バリスティックスライダー内部
「おい、何とか戻せないのか!」
「無茶言うなよ! 動かし方だって行きと帰りのやり方しか教わってないんだ!」
基本的に動いているときは何もせず座っていただけだ
専門的な知識もあるわけもないし、セッティングとかその他もろもろは全部土御門任せだったのがこんなところで仇となるとは思わなかった
ごうごうと機体は揺れ、無情にもバリスティックスライダーは地球へ向けて発進している
頼みの綱だった携帯での連絡も電波が悪いのかすぐには繋がりそうにない様子だ
「インデックス、設定してた土御門見てた、とかないよな」
「…ごめんとうま、流石に見てなかった」
こんな状況に陥るなど想像もできるはずもない、もし見ていたのならワンチャンあったかもしれないのだが
「…ねぇ、ここはあえて一度このまま地球に戻りましょう」
「あえて?」
不意に美琴が呟いた
その言葉にアリサが首を傾げながら問いかえす
「うん。私は───アラタを信じてる。ここは逆に戻って、地球にいるアラタの知り合いたちを連れてもう一回戻るの。アラタなら、───アラタなら大丈夫って信じてるから」
美琴は、あえての言葉を口にした
そうだ、仮にもアラタは結構な実力者、そう簡単には倒されないはずだ
だから一度戻った上でしっかり準備したうえで彼を助けにもう一回戻るのだ
「…歯痒いが、急がば回れという言葉もある。もしかしたらそれが一番早いのかもしれない」
シャットアウラが応えた
当麻もまた顎に手をやりつつ、他に考えうる手段もない
やはりこれが今できることの最適解だろう
はやる気持ちを抑えるように、一行はそのまま地球へと戻っていく
◇◇◇
残されたエンデュミオン内部にて
そこに二人の戦士が戦いを繰り広げていた
「でぇりゃ!」
クウガの拳が顔面へと叩き込まれ───る前にアナザーゼロワンがその拳を捕える
そのままアナザーゼロワンはクウガの腹部へと蹴りを叩き込み、地面を転がる彼に対して、バッタのようなエネルギー弾を形成させ追撃を図る
まともに食らうとマズいと判断したクウガは転がりながらもその形態を紫色のタイタンへと変化させ両腕も使い防御の構えを取った
「───アハハッ! 思いのほか、身体を動かすのは案外気分がいいものね!」
バッタのエネルギー弾を大量に生成しながら、アナザーゼロワンは楽しそうに声を張り上げる
どうにか防御をしてはいるが、正直言ってジリ貧だ
ここには武器になりそうなものなんてないから、紫色の本領を発揮できない
本領…と考えたところで頭の中にそういえばまだ試したことなかったような、というある方法が浮かび上がった
「どうしたのっ! 抵抗はおしまいかしらっ!」
「誰が!」
ぶん、と両腕を振り払って改めて敵であるアナザーゼロワンを見据えようとしたとき、視界にそいつがいないことに気が付いた
右、左…と視界を動かし───そして気づく
「───上!?」
だが気づくのが僅かに遅かった
羽を展開し中空へ飛んでいたアナザーゼロワンはこちらに向けて蹴りの体制を取っていたのである
分かりやすく言えば、〝ライダーキック〟だ
なんとか片手だけでも防御しようと手を動かし、相手の一撃をどうにか防ごうとする
しかしいくら何でも片手だけでは防ぎきれず押し負けてしまい背後の壁に叩きつけられた
「ぐあぁっ!!」
そのまま床に身体が投げ出され、色も赤のマイティへと戻っていた
だがそれでも地面に手を付けながらアナザーゼロワンを…レディリー・タングルロードを見やる
「…まだやるの?」
「あぁ、俺は諦めが悪いからな」
ゆっくりと立ち上がるとアークルへ一度手をかざし、再度右手を斜めに突き出し、左手をアークルに添える
「───超変身」
アークルに金色の装飾が現れて中央の霊石が金色に輝き、赤色の装甲が黒く変わる
両足にアンクレットが顕現し、その身をアラタの切り札の一つ、赤の金の黒…アメイジングマイティへとその身を変質させた
「───どんな色になったって!」
アナザーゼロワンは怯むことなくアメイジングマイティへと再度無数のバッタのエネルギー弾を展開し、攻撃を開始した
(…よし、これにはなれた。あとはここからもう一つ───!)
