者などが全く持っていないのだ

どういうことだ? 罠か、それともまた別の作戦か何かか?

あるいはハッキングなんてできないものだと、これを裏で見て笑っている?

 

そんな美琴の警戒心を他所に、ついに美琴は通信室まで足を踏み込んだ

しかし、モニターとかの電源はついたままで、ここにもやはり人の気配は全くない

ふと、指でキーボード近くのデスクをなぞってみる

指の先には、びっしりと放置された埃が溜まっていた

昨日今日どころじゃない、かなり前に放棄されたみたいかのような埃の溜まり方だ

 

(…今それを考えても時間の無駄ね、とにかく、早いとこやんないと)

 

いったん思考を振り払い、美琴は携帯デバイスを取り出し、ハッキングを敢行する

初めてすぐ、とりあえず最近の更新履歴でも確認しようとして―――

 

「…更新件数、ゼロ件!?」

 

どういうことだ

樹形図の設計者の更新は、一日に数百件はあるはずだ

それなのに、なんでゼロだなんて

美琴は再度確認するべく、デバイスを操作する

 

(いや、申請自体は来てる…処理されてないんだ)

 

確認していくうちに、パスワードを要求するような文が表示された

美琴は能力でパスワードをハッキングして、それに打ち込む

次の画面に出てきたのは、報告書がズラッと並んだ画面だった

 

「…報告書…?」

 

第二十三次報告、二十四次報告…と番号順に見ていった矢先、一番最後の文字列に息を飲んだ

 

「―――最終報告書…!?」

 

消息不明の樹形図の設計者に関する最終報告

零時二十二分、衛星軌道上より、樹形図の設計者の姿が消失

同日一時十五分、第一次捜索隊を派遣…発見された残骸(レムナント)の一部を回収

分析の結果―――

 

 

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)は…存在、しない?」

 

御坂美琴は立ち尽くす

藁にも縋る思いでこの考えを実行したのに

暗部に落ちる覚悟をもってここにきたのに

友達を捨てる決意を抱いてここに来たのにッ!!

 

ぎりり、と握る拳からは、僅かに血が垂れてきた

今この場で、美琴に話しかけるものは―――存在しない

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。