全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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#54 決着

急がないと

 

真っ暗になっている病室の中、御坂妹は起き上がる

彼女は平たく言えば電気を扱える能力者であり、同時に同じ波長の脳波を持つものなら電気的な通信を行える

他の妹達(シスターズ)の多くは学園都市の外の施設を利用しており、学園都市に残っているのはごく少数だ

 

(―――では、再確認します、とミサカ10032号はネットワークを介してみんなの記憶情報の最適化を実行します)

 

彼女はベッドの近くの棚に置いてある特殊ゴーグルを掴む

 

(現状、世界八か国と十九の組織が宇宙開発という名目でシャトルの打ち上げを実行、もしくは計画しているのは衛星軌道上に浮かんでいるであろう樹形図の設計者の残骸を入手するためである、という事で間違いありませんか、とミサカ10032号は確信を得るために質問します)

 

それが事実ならば、その樹形図の設計者が組み直されようとしていて、そしてそれをするために必要な残骸を巡ってトラブルが発生している

世界で最も優れている演算装置の修復は、ある〝実験〟の再開を意味している

 

とある少年たちと少女と、青年たちが必死になって止めてくれた〝実験〟の

 

―――セビリアで同様の動きを確認、とミサカ10884号は肯定します

―――シュレスウィヒで確認、とミサカ16770号も報告します

 

ベッドから足を下ろした御坂妹の脳内に様々な声が響き渡る

世界各地の研究機関に預けられ、治療を受けている同型の妹達(シスターズ)

様々な情報や無数の意見に御坂妹は奥歯を噛む、どれもよくない情報ばっかりだ

もう答えを得た情報を何度も確認するその作業は冗談であってほしいという願望が含まれてはいるのだが

 

(…すでに外出禁止時間ではありますが、そうも言っていられません、ともミサカは自分に言い聞かせます)

 

御坂妹は寝間着に手をかけ、それをストン、と地面に落としタオルを用いて自分の身体を拭いていく

タオルから伝わる自分の体温が平常より少し高い

体調不良で若干ながら微熱を伴っているのだ

少しふらつきながらも普段着ている常盤台の制服へと袖を通す

そして軽く準備運動を済まして出口をちらりと見つめる―――しかし首を振って窓の方へ駆け寄った

 

 

「ふぃー」

 

夕食を食べ終えてインデックスと入れ替わる形でお風呂にも入り終えた当麻は後はゆっくりのんびりしていようと考えていた

しかし唐突になったチャイム音でその平和は終わる

 

扉の前に立っていたのは黒い長髪の女の子だった

首には何かネックレス的なのをかけており、頭にはなんか角みたいなカチューシャをしている

そして極め付けにはその服装だ

上から下まで黒いワンピースと真っ黒づくめだったのだ

そしてそんな彼女を知っていたのかパジャマを着たインデックスが彼女を見つけた瞬間に笑顔になったのだ

 

「みのりー!」

「あ、インデックス。やほー」

 

お互いに名前を呼び合って駆け寄ってくるインデックスと抱き合う二人

そんな仲睦まじい様子を茫然と見ながら当麻はインデックスに向かって口を開く

 

「えっと。知り合い?」

「うん。ともだちなんだよ」

 

さいですか、と当麻は答える

それと同時にどこか当麻は安堵していた

自分を経由しない、友達が出来ていることに

もしかしたら彼女はアラタ経由なのかもしれないが、それでもだいぶ進歩したと思う

 

「ねぇとうま」

「うん? なんだインデックス」

「みのりと一緒にげーむやっていい? 二人でできるのあったよね?」

「おお、いいぞ。待ってろ、今テレビと繋げるから…」

 

快く了承しながら当麻は居間へと戻り、ゲーム機とテレビを繋げる

その間もインデックスとそのみのりは楽しそうに話を続ける二人に思わず小さく微笑む

やがてつつがなく接続は終わり、楽しそうにインデックスとみのりはゲームを開始した

 

「―――えっと、みのり、さんだっけ」

「うん。あとみのりでいい。私もトウマって呼ぶ」

「ん、そうか。じゃあみのり、そう言えばなんで俺の部屋に?」

「アラタに言われた。今日はちょっと出かけるからその間、俺の友達の部屋にいなよって」

 

と、なると今現在アラタは部屋にいないのだろうか

自分も結構アラタの知らない所でいろいろ巻き込まれてるが同様にアラタも何かに巻き込まれているのだろうか

 

「ちなみに割と不幸ってことも聞いてます」

「…余計な事を」

 

