全ては誰かの笑顔のために   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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#72 各々のエピローグ

───ある教会にて

 

 

 

椅子に座りながら渡された紙を見つつ、最大主教アークビショップ、ローラ・スチュアートはテーブルに置いてあるパソコンに視線を向けた

 

 

「…結局、あの女子はなんだったんでありけるか?」

<そうだね…>

 

 

彼女の問いに答えるのはアレイスター・クロウリーと呼ばれる男

学園都市の最大権力者にして、学園都市総括理事長

 

<例えるなら、〝願い〟と言ったところだろう>

「…願い?」

<あぁ。…能力者でなくとも、人の願いは主観を歪める。複数の願いが同じ思考を与えられれば、それは因果律にすら干渉する力となるだろう。結果、それは一人の少女を分け―――多くの人の運命を変えた>

 

ぱさり、とローラは目の前の男に紙を手渡し

 

「…そして二人が歌った歌の歪曲が、また奇跡を起こした、と」

 

<レディリーは興味深いことをしてくれた。けれど、死ねないというのも不幸だね>

 

 

「…あの女子たちは一つには戻らなかったりけるね?」

「そうみたいだなぁ。恐らく、それもまた何かの奇跡か…付近にいた古代の少年の身に宿す霊石が、彼女たちの歌に共鳴を起こし、二人をそれぞれ独立した存在として定着させたのか…そればっかりはわかんないね」

 

そう言って青年は紙を折りたたみ、す、と自分の前に手を翳し呟く

 

「コネクト」

 

そう呟くと彼の手の先に赤い魔方陣のようなものが現れ、青年はそれに紙を持った手を突っ込んだ

魔方陣から手を引き抜くともうその手に紙が握られていなかった

代わりに握られていたのはドーナツの袋だ

 

「あ、ずるーいソウマ。一人だけおやつタイムとは許し難し。私にもあげたるのよ」

「いやだ。一仕事終えた後のスイートタイムだこいつは」

 

がさがさと袋に手を突っ込んで彼はドーナツを取り出す

シンプルな輪っかに、シュガーを振りまいたプレーンシュガーという奴だ

 

「一つだけ…一つだけで良しとするから!」

「やだよ。なんで店長が丹精込めて作ってくれた至高の一品をやらねばならん」

 

バッサリ言うとローラが分かり易く嘘泣きをしてよよよ、と手で口元を抑えた

そんなローラを完全に無視し、もくもくとソウマはドーナツを食べ進める

 

(それにしても…学園都市…か)

 

一つ目のプレーンシュガーを胃にいれたソウマはそう独白する

シュガーのついた指を舐めながら

 

(何も起きなきゃいいんだけど)

 

適当に思考を切り捨てて、ソウマ・マギーアは二つ目のプレーンシュガーに手を付けた

 

 

<───以上、唐突だけどメッセージとして送りました。オービットポータルをよろしくね、天津社長>

 

ザイアコーポレーション社長、天津垓の元にいきなり送られてきたメッセージ

送り主は〝レディリー・タングルロード〟であり、内容は早い話オービットポータル社をほぼ無償に近い形で譲渡する、というぶっ飛んだ内容だった

従業員の中でザイアでそのまま働きたい、という人がいればそのまま雇用してもいいし、離れて別の場所で働きたいと希望する人がいればそうしてほしい、とのこと

そして無許可でこちらのレイダーの技術を盗用したことについての謝罪も簡素ながら語っていた

 

「───いきなりメールが来たと思ったら、どういうことだ」

「わからないな。…内心の変化はあったみたいだが、唐突がすぎる」

 

社長室に天津と共にユアと二人怪訝な顔

やることが増えるのはありがたいといえばありがたいのだがいきなり過ぎて追いつかない

 

「で、どうすんだ社長。宇宙進出でもすんのかい」

「普段ならばおうともと行きたいが、エンデュミオンの件(あんなこと)があったあとだからな。しばらくオービットポータル社はザイアの子会社として運用させてもらおう」

 

不破の言葉に天津は応えた

宇宙開発から遠のくのは仕方のないことだ

だから、これからは学園都市のためになるような事業でもオービットポータル社でやってみるのも面白いかもしれない

 

