#73 開催、大覇星祭
大覇星祭
それは九日間にわたり開催される学園都市のイベントであり、分かりやすく言うのならかなり大規模な運動会といったようなもの
街に存在するすべての学校が合同で行う運動会であり、しかもこの街に存在しているのはほぼほぼ学生、つまりスケールも半端ないのである
平日の早朝…開催日である今日も朝早くだというのに参加生徒の父兄たちで溢れている
混雑を見越してか、統括理事会は一般車の乗り入れを禁止にしている
そうしなければ街中が渋滞に陥るし、なんだかんだこんな時は歩いたほうが早いのだ
対応として学園都市では列車や地下鉄とかの臨時便が増えて、無人の自立バスも用意されていたりする
過密ダイヤに運転手が足りないありさまなのだというから驚きだ
そんな街中に男性が一人、佇んでいる
今いる場所は伽藍の堂、橙子らがいる場所だ
「待たせたな、アラタ」
そう言って伽藍の堂から出てきたのは蒼崎橙子
そしてその隣には…シャットアウラの姿もある
彼女は自分たちが通う高校の制服を着込んでいて、見てて新鮮だ
「似合うじゃん」
「うるさいっ。…けど、礼は言っておく」
ぷいっ、という擬音が似合いそうなくらいに視線を逸らすシャットアウラ
シャットアウラ・セクウェンツィア
色々あったが彼女は大覇星祭終了後にアラタと同じ高校に通うことになっている
ただ時期が時期なため、諸々の手続きは大覇星祭中に行うらしい
「あれ、そういえばアリサは?」
「アリサなら幹也や式らと一緒に先に行ってる。彼らと一緒なら心配あるまい」
橙子からその言葉が聞けて安心する
前線から退いているとはいえ式の近くなら早々トラブルには巻き込まれないだろう
「お前はこれから競技か?」
「あぁ。そんでもって運営委員の手伝いも引き受けたからさ、わりかし忙しくなりそうだなって」
アラタが今羽織っているパーカーを橙子に見せる
以前吹寄から誘われていたし、せっかくだから彼女を補佐できればいいかなと思い風紀委員と兼任ではあるがお手伝いとして彼女から少し前にこのパーカーを渡されたのだ
運営を手伝うといった時の吹寄の笑った顔が眩しかった
「さて。そんなわけでそろそろ行くよ、アウラも楽しんでけな」
「あぁ、ほどほどに遊ばせてもらう」
シャットアウラにそう断るとアラタは橙子に声をかけて踵を返し歩き始める
アラタにはもう一人会っておかないといけない人物がいるのだ
そいつは最近できた居候ではあるが、なんだかんだこういうのに一般人として参加するのは初めてらしい
懐から携帯を取り出すとある番号へとかけて向こうが出るのを待つ
スリーコールの後、がちゃりと通話が繋がった
<もしもし?>
「レディリー? お前は今どこにいる?」
<あなたの寮の前にいるわ。一応待っててって言われたしね>
「りょーかい、向かうからそのまま待ってろ」
そう返事をすると向こうから<なるべく早く来てよね>と帰ってきて電話は切れた
アラタは携帯をしまうと改めて小走りで学生寮の方へと向かいだす
───レディリー・タングルロード
少し前に起こしたとある事件の首謀者であり、色々あって現在学生寮のアラタの部屋に住み着いた居候だ
住み着いたその日、女性ものの衣服なんてみのりの分しかないので着回せるようにセブンスミストで下着や衣服を買い足したのは記憶に新しい
めちゃくちゃ恥ずかしかった
「遅いわよ」
そんなこんなでアラタは寮前に到着して、開口一番言われたのがそんな言葉だ
アラタは適当に「悪い悪い」と言い返しつつ、そのまま彼女と一緒に歩き出す
現在の彼女の服装は紙をポニーテールに纏め上げ、動きやすいジーンズにワイシャツ、という非常にシンプルなものである
流石に普段着ていたあれは街中ではもう着れないので部屋着にするらしい
「そういえば、オートマトンの女の子はどうしているの?」
「ひよりか? あの子は今日はインデックスと一緒にいるよ、流石に学生にはインデックスもろとも混ざれないからな」