しょうもない事を教えた親友を軽く恨みつつ小さく当麻は溜め息をした

と、そこで一つ疑問を覚えた

…あれ、アイツはいつこの子と交流を持ったんだろうか

 

「…ごめん、念のためにフルネーム教えてもらえる?」

「え? 鏡祢みのりだけど…それがどうかしたの?」

「…いや、その…妹さん」

「違うよ? なんて言うかな…戦友? それでいて義妹みたいな」

 

…まぁ、アイツもいろいろあったのだろう

深く聞くのもアレなのでそう納得することにした

 

と、そんな時インターホンの音が鳴った、と思ったら即座に部屋のドアが開く

玄関にいたのはミコトによく似た女の子だった

しかし普段の彼女がつけているはずがないヘッドギアを頭に装着しておりその顔はどこか赤い

息を切らした彼女は、真っ直ぐ上条当麻を見た

そして口を開く

 

「お願いがあります、とミサカは、貴方を見て心中を吐露します」

 

言葉の通り、彼女は告げる

 

「ミサカと、ミサカの妹達の命を助けてください、とミサカは貴方に向かって、頭を下げます」

 

当麻は、特に疑問を抱かない

故に、彼は一言

 

「―――あぁ、分かった。話を聞かせてくれ」

 

そう言って先を促した

 

 

ガキン! と何もない闇に響くのは鉄と鉄がぶつかり合うような音

一人は素手で、一人は刃を振るっている

素手の方の名前はスコルピオ、刃を持つのは、仮面ライダーサソード

 

互いの力をぶつけている中で、スコルピオは目の前の男のこの戦闘力に内心驚いていた

 

(―――何がどうなってやがる!? こいつ、ここまで手強かったか!?)

 

そんな思考の傍らで、スコルピオは胸部を斬りつけられ、大きく後ろに仰け反った

自分が作り出したその隙を逃すはずもなく、サソードはさらに大きくその場で軽く跳躍し、さらに胸部へドロップキックを叩きこんだ

 

「―――どうした、その程度か」

 

余裕を見せたのか、サソードは地面に着地をしながら左手で軽くちょいちょい、と手を動かして見せた

その行動がスコルピオの逆鱗に触れたのかは分からない、がいずれにしても逆上するのには十分だったようだ

 

「調子に―――乗ってんじゃねぇぞクソガキがァァァァァッ!!」

 

激昂し、スコルピオは自分の頭にある弁髪状の鞭を展開させサソードを拘束しようと伸びてくる

それに一度驚いたサソードはすかさずにサソードヤイバーを持ち直し、その鞭を斬り捌く

その鞭に気を取られ、足を絡め取られた

 

「しまっ、のわっ!?」

 

そのまま勢いよく引っ張られ、地面を引きずられる

がりがりと、背を削るような音と共にスコルピオの足元に来た瞬間に先ほどの礼だと言わんばかり胸部を踏み抜かれる

 

「あっ、ぐぅぅっ…!!」

「おら、どうだクソガキ…! あんまり調子乗ってると、このままぶち殺すぞ、あぁ!?」

「―――ハッ、想像以上に、短気だなお前は」

「…は?」

 

ぐ、と足に力を入れながらスコルピオはイライラを隠さず口にする

対してサソードは乗っけられているその足を掴む

 

「そんな短気では、任務や、依頼に支障をきたすのではないか?」

「テメェに言われる筋合いなんざねぇんだよ!!」

 

さらに強く踏みつけるべく、乗せられた足の力が一瞬、緩くなる

その一瞬、僅かではあるがその一瞬をサソードは逃さない

掴んでいた手に力を込め、バランスを崩すようにその足を自分の右側へと引っ張った

タイミングを崩されたスコルピオは態勢を崩し、地面を転がる

同じようにサソードも地面を転がって逆に態勢を持ち直した

一つ、息を吐いて調子を整える

 

「この…ガキィ…!」

 

完全に相手は怒っている

コレだ、冷静さを欠いたものは、攻撃が単調になる

スコルピオは咆哮しもう一度サソードを捉えようと弁髪状の鞭を伸ばしてきた

しかしサソードもそう何回も喰らうほど馬鹿ではない

自分に向かってきたその鞭を、サソードは手で逆に絡め取る

 

そしてそのまま、思いっきり自分の所に向かって引っ張った

 

「な!? がぁぁぁっ!?」

 

中空を舞い、スコルピオはもう一度地面を転がった

 

「借りは―――返す」

 

サソードはスコルピオを見つめ改めてヤイバーを持ち直し、ゼクターニードルを操作した

 

「―――ライダースラッシュ」

<Rider slash>

 