「───超変身!!」
放たれてきた最初の初弾を受け止めるように右手を突き出してもう一度その言葉を言い放つ
ドォォン、という轟音とともにクウガの身体を煙が包むと、アナザーゼロワンは小さく笑みを浮かべた───その後煙の中から現れた彼の姿に首を傾げた
「…まだあるの? その色変え」
「たぶんまだあるよ。…これは俺も初めてだけどね。けど、いけた!」
煙から現れた姿は確かにクウガであった
だがその姿は先ほど変化したいわゆる
クウガはそのまま黒いライジングタイタンソードを形成すると真っ直ぐアナザーゼロワンへと向かっていく
「ぐっ!」
一太刀目をどうにか両腕で受け止める
しかしこういう実戦になれていないのか、半ば強引に防御を崩されるとそのまま斬撃を叩き込まれる
二度、三度と斬りつけると少し腰を落としたパンチがアナザーゼロワンの腹部へと放たれて大きくアナザーゼロワンは吹っ飛んだ
どうにか体制を構えなおすとお返しと言わんばかりに周囲に小型のバッタ型のエネルギー弾を作り出すとアメイジングタイタンへと繰り出した
「あぶなっ!」
アメイジングタイタンはソードを盾のようにして防ぎつついくつかのエネルギー弾を斬り裂きながら、もう一度クウガはあの言葉を言い放つ
「超変身!」
言葉と共に鎧の形が変わる
左右非対称の肩のアーマーが特徴的なその姿はいわゆる緑のクウガ───ペガサスフォームと呼ばれるものだ
しかし本来緑色であるそのアーマーは先ほどのタイタンと同じように黒がメインとなっている
これもまた言うなれば…
ソードを形成したときと同じようにライジングペガサスボウガンを生み出すとアナザーゼロワン目掛けてその引き金を引いた
連射された風の弾丸はそのままアナザーゼロワンへと着弾しダメージを与えていく
「ぐぉ…! ぐ、超変身!!」
元々緑色は感覚が鋭敏になり神経が研ぎ澄まされ極限状態になる
頭の中にもえらい情報が入ってくるがそれまでは目の前の相手に集中することで誤魔化してきたがさらに黒の金となるとなんかもう情報がヤバいことになっている
地球は離れているはずなのにその地球の情報さえ入ってくるのは流石に持たないと判断したアラタはすぐさまに色を変える
次の色は速さに特化した青い色、しかしこれもメインは黒へと変わり金色の縁取りがある、
「おぅりゃぁっ!!」
跳躍しながらその手に黒い色のライジングドラゴンロッドを形成すると剣先が付加されたそのロッドをもってアナザーゼロワンをさらに追い打ち、斬りつけた
元々身体を動かすことに慣れていないのか、アナザーゼロワンはよくよく見てみると動きが少し単調だ、ここまで連撃を叩き込んだ今なら、倒せる
すかさず再度アメイジングマイティの姿へと立ち戻ると両足に力を籠めた
そのまま右足で腹部に蹴りこむ
そして勢いのままにもう片方の足で再度蹴りを今度は顔面へと浴びせた
「うああぁっ!」
顔を押さえながらアナザーゼロワンはうめき声をあげながら大きく後ろへのけ反った
「───うふふ…慣れないことは…するもんじゃないわね…」
一瞬の後、アナザーゼロワンは元のレディリーの姿へと戻っていく
身体から変身に使用した時計のようなものが排出されるとすかさずクウガはその時計をその辺へと蹴っ飛ばした
どこか見えないところへ行ってしまったがもうこんなところ戻るとは思えないので問題ないだろう
「…、」
残ったのは変身が解け、腹を片手で押さえるレディリーと同じく変身を解除したアラタの二人のみ
気まずいような、そうでもないような、なんとも言えない沈黙が流れる
「…お前、なんでそうまでして死にたいのさ」
「…わかんないでしょう、〝生き続ける〟地獄。…親しい人はもういない…私だけ。───私だけが、生き残った…生き残ってしまった」
レディリーは腹を押さえながら適当な壁のとこまで言って盛られかかり、座り込んだ
「…死を渇望してここまで来たけれど、もう無理ね。私は捕まって、体のいいモルモットにされるでしょう。…けど、お似合いかもね、私には」
どこか遠い表情をしながら、レディリーはそんなことを呟いた
見た目からはそうは思えないが、口ぶりから察するに永い時間を生きたものなのだろう
とはいえ敵と言えどそんな末路は流石にかわいそうとは思ってしまう
