全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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今回もリメイク前から一部文章を変えて流用しています
楽しんでもらえれば幸いです

ではどうぞ


#35 そうして、彼ら彼女らは立ち上がる

夕焼けの下、一人の女生徒がゆっくりと歩いていた

前髪に隠れたその目は、何を見ているかはわからない

ここまではっきりと意気消沈という言葉が合う状態は、女生徒―――御坂美琴自身初めてである

 

樹形図の設計者が、大破している

 

その事実は、美琴を消沈させるのに十分な事実だった

 

なんで大破しているのかはわからない

敵対勢力にでも落とされたのか、はたまた別の理由なのか

 

―――違う、そんな今はどうでもいい

 

問題なのは、計画をひっくり返す、最後の手段がなくなってしまったというシンプルな事実

 

それに加えて、樹形図の設計者がなくっても、実験は計画通りに続いている、ということ

 

「あ、そうだ」

 

本当に唐突に、美琴は思い出した

そういえばこの区画に、引継ぎ先の一つであった研究所があった

改めて携帯でその場所を確認すると、美琴は歪に笑みを浮かべた

 

「―――あはっ」

 

もうなんかどうでもいいや

とりあえず、このイライラを、叩きつけることができるのなら

 

 

警備ロボを能力で瞬殺すると、美琴はゆっくりと歩を進める

鬱陶しい、小賢しい煩わしいッ!

 

苛立ちをぶつけるように警備ロボをその辺に磁力を使って投げ飛ばす

悲鳴を上げながらこの施設の研究員たちが逃げていくのが見えた

見えたが…もうどうでもいい

 

あぁ、そうだ

まだ終わったわけじゃない

数が増えても、結局全部ぶっ潰せばそれで終わるじゃないか

今あるものも、引き継ぐモノも…何もかもッ!!

 

そうだ、全部ぶち壊せばいい

 

施設も、資材も、欲も、何もかも壊し尽くせば、いつか…

 

―――いつか? そんなに都合のいい日が、本当に訪れると思ってるの?

 

聞こえてきたその幻聴にハッとする

 

―――そのいつかが来るまで…あと何人の妹達がぬのかしら?

 

 

 

「―――五月蠅いっっっっっ!!!!!」

 

 

 

叫びと共に放たれた雷撃

美琴の声に呼応するかのように雷は威力を増して、周囲のモノを壊し尽くす

 

「じゃあどうすりゃいいのよッ!! 計画を! 中止に! 追い込む方法が! 他にどこにあるってんのよ!!」

 

辺りに美琴は子供のように喚き散らす

だが喚き散らしても、帰ってくる声は何もない

空しい静寂が、美琴を包み込む

ふと、その時まだ生きているモニター画面が視界に入ってきた

どうやらいつの間にかモニタールームみたいなところに入ってしまっていたようだ

 

「…あ?」

 

モニターの向こうには、怪我をして倒れている御坂妹

そして、それに歩み寄っていく、一方通行(アクセラレータ)の姿がいる

画面の右上に、LIVE配信という文字…つまり、今これは起きている実験の様子

それが何を意味しているのか、美琴は理解した

 

「あ、やだ…待って! まってよ…!」

 

思わず画面に縋りつく

だが、そんなことをしても手は届くことはなく、声もまた届かない

 

「やだ! 待って、まってよ! まっ―――」

 

刹那、モニター画面は赤に染まった

何が起こったかは、容易に想像ができる

こびりついた朱色に、僅かに付着した茶色い毛髪

 

「あ、あ…l

 

嗚咽と共に、ゆっくりと美琴は膝をつく

あぁ―――私は…なんでこうも無力なんだろう

 

―――なんて…無様…

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

「おっす。お疲れ様、ナガちゃん」

 

公園にて、神那賀雫は伊達明の本日の特訓から解放された

 

「お疲れ様です、伊達、さん…ですけど、これでホントに、いいんですか?」

「うん? 何が?」

「バースデイを使いこなすためとはいえ、連日基礎訓練のやり直しばっかり。正直、強くなってる実感なくって」

 