とりあえず当面は…転職したい元オービットポータル社員の手続き諸々エトセトラ、だ

 

 

水城マリアは病院のベッドの上で目を覚ました

視界にまず一番に入ってきたのは見慣れない天井、そして自分がベッドの上にいるという感覚

ゆっくりと身体を起こしてみるとずきり、と身体の節々が痛むが、動かせないほどじゃあない

 

「───水城さん、気づいたんですか?」

 

がらり、と病室のドアを開けたあと声が聞こえた

それは自分と戦っていた立花眞人その人だ

そこまで来て戦いの時の記憶が蘇ってくる

そうだ、確か暴走しつつあるG4を他の仮面ライダーたちと協力してこの人はG4を引っ剥がしたのだった

 

「…私は、生き延びてしまったわけですね」

「…すみません。でも、やっぱり僕は貴女を救えてよかったって思ってます」

 

苦い顔をしながら、眞人はそうマリアに返す

それに対してマリアはじっと眞人を見つめる

眞人はその視線に、同じように見つめ返し応えた

 

「…僕は、〝生きる〟ことを素晴らしいと思いたい。…だから、マリアさんを助けたことに後悔はありません」

 

そう小さく笑みを浮かべて最後に眞人は「では」とお見舞いの品を机に置いて病室を後にした

この場に残ったのはきょとんとした顔をしたマリアだけ

やがてマリアは小さく、本当に小さく口元に笑みを作ると

 

「───そうですね。…それじゃあ私も…少しだけ。前向きに生きてみようと思います」

 

その小さな返答は眞人に届くことはない

でも、それでも

 

届くものはあったのだ

 

 

「やだよ」

 

伽藍の堂にて

幹也と一緒にいた式に対して件の相談をしたら当然の反応を返された

両手を合わせて頭を下に向けていたアラタはちらっと頭を起こし視線を彼女に合わせると

 

「…どうしても?」

「どうしてもこうしてもあるか。お前だって能力開発の産物かなんかで〝持ってる〟だろ、自分でなんとかしろよ」

「いやいや、俺のは弱視っていうの? あんまこう、アレするのには向かないっていうか」

「頑張れよ。男が自分で言ったことを反故にするのか」

「そう言われるとなぁ…!」

 

まぁあの時に思いっきり他人任せにしようとした自分が百パーセント悪いわけで

そして断れることも何となくわかっていたわけで

しょうがないかあ、とがっくりしながらふと思い出したことをアラタは橙子に向かって声をかけた

 

「そういえばレディリーはどうなったの?」

「ん? あぁあの子か。まぁお前と帰ってきてからのゴタゴタが落ち着いた後、イギリスの赤い髪の神父が身柄を引き取ろうとしたらしいが、〝この都市の知り合いの家に監視されるって名目で厄介になるわ、そこで大人しくするから〟って言って聞かなかったみたいでな。今はその知り合いの家にでもいるんじゃないか?」

 

眼鏡を外した橙子が珈琲片手にそんなことを返してきた

知り合いの家? そんなのあったんだとアラタは〝その時〟は大して何も思わなかった

 

「それよりお前いいのか、そろそろだろ」

「おっと、そうだった。それじゃあちょっと空港言ってあのひと見送ってこないと。…そういえば名前聞いてないや」

「あぁ、そういえば紹介していなかったな、本郷くんのこと。よろしく言っておいてくれ」

「わかったよ」

 

橙子に指摘され時間を確認したアラタはそんなことを呟いた

雑誌を読んでのんびりしていたゴウラムことみのりに声をかけると、ゴウラムと一緒に窓から飛び降りる

そしてゴウラムにそのまま飛び乗ったアラタは空へと消えていった

 

 

鳴護アリサとシャットアウラ

二人が独立するという奇跡の代償として、アリサの歌に宿っていた力は消え、シャットアウラの能力も消失してしまったらしい

それの代わりかは分からないが、アリサは普通の人間として、シャットアウラは脳の障害も治っており普通に音楽も認識できるようだ

 