「…死を渇望しすぎてるんだよ、お前さんは」
「…え?」
「お前、せっかく今の今まで長生きしてんのに頭ン中〝死にたい〟ばっかでつまらなくない? …まぁ難しいかもしれないし、アンタからしたら若造の俺に言われたらムカつくかもしれないけど…少し前向きに生きてみない?」
「…前向き?」
アラタはレディリーの隣に腰掛けて彼女を目を見る
薄く、碧い色の瞳がアラタをまっすぐ見返した
「もうちょっと楽しんでみたら? お前が何年生きたかはわかんないけど、現代と昔を比べてみる意味でもさ、新しい楽しみ方を見出したら、もうちょっと楽しめると思うんだ」
「…あ、新しい楽しみ方って…」
「そんで、お前がもうこれ以上いい、飽きたってなったらさ」
アラタはそこで一度言葉を切り、深く深呼吸をする
そのあとでもう一度彼女の方へ向き直ると
「───俺がお前を殺してやる」
「───ッ!!」
レディリーの目が見開かれた
心底驚いた様子で、彼女はアラタを見つめ返す
何を言ってるんだろう? とはきっと彼女の心中だ
(…式、頼んだらやってくれるかなぁ…やだなぁ…こんなことお願いするの)
頭の中では思いっきり知り合いに頼んでもらう予定のガバガバな計画だが
とりあえずアラタは考えることをいったん放棄し首を左右に振ると改めてレディリーを見やる
「だからさ、もうちょっとだけ生きてみようよ。人に迷惑かけて死ぬよりさ、そっちの方が少しは楽しいよ、きっと」
そういうアラタの顔は笑顔だった
レディリーは彼の顔を見つめ返すと、ふぅ、と小さくため息をつく
───まさかこんな自分にまで、救いの手を差し伸べてくれるだなんて
「…優しいのね。貴方」
「甘いとも言われる」
「違いないわ。まるでミルクキャンディみたいに甘いもの、貴方」
そう言ってレディリーは笑った
それは今までの打算的な作り笑いじゃあなくて、自然な感じな笑顔だったとアラタは感じる
───なんだ、普通に笑えば可愛いじゃないか
「…さて。こっからどうやって帰ろうかな」
不意に呟いてふぅ、とため息を吐く
ここに来るために乗ってきたあのスライダーは今は当麻たちを乗せて地球に向かっているころだろう
そもそもこのエンデュミオン自体も地上への衝突は免れただろうが…
あれ、冷静に考えれば結構大ピンチじゃない? と今更ながら思う
「来なさい」
「え?」
不意に立ち上がり歩き出したレディリーについていく
「もしかしたら地上に送ってあげれるかもしれないわ。もしかしたら、だけどね」
「え? 何か地上への生き方に策がある感じ?」
「一応、私はオービットポータル社の社長よ。万が一に備えて小型のシャトルを用意してあるのよ」
「マジかよ、さっすが社長用意周到!」
まあそれもそうかと頭の中で思う
何かが起こってからでは遅いのだし、そういう備えは当然部下たちも用意しているか
そのままレディリーの案内に導かれるままに、アラタと二人もう一つの格納庫っぽい場所にたどり着いた
「…喜びなさい、まだ機能は生きてる、帰れるわ」
レディリーの言葉にアラタはふぅ、と今度は安堵のため息を漏らした
今日だけで何回ため息ついてるんだろうと自分に文句を言いたくなるが今となっては些事である
「それじゃあ、お前も帰るぞ」
「え…?」
「いやここまで来て何言ってんだ。ほら」
多少強引にアラタは彼女の手を掴み一緒にシャトルへと乗り込んだ
手を握ってみると柔らかく、今にも折れてしまいそうだ
「っていうか、操縦の仕方わかんないからお前がいないと帰れないんだよ。最後まで付き合ってもらうぜ、手伝えるとこは手伝うから」
「───しょうがないわねぇ」
やれやれと言ってアラタと二人シャトルの操縦席へと向かっていく
…彼女と一緒に帰ったとき、なんて言われるか分かんないけど…それはその時考えよう
帰りながら電話が繋がれば、真っ先に誰でもいいから連絡を入れねば
「セミオートパイロットを設定したわ、あとは何事もなければ、本社のビルの屋上に到着するはず。あとはその都度指示するわ」
「了解。…そいじゃあ俺たちも改めて帰るとするか」
アラタの言葉と共にその小型シャトルはブースターを吹かし発進していく
宇宙も巻き込んだ壮大な彼女の自殺計画は、もう間もなく終わろうとしていた───