コンビニで買った水を呷りながら、神那賀の言葉に伊達はうーんと考える

伊達明に特訓を指示してもらっているとはいえ、正直やってることは走り込みや腹筋、背筋とかの基礎的な訓練ばかり

戦闘技術とかそういうのはからっきしである

時間をかけてたっぷり十秒くらい経ってから、伊達はにかっと笑いながら

 

「わかんない」

 

めちゃくちゃいい笑顔なのが余計腹立った

 

「いいんですかこんなんで! 私ホントにバースデイ使いこなせるんですよね!?」

「あー、それは大丈夫よ。大事なのは、結局のところ、ここなんだから」

 

言いながら伊達は自分の胸をドンと叩く

その後、伊達は真剣なまなざしで神那賀を見つめて

 

「正直、ナガちゃんのセンスはピカイチだと俺は思ってる。後は基礎をしっかりやれば、絶対にナガちゃんは強くなるって」

「…本心で言ってます?」

「もちのろんよ。安心しなさいな、絶対にバースは、君の想いに答えてくれるって」

 

言いながら伊達はコンビニ袋から一つのカッププリンを取り出すと、それを神那賀に手渡して、ついでにスプーンも渡しながら

 

「こいつは差し入れだ。それじゃあな、ナガちゃん」

 

言いながら伊達はベンチに置いてあったミルク缶をよっこいせ、と担ぎながら、公園を後にした

小さくなっていく伊達の背中を見つめながら、神那賀は手に持っているプリンに視線を落とす

とりあえず食べようか、と思った時、カップの底に違和感を感じて、神那賀は底を覗いてみた

 

「…これ、スプーンついてる奴じゃないですか…」

 

忘れてたのかうっかりなのか

とりあえずプリンでも食べて一服して、沢白博士の所にでも行こう

カップの下についてあるプラスチックのスプーンを取ると、蓋の部分を引っぺがしてスプーンを突き刺して一口ぱくりと食べてみる

 

「…美味しい」

 

◇◇◇

 

 

アラタは当麻から連絡を受け、道を走っている

内容は信じられないものだった

 

簡潔に、延べよう

 

それは御坂妹が死亡した、というあまりにもあっけないものだった

 

アラタが駆け付けると、そこに当麻はいた

当麻は両手に黒猫を抱えていた

何故、そういった状況になったのか、それをアラタは聞かなかった

聞いたらまた、思い出してしまいそうだから

彼はひどく落ち着いていた

それでもそこから離れなかったのは、彼なりの意地だったのか

当麻はアラタに気づくと声を出す

僅かに震えた声色で

 

「あ、アラタ…」

「当麻、その、状況は」

 

仮にもアラタは風紀委員だ

それでも殺害現場に遭遇するとは思わなかったが

とりあえず、警備員には後で連絡をするとしよう

 

「そこの、路地裏だ。…うん」

 

その言葉でアラタはだいたい察した

 

「なぁ、友達が死んだのに! なんで俺はこんな冷静なんだ!? もっと取り乱してもおかしくないのに、なんで…なぁ、なんでっ!」

「落ち着け、当麻」

 

ずい、と手を顔の前に出され当麻は言葉を止める

 

「何もできないわけはない。少なくともそれを探しにその現場に行く。お前はどうする、残るか」

 

少し経って、当麻はアラタの顔を見て言った

 

「俺も行く。理由なんてわかんないけど…もう逃げたくないんだ」

 

◇◇◇

 

「…む」

 

その路地裏に赴くと、どういう訳だか件の遺体はなかった

しかし当麻の言っていることが嘘だとも思えないアラタは周辺を操作しようと辺りを見回す

確かに血痕とかは見つけることは出来なかった、しかし壁の傷の違和感に気づくことが出来た

しかしその壁の傷は何でついたのか、それだけが分からない

 

ふと、どこかでもぞりと動く影があった

それに気づいた当麻がその影に向かって叫んだ

 

「誰だ!」

 

釣られてアラタもその方向を見る

その人影は意外にも小柄だった

体格から察するに、その子は女子だろうか

しかしその肩に担がれている寝袋のようなものが何よりも怪しかった

 

やがて二人はそれを見た

 

あきらかに怪しい寝袋が入ったそれを持っていた人物の正体、それは―――

 

 

他ならぬ御坂妹だったのだ

 

 

目の前で起きていることが理解できなかった

 