サソードヤイバーにエネルギーが込められる

纏われた血を払うようにヤイバーを構え―――スコルピオに向かって駆けだした

同時にそれに気づいたスコルピオも身構えたが―――サソードの刃が早かった

 

 

 

一閃

 

 

 

真っ直ぐ横一線に振るわれた剣はスコルピオを斬り裂き、確実なダメージを与える

同じようにサソードの背後で爆発が起きているのを感じていた

 

しかしもうすでに意識はそこになかった

神代ツルギは空間を移動する術を持たない

故に、今は死力を尽くして戦っている彼女を信じて待つだけだ

無事でいてくれ、と口の中で小さく呟きながらサソードは辺りを見回して、それを見つけた

落ちているメモリを拾い上げながら、それを上に放り投げてヤイバーで叩き斬る

 

俺の戦いは、ひとまず終わりだ

 

 

結果を言ってしまえば、白井黒子は負けはした

負けはしたが、過去のトラウマをついて結標に精神的にダメージを負わせることには成功した

それで同等、かは分からないが

 

しかしそれでも、結標が所持していた拳銃に撃たれ、黒子は地面に倒れ伏してしまった

その後、結標は幾度か絶叫しその顔色を憤怒に変えはっきりとわかる殺意をぶつけた後、黒子に歩み寄ろうとした、がパトカーのサイレンに結標はその行動をやめた

 

「―――助かったなどと思わない事ね、何があっても私は貴女を殺す。千キログラム以上は身体に障ると止められているけど、私の座標移動の最大重量は四千五百二十グラム…、逃げながらでも叩きこめるわ、このビルごと巻き込んで、貴女を破壊してあげる―――!」

 

そう言い残し、取っ手の壊れたキャリーケースを掴んで虚空へと消えた

 

ここにいれば、結標の攻撃が襲い来る

自分の身体に支障をきたしてまで、自分を殺そうというのだ

逃げないといけないのに

 

「…おねえ、さま…おにい、さ、ま…」

 

小さく呟いたその言葉は闇の中に消えていく

それでも

 

「…」

 

ぐ、と黒子は指先に力を込めた

僅かに動いたがそれだけだ、腕も、足も動かない

ここから逃げることはままならない、完全に詰みだ

結標の攻撃がいつ来るかは、分からない

彼女の力は壁などの障害物を無視できる代わり、自分の足を残さないようにしなければならず、移動先にはとても慎重になっているだろう

それでも、五分後か、或いは五十分後か

 

(情けない、ですわね。一体わたくしはどれだけの方々に頭を下げれば済みますの)

 

その相手として、黒子は一人、御坂美琴の姿を思い浮かべる

風紀委員の同僚としてある事件以降慕っていた鏡祢アラタと違い、彼女と知り合ったのは本当に、常盤台に入学してからだ

その時は、ただ学校の中で合わせる顔を合わせる間柄

それだけで思い知らされた

 

礼儀、作法、教養、誇り

 

そのすべてを、日常で思い知らされた

上っ面を真似ていた自分とは大違いだと、今でも思う

 

ぴしり、と空間が音を立てた

恐らく、後数十秒もしない内にこの空間は潰されるだろう

 

(…死にたく、はないですわねぇ)

 

ぼんやりと、彼女は思う

同時に、届かないと分かりながらも彼女たちに強く願う

 

(…どうか)

 

黒子は今動けない

けれど、誰かの支えがあれば動くことが出来る

そう、誰かが来れば

 

(…どうか)

 

彼女は祈る

最後の最後まで

 

(少しでも、ここから離れて―――巻き込まれないで…)

 

そう、切に願った

 

願った、はずなのに

 

カンカン、カンカンと聞こえてくる

 

「っ!?」

 

その足音は非常階段を駆け上がってくるものだ

足音だけでない、電気の火花を鳴らすような音さえも

 

(…いけない…!)

 

動けない黒子は、彼らを止めることは出来ない

だから、代わりにその口を動かした

 

「いけません! ここに来てはいけません! これからここに特殊な攻撃が来ますの! このフロアから、いいえこのビルから急いで離れてください!」

 

血まみれの床の上で黒子は叫んだ

この完璧すぎるタイミングに涙を零しそうになりながら

ミシリ、ギシリと黒子の周りの空間がきしんでいく

予兆か、合図か

いいや、この際そんなのどちらでもいい

 

(…マズ…!?)