レディリーの言葉にアラタは歩きながらそう返事する
一応休憩時間とかといった隙間な時間に一緒に回ることを約束している
「おまえはどうする? 俺たちと回るか?」
「まあいいの? 〝色々〟あったからむしろ私がいると純粋に楽しめないんじゃないかしら」
「自覚はしてるのね」
「まぁね」
「けどいいんじゃない? もうそんな気はないんだろ?」
「えぇ。少なくとも、貴方と一緒にいる間はね」
「俺から離れたらやらかすような言い方だな」
「どっちにしろもうそんな気はないわよ。それと、お誘いの方は今日は大丈夫よ、貴方の応援が終わったら少し一人で歩いてみるわ」
そんな適当なことを話しながら歩いていく
今向かっている場所は自分の高校である
これから始まる第一競技は自分たちの高校で行われるからだ
彼女を応援席に送り届けると改めて選手用の入口へ向かっていった
「…そういえばうちの連中準備中バカに騒いでたな。学校全体がそんな感じだったけど」
ふとアラタはそんなことを思い出した
まぁこういった催しにクラス全体の士気が高いのはありがたいことだ
流石に総合優勝とかは難しいだろうが、思いっきり楽しめればそれでよし
「おーっす、アラタ―」
のんびり向かっていると後ろの方から聞き慣れた声が耳に入ってきた
声の方に振り向くとそこにはツンツン頭の我が友人、上条当麻が近寄ってきていた
「よ。お前も今来たか」
「あぁ。今インデックスたちを応援席に送ってったとこだ。いやー、ひよりがいてくれると安心だぜ」
「そう言ってくれると、アイツも喜ぶ」
近くに気のいい友達がいてくれるとインデックスも安心するだろう
「お前はどうだ? 一応初めての大覇星祭になんだけど」
「問題はないぜ、むしろ楽しみな上条さんがいますよ? ワクワクしてるって言ってもいい」
へへへ、と当麻は笑みを浮かべて拳を叩く
やる気十分、といった感じだ
その後は他愛ない話でもしつつ選手控えエリアに二人は足を踏み込んだ
踏み込んだはいいんのだが
「───うっだあー。やる気なぁーい」
どういうわけかテンション逆マックスな状態のクラスメイトたちに当麻は思わずすっ転んだ
アラタも頭を抱えた
どこの誰だ士気が高いとか言ってたやつは
全然高くねーよむしろ下がってるよ下がりきってるよ
「なんで始まる前なのに最終日のテンションなんだテメーら。まさか前日に作戦会議で盛り上がりすぎて体力がもうないとか抜かすんじゃないだろうな」
「おー、さっすがカガミン、大当たりやでぇー。どんな作戦で行けば勝てるかとかでみんなでモメまくったら残り少ない体力が見事にマイナスにまで落ち込んじまったわい」
「バーカ!」
「でも、姫神は馴染めてるようで上条さん安心だよ…」
白状した青髪に容赦ない罵声を浴びせるアラタ
ちなみに当麻が言及した姫神とは少し前に転入してきた、自分たちとは少々離れた位置に座っている黒髪ロングの女の子のことだ
アラタが知らないところで当麻が助けた女の子であり、
現在はその能力を封印するべく首から十字架を掲げており、それは体操服に隠れて見えない
「学生の競技なんて。所詮こんなもの。トレーナーとかいるわけでもないし」
「うぅ! 姫神に所詮なんていわれたーっ!」
「にゃー、でも二人とも。このテンションダウンは致し方ないことですたい、何しろ開会式で待っていたのは校長先生のお話十五人ぶっつづけに加えてお喜び電報五十発のフルコンボ。むしろよくカミやんとカガミンは耐えれたにゃー?」
当麻を労ったのは土御門元春だ
…あるときいきなり当麻を交えて呼び出されたと思ったら実は彼は魔術にも科学にも精通している多角スパイだと聞かされた時は流石に変な声が出た
まぁそれはそれとして
「た、体力バカのこの二人ですらこのありさま…!? わ、ワンチャン相手もぐったりしてる可能性はっ!」