あまりにも奇怪な光景に二人は凍りついた

見間違えるはずはない、それ以前に二人の本能が言っている

目の前にいるのは、御坂妹だと告げている

 

肩まである茶髪に半袖のブラウス、サマーセーターにスカート…

なじみのある姿がそこに立っていた

 

「申し訳ありません。作業が終了したら戻る予定だったのですが、とミサカは最初に謝罪を述べます」

 

視線に仕草、雰囲気に何よりもその口調

間違いない、彼女は御坂妹だ

 

「なぁ、お前は御坂妹で間違いないのか?」

 

そうアラタは問うた

念のため、という意味もあったがそうであると当麻が見たのは幻覚とかそういうものなのだろうか

仮にそうだとしたら、蜃気楼もいいとこだ

当麻はへなへなと言った様子で膝を付く

 

「くっそ…なんだったんだ結局…」

「さぁな…けど、お前の見た光景は夢とかの類になっちまったが」

「? お二人が何のことを話しているかは存じませんが―――」

 

当然だ

ついさっきここらへんにお前の遺体があったんだ、などとは死んでも言えない

いずれにせよ、妹が無事ならそれで問題はないと思っていたその時

 

 

 

「―――ミサカはちゃんと死亡しましたよ、と簡潔にミサカは述べます」

 

 

 

は、と当麻が声をあげ、アラタは眉間にしわを寄せる

そこまで聞いてふと、彼女が担いでいる寝袋に視線がいった

人ひとりがずっぽりと収まるであろうサイズであろうその寝袋

アラタは注意深く観察し―――気づいた

彼は当麻の肩を叩き、その視線を促す

 

「…おい当麻、見ろ、あの寝袋」

「え…?」

 

アラタに促されて改めて当麻はその寝袋に視線を移した

壊れたマネキンでも入っていそうな、造形のおかしい関節の向きが変なその異様なシルエット

そこで当麻も気づいてしまった

ファスナーからはみ出している―――茶色の髪の毛に

 

「―――っ!!」

 

当麻は絶句し、アラタは冷や汗を流す

この短い時間帯で様々な事が起こりすぎている

偽物か、もしくは人形かとも考えた

しかしその艶や質感と言った何もかも、担いでいる御坂妹に酷似していた

 

「おい、その寝袋…一体何が入ってんだよ…!?」

「そもそも、お前はここで何やってる?」

「分からないのですか? とミサカは問い返します。…しかし、そうですね、確かに貴方方は〝実験〟との関係性はなさそうです、とミサカは直感で答えてみます」

 

御坂妹は続ける

 

「念のために確認を取ります、ミサカは有言実行します。―――」

 

そう言ったのち、御坂妹は何かを呟いた

しかし言っていることは全く理解できない

 

「は、ちょ、おま…何を言ってるんだ?」

 

と、当麻は戸惑った

当麻が分からないなら、当然だがアラタにだって分からない

 

「分からない時点で、関係者ではなさそうですね、とミサカは確信します」

 

一体、何を言ってるんだ、と思う

話している言葉は日本語なのに、まったく理解できなかった

 

「寝袋に入っているのは、妹達ですよ、とミサカは答えます」

 

疑問に答えたのは確かに御坂妹の声だった

しかしその声はその寝袋を抱えている御坂妹の背後から聞こえたもので

感覚に間違いはない、だからこそそれが誰か分からなかった

 

「黒猫を置き去りにしたのは謝ります、とミサカは謝辞を告げます」

 

彼女の背後から顔を出したのは、御坂妹だった

 

「しかし無用な争いに動物を巻き込むのは気が引けました、とミサカは弁解の言を言います」

 

顔を出したのは一つではなかった

どんどんとその顔は増えていく

マンガみたいな、分身でもしているように増えていく

ふと、気が付いたら

 

二人は大多数の御坂妹に囲まれていた

 

「…なんだ、これ?」

 

当麻は口に出すがアラタも同様に混乱していた

つまりさっき当麻が見た遺体はこの中の一人が殺された、という解釈でいいのだろうか

そしてそれの隠ぺいにもこの大多数の妹たちがやったのだろうか

 