 

内心、焦りながら黒子は思う

彼女は空間転移を用いてこのフロアに来たが少なくとも彼らの足音は残り数十秒じゃたどり着けない

結標淡希がどんなものをここに転移させてくるか分からないが、四千五百二十キログラムがここに襲い来ればこの建物を完全に破壊させかねない

 

それだけは絶対にダメだ

 

ほとんど泣きそうな顔で、黒子は声を張ろうとする

瞬間、グワ、と部屋中の空気が歪んだ

攻撃が、始まる

 

「―――!!」

 

黒子は歯を食いしばり、力を込めた

だけれど、力は入らない

悔しい、なんでもっと力がないのだ、と黒子は自らを悔いた

そもそも結標に敗走しなければこんな事にはならなかった

 

それでも黒子は祈るのをやめなかった

こんな時、奇跡が起こって大切な少女たちが助かって―――

 

刹那、祈りが通じたように、ある黒色の弾丸が床から天井へと突き抜けた

その一撃が、あるものを用いて放たれた弾丸とは黒子は知らない

建物全体が振動する

床には穴が開き、直線状の全てを凪ぐその一撃

 

「美琴! 足場を!」

「えぇ、お願い! アイツを連れ戻してちょうだい!」

 

聞き慣れたその声色

何を弾にしたかは分からないが、御坂美琴が開けた風穴から、青い人影が一人の少年を担いで跳躍して着地する

その風穴をなぞるように、彼が飛びやすいように小さい足場を作り、それを蹴って青い人影―――青のクウガは上条当麻を抱えて現れた

そう、普通に階段を使っても間に合わなければ普通に登らなければいい

 

無茶苦茶すぎるショートカットをして、地面に立った一人の男は静かに右手を握りしめる

そして目の前の異常に己が幻想殺し(こぶし)を打ち付けた

 

不思議なことが起こった

たわんでいた空間自体を平らに治すように

普段計算式を意識してる黒子だからこそ、目の前の異常がよくわかる

茫然としている黒子に向かって、ふと上条当麻は

 

「あー悪い。今回は事情がよく吞めないまま突き進んじまったから。途中でアラタと御坂に合流してなかったらヤバかったし。―――つうか、お前大丈夫か!? アラタ、白井が!」

「あぁ、今確認した。…ったく、無茶しやがって。―――いや、押し付けたオレも悪いな。…本当にごめんな、黒子」

 

そ、と頭を撫でられて僅かに目尻が熱くなる

違う、別に貴方は悪くなんてないんだ―――

ふと、先ほどの風穴を見た

そこには美琴が走る姿が見えた

その後ろには、神代ツルギもいる

美琴は傷だらけの自分へと、泣くのを堪えながら

ツルギは生きている自分を見つけ、安堵したように微笑んだ

 

「―――さって。…お前の治療も先だけど、お前にこんな怪我を負わせたヤツをとっちめないといけないな」

 

そうだ、と黒子は思い出す

今現在ケースを持って逃亡している結標淡希の事を

黒子はアラタの顔を見た

彼は笑みを浮かべて

 

「あとは、任せろよ」

 

◇◇◇

 

浅倉涼はコンビニで軽くお惣菜を購入していた

長らく病院での生活を余儀なくしている知人に食事を届けるためだ

そんな一方通行(アクセラレータ)はある事情で少々出かけている

念のために彼の好物である缶コーヒーを購入するのも忘れない

最近のアイツは微糖だったかな、と意味のない確認を取りながらかごに入れていく

 

あの日以降

 

自分を含めた三人の生活は多少なりとも変わっていった

なんか、憑き物が取れたような、そんな感じに平和を謳歌するようになったのだ

中でも芝浦は

 

―――案外、悪くないかもね。ありがとうって言われるの

 

これには最初聞いた時、手塚も一方通行(アクセラレータ)も、当然自分も引いた

黄泉川愛穂なんか絶句していたほどだ

それほどにまであの戦いは彼の心境に変化をもたらしたのか

そして、彼はよく笑うようになった

 

それは自分も同じだった

手塚や芝浦と談笑したり、一方通行(アクセラレータ)と共に打ち止め(ラストオーダー)に世話を焼いたりと、少なくとも少なくともあの実験が終わってからはずっと笑うようになっていた

まぁ、一方通行(アクセラレータ)はいつも通りあんな感じだが

 

一通りおかずを購入して会計を済ませた浅倉は所用をしてるであろう一方通行(アクセラレータ)の所へとのんびり歩いていく

しばらくしてゴォンッ! とやけに大きい轟音が聞こえた

その音の方を見てみると中空から一方通行(アクセラレータ)が下りてくるのが見えた

やがて彼が地上に着地したタイミングを見計らって浅倉は声をかけた

 

「終わったのか」

「あァ、つつがなく終わったぜ」

 

気怠そうに首を鳴らす一方通行(アクセラレータ)