「私立のエリートスポーツ校みたいだからそういうのはないだろうな」
「マジかよ!!」
天道の呟きに当麻がマジかよと頭を抱える
スポーツ校な上にエリートときた
シンプルにこういう長丁場には慣れているのだろう
と、当麻がぎゃーっと頭を抱えていた時一人の女子生徒がやってきた
「───な、なによこの無気力感はっ!」
大覇星祭運営委員のパーカーを来た女性生徒
その下には他のクラスメイトと同じように半そで短パンを着込んだロングの子
名前は吹寄制理
クラスの中ではスタイルも良く、今もなお半そでの上から胸の大きさがわかるくらいのボリュームであるし、正直普通に美人のレベルである
何でか知らないがクラスではちっとも色っぽくない鉄の女とか言われているが
「上条当麻っ! まさか貴様がそんな風に項垂れてるからそれがみんなに伝染したのねッ!?」
「言いがかりだよ! っていうか俺も今来たばっかなんだから!」
「つまり貴様が遅刻したからみんなのやる気がなくなったのね?」
「いや遅刻なら俺もしたからそれはないよ」
「…それもそうか」
「扱いの違い! 俺とアラタで扱いが全然違う気がするのですが!?」
うがーっと当麻がこっちを見やる
割と普段から吹寄とは話すからその差もあるのかもしれない
「運営委員の手伝いは大丈夫か?」
「えぇ。お前は風紀委員に入ってるから基本的にはそっちでも大丈夫よ、もしかしたらたまに呼ばれるかもしれないけど、普段は純粋に大覇星祭を楽しみなさい」
「わかった。まぁなんかあったら頼ってくれ、パーカーも渡されたからさ」
そう何気なく普通に会話をしているアラタと吹寄
っていうかなんか距離感近くない? え、俺とこんなに変わるの? と当麻は頭の中でツッコんだ
「うぅ、なんだかみじめだ。我が親友はラブコメってるしクラスのみんなはこのありさまだし、不幸な現実に直面した上条さんはなんだか立ち上がれる気がしないっ!」
「まったくもう、それは心因性でなく、朝食を抜いたことによる軽度な貧血状態よ、ほらスポドリを飲めば問題ないわ立ち上がるのよ上条当麻!」
思わず現状に対して弱音と文句を愚痴ったらぐいっと強引に立たされるとそんな健康マニアが喜びそうな説と共にどこからか取り出したスポーツドリンクを手渡してくる
「私は不幸とか不運だとかそう言う理由を付けて手を抜く輩が大っ嫌いなの! 一人がだらけると、それがみんなに伝染する、ほらシャンとなさいみんなのためにも!」
まくし立てる吹寄に思わず当麻はたじろいで後ろに下がっていった
背後にあるのは花壇と壁であり、これ以上は下がれないだろう
その光景を見ていたクラスメイトたちはなんでか歓喜の声をあげる
「す、すげぇよ吹寄! 流石カミジョー属性完全ガードの女! 鉄の女はひと味違うぜ!」
「いつもなら〝だ、大丈夫? 上条くん〟ってなってフォローに入られ、一番いいポジションを占有するあの男を!! 何が不幸だバーカ!」
「人類の希望やね。彼女を研究することでカミやんを克服できるかもしれへん!!」
「何言ってんだお前ら」
テンションが上がるクラスメイト+青髪に辛辣な言葉を飛ばすアラタ
思わず天道やツルギに視線を向けても彼らはやれやれなジェスチャーをするだけである
やれやれだぜ
と、そんな時当麻の足元にアラタは視線が行った
散水用のゴムホースである
土の校庭が砂埃を起こすのをある程度防ぐために競技前に撒くやつである
アラタはまずそのホースの先を追った
水が出なくなったホースの口を眺める男性教諭の姿が見える
そして今度はホースが繋がっている蛇口を見て───アラタは反射的に動いた
一番蛇口の近くにいるのは何の偶然か吹寄である
とりあえず彼女の近くに行って両肩に触れるとよいしょと彼女を少し遠くに半ば強引に移動させた
当の本人は「え? え? な、なに?」となっていたが次の瞬間当麻が踏んずけていたことによりホースの中でせき止められていた水が暴発し蛇口に繋げられたホースが勢いよく外れた