確かに人間の血など凝固剤やドライヤーの熱風でも使えばすぐに固まる

指紋とかルミノールも専用の薬でも使えば消せるだろう

 

いや、違う、そうではない

双子―――俗に言う一卵性双生児は確かに遺伝子レベルでの同じ骨格を持った兄弟だ

 

だが、どうして目の前の彼女たちはこうも彼女(みこと)に似すぎているのだ

普通兄弟と言ってもずっと同じ体格を維持できるなどあり得ない

十年、二十年と時を重ねれば当然生活リズムは変わり、自分に影響を及ぼすだろう

しかし妹はあまりにも似ている

 

まるで、彼女に合わせるような

まるで、作られたような

 

ふと、アラタは当麻の持っている黒猫へと視線を移した

囲んでいる御坂妹たちはどうも自分たちの事を知っているようで、さらに黒猫の事も知っている

アラタは御坂妹と当麻、そして黒猫にあった出来事は知らないが、同じような疑問を恐らく当麻は感じているハズだ

もしかして、今寝袋に入れられている人物こそが

 

「心配はいりません、とミサカは答えます」

 

寝袋を抱えた御坂妹は答える

 

「貴方方が今日まで接してきたのは検体番号10032号、つまり私です、とミサカは自分を指差しながら答えます」

 

ピ、と開いた手で自分を指し言葉を続ける

 

「ミサカは電気を操る能力を用いて互いの脳波をリンクさせています。他のミサカは単に10032号の記憶を共有させているにすぎません」

 

脳波リンク

信じられない事ではあるが双子ならあるいは、とも思う

遺伝子レベルで同じならば

 

そこまで考えて首を振る

この際、そんな事はどうでもいい

二人を代表し、上条当麻は問いかける

 

「…お前は、誰なんだ」

 

「学園都市で七人しかいない超能力者、御坂美琴(おねえさま)の体細胞クローン…妹達(シスターズ)ですよ、とミサカは答えます」

 

息を飲むような音が聞こえる

当麻を追いかけるように、今度はアラタが問いかけた

 

「じゃあ、そこで何をしている」

 

「実験ですよ、とミサカは言います。無関係な貴方たちを巻き込んでしまったことを重ねて詫びましょう、とミサカは頭を下げて謝罪します」

 

去っていく彼女たちにかける言葉が消え失せた二人はその場で立ち尽くしてしまった

もう何が何だかわからないくらいに、彼女の背中は違っていた

違い過ぎていた

 

◇◇◇

 

「…」

 

その辺の公園にて

上条当麻と鏡祢アラタは互いに隣り合って座っていた

当麻は膝に肘を付けながら両手で猫を抱きかかえながら、アラタは大きく背もたれに寄りかかって夕闇色へと変わっていく空を見上げる

 

―――実験ですよ、とミサカは言います。無関係な貴方たちを巻き込んでしまったことを重ねて詫びましょう、とミサカは頭を下げて謝罪します

 

頭の中で思い出させるのは、先ほどの言葉の羅列

 

―――学園都市で七人しかいない超能力者、御坂美琴(おねえさま)の体細胞クローン…妹達(シスターズ)ですよ、とミサカは答えます

 

やがて思考が合致したのか、男二人は徐に立ち上がる

アラタはちらりと当麻へと視線を移して

 

「お前も行くのか?」

「そっちこそ。行くのかよ」

「あぁ。美琴に会って、確かめないといけないことがあるからな。それに、お前もだろう?」

「…あぁ、正直一人で行くことも覚悟したけど…お前が一緒なら心強いよ」

「これから行く場所を考えると、そりゃあね。…よし、行くぞ」

 

互いにそんな会話を挟みながら、二人は歩き出していく

巻き込んでしまって、申し訳ない、だぁ?