そんな様子を見て浅倉はそうか、と短く答えた

 

「んじゃ、さっさと帰ろうぜ。飯が冷える…いや、もともと冷えてるか」

「コーヒーはあるか。久々に動いたら喉渇いちまった」

 

そんな他愛のない会話をしながら、二人は病院に向かって歩いていく

その後ろ姿はどこか、温かさを帯びていた

 

◇◇◇

 

後日譚

 

あの後黒子に予想ルートを教えてもらって行ってみたところ、ほとんどが終わっていた

そこにはすでにキャリーケースのような残骸が散らばっておりその中身であろうものが木っ端微塵に粉砕されていた

そしてその屋上には結標淡希であろう女がフルボッコされた状態で引っかかっていた

おかげでぶん殴る手間が省けたが、今回はその誰かに感謝をするとしよう

 

 

「さぁさお姉様、わたくしにうさぎさんカットのリンゴを食べさせる至福の時間がやってきましたのようふうふふふ!」

「気力だけでベッドからはい出ようとしないでよ黒子。アンタ絶対安静って意味わかってるの?」

 

満面笑顔の黒子をどうにかベッドに押さえつけ、改めて布団をかけ直す

それでも彼女はめっさ笑顔だ

 

「あーもうわかったから。あとで食べさせたげるわよ全く」

「マコトですのねお姉様! 黒子その言葉を確かに記憶しましたわー!」

 

これだけの怪我を負っておきながらなんでこの後輩はこんなに元気なんだ、と思う

件の結標淡希は母校である霧が丘では留学扱いになったという情報もどうでもよさそうである

 

そこで不意に会話のリズムが途切れた

静寂が病室を支配する

空気の熱が冷え、口を開くのもためらうほどに

 

その原因を御坂美琴はしっている

自分はまた、巻き込んだのだ

 

「―――なんとなくですけど、気づきましたわ。あの時、お兄様と共に立っていたあの場所が、お二方の戦場ですのね。訳分らなくてさっぱりでしたわ」

 

小さく彼女は笑う

そうして少し力を抜いて

 

「…今のわたくしでは、そこに立つことも、追いつくこともままなりませんの。…縋ろうとした結果がこの様ですわ」

「…黒子」

 

美琴の顔が曇る

だが、それはすぐに別の表情に隠された

 

「もし、お姉様のせいでわたくしが巻き込まれた、というのなら、それは間違いですわよ、お姉様」

「…え?」

「わたくしが弱いのは、わたくしのせい。そこにはお姉様など関係ないですわ。馬鹿にしないでください、わたくしは自分の追った責くらいは自分で果たせる人間ですのよ? それなのにお姉様やお兄様が背負ってしまっては、わたくしの誇りはボロボロですの」

 

黒子はつまらなそうに

 

「だから、お姉様は笑っていてください。ミスしても無事帰ってきた後輩を見て、ヘタクソと言いながら指をさして笑えばいいのですの。その楽しい思い出を糧とすれば、わたくしはもう一度立ち上がろうと思えますから」

 

そこまで言ったとき、不意に病室のドアが開け放たれる

顔を向けた時、その場に立っていたのは神代ツルギだったのだ

 

「―――邪魔だったか? 見舞いに来たぞ〝スィ・ライン〟」

 

いつも通りなツルギに、美琴と黒子は思わず笑い出す

完全に真面目な空気が壊れてしまった、無論、いい意味でだが

ツルギはデパートかどこかで購入したであろう果物盛り合わせをどこか適当な場所に置くと、改めて黒子に向き直る

 

「お前にも、いろいろ思うところがあるだろう。何もかもひっくるめて、俺は言いたい」

 

そこで少し言葉を区切り、いつものような不敵な笑みを浮かべる

 

「共に強くなろう、〝白井〟。敬愛する御坂が驚いてしまうくらい強く、な」

「―――えぇ、もちろんですの」

 

ツルギの笑顔に黒子は自然な笑顔でそう言い返す

その光景を見て美琴も思わず釣られて笑った

 

(―――ですから、お姉様。…もうしばらくお待ちを。宣言した通り、強くなりますわ、それこそお兄様やお姉様が驚愕するくらいに。目的地を知った黒子は、早いですわよ?)

 

この場所の居心地の良さを知るから戦いの場に戻る決意を固める

御坂美琴には決して悟られぬように

 

こうして、彼女は己の身の程を知り、自分の手の届かない世界がある事を痛感した

だからこそ、彼女は諦めることはなく、より上に手を伸ばす

 

今、この変わらない日常を、たった一つのここにある場所を守りたいから―――

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