丁度さっき吹寄がいたあたりをピンポイントに水がぶちまけられ、地面を濡らす
それを見ていてなんで移動させてくれたのかを大体理解した吹寄はアラタに向かって
「…あ、ありがとう」
「どういたまして。濡れてない? 大丈夫か制理」
「えぇ。お前のおかげでね。…れ、礼は言っておくわ」
「どういたまして」
短くそう答えるととりあえず二次災害が起きずほっと胸を撫でおろすアラタ
いくら体操着とはいえ身体を濡らしてしまっては風邪もひいてしまうかもしれない
そんな吹寄とアラタを見ていたクラスメイト+青髪は
「ち、チクショォォ! 失念していた! カガミネ属性の存在をッ!」
「アイツ誰に等しくあんな感じだから校内にこっそりアイツを慕う子たちがいるのを忘れてた!!」
「我々人類はまた壁にぶつかってしもうたね。ってか吹寄ですらあんなんならあとは誰が残ってんねんボケ!!」
「本当に何を言ってるんだお前たち」
今度はそんな連中に天道が割と無慈悲に言い放つ
とりあえずホースとか戻しとくかー、とアラタと当麻がそれぞれ歩みだしたその時、どこからか男女の言い争う声が聞こえてきた
体育館の陰に隠れていたようで、そこで誰かと誰かが言い争っていた
「…なんだ?」
アラタと二人ひょっこり顔を覗かして聞き耳を立てることにした当麻
視線の先にはチアの恰好をした我がロリ担任こと月詠小萌と、このクソアツい中ぴっちりスーツを着込んだ見知らぬ男性だった
恐らく他校の先生であろう
そしてよく話の内容を聞けば言い争うというよりは嘲る男に小萌が小萌が食い下がっている感じだ
「ですから! こちらの設備や授業の内容に不備があるのは認めるのです! ですから生徒たちに不備があるってことにはなり得ないでしょう!?」
「設備の不足はお宅らの生徒の質が悪いからでしょう? 結果を残せば統括理事会空追加の資金がおりるはずなのですからねぇ。失敗作ばかりだと苦労しますねよねぇ」
「せ、生徒たちに成功も失敗もないのです!! あるのはそれぞれ個性だけなのですよ!! みんながみんな一生懸命頑張ってるのに、それを自分たちの都合で切り捨てるだなんて!」
「おっと。力量不足を隠すためのいいわけですかぁ? なかなか夢はありますがこれは現実。私が担当したエリートクラスでお宅の落ちこぼれたちを徹底的に撃破してあげますよ。くれぐれも怪我人の出ないよう、ちゃあんと準備運動をしておくことを対戦校代表として忠告しておいてあげます」
「なっ…」
「アナタには前回の学会で恥をかかされていますからねぇ、その時の借りはきっちりここで返させてもらいます。全世界に放映されるこの競技場でね。まぁ一応手加減はしてあげるつもりですが? そちらの愚図で間抜けな失敗作の落ちこぼれどもが弱すぎたのならどうなってしまうかは知りませんけどねぇー。はーっはっはー」
言いたい放題言った後そのスーツの男は去っていった
正直そんな落ちこぼれ云々なのは今更すぎるから、大したダメージではないのだが
───ないのだが
「…違い、ますよね」
ぽつりと小萌が呟いた
誰に言うでもない、うつむいたままで、震える声で彼女は言った
「…みんなは、落ちこぼれなんかじゃないのです…」
先の言葉は、全部自分のせいで降りかかったものだと言い聞かせるように
涙を堪えてその小さな肩をより小さくしながらも、彼女はそっとを空を見上げてジッと動きを止めていた
当麻とアラタは少しだけ押し黙り、そして振り返る
そこにはクラスメイトのみんなが無言で立っていた
そしてその目に、怒りがあることも当麻とアラタは分かっていた
正直、聞かなくてもいいだろう
だけどあえて、二人はこの言葉を投げかけるのだ
「───聞かれなくてもわかってるかもしれねぇが、もう一度だけ聞く」
「テメェら、本当にやる気がねぇのか───?」
凡骨の意地を見せてやれ