上等だ、だったらこっちも、巻き込まれに行ってやる

 

 

「あれ。門矢先生」

 

沢白博士の所にたどり着いた時、どういうわけか部屋には門矢士が座って寛いでいた

奥の部屋では誰かが寝てるっぽいし、肝心の沢白博士本人は見当たらない

 

「んー? なんだ、お前か」

「開口一番なんだってなんですかなんだって。沢白博士は?」

「コンビニだと。あとそこ、お前が来たら渡してくれってさ」

 

そう言って士はテーブルの上に置いてある少し大きめなアタッシュケースを指さした

神那賀は頭に疑問符を浮かべながらそのケースを開けると、まるで新品同然のような輝きを放つバースドライバーがあったのだ

 

「おー…!」

「アップデートやら改修が終わったってよ」

「さっすが沢白博士、いい仕事するっ」

 

テンション上がっている神那賀はケースからバースドライバーを取り出すと、勢いよく腰に巻き付けて調子を確かめるように、軽く体を動かしてみる

うん、つけた感覚も前以上に体にフィットする感じがする

 

「…ところで、門矢先生はどうしてここに?」

「あぁ、あの博士なら知ってると思ってな」

「知ってる? 何を?」

 

神那賀が聞くと、士はゆっくりと椅子から立ち上がって

 

「それは…いや、沢白が来たら言うとしよう」

「…えー?」

 

勿体ぶる門矢士に、神那賀雫は不満を漏らした

 

◇◇◇

 

二人は常盤台女子寮へと上がり込んでいた

さすがに当麻一人の場合はここに来るのに少し勇気がいるが、常盤台の女子と知り合いであるアラタがいるので大分当麻の余裕が違う

 

アラタは手慣れた様子で部屋番号を入力し、部屋へと繋がるインターホンを押す

 

「美琴、あるいは黒子、いるか? 俺だ」

<―――へあ!? な、なんでお兄様がこちらにっ!?>

 

向こうから黒子の声が聞こえてくる

勉強か、あるいは風紀委員の仕事でもしてたのか、向こうからどたどたと片づけたりなんかしてるような音が聞こえてくる

時間にして大体十五秒くらいして、もう一回黒子の声が聞こえてきた

 

「いや、美琴に話があってな、今いるか?」

<? いいえ、お姉さまは出かけておりますわ>

「え? まだ帰ってないのか?」

<えぇ。御用がおありなら、ぜひ上がって待っててくださいな>

 

そう声が聞こえたと思うと、中へと続く玄関の鍵のロックが解除された

何はともあれ、向こうの許可が下りたということだ

 

「よし、行くぜ当麻」

「え? あんなんでいいの? っていうかあれでいいの?」

「あぁ。黒子が言うんだ、問題ないだろう」

 

その黒子というのがわたくしはわからないのでせうが

思った疑問を言葉にすることなく、とりあえずアラタの後ろをついていく

 

「…なぁ、アラタって、頻繁にここ出入りしてんの?」

「頻繁ではないがな。たまにここの寮監さんに差し入れ持ってったりしてるの」

 

そうなのか、と当麻は頷く

冷静に考えるとアラタってわりかし勝ち組なのではないだろうか

…風紀委員って、出会いとかあるのかな、諸々落ち着いたらなってみようかな、風紀委員

と、一瞬考えたけどすぐにその思考を振り払う

多分、似合わないと本能的に察してしまった

 

 

「黒子?」

 

こんこん、と扉の前でノックすると部屋の向こうからとてとてと足音が聞こえて、ガチャリとドアが開け放たれる

 

「ようこそおいでくださいましたお兄様。…はて? そちらの殿方は?」

「あぁ、こいつは俺の学友だ。色々あってな」

「はぁ。まあお兄様がそういうなら」

 

黒子に案内されて室内へと赴く二人

ドアの外見もホテルみたいだと思っていたが、部屋の中もホテルみたいな感じだった

奥のベッド二つとサイドテーブル、小さい冷蔵庫だけ

クローゼットはなく私物は全部ベッド横の大き目なスーツケースに収めているようだ

 

「申し訳ございません、もともと寝て起きるための部屋なので、客人をもてなす用意はあまりないんです」

「気にしないでくれ、押しかけたのはこっちだからな。贅沢は言わないよ」

「…お気遣い感謝しますわ、お兄様。とりあえず、お姉さまを待つなら、そちらのベッドに腰かけといてくださいな」

「え、いや、座らせてくれるのは有難いんだけど、勝手に座って大丈夫なのか?」

「ご心配なく。そちらがわたくしのベッドです」

 

・・・

 