そしてその力を失ったと判定された彼女は霧が丘を追い出され、橙子の手引きで当麻やアラタの通う高校に転校という形で移動したらしい

そしてシャットアウラは―――

 

「…高校…ですか?」

 

黒鴉の訓練施設

そこで名護に言われた言葉をシャットアウラは聞き返す

 

「あぁ。キミはこれまでにいろいろと失い、得てきた。そんな君に、長めの休暇みたいなものだ。そこで卒業してきなさい」

「で、ですがその間この黒鴉はどうなるんですか。リーダーは───」

「私がいる。君が帰ってくるまでは、俺がコーチとなり黒鴉を纏めよう」

 

どうでもいいが名護はよくコーチという言葉に拘っている

…コーチという立場が好きなのだろうか

よくわからない

 

「しかし…私はそう言った触れ合いには慣れてません。それに…今更学校なんて」

「そこまで深く考えることはない。その高校は、キミの知り合いもいる高校だ」

「…知り合い?」

 

そう考えてふと頭に一人の男が浮かんだ

いつの間にか自分をアウラと呼んでいたあの男

 

「…、」

 

いや、なんで真っ先にあの男を思い浮かべた

ともかく、考えるのは後にしよう

 

「…分かりました。言われたからには、果たしてきます」

 

そんな訳でシャットアウラもその高校へと通う運びとなったのだ

 

 

大覇星祭が翌日に迫った本日

色々───文字通りマジで色々あった前日の疲労も相まって上条当麻は自分の机で突っ伏していた

マジで疲れた

こんなんで明日からの大覇星祭を乗り切れるだろうか

そういえばアラタは今日遅れるみたいなこと言ってたけど何かやること残ってたりしてるんだろうか

 

「そいや聞いたかかみやん、なんでも近々転入生来るんやて」

「転入生ぃ? こんな時期に?」

 

青髪の言葉に軽く顔をあげながらそう聞き返した

先も言ったが本日は大覇星祭前日、翌日からドデカイ運動会が開催されるのである

かなり急に決まったな、と思う

 

「おまけに二人来るんやて! これはもうテンションがフォルティシモやでぇ!」

「二人も?」

「本格的に登校するのは大覇星祭が終わって落ち着いた後になるみたいだぜぇい? まぁ色々手続き諸々があるんだろうにゃー」

 

そんな話に混ざってきた土御門

…なんだろう、もしかしたらその二人自分たちの知り合いかもしれない可能性が出てきた

そうしているとガラガラと教室の扉が開き担任である月詠小萌が入ってきた

 

「はいはーい、皆さん席に着くですよー。早速出席を取るのですー…っと、その前に鏡祢ちゃんは午前おやすみーっと」

 

テキパキと言葉を述べていくと出席を取り出す

やがて皆の出席を取り終わると本題と言わんばかりに手を叩いて

 

「さぁ、もしかしたら知ってる人もいるかもしれませんが、近々このクラスに転入生が来まーす。女の子が二人なのですよー」

 

そう小萌が言うとクラスの男子が騒ぎ出す

なんだかんだテンション上がるものではある

 

「まぁ今回は顔見せみたいなものですが。紹介だけはしておくのですー、入ってきてくださーい」

 

小萌がそう言うと数秒後に教室のドアがガラガラと開け放たれる

 

「…ほら、一緒に行こう?」

「わ、わかっているっ!」

 

そう言って二人そろってこの教室に入ってきた

そして入ってきたその二人を見てみんな息を飲む

それもそうだ───つい先日アイドルとして歌っていた女の子…鳴護アリサが入ってきたのだから

さらにその隣には、シャットアウラ・セクウェンツィアの姿もある

 

アリサは当麻の顔を見つけると二コリと微笑みを作ったのだった

 

当麻がそれに手をあげて返事をすると…クラスの男子が当麻を見た(土御門以外)

え、と当麻は変な声をあげる

 

クラスの男子の目が語る───〝まぁたおめぇか〟

 

「いい加減にしろよマジで!!」

「いつどこでARISAと知り合ったんだお前!!」

「情報吐くまで返さへんでぇ!!」

「いやぁぁぁ!? 勘弁してください!? ───あぁもぉ不幸だぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