当麻は一瞬何かを言いたそうな顔をしたが、言葉を飲み込んでゆっくりと黒子のベッドに座った

対してアラタはやれやれといった様子で同じように黒子のベッドに腰を掛けた

とりあえず部屋の空気を変えるべく、当麻が口を開いた

 

「し、しかし意外だな。お姉さまって言ってるもんだから、てっきり、御坂の後輩かと思ってたんだけど」

「あら。私はれっきとした後輩ですわよ? ただ前の同居人の方には合法的に出ていってもらっただけで」

 

こえぇよ、と内心呟きながら、当麻は体を震わせる

彼の両手に抱かれた猫が彼の気持ちを代弁するかのようになーと短く声をあげた

 

「それにしても、どうしてお部屋を直接お尋ねに? お兄様アドレス知ってるじゃありませんか」

「え、あ、あぁ。…ちょっとな」

 

例の事を電話越しで聞こうとは思わなかった

どうしても、アイツ本人の口から聞きたかったから

口ごもる彼を見てはぁ、と黒子はため息を吐きながら

 

「まぁいいですけども。それにしてもお姉さまったら無自覚なのが困りものですわ。お食事中も入浴中もお兄様のことばっかり。思わず嫉妬してしまいます」

「え? 初耳だぞそれ」

「そりゃあ本人前にしてこんなこと言えないでしょう」

 

それもそうだ

面くらって黙ってしまったアラタをフォローするかのように黒猫を抱きかかえた当麻が

 

「け、けど、アイツっていっつもリーダーシップ発揮して、グループの真ん中に居そうだけどな」

「だからこそ、ですの。お姉さまは輪を作ることはできても、混ざることはできない、敵を作ることは避けられないんです。そんなあの人に必要なのは、対等に向き合ってくれる、お兄様みたいな方なのです」

 

黒子の言葉を受けて、当麻とアラタは押し黙った

いいや、それ以上に深く考え込んだのはアラタの方だ

 

きっと、自分とくだらない話をしていたあの時間は、アイツにとって一番安心できる時間だったんだろう

 

「…俺が知らない絆ってのが、きっとあんだな」

 

ポン、と当麻に肩を叩かれて、ふふ、と短くアラタは笑みを返した

なんだか気恥ずかしい

今回の騒動終わったらもう少し優しくしてみようかな、と思った時、部屋の外から足音が聞こえてきた

 

すかさず黒子が扉の前にテレポートして耳を澄ましてみる

 

「―――まずい、寮監ですわ」

「! マジでか」

 

黒子の言葉にアラタも声を潜めながら立ち上がった

二人の剣幕に釣られて、当麻も意味が分からないといった様子でベッドから立ち上がる

 

「や、やばい人なのか!?」

「普段は優しいんだがな。…ああ仕方ない、当麻、ベッドの下に隠れろ」

 

そう言っていそいそとアラタは黒子のベッドの下に隠れてしまった

 

「何してますの! 貴方も早く!」

 

小声で促す黒子に頷きながら当麻も美琴の方のベッドの下に隠れていく

彼が隠れた直後バン! といきなりドアを開いて中の様子を覗いてくる寮監に黒子は応対し始めた

 

「? 物音がしていたみたいだが?」

「確かにしていましたわね? 隣でしょうか…?」

「ん? 御坂は寝てるのか」

「はい、このところ深夜寝付けないとおっしゃっておられまして…ちょっとクレームを言わせていただきますわ」

 

そう言って、黒子は寮監と一緒にこの部屋から出ていった

ひとまず、当面の危機は去ったか

ゆっくりとアラタがベッドの下から這い出てくると、当麻が何やら紙束を持っていた

 

「? なんだそら」

「俺にもいまいちわからねぇ。…けど、もしかしたら…」

 

そう言って当麻はその紙をめくりだす

アラタも彼の隣に行って、その内容を確認し始めた

 

 

量産異能者、妹達(シスターズ)運用における超能力者〝一方通行(アクセラレータ)〟の絶対能力への進化法

 

学園都市には七人の超能力者が存在する

その中で樹形図の設計者の演算によって絶対能力に辿り着けるものは一方通行のみ

 

彼は事実上、最強の超能力者である

演算によるとそれを素体として用いれば通常カリキュラムを二百五十年組み込めば絶対能力へとたどり着くとされた

 

我々は二百五十年法としそれを保留、別の道を探してみた

そして樹形図の設計者を使用して演算した結果百二十八種類の戦場を用意し超電磁砲を百二十八回殺害すれば可能である、と判明

しかしながら超電磁砲を百二十八人を用意することなど不可能、そこで我々は同時に行われていた超電磁砲量産計画〝妹達(シスターズ)〟に注目した

当然だが量産型の妹達(シスターズ)では性能が違う、多く見積もってもせいぜい強能力者(レベル3)程度だ

これらを用いて樹形図の設計者に再演算させた結果二万の戦場を用意し、二万の妹達(シスターズ)を用意すれば先ほどと同じ効果を発揮することが判明した

 

妹達(シスターズ)はの製造方法はそのまま転用、超電磁砲の毛髪から摘出した体細胞を用いて受精卵を用意Mこれに薬物を投与して成長速度を加速させる

 

その結果約十四日で超電磁砲と同様、十四歳の肉体を手に出来る

もともとが劣化品であるため、寿命が減じている可能性があるが実験を実行することには問題ない

 

 

レポートを読み終えてアラタは手を握りしめた

そして口の中でふざけるな、と呟く

あの少女たちは殺されるためだけに作られたとでも言うのか

そんな事が、許される世界になってしまったというのか

違う、そんな事があっていいはずがない

 

「アラタ、気持ちはわかっけど、もう一個見てほしいとこがあるんだ」

 

レポートを睨んでいるとふと当麻から声が聞こえた

そして当麻はす、とある一点を指差した

なんだろう、と思い当麻が指差した場所を見つめてみる

そこで気づいた

そのレポートの上右側と下左側にあるバーコード

 

このレポート自体はデータ上に印刷物だ、別にそれは構わない

問題はそれと一緒になっているバーコード

 

唐突だが学園都市の端末にはランクがある

携帯がD、一般端末はC、学校の教師が使う端末はB、研究機関の端末はA、理事会の専用端末はSというようなものだ

アラタはバーコードをよく観察する

確か上のバーコードは端末のランクで、下がそのデータのランクだったはずだ

 

上の端末のコードは、C

下の情報のコードは、A

 

これはCの端末でAランクの情報を引き出した、という事になる

それはつまりどういう事か

 

 

 

アイツはきっと、ずっと一人で戦っていたんだ

 

 

 

二人は互いに頷きあい、改めてそのレポートに目を通す

そこでふとがさり、と地面に落ちた紙が一枚

当麻はそれを拾い上げてばさばさ、と広げた

それは一枚の学園都市の地図だった

結構折りたたまれて全部広げてみると本棚くらいの大きさだ

その地図は路地裏など細かく記載されており、その地図のあちこちに赤いバツ印が書かれている

それは地図のあちこちにあった

 

気になった二人は当麻の携帯を用いてその座標を調べてみた

すると一件の建物の名前が表示される

 

〝金崎付属大学 筋ジストロフィー研究センター〟

 

筋ジストロフィー

その単語を聞いていつの日か飛空艇でやっていたニュースに、その研究センターが撤退だのなんだの表示されていた

その証拠に調べた建物全てがその筋ジストロフィーに関する建物だったのだ

そしてその場所全てに、バツ印がついている

 

そこである疑問に思い至った

 

ふと窓の外を見る

もう夜は更けていた

なのになんで御坂美琴は帰ってきていないのか、という疑問

このバツ印はなんだ、という疑問

研究所は撤退を表明した、という意味、いや、それ以前に―――美琴は今どこで何をしているのか

 

このレポートは正規に入手したもではない

となると美琴は実験の協力者でもない

もし、美琴の意に反して実験が進められているとしたら

美琴(かのじょ)はどんな行動に出るだろうか

 

「…そうか。そうなんだな」

「あぁ。俺たちは、アイツの味方でいられる」

 

それさえわかれば十分だ

居てもたってもいられなくなり、そのまま窓を開け放ち、当麻を抱えてアラタは外へ飛び出した

たしかレポートに書いてあった

一万三十二次実験、時間は二十時三十分

現在時刻は十九時半、場所は書かれてなかったが、知ってそうな人に一人、心当たりがいる

 

 

「お、神那賀くん来てたんだね」

「は、博士」

 