学園都市第二十三学区

唯一国際空港が建設されているその場所に、二人の男がいた

一人は本郷猛

もう一人は鏡祢アラタである

余談だが改めて自己紹介を交わし、お互いの名前も交換している

 

「わざわざすまないね。見送りに来てもらって」

「気にしないでください。その…いろいろお手を煩わせてしまったみたいで」

 

そうアラタが言うとははは、と本郷は笑う

 

「それこそ気にする必要はない。手伝ったのは私の意思だ。それに───」

 

本郷はポン、とアラタの肩にその手を置いた

 

「キミみたいな後輩が、この都市にたくさんいると思うと安心して任せられる」

 

肩に置かれたその手は、大きくて暖かいものだった

それでいて、どこか寂しさを漂わせているような気がした

 

「アラタくん」

「は、はい」

 

「───この都市は、キミとその仲間たちに託す。そしていつか、また会ったら───その時は共に戦おう」

 

そう言って本郷の姿が少しだけ変わる

仮面ライダー1号へ

 

「―――はい」

 

頷いて、同じようにアラタの姿も変わる

仮面ライダークウガへ

 

どちらともなく差し出したお互いのその手をしっかりと握り、固い握手を交わす

ふと二人の姿は戻っており、本郷も改めて荷物を持ち直す

すると本郷の後ろの方で一人の男が彼に向かって声をかけた

 

「本郷、そろそろだ」

「隼人、わかった。───では、また会おう」

「…あれ? 貴方って…」

「ん? お、君もいたのか」

「知り合いなのか、隼人」

「ちょっと秋葉原でな。おっと、それはそうと時間が迫ってる、行こうぜ本郷。それじゃあ、またな」

「えぇ、ありがとうございました」

 

そう短く挨拶して歩いていく本郷らの背中を、アラタは礼をして見送る

やがて彼は顔をあげて、大きく背伸びをした

先生に午前は休むと言ったし、あとは学校に登校するだけだ

 

「さて、と。そろそろ行くか」

 

携帯を見て時間を確認しつつアラタは歩き出す

託された想いを胸に、アラタはその場を後にした

本当ならこのまま学校へと向かう予定だったのだが、色々を自宅である学生寮に置いたままなので、一旦ゴウラムにお願いし学生寮まで行ってもらう

適当に鼻歌でも歌いながらいつもと同じ調子でドアノブに手をかけて、これまたいつも通りにドアを開けた

 

「───あら、お帰りなさい。これから学校なの? 重役出勤ならぬ重役登校ね───」

 

バタン、とドアを閉じた

なんだろう? 今この場にいないレディリーの幻覚が見えたような気がした

…知り合いの家に行くって言っていたような?

もう一度ドアを開ける

もしかしたら間違いかもしれない、そんな一縷の望みを持って扉を開けた

 

「ちょっと、なんで閉めるのよ。貴方の部屋で間違いないわよ?」

「やっぱり間違ってなかった! なんでいんだよお前!? ていうかよく見たら俺の服着てんじゃん!?」

「ずーっとあの服だったから洗ってないことに気づいたのよ。事後承諾になるけど洗濯機使ってるわね?」

 

さっきは分からなかったが改めてよく見ると、レディリーはアラタの服を着込んでいた

しかもワイシャツ一枚というぶっ飛んだ姿で

 

「知り合いの家行くって言ってなかったっけ!?」

「あら、だから知り合いの家に来たのよ?」

「俺のことかーい!!」

 

知り合いの家とはまさか自分の寮だとは思わなんだ

ていうか想像つくかこんなもん()

 

「───それに」

 

不意にぽふ、とレディリーがアラタのお腹に抱きつく

そしてそのままくるーりくるーりと人差し指でアラタの胸当たりをくるくるとさすりながら上目遣いで

 

「…私を殺してくれるんでしょ?」

 

僅かに頬を朱に染めて、そんなことを言うのだった

…拝啓、ご両親

またいろいろ大変な毎日がやってきそうです

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