ふと、コンビニ袋片手に沢白凛音が帰ってきていた

彼女は袋の中身を机の上にぶちまけながら

 

「あ、もしかしたらもう渡ってるかもだけど、バースドライバーの調整とか終わってるからね」

「はい、ありがとうございます。これでいつでも、リベンジに行けます…!」

 

会話をしながら、沢白は最後にコンビニ弁当を取り出し、それをレンジに入れながら門矢士の方へと視線を向けて

 

「それで。士はどうしてここに?」

「あぁ、聞きたいことがあってきた。アンタなら知ってると思ってな」

「? 何を聞きに」

「レベル6シフト、今日行われる実験場の場所だ」

 

士がすらりと言ったその言葉に、沢白も神那賀も押し黙る

 

「…門矢先生も知ってるんですか? その悍ましい実験を」

「あぁ。概要調べたら、ちょっと腹立ったからな。嫌がらせでもしてやろうと思ってな。っていうか、やっぱりお前も知ってたか」

「当然です。私はその戦いで、敗北を体験しました。…だから、今度は負けたくないんです。そして、御坂さんを助けたいんです。きっと彼女は、今も苦しんでる」

 

神那賀の言葉を聞いて、士はふぅん、と短く息を吐いた

コテンパンにされてもなお、友達の為に戦う、か

立派な心掛けだ

 

「まぁいいよ、教えても。私もああいう実験は見ててむかっ腹が立ってくるんだよネぇ」

「…俺が言えた義理じゃないかもしれないが、自分でやろうとは思わなかったのか?」

「やろうとしたけど、流石に一人じゃあ無謀だし、一方通行を攻略できる術がなくってサ。士なら何とかできそうだと思ってね」

「なるほどな。まぁ、確かに俺ならできなくはなさそうだ」

「けど、それで君が実験を止めたとして、果たして実験が止まるかどうか」

「うん? どういう意味だ」

 

士の言葉に、沢白はレンジの弁当を取り出し、机の上に置いて蓋を開けながら

 

「あぁ、確実にあのバカげた実験を止めるには―――」

 

その時だった

沢白のポケットに入れてある携帯が鳴り始めたのは

彼女は徐に手を突っ込んでポケットから携帯を取り出す

 

「…アラタ?」

「え? アラタさん?」

 

沢白は何となく通話ボタンを押した後、スピーカーをオンにする

すると電話の向こうから彼の声が聞こえてきた

 

<博士ぇ! 唐突で悪いんだけど、場所聞きたいんだけど!?>

「場所? どこのだい?」

 

沢白が聞き返すと、走りながらでもしゃべってるのか、息を吸うような声の後、言葉が紡がれる

 

<レベル6シフト! 超電磁砲! 妹達! 一方通行! これで察してくんないか! わりぃけど急いでんだ!>

 

沢白の表情が驚きに染まり、思わず神那賀は口元を手で覆ってしまった

そして士はふふ、と小さく笑みを浮かべてしまった

沢白は答える

 

「あぁ、だがちょっと待っててくれ、私も君らに合流する」

<え? なんで!?>

「いいから! では後で!」

<あ、ちょ!?>

 

向こうの声を無視し、沢白は通話を切る

そしてポケットに携帯を戻すとにぃっと笑みを浮かべながら

 

「…役者はそろった、って感じか?」

「あぁ。電話にはアラタの声しか聞こえなかったけど、横に彼の友人の声も入ってた」

「上条当麻、だな?」

「知ってるのかい?」

「よぉく知ってる。退院してすぐ入院しに戻ってきたウニ頭だ」

「はっはっは、酷い言われようだ。だけど、彼がいるならきっとなんとかなる…。神那賀くん、準備はいいかナ?」

 

神那賀へ聞くと、彼女は決意を込めた表情で頷き

 

「問題ないです」

「オッケー。士は?」

「いつでもいい、時間ないんだろ? さっさと合流しようぜ」

 

士の言葉に頷くと、沢白は新しい白衣を羽織り、それに袖を通す

ばさぁ、とという言葉が似合うくらいにそれを着こなすと沢白は歩き出す

 

「さぁ、嫌がらせ(反撃開始)と行こうじゃないカ!」

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